説明

透明電極付き基板

【課題】本発明においては、所定の量の酸化アルミニウム及び酸化ケイ素を添加した、酸化亜鉛を主成分とする透明導電性酸化物層を用いることにより、膜厚を薄くした場合においても導電性・透明性・耐久性に優れた透明電極付き基板を提供することを目的とする。
【解決手段】基板上に酸化亜鉛を主成分とする透明導電性酸化物層を有する透明電極付き基板において、該透明導電性酸化物層は、酸化ケイ素を1.2重量%以上2.1重量%以下、酸化アルミニウムを0.2重量%以上1.0重量%未満含有しており、該透明導電性酸化物層の抵抗率は、4.5×10-3Ωcm以下であり、かつ85℃・85%RHの環境下で1000時間放置した時の抵抗率の変化△Rが、温度(T)がT=300K、膜厚(d)が20nm≦d≦120nmのとき、ΔR=a×exp(−b×d/T)+1.0 [1.2≦a≦3.0、15≦b≦45、a,bは実数](式1)を満たすことを特徴とする透明電極付き基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として単結晶シリコン系または非単結晶シリコン系太陽電池の透明電極や裏面電極、ハイブリッド型太陽電池の透明中間層、化合物半導体系太陽電池の透明電極、タッチパネルやPDP、LCDやエレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ材料、化合物半導体高速デバイスに用いる低誘電率膜、表面弾性波素子、赤外線カットなどを目的とした窓ガラスコーティング、ガスセンサー、非線形光学を活用したプリズムシート、透明磁性体、光学記録素子、光スイッチ、光導波路、光スプリッタ、光音響材料、高温発熱ヒーター材料、などの材料において、高い導電性および耐久性を達成可能な透明電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池やエレクトロルミネッセンス照明デバイス、タッチパネルなどに用いられる透明電極付き基板において、重要な要素として「導電性」、「透明性」、「耐久性」がある。透明電極付き基板は、基板上に透明電極を有するものが一般的に用いられているが、このような透明電極としては、酸化インジウム錫(ITO)や酸化錫、酸化亜鉛などの透明導電性酸化物が広く使用されている。 中でもITOは、透明導電材料として非常に優れた材料であり、現在広く透明導電性酸化物層として使用されている。しかしながら、原料のインジウムが枯渇する可能性があり、資源的にもコスト的にもITOに替わる材料の探索が急務となっている。
【0003】
このようなITOに替わる材料として、コスト的に有利な酸化亜鉛(ZnO)が注目されている。しかしながらZnOは、信頼性、すなわち水や空気に対する耐久性が乏しく、特に導電率が容易に変化してしまうといった問題点がある。
【0004】
一般的に酸化亜鉛は、導電性の発現要因となる「酸素欠損」が大きいことが知られており、この酸素欠損のため、信頼性が低いことが想定される。従って、高い信頼性を有する酸化亜鉛透明電極を作製するための方法として、酸素欠損に頼らない導電性を発現させることなどが挙げられる。このようなことから、ZnOの耐久性と導電率を向上させるための検討が数多くなされている。
【0005】
特許文献1に見られるように、酸化亜鉛透明電極ではアルミニウムを導入することで導電性が向上することは良く知られており、一般的には酸化アルミニウムを2.0重量%程度ドーピングして導電性を確保している。しかしながら、これにより発生した導電性キャリアに由来する自由電子吸収または自由電子反射が起こり、その結果透明性を低下させる可能性がある。この為、なるべくアルミニウムのドーピング量は少ない方が好ましいことが予想されるが、1.0重量%程度とドーピング量が少ない場合、透明電極として十分機能する導電性が得られないといった問題点がある。
【0006】
また耐久性を向上させるために酸化ケイ素をドーピングすることが一般的に知られており、上記特許文献1においては、酸化アルミニウムと酸化ケイ素をドーピングした酸化亜鉛系透明導電膜を用いることにより、また特許文献2では、0.50〜2.75重量%の二酸化ケイ素を有する透明電極付き基板を用いることにより、導電性と耐久性を向上させる旨が各々記載されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1では、酸化アルミニウムの添加量が2.0重量%程度と多いため、上述したように自由電子吸収の影響を受けて透過率が低下してしまうといった問題点がある。ここで特許文献1においては、透明導電膜の膜厚が1μm程度と厚いものを使用しており、これにより導電性と信頼性を確保していると推測される。しかしながら膜厚が厚いために透過率が低くなるといった問題点もある。また特許文献2では、ZnOに酸化ケイ素のみを添加しているため、耐久性には優れるが、導電性向上の観点からはまだ改善の余地がある。
【0008】
一般的に、酸化亜鉛や酸化インジウム錫などの透明導電性酸化物層は、その膜厚と導電性がほぼ比例しており、膜厚が厚くなると導電性が向上する。これは、膜厚が厚くなると製膜工程によっては結晶性が向上し、キャリア濃度の上昇と移動度の向上が起こるためであることが知られている。一方で膜厚が厚くなると透明性が悪くなる。このように、導電性と透明性は互いにトレードオフの関係にあることが多いため、両方を高いレベルで達成することは困難である。さらに膜厚が薄くなると耐久性が低下しやすくなり、薄膜で耐久性を向上させることが、高性能の透明電極を得るためには必須の課題である。
【0009】
特許文献3では、基板上に酸化アルミニウムを有するZnO(AZO)および酸化ケイ素を有するZnO(SZO)の2層の透明導電膜を積層し、SZOを非晶質とすることにより、透明電極付き基板の導電性を保持したまま耐久性を向上させる旨が記載されている。しかしながら上記透明電極付き基板は、透明導電膜の膜厚が薄く、透過率も高くなっているものの、酸化ケイ素のドーピング量が10重量%程度と多く、導電性の向上(すなわち低抵抗化)の観点からはまだ改善の余地がある。
【0010】
また上記特許文献1や特許文献4においては、ZnO膜に含まれる酸化ケイ素および酸化アルミニウムの量を膜厚方向に変化させることにより、デバイスの接合を良好にする旨が記載されている。しかしながら、膜厚方向でドーピング量を変化させる場合、多数のターゲットを用いる必要があり、生産性の観点から課題ある。以上のように、これまで耐久性・導電性・透明性に優れた透明電極付き基板を作製することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−217429号公報
【特許文献2】WO2010/026899号公報
【特許文献3】特開2010−21048号公報
【特許文献4】特開平5−110125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明においては、所定の量の酸化アルミニウムおよび酸化ケイ素を添加した、酸化亜鉛を主成分とする透明導電性酸化物層を用いることにより、膜厚を薄くした場合においても導電性・透明性および耐久性、中でも特に耐久性に優れた透明電極付き基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する為に、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、透明電極として、所定の量の酸化アルミニウムと酸化ケイ素をドーピングした酸化亜鉛を主成分とする透明導電性酸化物層を用いることで、耐久性・導電性・透明性に優れた透明電極付き基板を作製可能であることを見出した。すなわち、本発明は以下に関する。
【0014】
(1)基板上に酸化亜鉛を主成分とする透明導電性酸化物層を有する透明電極付き基板において、該透明導電性酸化物層は、酸化ケイ素を1.2重量%以上2.1重量%以下、酸化アルミニウムを0.2重量%以上1.0重量%未満含有しており、該透明導電性酸化物層の抵抗率は、4.5×10-3Ωcm以下であり、かつ85℃・85%RHの環境下で1000時間放置した時の抵抗率の変化△Rが、温度(T)がT=300K、膜厚(d)が20nm≦d≦120nmのとき、
ΔR=a×exp(−b×d/T)+1.0
[1.2≦a≦3.0、15≦b≦45、a,bは実数] (式1)
を満たすことを特徴とする透明電極付き基板。
【0015】
(2)85℃・85%RHの環境下で1000時間放置した前後の抵抗率の変化が、0.8〜1.2であることを特徴とする(1)に記載の透明電極付き基板。
【0016】
(3)膜厚30nmおよび100nmでの湿熱耐久試験前後の抵抗率の変化を各々R30およびR100とした時に、R30/R100=0.9〜1.4を満たすことを特徴とする(1)または(2)のいずれかに記載の透明電極付き基板。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、太陽電池やタッチパネルやエレクトロルミネッセンス用電極基板などで特に重要な要素である「耐久性」・「透明性」および「導電性」につき、膜厚を薄くした場合においても良好な特性を示す透明電極付き基板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】透明電極付き基板の代表的な断面概略図である。
【図2】本発明における透明電極の膜厚と抵抗変化を示す関係式を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、「基板上に酸化亜鉛を主成分とする透明導電性酸化物層を有する透明電極付き基板において、該透明導電性酸化物層は、酸化ケイ素を1.2重量%以上2.1重量%以下、酸化アルミニウムを0.2重量%以上1.0重量%未満含有しており、該透明導電性酸化物層の抵抗率は、4.5×10-3Ωcm以下であり、かつ85℃・85%RHの環境下で1000時間放置した時の抵抗率の変化△Rが、温度(T)がT=300K、膜厚(d)が20nm≦d≦120nmのとき、
ΔR=a×exp(−b×d/T)+1.0
[1.2≦a≦3.0、15≦b≦45、a,bは実数] (式1)
を満たすことを特徴とする透明電極付き基板」に関するものである。
【0020】
本発明では、酸化亜鉛を主成分とする透明導電性酸化物層に、酸化ケイ素と酸化アルミニウムを所定の量添加することで、耐久性と導電性・透明性を両立させた透明電極付き基板を作製可能であることを見出した。
【0021】
以下、本発明に係る透明電極付き基板の代表的な態様を説明する。図1に本発明の透明電極付き基板の代表的な模式図を示している。すなわち基板1上に、透明電極として透明導電性酸化物層2が形成された透明電極付き基板(すなわち基板+透明電極)が示されている。
【0022】
本発明における上記基板1については、用途によって使い分けられるものであり、硬質または軟質材料など特に限定されない。例えば、硬質材料としては、単結晶シリコン基板、非単結晶シリコン基板、ガラス、サファイヤなどの酸化物や窒化ガリウムやヒ化ガリウムなどの化合物半導体基板、銅−インジウム−セレン(CIS)や銅−インジウム−ガリウム−セレン(CIGS)などを用いることができる。これらのCISやCIGS上にはバッファー層として硫化カドミウム(CdS)や硫化亜鉛(ZnS)、酸化亜鉛(ZnO)を製膜しても良い。ガラスの具体例としては、アルカリガラスやホウ珪酸ガラス、無アルカリガラスなどがあげられる。
【0023】
軟質材料を基板として用いた場合には、例えばタッチパネルに用いることができる。その他、フレキシブル有機ELデバイスなどにも適用可能である。タッチパネルに用いる場合には、透明電極が適用可能なものであれば、抵抗膜方式や静電容量方式などいずれの方式にも採用することができる。軟質材料としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などがあげられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂やポリエステル、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン、シクロオレフィンポリマーなどが、熱硬化製性樹脂としては、例えば、ポリウレタンなどがあげられる。中でも、光学等方性と水蒸気遮断性に特に優れているシクロオレフィンポリマー(COP)を主成分とする基板1が好ましい。
【0024】
COPとしては、ノルボルネンの重合体やノルボルネンとオレフィンとの共重合体、シクロペンタジエンなどの不飽和脂環式炭化水素の重合体などが挙げられる。水蒸気遮断性の観点から、構成分子の主鎖および側鎖には大きな極性を示す官能基、例えばカルボニル基やヒドロキシル基を含まないことが好ましい。その他耐熱性に優れるという観点から、前記軟質材料として、ポリエチレンナフタレート(PEN)やポリエーテルスルホン(PES)なども使用できる。これらは適宜単独若しくは組み合わせて使用できる。
【0025】
基板1として上記のような軟質材料を用いた場合の厚みとしては、使用目的により任意に選択することができるが、好ましくは0.03mm〜3.0mm程度をあげることができる。基板の厚みが0.03mm以上の場合、ハンドリングや、強度などの観点から好ましい。また基板の厚みが3.0mm以下の場合、重量が軽量で、機器の厚みに影響を及ぼさないことから、ポータブル機器などへも利用でき、さらには透明性とコストの面からも好ましい。
【0026】
本発明における基板1として前記単結晶や非単結晶シリコン基板を用いた場合、単結晶または非単結晶シリコン基板は真性であってもよいが、イオン注入法などにより不純物をドーピングしたものを好ましく用いることができる。
【0027】
結晶シリコン系太陽電池では結晶シリコンはp型またはn型にドーピングされているものが一般的であり、この上に透明電極として本発明の透明電極(すなわち透明導電性酸化物層2)を使用することで変換効率の向上が可能となる。ドーピングは、特に限定されないが、p型であればホウ素が代表的であり、n型であればリンやアンチモンが代表的である。またこれらの単結晶シリコン基板上に非晶質シリコンを製膜した、いわゆるヘテロ接合型結晶シリコン系太陽電池の透明電極としても使用することができる。
【0028】
ヘテロ接合型結晶シリコン系太陽電池は、例えば、単結晶シリコン基板上に、非晶質の真性シリコンを3〜200nm、さらに導電性ドーピングされた非晶質シリコンを1〜30nm製膜したものに、透明電極、集電極をこの順に形成したものなどを用いることができる。
【0029】
前記の単結晶シリコン基板または非単結晶シリコン基板の厚みは、用途等目的に応じて適宜選択すればよいが、概して80〜1000μmの範囲が好ましく、さらには100〜700μmの範囲が好ましい。前記単結晶シリコン基板を太陽電池の光電変換層やキャリア輸送層として用いる場合には、光電変換層に多くの光を取り込むことにより多くの電流を発生することができる。シリコン基板の厚さは、80μm以上の場合、光電変換を行うために十分な光の取り込み量を確保できるため好ましく、また1000μm以下の場合、光誘起キャリアの拡散・取り出しの観点から好ましい。
【0030】
この他、例えば、ガラス基板上に、透明電極層、1つ以上の非単結晶シリコン光電変換ユニット、さらに裏面電極をこの順に有する薄膜シリコン太陽電池においても、透明電極層や、光電変換ユニットと裏面電極間に挿入する透明電極などとして、本発明の透明導電性酸化物層2を適用することができる。
【0031】
本発明における基板1として、ガラスあるいはサファイヤを用いる場合、基板1の厚みは、使用目的により任意に選択することができるが、取り扱いと重量のバランスを加味して、0.5mm〜4.5mmが好ましい範囲として例示できる。ガラス等の基板が0.5mm以上の厚みの場合、強度などの観点から好ましい。また4.5mm以下の厚みの場合、重量が軽量で、機器の厚みに影響を及ぼさないことから、ポータブル機器などへも利用でき、さらには透明性とコストの面からも好ましい。
【0032】
本発明における透明導電性酸化物層2の最も重要な特徴は、酸化亜鉛を主成分とする透明導電性酸化物を有し、かつ当該透明導電性酸化物が所定の量の酸化ケイ素と酸化アルミニウムを含有することである。このような透明導電性酸化物層2を用いることにより、耐久性と導電性を両立して向上することが可能となる。これは、酸化ケイ素により導電性の付与に加えて耐久性の向上を可能とし、さらに13族元素である酸化アルミニウムを添加することでより導電性を向上できるためと考えられる。
【0033】
酸化ケイ素により耐久性が向上する理由は明確になっていないが、本来イオン結合性の強い酸化亜鉛に対して共有結合性の強い酸化ケイ素を導入することで、外部の環境、特に水分に対する耐久性が向上するためと推測される。酸化アルミニウムにより導電性が向上する理由は、12族元素である亜鉛に13族元素である酸化アルミニウムを適量導入することで、導電性キャリアである電子を注入することができるためと考えられる。
【0034】
13族元素としては、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムなどが挙げられるが、本発明においては、導電性キャリアの注入がガリウムやインジウムと比べて少なく、移動度を向上させることで導電性の向上が可能となる観点からアルミニウムを用いる。ここで、「酸化亜鉛を主成分とする」とは、透明電極すなわち透明導電性酸化物層2のうち、酸化亜鉛を50%より多く含むことを意味し、70%以上が好ましく、80%以上、さらには90%以上がより好ましい。
【0035】
本発明における酸化亜鉛を主成分とする透明導電性酸化物は、酸化ケイ素および酸化アルミニウムの添加量は、各々透明導電性酸化物に対して1.2重量%以上2.1重量%以下および0.2重量%以上1.0重量%未満であることを特徴としている。
【0036】
酸化ケイ素が1.2重量%以上の場合、耐久性の観点から好ましく、2.1重量%以下の場合、導電性の観点から好ましい。また酸化アルミニウムが0.2重量%以上の場合、導電性の観点から好ましく、1.0重量%未満の場合、透明性の観点から好ましい。
【0037】
ここで、上述したように酸化アルミニウムは、導電性の観点から、1.0重量%以上有する必要があると考えられてきたが、本発明においては敢えて1.0重量%未満とした場合も、導電性も確保できることを見出した。これは、本発明においては、酸化アルミニウム以外に所定量の酸化ケイ素を有するため、酸化ケイ素との「共ドーピング効果」によるものであると推測される。
【0038】
すなわち酸化ケイ素および酸化アルミニウムの添加量を上記の範囲とすることで、膜厚を薄くした場合においても耐久性、導電性、透明性に優れた透明電極を作製することが可能となる。さらに酸化ケイ素は、1.5重量%以上が好ましく、2.0重量%以下が好ましい。また酸化アルミニウムは、0.3重量%以上が好ましく、0.7重量%以下が好ましい。この範囲とすることで、より耐久性、導電性、透明性に優れた透明電極を作製することができる。
【0039】
また本発明における透明導電性酸化物層は、酸化ケイ素および酸化アルミニウムの添加量が、膜厚方向でほぼ均一であることが好ましい。すなわち濃度分布がないことが好ましい。このような透明導電性酸化物層を用いることにより、膜厚方向での均一な導電が可能となる。これは、透明導電性酸化物層を一つの電極と考えた場合には非常に重要な要素である。なぜならば、種々のデバイスにおいて電極の導電性が均一でないものは、その導電性の制御とデバイスの設計の難度が上がるからである。また生産性の観点からも膜厚方向でほぼ均一であることが好ましい。上記添加量は、膜厚方向のX線光電子分光や二次イオン質量分析などにより測定することができる。
【0040】
本発明における透明導電性酸化物層2の形成には、例えば、スパッタリング法や有機金属化学気相堆積法(MOCVD)や熱CVD法、プラズマCVD法、分子線ビームエピタキシー法(MBE)やパルスレーザー堆積法(PLD)などが挙げられる。
【0041】
この際、製膜温度としては、基板のガラス転位温度に達しない温度であれば、特に限定されない。一般的に透明導電性酸化物は高めの温度で製膜した方が、結晶性が向上するために導電性が高くなることが知られている。このため、製膜はできる限り高温で製膜することが好ましく、上記のように基板のガラス転移温度に近いほうがより好ましい。一方で、生産性の観点からは、室温で製膜することが好ましい。特に、ロールトゥロール製膜を行うことができるフィルム基板の場合には、室温製膜での生産性への効果は明確である。
【0042】
またガラスや高い軟化(溶融)温度を有する軟質な材料からなる基板1上に透明導電性酸化物層2を形成した透明電極付き基板は、導電性と光線透過率を上げるためにアニール処理をすることができる。
【0043】
アニール雰囲気は真空または不活性ガス雰囲気下が好ましい。上記雰囲気下でアニール処理することにより、酸素雰囲気など活性ガス下でアニール処理した場合に生じうる、透明導電性酸化物の熱酸化などを防ぐことができ、導電率の低下などを抑制できる。例えば、透明導電性酸化物として酸化亜鉛を用いる場合のアニール温度は、酸化亜鉛の結晶性が向上する温度以上基板の溶融温度以下であることが好ましい。具体的には200〜450℃程度、より好ましくは220〜300℃でアニールすることで、良好な透明電極付き基板を作製することができる。
【0044】
透明導電性酸化物層2の膜厚は、10〜500nmの範囲が好ましく、さらには15〜200nmの範囲であることがより好ましく、特には30〜100nmの範囲であることが好ましい。この範囲の膜厚の透明導電性酸化物層を用いることで、高い透明性と導電性を併せ持つ透明電極付き基板を作製することができる。
【0045】
本発明において、「耐久性」とは、以下に示す湿熱耐久試験前後の抵抗率の変化のことをいう。すなわち「耐久性に優れる」とは、湿熱耐久試験前後の抵抗率の変化が少ないことを意味する。
【0046】
本発明における透明電極(透明導電性酸化物層)の抵抗率は、湿熱耐久性試験前後ともに4.5×10-3Ωcm以下であることを特徴する。上記抵抗率は、3.2×10-3Ωcm以下であることがより好ましい。また5×10−5Ωcm以上であることが好ましい。抵抗率を上記範囲にすることで、種々のデバイスを作製した時に、透明導電性酸化物層による抵抗のロスが少ない、すなわち導電性の高い透明電極を作製可能となると考えられる。
【0047】
また本発明における透明電極(透明導電性酸化物層)は、85℃・85%RHの条件下で1000時間放置したとき(湿熱耐久試験後)の抵抗率の変化が、0.8〜1.2であることが好ましく、0.9〜1.1であることがより好ましい。抵抗率の変化を上記範囲にすることで、安定した品質の透明電極の実現が期待できる。ここで抵抗率の変化とは、(湿熱耐久試験後の抵抗率)÷(湿熱耐久試験前の抵抗率)を意味する。
【0048】
また本発明における透明電極(透明導電性酸化物層)は、85℃・85%RHの環境下で1000時間放置した時の抵抗率の変化△Rが、温度(T)がT=300K、膜厚(d)が20nm≦d≦120nmのとき、以下の(式1)を満たすことを特徴とする。
ΔR=a×exp(−b×d/T)+1.0
[1.2≦a≦3.0、15≦b≦45、a,bは実数] (式1)
【0049】
ここでΔRは、膜厚d=100nmで湿熱耐久性を規格化したものであり、温度(T)は抵抗測定時の温度である。またaは抵抗変化の大きさに関する係数、bは膜厚への依存度および温度に関する係数である。ここで温度(T)は抵抗測定時の温度であり、(式1)はT=300Kを代入して以下のように表すことができる。
ΔR=a×exp(−b×d/300)+1.0
【0050】
またΔRは、膜厚dが20nm≦d≦120nmのそれぞれの膜厚における抵抗率の変化を、膜厚d=100nmで規格化したものであり、またaは抵抗変化の大きさに関する係数、bは膜厚への依存度および温度に関する係数である。ここで「膜厚d=100nmで規格化したもの」とは、膜厚d=Lnm(20nm≦L≦120nm)のときの湿熱耐久試験前後の抵抗率の変化(Rとする)を求め、d=100nmでの抵抗率の変化(R100)に対する相対値を求めたものを意味する。
【0051】
(式1)の関係を満たすことにより、湿熱耐久性と透明性に優れた透明電極付き基板を作製することができる。ここで、透過率と膜厚は、ランベルト・ベールの法則「I=I×e-αd(I:入射光強度、α:吸収係数、d:膜厚)」に従うため、膜厚を適正な範囲とすることで、透明性を制御することができる。
【0052】
上述したように本発明においては、酸化ケイ素および酸化アルミニウムを、各々透明導電性酸化物に対して1.2重量%以上2.1重量%以下および0.2重量%以上1.0重量%未満添加することにより、a,bが上記範囲、すなわち(式1)を満たすことができる。本発明においては、a、bの値を上記範囲とすることで、広い膜厚の範囲において高い湿熱耐久性を示すことが可能となる。
【0053】
本発明における透明電極(透明導電性酸化物層)の膜厚(d)と、膜厚100nmで規格化した後の抵抗率の変化(ΔR)の関係を図2に示す。すなわち図2は、湿熱耐久性の膜厚依存性について表している。すなわち図2の比較例2あるいは比較例5に示すように、透明導電性酸化物層は、20nm程度と極薄膜では、一般的に抵抗率の変化が極端に悪くなる傾向がある。それは透明導電性酸化物層の結晶構造に依存するもので、上記膜厚では結晶が十分に成長しない為に湿熱耐久性が悪くなると考えられている。これに対し、本発明における透明導電性酸化物層は、図2の実施例1に示すように、膜厚が20nm程度と薄い場合であっても、抵抗率の変化が小さくなる。
【0054】
これに対し、a、bの値を上記範囲外、例えば、a<1.2、且つ50<bとした場合には、ΔRの膜厚依存性は小さくなるが、一般的に導電性が悪くなる傾向がある。
これは、bが温度に関する係数であることから、結晶粒子間のポテンシャルバリアに関係していると考えられ、bが大きくなりすぎると、ポテンシャルバリアが高くなる、すなわち結晶粒子間での電子の運動が妨げられるため、導電性が低下すると予想される。
【0055】
本発明における透明電極付き基板は、膜厚30nmおよび100nmでの湿熱耐久試験前後の抵抗率の変化を各々R30およびR100とした時に、R30/R100=0.9〜1.4を満たすことが好ましい。特に、例えばタッチパネルのような、薄い膜厚の透明導電性酸化物層として使用する場合には、この値が0.9〜1.2であることが好ましい。ここで、一般的に膜厚が薄いほど抵抗率の変化は大きくなる、すなわち透明導電性酸化物層の湿熱耐久性は劣るため、本発明のような湿熱耐久性に優れる透明電極付き基板が有効となる。
【0056】
透明導電性酸化物層2に含まれるドーピング量の検出方法は、通常元素分析に用いられる手法であれば、どのような方法を用いてもかまわないが、例えば、原子吸光分析や蛍光X線分析などの元素分析手段や、X線光電子分光やオージェ電子分光、電子線マイクロアナライザなどの分光学的手法や、二次イオン質量分析などの手法を用いることができる。中でも、エネルギー分散型蛍光X線分析(EDX)は走査電子顕微鏡(SEM)や透過電子顕微鏡(TEM)による形状観察と同時に精度良く元素分析を行うことができ、かつ比較的簡便な手法であるため好ましい。
【0057】
本発明における透明電極付き基板の表面抵抗は、使用用途によってさまざまであるが、10000Ω/□以下の範囲で使用され、例えばタッチパネルに用いる場合、50〜500Ω/□の範囲で、薄膜シリコン太陽電池に用いる場合、一般的に5〜2500Ω/□の範囲で使用されうる。
【実施例】
【0058】
以下に、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本発明において、表面抵抗測定は抵抗率計ロレスタGP MCT−610(三菱化学社製)を用いた。各層の膜厚は分光エリプソメーターVASE(J.Aウーラム社製)を使用した。フィッティングはTauc−Lorentzモデルにより行った。透過率はヘイズメーターNDH−5000(日本電色社製)を使用した。元素分析は、フィールドエミッション型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)S−4800(日立ハイテクノロジー社製)にEDX測定ユニットを取り付けて測定した。濃度の均一性は、二次イオン質量分析装置SIMS4100(CAMECA社製)により、酸素プラズマをイオンとして測定して確認した。
【0059】
(実施例1)
基板として無アルカリガラス(厚み0.7mm、商品名OA−10、日本電気硝子社製)を用い、この基板上に透明導電性酸化物層として亜鉛−ケイ素−アルミニウム複合酸化物(ASZO)を80nm製膜した。製膜条件は、基板温度を室温とし、ターゲットとして亜鉛−ケイ素−アルミニウム複合酸化物(ASZO、組成ZnO:SiO2:Al23=97.5:2.0:0.5)を、キャリアガスとしてアルゴンを100sccm使用して、0.2Paの圧力で0.8W/cmのパワー密度をかけて製膜した。
【0060】
このようにして作製した透明電極付き基板を形成する透明電極(すなわち透明導電性酸化物層)のシート抵抗を測定したところ、400Ω/□であった(抵抗率:3.2×10-3Ωcm)。また、製膜時間を変える以外は上記の製膜条件と同じ条件で、透明電極の膜厚dを20〜120nmの範囲で10nmずつ変化させた透明電極付き基板を作製した。
【0061】
以下の実施例2〜16、比較例1〜3においても同様に、各々の実施例または比較例につき、透明電極の膜厚を20〜120nmの範囲で10nmずつ変化させた透明電極付き基板を作製した。
【0062】
(実施例2〜16、比較例1〜3)
以下表1に示すように、酸化亜鉛・酸化ケイ素・酸化アルミニウムの組成比を変えて透明電極付き基板を作製した。湿熱耐久性試験は、各実施例および比較例で作製した透明電極付基板を85℃・85%RHの環境で1000時間放置し、その前後のシート抵抗を比較することで実施した。この際、(抵抗率の変化)=(湿熱耐久試験後の抵抗率)÷(湿熱耐久試験前の抵抗率)として抵抗率の変化を求めた。
【0063】
実施例1〜16および比較例1〜3のサンプルについて、膜厚と湿熱耐久性について評価し、それぞれの結果を式1でフィッティングした。この際、上述したように、シート抵抗は、温度T=300Kにて測定を行い、また各膜厚(20〜120nm)における抵抗率の変化(ΔR)は膜厚d=100nmでの値を1.0に規格化して使用した。すなわち例えば膜厚d=20nmの場合の抵抗率の変化(R20)を求め、膜厚d=100nmでの値との相対値を使用した。以上より求めたaおよびbの値を表1に示す。
また表1における光線透過率(%)は、膜厚80nmでの値を測定した。
【0064】
また膜厚30nmおよび100nmでの湿熱耐久試験前後の抵抗率の変化を各々R30およびR100とした時の比R30/R100を求めた。また表2に、膜厚と抵抗率の変化(ΔR)との関係、すなわち膜厚と湿熱耐久性の関係を示す。
【0065】
比較例1または比較例4と、実施例を比較すると、酸化アルミニウムを含まない比較例1または0.1重量%有する比較例4に対し、0.2〜1.0重量%未満有する実施例では抵抗率が大幅に低下した。一方、比較例3、5では、酸化アルミニウムがそれぞれ1.0重量%、0.5重量%と多いにも関らず、抵抗率が低下しなかった。これは、比較例3では、酸化ケイ素の量が4.0重量%と多く、偏析した酸化ケイ素が導電性キャリアの輸送を妨げた為と考えられる。また比較例5では、酸化ケイ素の量が1.0重量%と少なく全体のドーピング量が少ないためと考えられる。
【0066】
また比較例2または比較例5と、実施例を比較すると、酸化ケイ素を含まない比較例2または1.0重量%有する比較例5に対し、1.2〜2.1重量%含有する実施例では抵抗率の変化が小さくなった。
【0067】
具体的には、上述したように、比較例2または比較例5と、実施例1について図2に記載されている。これらは膜厚が100nm程度と厚い場合は抵抗率の変化はほぼ同程度(ΔR=1.00)であるが、膜厚が薄くなるにつれて、比較例2および比較例5ではΔRが大きく、膜厚20nmの場合、各々ΔR=2.80および2.00となった。一方、実施例1では膜厚が20nmと薄い場合においてもΔRが小さく、ΔR=1.50であった。従って、本発明の透明電極を用いることにより、耐久性に優れた透明電極付き基板が作製できたと考えられる。
【0068】
ここで比較例2では、酸化ケイ素を含まないにも関らず抵抗率が低下したが、これは酸化アルミニウムが3.0重量%と多いためと考えられる。また比較例3では、光線透過率が81.9%と最も低くなった。これは、酸化ケイ素=4.0重量%および酸化アルミニウム=1.0重量%と、不純物量が多いためと考えられる。
【0069】
また酸化ケイ素が多い場合、すなわち比較例1、3、4ではaの値が1.2よりも小さくなり、一方、少ない場合、すなわち比較例2ではaの値が3.0よりも大きくなる傾向があった。
【0070】
実施例のうち、抵抗率および抵抗率の変化のいずれも小さい実施例5〜12がより好ましいと考えられる。これは、酸化アルミニウムを0.8重量%と、比較的多く添加したために導電性が向上し(すなわち抵抗率が低下し)、また酸化ケイ素を添加したため耐久性が向上した(すなわち抵抗率の変化が少なかった)ことに起因すると考えられる。
【0071】
また抵抗率の観点からは、室温よりも200℃に加熱したほうが良いことがわかる。
これは、上述したように、高温加熱により結晶性が向上し、導電性が高くなったためと考えられる。一方で、生産性を考えた場合には、室温で製膜をしても相応の品質の透明電極付き基板が作製可能であることがわかる。以上より、本発明の透明電極を用いることにより、膜厚が薄い場合においても耐久性、導電性、透明性に優れた透明電極付き基板を作製できたと考えられる。
【0072】
【表1】

【符号の説明】
【0073】
1 基板
2 透明導電性酸化物層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に酸化亜鉛を主成分とする透明導電性酸化物層を有する透明電極付き基板において、
該透明導電性酸化物層は、酸化ケイ素を1.2重量%以上2.1重量%以下、酸化アルミニウムを0.2重量%以上1.0重量%未満含有しており、
該透明導電性酸化物層の抵抗率は、4.5×10-3Ωcm以下であり、
かつ85℃・85%RHの環境下で1000時間放置した時の抵抗率の変化△Rが、
温度(T)がT=300K、膜厚(d)が20nm≦d≦120nmのとき、
ΔR=a×exp(−b×d/T)+1.0
[1.2≦a≦3.0、15≦b≦45、a,bは実数] (式1)
を満たすことを特徴とする透明電極付き基板。
【請求項2】
85℃・85%RHの環境下で1000時間放置した前後の抵抗率の変化が、0.8〜1.2であることを特徴とする請求項1に記載の透明電極付き基板。
【請求項3】
膜厚30nmおよび100nmでの湿熱耐久試験前後の抵抗率の変化を各々R30およびR100とした時に、R30/R100=0.9〜1.4を満たすことを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の透明電極付き基板。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−69420(P2013−69420A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205137(P2011−205137)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】