説明

農業用マルチ資材及び野菜類の初期生育方法

【目的】界面活性剤の滲み出しを押さえ、長期の無滴性を持続することができ、野菜類の初期成育期間である1ヶ月の無滴を持続させることができ、地温が上がり、野菜類の初期生育が良くなる農業用マルチ資材及びこれを用いた野菜類の初期生育方法を提供すること。
【構成】ポリオレフィン系樹脂フィルムに、界面活性剤をフィルム1m当たり0.4〜1g含有し、且つ、銀、チタン、亜鉛又はアルミニウムからなる金属粉末の少なくとも1種を0.05〜0.5wt%含有することを特徴とする農業用マルチ資材及びこれを用いた野菜類の初期生育方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透光性農業用マルチ資材及び野菜類の初期生育方法に関し、詳しくは、ポリオレフィンマルチフィルムに無滴性を付与し、透光性に優れ、特に大根のような野菜類の栽培に好適な農業用マルチ資材及びこれを用いた野菜類の初期生育方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチ栽培においては、地温上昇、土壌水分保持、土壌固結防止、養分流亡防止および雑草繁茂防止等を目的としてマルチ資材(マルチフィルム)が用いられている。
【0003】
大根などの野菜類を外気温が低い冬期にマルチ栽培する場合、播種後、生育初期1ヶ月程度の間は、マルチ資材は、太陽光線を透過させて地温上昇させることが重要である。このため、マルチ資材の性質として、透光性が要求される。
【0004】
しかし、結露によりマルチ資材の内側に水滴が付着して、白く曇ったりすることにより、太陽光線の透過率が低下し、それにより地温が低下する(上昇しない)ことが、野菜類の初期成長に悪影響を与えるという問題がある。
【0005】
従来、結露を防止するために、マルチ資材の表面に無滴剤を塗布する手法が、特許文献1、2に開示されている。
【0006】
しかし、塗布に形成される無滴剤の持続期間は、極めて短く、初期成育期間内に何度も塗布する必要があり、改善の余地があった。
【0007】
そこで、無滴剤である界面活性剤をフィルムに練り込む手法も知られている(特許文献3)が、界面活性剤の練り込み量は、文献には熱可塑性樹脂100重量部に対して界面活性剤0.01〜30重量部配合する記載が認められるが、実施例を見ると、内層には1.0重量部程度である。界面活性剤を高濃度に配合すれば無滴効果も持続するので好ましいのであるが、高濃度に配合すれば、フィルム表面から滲み出し表面の白化やべたつきを起こし、かえって無滴持続期間も短くなる重大な問題があった。従って、実用的な見地からすると、薄いマルチフィルムに1.0重量部を超える量を配合することはありえなかったのである。
【特許文献1】実開平2−138545号公報
【特許文献2】特開平7−53747号公報
【特許文献3】特開平11−335567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、特定の金属粉や金属酸化物の粉末を特定濃度加えることで、界面活性剤を高濃度に配合しても界面活性剤の滲み出しを押さえ、長期の無滴性を持続することができ、野菜類の初期成育期間である1ヶ月の無滴を持続させることができ、地温が上がり、特に大根のような野菜類の初期生育が良くなることを見出し、本発明に至った。
【0009】
本発明の課題は、界面活性剤の滲み出しを押さえ、長期の無滴性を持続することができ、野菜類の初期成育期間である1ヶ月の無滴を持続させることができ、地温が上がり、特に大根のような野菜類の初期生育が良くなる農業用マルチ資材及びこれを用いた野菜類の初期生育方法を提供することを課題とする。
【0010】
本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0012】
(請求項1)
ポリオレフィン系樹脂フィルムに、界面活性剤をフィルム1m当たり0.4〜1g含有し、且つ、銀、チタン、亜鉛又はアルミニウムからなる金属粉末の少なくとも1種を0.05〜0.5wt%含有することを特徴とする透光性農業用マルチ資材。
【0013】
(請求項2)
線状低密度ポリエチレンフィルムに、界面活性剤をフィルム1m当たり0.4〜1g含有し、且つ銀粉末を0.05〜0.5wt%含有することを特徴とする請求項1記載の透光性農業用マルチ資材。
【0014】
(請求項3)
線状低密度ポリエチレンフィルムに、界面活性剤をフィルム1m当たり0.4〜1g含有し、且つアルミニウム粉末を0.05〜0.5wt%含有することを特徴とする請求項1記載の透光性農業用マルチ資材。
【0015】
(請求項4)
ポリオレフィン系樹脂フィルムに、界面活性剤をフィルム1m当たり0.4〜1g含有し、且つ、酸化銀、酸化チタン、酸化アルミニウム又は酸化亜鉛からなる金属酸化物粉末の少なくとも1種を0.05〜0.5wt%含有することを特徴とする透光性農業用マルチ資材。
【0016】
(請求項5)
請求項1〜4の何れかに記載の透光性農業用マルチ資材を畝に被覆して、該畝に野菜の種、苗を冬季に播種、定植し、生育する野菜類の冬期栽培方法において、
播種後初期生育期間はフィルム内面に水滴が付着するのを防止して野菜類を初期生育させる野菜類の初期生育方法。
【0017】
(請求項6)
野菜類が、大根であることを特徴とする請求項5記載の野菜類の初期生育方法。
【0018】
(請求項7)
野菜類が、果菜類又は葉菜類であることを特徴とする請求項5記載の野菜類の初期生育方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、界面活性剤の滲み出しを押さえ、長期の無滴性を持続することができ、野菜類の初期成育期間である1ヶ月の無滴を持続させることができ、地温が上がり、特に大根のような野菜類の初期生育が良くなる農業用マルチ資材及びこれを用いた野菜類の初期生育方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
<マルチ資材>
本発明の農業用マルチ資材(マルチフィルム)は、透光性のポリオレフィン系樹脂フィルムに、界面活性剤をフィルム1m当たり0.4〜1g含有する。
【0022】
ポリオレフィン系樹脂フィルムとしては、低密度ポリエチレンフィルム、線状低密度ポリエチレンフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルムなどが挙げられる。低密度ポリエチレンは密度が0.910〜0.930g/ccの範囲のポリエチレンフィルムを使用することができる。また線状低密度ポリエチレンフィルムとしては、メルトインデックス(MI)が0.05〜5.0の範囲で、比重が0.900〜0.960の範囲のものを使用できる。更にエチレン−酢酸ビニル共重合体としては、酢酸ビニルモノマーの含有量が3〜15重量%程度であるものが好ましい。
【0023】
<界面活性剤>
界面活性剤としては、グリセリンモノ脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸ジエステル、グリセリン脂肪酸トリエステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)脂肪族アミン、N,N−ビス(2−ヒドロキシイソプロピル)脂肪族アミン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)脂肪族アミド、N,N−ビス(2−ヒドロキシイソプロピル)脂肪族アミドなどの非イオン型界面活性剤;脂肪族スルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルコールリン酸エステル塩、第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤などのイオン型界面活性剤が挙げられる。
【0024】
これらのなかではグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸ジエステル、グリセリン脂肪酸トリエステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種の化合物を用いることが性能的および価格的観点から好ましく、更にポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましい。
【0025】
本発明において、界面活性剤は、ポリオレフィン系樹脂フィルム1m当たり0.4〜1g含有する。本発明では、界面活性剤の添加量が増加しても水滴付着防止の持続期間を1ヶ月間は維持できる点に特徴がある。この界面活性剤の添加量は、ポリオレフィン系樹脂に対して、2〜5wt%であり、従来では滲み出しが生じる添加量である。
【0026】
<本発明金属粉末と本発明金属酸化物粉末>
また本発明の農業用マルチ資材(マルチフィルム)は、銀、チタン、亜鉛又はアルミニウムからなる金属粉末(本発明金属粉末という)又は酸化銀、酸化チタン、酸化アルミニウム又は酸化亜鉛からなる金属酸化物粉末(本発明金属酸化物粉末)の少なくとも1種を0.05〜0.5重量(wt)%含有する。
【0027】
本発明金属粉末又は本発明金属酸化物粉末の添加量が、0.05重量%未満では、滲み出し防止の効果が不十分であり、0.5重量%を越えると透光性が悪くなる。
【0028】
金属粉末ないし、金属酸化物粉末の粒径は、0.01〜5μmの範囲が好ましい。粉末の粒径の測定は、光学顕微鏡によって行った。
【0029】
<原理ないし機構>
以下に、図1及び図2に基づいて、本発明の原理ないし機構を説明する。
【0030】
図1は、フィルム1に界面活性剤Aのみを高濃度に添加し練り込むと、フィルム表面に過剰に滲みだし、フィルム表面がべたつくことを表わしている。これに対して、本発明のように、界面活性剤Aに加えて本発明の金属粉末あるいは金属酸化物粉末Bを添加すると、界面活性剤Aと金属粉末あるいは金属酸化物粉末Bは相互に引き合い、フィルム表面に適度の滲みだしが起こるようになる(図2参照)。
【0031】
従って、本発明のフィルムは、透光性がよく、べたつかず、農作物生育初期に水滴がつかず生育効果に優れる。
【0032】
即ち、フィルム表面へ付着した水滴が、太陽光を遮断したり、反射するので、マルチ栽培土壌に光が十分に到達しなくなり、地温の上昇が妨げられて地温が低下し、農作物生育初期に生育が遅れる問題がある。
【0033】
例えば、大根のような根菜類では、生育初期の1ヶ月が大根を良好に生育させる上で地温が所定温度に保たれていることが重要であるが、上記のように水滴による地温低下があると、良好な大根は生育できない。
【0034】
しかし、本発明のフィルムのように水滴が1ヶ月程度付着しないように構成されていると、大根生育初期の1ヶ月は、水滴による地温低下を防止でき、その結果、大根の収量増大を図ることができる。
【0035】
また水滴は病虫害の発生を招くので、生育初期に病害を受ければ収量増加は望めない。しかし、本発明のフィルムでは生育初期の水滴付着が防止できるので生育初期の病害を防止できる。その結果、収量増加につながる。
【0036】
<透光性>
本発明のマルチ資材の透光性は、透光率が50%以上のものであり、好ましくは70%以上のものである。透光率は、分光光度計(例えば日立U−2800型)を用い、波長400〜700nmの所謂可視光域の透過率を測定し、その平均値より算出する。
【0037】
<厚み>
本発明の透光性農業用マルチ資材(フィルム)の厚みは、10〜30μmの範囲であり、好ましくは15〜25μmの範囲である。10μm未満では、強度不足になるという問題があり、30μmを越えると高価になる問題がある。なお本発明では、このような薄いフィルムに高濃度の界面活性剤を配合している。
【0038】
<その他の添加剤>
本発明の透光性農業用マルチ資材(フィルム)は、透光性のポリオレフィン系樹脂フィルムであり、透光性を維持できれば、他の配合剤が添加されていてもよい。例えば、TiO、SiO、CaCO、タルク、マイカ、ハイドロタルサイト等、農業用プラスチックフィルムに使用される粒子ないし粉末を添加することができる。
【0039】
<製法>
本発明の透光性農業用マルチ資材(フィルム)は、インフレーション成形法、Tダイ成形法を用いて、製膜(成形)することによって製造することができる。
【0040】
<野菜類の初期生育方法>
以上説明した本発明のマルチ資材は、冬期における野菜類の初期生育方法に用いることが好適である。
【0041】
野菜類のうち、根菜類としては、大根、人参、里芋、カブ、ジャガイモ、ゴボウなどを挙げることができ、特に播種から1ヶ月程度の初期生育の良否が収穫量に影響する大根や人参などが適している。
【0042】
中でも大根は、冬期の低温状態では、生育スピードが緩慢化するという特性があるため、播種後、1ヶ月程度、フィルムに水滴が付着せず、太陽光線の入射を阻害しないことによって冬期の地温を高く保てれば、良質な大根を高収穫できる。
【0043】
また、果菜類(スイートコーン、スイカ、イチゴ、メロンなど)や葉菜類(レタス、ホウレンソウ、キャベツ、ブロッコリーなど)においても、水滴を防止して太陽光線を入射させ、冬期の地温を高く保つことで初期生育が進めば、収穫日数が短縮できる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例によって、本発明の効果を例証する。
【0045】
実施例1
線状低密度ポリエチレン(MI1.0、比重0.920)にポリグリセリン脂肪酸エステル(水に対する溶解度0.003wt%)を2.5wt%と銀粉末を0.07wt%配合してインフレ成形法で20μmのフィルムを作成した。
【0046】
実施例2
実施例1において、ポリグリセリン脂肪酸エステルの添加量を、5wt%に代えた以外は同様にフィルムを作成した。
【0047】
実施例3
実施例1において、銀粉末の添加量を0.5wt%に代えた以外は同様にフィルムを作成した。
【0048】
実施例4
実施例1において、銀粉末の代わりにアルミニウム粉末を用いた以外は同様にフィルムを作成した。
【0049】
比較例1
線状低密度ポリエチレン(MI1.0、比重0.920)を用い、インフレ成形法で20μmのフィルムを成形した。
【0050】
比較例2
線状低密度ポリエチレン(MI1.0、比重0.920)にポリグリセリン脂肪酸エステル(水に対する溶解度0.003wt%)を2.5wt%と銀粉末を0.02wt%配合してインフレ成形法で20μmのフィルムを作成した。
【0051】
比較例3
線状低密度ポリエチレン(MI1.0、比重0.920)にポリグリセリン脂肪酸エステル(水に対する溶解度0.003wt%)を1wt%と銀粉末を0.07wt%を配合してインフレ成形法で20μmのフィルムを作成した。
【0052】
比較例4
比較例2において、ポリグリセリン脂肪酸エステルの添加量を5wt%に代えた以外は同様にフィルムを作成した。
【0053】
比較例5
比較例2において、銀粉末を1wt%添加した以外は同様にフィルムを作成した。
【0054】
<評価>
1.フィルム表面べたつき状況
成形後日数経過によるフィルム表面べたつき状況を目視観察し、以下の評価基準に従って評価した。その結果を表1に示した。
(評価基準) ○:べたつきなし △:ややべたつく ×:べたつく
【0055】
【表1】

【0056】
2.水滴の付着状況を確認
千葉県市原市のみかど化工(株)敷地内農場に、巾0.9m、長さ2m、高さ10cmの畝を複数作り、実施例1−4、比較例1−5のマルチフィルムで被覆して、水滴の付着状況を確認した。
(実験日;2006年12月25日)
【0057】
以下の基準に従って評価し、その結果を表2に示す。
(評価基準)○:付着なし、△:部分付着、×:全面付着
【0058】
【表2】

【0059】
3.生育試験
2007年1月24日千葉県市原市のみかど化工(株)敷地内農場に巾0.9m、長さ20m、高さ10cmの畝を複数作り、実施例の各フィルムと比較例1、3、5のフィルムで被覆して、大根の種を4列に播種、生育を観察した。
【0060】
評価は、初期成育(播種後30日まで)、中期生育(播種後40日から60日まで)の状況を観察した。
【0061】
収穫は、播種後84日で行なった。LLが特大、Mは普通、Sは小さい、の区分で評価した。評価結果を表3に示す。
【0062】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】従来例を示す原理図
【図2】本発明の原理図
【符号の説明】
【0064】
A:界面活性剤
B:金属粉末あるいは金属酸化物粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂フィルムに、界面活性剤をフィルム1m当たり0.4〜1g含有し、且つ、銀、チタン、亜鉛又はアルミニウムからなる金属粉末の少なくとも1種を0.05〜0.5wt%含有することを特徴とする透光性農業用マルチ資材。
【請求項2】
線状低密度ポリエチレンフィルムに、界面活性剤をフィルム1m当たり0.4〜1g含有し、且つ銀粉末を0.05〜0.5wt%含有することを特徴とする請求項1記載の透光性農業用マルチ資材。
【請求項3】
線状低密度ポリエチレンフィルムに、界面活性剤をフィルム1m当たり0.4〜1g含有し、且つアルミニウム粉末を0.05〜0.5wt%含有することを特徴とする請求項1記載の透光性農業用マルチ資材。
【請求項4】
ポリオレフィン系樹脂フィルムに、界面活性剤をフィルム1m当たり0.4〜1g含有し、且つ、酸化銀、酸化チタン、酸化アルミニウム又は酸化亜鉛からなる金属酸化物粉末の少なくとも1種を0.05〜0.5wt%含有することを特徴とする透光性農業用マルチ資材。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の透光性農業用マルチ資材を畝に被覆して、該畝に野菜の種、苗を冬季に播種、定植し、生育する野菜類の冬期栽培方法において、
播種後初期生育期間はフィルム内面に水滴が付着するのを防止して野菜類を初期生育させる野菜類の初期生育方法。
【請求項6】
野菜類が、大根であることを特徴とする請求項5記載の野菜類の初期生育方法。
【請求項7】
野菜類が、果菜類又は葉菜類であることを特徴とする請求項5記載の野菜類の初期生育方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−159827(P2009−159827A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339516(P2007−339516)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000100458)みかど化工株式会社 (8)
【Fターム(参考)】