説明

運動用手袋

【課題】手袋表面に配設したベルトの巻き回しと巻き締めによって手首の返しを習得・実践させる運動用手袋において、ベルトを手の掌面側に位置させることなく効果を確保できる運動用手袋を提供すること。
【解決手段】手袋表面の第5中手骨骨底部照応位置近傍にベルトを取付固定すると共に第2中手骨骨頭部照応位置近傍にベルトの挿通具を付設し、このベルトを取付固定した始端部から手袋表面の甲面側に沿って挿通具付設位置まで巻き回すと共に、挿通具を介して始端部方向へ巻き返し、巻き締めた上で始端部近傍位置に止着するよう構成してなる運動用手袋。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動用手袋、さらに詳しくは、手袋に配設されたベルトを手袋の表面側から巻き回し巻き締めることにより手首を返す正しい運動動作を支持・補助・誘導してその効率的な習得と効果的な実践を図る運動用手袋に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフ、テニス、野球など各種スポーツにおいて、「手首の返し」と呼ばれる手首の運動動作が競技力を支え競技成績を左右する重要な要素であることは周知のところであるが、この「手首の返し」が日常の生活行動を通して体得される一般的な動作でもなく、意識的コントロールが容易な利き手の動作でもないことから、その習得と実践には大きな困難が伴っており、特にスポーツに関する豊かな知識や恵まれた練習環境を持たないスポーツ愛好者一般にとっては、スポーツを楽しむ上でも技量を向上させる上でも、乗り越え難い壁になってしまっている。
【0003】
ここで、「手首の返し」と呼ばれる運動動作について具体的に見ると、図6に示す通り、前腕を構成する橈骨41並びに尺骨45と手を構成する5本の中手骨47が手根骨42を介して形成する手関節の運動動作であり、このため、その良好で円滑な運動動作は前腕動作と手関節動作双方の複雑でタイミングの良い連動ないし協動がなければ成立しない関係にあることが分かる。
【0004】
さらに、ゴルフクラブのスイングを例にとって手首の運動動作を仔細に観察すると(右利きの場合に左手首が示す正しい運動動作)、クラブの振り出すトップ位置からインパクトまでは、手関節を伸ばしながら第1指側の前腕橈骨41方向へ傾屈する伸展・橈屈で、前腕の回旋は抑制されているが、インパクトからフォロースルーにかけては、手関節を軽く伸ばしながら第5指側である前腕尺骨45方向へ傾屈する軽度伸展・尺屈へと転じ、前腕も手首を軸として手を第1指方向甲側へ捻る顕著な回外動作を示しており、このインパクト時から示される左手首の運動動作(前腕の回外動作と橈屈した手関節を尺屈させる動作のタイミングの良い円滑な連動ないし協動)が「手首の返し」に当たる。
【0005】
上記の通り、この「手首の返し」は正しい運動動作と適切なタイミングの習得と実践が困難なため、指導や練習の場で種々の工夫や試みが重ねられてきたが、特許文献における従来技術は殆ど見ることができず、実効性のある優れた従来提案としては僅かに特開2009−167558号公報を見出し得るに止まる。
【0006】
当該従来例は、「手首の返し」の運動動作を具体的に分析・検討した上で、これが前腕の回外動作と手関節の尺屈動作の複合にかかることを正しく指摘し、その効果的な習得と効率的な実践のためには外部から手首に正しい運動動作の方向と形を与え、その外力の支持・補助・誘導の下に正しい運動動作を反復して体得することが最も効果的であるとすると共に、一般愛好者も含めスポーツに勤しむ人々がこのような正しい運動動作の支持・補助・誘導を容易且つ廉価に受けることを可能にする手段として表面にベルトを取り付けた運動用手袋を挙げ、かかる運動用手袋を装着してベルトを手袋表面から所定方向・所定位置に巻き回し巻き締めて止着すれば手首に方向性のある力を継続的に与えることができ、この方向性ある持続的な力を利用して手首の正しい運動動作を支持・補助・誘導して反復させれば、困難な「手首の返し」を効率的に習得させ効果的に実戦させることが可能であるとしている。
【0007】
当該従来例が提案する運動用手袋は、基本的に、前腕の回外動作を支持・補助・誘導するベルト機能部分(以下、第1ベルトと呼ぶ)と手関節の尺屈動作を支持・補助・誘導するベルト機能部分(以下、第2ベルトと呼ぶ)とを手袋表面に取付固定してなるもので、第1ベルトは、手首表面の橈骨茎状突起43の隆起部照応位置付近を始端部として取付固定し、手袋表面の背側を腕尺関節列隙部44の照応位置まで巻き回すと共に腹側へ廻して手首外周を巻き回し、ベルトを引いて巻き締めた上でベルト終端を始端部位置付近に止着するものとしており、巻き締めたベルトを始端部位置に止着し前腕手首部に巻き締め方向の力を与えることで、その回外動作を支持・補助・誘導する。(上記文中の符号は、図6に基づいて本願人が付記したものである。)
【0008】
他方の第2ベルトは、手首表面の腕尺関節列隙部44の照応位置付近を始端部として取付固定してなるもので、手袋表面の掌面に沿って第1指と第2指の股部まで巻き上げると共に該位置から手袋表面の甲面側へ引き出して巻き下ろし、ベルトを引いて巻き締めた上でベルト終端を始端部位置付近に止着するものとしており、巻き締めたベルトを始端部位置に止着し手に巻き締め方向の力を与えることで、手関節の尺屈動作と前腕回外動作が与えるべき手を第1指方向甲側へ捻るような回旋動作を支持・補助・誘導する。(上記文中の符号も、図6に基づいて本願人が付記したものである。)
【0009】
従来例に係る運動用手袋の基本的な構成は上記の通りで、手袋表面から巻き回したベルトを巻き締め始端部位置で止着することにより手首に方向性のある力を継続的に与えられる点、その力の方向を手首のあるべき運動動作方向と一致させることにより正しい運動動作の持続的な支持・補助・誘導を可能にする点で傾聴に値すると共に、本発明者も追試実験でその効果の一端を体感しており、困難であるとされた「手首の返し」の習得と実践の克服に新たな可能性を拓くものであることは認められるが、その容易な利用と普及を阻む大きな問題が残されていることも否定できない。
【0010】
その問題とは、上記第2ベルトの構成にある。即ち、従来例の第2ベルトは、第1指と第2指の股部を介して手袋表面の掌側から甲側へベルトを巻き廻している結果、手袋を装着した手の掌面上にベルトが位置することを避けられず、また、第1指と第2指の股部はベルトを挟んだ状態に置かざるを得ない。
【0011】
しかしながら、誰もが日常的に経験するように、手の掌面に位置する異物の存在はモノや道具を握持または保持すべき手の機能に対する支障に他ならず、しかも、握持・保持動作における主要肉体部位となる第1指と第2指の股部に夾雑物がある時、その支障はより大きなものとならざるを得ず、現実的支障がもたらされない場合にも装着者に対して大きな抵抗感と不安感を抱かせると考えるのが自然である。
【0012】
例えば、最も参加人口の多いスポーツの一つであるゴルフの場合、性別を問わず、年齢も幅広く、体力も運動能力もスポーツ履歴も多岐に亘る多数の参加者・愛好者を考えれば、手袋表面の掌面側に位置し第1指と第2指の股部に挟在するベルトによって、ゴルフクラブなどの握持・保持に現実の支障を来す少なからぬプレイヤーの存在を予想しなければならず、さらには一般愛好者(特に、初級者・年少者・高齢者)を中心に多数のプレイヤーが強い抵抗感や不安感を抱くものと考えなければならない。
【0013】
この種の支障、抵抗、不安が発明実施の途を狭め商品としての市場性を大きく制約することは言うまでもないところであり、特に従来例に係る運動用手袋が正しい運動動作の支持・補助・誘導により「手首の返し」の容易で廉価な習得を求める一般愛好者を主対象とすることを考える時、手袋表面の掌面側に位置すると共に第1指と第2指の股部に挟在する第2ベルトの存在は、本来の対象者の利用と普及を阻む重大な問題であると考えざるを得ない。
【0014】
このように、従来例の運動用手袋における第2ベルトの在り方はそれ自体で大きな問題と言えるが、さらに問題を大きくしているのは、この問題が容易な解決を許さないところにある。
【0015】
なぜならば、既に説明した通り、従来例の運動用手袋における第2ベルトは、その巻き締めによって手関節を容易に尺屈させ手を第1指方向甲側へと捻るように回旋させるが、この動きは前腕の正しい回外動作が行われた場合に得られる手首の運動動作に他ならず、第2ベルトは前腕の良好な回外動作が結果として与える手首の運動動作を支持・補助・誘導し、これによって「手首の返し」において最も重要であるとされる前腕の正しい回外動作を促して第1ベルトによる支持・補助・誘導を容易にするという極めて重要な役割を果たしているからである。
【0016】
したがって、第2ベルトが手の掌面に位置し第1指と第2指の股部に挟在することを嫌ってこれを除き、橈骨茎状突起43の隆起部を始端部として手首外周を巻き回す第1ベルトだけに依存して前腕の回外動作を支持・補助・誘導しようとしても、その効果は大きく減じてしまいさらには失われる恐れさえある。
【0017】
さらに、第2ベルトの機能を残しながら、ベルトが手の掌面側に位置することを避けようと図り、第1指と第2指の股部照応位置の近傍(例えば、第2中手骨骨頭部47b照応位置)を始端部固定位置とするベルトを腕尺関節列隙部44方向へ巻き下ろし巻き締めて止着しても、ベルトの始端部固定位置と止着位置が異なるため、ベルトの始端部が巻き締めによる力で腕尺関節列隙部44方向へ引かれてずれてしまう上に、手袋表面に大きな撓みや変形が生じることを避けられず、ベルトが手首に与える力と方向が大きく低減もしくは消失することとなり、手首の正しい運動動作を良好に支持・補助・誘導する効果は到底期待できない。(図7b)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2009−167558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の課題は、上記した困難を克服し、手袋表面にベルトを巻き回し巻き締めて止着することにより手首の運動動作の習得と実践を図る運動用手袋にあって、ベルトを手の掌面側に位置させないと共に、ベルトによる正しい運動動作の支持・補助・誘導を低減も消失もさせず、誰もが支障や抵抗を感ずることなく容易且つ簡便に装着利用できる運動用手袋を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
請求項1の発明は、少なくとも手の甲面と掌面に装着できる手袋基体と該手袋基体の表面に配設されたベルトとを有してなる運動用手袋であって、前記手袋基体表面の第5中手骨骨底部照応位置の近傍に前記ベルトの一端側が固定可能に取り付けられてなると共に、前記手袋基体表面の第2中手骨骨頭部照応位置の近傍に前記ベルトの挿通具が付設されてなり、前記ベルトが前記手袋基体表面の第5中手骨骨底部照応位置の近傍から第2中手骨骨頭部照応位置の近傍に至る甲面側の領域に巻き回すと共に前記挿通具を介して再び前記第5中手骨骨底部照応位置の近傍まで巻き返すに足る長さを有してなること、を特徴とする運動用手袋である。
【0021】
請求項2の発明は、前記手袋基体がその表面の第5中手骨骨底部照応位置近傍から第2中手骨骨頭部照応位置近傍に至る甲面側の領域に弾性率の低い硬質素材からなる補強部を有してなること、を特徴とする請求項1に記載の運動用手袋である。
【0022】
請求項3の発明は、前記ベルトにおいて、前記手袋基体表面の第5中手骨骨底部照応位置の近傍に取り付けられた一端側から前記第2中手骨骨頭部照応位置の近傍まで巻き回す部分が、弾性率の低い硬質素材によって構成されてなること、を特徴とする請求項1または請求項2に記載の運動用手袋である。
【0023】
請求項4の発明は、前記ベルトがその開放終端側に延長部を備えてなり、該延長部が前記手袋基体表面の第5中手骨骨底部照応位置の近傍から手首部の腹側を経て手首部外周を巻き回し前記第5中手骨骨底部照応位置の近傍で止着するに足る長さを有してなることを、を特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の運動用手袋である。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明によれば、手袋表面の第5中手骨骨底部照応位置近傍(腕尺関節列隙部照応位置のやや上部)を始端部とするベルトを第2中手骨骨頭部照応位置近傍(第1指と第2指の股部照応位置近傍)まで巻き回した上で挿通具を介して始端部まで巻き返し始端部位置で巻き締めて止着するよう構成しているので、手の掌面にベルトが位置しない一方、手関節の正しい運動動作を支持・補助・誘導する機能も低減ないし消失させておらず、誰もが支障や抵抗を来すことなく容易に装着利用可能な運動用手袋を実現し提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る運動用手袋の一例を示す正面図である。(実施例1)
【図2】本発明に係る運動用手袋の手袋基体表面に取付固定したベルトの巻き回し過程の一例を示す正面図である。(実施例1)
【図3】本発明に係る運動用手袋の手袋基体表面に取付固定したベルトの巻き回し過程の一例を示す正面図である。(実施例1)
【図4】本発明に係る運動用手袋の手袋基体表面に取付固定したベルトの巻き回し過程の一例を示す正面図である。(実施例1)
【図5】本発明に係る運動用手袋の手袋基体表面に取付固定するベルトの一例を示す正面図並びに背面図である。(実施例1)
【図6】人間の左手の骨格構造を模式的に示す正面図並びに背面図である。
【図7】ベルトの巻き締め状態を模式的に示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
手の掌面側にベルトを位置させず、しかもベルトの巻き回し巻き締めによって手関節の正しい運動動作を良好に支持・補助・誘導する機能も確保するという目的を、最小の部材点数で、特段のコスト上昇を伴わずに実現した。
【実施例1】
【0027】
図1は本発明をゴルフ用手袋に実施した一例を示すもので、手袋1は、ゴルフ用手袋の一般と同様に、手の甲面と掌面を収容して覆う手袋基体11と、第1指ないし第5指を収容する指袋13と、装着ベルト15を備えた手首部12とからなっており、手袋基体11の甲面上で第5中手骨に照応する適宜位置から手首部12にかけて、手袋1の装着時に開披して装着を容易にするスリット14が設けられ、手首部12表面の腕尺関節列隙部照応位置近傍には係着片3が縫着されている。
【0028】
また、手袋基体11表面甲面側の第5中手骨骨底部47a照応位置(腕尺関節列隙部照応位置のやや上部位置)には、手袋表面に巻き回し巻き締めて手首の正しい運動動作を支持・補助・誘導するためのベルト2をその一端側で取付固定しており、本実施例ではスリット14の尺骨45方向端縁部に縫着した。
【0029】
同様に、手袋基体11表面甲面側の第2中手骨骨頭部47b照応位置(親指と人差し指の股部照応位置の近傍)には、ベルト2を挿通するに適した開口を有する挿通具が設けられており、本実施例では環4をその開口に通した布片で回動自在に縫着した。
【0030】
さらに、手袋基体11表面甲面側のベルト取付固定位置から環4付設位置に亘る領域に弾性率の低い硬質素材からなる適幅の補強材5を縫着し、手の動きや外力による撓みや変形が生じにくい補強部を形成している。
【0031】
他方、ベルト基体11表面にその一端側を取付固定されるベルト2は、少なくとも、始端部の取付固定位置(第5中手骨骨底部47a照応位置)から環4の付設位置(第2中手骨骨頭部47b照応位置)まで巻き回し、環4に挿通した上で再び始端部取付固定位置(第5中手骨骨底部47a照応位置)まで巻き返すに足る長さを必要とするが、本実施例のベルト2では、その開放終端側に、第5中手骨骨底部47a照応位置から手首の腹側を通して同位置まで手首外周を巻き回すに足る長さを有する延長部22cを与え、1本の長尺なベルトとして構成した。(図5)
【0032】
さらに、本実施例に係るベルト2では、始端部固定位置から環4付設位置に亘って巻き回す巻き回し部22aに弾性率の低い硬質素材を用いる一方、環4付設位置から始端部固定位置に亘って巻き戻す巻き返し部22bと延長部22cには弾性率の高い伸縮素材を用い、ベルト2表面側(ベルト2を始端部固定位置から手袋基体11表面の甲面側環4付設位置方向へ載置した際の表側)の開放終端縁と裏面側の長手方向略中央位置(巻き返し部22bと延長部22cに亘る位置)に係着片3を設けている。(図5)
【0033】
本実施例に係る運動用手袋は以上の構成を有してなるものであって、その装着に際しては、ベルト2の巻き回し部22aを始端部である取付固定位置から環4の付設位置まで巻き回して終端側を環4の開口に通し、環4に通したベルト2を折り返してベルト2の巻き返し部22bを再び取付固定位置まで巻き戻して巻き締めると共に、巻き返したベルト2の延長部22cを手首腹側に回して手首外周を巻き回し、終端側から引いて巻き締めた上でベルト2の表裏面と手首部12の表面に設けた係着片3,3、3によって始端部である取付固定位置の近傍にしっかりと係止する。
【0034】
本実施例に係る運動用手袋は以上のように装着してベルト2を巻き回し巻き締め止着するものであり、始端部である第5中手骨骨底部照応位置近傍から巻き回し第2中手骨骨頭部照応位置近傍に設けた環4を介して巻き返し巻き締めたベルト2が巻き返し位置の環4を強く始端部方向へ引く構成を採っているが、この力によって環4の位置が大きくずれ、或いは、始端部から環4付設位置に亘る手袋基体11表面の領域に撓みや変形を生じるなどして、手関節の運動動作を支持・補助・誘導するベルト2の力と方向が低減したり消失するところはないので、この点に付き詳細に説明する。
【0035】
既に従来技術に関する説明で指摘したように、前腕の腕尺関節列隙部(第5中手骨骨底部近傍)を始端部とするベルトを手の掌面側に巻き上げて第1指と第2指の股を通して手の甲面側に巻き下ろし始端部まで巻き締めて止着する従来例の第2ベルトに対して、ベルト始端部を第2中手骨骨頭部照応位置(第1指と第2指の股部近傍)とし第5中手骨骨底部照応位置(腕尺関節列隙部近傍)まで巻き下ろし巻き締めて止着した場合には、巻き締めの力によってベルト始端部が終端方向へ引かれて大きくずれ、或いはベルト始端部から終端部に亘る手袋基体表面領域の大きな撓みや変形を避けることができず、このズレ・撓み・変形がベルトから手首に与える力と方向を奪ってしまい、手首の正しい運動動作を支持・補助・誘導することはできない。
【0036】
しかしながら、本発明によれば、始端部の取付固定位置から環4付設位置に巻き回したベルト2が環4を介して巻き返されている結果、巻き回し部22aと巻き返し部22bが重合位置し、内側に位置する巻き回し部22aによって手袋基体11表面が手の甲面に強く押し付けられており、これによって環4の付設位置(巻き返し位置)やベルト始端部が大きくずれたり手袋基体11表面に大きな撓みや変形が生じる恐れが効果的に抑制されているので、ベルト2から手首に与えられる力と方向が低減ないし消失するところはなく、手関節を尺屈させ手を第1指方向甲側へ捻るように回旋させる正しい運動動作の支持・補助・誘導を良好に持続させることができる。
【0037】
併せて付言するならば、ベルト2の巻き返し位置(第2中手骨骨頭部照応位置)に環4を用いた結果、巻き回し部22aと巻き返し部22bの重合状態が巻き締める力に応じて自然に微調整されるので、巻き締める力の如何によって巻き回し部22aの手袋基体11表面に対する押接が弛むなど、手袋基体11表面を手の甲面に押し付ける力が大きく変化する恐れもない。
【0038】
さらに、本実施例では、手袋基体11表面甲面側のベルト取付固定位置から環4付設位置に亘る領域に弾性率の低い硬質素材からなる適幅の補強材5を縫着すると共に、ベルト2の始端部固定位置から環4付設位置に亘る巻き回し部22aに同様に弾性率の低い硬質素材を用いているから、ベルト2を巻き回し巻き返し巻き締めた際に巻き回し部22aが当接する手袋基体11表面を手の甲面に強く押し付け、ベルト2の巻き返し位置(環4付設位置)や始端部のズレ並びに手袋基体1表面の撓みや変形に抗って抑制する力がより強く安定的に保持されており、ベルト2が手首に与える力と方向を失う恐れは殆ど考えられない。
【0039】
また、本実施例のベルト2に設けた延長部22cは本発明の実施に必須のものではないが、この延長部22cを手首外周に巻き回し巻き締めて止着することで、「手首の返し」において最も重要な前腕の回外動作はより効果的に支持・補助・誘導される関係にある。
【0040】
即ち、従来技術の説明で触れた通り、従来例では橈骨茎状突起43の隆起部照応位置近傍を始端部として取付固定したベルトを腕尺関節列隙部44の照応位置近傍を経て手首の甲側から腹側へ亘る手首外周に巻き回し巻き締め始端部近傍で止着することによって前腕の正しい回外運動を支持・補助・誘導する方向性のある持続的な力を手首に与えることができるとしており、本発明者も追試実験でこれを体感確認したが、同時に、ベルトが橈骨茎状突起の隆起部照応位置近傍と腕尺関節列隙部の照応位置近傍に巻き回されている限り、ベルトを時計回り方向に引いて巻き締めれば、ベルト始端部固定位置の如何に関わらず、前腕の正しい回外動作を支持・補助・誘導する方向性ある一定以上の力が持続的に得られることも確認した。(図7a)
【0041】
本実施例におけるベルト2の延長部22cは、ベルト2全体の始端部でもある第5中手骨骨底部照応位置(腕尺関節列隙部照応位置のやや上部)を始端部とし、手首腹側から背側に亘って手首外周を巻き回し巻き締めているが、従来例が言う橈骨茎状突起の隆起部照応位置近傍と腕尺関節列隙部の照応位置近傍の2点を通して巻き回され、同一始端部位置(腕尺関節列隙部照応位置近傍である第5中手骨骨底部照応位置)で止着されているため、従来例同様に前腕の正しい回外動作を支持・補助・誘導する方向性ある持続的な力が生まれており、手関節の正しい運動動作(手関節の尺屈と手の甲側第1指方向への回旋)を支持・補助・誘導するベルト2の巻き回し部22a並びに巻き返し部22bが手関節に与える方向性ある力と相俟って、「手首の返し」を効率的に習得させ効果的に実践させる優れた効果を奏している。
【0042】
なお、本実施例では、最適実施例として、ベルト2の始端部固定位置から環4付設位置に亘る巻き回し部22aが弾性率の低い硬質素材からなり、環4付設位置から始端部固定位置に亘る巻き返し部22bと手首外周に巻き回す延長部22cとが弾性率の高い伸縮素材からなるベルト2を採用したが、ベルト2の全体を伸縮素材で形成した場合にも巻き回し部22aと巻き返し部22bの重合によって巻き回し部22aが手袋基体11を手の甲面に押し付ける力が大きく低減することはなく、ベルト2によって手首に与えられる方向性のある力が解消ないし消失して正しい運動動作の支持・補助・誘導が失われる恐れはないから、任意に選択し得る全ての素材からなるベルトが本発明の範囲に含まれることは言うまでもないところである。
【0043】
また、本実施例のベルト2から延長部22cを除いた場合にも、巻き回し部22aと巻き返し部22bが手関節を尺屈させ手を甲側第1指方向へ捻るように回旋させる運動動作(前腕の正しい回外動作がなされた場合に手関節が示す運動動作)を支持・補助・誘導するので、手首外周には他の任意の手段・方法を講じることで「手首の返し」の習得と実践を効果的に助けることができ、或いは手首外周に何らの手段・方法を講じない場合でも一定以上の効果を確保することができるから、いずれも本発明の範囲に含まれる。
【0044】
ここで、延長部22cを有する本実施例のベルト2では、手首外周を巻き回し巻き締めた延長部22cの終端部を係着片3,3により始端部近傍に係止することで巻き返し部22bの終端位置も始端部近傍に止着されているが、延長部22cを持たないベルトを用いる場合には、始端部位置と巻き返し部22b終端の双方に係着片などを設けて係止し、安定的に止着する必要があることは言うまでもないところである。
【0045】
さらに、本実施例では手袋基体11表面甲面側のベルト取付固定位置から環4付設位置に亘る領域に弾性率の低い硬質素材からなる補強材5を縫着して補強部を形成し、ベルト2が手首に与える力と方向を持続的に保持する効果を高めたが、異なる他の公知な方法で同様の硬質な補強部を形成することは可能であり、補強部を形成しない場合にも巻き回し部22aによって手袋基体11が手の甲面に押し付ける力が大きく低減し、手首の正しい運動動作を支持・補助・誘導する本発明の効果が失われる訳ではないから、同様にいずれも本発明の範囲に属する。
【0046】
併せて付言するに、本実施例においては、手袋基体11表面甲面側の第2中手骨骨頭部照応位置に付設すべきベルトの挿通具として環4を用いたが、巻き回したベルト2を終端側から挿通し巻き返すことができるあらゆる挿通具を任意に選択して用い得ることも、言を待たないところである。
【符号の説明】
【0047】
1 手袋
2 ベルト
3 係着片
4 環
5 補強材
11 手袋基体
12 手首部
13 指袋
14 スリット
15 装着ベルト
22a 巻き回し部
22b 巻き返し部
22c 延長部
41 橈骨
42 手根骨
43 橈骨茎状突起
44 腕尺関節列隙部
45 尺骨
47 中手骨
47a 第5中手骨骨底部
47b 第2中手骨骨頭部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも手の甲面と掌面に装着できる手袋基体と該手袋基体の表面に配設されたベルトとを有してなる運動用手袋であって、前記手袋基体表面の第5中手骨骨底部照応位置の近傍に前記ベルトの一端側が固定可能に取り付けられてなると共に、前記手袋基体表面の第2中手骨骨頭部照応位置の近傍に前記ベルトの挿通具が付設されてなり、前記ベルトが前記手袋基体表面の第5中手骨骨底部照応位置の近傍から第2中手骨骨頭部照応位置の近傍に至る甲面側の領域に巻き回すと共に前記挿通具を介して再び前記第5中手骨骨底部照応位置の近傍まで巻き返すに足る長さを有してなること、を特徴とする運動用手袋。
【請求項2】
前記手袋基体がその表面の第5中手骨骨底部照応位置近傍から第2中手骨骨頭部照応位置近傍に至る甲面側の領域に弾性率の低い硬質素材からなる補強部を有してなること、を特徴とする請求項1に記載の運動用手袋。
【請求項3】
前記ベルトにおいて、前記手袋基体表面の第5中手骨骨底部照応位置の近傍に取り付けられた一端側から前記第2中手骨骨頭部照応位置の近傍まで巻き回す部分が、弾性率の低い硬質素材によって構成されてなること、を特徴とする請求項1または請求項2に記載の運動用手袋。
【請求項4】
前記ベルトがその開放終端側に延長部を備えてなり、該延長部が前記手袋基体表面の第5中手骨骨底部照応位置の近傍から手首部の腹側を経て手首部外周を巻き回し前記第5中手骨骨底部照応位置の近傍で止着するに足る長さを有してなることを、を特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の運動用手袋。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−106040(P2011−106040A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259991(P2009−259991)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(309039680)株式会社エー.エム.ディー.エンタープライズ (1)
【Fターム(参考)】