説明

通信機および通信方法

【課題】OFDM方式の通信において、PAPRの最大値を低減し、さらにPAPRの低減の程度を制御する。
【解決手段】変調部11は入力信号から変調信号を生成し、直並列変換部12は変調信号からサブキャリア変調信号を生成する。IFFT部13はサブキャリア変調信号を逆高速フーリエ変換して第1データを生成する。演算部14は入力データの要素の順序を逆にして下半分の要素の符号を反転させたデータを入力データに加算し、各要素を2で除算する送信演算処理を行う。演算部14は、第1データを入力データとして該演算を行った後に、該演算を行った回数が所定の演算回数に達するまで該演算結果を二等分して各データを入力データとして該演算を繰り返す。演算部14は該演算結果を分割したときの位置に並べて合成してベースバンド信号を生成し、送信部15はベースバンド信号から送信信号を生成し、アンテナ10を介して他の機器に送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信機および通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
OFDM(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing:直交周波数分割多重)方式の通信では、入力信号をサブキャリア変調し、IFFT(Inverse Fast Fourier Transformation:逆高速フーリエ変換)を行い、ベースバンド信号を生成する。そのため、サブキャリアの数が増え、FFT(Fast Fourier Transformation:高速フーリエ変換)サイズが大きくなると、大きなピークを持つベースバンド信号が生成され、PAPR(Peak-to-Average Power Ratio:ピーク対平均電力比)が高くなるという性質を持っている。PAPRが高くなると、信号を歪みなく伝送するために広範囲において線形性を有する増幅器が必要となる。そこでPAPRを低減するための技術が開発されている。
【0003】
特許文献1では、PAPRを低減するため、IFFTを行う前に逐次決定法により算出した最適位相に基づきサブキャリア変調信号の位相を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−165781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
OFDM方式の通信では、PAPRを低減することが課題となっている。特許文献1では、PAPRを低減する最適位相を算出するために繰り返し計算処理を行い、サブキャリアごとに位相を制御する必要がある。また特許文献1に開示されている技術では、PAPRの低減の程度を制御することはできない。
【0006】
本発明は、上述のような事情に鑑みてなされたものであり、OFDM方式の通信において、PAPRの最大値を低減し、さらにPAPRの低減の程度を制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る通信機は、
直交周波数分割多重通信方式の無線通信により他の機器と通信を行う通信機であって、
入力信号を所定の変調方式で変調し、周波数成分が互いに直交するサブキャリアに割り当て、サブキャリア変調信号を生成する変調手段と、
前記サブキャリア変調信号の逆高速フーリエ変換を行って第1データを生成するIFFT手段と、
入力データの要素の順序を逆にして所定の要素の符号を反転させたデータを前記入力データに加算し、各要素を2で除算する演算手段と、
前記第1データを前記入力データとして前記演算手段の処理を行った後に、前記演算手段の処理を行った回数が所定の演算回数に達するまで、前記演算手段の演算結果を二等分し、分割後のそれぞれのデータを前記入力データとして前記演算手段の処理を繰り返し行う制御手段と、
前記演算手段の演算結果を分割したときの位置に並べて結合したデータを合成してベースバンド信号を生成する合成手段と、
前記ベースバンド信号から送信信号を生成して送信する送信手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
好ましくは、前記演算手段は、前記入力データの要素の順序を逆にしたデータの下半分の要素の符号を反転させる。
【0009】
本発明の第2の観点に係る通信機は、
直交周波数分割多重通信方式の無線通信により他の機器と通信を行う通信機であって、
送信信号を受信してベースバンド信号を生成する受信手段と、
前記ベースバンド信号を直並列変換して並列信号を生成する直並列変換手段と、
入力データを、2を所定の回数乗じた値である所定の個数のデータに等分して、分割後のそれぞれのデータの要素の順序を逆にして所定の要素の符号を反転させたデータを分割したときの位置に並べて結合したデータを前記入力データに加算する逆演算手段と、
前記並列信号を前記入力データとして前記逆演算手段の処理を行った後に、前記逆演算手段の処理を行った回数が所定の演算回数に達するまで、前記所定の回数を1ずつ減算して、前記逆演算手段の演算結果を前記入力データとして前記逆演算手段の処理を繰り返し行う受信側制御手段と、
前記逆演算手段の演算結果の高速フーリエ変換を行ってサブキャリア変調信号を生成するFFT手段と、
前記サブキャリア変調信号を所定の復調方式で復調する復調手段と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
好ましくは、前記逆演算手段は、前記分割後のそれぞれのデータの要素の順序を逆にしたデータの上半分の要素の符号を反転させる。
【0011】
本発明の第3の観点に係る通信方法は、
直交周波数分割多重通信方式の無線通信により他の機器と通信を行う通信機が行う通信方法であって、
入力信号を所定の変調方式で変調し、周波数成分が互いに直交するサブキャリアに割り当て、サブキャリア変調信号を生成する変調ステップと、
前記サブキャリア変調信号の逆高速フーリエ変換を行って第1データを生成するIFFTステップと、
入力データの要素の順序を逆にして所定の要素の符号を反転させたデータを前記入力データに加算し、各要素を2で除算する演算ステップと、
前記第1データを前記入力データとして前記演算ステップの処理を行った後に、前記演算ステップの処理を行った回数が所定の演算回数に達するまで、前記演算ステップの演算結果を二等分し、分割後のそれぞれのデータを前記入力データとして前記演算ステップの処理を繰り返し行う制御ステップと、
前記演算ステップの演算結果を分割したときの位置に並べて結合したデータを合成してベースバンド信号を生成する合成ステップと、
前記ベースバンド信号から送信信号を生成して送信する送信ステップと、
を備えることを特徴とする。
【0012】
好ましくは、前記演算ステップにおいて、前記入力データの要素の順序を逆にしたデータの下半分の要素の符号を反転させる。
【0013】
本発明の第4の観点に係る通信方法は、
直交周波数分割多重通信方式の無線通信により他の機器と通信を行う通信機が行う通信方法であって、
送信信号を受信してベースバンド信号を生成する受信ステップと、
前記ベースバンド信号を直並列変換して並列信号を生成する直並列変換ステップと、
入力データを、2を所定の回数乗じた値である所定の個数のデータに等分して、分割後のそれぞれのデータの要素の順序を逆にして所定の要素の符号を反転させたデータを分割したときの位置に並べて結合したデータを前記入力データに加算する逆演算ステップと、
前記並列信号を前記入力データとして前記逆演算ステップの処理を行った後に、前記逆演算ステップの処理を行った回数が所定の演算回数に達するまで、前記所定の回数を1ずつ減算して、前記逆演算ステップの演算結果を前記入力データとして前記逆演算ステップの処理を繰り返し行う受信側制御ステップと、
前記逆演算ステップの演算結果の高速フーリエ変換を行ってサブキャリア変調信号を生成するFFTステップと、
前記サブキャリア変調信号を所定の復調方式で復調する復調ステップと、
を備えることを特徴とする。
【0014】
好ましくは、前記逆演算ステップにおいて、前記分割後のそれぞれのデータの要素の順序を逆にしたデータの上半分の要素の符号を反転させる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、OFDM方式の通信において、PAPRの最大値を低減し、さらにPAPRの低減の程度を制御することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る通信機の構成例を示すブロック図である。
【図2】実施の形態に係る通信機の異なる構成例を示すブロック図である。
【図3】実施の形態における送信側の演算処理の構成例を示す図である。
【図4】実施の形態における送信演算の構成例を示す図である。
【図5】実施の形態における送信側の演算処理の異なる構成例を示す図である。
【図6】実施の形態における受信側の演算処理の構成例を示す図である。
【図7】実施の形態における受信演算の構成例を示す図である。
【図8】同一信号でシミュレーションしたベースバンド信号のPAPR特性を示す図である。
【図9】FFTサイズを16としてランダム信号を用いてシミュレーションしたベースバンド信号のPAPR特性を示す図である。
【図10】FFTサイズを2048としてランダム信号を用いてシミュレーションしたベースバンド信号のPAPR特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお図中、同一または同等の部分には同一の符号を付す。以下の説明において、IFFT(Inverse Fast Fourier Transformation:逆高速フーリエ変換)は、IFFTとIDFT(Inverse Discrete Fourier Transformation:逆離散フーリエ変換)を含む概念とする。したがって本発明の実施の形態においては、IFFTの代わりに、IDFTを行うよう構成してもよい。同様にFFT(Fast Fourier Transformation:高速フーリエ変換)は、FFTとDFT(Discrete Fourier Transformation:離散フーリエ変換)を含む概念とする。またIDFTおよびDFTを行う場合は、以下の説明におけるFFTサイズとは、DFTのサイズを意味する。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態に係る通信機の構成例を示すブロック図である。通信機1は、OFDM(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing:直交周波数分割多重)方式の無線通信により他の機器と通信を行う。通信機1は、アンテナ10、変調部11、直並列変換部12、IFFT部13、演算部14、送信部15、およびコントローラ20を備える。
【0019】
コントローラ20は、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)21、RAM(Random Access Memory)23、およびROM(Read-Only Memory)24を備える。複雑化を避け、理解を容易にするために、コントローラ20から各部への信号線が省略されているが、コントローラ20は通信機1の各部にI/O(Input/Output)22を介して接続しており、それらの処理の開始、終了、処理内容の制御を行う。
【0020】
RAM23には、例えば送信フレームを生成するためのデータが記憶されている。ROM24は、コントローラ20が通信機1の動作を制御するための制御プログラムを格納する。コントローラ20は、制御プログラムに基づいて、通信機1を制御する。
【0021】
図2は、実施の形態に係る通信機の異なる構成例を示すブロック図である。上述の通信機1に受信機能をもたせるため、図2に示す通信機1はさらに復調部31、並直列変換部32、FFT部33、逆演算部34、受信部35、および送受信切替部36を備える。送信機能および受信機能を備える図2に示す通信機1を用いて、通信機1が行う通信方法について以下に説明する。
【0022】
変調部11は、入力信号を所定の変調方式で変調し、変調信号を生成し、直並列変換部12に送る。変調方式として、例えばQPSK(Quadrature Phase-Shift Keying:四位相偏移変調)を用いる。直並列変換部12は、変調信号を直並列変換して並列信号を生成し、周波数成分が互いに直交するサブキャリアに割り当て、サブキャリア変調信号を生成する。そして、サブキャリア変調信号をIFFT部13に送る。IFFT部13は、サブキャリア変調信号のIFFTを行い、第1データを生成して演算部14に送る。
【0023】
演算部14は、入力データの要素の順序を逆にし、所定の要素の符号を反転させたデータを第1データに加算して、各要素を2で除算する送信演算処理を行う。演算部14は、まず第1データを入力データとして、送信演算処理を行う。所定の要素とは、例えば第1データの要素の順序を逆にしたデータの下半分の要素である。FFTサイズが8の場合は、第1データu(0)、第1データu(0)の要素の順序を逆にしたデータv(0)、およびデータv(0)の下半分の要素の符号を反転させたデータw(0)は、下記(1)式で表される。添え字の括弧内の数字は、送信演算処理を行った回数を示す。ここではまだ送信演算処理を1度も行っていないので、全て0に設定されている。
【0024】
【数1】

【0025】
第1データu(0)にデータw(0)を加算して2で除算した演算結果u(1)は、下記(2)式のように表される。第1データu(0)から演算結果u(1)を生成する一連の処理を送信演算処理という。演算部14は、演算結果データu(1)に基づきベースバンド信号を生成し、送信部15に送る。
【0026】
【数2】

【0027】
図3は、実施の形態における送信側の演算処理の構成例を示す図である。上記(1)式で表す第1データu(0)に送信演算処理を施すことで、上記(2)式で表す演算結果u(1)を生成する。図4は、実施の形態における送信演算の構成例を示す図である。図3中の各送信演算処理は、2つの入力データの和を2で除算したものおよび差を2で除算したものを出力する。演算部14は、図4に示す送信演算処理を、例えば図3のように組み合わせることで上記(2)式で表す演算結果u(1)を生成する。
【0028】
演算部14は、さらに上述の送信演算処理を繰り返すよう構成してもよい。演算部14は、送信演算処理を行った回数が所定の演算回数に達するまで、送信演算処理の演算結果を二等分して、分割後のそれぞれのデータを入力データとして送信演算処理を行う。すなわち、分割後のそれぞれのデータの、要素の順序を逆にしたデータの下半分の要素の符号を反転させたデータを分割後のそれぞれのデータに加算して2で除算する送信演算処理を繰り返す。
【0029】
図5は、実施の形態における送信側の演算処理の異なる構成例を示す図である。この場合は、所定の演算回数が3に設定されている。図5のステップ1を行うと、上述のとおり演算結果u(1)が得られる。ここで送信演算処理を行った回数は1であり、3に達していないので、さらにステップ2の処理を行う。演算部14は、演算結果u(1)を二等分する。そして、分割後のそれぞれのデータの要素の順序を逆にし、下半分の要素の符号を反転させたデータを分割したときの位置に並べて表すと、下記(3)式のデータw(1)のように表すことができる。
【0030】
【数3】

【0031】
演算部14は、分割後のそれぞれのデータに分割後のそれぞれのデータの要素の順序を逆にし、下半分の要素の符号を反転したデータを加算し、2で除算する。分割後のそれぞれのデータの演算結果を分割したときの位置に並べて表すと、下記(5)式の演算結果u(2)のように表すことができる。
【0032】
【数4】

【0033】
演算部14は、送信演算処理を行った回数は2であり、3に達していないので、さらに図5のステップ3の処理を行う。演算部14は、演算結果u(2)をの上半分のデータおよび下半分のデータをそれぞれ二等分する。そして、分割後のそれぞれのデータの要素の順序を逆にし、下半分の要素の符号を反転させたデータを分割したときの位置に並べて表すと、下記(5)式のデータw(2)のように表すことができる。
【0034】
【数5】

【0035】
演算部14は、分割後のそれぞれのデータに分割後のそれぞれのデータの要素の順序を逆にし、下半分の要素の符号を反転したデータを加算し、2で除算する。分割後のそれぞれのデータの演算結果を分割したときの位置に並べて表すと、下記(6)式の演算結果u(3)のように表すことができる。
【0036】
【数6】

【0037】
図5のu(3)、u(3)、・・・、u(3)は上記(6)式で表されるu(3)の各要素を示している。送信演算処理を行った回数が3に達したので、演算部14は、分割後のそれぞれのデータの演算結果を分割したときの位置に並べて結合した演算結果u(3)を合成してベースバンド信号を生成し、ベースバンド信号を送信部15に送る。送信部15は、ベースバンド信号から送信信号を生成し、送受信切替部36およびアンテナ10を介して他の機器に送信信号を送信する。
【0038】
なお演算部14は、最初の送信演算処理を行った後に、入力データの要素数が4で割り切れる間は、送信演算処理を任意の回数繰り返すことができる。所定の要素の符号を反転させたものを加算して2で除算することで、PAPR(Peak-to-Average Power Ratio:ピーク対平均電力比)を低減することができる。
【0039】
受信側での処理を以下に説明する。受信部35は、アンテナ10および送受信切替部36を介して送信信号を受信し、ベースバンド信号を生成する。そして、ベースバンド信号を直並列変換して並列信号を生成し、逆演算部34に送る。
【0040】
逆演算部34は、入力データを2を所定の回数乗じた値である所定の個数のデータに等分して、分割後のそれぞれのデータの要素の順序を逆にし、所定の要素の符号を反転させたデータを分割したときの位置に並べて結合したデータを入力データに加算する受信演算処理を行う。所定の回数の初期値は、所定の演算回数から1を減算した値である。所定の演算回数とは、送信側の演算部14で用いた所定の演算回数と同じ値であり、受信側は所定の演算回数についての情報を予め保持しているものとする。所定の要素とは、例えば分割後のそれぞれのデータの要素の順序を逆にしたデータの上半分の要素である。逆演算部14は、並列信号を入力データとして受信演算処理を行う。そして、逆演算部34は、所定の回数を1ずつ減算して、受信演算処理を行った回数が所定の演算回数に達するまで受信演算処理を繰り返す。
【0041】
図6は、実施の形態における受信側の演算処理の構成例を示す図である。図7は、実施の形態における受信演算の構成例を示す図である。図6中の各受信演算処理は、2つの入力データの和および差を出力する。逆演算部34は、図7に示す受信演算処理を、例えば図6のように組み合わせて並列信号から上記(1)式で表される第1データu(0)を生成する。
【0042】
FFTサイズが8であり、送信側の演算部14で用いた所定の演算回数が3である場合には、逆演算部14は、まず所定の回数を2に設定して処理を行う。並列信号r(0)は、演算部14が生成した演算結果u(3)に一致するので、下記(7)式で表される。添え字の括弧内の数字は、以下に説明する受信演算処理を行った回数を示す。ここではまだ受信演算処理を1度も行っていないので、0に設定されている。
【0043】
【数7】

【0044】
図6のr(0)、r(0)、・・・、r(0)は並列信号r(0)の各要素を示している。並列信号r(0)を2を2回乗じた値、すなわち4個のデータに等分し、分割後のそれぞれのデータの要素の順序を逆にし、上半分の要素の符号を反転させたデータを分割したときの位置に並べて結合した下記(8)式で表されるデータs(0)を生成する。
【0045】
【数8】

【0046】
逆演算部34は、並列信号r(0)にデータs(0) を加算する。ステップ1の演算結果r(1)は、下記(9)式で表される。
【0047】
【数9】

【0048】
ここで受信演算処理を行った回数は1であり、3に達していないので、所定の回数から1を減算して、ステップ2の処理を行う。逆演算部34は、演算結果r(1)を2を1回乗じた値、すなわち2個のデータに等分して、分割後のそれぞれのデータについて要素の順序を逆にし、上半分の要素の符号を反転させたデータを分割したときの位置に並べて結合した下記(10)式で表されるデータs(1)を生成する。
【0049】
【数10】

【0050】
逆演算部34は、s(1)をr(1)に加算する。演算結果r(2)は、下記(11)式で表される。
【0051】
【数11】

【0052】
逆演算部34は、受信演算処理を行った回数は2であり、3に達していないので、さらに図6のステップ3の処理を行う。所定の回数から1を減算すると0になるので、逆演算部34は、演算結果r(2)を1個のデータに等分、すなわち分割は行わずに、演算結果r(2)の要素の順序を逆にし、上半分の要素の符号を反転させて、下記(12)式で表されるデータs(2)を生成する。
【0053】
【数12】

【0054】
逆演算部34は、s(2)をr(2)に加算する。演算結果r(3)は、下記(13)式で表される。
【0055】
【数13】

【0056】
(3)は、上記(1)式で表される第1データu(0)に一致する。受信演算処理を行った回数が送信側で送信演算処理を行った回数と同じ3に達したので、逆演算部34は、演算結果r(3)をFFT部33に送る。FFT部33は、演算結果r(3)のFFTを行い、サブキャリア変調信号を生成し、並直列変換部32に送る。並直列変換部32は、サブキャリア変調信号を並直列変換し、直列信号を生成して復調部31に送る。復調部31は、直列信号を所定の復調方式で復調する。例えば、復調部31は直列信号のQPSK復調を行う。これにより変調部11で変調した入力信号を復調部31で復調して出力することができる。
【0057】
以上説明したとおり、本発明の実施の形態に係る通信機1によれば、OFDM通信方式において、IFFT後のデータに送信演算処理を施すことでPAPRを低減することが可能となる。また後述するように、PAPRの最大値を低減し、PAPRの低減の程度を制御することが可能となる。
【0058】
(具体例)
次に、シミュレーションにより本実施の形態に係る発明の効果を説明する。OFDM通信方式においては、入力信号が、例えば全て0もしくは1であるデータまたは10もしくは01が交互に繰り返されるデータのように、データシンボルが同一である同一信号の場合に、各サブキャリア変調信号の位相が一致するため、ベースバンド信号のPAPRが最大となる。PAPRの最大値を低減することで、増幅器において線形性が求められる範囲を狭めることができる。
【0059】
入力信号に同一信号を用いて、従来技術と本実施の形態に係る発明について、ベースバンド信号を生成し、PAPRの算出を繰り返すシミュレーションを行った。変調方式としてQPSKを用い、FFTサイズが16の場合と2048の場合のそれぞれについて、従来技術と本実施の形態に係る発明のPAPR特性を比較した。従来技術とは、演算部14において上述のような演算を加えずにサブキャリア変調信号からベースバンド信号を生成する方法である。本実施の形態に係る発明については、送信演算処理の回数を1回、2回、3回と変えてそれぞれシミュレーションを行った。
【0060】
図8は、同一信号でシミュレーションしたベースバンド信号のPAPR特性を示す図である。同一信号を用いた場合には、データによらずPAPRは一定であった。FFTサイズが16の場合、従来技術のPAPRは12.0dBである。それに対し、送信演算処理を1回行った場合のPAPRは9.0dB、2回行った場合のPAPRは6.0dB、3回行った場合のPAPRは3.0dBとなり、PAPRが低減されている。またFFTサイズが2048の場合、従来技術のPAPRは33.1dBであり、送信演算処理を1回行った場合のPAPRは30.1dB、2回行った場合のPAPRは27.1dB、3回行った場合のPAPRは24.1dBとなり、FFTサイズに関わらず、送信演算処理を行うたびに、PAPRが3.0dB低減されている。
【0061】
また入力信号にランダム信号を用いて同様のシミュレーションを行った。図9は、FFTサイズを16としてランダム信号を用いてシミュレーションしたベースバンド信号のPAPR特性を示す図である。横軸がシミュレーションを行った回数である計算回数、縦軸がPAPR(単位:dB)である。図9(a)は従来技術の場合、図9(b)は送信演算処理を1回行った場合、図9(c)は送信演算処理を2回行った場合、図9(d)は送信演算処理を3回行った場合のPAPR特性をそれぞれ示している。
【0062】
従来技術のPAPRの最大値は10.2dB、送信演算処理を1回行った場合のPAPRの最大値は9.4dB、送信演算処理を2回行った場合のPAPRの最大値は7.4dB、送信演算処理を3回行った場合のPAPRの最大値は7.4dBである。同一信号の場合に比べてPAPRの低減の程度は劣るが、送信演算処理を繰り返すことによりPAPRが低減されている。
【0063】
図10は、FFTサイズを2048としてランダム信号を用いてシミュレーションしたベースバンド信号のPAPR特性を示す図である。横軸がシミュレーションを行った回数である計算回数であり、縦軸がPAPR(単位:dB)である。図10(a)は従来技術の場合、図10(b)は送信演算処理を1回行った場合、図10(c)は送信演算処理を2回行った場合、図10(d)は送信演算処理を3回行った場合のPAPR特性をそれぞれ示している。
【0064】
従来技術のPAPRの最大値は12.5dB、送信演算処理を1回行った場合のPAPRの最大値は12.0dB、送信演算処理を2回行った場合のPAPRの最大値は12.6dB、送信演算処理を3回行った場合のPAPRの最大値は12.0dBである。送信演算処理を2回行った場合のPAPRの最大値は従来技術より高いが、送信演算処理を1回または3回行った場合は、同一信号の場合に比べてPAPRの低減の程度は劣るが、PAPRが低減されている。
【0065】
したがって、本実施の形態に係る発明によれば、OFDM通信方式において、送信演算処理を行うことでPAPRの最大値を低減し、さらに送信演算処理の回数を変更することでPAPRの低減の程度を制御することが可能となる。
【0066】
本発明の実施の形態は上述の実施の形態に限られない。変調部11の変調方式は、QPSKに限られず、QPSK以外のPSK(Phase Shift Keying:位相偏移変調)やQAM(Quadrature Amplitude Modulation:直角位相振幅変調)などを用いることができる。変調部11と直並列変換部12の順序を変えて、入力信号を直並列変換してサブキャリア信号に割り当て、並列信号の各データを所定の変調方式で変調するよう構成してもよい。その場合、受信側では復調部31と並直列変換部32の順序を変えて、復調処理を行う。
【0067】
IFFT部13は、IFFTの代わりにIDFTを行うよう構成してもよいし、FFT部33は、FFTの代わりにDFTを行うよう構成してもよい。演算部14は、並列信号および演算結果の偶数列または奇数列の要素の符号を反転させるよう構成してもよい。その場合、逆演算部34においては、演算部14とは逆に、奇数列または偶数列の要素の符号を反転させる。
【符号の説明】
【0068】
1 通信機
10 アンテナ
11 変調部
12 直並列変換部
13 IFFT部
14 演算部
15 送信部
20 コントローラ
21 CPU
22 I/O
23 RAM
24 ROM
31 復調部
32 並直列変換部
33 FFT部
34 逆演算部
35 受信部
36 送受信切替部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直交周波数分割多重通信方式の無線通信により他の機器と通信を行う通信機であって、
入力信号を所定の変調方式で変調し、周波数成分が互いに直交するサブキャリアに割り当て、サブキャリア変調信号を生成する変調手段と、
前記サブキャリア変調信号の逆高速フーリエ変換を行って第1データを生成するIFFT手段と、
入力データの要素の順序を逆にして所定の要素の符号を反転させたデータを前記入力データに加算し、各要素を2で除算する演算手段と、
前記第1データを前記入力データとして前記演算手段の処理を行った後に、前記演算手段の処理を行った回数が所定の演算回数に達するまで、前記演算手段の演算結果を二等分し、分割後のそれぞれのデータを前記入力データとして前記演算手段の処理を繰り返し行う制御手段と、
前記演算手段の演算結果を分割したときの位置に並べて結合したデータを合成してベースバンド信号を生成する合成手段と、
前記ベースバンド信号から送信信号を生成して送信する送信手段と、
を備えることを特徴とする通信機。
【請求項2】
前記演算手段は、前記入力データの要素の順序を逆にしたデータの下半分の要素の符号を反転させることを特徴とする請求項1に記載の通信機。
【請求項3】
直交周波数分割多重通信方式の無線通信により他の機器と通信を行う通信機であって、
送信信号を受信してベースバンド信号を生成する受信手段と、
前記ベースバンド信号を直並列変換して並列信号を生成する直並列変換手段と、
入力データを、2を所定の回数乗じた値である所定の個数のデータに等分して、分割後のそれぞれのデータの要素の順序を逆にして所定の要素の符号を反転させたデータを分割したときの位置に並べて結合したデータを前記入力データに加算する逆演算手段と、
前記並列信号を前記入力データとして前記逆演算手段の処理を行った後に、前記逆演算手段の処理を行った回数が所定の演算回数に達するまで、前記所定の回数を1ずつ減算して、前記逆演算手段の演算結果を前記入力データとして前記逆演算手段の処理を繰り返し行う受信側制御手段と、
前記逆演算手段の演算結果の高速フーリエ変換を行ってサブキャリア変調信号を生成するFFT手段と、
前記サブキャリア変調信号を所定の復調方式で復調する復調手段と、
を備えることを特徴とする通信機。
【請求項4】
前記逆演算手段は、前記分割後のそれぞれのデータの要素の順序を逆にしたデータの上半分の要素の符号を反転させることを特徴とする請求項3に記載の通信機。
【請求項5】
直交周波数分割多重通信方式の無線通信により他の機器と通信を行う通信機が行う通信方法であって、
入力信号を所定の変調方式で変調し、周波数成分が互いに直交するサブキャリアに割り当て、サブキャリア変調信号を生成する変調ステップと、
前記サブキャリア変調信号の逆高速フーリエ変換を行って第1データを生成するIFFTステップと、
入力データの要素の順序を逆にして所定の要素の符号を反転させたデータを前記入力データに加算し、各要素を2で除算する演算ステップと、
前記第1データを前記入力データとして前記演算ステップの処理を行った後に、前記演算ステップの処理を行った回数が所定の演算回数に達するまで、前記演算ステップの演算結果を二等分し、分割後のそれぞれのデータを前記入力データとして前記演算ステップの処理を繰り返し行う制御ステップと、
前記演算ステップの演算結果を分割したときの位置に並べて結合したデータを合成してベースバンド信号を生成する合成ステップと、
前記ベースバンド信号から送信信号を生成して送信する送信ステップと、
を備えることを特徴とする通信方法。
【請求項6】
前記演算ステップにおいて、前記入力データの要素の順序を逆にしたデータの下半分の要素の符号を反転させることを特徴とする請求項5に記載の通信方法。
【請求項7】
直交周波数分割多重通信方式の無線通信により他の機器と通信を行う通信機が行う通信方法であって、
送信信号を受信してベースバンド信号を生成する受信ステップと、
前記ベースバンド信号を直並列変換して並列信号を生成する直並列変換ステップと、
入力データを、2を所定の回数乗じた値である所定の個数のデータに等分して、分割後のそれぞれのデータの要素の順序を逆にして所定の要素の符号を反転させたデータを分割したときの位置に並べて結合したデータを前記入力データに加算する逆演算ステップと、
前記並列信号を前記入力データとして前記逆演算ステップの処理を行った後に、前記逆演算ステップの処理を行った回数が所定の演算回数に達するまで、前記所定の回数を1ずつ減算して、前記逆演算ステップの演算結果を前記入力データとして前記逆演算ステップの処理を繰り返し行う受信側制御ステップと、
前記逆演算ステップの演算結果の高速フーリエ変換を行ってサブキャリア変調信号を生成するFFTステップと、
前記サブキャリア変調信号を所定の復調方式で復調する復調ステップと、
を備えることを特徴とする通信方法。
【請求項8】
前記逆演算ステップにおいて、前記分割後のそれぞれのデータの要素の順序を逆にしたデータの上半分の要素の符号を反転させることを特徴とする請求項7に記載の通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−115513(P2013−115513A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258123(P2011−258123)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000100746)アイコム株式会社 (273)