説明

透過吸収促進剤

【目的】 低分子物質の膜透過吸収促進剤を提供する。
【構成】 ポリ−γ−グルタミン酸を有効成分とする低分子物質透過吸収促進剤、及び、ポリ−γ−グルタミン酸存在下において透過率が上昇する機能性食品成分又は薬剤とポリ−γ−グルタミン酸とを含有することを特徴とする組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低分子物質の透過吸収を促進するポリ−γ−グルタミン酸(Poly-γ-glutamic acid)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医薬の分野において種々の低分子薬剤が利用されている。しかしその腸管透過吸収が悪く、その本来の薬効が十分に発揮されないものも多く、医薬品開発の選択肢を狭める結果となっている。また飲食品中には人体にとって有用な機能成分が含まれるものもあるが(機能性食品とも呼ばれる)、これらの成分中にも、腸管透過吸収が悪く、その本来の機能が十分発揮されないものも多い。医薬品の吸収促進剤として知られている物質は存在するものの、実際の適用については、併用される他剤の吸収性をも変動させ得る為、現実的には、添加されている医薬品使用例は極めて少ない。従って、こういった薬剤や機能性食品成分等の腸管透過吸収を安全に促進する物質が求められている。
【0003】
一方、薬剤や機能性食品成分等の透過吸収促進物質の探索系であるCaco-2単層培養細胞を用いたインビトロ系で、腸管透過吸収促進物質としてカプリン酸ナトリウム(Sodium caprate)等が見出されているが、細胞間隙の開口能が比較的強いため、薬剤等の過剰吸収による副作用や、細胞障害の懸念も指摘されている(非特許文献1〜6)。従って、作用が比較的穏やかで、安全な透過吸収促進物質が求められている。
【0004】
また、カルシウム等のミネラル類の吸収促進剤として、ポリ−γ−グルタミン酸が知られているが、その吸収促進機構はミネラル類の可溶化であり、膜透過への影響は知られていない(特許文献1,2)。なお、ポリ−γ−グルタミン酸は、D−グルタミン酸とL−グルタミン酸が混在するアミノ酸のポリマーであって、納豆のネバネバ成分として良く知られたものであり、安全性も高い。また、特許文献3には、ヒト結腸癌由来のCaco-2細胞を用いる吸収促進剤の一般的なスクリーニング方法が記載されているが、ポリ−γ−グルタミン酸については検討されていない。
【特許文献1】特開平3−30648
【特許文献2】特開平5−316999
【特許文献3】特開2002-257828
【非特許文献1】Anderberg E. K. et. al., Pharm. Res., 10, 857-864(1993)
【非特許文献2】Tomita M. et. al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 272, 739-743(1995)
【非特許文献3】Lindmark T. et. al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 275, 958-964(1995)
【非特許文献4】Lindmark T. et. al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 284, 362-369(1998)
【非特許文献5】Sakai M. et. al., J. Pharm. Pharmacol., 50(10), 1101-1108(1998)
【非特許文献6】Utoguchi N. et. al., Pharm. Res., 15(6), 870-876(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは安全性が高く、低分子機能成分、即ち低分子薬剤や飲食品中に含まれる有用な低分子機能性食品成分等を特異的に透過吸収促進する物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等が上記課題を解決するために鋭意研究した結果、以下の通り、ポリ−γ−グルタミン酸が低分子機能成分等の透過吸収促進効果を有することを見出した。
【0007】
腸管透過吸収測定法としては、インビボでのヒト腸管透過吸収を反映するといわれているヒト結腸ガン由来上皮細胞株Caco-2の単層培養細胞(以下単に「Caco-2細胞」という。)を用いるインビトロ透過吸収系が広く用いられている(Artursson P. et. al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 175(3), 880-885(1991);Stewart B. H. et. al., Pharm. Res., 12, 693-699(1995))。一方、薬剤等についてCaco-2細胞を用いたインビトロ系での透過吸収は、イヌ腎尿細管由来上皮細胞株MDCK(Madin Darby Canine Kidney cell line)単層培養細胞(以下単に「MDCK細胞」という。)を用いたインビトロ系での透過吸収と相関し、さらに両系での透過吸収とインビボでのヒト腸管透過吸収にも良好な相関性があることが報告されている(Irvine J. D. et. al., J. Pharm. Sci., 88(1), 28-33(1999);Braun A. et. al., Eur. J. Pharm. Sci., 11, Suppl. 2, S51-S60(2000))。従ってMDCK細胞を用いたインビトロ系での透過吸収性は、インビボにおけるヒト腸管での透過吸収性を良好に反映すると考えられる。
【0008】
そこで、本発明者等はMDCK細胞を用いたインビトロ系でカプリン酸ナトリウムの透過吸収への作用を検討した結果、カプリン酸ナトリウムは細胞間隙からの透過経路(Paracellular Pathway)により透過される低分子モデル物質(ソディウムフルオレセイン、分子量376:Flu、ルシファーイエローCH、分子量457:LY)および高分子モデル物質(FITCラベル化デキストラン、分子量1万:FD-10)両者を非特異的に透過促進するものであることが明らかとなった。本発明者等は更に検討を進め、安全性の高い種々の食品由来物質について、上記MDCK細胞を用いたインビトロ系で前記Flu及びFD-10に対する吸収促進作用を検討した結果、高分子モデル物質FD-10にはほとんど透過吸収促進作用を示さず、低分子モデル物質Fluに対し顕著な透過吸収促進作用を持つポリ−γ−グルタミン酸を見出した。
【0009】
すなわち、本発明は下記の内容に関する。
(1) ポリ−γ−グルタミン酸を有効成分として含有することを特徴とする膜透過吸収促進剤。
(2) (1)記載の吸収促進剤を、所望の薬剤に添加又は配合してなることを特徴とする、経口摂取時の吸収性が向上された医薬組成物。
(3) 所望の薬剤が、分子量1000以下の合成低分子医薬品である、(2)記載の医薬組成物。
(4) 所望の薬剤が、弱酸性基を有するアニオニック低分子物質である、(2)又は(3)記載の医薬組成物。
(5) (1)記載の吸収促進剤を、所望の機能性食品成分に添加又は配合してなることを特徴とする、経口摂取時の吸収性が向上された食品組成物。
(6) 所望の機能性食品成分が、分子量1000以下の機能性食品成分である、(4)記載の食品組成物。
(7) 所望の機能性食品成分が、モノカルボン酸類、フラボノイド類、ビタミン類、ポリフェノール類、カロチノイド類、補酵素類、生理活性ペプチドから選ばれる1種又は2種以上の成分であることを特徴とする(5)又は(6)のいずれかに記載の食品組成物。
(8) イヌ腎尿細管由来の上皮細胞株MDCK細胞を透過性膜上に培養して単層の細胞層を形成し、膜透過率を測定する際に、0〜5%のポリ−γ−グルタミン酸存在下での透過率が、非存在下での透過率に比して向上する化合物と、ポリ−γ−グルタミン酸を含有することを特徴とする組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の透過吸収促進剤ポリ−γ−グルタミン酸を用いると、経口投与される低分子機能成分、すなわち低分子薬剤あるいは飲食品中に含まれる有用な機能性食品成分の透過吸収を有効に促進することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に用いられるポリ−γ−グルタミン酸は納豆の粘質物質中のポリ−γ−グルタミン酸を抽出して用いてもよく、納豆菌等のバチルス属の菌体外に分泌するポリ−γ−グルタミン酸を用いてもよい。また、納豆粘出物中の、あるいは納豆菌が同時に分泌するレバンを含んでいても何ら支障ない。また、ポリ−γ−グルタミン酸の分子量は必ずしも限定されないが、調製処理等が容易になることから、分子量5x103〜3x105が好ましい。
【0012】
当該分子量のポリ−γ−グルタミン酸を生成するには、当該分子量より大きいポリ−γ−グルタミン酸を酸あるいはγ結合を分解する腸内には存在しない特殊な酵素により低分子化する方法と、納豆菌等の培養により当該分子量のポリ−γ−グルタミン酸を分泌させる方法があるが、そのどちらのポリ−γ−グルタミン酸を用いても何ら影響ない。
【0013】
微生物の発酵によるポリ−γ−グルタミン酸の生産能を増大させるための方法としては、ポリ−γ−グルタミン酸生産能を有し、低アンモニア性酸性の納豆菌変異株を培養する方法(特開平8−154616号)、醤油麹若しくはその抽出物、醤油醸造物又はそれらの混合物を含有する培地で、ポリ−γ−グルタミン酸生産能を有する微生物を培養する方法(特開平8−242880号)、ポリ−γ−グルタミン酸生産能を有し、かつグルタミン酸合成酵素活性が欠損若しくは減少した変異株を培養する方法(特開2000−333690号)などが知られており、これらのいずれの方法で生産されたものでもよく、特にこれらに限定されるものではない。
【0014】
また、ポリ−γ−グルタミン酸は一般にナトリウム塩として得られるが、他の塩も含めた塩の形が望ましいが、フリーのポリ−γ−グルタミン酸を用いても何ら問題ない。
透過吸収促進作用を受ける物質としては、特に制限はないが低分子物質、特に弱酸性基を有するアニオニック低分子物質が好ましい。とりわけ、フルオレセインナトリウム(下記化学式(1))、フェルリン酸ナトリウム(下記化学式(2))、(-) - 9 - [1’S, 2’ R - ビス(ヒドロキシメチル)シクロプロパン-1’-イル]メチルグアニン(AV-010)(下記化学式(3))、リセドロン酸ナトリウム(下記化学式(4))等と同程度の物性、例えば、分配率(log P, o/w)、分子量を有する化合物であれば、吸収促進作用を受けるものと考えられる。分配率は、一般的に、1−オクタノール/水系において測定され、公知のフラスコ振蕩法などで容易に測定可能である。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【0015】
また、吸収促進されることが望ましい機能性食品成分の一例としては、モノカルボン酸類、フラボノイド類、ビタミン類、ポリフェノール類、カロチノイド類、生理活性ペプチド等、具体的には、大豆イソフラボン、シンナミン酸、バニリン酸、DHA、EPA(エイコサペンタエン酸)、カテキン、コエンザイムQ、ルテイン、リグナン(セサミン類)、大豆分解ペプチド、各種ハーブ抽出物等を挙げることができるが、これらに限られるものではない。これらの化合物のうち、分子量が約1000以下、更に好ましくは500以下の化合物については好適に吸収促進されることが予想される。また、これらの機能性食品成分や、種々の市販後又は開発中の医薬品化合物等が、本発明により吸収促進を受ける化合物であるか否かは、以下の実施例と同様の実施例1、6〜8と同様の手法により容易に決定可能である。即ち、実施例1記載の方法に準じてMDCK細胞の単層の細胞層を調製し、被検物質(透過促進される物質)の膜透過率を0〜5%のポリ−γ−グルタミン酸存在下ならびに非存在下で比較することにより、容易に判定することができる。これらの機能性食品成分や医薬品化合物を、安全性の高い本発明のポリ−γ−グルタミン酸と組み合わせることにより、適度に吸収率の高まった食品組成物又は医薬組成物を提供することができる。
【0016】
実施例1 腸管透過吸収モデル系の作製
10%FBS添加D-MEM/F12培地(ギブコ社製)含有フラスコで37℃炭酸ガスインキュベータ内にてMDCK細胞を3−4日間培養した。該細胞をTrypsin/EDTA溶液(ギブコ社製)によりフラスコから剥がし、ピペッティングにより単細胞化した。該細胞を上記同培地に懸濁し、トランスウエルプレート(コスター社製)のトランスウエル(粘膜側ウエル)に0.1ml容量にて2x105細胞/ウエル入れた。該トランスウエルを同培地0.6mlを入れた基底膜側ウエルに移し、37℃炭酸ガスインキュベータ内で3日間培養した。培養後粘膜側ウエルおよび基底膜側ウエルの培地を新しい同培地に交換し、同条件にて1日間インキュベートした。かくして良好なMDCK単層培養細胞が得られる。
インビトロ透過吸収実験に際しては、両ウエルから培地を除去し、粘膜側ウエルを、PBS緩衝液(pH6.5)で、基底膜側ウエルを、PBS緩衝液(pH7.4)で洗浄した。次いで、粘膜側ウエルにPBS緩衝液(pH6.5)0.1ml、基底膜側ウエルにPBS緩衝液(pH7.4)0.6mlを添加して、15分間37℃インキュベータ内でインキュベートすることにより平衡化した。
粘膜側ウエルを、PBS緩衝液(pH6.5)で調製した被検物質および作用物質含有溶液0.1mlと置換し、該ウエルを、PBS緩衝液(pH7.4)0.6mlと置換した基底膜側ウエルに移した時点を透過吸収開始時とし、その後経時的に基底膜側ウエルからサンプリングした。このようにしてサンプリングしたサンプル中の被検物質の量を、蛍光光度分析やHPLC分析により測定することにより、反応時間に応じた粘膜側から基底膜側に透過吸収された該物質量を知ることができる。以下の実験においては全てこのモデル系を使用した。
【0017】
実施例2 カプリン酸ナトリウムのモデル物質透過吸収への作用
PBS緩衝液(pH6.5)で調製したモデル物質(高分子モデル物質FD-10、低分子モデル物質Fluまたは低分子モデル物質LYと、カプリン酸ナトリウムを粘膜側に添加した。FD-10、Flu、LYおよびカプリン酸ナトリウムの添加終濃度はそれぞれ4.5mg/ml、0.09mg/ml、0.9mg/ml、0.25%とした。そして37℃における粘膜側から基底膜側に透過する各モデル物質の透過量を反応時間30〜120分後に測定し、透過係数(cm/sec)を求めた。そして透過吸収促進度を各反応時間におけるカプリン酸ナトリウム無添加時の透過係数を1とした時の相対透過係数で表した。結果を図1に示す。図1から、Caco-2単層培養細胞を用いたインビトロ系で知られているようにMDCK単層培養細胞を用いたインビトロ系においてもカプリン酸ナトリウムは、高分子モデル物質FD-10、低分子モデル物質FluおよびLYすべてに対し顕著な透過吸収促進作用を示した。なお、各モデル物質の透過係数は、基底膜側ウエルからサンプリングした0.1mlサンプルを96 well flat bottom plate (Costar, 3925)の各wellに入れ、Wallac ARVO SX 1420 MULTILABEL COUNTERにてFluおよびFD-10は、励起フィルター 485nm、検出フィルター 535nm、LYは、励起フィルター 405nm、検出フィルター 535nmを用い測定した蛍光度から計算した(以下同様)。
【0018】
実施例3 ポリ−γ−グルタミン酸のモデル物質透過吸収への作用
PBS緩衝液(pH6.5)で調製したモデル物質(高分子モデル物質FD-10または低分子モデル物質Flu)とポリ−γ−グルタミン酸(分子量26K)を粘膜側に添加した。FD-10、Fluおよびポリ−γ−グルタミン酸の添加終濃度はそれぞれ4.5mg/ml、0.09mg/ml、1%とした。そして37℃における粘膜側から基底膜側に透過する各モデル物質の透過量を反応時間30〜120分後に測定し、透過係数(cm/sec)を求めた。そして透過吸収促進度を各反応時間におけるポリ−γ−グルタミン酸無添加時の透過係数を1とした時の相対透過係数で表した。結果を図2に示す。図2に示されるように、ポリ−γ−グルタミン酸は高分子モデル物質FD-10にはほとんど透過吸収促進作用を示さず、低分子モデル物質Fluに対し顕著な透過吸収促進作用を示した。本作用は実施例2で示したカプリン酸ナトリウムの様な非特異的かつ強力な作用と異なり、低分子物質特異的で穏和な作用であった。そしてこのような特異性は細胞障害性がないか、あるいは極めて低いことを示すものである。
【0019】
実施例4 低分子モデル物質Flu透過吸収促進作用におけるポリ−γ−グルタミン酸の濃度依存性
PBS緩衝液(pH6.5)で調製した低分子モデル物質Fluとポリ−γ−グルタミン酸(分子量26K)をそれぞれ終濃度0.09mg/ml、0.25〜1%となるように粘膜側に添加して、37℃における粘膜側から基底膜側に透過するFluの透過量を反応時間30〜120分後に測定し、透過係数(cm/sec)を求めた。そして透過吸収促進度を各反応時間におけるポリ−γ−グルタミン酸無添加時の透過係数を1とした時の相対透過係数で表した。結果を図3に示す。図3に示されるように、透過吸収促進度は、添加濃度に依存して高まった。
【0020】
実施例5 低分子モデル物質Flu透過吸収促進作用におけるポリ−γ−グルタミン酸の分子量依存性
PBS緩衝液(pH6.5)で調製した低分子モデル物質Fluと分子量5.3〜78Kのポリ−γ−グルタミン酸をそれぞれ終濃度0.09mg/ml、1%となるように粘膜側に添加して、37℃における粘膜側から基底膜側に透過するFluの透過量を反応時間30分後に測定し、透過係数(cm/sec)を求めた。そして透過吸収促進度を各反応時間におけるポリ−γ−グルタミン酸無添加時の透過係数を1とした時の相対透過係数で表した。結果を図4に示す。図4に示されるように、すべての分子量のポリ−γ−グルタミン酸は、Fluの透過吸収を顕著に促進した。以下の実施例においては、特に断らない限り分子量26Kのものを使用した。
【0021】
実施例6 ポリ−γ−グルタミン酸の低分子薬剤AV-010透過吸収促進作用
モデル物質ではなく、具体的な抗ウイルス作用をもつ低分子薬剤AV-010を被検物質として用いた。
PBS緩衝液(pH6.5)で調製した低分子薬剤AV-010とポリ−γ−グルタミン酸をそれぞれ終濃度0.9mg/ml、1〜2%となるように粘膜側に添加して、37℃における粘膜側から基底膜側に透過するAV-010の透過量を反応時間30〜120分後に測定した。AV-010の透過量は、Inertsil ODS-3(ジーエルサイエンス)カラムにて、アセトニトリル含有酸性リン酸緩衝液を移動相として、カラム温度 40℃、検出波長254nmの条件でHPLC分析して得た。結果を図5に示す。図5に示されるように、ポリ−γ−グルタミン酸はAV-010の透過吸収を顕著に促進した。そして本作用は濃度依存的であった。
【0022】
実施例7 ポリ−γ−グルタミン酸の低分子薬剤リセドロン酸ナトリウム(以下リセドロネートという。)透過吸収促進作用
モデル物質ではなく、具体的な抗骨粗しょう症作用をもつ低分子薬剤リセドロネートを被検物質として用いた。PBS緩衝液(pH6.5)で調製した低分子薬剤リセドロネートとポリ−γ−グルタミン酸をそれぞれ終濃度0.9mg/ml、1〜2%となるように粘膜側に添加して、37℃における粘膜側から基底膜側に透過するリセドロネートの透過量を反応時間30〜120分後に測定した。リセドロネートの透過量は、Inertsil ODS-3(ジーエルサイエンス)カラムにて、アセトニトリル含有酸性リン酸緩衝液を移動相として、カラム温度室温、検出波長263nmの条件でHPLC分析して得た。結果を図6に示す。図6に示されるように、ポリ−γ−グルタミン酸はリセドロネートの透過吸収を顕著に促進した。そして本作用は濃度依存的であった。
【0023】
実施例8 ポリ−γ−グルタミン酸のフェルリン酸透過吸収促進作用
モデル物質ではなく、具体的な飲食品中の人体に有用な機能成分としてフェルリン酸ナトリウム(以下フェルリン酸という)を被検物質として用いた。PBS緩衝液(pH6.5)で調製したフェルリン酸とポリ−γ−グルタミン酸をそれぞれ終濃度0.9mM、1〜2%となるように粘膜側に添加して、37℃における粘膜側から基底膜側に透過するフェルリン酸の透過量を反応時間30〜120分後に測定した。フェルリン酸の透過量は、Inertsil ODS-3(ジーエルサイエンス)カラムにて、アセトニトリル含有酸性リン酸緩衝液を移動相として、カラム温度室温、検出波長283nmの条件でHPLC分析して得た。結果を図7に示す。図7に示されるように、ポリ−γ−グルタミン酸はフェルリン酸の透過吸収を顕著に促進した。そして本作用は濃度依存的であった。
【0024】
以上の実施例により、ポリ−γ−グルタミン酸は、低分子モデル物質のみならず、各種の低分子薬剤又は機能性食品成分の透過吸収を1〜2.5倍程度促進することが示された。前記の通り、MDCK細胞を用いたインビトロ系での透過吸収性は、インビボにおけるヒト腸管での透過吸収性を良好に反映すると考えられているため、ポリ−γ−グルタミン酸により、これら物質の体内利用を高める可能性が示された。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のカプリン酸ナトリウムのモデル物質透過吸収への作用を示す図である。カプリン酸ナトリウム0.25%添加
【図2】本発明のポリ−γ−グルタミン酸のモデル物質透過吸収への作用を示す図である。ポリ−γ−グルタミン酸1%添加
【図3】本発明の低分子モデル物質Flu透過吸収促進作用におけるポリ−γ−グルタミン酸の濃度依存性を示す図である。
【図4】本発明の低分子モデル物質Flu透過吸収促進作用におけるポリ−γ−グルタミン酸の分子量依存性を示す図である。 ポリ−γ−グルタミン酸1%添加
【図5】本発明のポリ−γ−グルタミン酸の低分子薬剤AV-010透過吸収促進作用を示す図である。AVA-010 0.9mg/ml濃度条件で、ポリ−γ−グルタミン酸0〜2%添加
【図6】本発明のポリ−γ−グルタミン酸の低分子薬剤リセドロネート透過吸収促進作用を示す図であるリセドロネート0.9mg/ml濃度条件で、ポリ−γ−グルタミン酸0〜2%添加
【図7】本発明のポリ−γ−グルタミン酸の機能性食品成分フェルリン酸透過吸収促進作用を示す図である。フェルリン酸0.9mM濃度条件で、ポリ−γ−グルタミン酸0〜2%添加

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ−γ−グルタミン酸を有効成分として含有することを特徴とする膜透過吸収促進剤。
【請求項2】
請求項1記載の膜透過吸収促進剤を、所望の薬剤に添加又は配合してなることを特徴とする、経口摂取時の吸収性が向上された医薬組成物。
【請求項3】
所望の薬剤が、分子量1000以下の合成低分子医薬品である、請求項2記載の医薬組成物。
【請求項4】
所望の薬剤が、弱酸性基を有するアニオニック低分子物質である、請求項2又は3記載の医薬組成物。
【請求項5】
請求項1記載の膜透過吸収促進剤を、所望の機能性食品成分に添加又は配合してなることを特徴とする、経口摂取時の吸収性が向上された食品組成物。
【請求項6】
所望の機能性食品成分が、分子量1000以下の機能性食品成分である、請求項5記載の食品組成物。
【請求項7】
所望の機能性食品成分が、モノカルボン酸類、フラボノイド類、ビタミン類、ポリフェノール類、カロチノイド類、補酵素類、生理活性ペプチドから選ばれる1種又は2種以上の成分であることを特徴とする請求項5又は6のいずれかに記載の食品組成物。
【請求項8】
イヌ腎尿細管由来の上皮細胞株MDCK細胞を透過性膜上に培養して単層の細胞層を形成し、膜透過率を測定する際に、0〜5%のポリ−γ−グルタミン酸存在下での透過率が、非存在下での透過率に比して向上する化合物と、ポリ−γ−グルタミン酸を含有することを特徴とする組成物。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−36721(P2006−36721A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−221815(P2004−221815)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】