説明

軟カプセル剤

水分活性、崩壊性、安全性等の諸特性を損なうことなく軟カプセル剤に優れた付着防止効果を付与することができるカプセル付着防止剤、及び該カプセル付着防止剤を被覆してなる付着防止効果に優れた高品質な被覆軟カプセル剤、並びに該被覆軟カプセル剤の効率的な製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、酵素分解レシチンを含有することを特徴とするカプセル付着防止剤、及び該カプセル付着防止剤によって表面が被覆されたことを特徴とする被覆軟カプセル剤、並びに前記該カプセル付着防止剤を軟カプセル剤の表面に被覆する前記被覆軟カプセル剤の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分活性、崩壊性、安全性等の諸特性を損なうことなく軟カプセル剤に優れた付着防止効果を付与することができるカプセル付着防止剤、及び該カプセル付着防止剤が被覆されてなる付着防止効果に優れた高品質な被覆軟カプセル剤、並びに該被覆軟カプセル剤の効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、軟カプセル剤は、ゼラチンを主成分とする皮膜材料によって形成され、油性液、顆粒、粉末、錠剤等をカプセル化するのに便利であるため、医薬品、化粧品、食品、及び健康食品などの幅広い分野で利用されている。
しかしながら、従来の軟カプセル剤は、そのカプセル皮膜が吸湿性に富むため、夏期や梅雨期のような高温多湿(例えば、温度40℃で相対湿度75%以上)の条件下で保存すると、湿潤軟化してしまう。その結果、軟カプセル剤表面の付着性が高まり、前記軟カプセル剤の滑走性が低下して包装充填作業が困難となったり、前記軟カプセル剤同士、又は保存容器内面に前記軟カプセル剤が付着して、摂取時等に前記軟カプセル剤を必要量取り出すのに困難を伴ったり、前記カプセル皮膜が破壊されることがある。
【0003】
そこで、前記軟カプセル剤同士の付着や、前記軟カプセル剤と保存容器内面との付着を防ぐために、種々の方法が提案されており、例えば、前記軟カプセル剤の表面を付着防止剤(コーティング剤)で被覆する方法、前記軟カプセル剤の皮膜材料に付着防止成分を配合する方法などが知られている。
【0004】
前記軟カプセル剤の表面を付着防止剤(コーティング剤)で被覆する方法において、前記付着防止剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと必要に応じてセラックとエチルセルロースとアルキレングリコール(特許文献1)、カルナウバロウ(特許文献2)、ヒマシ油、ナタネ油、綿実油、大豆油等の硬化油(特許文献3)、硬化植物油又はショ糖脂肪酸エステル(特許文献4)、グリセリルモノ脂肪酸ジアセテート(特許文献5)、セルロース誘導体等のフィルム形成物質と無機物質又は有機酸金属塩との混合物(特許文献6)などが提案されている。しかしながら、これらの付着防止剤で被覆した前記軟カプセル剤においても、高温多湿の条件下で保存した場合には、表面の付着性が経時的に高まり、付着防止効果が十分ではないという問題がある。
【0005】
一方、前記軟カプセル剤の皮膜材料に付着防止成分を配合する方法は、前記付着防止成分とカプセル内容物とが相互作用してしまうことがあり、汎用性に欠けるという問題がある。また、付着防止効果を上げるためには、前記付着防止成分を前記軟カプセル剤の皮膜材料に多量に配合する必要があり、その結果、前記軟カプセル剤の崩壊時間の延長、外観不良、製造時の成形性悪化等を招くという問題がある(例えば、特許文献7〜12等参照)。
前記付着防止成分としては、例えば、レシチンが提案されている(特許文献13参照)が、レシチンを配合することにより得られる付着防止効果が十分ではないという問題がある。
【0006】
ところで、レシチンは、付着防止以外の目的でカプセル剤の皮膜成分に配合されることが提案されている。例えば、生物活性化合物の担体としての酵素消化されたレシチン(特許文献14)、乳化剤としてのレシチン(特許文献15)、可塑剤としての大豆レシチン(特許文献16)、及び矯味成分としての酵素分解レシチン(特許文献17)などが提案されている。しかしながら、これらの提案において、配合される前記レシチン及び前記酵素分解レシチンが、前記軟カプセル剤の付着防止効果に優れることについて何ら開示していない。
【0007】
したがって、軟カプセル剤を高温多湿の条件下で保存した場合においても、該軟カプセル剤に優れた付着防止効果を付与することができ、前記軟カプセル剤の水分活性、崩壊性、安全性等の諸特性を損なうことがない付着防止剤の開発が望まれている。
【0008】
【特許文献1】特公昭49−11047号公報
【特許文献2】特開昭56−156212号公報
【特許文献3】特開昭64−42419号公報
【特許文献4】特開昭64−79110号公報
【特許文献5】特開平4−288011号公報
【特許文献6】特開平8−34727号公報
【特許文献7】特開平2−22221号公報
【特許文献8】特開平3−98638号公報
【特許文献9】特開平5−4914号公報
【特許文献10】特開平8−169817号公報
【特許文献11】特開平10−310519号公報
【特許文献12】特開2000−44465号公報
【特許文献13】特開2000−336028号公報
【特許文献14】特表2002−532389号公報
【特許文献15】特開2001−161306号公報
【特許文献16】特開平11−19503号公報
【特許文献17】特開2002−154949号公報
【発明の開示】
【0009】
本発明は、従来における問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、水分活性、崩壊性、安全性等の諸特性を損なうことなく軟カプセル剤に優れた付着防止効果を付与することができるカプセル付着防止剤、及び該カプセル付着防止剤を被覆してなる付着防止効果に優れた高品質な被覆軟カプセル剤、並びに該被覆軟カプセル剤の効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
前記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。即ち、酵素分解レシチンを含有するカプセル付着防止剤によって表面が被覆された軟カプセル剤は、該カプセル付着防止剤によって表面が被覆されていない従来の軟カプセル剤に比べて、付着防止効果に優れるとともに、水分活性、崩壊性、安全性等の諸特性を損なうことがなく高品質であり、特に、高温高湿度(例えば、温度40℃で相対湿度75%以上)の条件下で保存した場合であっても、前記被覆軟カプセル剤は、該カプセル剤同士の付着や、保存容器等との付着が防止されるという知見である。
【0011】
本発明は、本発明者による前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段は以下の通りである。
<1> 酵素分解レシチンを含有することを特徴とするカプセル付着防止剤である。
<2> 酵素分解レシチンが、植物及び動物のいずれかの由来である前記<1>に記載のカプセル付着防止剤である。
<3> 酵素分解レシチンが、大豆及び卵黄のいずれかの由来である前記<1>から<2>のいずれかに記載のカプセル付着防止剤である。
<4> 前記<1>から<3>のいずれかに記載のカプセル付着防止剤によって表面が被覆されたことを特徴とする被覆軟カプセル剤である。
<5> 表面に付着防止効果が付与された前記<4>に記載の被覆軟カプセル剤である。
<6> 前記<1>から<3>のいずれかに記載のカプセル付着防止剤を軟カプセル剤の表面に被覆することを特徴とする被覆軟カプセル剤の製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(カプセル付着防止剤)
本発明のカプセル付着防止剤は、酵素分解レシチンを含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0013】
−酵素分解レシチン−
前記酵素分解レシチンとは、レシチンを酵素で分解し、必要に応じて精製したものであり、例えば、水又はアルカリ性水溶液でpH調整した前記レシチンを、フォスフォリパーゼ等の酵素で分解して得た分解物、及び前記分解物をエタノール、イソプロピルアルコール、若しくはアセトンで抽出したものが挙げられる。
前記酵素分解レシチンの主成分は、リゾレシチン、及びフォスファチジン酸の少なくともいずれかである。
また、前記酵素分解レシチンとしては、主成分がフォスファチジルグリセロールである酵素処理レシチンも使用することができる。
【0014】
前記酵素分解レシチンの製造に使用される前記レシチンとしては、フォスファチジルコリン、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルイノシトール等を含むリン脂質であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、植物原料及び動物原料のいずれかから得られた油脂から分離して得られたものが好ましい。
前記植物原料ととしては、例えば、大豆、ゴマ、コーン、及び穀類等が挙げられ、前記動物原料としては、例えば、卵黄、小魚類、レバー等が挙げられ、これらの中でも、大豆及び卵黄が好ましい。
【0015】
前記酵素分解レシチンとしては、前記レシチンの酵素分解物(例えば、リゾレシチン、及びフォスファチジン酸)を含む限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、「既存添加物 自主規格 第三版(日本食品添加物協会)」に規定された性状、確認試験の結果、純度試験の結果、及び水分含有量を満たすものが好ましい。
【0016】
前記酵素レシチンの市販品としては、例えば、辻精油株式会社製、SLP−ペーストリゾ、SLP−ホワイトリゾ;協和発酵株式会社製、エルマイザーA、エルマイザーAC;花王株式会社製、ベネコートBMI−40、太陽化学株式会社製、サンレシチンA;日清製油株式会社製、ベイシスLG−10K、ベイシスLP−20E;キューピー株式会社製、卵黄レシチンLPL−20、卵黄リゾレシチンLPC−1などが挙げられる。
【0017】
本発明のカプセル付着防止剤全量に対する前記酵素分解レシチンの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、0.0001〜2.0質量%が好ましく、0.0005〜1.0質量%がより好ましく、0.001〜0.5質量%が特に好ましい。
【0018】
−その他の成分−
前記その他の成分としては、特に制限はなく、公知の成分の中から適宜選択することができ、例えば、希釈剤、ワックス類、高分子成分、溶剤、可塑剤、着色剤、防湿剤、及び防腐剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、前記その他の成分としては、経口摂取して体内に吸収された際に安全なものが好ましく、また、適宜合成乃至調製(抽出)したものであってもよく、市販品であってもよい。
前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、本発明の効果を害さない範囲で適宜選択することができる。
【0019】
前記希釈剤としては、前記酵素分解レシチンを溶解可能なものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、中鎖脂肪酸トリグリセライド、オクチルデシルトリグリセライド、流動パラフィン、モノオレイン酸グリセリンなどが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
前記ワックス類とは、脂肪酸と高級一価アルコール類とのエステル及び脂肪酸と高級二価アルコール類とのエステルを主成分とするロウ(ワックス)以外にも、脂肪酸とグリセリンとのエステルを主成分とする油脂までを含む概念である。該ワックス類としては、軟カプセル剤の付着防止効果を向上させることができるものであれば、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択して用いることができ、天然系ワックス及び油脂から選択される少なくとも1種であるのが好ましい。
【0021】
前記天然系ワックスとしては、天然物由来のワックスであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックス、石油系ワックスなどが挙げられる。
【0022】
前記植物系ワックスとしては、例えば、カンデリラロウ、カルナウバロウ、コメヌカロウ、オウリキュウリロウ、サトウキビロウ、ホホバロウ、油糧種子ロウ、などが挙げられる。
前記動物系ワックスとしては,例えば、ミツロウ、ラノリン、シェラックロウ、などが挙げられる。
前記鉱物系ワックスとしては、例えば、モンタンロウ、オゾケライト、セレシン、などが挙げられる。
前記石油系ワックスとしては、例えば、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、ぺトロラタム、などが挙げられる。
【0023】
前記油脂としては、例えば、牛脂、豚脂、カカオ脂、パーム脂、硬化ヒマシ油、硬化ナタネ油、硬化綿実油、硬化大豆油、ハードファット、モクロウ、などが挙げられる。
【0024】
前記高分子成分としては、前記軟カプセル剤の付着防止効果を向上可能である限り特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、多糖類などが好適に挙げられる。
【0025】
前記溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、水系溶剤などが挙げられる。前記水系溶剤としては、例えば、水、アルコール、及びこれらの混合溶剤などが好適に挙げられる。
【0026】
本発明のカプセル付着防止剤は、表面の付着を防止する必要がある各種カプセル表面の被覆に使用することができ、いわゆるソフトカプセルの被覆剤として好適に使用することができる。高温高湿度(例えば、温度40℃で相対湿度75%以上)の条件下で保存した場合の軟カプセル剤同士の付着や、軟カプセル剤と容器との付着を効果的に防止可能であることから、医薬品、食品等の軟カプセル剤の被覆剤として特に好適に使用することができる。
【0027】
(被覆軟カプセル剤)
本発明の被覆軟カプセル剤は、本発明の前記カプセル付着防止剤によって表面が被覆されてなる。
前記カプセル付着防止剤で表面を被覆される軟カプセル剤としては、目的に応じて公知のものの中から適宜選択することができ、ソフトカプセルとして市販されているものであってもよいし、適宜製造したものであってもよい。また、薬剤等が内包されているものであってもよく、されていないものであってもよい。
【0028】
前記軟カプセル剤の皮膜材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、ゼラチン、寒天、カラギナン、アルギン酸又はその塩、ガム類(例えば、アラビアガム、ジェランガム、キサンタンガム等)、セルロース類(例えば、HPMC、HPC、HEC、CMEC、HPMCP等)に適当な可塑剤を添加したものなどが好適に挙げられる。
【0029】
前記可塑剤としては、例えば、グリセリン、ポリビニルアルコール、ソルビトール、マンニトール、ポリエチレングリコール類、ポリビニルピロリドン、などが挙げられる。
また、前記皮膜材料中に、必要に応じて、着色剤、防腐剤、芳香剤、矯味剤、及び矯臭剤などを添加してもよい。
【0030】
前記軟カプセル剤の製造方法としては、特に制限はなく、公知の製造方法の中から適宜選択することができ、例えば、平板法、ロータリー法、シームレス法、などが挙げられる。
【0031】
前記ロータリー法は、対向方向に回転する一対の円筒形カプセル形成用金型間に2枚の軟カプセル用皮膜シート(軟カプセル用壁材シート)を供給して連続的に軟カプセルを製造する方法である(例えば、特開平4−27352号公報、特開平8−57022号公報等参照)。
前記シームレス法は、二重又は三重構造のノズルの内側の吐出口からカプセル内容物液を、該ノズルの外側の吐出口からカプセル皮膜液(カプセル壁材液)を、ポンプ又は重力によりそれぞれ一定速度で油液又は気体中に吐出し、振動、衝撃、各液又は気体の流速差等の物理的力により、吐出液を一定間隔で切断し、油液又は気体と前記カプセル皮膜液(カプセル壁材液)との界面又は表面張力により、切断部を球状とする軟カプセルの製造方法である(例えば、特開平7−196478号公報参照)。
【0032】
前記軟カプセル剤の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、ラウンド型(球型)、フットボール(オバール)型、オブロング型、チューブ型、角型、ハート型、セルフカット型、などが挙げられる。
前記軟カプセル剤の大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0033】
前記被覆軟カプセル剤は、前記軟カプセル剤表面に、本発明の前記カプセル付着防止剤を被覆してなり、後述する本発明の被覆軟カプセル剤の製造方法により好適に製造することができる。
【0034】
本発明の被覆軟カプセル剤は、各種分野において好適に使用することができ、医薬品、食品、化粧品、健康食品等の分野に特に好適に使用することができる。本発明の被覆軟カプセル剤は、前記カプセル付着防止剤を被覆していない従来の軟カプセル剤と比べて、付着防止効果に優れるとともに、水分活性、崩壊性、安全性等の諸特性を損なうことがなく高品質であり、特に、高温高湿度(例えば、温度40℃で相対湿度75%以上)の条件下で保存した場合であっても、該被覆軟カプセル剤同士の付着や、保存容器等との付着が防止される。
【0035】
(被覆軟カプセル剤の製造方法)
本発明の被覆軟カプセル剤の製造方法は、上述の本発明のカプセル付着防止剤を用い、前記軟カプセルの表面を被覆する方法であり、さらに必要に応じて、適宜選択したその他の工程を含む。
【0036】
前記被覆の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記酵素分解レシチンを中鎖脂肪酸トリグリセライド等の希釈剤に溶解させてなる前記カプセル付着防止剤塗布液を、前記軟カプセル剤の表面に吹きかける方法(流動床法)、前記カプセル付着防止剤を溶解させた塗布液中に前記軟カプセル剤を浸漬させる方法(液浸法)、などが挙げられる。
【0037】
本発明の被覆軟カプセル剤の製造方法においては、前記軟カプセル剤の表面に、本発明の前記カプセル付着防止剤を被覆するのみで、付着防止効果に優れた高品質な軟カプセル剤を効率的に製造することができる。
【0038】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
−カプセル付着防止剤の調製−
(実施例1〜4)
中鎖脂肪酸トリグリセライド(商品名「パナセート」;株式会社大伸製)に対し、表1に示す割合で酵素分解レシチン(商品名「SLP−ホワイトリゾ」;辻製油株式会社製)をそれぞれ添加混合して、実施例1〜4のカプセル付着防止剤(A−1〜A−4)を調製した。なお、前記酵素分解レシチンは、大豆由来レシチンの酵素分解物を精製して得られた「精製酵素分解レシチン」である。
【0040】
(実施例5〜8)
中鎖脂肪酸トリグリセライド(商品名「パナセート」;株式会社大伸製)に対し、表1に示す割合で酵素分解レシチン(商品名「SLP−ペーストリゾ」;辻製油株式会社製)をそれぞれ添加混合して、実施例5〜8のカプセル付着防止剤(B−1〜B−4)を調製した。なお、前記酵素分解レシチンは、大豆由来レシチンの酵素分解物である。
【0041】
(実施例9〜10)
中鎖脂肪酸トリグリセライド(商品名「パナセート」;株式会社大伸製)に対し、表1に示す割合で酵素分解レシチン(商品名「卵黄リゾレシチンLPC−1」;キューピー株式会社製)をそれぞれ添加混合して、実施例9〜10のカプセル付着防止剤(C−1〜C−2)を調製した。なお、前記酵素分解レシチンは、卵黄レシチンの酵素分解物である。
【0042】
(比較例1〜2)
中鎖脂肪酸トリグリセライド(商品名「パナセート」;株式会社大伸製)に対し、表1に示す割合で精製レシチン(商品名「SLP−ホワイト」;辻製油株式会社製)をそれぞれ添加混合して、比較例1〜2のカプセル付着防止剤(D−1〜D−2)を調製した。なお、前記精製レシチンは、大豆由来の粗レシチンを精製したものである。
【0043】
(比較例3〜4)
中鎖脂肪酸トリグリセライド(商品名「パナセート」;株式会社大伸製)に対し、表1に示す割合で水素添加レシチン(商品名「SLP−ホワイトH」;辻製油株式会社製)をそれぞれ添加混合して、比較例3〜4のカプセル付着防止剤(E−1〜E−2)を調製した。なお、前記水素添加レシチンは、大豆由来の粗レシチンを精製した精製レシチンの水素添加物である。
【0044】
(比較例5〜7)
中鎖脂肪酸トリグリセライド(商品名「パナセート」;株式会社大伸製)に対し、表1に示す割合でレシチン(商品名「大豆レシチン」;辻製油株式会社製)をそれぞれ添加混合して、比較例5〜7のカプセル付着防止剤(F−1〜F−3)を調製した。
【0045】
(比較例8〜12)
中鎖脂肪酸トリグリセライド(商品名「パナセート」;株式会社大伸製)に対し、表1に示す割合で精製キャンデリラワックス(商品名「精製キャンデリラワックス特号」;株式会社セラリカ野田製)を添加混合して、比較例8のカプセル付着防止剤(G)を調製し、表1に示す割合でライスワックス(商品名「ライスワックスF−1」;株式会社セラリカ野田製)を添加混合して、比較例9のカプセル付着防止剤(H)を調製し、表1に示す割合で精製ラノリン(局方)(商品名「精製ラノリン」;日本精化株式会社製)を添加混合して、比較例10のカプセル付着防止剤(I)を調製し、表1に示す割合でパラフィンワックス(商品名「Paraffin Wax−125」;日本精蝋株式会社製)を添加混合して、比較例11のカプセル付着防止剤(J)を調製し、表1に示す割合で白ロウ(商品名「白蝋−M」;荒木精蝋合資会社製)を添加混合して、比較例12のカプセル付着防止剤(K)を調製した。
【0046】
【表1】

【0047】
−被覆軟カプセル剤の製造、及び被覆軟カプセル剤の評価−
(実施例11〜17及び比較例13〜24)
(1)軟カプセル剤の製造
下記表2に示す軟カプセル剤の皮膜材料用組成物を用い、ロータリー法に従って、1カプセル当り酢酸d−α−トコフェロールを100mg含有するオバール3型軟カプセル剤を5000個製造した。
【0048】
【表2】

【0049】
(2)被覆軟カプセル剤の製造
このようにして製造した前記軟カプセル剤に対して、表1に示す実施例1〜3及び5〜8、並びに比較例1〜12のカプセル付着防止剤を、それぞれ流動床法に従って塗布し、乾燥して、実施例11〜17、及び比較例13〜24の被覆軟カプセル剤を製造した。
【0050】
(3)評価
得られた各被覆軟カプセル剤について、下記に示す方法により付着性、崩壊性、及び水分活性について評価を行った。
【0051】
<付着性の評価>
前記付着性の評価は、下記の付着性試験1〜3により評価を行った。
【0052】
<<付着性試験1>>
実施例11〜17及び比較例13〜24の前記被覆軟カプセル剤を、それぞれ50個ずつポリエステル樹脂製の保存容器に入れたものを用意し、これらを相対湿度75%で温度25℃の条件に設定した恒温槽、及び相対湿度75%で温度40℃の条件に設定した恒温槽中に、それぞれ2週間又は4週間保存した後、取り出した。取り出した前記保存容器を静かに上下反転させ、前記保存容器内の前記被覆軟カプセル剤の状態を目視にて確認したところ、前記被覆軟カプセル剤は、前記保存容器内面又は前記被覆軟カプセル剤同士で固着しているのが確認された。
次いで、前記保存容器を、コンクリートの床面へ自由落下させ、前記保存容器内で固着している前記被覆軟カプセル剤が、すべて分離するまでの回数を計測し、以下の基準により評価を行った。
なお、前記保存容器の落下条件は、床面から約1cmの高さからの落下回数を最大3回とし、3回落下させても前記被覆軟カプセル剤の付着がみられる場合には、続いて、床面から約5cmの高さから落下させる。床面から約5cmの高さからの落下回数を最大10回とし、10回落下させても前記被覆軟カプセル剤の付着がみられる場合には、続いて、床面から約10cmの高さから落下させることとした。落下高さ及び回数の結果を表3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
表3の結果から、実施例1〜3及び5〜8の本発明のカプセル付着防止剤を被覆してなる実施例11〜17の前記被覆軟カプセル剤は、25℃相対湿度75%の条件下、及び40℃相対湿度75%の条件下で4週間保存した場合であっても、前記被覆軟カプセル同士、又は容器との付着性が低いことが判った。
【0055】
<<付着性試験2>>
実施例11〜17及び比較例13〜24の前記被覆軟カプセル剤を、それぞれ2,000個ずつポリエチレン製の袋の中に入れ、更に容積18Lの金属製の缶に入れて、相対湿度50%で温度23℃の条件に設定した恒温槽中に2週間保存した。前記恒温槽から前記金属製の缶を取り出し、ポリエチレン製の袋を取り出した直後、及び前記ポリエチレン製の袋を床に置いたときの前記被覆軟カプセルの付着状態を目視で観察し、下記の評価基準により評価した。結果を表4に示す。
【0056】
〔評価基準〕
◎ ・・・・少量のカプセルが固着していたが、自重で速やかに崩れた
○ ・・・・底面部が多少固着していたが、自重で崩れた
△ ・・・・カプセルが固着し、手で負荷をかけても完全には崩れなかった
× ・・・・全体的に固着し、手で負荷をかけても半分程度しか崩れなかった
なお、前記評価において、◎及び○は、実用上問題がない。△は、使用時にカプセルを解す必要があり、作業性が悪く実用上問題がある。×は、使用時において非常に作業性が悪く、実用上問題がある。
【0057】
【表4】

表4の結果から、実施例11〜17の被覆軟カプセル剤は、相対湿度50%、温度23℃の条件で2週間保存した場合には、比較例13〜19の被覆軟カプセル剤と比較して付着防止効果に優れていることが判った。
【0058】
<<付着性試験3>>
前記付着試験2の評価後、実施例11〜17、比較例13、15及び16の被覆軟カプセル剤を、各被覆軟カプセル剤をポリエチレンの袋に入れたままの状態で再び前記金属製の缶に入れて、相対湿度50%で温度23℃の条件に設定した恒温槽中に5ヶ月間保存した。前記恒温槽から前記金属製の缶を取り出し、ポリエチレン製の袋を取り出した直後、及び前記ポリエチレン製の袋を床に置いたときの前記被覆軟カプセルの付着状態を目視で観察し、前記付着試験2と同様の評価基準により評価した。結果を表5に示す。
【0059】
【表5】

表5の結果から、実施例11〜27の被覆軟カプセル剤は、相対湿度50%、温度23℃の条件で更に5ヶ月保存した場合においても、比較例13、15及び16の被覆軟カプセル剤と比較して付着防止効果に優れていることが判った。
【0060】
表3〜5の結果から、前記付着性試験1では、比較例13〜19の被覆軟カプセル剤は、実施例11〜17の被覆軟カプセル剤と略同じ結果が得られたが、生産現場の保管状況を模した前記付着性試験2及び3では、実施例11〜17の被覆軟カプセル剤よりも明らかに付着防止効果に劣ることが判った。
この結果を踏まえて、付着性試験1〜3の結果を総合判断すると、実施例11〜17の被覆軟カプセル剤は、実用において何ら問題がないのに対し、比較例13〜24の被覆軟カプセル剤は、いずれも実用に耐え得ないものであることが判った。
【0061】
<崩壊性試験>
前記付着性試験1において前記恒温槽から取り出した前記保存容器から、それぞれ任意に6個ずつ前記被覆軟カプセル剤を取り出し、これらを各筒に1個ずつ入るようにしてバケットに投入した。このバケットを37℃に加温した精製水で満たされているビーカーに入れて、15分間放置した。放置した後、該バケットを前記ビーカーから取り出して前記被覆軟カプセル剤の溶解状態を目視で観察し、完全に溶解しなかった前記被覆軟カプセル剤の数(残存カプセル数)を計測した。結果を表6に示す。
【0062】
【表6】

表6の結果から、実施例11〜17の被覆軟カプセル剤は、比較例13〜19の被覆軟カプセル剤と比較して残存カプセル数が同等乃至少なく、本発明の前記付着防止剤を塗布しても崩壊性に影響がないことが判った。
【0063】
<水分活性値の測定>
前記付着性試験1において恒温槽から取り出した前記保存容器から、それぞれ前記軟被覆軟カプセル剤を任意に10個取り出し、水分活性測定装置(Novasina社製)の測定容器に入れ、15分〜20分放置し、水分活性測定曲線が安定したところで、水分活性値を測定した。結果を表7に示す。
【0064】
【表7】

表7の結果から、実施例11〜17及び比較例13〜19の被覆軟カプセル剤は、カプセル付着防止剤で被覆していない対照品と比較して、ほぼ同等の水分活性値を示し、前記カプセル付着防止剤の被覆による水分活性値への悪影響がないことが判った。
【0065】
(実施例18〜20)
(1)軟カプセル剤の製造
前記表2に示す軟カプセル剤の皮膜材料用組成物を用い、実施例11と同様にしてオバール3型軟カプセル剤を5000個製造した。
【0066】
(2)被覆軟カプセル剤の製造
このようにして製造した前記軟カプセル剤に対して、表1に示す実施例4、9、及び10のカプセル付着防止剤を、それぞれ流動床法に従って塗布し、乾燥して、実施例18〜20の被覆軟カプセル剤を製造した。
【0067】
(3)評価
得られた各被覆軟カプセル剤について、それぞれ50個ずつポリエステル樹脂製の保存容器に入れたものを用意し、これらを相対湿度75%で温度25℃の条件に設定した恒温槽、及び相対湿度75%で温度40℃の条件に設定した恒温槽中に、4週間保存した後、取り出した。取り出した前記保存容器を静かに上下反転させ、前記保存容器内の前記被覆軟カプセル剤の状態を目視にて確認したところ、前記被覆軟カプセル剤は、前記保存容器内面又は前記被覆軟カプセル剤同士で固着しているのが確認された。
前記保存容器を静かに上下反転させ、前記保存容器内の前記被覆軟カプセル剤の状態を目視にて確認したところ、前記被覆軟カプセル剤は、前記保存容器内面又は前記被覆軟カプセル剤同士で固着しているのが確認された。
次いで、前記保存容器を、コンクリートの床面へ自由落下させ、前記保存容器内で固着している前記被覆軟カプセル剤が、すべて分離するまでの回数を計測し、以下の基準により評価を行った。
なお、前記保存容器の落下条件は、床面から約1cmの高さからの落下回数を最大3回とし、3回落下させても前記被覆軟カプセル剤の付着がみられる場合には、続いて、床面から約5cmの高さから落下させる。床面から約5cmの高さからの落下回数を最大10回とし、10回落下させても前記被覆軟カプセル剤の付着がみられる場合には、続いて、床面から約10cmの高さから落下させることとした。落下高さ及び回数の結果を表8に示す。
【0068】
【表8】

表8の結果から、実施例4の大豆由来の酵素分解レシチンを含むカプセル付着防止剤を被覆してなる実施例18の被覆軟カプセル剤と、実施例9〜10の卵黄由来の酵素分解レシチンを含むカプセル付着防止剤を被覆してなる実施例19〜20の被覆軟カプセル剤とは、同等の付着防止効果を示すことがわかった。
【0069】
本発明によれば、従来における問題を解決し、水分活性、崩壊性、安全性等の諸特性を損なうことなく軟カプセル剤に優れた付着防止効果を付与することができるカプセル付着防止剤、及び該カプセル付着防止剤を被覆してなる付着防止効果に優れた高品質な被覆軟カプセル剤、並びに該被覆軟カプセル剤の効率的な製造方法を提供することができる。本発明の被覆軟カプセル剤は、該被覆軟カプセル剤同士の付着や、該被覆軟カプセル剤の容器への付着を効果的に防止することができるため、各種分野において好適に用いられるものであり、特に、医薬品、食品、化粧品、健康食品等の分野に好適に用いられるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素分解レシチンを含有することを特徴とするカプセル付着防止剤。
【請求項2】
酵素分解レシチンが、植物及び動物のいずれかの由来である請求項1に記載のカプセル付着防止剤。
【請求項3】
酵素分解レシチンが、大豆及び卵黄のいずれかの由来である請求項1から2のいずれかに記載のカプセル付着防止剤。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のカプセル付着防止剤によって表面が被覆されたことを特徴とする被覆軟カプセル剤。
【請求項5】
表面に付着防止効果が付与された請求項4に記載の被覆軟カプセル剤。
【請求項6】
請求項1から3のいずれかに記載のカプセル付着防止剤を軟カプセル剤の表面に被覆することを特徴とする被覆軟カプセル剤の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/077419
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【発行日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−518028(P2005−518028)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002313
【国際出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【出願人】(000000217)エーザイ株式会社 (102)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
【Fターム(参考)】