説明

農業用保温フィルム

【課題】
農業用トンネル内外の空気の温度差によって生ずる空気の流れによりフィルム面に形成した開口の弁部を自然に開閉し、トンネル内部の過熱した空気を外部に放ち、かつ、外気温が低下した場合に外部の冷気の流入を遮り、保温性を極力維持できること。
【解決手段】
合成樹脂製フィルム11からなり、フィルム面にS字型の裂孔12が形成されてなる該フィルムに一部が連続した2枚の舌状の弁部13を持つ表面と、それを覆う合成樹脂製の網又は不織布からなる通気性部材の弁支持部15を固着面14において固定した裏面を持つ弁構造16が適宜間隔で複数個配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保温を目的として農業分野で用いられるトンネル栽培用の被覆資材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の農業用保温シートに係る被覆資材は、合成樹脂のフィルムを畑の畝上にトンネル状に張るもので、外気温が低い場合でも強い日射を受けると、内部の温度が急激に上昇し、内部で栽培される植物が高温障害を受けるため、トンネル被覆資材の裾を気象状況に応じ人為的に開閉する必要があった。
【0003】
このため、農業用ハウスの保温シートに開口を設け、この開口を人為的に開閉する換気方式も知られている。例えば、特許文献1や特許文献2などに提案されている。
【0004】
また、合成樹脂製フィルムに所定間隔で丸い穴を穿けた製品が市販されているが、穴からの空気の流通が自由なため、保温性の面から効果が不充分である。
【0005】
また、通気性の確保の面から、合成樹脂製の不織布を使用した農業用保温シートも周知であるが、防霜性等の利面があるが、保温性の面からは効果は不十分である。
【0006】
【特許文献1】実開平7−18538号公報
【特許文献2】特開2004−357556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
トンネル栽培用の通常の合成樹脂製のフィルムは、保温性に優れるが、内部の温度の過熱を防ぐためトンネル被覆資材の裾を開閉する管理が必要である。このことは、特に外気温が低いのに関わらず、太陽の入射角が高くなり、日照が強くなる春期において欠かせない作業である。
【0008】
また、合成樹脂製のフィルムに丸い穴を開けたものは、常時、空気の流通があり、曇天の日や風の強い日はトンネル内部の温度と外部の温度に大きな差がなく、夜間の放射冷却を防ぐためにも不十分である。
【0009】
また、合成樹脂製の不織布による被覆は内部の過熱を防ぐことはできるが、保温性に劣る。
【0010】
本発明の目的は、上記のような点に鑑みて創案されたもので、トンネル被覆資材の裾や開口を開閉する管理をしなくても、トンネル内外の空気の温度差によって生ずる空気の流れによりフィルム面に形成した開口の弁部を自然に開閉し、トンネル内部の過熱した空気を外部に放ち、かつ、外気温が低下した場合に外部の冷気の流入を遮り、保温性を極力維持できるようにした農業用保温フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明は、フィルムを裂いて該フィルム表面に形成された舌状の弁部と、フィルム裏面に前記弁部の形成領域全体を覆って通気性部材を重ね合わせ、該通気性部材の周囲が前記フィルム裏面に固着された弁支持部と、からなる弁構造を備え、前記弁構造がフィルム面に所定間隔で複数個配置されていることを特徴とする。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1において、弁部がS字状の裂孔で形成されたフィルムに一部が連続した舌状であることを特徴とする。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1または2において、弁部が複数の舌状に形成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項4の発明は、請求項2または3において、弁部が裂孔を囲う円の中に形成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1において、弁支持部の通気性部材が合成樹脂製の網又は不織布で形成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項6の発明は、請求項1または5において、弁支持部の固着面を成す周辺部分が所定幅の合成樹脂製の補強材を固着して補強されていることを特徴とする。
【0017】
上記の構成により、舌状の弁部がフィルム裏面に固着された通気性部材からなる弁支持部の上面(フイルム表面)側に位置されているので、弁支持部を通してフィルム裏面からフィルム表面へ向う気流によって舌状の弁部を開く力がフィルム張力(抵抗力)に打ち勝って舌状の弁部が押し開かれ、トンネル内部の過熱した空気が流出する。一方フィルム表面からフィルム裏面に向う気流によって弁部を閉じる力が働き、舌状の弁部が弁支持部の通気性部材に張付いて冷気の流入を遮る。
【0018】
舌状の弁部を囲むフィルム裏面の外周に、弁支持部の固着面が固定されているため、トンネルを張る力と共に弁の開口に抵抗する力が働く。また、舌状の弁部がフィルムに一部が連続して形成されているので、弁部が開口する場合、構造上ねじれの力が働く。
【0019】
従って、フィルム裏面からの空気の流出は可能であるが、弁部が開口するには上述した力を合計した力、すなわち弁部が開くのに要する力(以下、弁の抵抗力という。)を上回る力が必要である。すなわち、トンネル内部の温度は常に外部の温度より高くなっているので、常に内部から外部に向かって空気の流出する力が働くが、前述の弁の抵抗力の方が大きくなったところで弁部が閉じるため、トンネル内部の温度は常に外部の温度よりある程度以上高い温度に保たれることとなる。
【発明の効果】
【0020】
請求項1の発明によれば、トンネル被覆資材の裾を開閉する管理をしなくても、日照の強い場合の合成樹脂製フィルムにより被覆されたトンネル内部の過熱した空気を外部に放出してトンネル内部の雰囲気を適温に保つと共に、外気温が低下した場合にトンネル外部の冷気をトンネル内部に流入するのを遮るため、保温性を極力維持できる。
【0021】
請求項6の発明によれば、弁支持部の固着面に所定幅の合成樹脂製の補強材を固着することにより、弁部を外周方向に展張させると共に、舌状の弁部が閉じた状態をさらに確実にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
農業用保温フィルムは透明又は半透明の合成樹脂製フィルムからなり、フィルム面に裂孔が形成されてなるフィルム面とそれぞれ該フィルムに一部が連続する1または複数枚の舌状の弁部を持つフィルム表面と、裂孔を囲む円よりやや大きい円盤状の合成樹脂製の網又は不織布を裂孔を覆う形で重ね、その外周を接着等の方法で固着される固着面により固定される弁の支持部を持つフィルム裏面からなる弁構造とし、フィルム面上に表裏を同じくして、適宜間隔で複数個配置することで実現した。
【実施例1】
【0023】
図1は本発明の実施例に係る弁構造のフィルム表面図、図2はフィルム裏面図、図3は2枚の舌状の弁部が開いている状態を示すフィルム表面側から見た斜視図、図4は本発明の利用場面の一例を示す外観斜視図である。
【0024】
農業用保温フィルムは透明又は半透明の合成樹脂製フィルム11からなり、フィルム面に所定の直径を持つ半円形の弦を、その一端を中心として角度を180度回転して得られる2個の前記半円形の弧により形成されるS字型の裂孔12が形成されてなるフィルム面とそれぞれ一部が連続する2枚の舌状の弁部13を持つフィルム表面と、S字型の裂孔を囲む円よりやや大きい合成樹脂製の網又は不織布をS字型の裂孔12を覆う形で重ね、その外周を接着等の方法で固着される固着面14により固定される弁の支持部15を持つフィルム裏面からなる弁構造16が、前記フィルム面上に表裏を同じくして、適当な間隔で複数個配置されている。
【0025】
弁構造の他の実施例を説明する。S字型の裂孔は、ある直径を持つ半円形の弦を、その一端を中心として角度を120度ずつ回転して得られる3個の半円形の弧により形成されている裂孔等を含む変形例や(図5参照)、角度を90度ずつ回転して得られる4個の半円形の弧により形成されている裂孔等を含む変形例(図6参照)により代替可能である。
【0026】
本発明は上述の実施例に限定されるものでなく、例えば、舌状の弁部は裂孔を囲む円の中に形成されているが、これに限らず、楕円形や多角形などでも代用できる。また、弁部を形成する裂孔の形は、S字型に代表される曲線の組み合わせに限らず、X字型やY字型に代表される直線の組み合わせ、或いは曲線と直線の組み合わせを適宜選択し、応用される。
【0027】
このことにより、トンネル内部の過熱した空気が流出する。尚、フィルム表面からの空気の流入は遮断されることによりトンネル外部からの冷気の流入は遮られる。しかし、トンネル内部の温度は常に外部の温度より高くなっているので、常に内部から外部に向かって空気の流出する力が働く。このため上述の弁の抵抗力を適度に保たなければならない。このためには、フィルム11の厚さ、弾性又はS字型の裂孔12の大きさ、形、数及び配置を調整する。あるいは固着面14に、さらに輪状の合成樹脂製の補強材(図示省略)を固着することにより、舌状の弁部13が閉じた状態を維持することをさらに確実にする。
【0028】
本発明による農業用保温フィルムのトンネル栽培における使用法は、表面をトンネルの外側、裏面をトンネルの内側として被覆する点に注意する他は、従来のトンネルの張り方と同様である。すなわち、アーチ状の支柱21を畝を跨ぐように一定間隔に土壌に差込、被覆資材でかまぼこ型に覆い、両端を絞って土壌面に固定する。さらにその上からテープ22を土壌に固定しながら交互に張り渡すことによって被覆資材を固定する。
【0029】
なお、本発明による農業用保温フィルムの利用場面は、トンネル栽培に限らず、ハウス栽培にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態に係る弁構造の表面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る弁構造の裏面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る2枚の舌状の弁部が開いた状態を示す表面側から見た斜視図である。
【図4】本発明の利用場面の例を示す外観斜視図である。
【図5】本発明の他の実施の形態に係る120度ずつ回転させた3個の弁構造の表面図である。
【図6】本発明の他の実施の形態に係る90度ずつ回転させた4個の弁構造の表面図である。
【符号の説明】
【0031】
11 合成樹脂製フィルム
12 S字型の裂孔
13 舌状の弁部
14 固着面
15 弁の支持部
16 弁構造
17 120度ずつ回転させた3個の裂孔
18 90度ずつ回転させた4個の裂孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムを裂いて該フィルム表面に形成された舌状の弁部と、フィルム裏面に前記弁部の形成領域全体を覆って通気性部材を重ね合わせ、該通気性部材の周囲が前記フィルム裏面に固着された弁支持部と、からなる弁構造を備え、
前記弁構造がフィルム面に所定間隔で複数個配置されていることを特徴とする農業用保温フィルム。
【請求項2】
請求項1において、弁部がS字状の裂孔で形成されたフィルムに一部が連続した舌状であることを特徴とする農業用保温フィルム。
【請求項3】
請求項1または2において、弁部が複数の舌状に形成されていることを特徴とする農業用保温フィルム。
【請求項4】
請求項2または3において、弁部が裂孔を囲う円の中に形成されていることを特徴とする農業用フィルム。
【請求項5】
請求項1において、弁支持部の通気性部材が合成樹脂製の網又は不織布で形成されていることを特徴とする農業用保温フィルム。
【請求項6】
請求項1または5において、弁支持部の固着面を成す周辺部分が所定幅の合成樹脂製の補強材を固着して補強されていることを特徴とする農業用保温フィルム。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム面にS字状の裂孔で形成されたフィルムに一部が連続した舌状の弁部と、フィルム裏面に前記弁部の形成領域全体を覆って通気性部材を重ね合わせ、該通気性部材の周囲が前記フィルム裏面に固着された弁支持部と、からなる弁構造を備え、
前記弁構造がフィルム面に所定間隔で複数個配置されていることを特徴とする農業用保温フィルム。
【請求項2】
請求項1記載の農業用保温フィルムにおいて、弁部が複数の舌状に形成されていることを特徴とする農業用保温フィルム。
【請求項3】
請求項1または2記載の農業用保温フィルムにおいて、弁部が裂孔を囲う円の中に形成されていることを特徴とする農業用保温フィルム。
【請求項4】
請求項1記載の農業用保温フィルムにおいて、弁支持部の通気性部材が合成樹脂製の網又は不織布で形成されていることを特徴とする農業用保温フィルム。
【請求項5】
請求項1または4記載の農業用保温フィルムにおいて、弁支持部の固着面を成す周辺部分が所定幅の合成樹脂製の補強材を固着して補強されていることを特徴とする農業用保温フィルム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−187268(P2006−187268A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−91471(P2005−91471)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【特許番号】特許第3746069号(P3746069)
【特許公報発行日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(505019275)
【Fターム(参考)】