説明

通信機および通信方法

【課題】OFDM方式の通信において、PAPRを低減するための処理を簡易化し、さらに加法性雑音を抑制して符号誤り率を改善する。
【解決手段】変調部11は入力信号から変調信号を生成し、直並列変換部12は変調信号からサブキャリア変調信号を生成し、第1演算部13および第2演算部14に送る。第1演算部13はIDFTを示す行列にサブキャリア変調信号を乗じて第1データを生成して合成部15に送り、第2演算部14は、所定の変換行列にIDFTを示す行列を乗じて生成した行列にサブキャリア変調信号を乗じて第2データを生成して合成部15に送る。合成部15は所定の演算規則に従って、第1データに第2データを加算したデータまたは第1データから第2データを減算したデータからベースバンド信号を生成し、送信部16に送る。送信部16はベースバンド信号から送信信号を生成し、アンテナ10を介して他の機器に送信信号を送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信機および通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
OFDM(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing:直交周波数分割多重)方式の通信では、入力信号をサブキャリア変調し、IFFT(Inverse Fast Fourier Transformation:逆高速フーリエ変換)を行い、ベースバンド信号を生成する。そのため、入力信号によっては大きなピークを持つベースバンド信号が生成され、PAPR(Peak-to-Average Power Ratio:ピーク対平均電力比)が高くなるという性質を持っている。PAPRが高くなると、信号を歪みなく伝送するために広範囲において線形性を有する増幅器が必要となる。そこでPAPRを低減するための技術が開発されている。
【0003】
特許文献1では、PAPRを低減するため、IFFTを行う前に逐次決定法により算出した最適位相に基づきサブキャリア変調信号の位相を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−165781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
OFDM方式の通信では、PAPRを低減することが課題となっている。特許文献1では、PAPRを低減する最適位相を算出するために繰り返し計算処理を行い、サブキャリアごとに位相を制御する必要がある。
【0006】
本発明は、上述のような事情に鑑みてなされたものであり、OFDM方式の通信において、PAPRを低減するための処理を簡易化し、さらに加法性雑音を抑制して符号誤り率を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る通信機は、
直交周波数分割多重通信方式の無線通信により他の機器と通信を行う通信機であって、
入力信号を所定の変調方式で変調し、周波数成分が互いに直交するサブキャリアに割り当て、サブキャリア変調信号を生成する変調手段と、
前記サブキャリア変調信号をそれぞれ割り当てられた前記サブキャリアで変調するための所定の正則行列である第1行列に前記サブキャリア変調信号を乗じて第1データを生成する第1演算手段と、
前記第1行列と同じ大きさの所定の正則行列であって、該行列の転置共役行列に該行列を乗じた結果が単位行列に一致またはほぼ一致し、該行列に該行列の転置共役行列を加算した結果が零行列に一致またはほぼ一致する変換行列に、前記第1行列を乗じて算出した行列に前記サブキャリア変調信号に乗じて、または前記変換行列に前記第1データを乗じて、第2データを生成する第2演算手段と、
所定の演算規則に従って、前記第1データに前記第2データを加算したデータまたは前記第1データから前記第2データを減算したデータからベースバンド信号を生成する合成手段と、
前記ベースバンド信号から送信信号を生成して送信する送信手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の第2の観点に係る通信機は、
直交周波数分割多重通信方式の無線通信により他の機器と通信を行う通信機であって、
送信信号を受信してベースバンド信号を生成する受信手段と、
前記ベースバンド信号を直並列変換して並列信号を生成する直並列手段と、
サブキャリア変調信号をそれぞれ割り当てられたサブキャリアで変調するための所定の正則行列である第1行列の逆行列に前記並列信号を乗じて、第3データを生成する第3演算手段と、
前記第1行列に、前記第1行列と同じ大きさの所定の正則行列であって、該行列の転置共役行列に該行列を乗じた結果が単位行列に一致またはほぼ一致し、該行列に該行列の転置共役行列を加算した結果が零行列に一致またはほぼ一致する変換行列を乗じて算出した行列の逆行列に一致する所定の行列に前記並列信号を乗じて、第4データを生成する第4演算手段と、
所定の演算規則に従って、前記第3データに前記第4データを加算したデータを2で除算し、または前記第3データから前記第4データを減算したデータを2で除算して、前記サブキャリア変調信号を生成する分解手段と、
前記サブキャリア変調信号を所定の復調方式で復調する復調手段と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の第3の観点に係る通信方法は、
直交周波数分割多重通信方式の無線通信により他の機器と通信を行う通信機が行う通信方法であって、
入力信号を所定の変調方式で変調し、周波数成分が互いに直交するサブキャリアに割り当て、サブキャリア変調信号を生成する変調ステップと、
前記サブキャリア変調信号をそれぞれ割り当てられた前記サブキャリアで変調するための所定の正則行列である第1行列に前記サブキャリア変調信号を乗じて第1データを生成する第1演算ステップと、
前記第1行列と同じ大きさの所定の正則行列であって、該行列の転置共役行列に該行列を乗じた結果が単位行列に一致またはほぼ一致し、該行列に該行列の転置共役行列を加算した結果が零行列に一致またはほぼ一致する変換行列に、前記第1行列を乗じて算出した行列に前記サブキャリア変調信号に乗じて、または前記変換行列に前記第1データを乗じて、第2データを生成する第2演算ステップと、
所定の演算規則に従って、前記第1データに前記第2データを加算したデータまたは前記第1データから前記第2データを減算したデータからベースバンド信号を生成する合成ステップと、
前記ベースバンド信号から送信信号を生成して送信する送信ステップと、
を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の第4の観点に係る通信方法は、
直交周波数分割多重通信方式の無線通信により他の機器と通信を行う通信機が行う通信方法であって、
送信信号を受信してベースバンド信号を生成する受信ステップと、
前記ベースバンド信号を直並列変換して並列信号を生成する直並列ステップと、
サブキャリア変調信号をそれぞれ割り当てられたサブキャリアで変調するための所定の正則行列である第1行列の逆行列に前記並列信号を乗じて、第3データを生成する第3演算ステップと、
前記第1行列に、前記第1行列と同じ大きさの所定の正則行列であって、該行列の転置共役行列に該行列を乗じた結果が単位行列に一致またはほぼ一致し、該行列に該行列の転置共役行列を加算した結果が零行列に一致またはほぼ一致する変換行列を乗じて算出した行列の逆行列に一致する所定の行列に前記並列信号を乗じて、第4データを生成する第4演算ステップと、
所定の演算規則に従って、前記第3データに前記第4データを加算したデータを2で除算し、または前記第3データから前記第4データを減算したデータを2で除算して、前記サブキャリア変調信号を生成する分解ステップと、
前記サブキャリア変調信号を所定の復調方式で復調する復調ステップと、
を備えることを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記変換行列の転置共役行列に前記変換行列を乗じた結果が単位行列に一致し、前記変換行列に前記変換行列の転置共役行列を加算した結果が零行列に一致する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、OFDM方式の通信において、PAPRを低減するための処理を簡易化し、さらに加法性雑音を抑制して符号誤り率を改善することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態1に係る通信機の構成例を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1に係る通信機の異なる構成例を示すブロック図である。
【図3】実施の形態1における変換行列の例を示す図である。
【図4】実施の形態1に係る通信機の異なる構成例を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態2における変換行列の例を示す図である。
【図6】シミュレーションしたベースバンド信号のPAPR特性を示す図である。
【図7】シミュレーションしたBER特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお図中、同一または同等の部分には同一の符号を付す。
【0015】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る通信機の構成例を示すブロック図である。通信機1は、OFDM(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing:直交周波数分割多重)方式の無線通信により他の機器と通信を行う。通信機1は、アンテナ10、変調部11、直並列変換部12、第1演算部13、第2演算部14、合成部15、送信部16、およびコントローラ20を備える。
【0016】
コントローラ20は、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)21、RAM(Random Access Memory)23、およびROM(Read-Only Memory)24を備える。複雑化を避け、理解を容易にするために、コントローラ20から各部への信号線が省略されているが、コントローラ20は通信機1の各部にI/O(Input/Output)22を介して接続しており、それらの処理の開始、終了、処理内容の制御を行う。
【0017】
RAM23には、例えば送信フレームを生成するためのデータが記憶されている。ROM24は、コントローラ20が通信機1の動作を制御するための制御プログラムを格納する。コントローラ20は、制御プログラムに基づいて、通信機1を制御する。
【0018】
図2は、実施の形態1に係る通信機の異なる構成例を示すブロック図である。上述の通信機1に受信機能をもたせるため、図2に示す通信機1はさらに復調部31、並直列変換部32、分解部33、第3演算部34、第4演算部35、受信部36、および送受信切替部37を備える。送信機能および受信機能を備える図2に示す通信機1を用いて、通信機1が行う通信方法について以下に説明する。
【0019】
変調部11は、入力信号を所定の変調方式で変調し、変調信号を生成し、直並列変換部12に送る。変調方式として、例えばQPSK(Quadrature Phase-Shift Keying:四位相偏移変調)を用いる。直並列変換部12は、変調信号を直並列変換して並列信号を生成し、周波数成分が互いに直交するサブキャリアに割り当て、サブキャリア変調信号を生成する。そして、サブキャリア変調信号を第1演算部13および第2演算部14に送る。
【0020】
第1演算部13はサブキャリア変調信号をそれぞれ割り当てられたサブキャリアで変調するための所定の正則行列である第1行列にサブキャリア変調信号を乗じて第1データを生成し、合成部15に送る。第1行列として、例えばIDFT(Inverse Discrete Fourier Transformation:逆離散フーリエ変換)を示す行列を用いる。第1演算部13は、サブキャリア変調信号のIFFT(Inverse Fast Fourier Transformation:逆高速フーリエ変換)を行って第1データを生成するよう構成してもよい。なお第1行列は、IDFTを示す行列に限られず、サブキャリア変調信号をそれぞれ割り当てられたサブキャリアで変調することができる正則行列であればよい。
【0021】
第2演算部14は第1行列と同じ大きさの所定の正則行列である変換行列に第1行列を乗じて算出した第2行列を用いる。第1行列F−1、変換行列Cおよび第2行列F−1の関係は、下記(1)式のように表される。
【0022】
【数1】

【0023】
第2演算部14は、第2行列F−1にサブキャリア変調信号を乗じて第2データを生成し、合成部15に送る。変換行列Cは、変換行列Cの転置共役行列に変換行列Cを乗じた結果が単位行列に一致し、変換行列Cに変換行列Cの転置共役行列を加算した結果が零行列に一致する、正則行列である。すなわち、変換行列Cはユニタリ行列であり、かつ歪エルミート行列である。変換行列Cは、ユニタリ行列であるから下記(2a)式が成立する。Cは、Cの転置共役行列である。下記(2a)式を変換して、下記(2b)式が導き出される。C−1 は、Cの逆行列である。また変換行列Cは歪エルミート行列であるから下記(2c)式が成立する。下記(2b)式および(2c)式より下記(2d)式が導き出される。
【0024】
【数2】

【0025】
図3は、実施の形態1における変換行列の例を示す図である。第2演算部14は、第1行列の行数および列数が8である場合に、例えば図3に示す行列を変換行列Cとして用いる。
【0026】
合成部15は、第1データに第2データを加算したデータおよび第1データから第2データを減算したデータの内、どちらか一方からベースバンド信号を生成し、送信部16に送る。合成部15が加算を行うか、減算を行うかは予め所定の演算規則で決められている。サブキャリア変調信号をdとすると、演算結果uは下記(3)式で表される。以下の説明においては復号同順とする。
【0027】
【数3】

【0028】
合成部15は演算結果uからベースバンド信号を生成する。後述するように、受信側でも同じ演算規則に従い、復調処理を行う。なおベースバンド信号にサブキャリア変調信号dの各要素が含まれるように、第1行列F−1、第2行列F−1および変換行列Cの各要素の値が決定される。
【0029】
送信部16は、ベースバンド信号から送信信号を生成し、送受信切替部37およびアンテナ10を介して他の機器に送信信号を送信する。
【0030】
受信部36は、アンテナ10および送受信切替部37を介して送信信号を受信し、ベースバンド信号を生成する。そして、ベースバンド信号を直並列変換して並列信号uを生成し、第3演算部34および第4演算部35に送る。第3演算部34は、サブキャリア変調信号をそれぞれ割り当てられたサブキャリアで変調するための所定の正則行列である、送信側で用いた第1行列F−1の逆行列F、に並列信号uを乗じて第3データを生成し、分解部33に送る。第3データは下記(4a)式で表される。上記(1)式より、下記(4b)式が導き出される。
【0031】
【数4】

【0032】
第4演算部35は、第1行列F−1と同じ大きさの所定の正則行列である変換行列Cに第1行列F−1を乗じて算出した、送信側で用いた第2行列F−1の逆行列Fを用いる。第4演算部35は、第2行列F−1の逆行列Fに並列信号uを乗じて第4データを生成し、分解部33に送る。第4データは下記(5a)式で表される。上記(1)式を変形して、第1行列の逆行列F、変換行列の逆行列C−1および第2行列の逆行列Fの関係は、下記(6)式で表される。下記(6)式より、下記(5b)式が導き出される。
【0033】
【数5】

【0034】
【数6】

【0035】
分解部33は、所定の演算規則に従って、第3データに第4データを加算して2で除算または第3データから第4データを減算して2で除算する。所定の演算規則は、送信側の合成部15で用いた所定の演算規則と同じであり、分解部33は、合成部15で第1データに第2データを加算した場合には第3データに第4データを加算し、合成部15で第1データから第2データを減算した場合には第3データから第4データを減算し、その後2で除算する演算を行う。その演算結果rは下記(7a)式で表される。ここで上記(4b)、(5b)式より、下記(7b)式が導き出される。下記(7b)式を変形して、下記(7c)式が導き出される。上記(2d)式より、下記(7d)式が導き出される。したがって、分解部33の演算結果rはサブキャリア変調信号dに一致する。
【0036】
【数7】

【0037】
分解部33はサブキャリア変調信号dを並直列変換部32に送る。並直列変換部32は、サブキャリア変調信号dを並直列変換し、直列信号を生成して復調部31に送る。復調部31は、直列信号を所定の復調方式で復調する。例えば、復調部31は直列信号のQPSK復調を行う。これにより変調部11で変調した入力信号を復調部31で復調して出力することができる。
【0038】
以上説明した原理に従って、通信機1は例えば以下のように通信を行う。第1演算部13は下記(8)式に示す行数および列数が2のIDFTを示す行列を第1行列F−1として用いる。
【0039】
【数8】

【0040】
第2演算部14は下記(9a)式に示す変換行列C1を用いる。また変換行列C1の転置共役行列Cおよび逆行列C−1はそれぞれ下記(9b)、(9c)式で表される。第2行列F−1は下記(10)式で表される。
【0041】
【数9】

【0042】
【数10】

【0043】
変換行列Cは上記(2a)〜(2d)式を満たす。合成部15は、第1データから第2データを減算した演算結果uからベースバンド信号を生成するものとする。演算結果uは下記(11)式で表される。この場合は、サブキャリア変調信号dの各要素が演算結果uに含まれている。合成部15は、演算結果uからベースバンド信号を生成し、送信部16に送る。
【0044】
【数11】

【0045】
送信部16はベースバンド信号から送信信号を生成して、他の機器に送信する。受信部36は、送信信号を受信し、ベースバンド信号を生成する。そしてベースバンド信号を直並列変換して並列信号uを生成し、第3演算部34および第4演算部35に送る。第3演算部34が用いる第1行列F−1の逆行列Fは下記(12)式で表される。また第4演算部35が用いる第2行列F−1の逆行列Fは下記(13)式で表される。
【0046】
【数12】

【0047】
【数13】

【0048】
分解部33は、第3データから第4データを減算して2で除算する。その演算結果rは下記(14)式で表される。演算結果rがサブキャリア変調信号dに一致することがわかる。
【0049】
【数14】

【0050】
分解部33はサブキャリア変調信号dを並直列変換部32に送る。並直列変換部32は、サブキャリア変調信号を並直列変換し、直列信号を生成して復調部31に送る。復調部31は、直列信号を所定の復調方式で復調する。例えば、復調部31は直列信号のQPSK復調を行う。これにより変調部11で変調した入力信号を復調部31で復調して出力することができる。
【0051】
図4は、実施の形態1に係る通信機の異なる構成例を示すブロック図である。上述の実施の形態と異なり、第1演算部13が第2演算部14に第1データを送る。第2演算部14は変換行列に第1データを乗じて、第2データを生成する。また上述の実施の形態では、受信側は送信側で用いた第1行列F−1の逆行列Fと第2行列F−1の逆行列Fを保持しているが、受信側は第1行列F−1の逆行列Fと変換行列Cの逆行列C−1を保持するよう構成してもよい。その場合は、第4演算部35は、第1行列F−1の逆行列Fに変換行列Cの逆行列C−1を乗じて、さらに並列信号uを乗じて第4データを生成する。
【0052】
以上説明したとおり、本発明の実施の形態に係る通信機1によれば、所定の行列を用いてPAPRを低減することができる。サブキャリアごとに位相を制御するといった処理が不要であるため、PAPRを低減するための処理を簡易化することが可能となる。
【0053】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係る通信機1の構成は実施の形態1と同様である。実施の形態2に係る通信機1では、実施の形態1と異なる所定の正則行列を変換行列として用いる。実施の形態2で用いる変換行列は、変換行列の転置共役行列に変換行列を乗じた結果が単位行列にほぼ一致し、変換行列に変換行列の転置共役行列を加算した結果が零行列にほぼ一致する、正則行列である。
【0054】
実施の形態2で用いる変換行列Cは、ユニタリ行列でなく、歪エルミート行列でもない。しかし、下記(15a)式に示すように、変換行列Cの転置共役行列Cに変換行列Cを乗じた結果が単位行列にほぼ一致する。下記(15a)式を変形して、下記(15b)式が導き出される。また下記(15c)式に示すように、変換行列Cに変換行列Cの転置共役行列Cを加算した結果が零行列にほぼ一致する。下記(15b)、(15c)式より、下記(15d)式が導き出される。したがって、上記(7c)式から上記(7d)式を導き出すことができ、受信側で入力信号を復調することができる。
【0055】
【数15】

【0056】
すなわち、上記(15d)式が成立するのであれば、変換行列は必ずしもユニタリ行列であり、かつ歪エルミート行列である必要はない。
【0057】
図5は、本発明の実施の形態2における変換行列の例を示す図である。実施の形態2に係る通信機1は、例えば図5に示す行列を変換行列Cとして用いる。図5に示す変換行列Cと、図3に示すユニタリ行列であり、かつ歪エルミート行列である変換行列Cとの異なる要素の値は0.1または−0.1であり、図3に示す行列との差分は微小である。そのため、図5に示す行列はほぼユニタリ行列であるとみなせ、上記(15a)、(15b)式が成立する。また図5に示す行列はほぼ歪エルミート行列であるとみなせるので、上記(15c)式が成立する。上記(15b)、(15c)式より、上記(15d)式が導き出される。
【0058】
以上説明したとおり、本実施の形態2に係る通信機1によれば、実施の形態1とは異なる所定の行列を用いてPAPRを低減することができる。サブキャリアごとに位相を制御するといった処理が不要であるため、PAPRを低減するための処理を簡易化することが可能となる。
【0059】
(具体例)
次に、シミュレーションにより上述の実施の形態に係る発明の効果を説明する。従来技術と同様にIDFTを示す行列を用いた場合、実施の形態1の場合、実施の形態2の場合についてベースバンド信号を生成するシミュレーションを行った。実施の形態1の場合は変換行列として図3に示す行列を用い、実施の形態2の場合は変換行列として図5に示す行列を用いた。入力信号としてランダム信号を用い、変調方式としてQPSKを用い、第1行列、変換行列、および第2行列の行数および列数を8として、シミュレーションを行った。実施の形態1および2の場合については、合成部15で第1データから第2データを減算した。
【0060】
図6は、シミュレーションしたベースバンド信号のPAPR特性を示す図である。従来技術と同様にIDFTを示す行列を用いた場合、実施の形態1の場合、実施の形態2の場合について、ベースバンド信号の生成を繰り返し、それぞれPAPRの最大値の平均値、PAPRの最小値の平均値、およびPAPRの最大値と最小値の差であるPAPR幅を算出した。単位は全てdBである。
【0061】
従来技術と同様にIDFTを示す行列を用いた場合のPAPRの最大値は9.0dB、最小値は0dB、幅は9.0dBである。実施の形態1の場合のPAPRの最大値は7.2dB、最小値は0dB、幅は7.2dBである。実施の形態2の場合のPAPRの最大値は7.4dB、最小値は0.4dB、幅は7.0dBである。
【0062】
実施の形態1は従来技術と比べて、PAPRの最大値が1.8dB低減し、実施の形態2では1.6dB低減している。実施の形態2では最大値の低減の程度は実施の形態1に比べて劣るが、PAPR幅が7.0dBと最も小さくなっている。PAPRの幅が小さくなると、増幅器において線形性が求められる範囲が狭まるという利点がある。実施の形態2においては、変換行列における0.1または−0.1などの微小な要素によって、PAPRが変化するため、変換行列の要素の値を変えることにより、PAPRを制御することが可能となる。すなわち、図6に示す実施の形態2のPAPR最大値、PAPR最小値およびPAPR幅は可変である。
【0063】
次に、BER(Bit Error Rate:符号誤り率)についてのシミュレーションを行った。図7は、シミュレーションしたBER特性を示す図である。横軸はEb/No(Energy per Bit to NOise power spectral density ratio:ビットエネルギー対雑音電力密度比)、縦軸はBERである。Eb/Noの単位はdBである。従来技術と同様にIDFTを示す行列を用いた場合のBERはプロット点を四角で表した実線のグラフであり、実施の形態1のBERはプロット点を三角で表した点線のグラフであり、実施の形態2のBERはプロット点を丸で表した破線のグラフである。従来技術に比べ、実施の形態1では雑音が約3dB大きくなっても、符号誤り率が悪化しない。分解部33において、第3データと第4データの和または差を算出し、2で除算しているので雑音が小さくなり、符号誤り率が改善する。
【0064】
また実施の形態2においては、変換行列の0.1または−0.1などの要素の値を変えることにより、BERの値も制御することができる。
【0065】
したがって、実施の形態1および実施の形態2に係る通信機1によれば、従来技術に比べてよりPAPRを低減させ、さらに加法性雑音を抑制してBERを改善することが可能となる。またPAPRを低減するために計算処理の繰り返しやサブキャリアごとの位相制御を行う必要がないので、PAPRを低減するための処理を簡易化することが可能である。さらに実施の形態2においては、変換行列の要素の値を変更することにより、PAPRの幅およびBERを制御することができる。
【0066】
本発明の実施の形態は上述の実施の形態に限られない。変調部11の変調方式は、QPSKに限られず、QPSK以外のPSK(Phase Shift Keying:位相偏移変調)やQAM(Quadrature Amplitude Modulation:直角位相振幅変調)などを用いることができる。変調部11と直並列変換部12の順序を変えて、入力信号を直並列変換してサブキャリア信号に割り当て、並列信号の各データを所定の変調方式で変調するよう構成してもよい。その場合、受信側では復調部31と並直列変換部32の順序を変えて、復調処理を行う。
【符号の説明】
【0067】
1 通信機
10 アンテナ
11 変調部
12 直並列変換部
13 第1演算部
14 第2演算部
15 合成部
16 送信部
20 コントローラ
21 CPU
22 I/O
23 RAM
24 ROM
31 復調部
32 並直列変換部
33 分解部
34 第3演算部
35 第4演算部
36 受信部
37 送受信切替部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直交周波数分割多重通信方式の無線通信により他の機器と通信を行う通信機であって、
入力信号を所定の変調方式で変調し、周波数成分が互いに直交するサブキャリアに割り当て、サブキャリア変調信号を生成する変調手段と、
前記サブキャリア変調信号をそれぞれ割り当てられた前記サブキャリアで変調するための所定の正則行列である第1行列に前記サブキャリア変調信号を乗じて第1データを生成する第1演算手段と、
前記第1行列と同じ大きさの所定の正則行列であって、該行列の転置共役行列に該行列を乗じた結果が単位行列に一致またはほぼ一致し、該行列に該行列の転置共役行列を加算した結果が零行列に一致またはほぼ一致する変換行列に、前記第1行列を乗じて算出した行列に前記サブキャリア変調信号に乗じて、または前記変換行列に前記第1データを乗じて、第2データを生成する第2演算手段と、
所定の演算規則に従って、前記第1データに前記第2データを加算したデータまたは前記第1データから前記第2データを減算したデータからベースバンド信号を生成する合成手段と、
前記ベースバンド信号から送信信号を生成して送信する送信手段と、
を備えることを特徴とする通信機。
【請求項2】
前記変換行列の転置共役行列に前記変換行列を乗じた結果が単位行列に一致し、前記変換行列に前記変換行列の転置共役行列を加算した結果が零行列に一致することを特徴とする請求項1に記載の通信機。
【請求項3】
直交周波数分割多重通信方式の無線通信により他の機器と通信を行う通信機であって、
送信信号を受信してベースバンド信号を生成する受信手段と、
前記ベースバンド信号を直並列変換して並列信号を生成する直並列手段と、
サブキャリア変調信号をそれぞれ割り当てられたサブキャリアで変調するための所定の正則行列である第1行列の逆行列に前記並列信号を乗じて、第3データを生成する第3演算手段と、
前記第1行列に、前記第1行列と同じ大きさの所定の正則行列であって、該行列の転置共役行列に該行列を乗じた結果が単位行列に一致またはほぼ一致し、該行列に該行列の転置共役行列を加算した結果が零行列に一致またはほぼ一致する変換行列を乗じて算出した行列の逆行列に一致する所定の行列に前記並列信号を乗じて、第4データを生成する第4演算手段と、
所定の演算規則に従って、前記第3データに前記第4データを加算したデータを2で除算し、または前記第3データから前記第4データを減算したデータを2で除算して、前記サブキャリア変調信号を生成する分解手段と、
前記サブキャリア変調信号を所定の復調方式で復調する復調手段と、
を備えることを特徴とする通信機。
【請求項4】
前記変換行列の転置共役行列に前記変換行列を乗じた結果が単位行列に一致し、前記変換行列に前記変換行列の転置共役行列を加算した結果が零行列に一致することを特徴とする請求項3に記載の通信機。
【請求項5】
直交周波数分割多重通信方式の無線通信により他の機器と通信を行う通信機が行う通信方法であって、
入力信号を所定の変調方式で変調し、周波数成分が互いに直交するサブキャリアに割り当て、サブキャリア変調信号を生成する変調ステップと、
前記サブキャリア変調信号をそれぞれ割り当てられた前記サブキャリアで変調するための所定の正則行列である第1行列に前記サブキャリア変調信号を乗じて第1データを生成する第1演算ステップと、
前記第1行列と同じ大きさの所定の正則行列であって、該行列の転置共役行列に該行列を乗じた結果が単位行列に一致またはほぼ一致し、該行列に該行列の転置共役行列を加算した結果が零行列に一致またはほぼ一致する変換行列に、前記第1行列を乗じて算出した行列に前記サブキャリア変調信号に乗じて、または前記変換行列に前記第1データを乗じて、第2データを生成する第2演算ステップと、
所定の演算規則に従って、前記第1データに前記第2データを加算したデータまたは前記第1データから前記第2データを減算したデータからベースバンド信号を生成する合成ステップと、
前記ベースバンド信号から送信信号を生成して送信する送信ステップと、
を備えることを特徴とする通信方法。
【請求項6】
前記変換行列の転置共役行列に前記変換行列を乗じた結果が単位行列に一致し、前記変換行列に前記変換行列の転置共役行列を加算した結果が零行列に一致することを特徴とする請求項5に記載の通信方法。
【請求項7】
直交周波数分割多重通信方式の無線通信により他の機器と通信を行う通信機が行う通信方法であって、
送信信号を受信してベースバンド信号を生成する受信ステップと、
前記ベースバンド信号を直並列変換して並列信号を生成する直並列ステップと、
サブキャリア変調信号をそれぞれ割り当てられたサブキャリアで変調するための所定の正則行列である第1行列の逆行列に前記並列信号を乗じて、第3データを生成する第3演算ステップと、
前記第1行列に、前記第1行列と同じ大きさの所定の正則行列であって、該行列の転置共役行列に該行列を乗じた結果が単位行列に一致またはほぼ一致し、該行列に該行列の転置共役行列を加算した結果が零行列に一致またはほぼ一致する変換行列を乗じて算出した行列の逆行列に一致する所定の行列に前記並列信号を乗じて、第4データを生成する第4演算ステップと、
所定の演算規則に従って、前記第3データに前記第4データを加算したデータを2で除算し、または前記第3データから前記第4データを減算したデータを2で除算して、前記サブキャリア変調信号を生成する分解ステップと、
前記サブキャリア変調信号を所定の復調方式で復調する復調ステップと、
を備えることを特徴とする通信方法。
【請求項8】
前記変換行列の転置共役行列に前記変換行列を乗じた結果が単位行列に一致し、前記変換行列に前記変換行列の転置共役行列を加算した結果が零行列に一致することを特徴とする請求項7に記載の通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−110597(P2013−110597A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254227(P2011−254227)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000100746)アイコム株式会社 (273)