説明

近赤外線遮光繊維およびそれを含むカーテン、アウターウェアー

【課題】十分な採光を得られながら輻射熱を遮断するカーテンや輻射熱を遮断しつつ光沢感の強いアウターウェアーを提供すること。
【解決手段】微粒子状の六ホウ化ランタンが分散された繊維形成性樹脂からなる層を有する近赤外線遮光繊維とこの繊維から成るカーテン、アウターウェアー。
【発明の効果】 本発明によって得られた繊維を用いたカーテンやアウターウェアーは、近赤外線を遮光することで内側の温度上昇を抑えつつ、可視光線が透過することにより、カーテンでは室内が明るく、また衣料では光沢感の高いアウターウェアーを得ることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線を遮光する繊維およびこれを用いたカーテンやアウターウェアーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、遮光性を目的としたカーテンやアウターウェアーに使用する繊維は、酸化チタンやタルク、硫酸バリウムといった白色顔料やカーボンブラック、アルミニウム粉末を繊維中に分散させる方法で達成されていた。(例えば、特許文献1や特許文献2)
【0003】
これら方法においては、可視光線範囲にとどまらず紫外線領域から赤外線領域までをも遮光してしまうことにより、例えばカーテンに用いた場合では部屋の中が薄暗くなってしまったり、カーボンブラックを用いた場合は色が黒に限定されたり、光沢感の無いべったりとした色合いになると言う問題を持っていた。
【0004】
これに対し、近赤外線領域だけを遮断し、可視領域を透過するとうたっている材料としては、9,10−アントラセンディオンや9,10−アントラキノンといった色素を分散させる方法を膜材料として提案している物(特許文献3)があるが、効果は十分な物ではなく、かつ青色がかった着色を避けることが出来なかった。更には、OA機器用としてではあるが近赤外線吸収能力を有する色素を樹脂に添加して断熱特性を与える部材(特許文献4)や光学フィルターとして、銅イオンを含有させた断熱樹脂(特許文献5)が提案されているにすぎなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平11−81048号公報
【特許文献2】特開平9−137345号公報
【特許文献3】特開2003−251728号公報
【特許文献4】特開平9−330612号公報
【特許文献5】特開平6−118228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、十分な採光を得られながら輻射熱を遮断するカーテンや輻射熱を遮断しつつ光沢感の強いアウターウェアーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
微粒子状の六ホウ化ランタンが分散された繊維形成性樹脂からなる層を有する近赤外線遮光繊維をこのカーテンやアウターウェアーに用いることで、この目的を達成することが出来る。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって得られた繊維を用いたカーテンやアウターウェアーは、近赤外線を遮光することで内側の温度上昇を抑えつつ、可視光線が透過することにより、カーテンでは室内が明るく、また衣料では光沢感の高いアウターウェアーを得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明者は、上記問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、微粒子状の六ホウ化ランタンが分散された繊維形成性樹脂からなる層を有する近赤外線遮光繊維を見出し、これをカーテンやアウターウェアーに用いることで問題を解決できることを見出したものである。
【0010】
また、微粒子状の六ホウ化ランタンの含有量が0.01〜20g/kgであると非常に効率的に機能を発現することを見出した。
【0011】
遮光の対象は、太陽光線の熱エネルギーである近赤外線である。地表に到達する太陽光線は一般に約290〜2100nmの波長域であると言われている。このうち約380〜780nmの波長域は、可視光波長領域であり、明るさの維持に必要である。従って、太陽光線の断熱においては、約780〜2100nmの近赤外光を選択的に効率良く遮蔽又は吸収する材料を選ぶことが好ましい。
【0012】
六ホウ化ランタン微粒子分散膜の透過スペクトルは、可視光域の光の透過率が大きく、波長550nm付近に透過のピークを持つ。この透過ピークは人の目の感度が最も大きい波長と一致するため、可視光線の透過を保持するのに有利である。更に、波長1000nm付近に大きな吸収があるため、近赤外光を効率良く吸収または遮蔽して、太陽光線の熱エネルギーを効率良く遮断することができる。
【0013】
このように、六ホウ化ランタン微粒子をフィラーとする本発明の近赤外線遮光繊維は、太陽光線の近赤外線領域を効率良く遮光することで断熱特性があり、同時に波長550nm付近を中心に可視光領域の透過特性が良好であるため、例えば、カーテンに用いた場合では室内の採光を十分確保することができる。
【0014】
六ホウ化ランタンは、一般の化学試薬として購入できる物を用いることが出来る。
【0015】
六ホウ化ランタンの微粒子化方法としては、ジェットミル、ボールミル、サンドミル、超音波粉砕機等の方法があり、これらの方法を組み合わせて処理することも出来る。また乾式で処理しても湿式で処理しても構わない。
【0016】
六ホウ化ランタンの粒子径に関しては、繊維強度の点から2μm未満が好ましく、それ以上の粒子径では、繊維強さの劣化を及ぼす可能性がある。更に好ましくは、1μm以下、一般にナノサイズと言われる粒子サイズである。
【0017】
また、住友金属鉱山製KHF-7Aといった微粒子状の六ホウ化ランタンをそのまま用いても何ら問題は無い。
【0018】
六ホウ化ランタンと繊維成形性樹脂との複合化に関しては、別段特定された方法が用いられる訳ではなく、定法である二軸混練押出し機等を用いて複合化を実施し、複合化樹脂を得ることが出来る。
【0019】
近赤外線遮光繊維の断面形態は、繊維全体に六ホウ化ランタンが分散されている構造でも良いし、六ホウ化ランタンが分散された層が芯鞘、サンドイッチ、偏芯と言った断面形状の何れかの層にあってもまったく構わない。
【0020】
繊維形成性樹脂としては、特段限定されるものではないが、入手の容易さや繊維化の容易さ、コストを考慮するとナイロン樹脂やポリエステル樹脂およびポリプロピレンを用いることが好適である。具体的には、ナイロン樹脂であれば、6ナイロン、11ナイロン、
12ナイロン、66ナイロンと言ったものが挙げられる。また、ポリエステル樹脂であれば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンテレフタレートおよびこれらの共重合体や酸成分(テレフタル酸)の一部をイソフタル酸で置き換えたものが挙げられる。更にポリ乳酸やポリグリコール酸といった脂肪族ポリエステルを用いることも出来る。
【0021】
近赤外線遮光繊維の作製方法は、六ホウ化ランタンが全体に分散された単独繊維の場合も、六ホウ化ランタンが分散されている層と分散されていない層からなる複合繊維の場合も定法を用いることが出来る。具体的には、押出し機で融点以上に加熱溶融した樹脂をノズルを介して繊維状とし巻き取り、未延伸糸を得、更にこれを延伸して繊維化するという方法(コンベンショナル方式)をとることが出来る。また、ノズルから出てきた糸をそのまま連続的に延伸して繊維を得ると言う方法(紡糸直接延伸法)でも何ら問題はない。
【0022】
本発明で言うカーテンとは、一般的に窓に吊るすタイプの物からロールスクリーンタイプ、プリーツスクリーンと言った物を指し、その作製方法としては、繊維を織編みして得た布帛を用いる物である。
【0023】
本発明で言うアウターウェアーとは、ウィンドブレーカーやジャケット、パンツ、帽子、手袋といた物である。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこの実施例に限定されない。
各種試料の調製および試料の評価に関しては、次の方法で行った。
【0025】
(複合樹脂の作製方法)
ベース樹脂に、日本製鋼製二軸混練押出し機TEX−30αを用い、所定量の六ホウ化ランタンをベース樹脂の融点+20℃にて溶融混練し複合樹脂を得た。
【0026】
(近赤外遮光繊維の作製方法)
複合紡糸機を用いヘッド温度280℃、巻取り速度700m/分にて、未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を定法にて延伸倍率3倍で延伸し、近赤外線遮光繊維を得た。
【0027】
(布帛の作製方法)
小池機械製作所製 MODEL:CR-Bを用いて、筒編み布を作製した。
【0028】
(遮光性評価方法)
筒編みで得られた布帛を温度計が付されたブラックパネルの上に置き、その上方30cmの所より東芝製レフランプ(AL−PRF−150W)にて照射し、その時のブラックパネル温度を測定した。
【0029】
(透光性評価方法)
JIS K 7105で定めるヘーズ値を測定した。ヘーズ値が低いほど、透明度は高いことを表す。
【0030】
[実施例1]
カネボウ合繊製ナイロン樹脂MC120に住友金属鉱山製六ホウ化ランタンKHF-7Aが1.7wt%となるように上述の方法で溶融混練し、複合樹脂PALBを得た。得られた樹脂を用い50dtex/48フィラメントの丸断面単独糸LB−1を得た。
得られた単独糸LB−1を筒編みし、布帛LB−1を得た。
【0031】
カネボウ合繊製フルダルナイロン樹脂FD(酸化チタン1.7wt%)を用い50dtex/48フィラメントの丸断面単独糸PAFDを得、同様に筒編みし、布帛PAFDを得た。布帛LB−1と布帛PAFDに対し、遮光性評価と透光性評価を実施し、遮光性の高いほうに○、遮光性の低いほうに×、遮光性が同等な場合は、△で評価した。同様に、透光性の高いほうに○、遮光性の低いほうに×、透光性が同等な場合は、△で評価した。
【0032】
【表1】

【0033】
[比較例1]
カネボウ合繊製ナイロン樹脂MC120を用い50dtex/48フィラメントの丸断面単独糸PABRを得た。得られた単独糸PABRを筒編みし、布帛PABRを得た。得られた布帛PABRと実施例1で得た布帛PAFDを用い、遮光性評価と透光性評価を実施し、同様に評価を実施した。
【0034】
【表2】

【0035】
[実施例2]
カネボウ合繊製ポリエステル樹脂HBに住友金属鉱山製六ホウ化ランタンKHF-7Aが0.4wt%となるように上述の方法で溶融混練し、複合樹脂HBLBを得た。得られた樹脂を用い50dtex/48フィラメント丸断面の単独糸LB−2を得た。得られた単独糸LB−2を筒編みし、布帛LB-2を得た。
カネボウ合繊製ポリエステル樹脂SD(酸化チタン0.4wt%)を用い50dtex/48フィラメント丸断面の単独糸PESDを得、同様に筒編みし、布帛PESDを得た。実施例と同様に遮光性評価と透光性評価を実施し、同様に評価を実施した。
【0036】
【表3】

【0037】
[比較例2]
カネボウ合繊製ポリエステル樹脂HBを用い50dtex/48フィラメントの丸断面単独糸PEBRを得た。得られた単独糸PEBRを筒編みし、布帛PEBRを得た。得られた布帛PEBRと実施例2で得た布帛PESDを用い、遮光性評価と透光性評価を実施し、同様に評価を実施した。
【0038】
【表4】

【0039】
[実施例3]
実施例1で作製した複合繊維LB−1を用い、レース編みでカーテンを作製した。作製したカーテンを窓際に吊るし、窓の内側より太陽光線を浴びた所、十分な光が得られながらも強い熱線を感じることは無かった。
【0040】
[比較例3]
比較例1で作製した繊維PABRを用い、レース編みでカーテンを作製した。作製したカーテンを窓際に吊るし、窓の内側より太陽光線を浴びた所、十分な光は得られると同時に、強い熱線を感じた。
【0041】
[実施例4]
実施例2で得た複合繊維LB−1をタフタ編みとし、これよりウィンドブレーカーを作製し、着用して太陽光線を浴びるも強い熱線を感じることは無かった。
【0042】
[比較例4]
比較例2で得た繊維PEBRをタフタ編みとし、これよりウィンドブレーカーを作製し、着用して太陽光線を浴びたところ、強い熱線を感じた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明による近赤外線遮光繊維は、可視光線は通すが、近赤外線を遮光する特性を有することにより、遮熱効果を有するカーテンやアウターウェアーが得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子状の六ホウ化ランタンが分散された繊維形成性樹脂からなる層を有する繊維で、この繊維形成性樹脂がポリエステル樹脂、ナイロン樹脂、ポリプロピレン樹脂から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする近赤外線遮光繊維。
【請求項2】
微粒子状の六ホウ化ランタンの含有量が0.01〜20g/kgであることを特徴とする、請求項1に記載の近赤外線遮光繊維。
【請求項3】
請求項1もしくは2記載の近赤外線遮光繊維を30%以上使用したことを特徴とするカーテン。
【請求項4】
請求項1もしくは2記載の近赤外線遮光繊維を30%以上使用したことを特徴とするアウターウェアー。


【公開番号】特開2006−283242(P2006−283242A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−105771(P2005−105771)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(305037123)KBセーレン株式会社 (97)
【Fターム(参考)】