説明

軽量粘土の配合組成とその製造方法

【課題】手に著しく付着することなく、粘土同士が良好にくっつくことにより優れた造形性を発揮すると同時に、水彩絵具による着色を行うことができる軽量粘土の提供を図る。
【解決手段】合成樹脂マイクロバルーン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール及び/又はポリエチレンオキシド、水溶性高分子展伸剤及び水を配合したことを特徴とする軽量粘土を提供する。水溶性高分子展伸剤は、アラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストガム、カラヤガム、アルギン酸、寒天、大豆グルー、グルテン、ポリアクリル酸ソーダからなる群から選択された少なくとも1種が適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、主として幼稚園児や小学生児童が工作用や教材用に使用することを目的とした軽量粘土に関するものであるが、手芸や工芸用として年齢層を問わずに使用することが可能な軽量粘土の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、合成樹脂マイクロバルーンを含有することにより軽量化を図った軽量粘土が知られている。この種の軽量粘土としては、合成樹脂マイクロバルーン、糊剤、繊維粉及び水を配合した粘土が普及している。ところが、この種の軽量粘土は、造形性に問題があった。特に、手への付着が著しく、細かい形状への作業が難しく、保形性も十分ではないとの問題が指摘されていた。
【0003】
そこで、特許文献1では、合成樹脂微小中空球体、ポリビニルアルコール樹脂、可塑剤を含む酢酸ビニル樹脂、ポリエチレンオキシド及び水からなる造形性軽量粘土が提案されている。この特許文献1に係る粘土は、組成上、酢酸ビニル樹脂を使用しているため、変形耐久性に優れた造形性を得ることができるが、欠点としては、酢酸ビニル樹脂が成形作品の乾燥表面を覆うため、乾燥作品への水彩絵具による着色を行う場合に、絵具をはじいてしまい、着色が困難であることが挙げられる。
【0004】
【特許文献1】特開2001−234081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明は、従来市販の軽量粘土並びに特許文献1に係る軽量粘土の欠点を改善し、手に著しく付着することなく、粘土同士が良好にくっつくことにより優れた造形性を発揮すると同時に、水彩絵具による着色を行うことができる軽量粘土の提供を図ることにある。
さらに本願発明は、上記の粘土同士の良好なくっつき性と水彩絵具による着色性を実現した上で、粘土の伸びをも改善することができた軽量粘土の提供を図らんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の請求項1に係る発明は、合成樹脂マイクロバルーン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール及び/又はポリエチレンオキシド、及び、水を配合したことを特徴とする軽量粘土を提供する。
本願の請求項2に係る発明は、水溶性高分子展伸剤が配合されたことを特徴とする請求項1記載の軽量粘土を提供する。
本願の請求項3に係る発明は、合成樹脂マイクロバルーン1〜15重量%、ポリビニルアルコール2〜15重量%、ポリエチレングリコール及び/又はポリエチレンオキシド0.01〜2重量%及び水50〜90重量%が配合されたことを特徴とする軽量粘土を提供する。
本願の請求項4に係る発明は、アラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストガム、カラヤガム、アルギン酸、寒天、大豆グルー、グルテン、ポリアクリル酸ソーダからなる群から選択された少なくとも1種からなる水溶性高分子展伸剤0.1〜10重量%が配合されたことを特徴とする請求項は3記載の軽量粘土を提供する。
本願の請求項5に係る発明は、第1群として合成樹脂マイクロバルーンとポリビニルアルコールとを混合し、第2群として、温水と、水溶性高分子展伸剤と、ポリエチレングリコール及び/又はポリエチレンオキシドとを混合し、この第1群と第2群とを混合攪拌して粘土を製造することを特徴とする軽量粘土の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本願の請求項1に係る発明は、上記の配合組成によって、手に著しく付着することなく、粘土同士が良好にくっつくことにより優れた造形性を発揮すると同時に、水彩絵具による着色を行うことができる軽量粘土を提供することができたものである。
本願の請求項2〜4に係る発明は、粘土の伸びを改善し、工作容易な軽量粘土を提供することができたものである。
本願の請求項5に係る発明は、これらの特性を有する新たな軽量粘土の製造方法を提供することができたものである。
最も望ましい実施例に係る粘土では、粘土の柔軟性、やさしい肌触り、表面の平滑性、保水性、収縮性、伸び、粘土同士のくっつきの良さを実現し、その上に、水彩絵具の練り込み、及び、乾燥後の水彩絵具での着色が可能といった特徴も保持している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本願発明に用いる合成樹脂マイクロバルーンは、外殻がアクリルニトリル・塩化ビニリデンの共重合体が望ましいが、アクリル樹脂、アクリルニトリル樹脂などの他の樹脂製の中空球体であってもよい。
合成樹脂マイクロバルーンの粒径は、特に限定されないが、1〜150μm、特に30〜100μmであることが望ましい。この粒径は、小さすぎると粘土が重たくなり、大きすぎると壊れ易い。
合成樹脂マイクロバルーンの配合量は、乾燥重量で、粘土全体の1〜15重量%が望ましい。配合量が少なすぎると粘土の重量が重くなり、多すぎると粘土としての造形性や保形成が悪くなる。この乾燥重量は、固形分10〜15%、水分85〜90%として、乾燥重量で表した。即ち、配合当初は、合成樹脂マイクロバルーンは乾燥状態で配合され、ともに配合される水分を吸収した状態で粘土として完成される。
【0009】
本願発明に用いるポリビニルアルコールは、ケン化度が80〜90molで、特に85〜90molが望ましい。また粘度は高粘度のものが望ましく、具体的には20℃4%の水溶液の粘度が、2,000〜4,500mpa・sのものが望ましい。
ポリビニルアルコールの配合量は、粘土全体の2〜15重量%の範囲内が望ましく、5〜12重量%の範囲内がより望ましい。
ポリビニルアルコールは、ゲル化剤によってゲル状にして配合すると、「コシ」のある粘土が得られる点で望ましい。このゲル化剤として、ボウ硝(硫酸ソーダ)、カリウムミョウバン(ミョウバン)、硼酸、硼砂などが挙げられる。配合量は、ポリビニルアルコール100重量部に対して、ゲル化剤を2〜15重量部が好ましく、特に、8〜15重量部が望ましい。
【0010】
本願発明に用いるポリエチレングリコールとポリエチレンオキシドは、ともにエーテル結合を多数持った長鎖の二価アルコールである。
ポリエチレングリコールは、エチレングリコールが重合した構造を持つ高分子化合物(ポリエーテル)で、ポリエチレンオキシドも基本的に同じ構造を持つ。ただ、分子量が50,000g/mol未満のものをポリエチレングリコールといい、50,000g/mol以上のものをポリエチレンオキシドという。両者は、化学的性質はほぼ同じであるので、本願発明の軽量粘土にはいずれも用いることができ、併用することもできる。ただ、ポリエチレンオキシドは、作業工程上、水への分散が若干難しい。
ポリエチレングリコール及び/又はポリエチレンオキシドを上記のポリビニルアルコールと組み合わせ使用することによって、粘土に粘りが出て、亀裂が入り難くなり、保形成もよく、何よりも粘土同士のくっつきが良くなる。よって、本願発明の粘土にあっては、良好な造形性を実現することができたものである。
このポリエチレングリコール及び/又はポリエチレンオキシドは、0.01〜2重量%の範囲内で配合することが望ましい。
【0011】
本願発明に用いる水溶性高分子展伸剤としては、植物ガム類、海藻類、植物性タンパク質などの天然水溶性高分子や、ポリアクリル酸ソーダなどの合成水溶性高分子を挙げることができる。植物ガム類としてはアラビアガム、グアーガム、ローカストガム、カラヤガム、海藻類としてはアルギン酸や寒天、植物性タンパク質としては大豆グルー、グルテンなどを挙げることができる。これらの水溶性高分子展伸剤は、粘土に伸びや粘りを与えることができる。特に、アラビアガムに代表される植物ガム類は、合成高分子では得られない優れた乳化力とフィルム形成能力を持っており、本願発明の粘土では、その特徴を十二分に発揮して、粘土に柔軟性、やさしい肌ざわりを与え、その上、十分な伸びと保水性を与えることができたものである。他方、多量に配合すると、粘土同士のくっつきが悪くなるため、配合しないか、配合する場合には0.1〜10重量%とすることことが好ましい。
【0012】
本願発明の粘土の製造方法は、上記の各成分に水を加えて混合攪拌して製造され得るが、合成樹脂マイクロバルーン、ポリビニルアルコールを攪拌する一方、別の容器にて、温水(30〜60℃の温水が好ましい)にポリエチレングリコール及び/又はポリエチレンオキシドと水溶性高分子展伸剤とを溶かした後、全成分を混合攪拌して押出機などで成形することにより得られる。
【0013】
以上の成分の他、本願発明は、粘土に他の成分を配合することを妨げるものではない。例えば、保水性や保形性を高めるためなどに、繊維粉や合成糊剤を添加することができる。
繊維粉としては、パルプ、有機繊維粉、ケナフを挙げることができ、これのうち、少なくとも一種を添加することができる。合成糊剤としては、メチルセルロース類を挙げることができ、具体的には、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキメチルセルロース、ヒドロキエチルセルロースのうちの少なくとも一種を添加することができる。
【実施例】
【0014】
以下、本願発明の実施例を示すが、本願発明はこの実施例に限定して理解されるべきでない。
【0015】
(実施例1)
第1群として、表1に示す配合量の合成樹脂マイクロバルーンとポリビニルアルコールとを攪拌する。第2群として、別のタンク中の温水に、表1に示す配合量のポリエチレングリコールとアラビアゴムとゲル化剤(ポリビニルアルコールの10重量%を配合)を溶かし、第1群と第2群とを混合攪拌して、押出機で押し出し形成して、粘土を製造した。なお、表1、表2における各成分の単位は、重量%である。
(実施例2)
アラビアガムを用いず、配合量が異なる以外は、実施例1と同様である。
(実施例3)
配合量が異なる以外は、実施例1と同様である。
(実施例4)
カルボキシメチルセルロースを第1群に加えると共に、配合量が異なる以外は、実施例1と同様である。
(実施例5)
アラビアガムに代えてローカストガムを第2群に加えると共に、配合量が異なる以外は、実施例1と同様である。
(実施例6)
アラビアガムに代えてアルギン酸を第2群に加えると共に、配合量が異なる以外は、実施例1と同様である。
(実施例7)
ポリエチレングリコールに代えてポリエチレンオキシドを第2群に加えると共に、配合量が異なる以外は、実施例1と同様である。
(実施例8)
第1群にカルボキシメチルセルロース及び乾燥パルプを加えると共に、配合量が異なる以外は、実施例1と同様である。
(実施例9)
アラビアガムを用いず、第1群にカルボキシメチルセルロースを加えると共に、配合量が異なる以外は、実施例1と同様である。
【0016】
【表1】

【0017】
次に表2に基づき、比較例について説明する。
(比較例1)
ポリエチレングリコールを用いず、第1群にカルボキシメチルセルロース及び乾燥パルプを加えると共に、配合量が異なる以外は、実施例1と同様である。
(比較例2)
ポリエチレングリコールを用いず、配合量が異なる以外は、実施例1と同様である。
【0018】
【表2】

【0019】
(確認試験)
得られた各実施例及び比較例の粘土について、3名の評価係が、それぞれを試用して塑像を作成し、粘土の下記の項目について評価した。評価の集計は、各評価係が各項目毎に1〜3点を与えて採点し、3人の得点の合計について、下記の評価を付した。
◎=8〜9点
○=6〜7点
△=4〜5点
×=3点
【0020】
(評価項目)
(1)粘土同士のくっつき
粘土が、手に付着することなく、且つ、粘土同士が良好に付着して、良好な造形性を示すか否かを評価する。
1点=手に付着して、粘土同士がほとんどくっつかない
2点=手にも付着するが、粘土同士もくっつく
3点=手に付着せず、粘土同士が良好にくっつく
【0021】
(2)水彩絵具の着色性
造形し、乾燥させた後の粘土に水彩絵具で着色を施し、絵具の付着程度を観察する。
1点=粘土が絵具をはじいてしまって、絵具が定着しない
2点=粘土が絵具を少しはじくが、数度塗れば絵具は定着する
3点=粘土が絵具をはじくことなく、絵具が良好に定着する
【0022】
(3)表面の平滑性
造形後の粘土の表面状態を観察する。
1点=造形後の粘土の表面が粗面となっている
2点=造形後の粘土の表面がやや滑らかになっている
3点=造形後の粘土の表面が滑らかになっている
【0023】
(4)粘土の伸び
造形中の粘土の状態を観察する。
1点=粘土を引っ張ったとき、伸びにくく、伸びる前にちぎれてしまう
2点=粘土を引っ張ったとき、少し伸びにくいが、伸びを示した後にちぎれる
3点=粘土を引っ張ったとき、適度な伸びを示した後にちぎれる
【0024】
本願発明に係る軽量粘土にあっては、手に著しく付着することなく、粘土同士が良好にくっつくことにより優れた造形性を発揮すると同時に、水彩絵具による着色を行うことができることが確認された。特に、実施例1、実施例9の粘土にあっては、柔軟性、優しい肌触り、表面の平滑性、保水性、収縮性、伸び、粘土同士のくっつきもよく、水彩絵具の練り込みや、乾燥後の水彩絵具での着色も良好に行うことができるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂マイクロバルーン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール及び/又はポリエチレンオキシド、及び、水を配合したことを特徴とする軽量粘土。
【請求項2】
水溶性高分子展伸剤が配合されたことを特徴とする請求項1記載の軽量粘土。
【請求項3】
合成樹脂マイクロバルーン1〜15重量%、ポリビニルアルコール2〜15重量%、ポリエチレングリコール及び/又はポリエチレンオキシド0.01〜2重量%及び水50〜90重量%が配合されたことを特徴とする軽量粘土。
【請求項4】
アラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストガム、カラヤガム、アルギン酸、寒天、大豆グルー、グルテン、ポリアクリル酸ソーダからなる群から選択された少なくとも1種からなる水溶性高分子展伸剤0.1〜10重量%が配合されたことを特徴とする請求項3記載の軽量粘土。
【請求項5】
第1群として合成樹脂マイクロバルーンとポリビニルアルコールとを混合し、
第2群として、温水と、水溶性高分子展伸剤と、ポリエチレングリコール及び/又はポリエチレンオキシドとを混合し、
この第1群と第2群とを混合攪拌して粘土を製造することを特徴とする軽量粘土の製造方法。

【公開番号】特開2010−250176(P2010−250176A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101233(P2009−101233)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000153166)株式会社日本教材製作所 (1)
【Fターム(参考)】