説明

農用トラクタ

【課題】安全フレームを支持するベース部材の補強構造及び周囲構成品部材の支持構造を簡単な構成で得ようとする。
【解決手段】安全フレーム38を装着するベース部材16に左右一対のフレーム下枠17,17を備え、これらフレーム下枠17,17に連結して車体の後部に連結固定する左右一対の基板20,20を設け、前記フレーム下枠17の下部外面に沿って設けた第1側部取付板21を車体の側面に連結固定する。また、車体後部から左右に延出させ端部を後車軸ケース30に連結する後車軸29,29を備え、この後車軸29を囲う後車軸カバー55を後車軸29の後側に位置する前記第1側部取付板21と該後車軸29の前側にあって基部を車体に固定した第2側部取付板53とによって支持してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、農用トラクタに関し、特に機体の後部に配設して作業機を昇降自在に連結する作業機連結フレームの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に農用トラクタには耕耘作業機など圃場作業機を昇降自在に連結する構成とするが、作業機連結フレームを安全フレームのベース部材に兼用し、左右のフレーム下枠の上面同士を水平枠で連結して構成しこの作業機連結フレームにトップリンクやロアリンクを構成し、作業機連結用の3点リンクヒッチ機構を簡単容易に構成していた(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3684853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構成によると、ベース部材のフレーム下枠の補強構造について補強板と取付板の重合構造に止まり、剛体化に対する配慮がなく、重量の大きい作業機を採用する場合には振動等のショックが大きくなお改善の必要がある。
【0005】
この発明は、上記に鑑み、ベース部材の補強構造及び周囲構成品部材の支持構造を簡単な構成で得ることができることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、安全フレーム38を装着するベース部材16に左右一対のフレーム下枠17,17を備え、これらフレーム下枠17,17に連結して車体の後部に連結固定する左右一対の基板20,20を設け、前記フレーム下枠17の下部外面に沿って設けた第1側部取付板21を車体の側面に連結固定する構成とした農用トラクタとする。
請求項2に記載の発明は、請求項1において、車体後部から左右に延出させ端部を後車軸ケース30に連結する後車軸29,29を備え、この後車軸29を囲う後車軸カバー55を後車軸29の後側に位置する前記第1側部取付板21と該後車軸29の前側にあって基部を車体に固定した第2側部取付板53とによって支持してなる。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項2において、後車軸カバー55を少なくとも上部の平板部55Sと前後の側板部55F,55Rとで形成しこの後車軸カバー55の外側端には後車軸ケース30を保持すべく上記前後の側板部55F,55Rを該後車軸ケース30の前壁及び後壁に重合させて連結する構成とした。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項3において、後車軸ケース30の上壁にオイルの給油口30bを形成し、該オイルの給油口30cの上部に対応する箇所において、後車軸カバー55の上部の平板部55Sに給油用穴55cを形成する。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によると、ベース部材16のフレーム下枠17,17を車体の後面で基板20,20により固定し、車体の側面においてフレーム下枠17の下部外面に沿って設けた第1側部取付板21で固定する構成であるから、ベース部材16は強固に車体に対して固定できる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、後車軸29を囲うべき後車軸カバー55は、車体に対して強固に固定するためにフレーム下枠17と車体とを連結固定する第1側部取付板21と基部を車体に固定した第2側部取付板53とによって固定されるものであるから、支持構成が強固である。
【0011】
請求項3に記載の発明は、所定の強度に確保された後車軸カバー55の外側端前後に後車軸ケース30を重合して連結するものであるから、後車軸ケース30を安定良く支持できる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、後車軸ケース30の上壁に形成する給油口30cに対応して後車軸カバー55の上部の平板部55Sに給油用穴55cを開口させたから給油作業を容易化できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】農用トラクタの側面図である。
【図2】後車軸部の背断面図である。
【図3】要部の側面図である。
【図4】要部の背面図である。
【図5】要部の平面図である。
【図6】後車軸カバーを外した要部の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明の実施の態様を図面に基づき説明する。
【0015】
走行車体1は前輪2,2及び該前輪2と同径の後輪3,3を備え、前部のボンネット4内にエンジン5を搭載し、エンジン5の後部のクラッチハウジング6、前部ミッションケース7及び後部ミッションケース8を連結して剛体構成としている。エンジン5下部のフロントアクスルブラケット9に前後方向に沿う軸心周りに左右側が上下揺動するようにフロントアクスルケース10を支架する。このフロントアクスルケース10の左右端部には車体1のシート11部前方のステアリングハンドル12によって操向連動すべく前記前輪2,2を装着している。フロントアクスルケース10内には前車軸13を備え、該フロントアクスルケース10端部に接続固定した上部伝動ケース10aに対して上下軸芯回りに操舵回動自在に連結する前輪軸ケース14を設け、この前輪軸ケース14内前輪軸15に前輪2を支架している。上部伝動ケース10aおよび前輪軸ケース14内にベベルギヤ群と上記上下軸心に一致させて設ける縦伝動軸(図示せず)を備え、前記前車軸13から縦伝動軸を経て前輪軸15を駆動する構成としている。
【0016】
後部ミッションケース8内には主変速機構および副変速機構を経て変速された動力がドライブ軸25に伝えられ、ドライブ軸25からデフ機構26のリングギヤ26aに伝動された後、デフ出力軸27,27、大小のギヤの噛合いによる車軸減速伝動部28,28を介して左右の後車軸29,29が回転伝動される。この左右の後車軸29,29の伝動は、後車軸ケース30,30内の3枚の伝動ギヤ31,32,33を経て後車輪軸34,34に動力伝達される構成としている。左右後車輪軸34,34には後輪3,3を装着する。
【0017】
前記前輪2側縦伝動軸の長さの設定等及び、後輪3側の後車軸29と後車輪軸34の軸間距離の設定等により、前輪2と後輪3の径は同径の車輪を用いて走行車体1は車高の高い所謂ハイクリアランス形態に構成される。
前記後部ミッションケース8の後面には、図1で示す安全フレーム用のベース部材16を着脱自在に連結している。すなわち、該ベース部材16は、断面が矩形の筒状体で構成された左右一対のフレーム下枠17,17、このフレーム下枠17,17の上端部間を連結して剛体化する水平枠18を備え、該フレーム下枠17,17の各基端部において上記フレーム下枠17,17を左右連結する連結枠19を備える。該連結枠19には背面視で左右中間部に一対の基板20,20を固着する。各基板20,20の上下中間部と、前記フレーム下枠17,17の下面及び該フレーム下枠17,17の下部外面に沿って設ける側部取付板21,21とに渡り連結すべく補強支持板22,22を溶接によって一体化構成している。一方のフレーム下枠17、これと同じ側の基板20、連結枠19及び補強支持板22で囲われる矩形空間部に適宜補強板23を溶接一体化することにより、基板20,20の支持構成と相俟って、ベース部材16下部側を剛体化できる。基板20,20は平面視L型に形成され、または2枚のプレート部材を溶接によってL型に形成され、前部折曲部20aを後部ミッションケース8の後面に着脱自在にボルトで固定すると共に、該後部ミッションケース8の側面には前記フレーム下枠16の下部外面に沿って設けられる前記側部取付板21を着脱自在にボルトで固着する構成である。
左右フレーム下枠17,17中間部には、略同高さに左右が同一軸心を呈すべくリフトロッド用短筒体37,37を固着している。
前記ベース部材15には、安全フレーム38が装着される。安全フレーム38は断面円形のパイプ材を逆U型に折り曲げ形成されるもので、左右の基端部と前記ベース部材15との間には、ベース部材16に対して該安全フレーム38のベースプレート38aをベース部材16側のプレート16aと重合して両者をボルトで締付け固定するものとしている。
【0018】

前記後部ミッションケース8及びベース部材16を用いて3点リンクヒッチとしてのトップリンク39,ロアリンク40,40を連結する連結部41を構成している。即ち、前記後部ミッションケース8の上面後端部には、トップリンクブラケット42を、左右中央部に位置して装着している。また、前記後部ミッションケース8の下部後端に形成した筒状体44,44と、前記基板20,20の夫々に形成した連結孔20b,20bに支軸43を貫通する。このうち上記ブラケット42にはトップリンク39の基端部側を上下回動自在に装着し、支軸43の突出する両端部に、ロアリンク40,40を装着するものである。トップリンク39およびロアリンク40,40によって作業機45(図例では耕耘作業機としている)は昇降自在に連結できる。46,46は、前記リフトロッド用短筒体37,37を貫通すべく設ける支軸47に上下回動自在に設けられるリフトアームであり、このリフトアーム46,46の各先端側には各下端側を上記ロアリンク40,40に接続したリフトロッド48,48の上端を連結し、もって作業機昇降シリンダ機構49の伸縮によって作業機45を昇降連動できる構成としている。
なお、上記シリンダ機構49は、後部ミッションケース8の上部において水平姿勢に支持されたシリンダ部49sとこのシリンダ部49sに対して伸縮作動するピストン部49pを備え、図外コントロールバルブの圧油給排制御によって水平状に伸縮作動する。
上記のように構成すると、トップリンクブラケット42の装着は、安全フレーム用ベース部材16の補強構造を利用するから専用の補強構造とする場合に比較して部材の兼用化がはかれるため、構成の簡単化がはかれコストを廉価に実施できる。
【0019】
ついで前記後車軸29のカバー構成について以下詳述する。後部ミッションケース8の左右側部に前記デフ出力軸27端に構成するブレーキ51、及び該後車軸29の基端側を覆うように形成された後車軸メタル52を着脱自在に装着している。前記ベース部材16のフレーム下枠17の基部に連結する側部取付板21がこの後車軸メタル52の外面に着脱自在にボルト締付によって剛体一体化されている。したがって側部取付板21は後車軸29の後側に位置するが、該後車軸29を挟んで前側には、平面視L型でその基部を後部ミッションケース8に適宜ボルト締結される第2の側部取付板53を設ける。
【0020】
後車軸29の上面と前後面とを囲う形状とした断面コ型の後車軸カバー55を設ける。即ち、この後車軸カバー55は、少なくとも上面の平板部55S、前側板部55F及び後側板部55Rに折曲げ成形され、外側端に相当する箇所の前側板部55F及び後側板部55Rを上下に長い形状としている。後車軸カバー55の一側にフランジ体55a,55bを固着し、このフランジ体55a,55bと前記側部取付板(以下、第1の側部取付板)29と第2の側部取付板53とをもって共締めすることによって、後車軸カバー55を固着するよう構成している。この後車軸カバー55の外側端は後車軸ケース30を保持すべく上記前側板部55Fおよび後側板部55Rの上下に長く形成した部分を後車軸ケース30の前壁及び後壁に夫々重合させてボルト締結する構成である。
【0021】
このように構成すると、ベース部材16のフレーム下枠17の補強構造で安定支持される第1の側部取付板29と強固な後部ミッションケース8から延設された第2の側部取付板53とによって、後車軸カバー55を強固に取り付けることができ、後車軸ケース30の支持構成も安定する。
【0022】
後車軸カバー55の形状は上記のようにコ型であるが、実施例では、前側と後側の形状を異ならせて下縁が高低差を有する形態となっており、かつ後車軸ケース30の支持部分は前記のように下方にやや長く延長させて締結部の自由度を大としているため、左右の後車軸カバー55,55の形状が異なるが、上記下縁の高低差をなくすことにより左右の形状を同一にでき、誤組立を防止できる。
【0023】
また、第2の側部取付板53の折曲構成によってその内側空間内にブレーキ51のブレーキアーム51aが位置するが、このアーム51aを他物との不測の衝突から保護できる。
【0024】
後車軸ケース30は、左右最中合せの半割ケース部30a,30bの一対からなる。これら半割ケース部30a,30bを上下反転させて合せることで内部にギヤ31〜33の保持空間を形成でき、上部側車体1側には後車軸29の挿通を可能とする軸穴を有し、一方下部側外側には後車輪軸34の挿通を可能とする軸穴を有し、あるいはその他の構成においても対称的に形成でき、これら半割ケース部30a,30bは共通仕様に設定できる。なお、一対の半割ケース部30a,30bの一方には比較的径大のオイルの給油口30cを形成し、他方には標準径のドレン穴30dを形成するが、上記のように合せ面が傾斜面となっているため、穴加工部の面積を広く確保でき、特に径大の給油口30cを容易に加工でき、さらにはギヤ31直上位置から変位させた位置に設定できるためオイルの跳ね上げを受け難くオイル漏れ防止の効果がある。
【0025】
なお、上記オイルの給油口30cの上部に対応する箇所には、後車軸カバー55の前記平板部55Sに給油用穴55cを形成して給油作業の容易化を図っている。
【符号の説明】
【0026】
1 車体
8 後部ミッションケース(車体)
16 ベース部材
17 フレーム下枠
20 基板
21 第1側部取付板
29 後車軸
30 後車軸ケース
30c 給油口
38 安全フレーム
53 第2側部取付板
55 後車軸カバー
55S 平板部
55F 前側板部
55R 後側板部
55a フランジ体
55b フランジ体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安全フレーム(38)を装着するベース部材(16)に左右一対のフレーム下枠(17,17)を備え、これらフレーム下枠(17,17)に連結して車体の後部に連結固定する左右一対の基板(20,20)を設け、前記フレーム下枠(17)の下部外面に沿って設けた第1側部取付板(21)を車体の側面に連結固定する構成とした農用トラクタ。
【請求項2】
車体後部から左右に延出させ端部を後車軸ケース(30)に連結する後車軸(29,29)を備え、この後車軸(29)を囲う後車軸カバー(55)を後車軸(29)の後側に位置する前記第1側部取付板(21)と該後車軸(29)の前側にあって基部を車体に固定した第2側部取付板(53)とによって支持してなる請求項1に記載の農用トラクタ。
【請求項3】
後車軸カバー(55)を少なくとも上部の平板部(55S)と前後の側板部(55F,55R)とで形成しこの後車軸カバー(55)の外側端には後車軸ケース(30)を保持すべく上記前後の側板部(55F,55R)を該後車軸ケース(30)の前壁及び後壁に重合させて連結する構成とした請求項2に記載の農用トラクタ。
【請求項4】
後車軸ケース(30)の上壁にオイルの給油口(30c)を形成し、該オイルの給油口(30b)の上部に対応する箇所において、後車軸カバー(55)の上部の平板部(55S)に給油用穴(55c)を形成する請求項3に記載の農用トラクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−86775(P2013−86775A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232260(P2011−232260)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】