説明

農作業機

【課題】 泥土の付着が想定される作業機の構成部品に対して、有効なコーティング剤を施すことによって、従来あった弊害を極力低減できる農作業機を提供する。
【解決手段】 車輪軸25と車輪軸25を支持する車輪ケース24との間に装着されるシール材27であり、車輪軸25とシール材27とに、シール面での摩滅を阻止しながらシール機能の低下を来たさないようにドライコート処理面Dを施してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、泥土の付着が想定される作業機の構成部品を備えている農作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
泥土の付着が想定される作業機の構成部品として、農作業機としての田植機等の走行車輪及びその走行車輪を支持する車輪ケースの車輪軸、その車輪軸と車輪ケースとのシール等が該当する。(特許文献1参照)。
走行車輪については機能を維持する面からの表面塗装等が行われており、シール等に対しては潤滑剤としてモリブデンを含んだものを施して、シール性の耐久性の向上を図っていた。
【0003】
【特許文献1】特許第3714857号(段落番号〔0041〕、及び、図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記構成においては、車輪軸を車輪ケースにベアリングを介して支持するとともに、ベアリングよりも車輪に近接する側にオイルシールとラビリンスシール構造を配置して、シール構造を形成している。
このようなシール構造で泥土の侵入付着を抑制するためには、シール機能の高い高価なシールを必要とするとともに、シールの車輪軸又は車輪ケースに対するシール圧を高めて設ける必要がある。
しかし、高価なシールでは製造コストの高騰を招来し、シール圧を高めた状態で設けると車輪軸や車輪ケースの磨耗を早める虞があり、機器寿命を図る面で改善の余地があった。
しかも、走行車輪等の回転体を有するものが泥土を付着し易いものであると、回転体が付着して持上げた土塊等を回転して上昇させる途中の段階で圃面上に落下させることがある。そうすると、土塊が植付け面上に落下し、隣接苗等を押し倒したりすることが回避できない虞がある。
【0005】
本発明の目的は、泥土の付着が想定される作業機の構成部品に対して、有効なコーティング剤を施すことによって、従来あった弊害を極力低減できる農作業機を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔構成〕
請求項1に係る発明の特徴構成は、泥土の付着が想定される作業機の構成部品に、バインダー樹脂にPTFEを主体とした固体潤滑剤を分散させ溶媒に混合したドライコート剤を施したドライコート処理面を形成してある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0007】
〔作用〕
構成部品にドライコート処理面を形成してあるので、構成部品に泥土が付着しようとしてもドライコート処理面が有するPTFEを主体とした固体潤滑剤がその機能を発揮して、泥土の付着を抑制する。したがって、従来のように、付着した泥土が塊となりその土塊が圃面上に落下するといった事態を回避できる。
一方では、固体潤滑剤が摩擦力の低下をもたらすところから、シール圧を高めることができ、これによって、泥土の侵入を阻止し、構成部品の磨耗等を回避できる。
【0008】
〔効果〕
このように、泥土の付着による弊害を、機構的な変更を伴うことなく、ドライコート処理面を形成するだけの簡単な改造を施すことによって、機器寿命の長寿命化を達成できるとともに、植付作業等の作業性の低下を来たす事態を抑制することができた。
【0009】
請求項2に係る発明の特徴構成は、前記作業機の構成部品が、車輪軸と車輪軸を支持する車輪ケースとの間に装着されるシール材であり、前記車輪軸と前記シール材との、少なくともいずれか一方に、前記ドライコート処理面を施してある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0010】
〔作用効果〕
前記車輪軸と前記シール材との、少なくともいずれか一方に、前記ドライコート処理面を施してあるので、車輪軸とシール材との摩擦抵抗を低下させることができる。これによって、シール材の車輪軸及び車輪ケースとへのシール圧を高くすることができ、泥土の侵入を抑制できる。しかも、シール材或いは車輪軸の摩滅を未然に防止することができる。
【0011】
請求項3に係る発明の特徴構成は、前記作業機の構成部品が、スポークと接地外輪体とで構成してある走行車輪であり、前記接地外輪体の内周面と前記スポークとの、少なくともいずれか一方に、前記ドライコート処理面を形成してある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0012】
〔作用効果〕
スポークや接地外輪体が圃面内に沈み込む状態で回転するものであっても、それらにドライコート面を施すことによって、泥土が付着することが抑制される。これによって、スポークや接地外輪体が泥土を圃面上に持ち上げ、上昇させる途中で圃面上に落下させるということを抑制でき、隣接苗等への影響を低減できる。
【0013】
請求項4に係る発明の特徴構成は、前記作業機の構成部品が、走行機体の横側方に接地面より泥土を掬いその掬った泥土の塊を次ぎの作業行程の走行指標として落下供給する掬い部を備えている回転式のマーカーであり、前記マーカーに、前記ドライコート処理面を形成してある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0014】
〔作用効果〕
掬い部への土塊の付着残りが少なく、かつ、回転式のマーカー自体にドライコート処理面を形成すれば、マーカー自体に対しては泥土の付着を押えることができ、苗植付装置の対走行機体上昇作動に基づいて、回転式のマーカーを操縦座席近傍まで引き上げ格納姿勢に切り換える際に、マーカーが付着土を飛散させることを抑制できる。
【0015】
請求項5に係る発明の特徴構成は、前記作業機の構成部品が、オイルタンクの点検孔にシール材を介して密着装着してある点検ゲージであり、前記シール材が密着する点検孔の内周面と前記シール材との、少なくともいずれか一方に、前記ドライコート処理面を形成してある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0016】
〔作用効果〕
シール材と点検孔の内周面との摩擦力がドライコート処理面の形成によって低下する。このことによって、長期使用であっても、シール材と点検孔との摩擦係数の増大を来たすことはなく、固着現象によって点検ゲージを点検孔から取外すことができないといった事態を回避することができる。
このように極端な摩擦係数の増大を回避できるので、シール材の点検孔に対するシール圧を高めることができ、オイルタンク内への埃の侵入等を阻止できる。
【0017】
請求項6に係る発明の特徴構成は、記作業機の構成部品が、植付爪、または、苗押し出し具であり、前記植付爪と前記苗押し出し具との、少なくともいずれか一方に、前記ドライコート処理面を形成してある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0018】
〔作用効果〕
植付爪と前記苗押し出し具との、少なくともいずれか一方に、前記ドライコート処理面を形成してあるので、植付爪が植付用の苗を保持して植付面に至った場合に苗押し出し具が適正なタイミングで植付爪より保持苗を押し出し、その苗を所定の姿勢で植付る。
したがって、保持苗が植付爪に保持されたままや、苗押し出し具に付着したまま持ち上がったり、持ち上がり途中で落下するといったことを回避できる。
【0019】
請求項7に係る発明の特徴構成は、前記作業機の構成部品が、苗植付機構に先行して植付予定面を整地する整地ロータであり、前記整地ロータを支持する軸と前記整地ロータとの、少なくともいずれか一方に、前記ドライコート処理面を形成してある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0020】
〔作用効果〕
整地ロータにドライコート処理面を形成することによって、整地ロータ自体に対する泥土の付着を抑えることができ、植付予定面の整地を良好に行うことができる。
また、整地ロータを支持する軸にドライコート処理面を形成することによって、支持する軸に泥土の付着が抑えられ、整地ロータの回転が長期に亘って円滑に行われる。
更に、整地ロータ又は支持する軸において泥土の付着が抑制されるので、植付予定面に泥土塊が落下するといったことを抑制でき、良好な植付状態を確保できる。
【0021】
請求項8に係る発明の特徴構成は、前記作業機の構成部品が、苗のせ台、及び、予備苗のせ台であり、前記苗のせ台と前記予備苗のせ台との、少なくともいずれか一方に、前記ドライコート処理面を形成してある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0022】
〔作用効果〕
前記苗のせ台と前記予備苗のせ台との、少なくともいずれか一方に、前記ドライコート処理面を形成してあるので、予備苗のせ台より苗すくい板を利用して予備苗を苗のせ台に移しかえる為にすくい取る場合に苗すくい板を予備苗と予備苗のせ面との間に差し込みやすく、かつ、予備苗も載置面から離れ易いので、すくい取りが容易である。
そして、苗のせ台に移し変えた場合に、予備苗が苗のせ面をすべり易く、所定の載置位置に収め易い。
しかも、ドライコート処理面の存在によって、予備苗のせ台の予備苗のせ面や苗のせ台の苗のせ面に泥土の付着が少ないので、清掃等のメインテナンス作業が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
〔第1実施形態〕
乗用型田植機について説明する。図1に示すように、乗用型田植機は、前輪1、後輪2を備えた走行機体3に、エンジン8を収納したエンジンボンネット5、静油圧式無段変速装置9、ミッションケース10及びハンドルポスト11にステアリング12を配置するとともに、エンジンボンネット5の両側方に予備苗のせ台16を配置し、ハンドルポスト11の後方側に操縦座席14、操縦座席14の後に施肥装置7を配置し、走行機体3の後端に昇降リンク機構6を介して苗植付装置4を昇降自在に取り付けて構成してある。
【0024】
苗植付装置4は、前後向き姿勢の植付伝動ケース20の後端部に苗植付機構18を設けるとともに、植付伝動ケース20の上方に苗のせ台17及び苗植付機構18に先行して植付予定面を整地する整地ロータ19を配置し、走行機体3の横側方に次ぎの作業行程の走行指標を圃面に印す回転式マーカー21を配置して構成してある。
【0025】
次ぎに、前輪1における車輪軸25のシール構造について説明する。図2に示すように、べべルギヤ機構23を収納した車輪ケース24にべべルギヤ23Aを取り付けた車輪軸25をベアリング26で支持するとともに、車輪軸25を車輪ケース24の外方に延出し、車輪軸25の延出部25Aに前輪1とホイールキャップ13とを一体回転可能に取り付けてある。
【0026】
図2に示すように、車輪ケース24の車輪軸25を支持するボス部24Aにシール材27を装着してあり、車輪軸25とボス部24Aとの間にシール構造を形成してある。
ここで、前輪1と車輪軸25に対するドライコート剤を施したドライコート処理面Dについて説明する。ドライコート剤については、後記する第2実施例で挙げたものを使用する。ただし、場合によっては、第1実施例で挙げたものを使用してもよい。図1及び図2(ロ)(ハ)に示すように、車輪軸25の延出部25Aの周面とシール材27の延出部25Aに接触する部分にドライコート剤を塗布してドライコート処理面Dを形成する。但し、ドライコート剤を塗布するのは、前記延出部25Aか又は前記シール材27の前記延出部25Aに接触する部分との少なくともいずれか一方に施せばよい。
【0027】
ドライコート処理面Dの形成によって、車輪軸25の延出部25Aとシール材27との摩擦抵抗を低減できるので、シール材27の車輪軸25に対する締め代を大きく採ってシール性を向上する構成を採っても、シールリップ部分の磨耗を抑制できる。また、車輪軸25への泥土の付着も抑制できる。
車輪軸25に付着した泥土が塊となって植付面に落下することによる、植付精度の変化、隣接苗への影響を抑制できる。
ここで、使用するドライコート剤は、第1実施例及び第2実施例において記載したものを使用することができる
【0028】
〔第2実施形態〕
前輪1の構造について説明する。図1、図2及び図3に示すように、前輪1は、車輪軸25の非円形状を呈する延出部25Aに外嵌された車輪バブ1Aと、パイプ材で構成される環状のリム部材1Bとを、半径方向に沿って配置したスポーク1Cで連結するともに、リム部材1Bに接地外輪体としてのゴム製のラグ付きタイヤ1Dを被覆溶着することによって構成してある。
【0029】
又、前輪1におけるゴム製のラグ付きタイヤ1Dにおける回転中心に向かう内周面に及びスポーク1Cの表面に、ドライコート剤を塗布してドライコート処理面Dを形成する。
ドライコート処理面Dの形成によって、タイヤ1Dの内周面及びスポーク1Cの外周面での、泥土の付着を抑制できる。
車輪軸25に付着した泥土が塊となって植付面に落下することによる、植付精度の変化、隣接苗への影響を抑制できる。
【0030】
車輪バブ1Aに補強板1Eを取り付けてあり、スポーク1Bを車輪ハブ1Aに直接取り付けずに補強板1Eに取り付けてある。したがって、この補強板1Eに対してもドライコート処理面Dを形成する。
ここで、使用するドライコート剤は、第1実施例及び第2実施例において記載したものを使用することができる
【0031】
〔第3実施形態〕
回転式マーカー21の構成について説明する。図4に示すように、支軸(図示せず)に対して回転体29を支持するとともに、回転体29を、支軸28に外嵌されるボス部29Aと、ボス部29Aの大径側に設けてあるリング体29Bと、ボス部29Aとリング体29Bとを連結するスポーク部29Cとで構成してある。この回転式マーカー21は樹脂で一体形成してある。
【0032】
図4(イ)(ロ)に示すように、リング体29Bの外周面に、お椀状の掬い部29Dを周方向の6箇所に設け、回転体29の回転に連れて、接地面より泥土を掬いその掬った泥土の塊を次ぎの作業行程の走行指標として落下供給すべく構成してある。つまり、回転体29Bが接地面に対して転動する状態で、掬い部29Dの泥土を掬い取る凹入部分を上向きにした状態で接地面内に入り込ませるとともに、その凹入部分が接地面上に上昇脱出する際に下向き状態で泥土を付着させて掬い取り、上昇作動する。
【0033】
上昇作動する過程で下向きの凹入部分から塊状で接地面上に泥土を落下させる。回転体29Bの回転移動に連れて6個の掬い部29Dから順次塊状の泥土が落下して、その泥土群が直線状の指標を構成する。
【0034】
回転式マーカー29の回転体29Bのボス部29Aの大径側に設けてあるリング体29B、ボス部29A、スポーク部29Cとにドライコート処理面Dを形成する。ここで、使用するドライコート剤は、第1実施例及び第2実施例において記載したものを使用することができる。
【0035】
このようなドライコート処理面Dを設けることによって、回転体29Bが接地面内に進入して回転移動する場合にも、接地面上に脱出する際に泥土が付着することを抑制でき、リング体29B、ボス部29A、スポーク部29Cが泥土を持ち上がり上昇途中で落下放出することを抑制できる。
【0036】
図示はしていないが、マーカー29は接地側に付勢されるとともに、苗のせ台17又は昇降リンク機構6とワイヤ等で連係されており、苗植付装置4が走行機体3に対して上昇作動する場合に、付勢力に抗して強制的に回転式のマーカー29は操縦座席14の近傍まで引き上げられて格納姿勢に切り換えられる。この場合に、前記ドライコート処理面Dをマーカー29自体に形成してあるので、圃面から持ち上がる場合や上昇途中で付着土を飛散させることがない。
【0037】
〔第4実施形態〕
運転操縦部の下方に配置されるオイルタンク30のオイルゲージ31について説明する。図5に示すように、オイルタンク30の上面にボス部30Aを形成する。ボス部30Aの開口を点検孔30aに構成し、その点検孔30aを閉塞する栓体32に棒状のオイルゲージ31を貫通する状態で装着し、栓体32のシール材としての長尺本体部32Aをボス部30A内に嵌合させて、栓体32を装着するように構成してある。
【0038】
図5に示すように、栓体32の長尺本体部32Aには、円周方向に沿った鍔部32aが、軸線方向に亘って複数本形成してあり、これらの鍔部32aがボス部30Aの内周面30aに圧接することによって、シール構造を形成してある。
【0039】
上記した栓体32における長尺本体部32Aの鍔部32a、及び、オイルタンク30のボス部30Aの内周面30aとの少なくともいずれか一方に、ドライコート剤を施してドライコート処理面Dを形成する。ここで、使用するドライコート剤は、第2実施例において記載したものを使用し、場合によっては第1実施例で記載したドライコート剤を使用してもよい。
【0040】
以上のように、ドライコート処理面Dを施すことによって、鍔部32aのボス部30Aの内周面30aに対する圧接力を高めるべく締め代を大きく採ってシール性を向上させても、摩擦力の低いものを使用しているので、栓体32を引き抜く力を、ドライコート処理面Dを施す前と余り変わらないものとできる。
これによって、ドライコート処理面Dを施す前に起こっていた、長期使用後の栓体32の固着現象を未然に防止することができた。
これに加えて、シール性の向上を図っているので、オイルタンク30内への泥土の浸入を抑制でき、メインテンス性の向上を図ることができる。
【0041】
〔第5実施形態〕
苗植付機構18における植付爪37と苗押し出し具38との構成について説明する。図1に示すように、植付伝動ケース20に横向き軸芯周りで回転自在に回転ケース35を支持するとともに、回転ケース35の両端部に植付アーム36、36を軸支し、植付アーム36、36を、図示しない非円形ギヤを介して回転ケース35とともに公転させながら、回転ケース35の回転方向とは反対向きに自転するように構成してある。
【0042】
図1及び図6に示すように、植付アーム36の上面には植付爪37が取り付けられ、植付アーム36には苗押し出し具38が設けてある。苗押し出し具38は植付爪37の間に位置する押し出し部38Aと押し出し部38Aを形成したロッド部38Bとを有している。ロッド部38Bには駆動ベルクランク39の一端39aが連係してあり、駆動ベルクランク39の他端39bが駆動カム40のカム面40aに摺接すべく構成してある。
【0043】
図6に示すように、駆動カム40は回転する植付アーム36に対して相対的に回転しない状態に構成してあり、駆動ベルクランク39が駆動カム40に対して相対回転することになり、駆動ベルクランク39が苗押し出し具38の押し出し移動を許容する構成を取っている。
【0044】
つまり、苗押し出し具38は付勢バネ41によって押し出し付勢されており、駆動ベルクランク39、及び、駆動カム40によって待機位置に位置されている。この状態で、植付アーム36が植付面に至った場合に、駆動ベルクランク39の他端39bが駆動カム40の小径部に至り、駆動ベルクランク39の一端39aが前方に揺動し、苗押し出し具38の突出作動を許容する。
【0045】
以上のような構成において、図6に示すように、上記した植付爪37、及び、苗押し出し具38との少なくともいずれか一方に、ドライコート剤を施してドライコート処理面Dを形成する。ここで、使用するドライコート剤は、第2実施例において記載したものを使用し、場合によっては第1実施例で記載したドライコート剤を使用してもよい。
【0046】
このようにドライコート処理面Dを施すことによって、植付爪37が保持した苗を植付面に植え付けるべく、苗押し出し具38が押し出し作動した場合に、植付爪37又は苗押し出し具38の少なくとも一方にドライコート処理面Dを施してあるので、植付面に植付られた苗が植付爪37や苗押し出し具38から離間し易くなり、植付面に植え付けられた苗が上昇作動する植付爪37や苗押し出し具38に付着して持上げられることが抑制される。
【0047】
〔第6実施形態〕
苗植付機構18に先行して植付面を整地する整地ロータ19について説明する。図7に示すように、植付伝動ケース20から前方に向けて支持フレーム33を延出するとともに、支持フレーム33の先端に支軸を介して整地ロータ19を遊転自在に支持する。
【0048】
このような整地ロータ19によって、植付予定箇所の泥土塊や凹凸を均して植付苗の定着性を確保することができる。
以上のような構成において、図1及び図7に示すように、上記した整地ロータ19の外周面、及び、整地ロータ19を支持する支軸との少なくともいずれか一方に、ドライコート剤を施してドライコート処理面Dを形成する。ここで、使用するドライコート剤は、第2実施例において記載したものを使用し、場合によっては第1実施例で記載したドライコート剤を使用してもよい。
【0049】
このような構成によって、整地ロータ19の外周面に泥土が付着しがたく、かつ、支軸に対する泥土の付着も抑制できるので、整地ロータ19の安定した回転を得ることができる。
【0050】
〔第7実施形態〕
苗のせ台17にドライコーティング処理層Dを設ける構成について説明する。図8に示すように、苗のせ台17の苗のせ面17aに上下方向に沿った姿勢の縦壁17Bが複数箇所に亘って設けてあり、この複数箇所に亘って設けてある縦壁17Bによって区画された苗載置領域に1条分のマット状苗が載置される。
【0051】
このような構成において、図8に示すように、苗のせ台17の苗のせ面17aと縦壁17Bの側面にドライコート剤を施してドライコート処理面Dを形成する。
このことによって、マッド状苗の滑りがよくなり、苗のせ面17aに付着する泥土等の付着量を低減できる。
【0052】
〔第8実施形態〕
予備苗のせ台16にドライコーティング処理層Dを設ける構成について説明する。図1に示すように、走行機体3の搭乗ステップ横側方に、支持フレーム42を立設するとともに、その支持フレーム42に沿って複数段に亘って予備苗のせ台16が取り付け固定されている。図9に示すように、予備苗のせ台16は、支持フレーム42に向けて取り付け固定用のブラケット(図示せず)が延出してあり、このブラケットとともに、周縁部に縦壁16Bが立設され、予備苗のせ面16aを囲んでいる。
【0053】
このような構成において、図9に示すように、予備苗のせ台16の苗のせ面16aにドライコート剤を施してドライコート処理面Dを形成する。
このことによって、マッド状苗の滑りがよくなり、苗すくい板で苗のせ面16a上のマット状苗を掬い取る際に、容易に行うことができる。
しかも、苗のせ台17の苗のせ面17aへの泥土の付着が抑制される。
【実施例1】
【0054】
(1)コーティング剤は未硬化状態では次ぎのようなものである。
(イ)比重 1.11
(ロ)粘度 15.1秒(イワタNK−2,25℃)
(ハ)引火点 14℃
【0055】
(2)コーティング剤の硬化物の性状は次ぎのようなものである。
(イ)硬化条件 200℃―30分
(ロ)外観色彩 灰黒色
(ハ)主成分 PTFE(テフロン樹脂)+MoS(二硫化モリブデン)
(二)バインダー 熱硬化性樹脂(エポキシ、ポリイミド)
【0056】
(3)硬化物の特性
(イ)耐荷重性 7779N
(ロ)潤滑耐久性 110000cycles
(ハ)鉛筆硬度 2H(JIS K 5400 8.4)
(二)碁盤目試験 0/100(JIS K 5400 8.5、2)
(ホ)耐屈曲性試験 Φ2合格(JIS K 5400 8.1)
(へ)耐衝撃性試験 50cm合格(JIS K 5400 8.3、2)
(ト)塩水噴霧試験 360時間(JIS Z 2371)
(チ)使用温度範囲 −200〜300℃
(リ)試験片は燐酸処理後10μm塗膜処理を施してある。0/100を剥離なしとする。
【0057】
2. ドライコーティング処理工程は次ぎのような手順で行われる。
(1)対象部品に対して『脱脂処理』を行う。
(2)脱脂処理を行った後に『防錆処理』を施す。
ここでは、「酸洗い」と「サンドブラスト」処理を行って防錆処理を行う。
(3)防錆処理を施した後に『化成被膜処理』を行う。
化成被膜処理は対象部品の材質によって異なり、次ぎのような処理が行われる。
(イ)対象部品が鉄鋼である場合には、「燐酸亜鉛処理」又は「燐酸マンガン処理」が行われる。
(ロ)対象部品がアルミニウム合金である場合には、「酸処理」又は「酸化処理」が行われる。
(ハ)対象部品がステンレスである場合は、「蓚酸処理」が行われる。
(二)対象部品が銅合金である場合は、「酸化処理」が行われる。
(4)化成被膜処理が終わった段階で必要な場合には、上記した処理を繰り返してもよい。
(5)次ぎに、『乾燥処理』を行う。
(6)乾燥処理を行った後に『ドライコートコーティング処理』を行う。
ドライコートコーティング剤を塗布するには、次ぎのような方法が選択される。
(イ)コーティング剤を「スプレー塗装法」によって塗布する。
(ロ)コーティング剤を「浸漬塗装法」によって塗布する。
(ハ)コーティング剤を「刷毛塗り・その他の塗装法」によって塗布する。
(7)ドライコーティングを施した後に『硬化処理』を行う。
硬化処理を行うには、次ぎのような方法が選択される。
(イ)「加熱硬化」によって処理する。
(ロ)「常温硬化」によって処理する。
(8)以上の処理を行った後、検査して処理は終了する。
【実施例2】
【0058】
コーティング剤の硬化物の性状は次ぎのようなものである。
(イ)硬化条件 200℃―30分
(ロ)外観色彩 黒色
(ハ)主成分 PTFE(テフロン樹脂)
(二)バインダー 熱硬化性樹脂(エポキシ、ポリイミド)
【0059】
〔別実施形態〕
(1)上記したドライコート処理面Dを、他の農作業機である耕耘機やコンバインの構成部品に形成してもよい。特に、接地して作業を行う耕耘ロータリーや刈取前処理装置の構成部品にドライコート処理面Dを形成してもよい。
(2)ドライコート剤を構成する固体潤滑剤としては、PTFEを主体としたものであればよく、二硫化モリブデン以外に、適宜合成油、鉱油、黒鉛等を混合したものを使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】田植機の全体側面図
【図2】(イ)前輪のシール構造を示す縦断側面図、(ロ)車輪軸にドライコート処理面を形成した状態を示す側面図、(ハ)シール材にドライコート処理面を形成した状態を示す縦断側面図
【図3】(イ)前輪を示しスポーク等にドライコート処理面を形成した状態を示す側面図、(ロ)前輪のタイヤ部分を示し内側面にドライコート処理面を形成した状態を示す縦断正面図
【図4】(イ)回転式のマーカーを示す側面図、(ロ)回転式のマーカーを示す正面図
【図5】オイルタンクの点検孔及びオイルゲージを示す縦断側面図
【図6】植付アームに植付爪と苗押し出し具とを装着した状態を示し、植付爪及び苗押し出し具にドライコート処理面を形成した状態を示す縦断側面図
【図7】整地ロータを示し、その整地ロータにドライコート処理面を形成した状態を示す正面図
【図8】苗のせ台の苗のせ面を示し、その苗のせ面にドライコート処理面を形成した状態を示す横断平面図
【図9】予備苗のせ台の苗のせ面を示し、その苗のせ面にドライコート処理面を形成した状態を示す縦断側面図
【符号の説明】
【0061】
1 前輪(走行車輪)
1C スポーク
1D ラグ付きタイヤ(接地外輪体)
2 後輪(走行車輪)
16 予備苗のせ台
17 苗のせ台
18 苗植付機構
19 整地ロータ
21 回転式のマーカー
24 車輪ケース
25 車輪軸
27 シール材
29D 掬い部
30 オイルタンク
30A 長尺本体部(シール材)
30a 点検孔
37 植付爪
38 苗押し出し具
27 シール材
D ドライコート処理面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
泥土の付着が想定される作業機の構成部品に、バインダー樹脂にPTFEを主体とした固体潤滑剤を分散させ溶媒に混合したドライコート剤を施したドライコート処理面を形成してある農作業機。
【請求項2】
前記作業機の構成部品が、車輪軸と車輪軸を支持する車輪ケースとの間に装着されるシール材であり、
前記車輪軸と前記シール材との、少なくともいずれか一方に、前記ドライコート処理面を施してある請求項1記載の農作業機。
【請求項3】
前記作業機の構成部品が、スポークと接地外輪体とで構成してある走行車輪であり、
前記接地外輪体の内周面と前記スポークとの、少なくともいずれか一方に、前記ドライコート処理面を形成してある請求項1又は2記載の農作業機。
【請求項4】
前記作業機の構成部品が、走行機体の横側方に接地面より泥土を掬いその掬った泥土の塊を次ぎの作業行程の走行指標として落下供給する掬い部を備えている回転式のマーカーであり、
前記マーカーに、前記ドライコート処理面を形成してある請求項1から3のうちのいずれかひとつに記載の農作業機。
【請求項5】
前記作業機の構成部品が、オイルタンクの点検孔にシール材を介して密着装着してある点検ゲージであり、
前記シール材が密着する点検孔の内周面と前記シール材との、少なくともいずれか一方に、前記ドライコート処理面を形成してある請求項1から4のうちのいずれかひとつに記載の農作業機。
【請求項6】
前記作業機の構成部品が、植付爪、または、苗押し出し具であり、
前記植付爪と前記苗押し出し具との、少なくともいずれか一方に、前記ドライコート処理面を形成してある請求項1から5のうちのいずれかひとつに記載の農作業機。
【請求項7】
前記作業機の構成部品が、苗植付機構に先行して植付予定面を整地する整地ロータであり、
前記整地ロータを支持する軸と前記整地ロータとの、少なくともいずれか一方に、前記ドライコート処理面を形成してある請求項1から6のうちのいずれかひとつに記載の農作業機。
【請求項8】
前記作業機の構成部品が、苗のせ台、及び、予備苗のせ台であり、
前記苗のせ台と前記予備苗のせ台との、少なくともいずれか一方に、前記ドライコート処理面を形成してある請求項1から7のうちのいずれかひとつに記載の農作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−220305(P2008−220305A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65555(P2007−65555)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】