説明

軽油組成物

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、概略、軽油と高純度の炭酸ジメチルとからなる特定の組成の燃料用の軽油組成物に係わるものであり、一般的に、軽油が、内燃機関(ディーゼルエンジン等)、燃焼炉などの燃焼機関内で燃焼する際に、カーボン類が多量に発生するのを著しく防止すると共に、窒素酸化物の発生をも同時に抑えることができて、環境汚染の防止に極めて有用である軽油組成物に係わる。
【0002】
【従来技術の説明】アメリカ特許第2,331,386号明細書、特表昭60−500259号公報等において、乗用車エンジン用燃料(ガソリン)、ディーゼルエンジン用燃料油(重油)等の炭化水素液状燃料に、炭酸ジアルキルエステル(さらに必要であれば低級脂肪族アルコール)を添加することによって、前記燃料をエンジンなどに使用する場合の発火性に係わるオクタン価、セタン価などが改良できることが、よく知られている。
【0003】しかし、近年、自動車用エンジンなどから排出されるカーボン、窒素酸化物が、公害の主な原因であり、特に、大型自動車、トラック、バスなどの重量車に搭載された軽油を使用するディーゼルエンジンから排出されるカーボン類については、発癌性物質も含有しているとして、極めて問題となっている。
【0004】最近、アメリカ特許第4,891,049号及びアメリカ特許第4,904,279号明細書には、エンジン排ガス中のカーボン類の含有割合を減少させることを目的として、2種類の炭酸エステル化合物と、ガソリンより重い液状炭化水素燃料(例えば、中間留分燃料油、ディーゼルエンジン用燃料油)とからなる炭化水素燃料組成物の発明について報告されている。
【0005】しかしながら、前記の公知の発明に記載されている炭化水素燃料組成物は、エンジン内の燃焼においてカーボン類の発生を十分に減少させることができなかったのであり(カーボン類の減少率:最大で約29重量%、平均で約20重量%程度)、必ずしも満足できるものではなかった。従って、この技術分野においては、燃焼時にカーボン類の発生を効果的に十分に防止することができる炭化水素燃料組成物(特に軽油組成物)が、極めて期待されていた。
【0006】また、一般的に、カーボン類の発生を減少させることができる炭化水素燃料組成物はかえって窒素酸化物の発生を増加させるという傾向があったが、カーボン類の発生を防止できると同時に窒素酸化物の発生をも減少又は防止することができる炭化水素燃料組成物(特に軽油組成物)は知られていなかったのである。
【0007】
【本発明が解決しようとする問題点】この発明は、ディーゼルエンジンなどの内燃機関内での炭化水素燃料(軽油)の燃焼において、窒素酸化物の発生を減少させることができると共に、カーボン類の発生を効果的に十分に防止することができる軽油組成物を提供することを目的とする。又、この発明の軽油組成物は、メタノール燃料等に比べて内燃機関での燃焼において例えば有害物質であるホルムアルデヒドの生成がほとんどないという利点も有している。
【0008】
【問題点を解決する手段】本発明は、軽油と一般式I
【0009】
【化2】


【0010】(但し、式中、Rはメチル基を示す)で示される炭酸ジエステルとからなる燃料用の軽油組成物であり、しかも、その軽油組成物中には前記炭酸ジエステルが0.1〜40容量%の割合で含有されており、さらに、前記の炭酸ジエステルが95重量%以上の高純度のものであって他の炭酸エステル化合物を実質的に含有していないことを特徴とする軽油組成物に関する。
【0011】本発明において使用される軽油は、石油化学製品の一種であって、原油の蒸留に際して灯油と重油の間で留出する部分を言い、パラフィン(メタン系炭化水素類)、シクロパラフィン、芳香族炭化水素などの各種の炭化水素混合物であればよい。
【0012】前記の軽油は、その沸点範囲が約250〜400℃、特に250〜350℃であることが好ましく、また、セタン価が40〜100、特に45〜95程度であるディーゼルエンジン用軽油が好ましい。なお、前記の軽油は、必要であれば、ディーゼルエンジン用燃料などの燃料として用いるために特に配合される適当な添加剤(例えば、亜硝酸エステル、硝酸エステルなど)が適当な配合割合(例えば、10容量%以下)で配合されていてもよい。
【0013】本発明において使用される炭酸ジエステルは、一般式I
【0014】
【化3】


【0015】(但し、式中、Rはメチル基を示す)で示される高純度の炭酸ジエステルであって、前記の一般式Iで示される炭酸ジエステルが、全ての炭酸エステル化合物類の全量に対して95重量%以上、好ましくは96〜100重量%、特に好ましくは98〜100重量%である高純度のものであって、他の炭酸エステル化合物を実質的に含有していないことが好ましい。
【0016】
【0017】前記の一般式Iで示される炭酸ジエステルに含まれない『他の炭酸エステル化合物』としては、例えば、(a)一般式II
【0018】
【化4】


【0019】(但し、前記一般式IIにおいてR1 は、炭化水素基である。)で示されるジカルボン酸ジアルキルエステル(前記一般式Iにおいて、Rがカルボキシ基である炭酸ジアルキルエステルの縮合二量体など)、(b)一般式III
【0020】
【化5】


【0021】(但し、一般式IIIにおいて、R2 が前記の炭素数1〜6の低級炭化水素基以外の炭化水素基であって、例えば、炭素数7以上の脂肪族炭化水素基、炭素数7以上の脂環式炭化水素基、炭素数7以上の芳香族炭化水素基などである。)で示される炭酸ジエステル、あるいは、一般式IV
【0022】
【化6】


【0023】(但し、前記一般式IVにおいてR3 は、炭化水素基である。)で示される炭酸モノエステルなどを挙げることができる。
【0024】この発明において、前記の他の炭酸エステル化合物は、全ての炭酸エステル化合物類に対して2重量%以下、特に1重量%以下、最も好ましくは0.5重量%以下であることが好ましい。
【0025】この発明において、軽油組成物は、前記一般式Iで示される高純度の炭酸ジエステルが0.1〜40容量%(好ましくは0.5〜20容量%、特に好ましくは1〜15容量%程度)の配合割合で含有されていればよい。この発明の軽油組成物では、前記の高純度の炭酸ジエステルの配合割合は、2〜12容量%であることが最も好ましい。この発明において、炭酸ジエステルの配合割合が少なくなり過ぎると、カーボン類の発生を抑えることができなくなるので適当ではなく、また、炭酸ジエステルの配合割合が多くなり過ぎると、エンジンなど内燃機関の出力が著しく低下するので適当ではない。
【0026】
【実施例】以下、この発明の実施例を示し、この発明をさらに詳しく説明する。実施例1及び2、並びに、比較例1及び2のシャシダイナモ試験において、表1に示す種々のデータの測定は、排出ガス分析装置(株式会社堀場製作所製:MEXA-8120D型)、排気煙濃度測定器(弥栄工業株式会社: GSM-2型)および燃料流量検出器及び流量積算計(株式会社小野測器製: FP214・DF303 型)を使用して行った。
【0027】実施例3〜5、並びに、比較例3のエンジンダイナモ試験において、排ガス中のNOX の測定は、ケミルミ法による窒素酸化物測定器(石橋科学(株)製)を用いて測定し、そして、ホルムアルデヒドは、ガステック検知管で測定し、さらに、ボッシュ(黒煙)は、濾紙汚染方式のボッシュ濃度計(司測定研究所(株)製、GSM−3型)で測定した。
【0028】実施例1実験車としてディーゼル自動車(車名:三菱自動車製、U−FE331E改、原動機型式:4D30、総排気量:3298cc、圧縮比:21.0、燃焼室形式:副室式、最高出力:97/3500 ps/rpm 、車両重量:2640kg、走行前の総走行距離:22270km)を使用し、そして、燃料として、市販軽油に炭酸ジメチル(以下『DMC』ともいう。純度99重量%以上)が10容量%添加されている軽油組成物を使用し、法定ディーゼル6モード走行試験、排気煙濃度試験、及び、シャシダイナモメータ(株式会社小野測器製:ZA-018型)の使用による定速度20km/hにおける燃料消費率試験をそれぞれ行った。それらの各評価項目に関する結果を、表1に示す。
【0029】比較例1燃料として、DMC等の炭酸ジエステル類を全く添加していない軽油組成物を使用したほかは、実施例1と同様にして、シャシダイナモ試験を行った。その結果を表1に示す。
【0030】実施例2実験車としてディーゼル自動車(車名:いすず自動車製、U−NKR58EA、原動機型式:4BA1、総排気量:3636cc、圧縮比:17.5、燃焼室形式:直噴式、最高出力:120/3500 ps/rpm 、車両重量:2160kg、走行前の総走行距離:34080km)を使用し、そして、燃料として市販軽油に炭酸ジメチル(純度99重量%以上)が10容量%添加されている軽油組成物を使用し、法定ディーゼル6モード走行試験、排気煙濃度試験、及び、シャシダイナモメータ(株式会社小野測器製:ZA-018型)の使用による定速度20km/hにおける燃料消費率試験をそれぞれ行った。それらの結果を、表1に示す。
【0031】比較例2燃料として、DMC等の炭酸ジエステル類を全く添加していない軽油組成物を使用したほかは、実施例2と同様にして、シャシダイナモ試験を行った。それらの結果を表1に示す。
【0032】
【表1】


【0033】実施例3〜5ディーゼルエンジン(ヤンマー(株)製、原動機型式:MA10−N型、総排気量:535cc、圧縮比:23.1、燃焼室形式:副室、最高出力:10/2600 ps/rpm )を使用し、そして、燃料として市販軽油に炭酸ジメチル(純度99重量%以上)が、5.0容量%(実施例3)、5.3容量%(実施例4)、又は5.7容量%(実施例5)の添加割合でそれぞれ添加されている軽油組成物を使用し、エンジンダイナモ試験〔エンジン回転数水準:1000、1500又は2000、負荷水準:(a) 4/4、(b) 1/2、又は(c) 0〕をそれぞれ行った。
【0034】前記の試験において、排ガス等のサンプリングは等速吸引とし、エンジン排ガスについて、エンジン後約100cmのところでボッシュを採取し、次に、その100cm後に0.5m3 のステンレス製バッファータンクに導入して、種々の分析成分ガスを採取した。それらの分析による結果(三水準のエンジン回転数についての平均値)を各負荷水準毎に算出して、表2〜4に示す。
【0035】比較例3〔(a) 〜(c) 〕
燃料として、DMC等の炭酸ジエステル類を全く添加していない軽油組成物を使用したほかは、実施例3と同様にして、エンジンダイナモ試験(エンジン回転数水準:1000、1500、又は2000、負荷水準:4/4、1/2、又は0)を行った。それらの結果を表2〜4に示す。
【0036】
【表2】


【0037】
【表3】


【0038】
【表4】


【0039】
【本発明の作用効果】この発明の軽油組成物においては、軽油に高純度の炭酸ジ低級アルキルエステル等(一般式Iで示される炭酸ジエステル)が添加されているので、軽油を用いるディーゼルエンジン等の内燃機関での燃焼において窒素酸化物の発生を増大させることなく排ガス中の窒素酸化物の含有割合を減少させることができると共に、カーボン類の発生を極めて効果的に防止し、排ガス中のカーボン類の含有割合を著しく減少させることができたことである。また、この発明の軽油組成物は、前記燃焼において、前記排ガス中に有害なホルムアルデヒドを実質的に含有させることがないのである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 軽油と一般式I
【化1】


(但し、式中、Rはメチル基を示す)で示される炭酸ジエステルとからなる燃料用の軽油組成物であり、しかも、その軽油組成物中には前記炭酸ジエステルが0.1〜40容量%の割合で含有されており、さらに、前記の炭酸ジエステルが95重量%以上の高純度のものであって他の炭酸エステル化合物を実質的に含有していないことを特徴とする軽油組成物。

【特許番号】特許第3141668号(P3141668)
【登録日】平成12年12月22日(2000.12.22)
【発行日】平成13年3月5日(2001.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−6583
【出願日】平成6年1月25日(1994.1.25)
【公開番号】特開平7−173475
【公開日】平成7年7月11日(1995.7.11)
【審査請求日】平成11年11月10日(1999.11.10)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【参考文献】
【文献】特開 昭61−207496(JP,A)
【文献】特開 平4−234491(JP,A)