説明

軽量ゴム組成物及びそれを使用した履物

【課題】
軽量ゴム組成物に関し、詳しくは、加硫による成型において、機械的強度を有する製品外観の良好な断熱性のある軽量ゴム組成物及び、それを使用した履物を提供する。
【解決手段】
加硫を行うゴム組成物であって、中空セラミックバルーンの平均粒径が40μm以下であり、かつ殻壁厚みが1μm以上である中空セラミックバルーンの体積分率10〜60%を、ゴム中に添加し混練りした軽量ゴム組成物を特徴とし、添加する中空セラミックバルーンのアルカリ溶出度が0.040ミリ当量/g以下であり、かつ内部気体圧力が0.3気圧以下に減圧されていることにより、加圧・加熱による加硫時のバルーンの壊変が防止できる。軽量ゴム組成物に関し、詳しくは、加硫による成型において、機械的強度を有する製品外観の良好な断熱性のある軽量ゴム組成物及び、それを使用した履物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量ゴム組成物に関し、詳しくは、加硫による成型において、機械的強度を有する製品外観の良好な断熱性のある軽量ゴム組成物及び、それを使用した履物に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムは、特異な優れた性質、例えば柔軟性、衝撃吸収性、防滑性等を持つゆえに多方面で使用されている。しかし利用する上で、重さゆえにエネルギーロスを生じ快適性が損なわれていることは否めない。軽量化する技術として種々のものが開示されているが、熱空気加硫による成型において機械的強度を有する製品外観の良好な断熱性のある軽量化ゴム組成物はみられない。
【0003】
ゴムの軽量化技術として、殻壁材が熱可塑性樹脂で、殻壁材中に熱により該殻壁材を膨張させる特性を有する芯物質を内包するマイクロカプセルをゴムに配合して軽量化を行う技術が開示されている。(特許文献1参照)
この技術では、ゴム生地を所定の厚みに圧延し、製品の形作りを成し、加硫缶で空気による加圧・加熱による加硫を行うと、マイクロカプセルが膨張し、体積変化が大きく狙い通りの寸法が出来ず、表面に凹凸が生じ外観が損なわれる。
【0004】
一方、該マイクロカプセルを予め加熱して膨張させた中空バルーンをゴム中に混練りした軽量ゴム組成物の技術が開示されている。(特許文献2参照)
膨張中空バルーンの殻壁が高分子の熱可塑性樹脂であるため、垂直加重で容易に扁平に変形し、除圧で高分子の有する弾性により元の球状に容易に戻る。垂直加重が大きいと大きな弾性変形を成す。
【0005】
ゴム生地のカレンダーロールによる圧延時には、大きな垂直加重が架かる。膨張中空バルーンを配合したゴム生地は、圧延直後はきれいな表面外観を有しているが、弾性変形が大きい為に、経時的に表面にわずかに凸が生じる。特にゴム生地の圧延厚みが薄いと目立ち易くなる。
【0006】
従来シリカ系バルーン、例えばシラスバルーンが塗料やパテ等に軽量材として使用されて来た。これら中空セラミックバルーンは、加重に対する変形量が小さく、ゴム生地のカレンダーロール圧延時の表面外観への悪影響が無いが、従来のシリカ系バルーンはゴムに混練する際にバルーンが破壊され、軽量化材としての機能が達成できない問題があった。(特許文献3参照)
【特許文献1】特開平8−53567号公報
【特許文献2】特開平11−130916号公報
【特許文献3】特開平5−148384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
熱空気加硫をおこなうゴム組成物の軽量化材として中空セラミックバルーンは、良好なゴム表面外観が得られることが見込めるため有力な候補材料であるが、克服すべき問題点がある。
【0008】
第一は、ゴム混練時にバルーン破壊を起こさないことである。第二は、混練時には破壊なく、カレンダーロールで圧延したゴム生地を加硫缶で加熱・加圧による加硫を行うとバルーン破壊が生じる。加硫缶での加硫は、空気圧力2〜4kg/cm、温度120〜130℃、加硫時間50〜60分である。この加硫時に破壊しないヒートショックに強い軽量材が必要となる。ヒートショックとは、急激な温度の変化が物に及ぼす影響のことである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであって、下記の構成からなることを特徴とするものである。すなわち本発明によれば、加硫を行うゴム組成物であって、中空セラミックバルーンの平均粒径が40μm以下であり、かつ殻壁厚みが1μm以上である中空セラミックバルーンの体積分率10〜60%を、ゴム中に混練りしたことを特徴とする軽量ゴム組成物である。
【0010】
本願請求項2の発明では、添加する中空セラミックバルーンのアルカリ溶出度が0.040ミリ当量/g以下であり、かつ内部気体圧力が0.3気圧以下に減圧されていることを特徴とし、断熱性の良い成形品が得られる。
【0011】
本願請求項3の発明では、前記の軽量ゴム組成物を使用したことを特徴とする履物が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の軽量化材を用いた軽量ゴム組成物で成形した成形品は、軽量材の増量とともに見かけ比重が軽くなり、混練時及び加硫缶加硫時にバルーンが破壊されず、しかも良好な外観が得られ、バルーンの内部気体圧力が減圧状態であることにより、断熱性が高く、軽くて快適な成形物が提供される。成形物として耐寒用の長靴などは最適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
中空セラミックバルーンとしては、シラスバルーン、ガラスバルーン、フライアッシュバルーン等のシリカ系バルーンが知られている。
これらの粒子形状は、それぞれに異なり、粒子形状はバルーンの破壊強度に影響を与えている。最も真球に近いのがガラスバルーンであり、他のバルーンは歪な球状である。
【0014】
真球に近いほど破壊強度は高くなる。しかし真球であっても中空バルーンの場合、バルーン表面に微細な傷や割れ目ができると破壊強度は極端に低下する。
歪な球状の場合、表面に傷や割れ目の発生の確率は高くなり、ゴムに混練する場合にバルーンの強度の低下を招きやすい。
【0015】
ガラスバルーンの破壊強度は、ガラスバルーンの真密度の影響が大きい。殻壁の厚みが厚くなると真密度が大きくなり、破壊強度は当然大きくなるが、軽量化の効果は薄れる。
又、ガラスバルーンの粒子径も破壊強度に影響する。粒子径が小さいほど破壊強度が強くなる。粒子径が小さいと表面積が小さくなり、傷や割れ目の発生の確率が減少するためと考えられる。
【0016】
ガラスバルーンの隔壁内の気体圧力は減圧されていることが望ましい。これは、伝熱量を減らし断熱効果を上げるとともに、隔壁外からの圧力を平均して受ける効果による耐圧強度のアップが望めることにある。
【0017】
ロール又はニーダー等によるゴム混練時及びカレンダーロールで圧延時には、ガラスバルーンに捻りの力が掛かる。ガラスバルーンは液体中の耐圧強度は大きいが、捻り力には弱い面がある。
このゴム混練時の圧力に耐えるには、平均粒子径40μm以下で、かつ隔壁平均厚み1μm以上であれば実用に耐える。
【0018】
しかしこの条件だけでは、必要条件であり、加硫缶加硫によるバルーンの壊変に耐える十分条件ではない。この平均粒子径40μm以下で、隔壁平均厚み1μm以上のガラスバルーンを混練したゴム生地を圧延し、空気圧力2〜3kg/cm、温度120〜130℃、加硫時間50〜60分で加硫缶による加硫を行った場合に、加硫により、ガラスバルーンが壊変し、ゴム組成物の比重が重くなる。
【0019】
加硫缶による長時間の加硫でガラスバルーンが壊変する原因として、アルカリ溶出にあることが研究の結果判明した。これは、アルカリ溶出によりガラスバルーン表面の性質が変化し、ヒートショック及び長時間の加圧・加熱により疲労を起こし強度が低下するのが原因と考えられる。ガラスバルーンは、強度が強いホウケイ酸ガラス又は石英ガラス等が望ましい。
【0020】
熱空気加硫を行うゴム組成物に混練する中空セラミックバルーンは、加硫中の性質変化を防止するためにアルカリ溶出量が0.040ミリ当量/g以下であり、好ましくは0.035ミリ当量/g以下である。なお、本発明におけるアルカリ溶出度は、ASTM−3100Dで示される。
【0021】
本願発明では、添加する中空セラミックバルーンの内部気体圧力が0.3気圧以下に減圧されていることを特徴とし、断熱性の良い成形品が得られる。成形品として耐寒用の長靴などは最適である。
【0022】
本願発明では、添加する中空セラミックバルーンの体積分率が、10〜60%である。
10%以下では軽量化の効果が少なく、60%以上では、ゴム組成物の機械的強度が低下し、実用に供しなくなる。
【0023】
本願発明では、前記の軽量ゴム組成物を使用したことを特徴とする履物が提供される。ゴム長靴は、加硫缶加硫の代表的製品であり、前記軽量ゴム組成物が好適に用いられる。
また、ゴム短靴にも応用出来るし、さらにモールドプレス熱加硫した軽量ゴム底にも利用
出来る。体積変化がほとんど無く狙い通りの寸法が出来る。
【実施例1】
【0024】
二種類のガラスバルーンを準備した。ガラスバルーンAは、平均粒子径40μm、隔壁平均厚み1μm、内圧0.2気圧、アルカリ溶出量が0.060ミリ当量/g。
ガラスバルーンBは、平均粒子径40μm、隔壁平均厚み1μm、内圧0.2気圧、アルカリ溶出量が0.030ミリ当量/gである。
【0025】
表1の配合により2mm厚みのゴム生地シートを作成し、空気圧力2kg/cm、温度120℃、加硫時間60分で加硫缶による加硫を行い比重を測定した。
【0026】
【表1】

ゴムは加硫することにより比重が若干増加する。一つには、架橋という化学変化を受けて内部構造が変化するためである。又、加硫の際、加圧により内部にボイトが存在する場合は、それが消滅することも考えられる。
【0027】
比較例2のゴムシートの断面をマイクロスコープで観察すると、加硫前は、球状のガラスバルーンが多数観察されるが、加硫後は、ほとんどが消滅していた。
一方、実施例1のゴムシートの断面観察では、加硫の前後で変化無く、多数の球状のガラスバルーンが観察された。
【0028】
比較例2のゴムシート表面は、わずかな窪みが見られたが、実施例1のゴムシート表面は平らで良好であった。
【0029】
実施例1にて使用したガラスバルーンBを用いて充填剤の品種及び添加量を変えて試験を行い、そのゴム組成物の理論比重と加硫缶加硫後の実測比重を対比した。その結果を図1に示す。
理論比重は、添加された各成分の比重を用いて加成性を利用して算出した。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、加硫缶加硫により成形される製品の軽量化に係わるものであり、特に総ゴムの長靴の軽量化に関する。短靴に比べ長靴は2〜3倍の重さがあり、軽量化が強く求められている。又履物に限らず加硫缶加硫又はモールドプレス熱加硫を行う工業用ゴム部材の軽量化に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の軽量ゴム組成物を用いて加硫缶加硫を行った試験結果の、理論比重と実測比重の対比例

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加硫を行うゴム組成物であって、中空セラミックバルーンの平均粒径が40μm以下であり、かつ殻壁厚みが1μm以上である中空セラミックバルーンの体積分率10〜60%を、ゴム中に添加し混練りしたことを特徴とする軽量ゴム組成物。
【請求項2】
添加する中空セラミックバルーンのアルカリ溶出度が0.040ミリ当量/g以下であり、かつ内部気体圧力が0.3気圧以下に減圧されていることを特徴とする請求項1記載の軽量ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1及び請求項2記載の軽量ゴム組成物を使用したことを特徴とする履物。

【図1】
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【公開番号】特開2006−241335(P2006−241335A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−59871(P2005−59871)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(000002989)月星化成株式会社 (10)
【Fターム(参考)】