説明

輪転印刷機

【課題】 印刷中の対向するシリンダ間における押圧力、シリンダの仕立て材の厚み量及びシリンダ表層形状を検出することを可能とする輪転印刷機を提供する。
【解決手段】 シリンダに少なくとも一つ以上のシリンダギャップ部(切欠部)を有する輪転印刷機において、シリンダギャップ部に少なくとも一つ以上の検出装置を設置した輪転印刷機である。また、検出装置は対向するシリンダ間における押圧力を測定する押圧力測定装置、シリンダの仕立て材の厚み量を測定する胴仕立て測定装置、シリンダ表層形状を観察する表面観察装置のうち、少なくとも一つ以上の検出装置を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輪転印刷機において、対向するシリンダ間における押圧力、仕立て材の厚み量及びシリンダ表層形状を検出する装置であり、特に凹版印刷機に適した技術である。
【背景技術】
【0002】
一般的に凹版印刷機は、枚葉紙を供給する給紙部と、凹版印圧を供給する圧胴シリンダと、圧胴シリンダと協働する版胴シリンダ上に取り設けられた凹版版面にインキを供給するインキ供給装置と、凹版版面に供給されたインキのうち非画線部に残存する余剰インキを拭き取るワイピングローラと、印刷された枚葉紙を排出する排出部から構成される。凹版印刷機のシリンダ構成は、版胴シリンダに対して圧胴シリンダ、着肉ローラ及びワイピングローラが備えられており、これらの各シリンダ及び/又はローラからの強い押圧力が負荷される。これらの押圧力は、それぞれが凹版版面へのインキ転移量に影響し、更には印刷用紙へのインキ転移量に大きな影響を及ぼす。なかでも、版胴シリンダと圧胴シリンダの接触は、直接印刷物へ与える影響が大きい。
【0003】
一般に、版胴シリンダに対する圧胴シリンダの押圧力は版胴シリンダと圧胴シリンダとの芯間距離と、それぞれの仕立て量を含むシリンダ径からオーバーラップ量で表現されている。しかし、この方法は圧胴シリンダのパッキング材質、紙厚、版胴シリンダの温度等により変化することから、必ずしも実際の押圧力ではない。
【0004】
そこで、押圧力管理方法として、版胴シリンダに対する圧胴シリンダ、版胴シリンダに対する着肉ローラ及び版胴シリンダに対するワイピングローラの押圧力のうち少なくとも一つを検出するための押圧力検出器具を版胴シリンダの裏面に設けるものがある。押圧力検出器具の一例としてひずみゲージを設け、そのひずみゲージによって版胴シリンダが1回転する間に版胴シリンダに対する圧胴シリンダ、版胴シリンダに対する着肉ローラ、及び版胴シリンダに対するワイピングローラの押圧力のうち少なくとも一つを検出するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、ブランケット、凹版、被印刷物の厚み分布やブランケット厚みの経時変化に対応して、常に一定の印圧条件の基で印刷を行うため、圧力センサによりあらかじめそれぞれの面圧分布を測定し、測定した面圧分布を基に印刷を制御する装置及び方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2005−313505号公報
【特許文献2】特開2000−168028号公報
【0007】
上述した特許文献1の発明によると、凹版印刷機における版胴シリンダ対圧胴シリンダ、版胴シリンダ対着肉ローラ、及び版胴シリンダ対ワイピングローラの押圧力を、一つの手段でしかも共通の尺度で検出することができるため、これら各シリンダ又はローラ間の押圧力を正確に検出することができるという利点を有している。
【0008】
また、上述した特許文献2の発明によると、印刷時の印圧による面圧分布を測定し、印圧条件が設定値で、かつ、均一になるよう印刷ステージ又はブラン胴をチルトさせることでブラン胴の軸方向の厚みムラに対応でき、また、印刷時に連続的にチルトさせることにより印刷方向の急激なブラン厚み変化にも連続的に対応できるので均一圧力条件の下での印刷をすることが可能になるという利点を有している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の発明は、ひずみゲージからの測定データを電波により送受信していることから、印刷中においては多くのノイズを含むことになり、適正な測定値を得ることが困難であった。このことは、近年の印刷機の高速化に伴い顕著となっている。また、少なからずシリンダ形状を加工することになり、大掛かりで、かつ、多大なコストが必要となることから有用的でなかった。
【0010】
また、特許文献2の発明は、圧力センサシートを用いて、あらかじめ面圧分布を測定し、その圧力の分布状況によって印刷ステージ高を制御するものであり、印刷中の圧力を直接的に検出するものではない。このことから、輪転印刷機における各シリンダ間における圧力検出、圧力制御のシステムとして、広く一般に普及していない。上述した種種の問題点を勘案すると、シリンダ間における圧力検出、圧力制御システムについて、開発の余地があった。
【0011】
本発明は、上記課題の解決を目的とするものであり、印刷中の対向するシリンダ間における押圧力、仕立て材の厚み量及びシリンダ表層形状の適正な検出を可能にすることを課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る課題を解決するための手段として考案したのが、シリンダに少なくとも一つ以上のシリンダギャップ部を有する輪転印刷機において、シリンダギャップ部に少なくとも一つ以上の検出装置を備えた輪転印刷機である。
【0013】
また、検出装置は、対向するシリンダ間における押圧力を測定する押圧力測定装置、対向するシリンダの仕立て材の厚み量を測定する胴仕立て測定装置、対向するシリンダ表層形状を観察する表面観察装置のうち、少なくとも一つ以上の検出装置を備えて構成される。
【0014】
また、押圧力測定装置は、先端が円弧球状である形状の圧力ゲージであり、圧力ゲージの先端とシリンダに装着された凹版版面の表面がシリンダ軸芯から同位置に設置されている。
【0015】
また、胴仕立て測定装置は、シリンダ軸芯の垂直方法及び/又はシリンダ接線方向へ少なくとも一つ以上の光学センサを設置している。
【0016】
また、表面観察装置は、対向するシリンダの軸芯方向を観察する位置へ少なくとも一つ以上の光学センサを設置している。
【0017】
また、検出装置は、シリンダギャップ部から容易に取外し又は取付けをすることが可能である。
【0018】
さらに、押圧測定装置から検出された押圧値を収納する測定値収納部、あらかじめ基準となる数値を設定しておくことができる基準値設定部、検出された測定値とあらかじめ登録された基準値を比較演算する演算部、基準値設定部に入力した値にシリンダ軸芯を制御する制御指令部から成る演算装置を備えている。
【発明の効果】
【0019】
本発明の輪転印刷機は、対向するシリンダ間における接触状態を把握でき、任意設定した数値に制御管理することができることから、製品品質のバラツキが抑制でき、品質の良い製品を連続的に製造し続けることができるという効果を奏する。
【0020】
また、シリンダの温度変化や仕立て材のへたりによるシリンダ仕立て量の変化を確実に把握できることから、用紙、版面に見合った最適なセッティングを施すことができ、過剰印刷による印刷製品へのにじみの発生や、印圧不足による図柄の欠けといった不具合の発生を抑制することができるという効果を奏する。
【0021】
また、シリンダ表面状態をリアルタイムに観察できることから、シリンダ被覆シート(例えば、圧胴用トップシート)の損耗を逐次把握することができ、シリンダ被覆シートの交換タイミングが、習熟度を伴わない作業者にも理解でき、容易に実施することができるという効果を奏する。
【0022】
さらに、印刷品質を良質な状態に保持するためのシリンダ仕立てのセッティングに係る作業負荷が大幅に減少することができることから、これに係るコストの低減が図れるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の実施形態について図面を用いて説明する。図1及び図2は本発明における輪転印刷機のシリンダの概略図を、図2はそのシリンダを拡大した概略図を、図3はシリンダ接触圧の制御仕組みの概略図を、また、図4は従来の輪転印刷機の一例をそれぞれ示す。
【0024】
図1及び図2に示す概略図に基づき適宜説明する。図1に示すように本発明の輪転印刷機は、版胴シリンダへ版面を装着したシリンダ構成である凹版シリンダ2のギャップ部3に、対向するシリンダ間における押圧力を測定するための押圧測定装置4を備えている。押圧力の測定は、圧胴シリンダ1と押圧力測定装置4が直接接触することで確認することができる。印刷中においては圧胴シリンダ1と押圧力測定装置4の間に図示しない印刷用紙が存在することになる。ここで、押圧力測定装置4は先端が円弧球状の押圧測定装置4(例えば、東洋測器(株)社製TDC−DSA型)を用いている。押圧測定装置4の凹版シリンダ2のギャップ部3への取り付けは、押圧測定装置4に付帯させた図示しない冶具にネジ孔を設け、他方、ギャップ部3へ設けたネジ孔とネジ(ボルト)を用いて固定される。また、押圧測定装置4の取り付け位置を調整するため、押圧測定装置4とギャップ部3の間に図示しない基台を設ける場合もある。
【0025】
また、図2に示すように本発明の輪転印刷機は、凹版シリンダ2のギャップ部3に、シリンダ表層形状を観察する表面観察装置5を備えている。表面観察装置5は、軸芯8に向け、垂直に設置されている。ときには、シリンダの接線方向に向け設置する場合もある。また、表面観察には、対向するシリンダ表面をリアルタイムに撮像することができる撮像用カメラ(例えば、(株)キーエンス社製CCDカメラCV−S200C型)を用いている。
【0026】
また、本発明の輪転印刷機は、凹版シリンダ2のギャップ部3に、シリンダの仕立て材の厚み量を測定する胴仕立て測定装置6を備えている。対向するシリンダである圧胴シリンダ1と胴仕立て測定装置6が最も接近した際に測定するもので、ギャップ部3に複数個備えられている。ここで、胴仕立て測定装置6としては、例えば(株)キーエンス社製CCDレーザ変位センサLK−G10型を用いている。
【0027】
上述した各種検出装置は、従来の輪転印刷機のシリンダ2には、設置されていないものである。
【0028】
また、本発明の輪転印刷機は、図3に示すように凹版シリンダ2のギャップ部3に備えた押圧測定装置4により、対向するシリンダ1との接触圧を測定し、測定値を演算装置7に取り込み、シリンダ間の接触状態を制御管理する機構である。ここで、演算装置7には、押圧測定装置4から検出された押圧値を収納する測定値収納部9、あらかじめ基準となる数値を設定しておくことができる基準値設定部10、検出された測定値とあらかじめ登録された基準値を比較演算する演算部11、版胴シリンダ2の軸芯8を基準値設定部に入力した値に制御する制御指令部12を備えている。
【実施例】
【0029】
図4に示すように一般的な輪転印刷機は、対向する圧胴シリンダ1又は凹版シリンダ2は、それぞれシート又は凹版版面の取付け取外しを行うためにギャップ部(切欠部)3を有しており、一般的に圧胴シリンダ1のギャップ部3は凹版シリンダ2のギャップ部3より小さく設定されている。凹版シリンダ2のギャップ部3に設置した押圧測定装置4は回転時において、圧胴シリンダ1の表層と直接、接触することになる。このとき、圧胴シリンダ1から受ける押圧を測定することになる。
【0030】
圧胴シリンダ1から受ける押圧値は、演算装置7へ転送され、演算装置内にある測定値収納部9に保管されることになる。演算装置7では、あらかじめ基準値を登録する基準値登録部10の登録値と演算部11にて比較演算し、その演算結果を基に制御指令部12から凹版シリンダ2の軸芯8の位置を制御することになる。
【0031】
本発明の輪転印刷機を用い、印刷機の印刷速度を9,000枚/時間に設定し、印刷を実施したところ、印刷中における押圧力が20MPaであることが、押圧力測定装置4により確認できた。また、同時に表面観察装置5により表面状態の観察ができ、胴仕立て測定装置6により、圧胴シリンダ1の仕立て材の厚み量(例えば、1.95mm)が、印刷開始直後において、印刷前と比較して13%減衰した1.70mmとなっていることを確認した。
【0032】
なお、圧胴シリンダ1のギャップ部3と凹版シリンダ2のギャップ部3との大きさが同等であった場合は、用紙に調整紙を用い、凹版シリンダ2の回転位相を僅かにずらすことで、凹版シリンダ2のギャップ部3に設けた押圧力測定装置4と圧胴シリンダ1の非ギャップとを接触させ、一連の検出を実現することができる。
【0033】
以上、実施例において図を用いて説明したが、本発明で使用される輪転印刷機は、ギャップ部を有するシリンダであれば、特別に印刷手段を指定するものではなく、別形態の手段を用いることもある。応用例として、オフセット印刷におけるシリンダとブランケットの接触を検出する場合も容易に想定することが可能である。
【0034】
また、本発明における各種検出装置は、輪転印刷機のギャップ部を被覆したギャップレス凹版印刷機に用いる場合、その被覆部材の内側に検出装置を埋設し、利用する場合もある。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の輪転印刷機のシリンダの概略図である。
【図2】本発明の輪転印刷機のシリンダを拡大した概略図である。
【図3】本発明の輪転印刷機のシリンダ接触圧の制御仕組みの概略図である。
【図4】従来の輪転印刷機の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1 圧胴シリンダ
2 凹版シリンダ
3 ギャップ部(切欠部)
4 押圧力測定装置
5 表面観察装置
6 胴仕立て測定装置
7 演算装置
8 軸芯
9 測定値収納部
10 基準値設定部
11 演算部
12 制御指令部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダに少なくとも一つ以上のシリンダギャップ部(切欠部)を有する輪転印刷機において、前記シリンダギャップ部に少なくとも一つ以上の検出装置を備えたことを特徴とする輪転印刷機。
【請求項2】
前記検出装置は、対向するシリンダ間における押圧力を測定する押圧力測定装置、対向するシリンダの仕立て材の厚み量を測定する胴仕立て測定装置、対向するシリンダ表層形状を観察する表面観察装置のうち、少なくとも一つ以上の検出装置を備えて構成されることを特徴とする請求項1記載の輪転印刷機。
【請求項3】
前記押圧力測定装置は、先端が円弧球状である形状の圧力ゲージであり、前記圧力ゲージの先端と前記シリンダに装着された凹版版面の表面がシリンダ軸芯から同位置に設置されていることを特徴とする請求項1及び2記載の輪転印刷機。
【請求項4】
前記胴仕立て測定装置は、シリンダ軸芯の垂直方法及び/又は接線方向へ少なくとも一つ以上の光学センサを設置したことを特徴とする請求項1及至3記載の輪転印刷機。
【請求項5】
前記表面観察装置は、対向するシリンダの軸芯方向を観察する位置へ少なくとも一つ以上の光学センサを設置したことを特徴とする請求項1及至4記載の輪転印刷機。
【請求項6】
前記検出装置は、シリンダギャップ部から容易に取外し、又は取付けをすることが可能であることを特徴とする請求項1及至5記載の輪転印刷機。
【請求項7】
前記押圧測定装置から検出された押圧値を収納する測定値収納部、あらかじめ基準となる数値を設定しておくことができる基準値設定部、検出された測定値とあらかじめ登録された基準値を比較演算する演算部、基準値設定部に入力した値にシリンダ軸芯を制御する制御指令部から成る演算装置を備えていることを特徴とする請求項1及至6記載の輪転印刷機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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