説明

造形物の製造方法

【課題】再現すべき対象物と同じ形状をもつ造形物を高精度かつ効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】復元すべき対象物と略同形状を有する造形物を製造する方法であって、(1)当該対象物と略同形状の内部空間を有する成形型を粉末積層造形法により作製する第1工程、(2)当該内部空間の一部又は全部に造形物材料を充填する第2工程、(3)当該成形型を構成する成形型材料に対して可溶性の液体を用いて当該成形型を溶解させることによって当該造形物を取り出す第3工程を含む、造形物の製造方法に係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形物の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、形成外科、整形外科、口腔外科・歯科、その他再生医療等を含む医療分野において、インプラント材料の開発・実用化がよりいっそう盛んに押し進められている。これらの分野の中においては、インプラント材料によって疾病・傷害部位を治療するというだけでなく、治癒後の治療部位の見栄え(審美性)が要求されることも多い。このため、インプラント材料には高い再現性が求められるほか、所定の期間内に効果的な処置が施せるように適当なタイミングで迅速にインプラント材料が提供されることも必要となる。
【0003】
例えば、口腔外科又は歯科分野において用いられる義歯(人工歯)等は一般的に樹脂組成物から作製される。実際の方法としては、患者の歯の欠損した部分とほぼ同じ形状のものを再現し、それを人工歯として患者に装着するという手順がとられている。この場合、欠損した部分に石膏等で型をとり、その型に歯科用材料を充填した後、型から成形体を取り出し、さらに手作業で形を整えることにより人工歯に仕上げられているのが現状である。
【0004】
ところが、このような方法では、石膏等が硬化するまで身体を静止しなければならず、患者に精神的又は体力的な負担・苦痛を与えかねない。また、最終的な仕上げは歯科技工士により手作業で行われているものの、精密な仕上げができるようにまでには相応の熟練度が必要である。一方、仕上げが不完全なものであれば、装着時に患者に違和感を与えることにより、場合によって作り直しが必要となる。このように、人工歯の作製には手間と時間を要することから、その価格は比較的高価なものとなっている。
【0005】
これに関し、例えば、所望の歯形を有する歯形部と、該歯形部を支持する支持体とからなるワックスパターンを、型枠の中に立設させる工程と、上記型枠の中に歯科用埋没材を注入して、上記支持体の一端を残しそれ以外のワックスパターンを上記歯科用埋没材の中に埋没させる工程と、上記歯科用埋没材を焼成して上記ワックスパターンを気化させて、上記所望の歯型を有するキャビティを有する歯科用鋳型を形成する工程とを含み、上記歯科用埋没材は,半水石膏と耐熱材とからなる主成分に,炭酸カルシウムを添加混合してなることを特徴とする歯科用鋳型の製造方法が知られている(特許文献1)。その他にも、同様に熱で昇華又は焼失する材料からなるモデルを用いて鋳型を製造する方法が提案されている(特許文献2、特許文献3等)。
【0006】
また例えば、義歯の少なくとも一部分を製作するシステムであって、義歯テンプレートの表面を走査する3次元走査デバイスと、前記走査デバイスからデータを受信して前記表面の3次元モデルを作り出すコンピュータプログラムを含むコンピュータ可読媒体と、選択された材料から前記3次元モデルに基づいて前記義歯の少なくとも一部分を作り出す製作装置とを含むシステムが知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−87918
【特許文献2】特開平5−123343
【特許文献3】特開2009−516554
【特許文献4】特開2009−542342
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜3のような方法では、モデルとなるワックスパターンをいったん作製し、これを用いて型を製造しなければならず、工程が比較的煩雑なものとなってしまう。さらに、型を製造する工程では、ワックスパターンを気化(昇華)させる必要があり、その点において作業環境上の問題もあると言える。
【0009】
また、特許文献4のように、ラピットプロトタイピング機械を用いて義歯を直接作製する方法では、ラピットプロトタイピング機械に適用できる材料の種類に制約があるため、作製できる義歯の外観、物性等が限られてしまうという問題がある。
【0010】
従って、本発明の主な目的は、使用できる材料の制約を受けることなく、再現すべき対象物と同じ形状をもつ造形物を高精度かつ効率的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の成形型を用いて造形する工程を含む製造方法を採用することにより、さらには特定の工程を組み合わせることにより多層構造を形成することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、下記の造形物の製造方法に係る。
1. 復元すべき対象物と略同形状を有する造形物を製造する方法であって、
(1)当該対象物と略同形状の内部空間を有する成形型を粉末積層造形法により作製する第1工程、
(2)当該内部空間の一部又は全部に造形物材料を充填する第2工程、
(3)当該成形型を構成する成形型材料に対して可溶性の液体を用いて当該成形型を溶解させることによって当該造形物を取り出す第3工程
を含む、造形物の製造方法。
2. 第1工程の後、第2工程前及び/又は第2工程後に、当該造形物よりもサイズの小さな造形物を当該内部空間に装填する工程をさらに含む、前記項1に記載の製造方法。
3. 当該サイズの小さな造形物が、粉末積層造形法により作製された成形型を用いて製造されたものである、前記項2に記載の製造方法。
4. 当該サイズの小さな造形物が、コア部材及びその部材表面の一部又は全部に形成された1層又は2層以上の表面層からなる、前記項2に記載の製造方法。
5. 当該表面層は、粉末積層造形法により作製され、かつ、当該コア部材よりも大きな内部空間を有する成形型の当該内部空間にコア部材を装填し、残りの内部空間の空隙に造形物材料を充填することにより形成される、前記項4に記載の製造方法。
6. 当該成形型を構成する成形型材料が、少なくとも1種の水溶性化合物及び可溶性有機高分子を含む、前記項1に記載の製造方法。
7. 水溶性化合物が、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の少なくとも1種である、前記項6に記載の製造方法。
8. 第1工程の粉末積層造形法として、
(a)成形型材料を平面展開して粉末層を形成した後、水混和性有機溶媒及び水の少なくとも1種を含む散布液を当該粉末層の所定領域に散布することにより散布領域の粉末粒子どうしの結合強度を非散布領域の粉末粒子どうしの結合強度よりも高める工程、
(b)散布後の粉末層上にさらに粉末を平面展開して上部粉末層を形成した後、前記散布液を当該上部粉末層の所定領域に散布することにより散布領域の粉末粒子どうしの結合強度を非散布領域の粉末粒子どうしの結合強度よりも高める工程、
(c)前記(b)の工程を1回又は2回以上繰り返して前記散布領域の積層体からなる造形物を当該成形型として作製する工程
を実施する、前記項1に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、粉末積層造形法により製造された成形型を用いて造形物を製造するので、造形物材料の種類を選ぶことなく、対象物の形状を高精度に再現できる上、従来技術のようなワックスパターンの作製工程が不要になる等の理由から、より効率的に造形物を製造することができる。
【0014】
特に、本発明の製造方法では、多層構造を有する造形物を製造する場合も、粉末積層造形法により製造された成形型を用いることにより、層構成を高精度で制御することができる。例えば、後記の実施例にもあるように、任意の領域に所定の厚みをもつ表面層(コーティング層)を自由に形成することが可能となる。
【0015】
このような製造方法により製造される造形物は、例えば医療、電気・電子、化学、食品等の種々の分野における部材、部品等に幅広く利用することができる。特に、高い再現性が要求される分野、例えば医療分野におけるインプラント材料として好適に用いることができる。より具体的には、例えば人工歯、義歯床等の義歯関連、人工骨、人工関節、人工股関節、人工靭帯等のインプラント材料として本発明による造形物を好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の製造方法において、成形型を用いて造形物を製造する場合の工程例を示す模式図である。
【図2】本発明の製造方法において、成形型を用いて造形物を製造する場合の工程例を示す模式図である。
【図3】本発明の製造方法において、成形型を用いて造形物を製造する方法の一例を示す模式図である。
【図4】本発明の製造方法で用いられる成形型を粉末積層造形法で製造する工程例を示す図である。
【図5】実施例1で再現すべき対象物の模式図(断面図)である。
【図6】実施例1で使用された最終成形型の模式図(断面図)である。
【図7】実施例1で使用された第一の成形型の模式図(断面図)である。
【図8】実施例1で使用された第二の成形型の模式図(断面図)である。
【図9】実施例1において、第一の成形型から造形物を製造し、造形物を取り出した状態を示す模式図である。
【図10】実施例1において、第一の成形型による一次造形物を第二の成形型に装填して二次造形物を製造する状態を示す模式図である。
【図11】実施例1において、第二の成形型による二次造形物を最終成形型に装填して最終造形物を製造する状態を示す模式図である。
【図12】成形型の一部に造形物材料の注入通路の設置例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の造形物の製造方法は、復元すべき対象物と略同形状を有する造形物を製造する方法であって、
(1)当該対象物と略同形状の内部空間を有する成形型を粉末積層造形法により作製する第1工程、
(2)当該内部空間の一部又は全部に造形物材料を充填する第2工程、
(3)当該成形型を構成する成形型材料に対して可溶性の液体を用いて当該成形型を溶解させることによって当該造形物を取り出す第3工程
を含むことを特徴とする。
【0018】
本発明では、復元(再現)すべき対象物と実質的に同じ形状をもつ造形物を製造するものである。この場合の造形物は、少なくとも対象物の外形と実質的に同じ外形を有していれば良く、造形物の中心部は空洞(中空)であっても良いし、中心部が中空でなく全て充填されていても良い。以下、第1工程〜第3工程について順に説明する。
【0019】
<第1工程>
第1工程では、対象物と略同形状の内部空間を有する成形型を粉末積層造形法により作製する。例えば、図1(a)に示すように、対象物と略同形状の内部空間2を有する成形型1を製造する。
【0020】
成形型
本発明では、成形型(最終成形型等)における内部空間(成形空間)は、再現すべき対象物とほぼ同じ形状(外形、輪郭)とすれば良い。また、内部空間は、図1(a)のように閉鎖された空間であっても良いし、あるいは後記実施例の図6〜図8に示すように一部に開口部を有する開放系の空間であっても良い。さらには、図12のように、対象物と同じ形状の空間に加えて成形用材料の注入通路8を含む空間であっても良い。また、当該成形型は一体型であっても良く、あるいは複数に分割された型であっても良い。
【0021】
なお、本発明の製造方法にあっては、対象物としては、現実に存在する実物であっても良いし、あるいはコンピュータグラフィック等によって作製された三次元モデル等であっても良い。
【0022】
成形型の製造(必須工程)
成形型をつくるための粉末積層造形法自体は公知の方法を採用すれば良い。また、粉末積層造形法は、公知又は市販の装置を用いて実施することもできる。
【0023】
粉末積層造形では、例えば、まず対象物のCAD(Computer Aided Design)で作成された三次元データからコンピュータ上で反転させたデータ(反転データ)を作製し、その反転データを用いて成形型のデータ(成形型データ)を作成することができる。なお、対象物の三次元データの取得方法は、特に限定されないが、例えばCTスキャナー等の公知又は市販の装置から対象物の材質等に応じて適宜採択して実施すれば良い。
【0024】
次いで、前記成形型データを所望の厚さにスライスして複数の断面データに変換し、まず底部(最下部)の断面データに基づいてノズルを有する三次元プリンタにより散布液を平面展開された粉末層に散布し、さらに前記底部の上層の断面データに基づいて上部粉末層に散布液を散布するという工程を順次行うことにより、粉末層の積層体からなる成形型を得ることができる。
【0025】
より具体的には、下記の工程によって粉末層を積層する方法を好適に採用することができる。すなわち;
(a)粉末(成形型材料)を平面展開して粉末層を形成した後、水混和性有機溶媒及び水の少なくとも1種を含む散布液を当該粉末層の所定領域に散布することにより散布領域の粉末粒子どうしの結合強度を非散布領域の粉末粒子どうしの結合強度よりも高める工程、
(b)散布後の粉末層上にさらに粉末を平面展開して上部粉末層を形成した後、前記散布液を当該上部粉末層の所定領域に散布することにより散布領域の粉末粒子どうしの結合強度を非散布領域の粉末粒子どうしの結合強度よりも高める工程、
(c)前記(b)の工程を1回又は2回以上繰り返して前記散布領域の積層体からなる造形物を当該成形型として作製する工程、
を含む方法を好適に用いることができる。このようにして形成された造形物を本発明の成形型として製造することができる。
【0026】
上記方法において、粉末(成形型材料)を平面展開するに際しては、テーブル、平面板等の平面部を有する部材上に展開すれば良い。上記部材の材質は粉末が接着しないものであれば限定されず、例えば金属製部材、セラミックス製部材、プラスチックス製部材等を適宜用いることができる。
【0027】
また、平面展開により粉末層(上部粉末層)を形成する場合の粉末層の厚みは適宜調整することができる。一般的には1層当たり50〜200μm程度、好ましくは100〜200μmの範囲内とすれば良い。
【0028】
上記粉末(成形型材料)の種類としては特に限定されないが、水溶性化合物及び可溶性有機高分子の少なくとも1種を含む粉末を好適に用いることができる。例えば、少なくとも1種の水溶性化合物を含む粒子からなる粉末と可溶性有機高分子粉末を含む混合粉末を用いることもできる。
【0029】
水溶性化合物としては特に限定されないが、特にアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の少なくとも1種が好ましい。アルカリ金属塩としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、ヨウ化ナトリウム、臭化ナトリウム等のハロゲン化アルカリ金属塩のほか、酢酸ナトリウム等の有機酸塩等が挙げられる。アルカリ土類金属塩としては、例えば塩化カルシウム、塩化マグネシウム等のハロゲン化アルカリ土類金属塩;硫酸マグネシウム等の硫酸塩等が挙げられる。
【0030】
なお、任意成分として、水溶性化合物の固結防止剤として、例えばリン酸のカルシウム塩、ケイ酸のカルシウム塩のほか、シリカ、アルミナ、ジルコニア等の酸化物等を必要に応じて前記粉末(成形型材料)に添加することもできる。これらの固結防止剤は粉末形態で適宜使用すれば良い。
【0031】
可溶性有機高分子としては用いる水溶性化合物の種類等に応じて適宜選択すれば良い。例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、セルロース誘導体(メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース)、アラビヤゴム、ゼラチン、澱粉、小麦粉等が挙げられる。本発明では、これらの中でも、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等のように、水溶性有機高分子を用いることが好ましい。
【0032】
これらの粉末の平均粒径は特に限定されないが、粒子径が大きすぎると成形型表面の凹凸が増し、成形型精度が低下する一方、粒子径が小さすぎると粉末展開時、粉末の飛散及び散布液噴霧ノズルの目詰まりを生じやすくなるため、通常は350μm以下、特に10〜150μmとすることが好ましい。従って、例えば平均粒径20〜30μmの粉末も好適に使用することができる。上記範囲内の平均粒径を採用することによって、より高精度で成形型を製造することができる。
【0033】
上記散布液としては、水混和性有機溶媒及び水の少なくとも1種を含むものであれば良い。水混和性有機溶媒としては、例えば低級アルコール(エタノール、メタノール、プロパノール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、イソプロピルメチルケトン等)、酢酸アルキル(酢酸メチル、酢酸エチル等)等が挙げられる。また、これらの液体に水溶性化合物が溶解した溶液を用いることもできる。水溶性化合物としては、前記粉末(成形型材料)に用いられるものと同様のものを用いることができる。特に、前記粉末(成形型材料)との相乗作用により粉末(成形型材料)の接着強度を高める効果を有する水溶性化合物を用いることが好ましい。この場合の濃度は限定的ではなく、一般的には水混和性有機溶媒又は水への所定温度での溶解度(飽和溶解度)を上限として水溶性化合物の濃度を適宜設定することができる。
【0034】
成形型の製造(任意工程)
また、任意の工程として、本発明の製造方法では、特に成形型中にアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を含む場合、上記(a)〜(c)の工程に加え、必要に応じて下記の工程(任意工程)のいずれかを実施しても良い。より具体的には、前記で得られた成形型に対し、「工程(d)」、「工程(d)及び(e)」、「工程(d)及び(f)」又は「工程(d)(e)及び(f)」を実施することができる。これらの任意工程を実施することにより、成形型の硬度をよりいっそう向上させる等の効果を得ることができる。
【0035】
(d)成形型中に含まれるアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩に比べて融点が低いアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩からなる第2無機塩類と、水及び水混和性有機溶媒の少なくとも一方の液体とを含む処理組成物を成形型表面に付与する工程
(e)前記(d)の処理後、前記第2無機塩類が溶融する温度以上であり、かつ、前記混合粉末中に含まれるアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩のいずれか一方が溶融しない温度で加熱処理する工程、あるいは成形型中に含まれるアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩が溶融せず、前記第2無機塩類が溶融する温度で加熱処理する工程
(f) 前記成形型表面にさらに増粘剤及び層状ケイ酸塩から選ばれる少なくとも一方を含む液体を付与した後、前記増粘剤又は層状ケイ酸塩が分解しない温度で加熱処理する工程
【0036】
前記工程(e)で第2無機塩類として使用されるアルカリ金属塩としては、例えば塩化カリウム、ヨウ化ナトリウム、臭化ナトリウム等のハロゲン化アルカリ金属塩等が挙げられる。また、アルカリ土類金属塩としては、例えば塩化カルシウム、塩化マグネシウム等のハロゲン化アルカリ土類金属塩のほか、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム等の硫酸塩が挙げられる。
【0037】
第2無機塩類を水及び水混和性有機溶媒の少なくとも一方の液体に混合して用いる場合の濃度は特に限定されず、第2無機塩類の溶解度(飽和溶解度)を上限として適宜設定することができる。水混和性有機溶媒としては、前記散布液として例示したものと同様のものを使用することができる。
【0038】
前記処理組成物を成形型表面に付与する方法は限定的ではなく、例えば噴霧、塗布、浸漬等の方法を適宜採用することができる。
【0039】
前記工程(f)では増粘剤及び層状ケイ酸塩から選ばれる少なくとも一方を含む液体を用いるが、その場合の溶媒も工程(e)と同様のものを用いることができる。また、前記液体を付与する方法も、例えば噴霧、塗布、浸漬等の方法を適宜採用することができる。
【0040】
増粘剤としては、例えばグアガム、タラガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム等の種子由来多糖類;アラビアガム、カラヤガム等の樹脂由来多糖類;寒天、カラギナン、カードラン等の海草由来多糖類;キサンタンガム、ジェランガム、カードラン等の微生物由来多糖類;ペクチン、セルロース等の植物由来多糖類;キチン、キトサン等の甲殻由来多糖類等が挙げられる。その他にも、例えばウェランガム、セスバニアガム、アラビノガラクタン、エルウィニアミツエンシスガム、タラガム、アロエベラ抽出物、エレミ樹脂、ダルマン樹脂、ガディガム、エンテロバクターガム、デキストラン、トラガントガム、ファーセレラン、プルラン、アエロモナスガム、アグロバクテリウムスクシノグルカン、エンテロバクターシマナスガム、オリゴグルコサミン、カシアガム、グルコサミン等が挙げられる。
【0041】
層状ケイ酸塩としては、2:1型層状ケイ酸塩として、パイロフィライト−タルク族(パイロフィライト、タルク)、スメクタイト族(モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト)、バーミキュライト族(2八面体型バーミキュライト、3八面体型バーミキュライト)等を例示することができる。
【0042】
また、工程(e)(f)において、成形型の硬度を高めることができる温度で処理すれば良く、例えば成形型の材質、処理組成物の種類等に応じて適宜決定すれば良い。
【0043】
粉末積層造形法の実施態様
以下、本発明において、成形型を粉末積層造形法により製造する方法の一例を図示しながらより具体的に説明する。
【0044】
まず、図4(a)に示すように、テーブル40上に粉末(成形型材料)を平面展開して粉末層L1を形成した後、前記粉末層L1に対して断面データに基づいてノズルを有する三次元プリンタ(図示せず)により水混和性有機溶媒及び水の少なくとも1種を含む散布液をプリント(散布)する。このとき、前記粉末層L1の散布領域41aに存在する粉末粒子どうしの結合強度は、非散布領域41bに存在する粉末粒子どうしの結合強度よりも高くなる。
【0045】
次いで、図4(b)に示すように、前記散布後の粉末層L1上に粉末(成形型材料)をさらに平面展開して上部粉末層L2を形成した後、展開された上部粉末層L2に前述した断面データ(底部よりひとつ(一層)上の断面データ)に基づいてノズルを有する三次元プリンタにより前記散布液をプリント(散布)する。このとき、このとき、前記上部粉末層L2の散布領域42aに存在する粉末粒子どうしの結合強度は、非散布領域42bに存在する粉末粒子どうしの結合強度よりも高くなる。同時に、散布領域42aはその下の散布領域41aと結合される。
【0046】
同様に、図4(c)のように粉末層L3の形成及び散布液の付与による散布領域の形成を繰り返し、最上部の粉末層L6まで積層する。このような積層造形により、図4(d)に示すように複数回の散布による散布領域で形付けられた積層造形物44が得られる。
【0047】
次いで、図4(e)に示すように、この積層造形物44の内部の非散布領域の積層部分46の粉末の除去することにより、内部空間を有する成形型45として回収することができる。図4(e)のように非散布領域の積層部分46は閉鎖された区画内に存在している場合は、例えば1)積層造形物内部の粉末が除去できるように成形型を2つ以上に分割する方法、2)積層造形物内部の粉末が除去できるように成形型に1つ以上の取出用通路を形成する方法等を採用することができる。一方、前記積層部分46が開放された区画内に存在する場合は、開口部から粉末を除去すれば良い。
【0048】
得られた成形型は、必要に応じて、前記の型抜きの前又は後において、可溶性有機系高分子が造膜(硬化)する温度、例えば200℃以下の温度で乾燥しても良い。また、成形型は、必要に応じて可溶性有機系高分子成分が焼失する温度以上であり、かつ、無機成分が溶融しない温度範囲内で熱処理すること或いは前記工程(e)又は(f)で実施する温度条件で熱処理することもできる。この場合の熱処理雰囲気は大気中、酸化性雰囲気中、不活性ガス雰囲気中、真空中等のいずれであっても良く、無機成分の種類等に応じて適宜決定すれば良い。
【0049】
<第2工程>
第2工程では、成形型の内部空間の一部又は全部に造形物材料を充填する。例えば、図1(b)に示すように、成形型1における当該内部空間2の全部を造形物材料3で満たすことにより造形物を形成することができる。
【0050】
なお、図1(a)のように、内部空間2が閉鎖された空間である場合は、例えば1)造形物材料が内部空間に充填できるように成形型を2つ以上に分割する方法、2)造形物材料が内部空間に充填できるように成形型に1つ以上の造形物材料注入通路を形成する方法等を採用することができる。一方、内部空間2が開放されている場合は、当該開口部から造形物材料を充填すれば良い。
【0051】
全部充填
第2工程では、例えば図1(b)で示すように、内部空間のすべてを造形物材料で充填することができる。この場合には、単一(単層)の構造からなる造形物を製造することができる。
【0052】
また、第2工程後(かつ第3工程前)に、当該造形物よりもサイズの小さな造形物(一次造形物)を当該内部空間に装填しても良い。すなわち、例えば内部空間のすべてを造形物材料で充填した後(第2工程後)、当該造形物よりもサイズの小さな一次造形物を造形物材料で満たされた内部空間に挿入することにより、当該造形物表面の一部又は全部に当該造形物材料からなる表面層を形成することができる。この場合、余剰の造形物材料は内部空間外にはみ出るので、それを取り除けば良い。当該造形物よりもサイズの小さな一次造形物としては、特に限定されず、例えば後記に示す「一部充填」の場合で用いられるコア部材又は多層造形物と同様のものを使用することもできる。従って、例えばその中心部を構成するコア部材とその部材表面の一部又は全部に形成された表面層の少なくとも1層とからなる成形体を用いることもできる。
【0053】
一部充填
また、第2工程では、成形型の内部空間の一部に造形物材料を充填することにより造形物を形成する工程を実施することもできる。内部空間の一部に造形物材料を充填する場合としては、対象物の外形の一部又は全部が再現できる方法であれば特に限定されない。例えば、1)図2(a)〜(d)に示すように、第2工程前において、当該造形物よりもサイズの一次造形物4を予め内部空間2に装填し、内部空間の残りの空隙5に造形物材料6を充填する方法、2)図3に示すように、空洞部7が形成されるように、内部空間の内表面のみに造形物材料3を充填する方法、3)内部空間の一部に造形物材料を充填した後、当該造形物よりもサイズの小さな一次造形物を装填する方法等が挙げられる。
【0054】
前記1)の方法により、図2(d)に示すように、多層構造を有する造形物を製造することができる。前記2)の方法では、空洞部を有する造形物を製造できるほか、空洞部に造形物材料を充填することにより多層構造を有する造形物を得ることもできる。前記3)の場合は、前記1)の方法等と同様、多層構造を有する造形物を製造することができる。前記3)では、余剰の造形物材料は内部空間外にはみ出ることがあるが、前記の場合と同様、はみ出した分は取り除けば良い。
【0055】
前記1)又は3)の方法においては、当該造形物よりもサイズの小さな一次造形物が使用されるが、この一次造形物はいずれの成形方法で得られたものであっても良い。例えば、押出成形法、射出成形法、粉末積層造形法等のいずれも採用することができる。特に、本発明では、所望の三次元データを用いて精密な造形物を効率的に製造することができるという点では粉末積層造形法を好適に用いることができる。
【0056】
また、前記一次造形物は、その中心部を構成するコア部材とその部材表面の一部又は全部に形成された表面層の少なくとも1層とからなる多層造形物であっても良い。コア部材としては、いずれの成形法によって製造されたものであっても良い。また、表面層の形成は特に限定されず、例えばスプレー法、浸漬法等のほか、成形型(鋳型)を用いる方法を採用することができる。例えば、コア部材よりも大きなサイズの内部空間を有する成形型を用い、当該成形型の内部空間に装填し、その残りの内部空間の空隙に表面層用造形物材料を充填する工程を採用することにより、所定の一次造形物を得ることができる。また、上記工程を2回以上繰り返すことによって、表面層を2層以上形成することができる。この場合の成形型としては特に限定されないが、例えば粉末積層造形法により造形された成形型を用いることもできる。これにより、層構成をよりいっそう精密に制御することができる。
【0057】
前記2)の方法としては、内部空間の内表面に造形物材料による層構成が形成されるように実施できる限り制限されない。例えば、前記1)のように予め一次造形物を装填し、内部空間の残りの隙間に造形物材料を充填した後、その一次造形物を取り除くことによって空洞部を有する造形物を製造することができる。この場合、一次造形物は、いわゆる型枠として機能することになる。このような型枠としての機能は、例えば液体(溶媒又は溶液)等によって除去できるような材料で構成される一次造形物を使用すれば良い。例えば、水溶性化合物及び可溶性有機高分子を含む粉末を用いた粉末積層造形法により作製された一次造形物を型枠として使用すれば、水又は水溶液で溶解させることができるので、容易に一次造形物を除去することができる。すなわち、型枠としての一次造形物を除去した後に空洞部が形成される結果、空洞部を有する造形物を得ることができる。さらに、空洞部を有する造形物を製造した後、さらに前記空洞部に造形物材料を充填したり、あるいはコア部材を挿入すれば、多層構造を有する造形物を得ることができる。
【0058】
本発明において、多層構造を有する造形物を製造する場合、各層の形成領域、厚み等は適宜設定することができる。各層の形成箇所は造形物全体であっても良いし、所定の一部分であっても良い。また、各層の厚みも互いに同じ厚みでも良いし、異なる厚みとしても良い。さらには、各層の厚みも、均一に制御することができるほか、例えば勾配、凹凸等を付与することもできる。各層の厚みは、例えば5mm以下の範囲内でも制御できるが、その範囲に限定されるものではない。
【0059】
なお、前記1)〜3)の方法において、一次造形物又はコア部材を成形型の内部空間に装填する場合、位置決めする方法としては、例えばCTスキャナー等を用いて一次造形物又はコア部材と成形型との中心(軸)を揃える方法、装填する深さを予め設定する方法等の公知の方法を採用することができる。また、位置決めした後は、一次造形物又はコア部材を例えばピン、ワイヤ、粘着テープ、土台等の支持体を用いて所定の位置に固定すれば良い。
【0060】
成形型中での造形
本発明の製造方法では、成形型中に充填した造形物材料から所定の造形物を作製する。造形物の造形方法(硬化方法)は、用いる造形物材料の種類等に応じて適宜選択することができる。例えば造形物材料としてレジン系材料を用いる場合は、通常はモノマー、オリゴマー、ポリマー、重合開始剤、重合促進剤及び必要に応じてフィラー等を予め混練(混合)し、その混錬(混合)物を成形型に充填し、その成形型内で重合反応を引き起こさせることにより造形物を得ることもできる。
【0061】
一方、レジン(ポリマー)系材料を成形型に充填する場合は、レジン系材料を加熱したり、成形型を溶解させない溶媒にレジン系材料を溶解又は分散させることで粘性又は流動性のある状態とし、成形型に充填させ、冷却又は溶媒を揮発させて硬化させても良い。また、熱可塑性樹脂を用いる場合は、成形型に熱可塑性樹脂を充填した後、加熱等を施すことにより成形型内で一時粘性を持たせた後、硬化させると良い。
【0062】
また、造形物材料として無機材料を用いる場合は、無機材料を成形型に充填した後に熱処理を行うことにより無機材料どうし結合させたり、成形型を溶解させない溶媒に無機材料を溶解又は分散させて成形型に充填した後に溶媒を揮発させて造形物を得ることができる。
【0063】
造形物材料及びコア部材
本発明の製造方法で使用する造形物材料又はコア部材の材質は特に限定的でなく、例えば目的とする造形物の用途、使用形態等に応じて有機材料、無機材料、金属材料等の各種材料の中から1種又は2種以上を適宜選択することができる。例えば、造形物がインプラント材料(日本の薬事法にいう「医療機器」に属するもの)として用いられる場合は、次に示すような材料を好適に用いることができる。例えば、高分子系材料として、常温、加熱、光重合反応により硬化させるMMA系(メチルメタアクリレート)、EDMA系(エチレングリコールジメタクリレート)、TMM系(テトラメチロールメタンメタクリレート)、MEPP系(2,2−ビス(4メタクリロキシポリエトキシ)フェニルプロパン、UDMA系(ウレタンジメタアクリレート)、Bis-GMA系(2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシ−3メタクリロイルオキシプロピルオキシ)フェニル)プロパン及びTEGDMA系(トリエチレングリコールジメタクリレート)やポリカーボネート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、天然高分子(セルロース、キトサン等)等を用いることができる。さらに、これらレジン等(樹脂等)にフィラー(酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、酸化ジルコン、酸化チタン、リン酸カルシウム系化合物、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム系化合物、カルシウムアルミネート系化合物、アミノシリケート系化合物、炭化ケイ素、カーボン、SiO2-Na2O-CaO-P2O5系化合物、SiO2-CaO-Na2O-P2O5-K2O-MgO系化合物、CaO-P2O5-SiO2-Al2O3系化合物、SiO2-B2O3-Al2O3-MgO-K2O-F系化合物、SiO2-CaO-MgO-P2O5系化合物、CaO-P2O5系化合物等)を配合したコンポジットレジンを使用することもできる。
【0064】
また、無機材料としては、例えばヒドロキシアパタイト、アルミナ、ジルコニア、長石、石英、二酸化ケイ素、酸化チタン、リン酸カルシウム系化合物、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム系化合物、カルシウムアルミネート系化合物、アミノシリケート系化合物、炭化ケイ素、カーボン、SiO2-Na2O-CaO-P2O5系化合物、SiO2-CaO-Na2O-P2O5-K2O-MgO系化合物、CaO-P2O5-SiO2-Al2O3系化合物、SiO2-B2O3-Al2O3-MgO-K2O-F系化合物、SiO2-CaO-MgO-P2O5系化合物、CaO-P2O5系化合物等を用いることができる。
【0065】
また、予め内部空間に充填する造形物(又はコア部材)にあっては、前記のような材料のほか、金属成形体を用いることもできる。金属成形体としては、溶製材又は焼結体のいずれであっても良い。金属の種類としては造形物の用途、使用態様等に応じて適宜選択すれば良い。例えば、金、銀、鉄、銅、チタン、鋼、ステンレス鋼、チタン系合金、コバルト−クロム系合金、コバルト−クロム−モリブデン系合金等が挙げられる。
【0066】
第3工程
第3工程では、成形型を構成する成形型材料に対して可溶性の液体を用いて成形型を溶解させることによって造形物を取り出す。例えば、図1(c)に示すように、図1(b)の成形型2を液体で溶解させることにより成形型を構成する材料を取り除くことによって、その中にある造形物を回収することができる。
【0067】
液体により溶解させる方法は限定的ではなく、例えば液体を成形型に噴霧する方法、成形型を液体に浸漬する方法等のいずれであっても良い。また、第3工程では、造形物が回収できる程度に溶解させれば良い。従って、成形型を一部又は全部を溶解させれば良い。すなわち、成形型をすべて溶解させても良いが、造形物が回収可能な限りは必ずしもすべてを完全に溶解させる必要はなく、一部を溶解させれば良い。さらに、成形型の溶解を促進するために、液体を適宜加温してから使用しても良い。
【0068】
上記液体としては、成形型を構成する主たる粉末成分(成形型材料)に対して可溶性であれば良い。より具体的には、成形型を構成する粉末に対して可溶性を有し、かつ、造形物に対して難溶解ないしは不溶性の液体を好適に用いることができる。これらは、前記のように水混和性有機溶媒及び水の少なくとも1種を好適に用いることができる。例えば、造形物が水不溶性の樹脂含有組成物からなり、成形型を構成する主たる粉末成分(例えば50重量%以上、特に70重量%以上)が塩化ナトリウムである場合は、前記の可溶性液体として水を好適に用いることができる。すなわち、成形型を水で除去できることから、造形物を変形又は崩壊させることなくそのまま取り出すことができる。しかも、成形型を水で溶解させたものは食塩水となるので、廃水問題の懸念も生じないという点で有利である。
【実施例】
【0069】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0070】
実施例1
本発明の製造方法により2層の表面層を有する義歯を作製した。
復元する対象物としては、図5に示すように、完成後に土台からモデル義歯を切削加工により切り取ることを前提として、モデル義歯及びそれを固定する土台を一体化したものとした。この対象物の三次元データをCTスキャナーにより入手し、そのデータに基づき、図6に示すように、前記対象物とほぼ同一形状の内部空間を有する成形型(最終成形型)を市販の粉末積層造形装置を用いて作製した。成形型材料としては、スプレードライ法により調製された粉末を用いた。この粉末の組成としては、塩化ナトリウム80重量%、ポリビニルピロリドン5重量%及び硫酸マグネシウム15重量%の合計100重量%に対して固結防止剤としてリン酸カルシウム2重量%を含むものを用いた。また、散布液としては、グリセリン5重量%含有の染料インクを用いた。
【0071】
また、別途に、前記成形型の内部空間よりも小さな内部空間を有する成形型2個を製造すべく、前記三次元データをコンピュータ上で加工して2つの成形型の三次元データを作製した。それぞれのデータに基づいて、2つの成形型を前記の同様の粉末積層造形法により作製した。第一の成形型は、図7に示すように、コア部材を作製するための成形型である。第二の成形型は、図8に示すように、コア部材よりも大きく、かつ、対象物よりも小さな内部空間を有する成形型である。従って、各成形型の内部空間の大きさは、小さなものから第一の成形型<第二の成形型<最終成形型の順となる。各内部空間の大きさの関係は、これらの成形型により形成される表面層の厚みが1〜2mm程度の範囲となるように調整した。
【0072】
このようにして得られた各成形型を用いて多層構造を有する義歯を作製した。まず、図9に示すように、第一の成形型の内部空間をすべて歯科用レジン(製品名「レペジアン」株式会社ジーシー製)で充填した後、硬化させた。次いで、第一の成形型を水で溶解させることによって、一次造形物(コア部材)を取り出した。
【0073】
その後、コア部材として得られた一次造形物を第二の成形型に装填した。この場合、コア部材の所定の領域に表面層が形成できるように、中心(軸)を合わせながら土台を使って固定した。次いで、コア部材の装填により形成された内部空間の空隙に接着剤(製品名「レペジアン」株式会社ジーシー製)で充填した。この状態の断面構成を図10に示す。接着剤の充填は、第二の成形型の適当な箇所に注入通路(図示せず)を設け、そこから注入を行うことにより実施した。その後、第二の成形型を水で溶解させることによって、二次造形物を取り出した。
【0074】
次いで、前記二次造形物を最終成形型に装填した。この場合も、表面層が所定の領域に形成されるように、中心(軸)を合わせながら土台を使って固定した。そして、図11のように、前記二次造形物と最終成形型の内部空間との空隙に歯科用コーティング剤(製品名「レペジアン」株式会社ジーシー製)を充填し、硬化させた。コーティング剤の充填は、第二の成形型の適当な箇所に注入通路(図示せず)を設け、そこから注入を行うことにより実施した。その後、最終成形型を水で溶解させることによって、目的とする最終造形物を取り出した。得られた最終造形物は、コア部材と2層の表面層とからなる多層構造体であり、再現すべき対象物とほぼ同じ形状を有していた。その後、通常の切削加工により造形物から土台部分を切り取って最終目的物である義歯(人工歯)を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
復元すべき対象物と略同形状を有する造形物を製造する方法であって、
(1)当該対象物と略同形状の内部空間を有する成形型を粉末積層造形法により作製する第1工程、
(2)当該内部空間の一部又は全部に造形物材料を充填する第2工程、
(3)当該成形型を構成する粉末に対して可溶性の液体を用いて当該成形型を溶解させることによって当該造形物を取り出す第3工程
を含む、造形物の製造方法。
【請求項2】
第1工程の後、第2工程前及び/又は第2工程後に、当該造形物よりもサイズの小さな造形物を当該内部空間に装填する工程をさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
当該サイズの小さな造形物が、粉末積層造形法により作製された成形型を用いて製造されたものである、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
当該サイズの小さな造形物が、コア部材及びその部材表面の一部又は全部に形成された1層又は2層以上の表面層からなる、請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
当該表面層は、粉末積層造形法により作製され、かつ、当該コア部材よりも大きな内部空間を有する成形型の当該内部空間にコア部材を装填し、残りの内部空間の空隙に造形物材料を充填することにより形成される、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
当該成形型を構成する成形型材料が、少なくとも1種の水溶性化合物及び可溶性有機高分子を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
水溶性化合物が、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の少なくとも1種である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
第1工程の粉末積層造形法として、
(a)成形型材料を平面展開して粉末層を形成した後、水混和性有機溶媒及び水の少なくとも1種を含む散布液を当該粉末層の所定領域に散布することにより散布領域の粉末粒子どうしの結合強度を非散布領域の粉末粒子どうしの結合強度よりも高める工程、
(b)散布後の粉末層上にさらに粉末を平面展開して上部粉末層を形成した後、前記散布液を当該上部粉末層の所定領域に散布することにより散布領域の粉末粒子どうしの結合強度を非散布領域の粉末粒子どうしの結合強度よりも高める工程、
(c)前記(b)の工程を1回又は2回以上繰り返して前記散布領域の積層体からなる造形物を当該成形型として作製する工程
を実施する、請求項1に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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