説明

軽水炉用制御部材

【課題】軽水炉の冷却系設備に故障が生じ炉心溶融の恐れがある場合に、中性子を吸収する制御材として原子炉圧力容器内に投入し、燃料棒が溶融した際の再臨界を有効に防止することができる軽水炉用制御部材を提供する。
【解決手段】ボロン原子5を中空状の外殻部4に分散させて水に浮く粒状体とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非常時に中性子を吸収する部材として軽水炉に投入され、燃料棒が溶融した際の再臨界の防止に有効な軽水炉用制御部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の軽水炉では、地震時などには揺れを感知して制御棒が原子炉圧力容器内に配列
された燃料棒の間に自動的に挿入され、燃料棒内の原子燃料の核分裂反応が停止し、その後、原子燃料の崩壊熱の冷却が行われる。地震に伴って外部電源が喪失された場合には、非常用ディーゼル発電機が起動し、この発電電力によって冷却系設備の運転が維持される。しかしながら、地震後の津波などにより非常用ディーゼル発電機および冷却系設備が損傷すると、原子炉圧力容器内の冷却ができなくなり、原子炉圧力容器内の1次冷却水の温度が上がって蒸気が発生し、数時間後には燃料棒の上部が水面上に露出する。燃料棒が水面上に露出して 1200℃以上になると、燃料被覆管を構成するジルコニウム合金と水蒸気が化学反応して水素が発生する水・ジルコニウム反応が活発になる。これは発熱反応のため燃料被覆管の温度は加速的に上昇し、短時間でジルコニウム合金の融点(約1800℃)を越える。そして、約2800℃になると原子燃料が溶け出す。
【0003】
燃料被覆管や原子燃料が溶けて崩れ落ちる炉心溶融になると、がれき状のデブリになる可能性がある。また、その外側は燃料集合体の構造物等が一旦溶けて固まった酸化物(クラスト)に覆われる可能性がある。このように原子燃料の形が崩れてデブリや酸化物(クラスト)になると、中性子を吸収するボロン製の制御棒もその融点(約2300℃)で溶融してデブリや酸化物(クラスト)に混合すると考えられるが、炉心溶融の進展によっては、ボロンが一時的に原子燃料内で偏在して中性子の吸収が不十分となる恐れもあり、溶融途中の段階で再び連鎖的に核分裂反応を起こす再臨界が起こる可能性がある。一方、崩れ落ちた原子燃料の一部は塊ではなく砂粒状になって原子炉圧力容器の下部に堆積する可能性もある。この場合にも空隙に水が存在する大きなデブリ領域が形成されると、水と原子燃料の存在比率が臨界に適した条件となり再臨界が起こる可能性がある。
【0004】
再臨界が起こるとその発熱は崩壊熱に比べて格段に大きいため、冷却は一層困難になり、原子炉の制御が不能となる。なお過去の例によると、炉心の冷却機能に問題が生じてから約5時間で燃料棒が水面上にすべて露出し、その約10時間後には炉心全体の溶融に至っている。なお、炉心溶融後に冷温停止した原子炉から溶融燃料を取り出す際にも、再臨界が生じないよう注意が必要である。
【0005】
上述したような再臨界を防止するために、中性子を吸収するホウ酸水を原子炉圧力容
器内に注入する方策がある(例えば特許文献1参照)。ホウ酸水はボロンの化合物の水溶液である。ボロンの同位体のうち10Bは非常に大きな中性子吸収断面積を持つため、原子炉内において中性子吸収のための制御棒に使用されている。しかしながら、ホウ酸水は上述のデブリの外側にしか存在できないため、ホウ酸水が中性子を吸収することによる再臨界防止効果は小さい。しかも、デブリの外側に酸化物(クラスト)が存在する場合には、酸化物(クラスト)の存在により中性子のデブリから外部への漏洩は一層困難となり再臨界が生じる恐れが大きい。また、ホウ酸水濃度はその後の注水により薄まるため、補い続ける必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−101332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、軽水炉の冷却系設備に故障が生じ炉心溶融の恐れがある場合に、中性子を吸収する制御材として原子炉圧力容器内に投入し、燃料棒が溶融した際の再臨界を有効に防止することができる軽水炉用制御部材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ホウ酸水の代わりに中性子を吸収するボロンの粉末を原子炉圧力容器内に注入し、溶融した燃料やクラスト内に混入させる方策が考えられが、ボロンは比重が約2.3で水より重い。原子炉圧力容器に残っている冷却水は燃料棒の発熱により対流しているため、その撹拌作用が期待できるものの、粒径数ミクロン程度の微粉末でも冷却水中で時間とともに原子炉圧力容器の底に沈降する可能性がある。炉心溶融よりも前にボロンの粉末が原子炉圧力容器の底に沈殿した場合、再臨界防止効果は減殺される。
【0009】
さらに、炉心溶融の前の段階で燃料棒どうしの隙間をボロンの粉末が閉塞させる恐れがある。燃料棒は、通常は燃料集合体に2〜4mmの隙間を空けて規則正しく配列され、この隙間に冷却水が存在するが、ボロンの粉末を多量に注入してこの隙間を閉塞させると、冷却水が存在する状態でも燃料の除熱を妨げる恐れがある。したがって、ボロンの粉末を注入する方法は現実的でない。
【0010】
本発明は、以上の検討結果に基づきなされたものであり、ボロンおよび/またはボロンの化合物を保持体に分散させて水に浮く粒状体としたことを特徴とする。
【0011】
本発明の軽水炉用制御部材(以下、「制御部材」と略称する)によれば、外部電源喪失に加えて非常用ディーゼル発電機および冷却系設備が損傷し、炉心の冷却機能に問題が生じた場合に、制御部材を適宜な手段により原子炉圧力容器内に投入する。すると、制御部材は、原子炉圧力容器内の冷却水の自由液面上に浮遊し、水位が低下して燃料棒の上部が水面上に露出すると、水位とともに下方へ移動して制御部材が溶けた被覆管や燃料中に混ざり合うことで、中性子を効率良く吸収し、再臨界の防止に効果を発揮する。この場合において、制御部材は原子炉圧力容器内の冷却水の自由液面上に浮遊するから、燃料棒の隙間を閉塞させる恐れはない。
【0012】
ここで、従来においては、炉心を冷却するために軽水炉の外部から海水を注水するのは、廃炉の決断をした上での処置であった。この点、本発明においては、制御部材を原子炉圧力容器内に注入した後に、外部電源の復旧や冷却系設備の修理などにより炉心への注水を再開できて炉心溶融を回避できた場合には、軽水炉を冷温停止後に原子炉圧力容器内の冷却水の自由液面上に浮遊している制御部材をすくい上げるなどして容易に除去できる。したがって、廃炉の決断をすることなく予防的観点から早期の段階で制御部材を原子炉圧力容器内に供給できる。
【0013】
本発明においては、溶融する燃料被覆管や原子燃料の発熱によりボロンおよび/またはボロンの化合物(以下、「ボロン等」と称する)を分散させている保持体が溶融しても、ボロン等は直ちに冷却水中に沈降することはないため、ボロンが溶融した燃料被覆管や原子燃料中に混ざり合うことで、中性子を効率良く吸収し、再臨界の防止に効果を発揮する。
【0014】
また、破損した原子燃料の一部が砂粒状になって原子炉圧力容器の下部に沈降する場合でも、ボロン等が砂粒状の粒子中に混ざり合うことで、中性子を効率良く吸収し、再臨界の防止に効果を発揮する。さらに、溶融した原子燃料が原子炉圧力容器を貫通して原子炉格納容器内またはその外側に落下した場合でも、ボロン等が溶けた燃料中に混ざり合うことで再臨界の防止に効果を発揮する。
【0015】
ここで、保持体は、内側が中空の外殻部を備えた塊状をなしていることが望ましい。また、塊状とは、球状や矩形状に限らず鱗片状や箔状等の任意の形態を含む概念である。
【0016】
より具体的には、外殻部の内部にボロン等が分散している態様が含まれる。あるいは、外殻部の内壁部にボロン等が付着している態様や、外殻部の内側の中空部に、ボロン等が収容されている態様も含まれる。
【0017】
保持体としては、上記のような中空状のものに限定されるものではなく、膨張黒鉛などの多孔質体を用いることもできる。本発明においては、膨張黒鉛に形成された空隙にボロンを充填することで制御部材を構成することができる。あるいは、多孔質の金属(例えばステンレス鋼)の気孔にボロンを充填し、表面に露出している気孔を塑性加工等によって封孔処理して制御部材を構成することもできる。
【0018】
また、粒状体は、1つが単体で存在する態様であっても複数が結合した態様であってもよい。たとえば、粒状体は1つの外殻部の内部にボロン等が分散した態様であってもよい。また、そのような粒状体が複数結合した態様であってもよい。
【0019】
ボロンの化合物としては、例えば炭化ボロン(B4C)、酸化ボロン(B2O3)、および窒化ボロン(BN)の1種または2種以上を用いることができる。
【0020】
本発明の制御部材は、ボロン等を保持体に分散させて水に浮く粒状体としたものである。したがって、制御部材の全体としての比重は1未満とする。燃料棒どうしの隙間は、燃料集合体において通常は2〜4mmの隙間を空けて規則正しく配列されているため、この隙間を閉塞させないために、制御部材の粒径(差し渡し最外径)は1mm以下が望ましい。なお粒状体の形状については前述のように必ずしも球状である必要はない。
【0021】
ボロン等を分散させる保持体がその融点に到達すると、制御部材は壊れてボロン等が分離する。したがって、炉心溶融に至るまでの過程で、できるだけ長時間にわたって制御部材を水に浮かせるために、保持体の材料の融点はできるだけ高いことが望ましい。しかしながら、ボロン等が水中に分離しても、原子炉圧力容器に残っている冷却水は燃料棒の発熱により対流しているため、その撹拌作用により直ちに原子炉圧力容器の底に沈降することはない。したがって、ボロン等を分散させる保持体の材料の融点に関しては特に制約はない。またボロン等を分散させる保持体の材料の融点が燃料被覆管を構成するジルコニウム合金の融点(約1800℃)より高い場合、制御部材はもとの形状を維持したまま溶融した燃料被覆管内に溶け込む。しかしながら、ボロン等が中性子を吸収する効果は、制御部材がもとの形状を維持するか否かに無関係である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、軽水炉の冷却系設備に故障が生じ炉心溶融の恐れがある場合に、中性子を吸収する制御材として原子炉圧力容器内に注入し、燃料棒が溶融した際の再臨界を有効に防止することができる。また、炉心溶融を回避できた場合には、軽水炉を冷温停止後に原子炉圧力容器内の冷却水の自由液面上に浮遊している制御部材をすくい上げるなどして容易に除去できるので、廃炉の決断をすることなく予防的観点から早期の段階で制御部材を原子炉圧力容器内に供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態の制御部材の作製途中の状態を示す断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態の制御部材を示す断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態の制御部材の作製途中の状態を示す断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態の制御部材を示す断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態の変形例における制御部材の作製途中の状態を示す断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態の変形例における制御部材を示す断面図である。
【図7】本発明の第3実施形態の変形例における制御部材の作製途中の状態を示す断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態の変形例における制御部材を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
1.第1実施形態
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。図1は、アルミナの微粉末をバインダーと共に練り合わせたペースト1でパラフィンワックス粒子2の周囲を包み、さらにその外側にミクロンオーダーのボロン粉末3を付着させたものである。このような複合粒子は、公知の混合装置でパラフィンワックスとバインダー樹脂およびアルミナ微粉末を混合してパラフィンワックス粒子2をペースト1で被覆した粒径が1mm程度の粒子を作製し、この粒子とボロン粉末3とを混合することで作製することができる。これを1500℃程度で焼結すると、パラフィンワックスは溶融、揮発し、一方、ボロン粉末3中のボロン原子はアルミナ中に拡散する。これにより、図2に示すように、アルミナの外殻部(保持体)4にボロン原子5が分散した中空のボール(制御部材)6を作製した。できあがったボール6の外径を1.0mm、内径を0.9mm、アルミナとボロンの体積比を1:2とすると、以下の計算によりこれが水に浮くか否かが判定できる。なおアルミナの比重は4.0、ボロンの比重は2.3とする。
【0025】
(数1)
ボールの体積:V=4πR=4×π×(0.5)=1.57mm
ボール内部の空隙体積:V=4πR=4×π×(0.45)= 1.14mm
ボールの重量:W=γ(V1−)=2.87×10−3(g)
×(1.57−1.14)=1.23×10−3(g)
ボールが排除する水の重量:W=γ×V=1.0×10−3(g)×1.57
=1.57×10−3(g)
π:円周率=3.14
R:半径
γ:ボールを構成するアルミナとボロンの焼結体の比重 = 2.87×10−3(g)
γ:水の比重 = 1.0×10−3(g)
【0026】
上記の計算によりW<Wであるからこのボール6は水に浮く。アルミナの融点は2054℃のため、この温度にて上記ボールは溶融するが、すでに溶けている燃料被覆管(融点:約1800℃)に速やかに混合される。さらに、その後に溶融する原子燃料(融点:約2800℃)中にボロンが混ざり合うことで、中性子を効率良く吸収し、再臨界の防止に効果を発揮する。なお、本実施形態において、アルミナの代わりに別のセラミックス、例えば酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウムなどを用いることも可能である。
【0027】
2.第2実施形態
平均粒径が10μmのボロン粉末10とパラフィンワックス11とを体積比1:1となるように加熱混練した後、公知の造粒法により粒径が約1mmの球状の混練物を作製した。次に、この球状の混練物と平均粒径が0.5μmのアルミナ微粉末12を回転式の混合機で混合することで、表面にアルミナ微粉末12が付着した複合粒子を作製した(図3参照)。次に、この複合粒子を大気中1500℃にて120分間焼結することにより、アルミナの外殻部(保持体)13の中空内周面にボロン粉末10が固着した中空のボール(制御部材)14を作製した(図4参照)。なお、焼結温度と焼結時間を調整することにより、ボロン粉末10の一部または全部を外殻部13内に拡散させることができる。
【0028】
図5および図6は上記第2実施形態の変形例を示すものである。この変形例では、平均粒径が10μmのボロン粉末10とパラフィンワックス11とを体積比1:1となるように加熱混練した後、球状の混練物を作製し、混練物の表面にアルミナ微粉末12が付着した粒径が約0.5mmの球状の複合粒子を作製した。この複合粒子を複数結合した結合粒子(図5参照)を焼結し、アルミナの外殻部(保持体)13の内部にボロンが拡散した粒径が1mm以下の中空のボール(制御部材)14を作製した(図6参照)。
【0029】
3.第3実施形態
第1実施形態においてアルミナ微粉末の代わりにステンレス鋼の微粉末を用いた。平均粒径が2〜5μmのSUS430粉末を用い、図1に示すものと同等の複合粒子を作製した。これを非酸化性雰囲気で750℃と1000℃にて焼結し、ステンレス鋼の外殻部にボロンが合金化するとともに外殻部の外周面にボロンが固着した中空のボール(制御部材)を作製した。
【0030】
図7および図8は上記第3実施形態の変形例を示すものである。この変形例では、ステンレス鋼の微粉末をバインダーと共に練り合わせたペースト1でパラフィンワックス粒子2の周囲を包み、さらにその外側にミクロンオーダーのボロン粉末3を付着させた粒径が約0.5mmの球状の複合粒子を作製した。この複合粒子を複数結合した結合粒子(図7参照)を焼結し、ステンレス鋼の外殻部4にボロンが合金化した粒径が1mm以下の中空のボール(制御部材)6を作製した。
【0031】
4.第4実施形態
実施形態2においてアルミナ微粉末の代わりにステンレス鋼の微粉末を用いた。平均粒径が2〜5μmのSUS430粉末を用い、図3に示すものと同等の複合粒子を作製した。これを非酸化性雰囲気で750℃と1000℃にて焼結し、ステンレス鋼の外殻部にボロンが合金化するとともに外殻部の内周面にボロンが固着した中空のボール(制御部材)を作製した。
【0032】
第3、第4実施形態において、燃料棒が水面上に露出して1200℃以上になると、燃料被覆管のジルコニウム合金と水蒸気が化学反応して水素が発生する水・ジルコニウム反応が活発になるが、これは発熱反応で温度は加速的に上昇し短時間でジルコニウム合金の融点(約1800℃)を越える。一方、ステンレス鋼の融点は約1400℃であるが、ボロンは鉄と1149℃で共晶液相を発生させるので1100℃付近で溶融する。したがって、1100℃以上でステンレス鋼からなる外殻部は溶融し、ボロンは溶融する燃料被覆管に速やかに混ざり合う。そしてさらに温度は急激に上昇し約2800℃で原子燃料が溶け出す。以上により、ボロンは溶融した燃料被覆管内、原子燃料内および燃料被覆管と燃料の混合体の中などに混ざり合う。そして、ボロンが中性子を吸収することにより、再臨界の防止に効果が発揮される。
【0033】
5.第5実施形態
実施形態1においてアルミナ微粉末の代わりに鉄−ボロン合金粉末を用いた。平均粒径が1μmの鉄−ボロン合金粉末を用い、図1に示すものと同等の複合粒子を作製した。これを非酸化性雰囲気で750℃と1000℃にて焼結し、鉄−ボロン合金の外殻部にボロンが合金化するとともに外殻部の外周面にボロンが固着した中空のボール(制御部材)を作製した。
【0034】
6.第6実施形態
実施形態2においてアルミナ微粉末の代わりに鉄−ボロン合金粉末を用いた。平均粒径が1μmの鉄−ボロン合金粉末を用い、図3に示すものと同等の複合粒子を作製した。これを非酸化性雰囲気で750℃と1000℃にて焼結し、鉄−ボロン合金の外殻部にボロンが合金化するとともに外殻部の内周面にボロンが固着した中空のボール(制御部材)を作製した。
【0035】
第5、第6実施形態においても、1100℃以上で鉄−ボロン合金からなる外殻部は溶融し、溶融した燃料被覆管内、原子燃料内および燃料被覆管と燃料の混合体の中などに混ざり合う。したがって、第3、第4実施形態と同等の作用、効果を得ることができる。
【0036】
7.第7実施形態
膨張黒鉛の粉末(粒径1mm以下)にボロンを充填することで制御部材を作製する。膨張黒鉛は、化学反応を用いて黒鉛のシート間に所定の物質を挿入し、これを急加熱することにより層間に挿入された物質を燃焼・ガス化させて製造される。その時に生じたガスの放出が爆発的に層と層の間を押し広げるので、黒鉛が層の積み重なり方向に膨張する。制御部材は、黒鉛の膨張により形成された多量の空隙にホウ酸水を真空含浸させ、これを加熱して水分を蒸発させることで製造される。この制御部材は多量の空隙を含むため水に浮かせることが可能である。なお、黒鉛と水は濡れ性が悪いため、上記空隙に原子炉圧力容器内の冷却水が侵入することは無い。
【0037】
上記のような制御部材を原子炉圧力容器内に注入する方策としては、特に限定されないが、例えば緊急炉心冷却装置を使う方法がある。すなわち、加圧水型軽水炉では、高圧で蓄えてある水を入れる蓄圧注入系、ポンプを使い高圧で送り込む高圧注入系、圧力が下がってから働かせる低圧注入系の3系統を用いることができる。また沸騰水型軽水炉では、原子炉圧力容器の上部から高圧で水をまく高圧炉心スプレー、低圧炉心スプレー、低圧注入系を用いることができる。また、沸騰水型炉では原子炉格納容器の容積を補うサプレッション・プール(チェンバー)がある。以上のうちで採用可能な系統を通じて淡水または海水と共に制御部材を注入することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、軽水炉の冷却系設備に故障が生じたときに、中性子を吸収する制御材として利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 ペースト
2 パラフィンワックス粒子
3 ボロン粉末
4 外殻部
5 ボロン原子
6 ボール(制御部材)
10 ボロン粉末
11 パラフィンワックス
12 アルミナ微粉末
13 外殻部
14 ボール(制御部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボロンおよび/またはボロンの化合物を保持体に分散させて水に浮く粒状体としたことを特徴とする軽水炉用制御部材。
【請求項2】
前記保持体は、内側が中空の外殻部を備えた塊状をなしていることを特徴とする請求項1に記載の軽水炉用制御部材。
【請求項3】
前記粒状体は、1つが単体で存在するか複数が結合したものであることを特徴とする請求項1または2に記載の軽水炉用制御部材。
【請求項4】
前記外殻部の内部にボロンおよび/またはボロンの化合物が分散していることを特徴とする請求項2または3に記載の軽水炉用制御部材。
【請求項5】
前記外殻部の内壁部にボロンおよび/またはボロンの化合物が付着していることを特徴とする請求項2または3に記載の軽水炉用制御部材。
【請求項6】
前記保持体は膨張黒鉛からなり、ボロンおよび/またはボロンの化合物が膨張黒鉛に付着していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の軽水炉用制御部材。
【請求項7】
前記ボロンの化合物は、炭化ボロン、酸化ボロン、および窒化ボロンから選ばれた1種または2種以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の軽水炉用制御部材。
【請求項8】
前記保持体は、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウムから選ばれた1種または2種以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の軽水炉用制御部材。
【請求項9】
前記保持体は、ステンレス鋼または鉄−ボロン合金であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の軽水炉用制御部材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−24826(P2013−24826A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162849(P2011−162849)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000233572)日立粉末冶金株式会社 (272)