説明

運転者保護装置

【課題】コンパクトで低コストの構造で設置が容易であって目立たず、作動時に与える危害を最小としつつ確実に運転者の安全を確保する運転者保護装置を提供する。
【解決手段】拘束用枠体110が運転席170と助手席180との間の空間の周囲に沿う外形を呈して中央を開放した開放枠部112と開放枠部112の回転中心となる回転軸部111とを有し、開放枠部112の開放面を運転席と助手席の間の空間を前後方向に開放するように設置され、駆動機構130が拘束用枠体110の開放枠部112を前後方向に開放する待機位置から一方向に回転駆動可能であるとともに、駆動機構130が運転席170と助手席180との間に設置されたコンソールボックス150の内部に収用されている運転者保護装置100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転席の後方から接近する物体を遮断し運転者を保護する運転者保護装置に関し、特に、タクシー等の運転席の運転者が後部座席に乗車している乗客から刃物等の凶器で危害が加えられる被害を防止する運転者保護装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、タクシー等において、運転席の背もたれ上部に運転席と後部座席とを遮断する防犯用の透明板等を配設固定した運転者保護装置が周知である。
これらの周知の運転者保護装置では助手席後部側から危害が加えられることを防止できないため、助手席側にも防犯用の透明板等を配設固定して前部座席と後部座席を完全に遮断したものも知られている。
【0003】
しかしながら、前部座席と後部座席を完全に遮断した場合、夜間のヘッドライトやネオン光が反射し運転の支障となるとともに、運転者と乗客とのコミュニケーションや運賃等の受け渡しに支障が生じたり、乗客にとって前方の視認性が悪く圧迫感があるなど、サービス面で問題があった。
【0004】
これらの問題を解決するために、運転者が危険を感じたときに、隔離用のエアバックを作動させるものや、後部座席に向けて仕切りバー等を倒したり刺激性のガス等を噴射して乗客の動きを封じたりする運転者保護装置が提案されている(例えば、特許文献1、2、3等参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−112215号公報(全頁、全図)
【特許文献2】特開2006−130951号公報(全頁、全図)
【特許文献3】実用新案登録3151955号公報(全頁、全図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの公知の運転者保護装置は、装置が大がかりなものとなり設置にコストと手間がかかるという問題があった。
また、勘違い等で誤って作動させた場合に乗客に危害を与えてしまう虞があるとともに、その後の復帰作業に手間がかかることもあって、慎重な取扱いが必要となるため、運転者が操作をためらい、緊急時の対処が遅れてしまうという問題があった。
【0007】
さらに、運転者保護装置が大がかりなものとなると、車室内の限られたスペースに設置することが困難であるとともに、設置された外観も不自然なものとなり、乗客に対し圧迫感を与えたり、善意の乗客にとっては、自分が疑われているのではないかと疑念に駈られたり、不快感を生じさせてしまう、というような問題もあった。
また、駆動機構などがむき出しになっていると、悪意の乗客からみれば、どの部分を破壊すれば運転者保護装置を無効化できるか見て取られ、該保護装置を破壊されてしまう虞を生じることも問題であった。
【0008】
その上、従来一般に使用されていた防犯壁のような、運転席と後部座席との間を完全に隔絶するような分離壁を設けてしまうと、通常、車両の前方側に設けられているエアコン吹き出し口からの吹き出される冷気又は温風などが後部座席まで行き渡らないため、別途、エアコンダクト、吹出口などの空調用設備を設ける必要が生ずる、という問題があった。
【0009】
本発明は、前述したような従来技術の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、コンパクトで低コストの構造で設置が容易であって目立たず、作動時に与える危害を最小としつつ確実に運転者の安全を確保する運転者保護装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本請求項1に係る発明は、運転席と助手席との間に立設される拘束用枠体と該拘束用枠体を回転する駆動機構とを備えて後方から接近する物体を遮断し運転者を保護する運転者保護装置であって、前記拘束用枠体が運転席と助手席との間の空間の周囲に沿う外形を呈して中央を開放した開放枠部と該開放枠部の回転中心となる回転軸部とを有し、該開放枠部の開放面を運転席と助手席の間の空間を前後方向に開放するように設置され、前記駆動機構が前記拘束用枠体の開放枠部を前後方向に開放する待機位置から一方向に回転駆動可能であるとともに、前記駆動機構が運転席と助手席との間に設置されたコンソールボックスの内部に収用されていることにより、前記課題を解決するものである。
【0011】
本請求項2に係る発明は、請求項1に記載された運転者保護装置の構成において、前記駆動機構が、運転席と助手席との間に設置されたコンソールボックスに装着された箱状体の内部に収容されていることにより、前記課題を解決するものである。
【0012】
本請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載された運転者保護装置の構成に加えて、前記駆動機構が、前記拘束用枠体の回転軸部を一方向に回転付勢する弾性体と、前記回転軸部に係合して前記拘束用枠体を前後方向に開放する待機位置に固定するストッパと、前記運転者の操作により前記ストッパを作動させてストッパと回転軸部との係合を解除する操作機構とを有し、前記操作機構がストッパと回転軸部との係合を解除すると前記拘束用枠体が前記弾性体の回転付勢力により回転駆動されることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【0013】
本請求項4に係る発明は、請求項3に記載された運転者保護装置の構成に加えて、前記弾性体が、前記拘束用枠体の開放枠部をねじり方向に弾性力を付与するねじりコイルばねであり、該ねじり方向の力によって前記拘束用枠体の回転軸を回転付勢することにより、前記課題をさらに解決するものである。
【0014】
本請求項5に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載された運転者保護装置の構成に加えて、前記駆動機構が前記拘束用枠体の回転軸部に連結したモータと運転席の周辺に設置した操作スイッチとを有し、前記モータが前記操作スイッチの操作で作動して前記拘束用枠体の回転軸部を回転させることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【0015】
本請求項6に係る発明は、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載された運転者保護装置の構成に加えて、前記拘束用枠体が、前記開放枠部の開放面を車両正面から助手席側に向ける方向に回転駆動又は回転付勢されることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【発明の効果】
【0016】
本請求項1に係る発明は、運転席と助手席との間に立設される拘束用枠体とこの拘束用枠体を回転する駆動機構とを備えて後方から接近する物体を遮断し運転者を保護する運転者保護装置であって、拘束用枠体が運転席と助手席との間の空間の周囲に沿う外形を呈して中央を開放した開放枠部と当該開放枠部の回転中心となる回転軸部とを有し、開放枠部の開放面を運転席と助手席の間の空間を前後方向に開放するように設置され、駆動機構が拘束用枠体の開放枠部を前後方向に開放する待機位置から一方向に回転駆動可能であるとともに、駆動機構が運転席と助手席との間に設置されたコンソールボックスの内部に収用されていることにより、開放枠部を備える拘束用枠体及びこれを回転駆動する駆動機構というような簡便な機構から運転者保護装置が構成されるため、簡単でコンパクトな構造で低コストの運転者保護装置を構成することができるとともに、通常は開放枠部を前後方向に開放して運転者と乗客との間で金銭等の授受を自由に行えるようにしておき、危害を意図した乗客(以下、「悪意の乗客」と称する。)が拘束用枠体の開放枠部から腕、刃物等を突き出そうとしたときには、運転者の操作により拘束用枠体を回転駆動して、後方から接近して開放枠部に突き出された悪意の乗客の腕若しくは凶器を払いのけるか、ねじって拘束するので、運転者は、悪意の乗客が手間取っている隙に車外に脱出するか、あるいは腕が拘束された悪意の乗客を取り押さえるかする、時間的、空間的余裕を充分に確保するので、運転者を安全に保護することができる。
【0017】
また、拘束用枠体が運転席と助手席との間の空間部の周囲に沿う外形を呈していることにより拘束用枠体の開放枠部を経由せずに運転者の側に何らかの物体を侵入させることを阻止するため、拘束用枠体の回転動作によって後方から接近して開放枠部に突き出された腕または凶器が確実に拘束され、あるいは、腕に持った凶器等が払い除けられるため、作動時に相手に与える危害を最小としつつ運転者が悪意の乗客を取り押さえたり車外へ逃げる時間を稼ぐことが可能となり、運転者の安全を充分に確保することができる。
【0018】
さらに、駆動機構が運転席と助手席との間に設置されたコンソールボックスの内部に収用されていることにより、運転者保護装置を構成する部材が乗客の座乗する後方シート側に突出することもなく、しかも駆動機構などが乗客の視界に入らず拘束用枠体の機能も俄には乗客からはわからないため、乗客が圧迫感や不快感を抱くことを解消できるとともに、露出した駆動機構部品により乗客が怪我をする虞を無とすることができ、一方では、悪意の乗客により露出した拘束用枠体の駆動機構などを破壊されることを阻止することができる。
また、運転者が勘違い等で動作させても乗客が拘束用枠体に腕、刃物等を挿入していない限り乗客に危害を及ぼすこともないため、運転者が操作をためらい緊急時の対処に遅れる虞を未然に防止することができる。
【0019】
その上、従来のように運転席と後部座席側との間を完全に隔絶するような分離壁を設けることがなく、拘束用枠体の開放枠部や助手席側の上部などを通じて冷気又は温風が後部座席まで流通するため、別途空調設備を講ずることなく後部座席にまで充分空調を行き渡らせることができる。
【0020】
本請求項2に係る発明の運転者保護装置は、請求項1に係る運転者保護装置が奏する効果に加えて、駆動機構が、運転席と助手席との間に設置されたコンソールボックスに装着された箱状体の内部に収容されていることにより、タクシー特有の乗客サービス用の機器とあわせて運転席と助手席との間の空間に装着するため、拘束用枠体を車室内の装備品の一部のようにカムフラージュして装着するため、乗車する乗客に圧迫感や不快感を抱かせることなく、サービスを向上して乗客に好印象を抱かせることができるとともに、運転席と助手席との間に存在する空間を減少してそこに設置する拘束用枠体の寸法を小さくするため、運転者保護装置の強度を向上することができて運転者の保護動作をより確実なものとすることができる。
さらに、既存のタクシー車両にオプションとして装着する場合にも、車室内の構造に大幅な改造を加えることなく最小限の改造で設置することができる。
【0021】
本請求項3に係る発明の運転者保護装置は、請求項1又は請求項2に係る運転者保護装置が奏する効果に加えて、駆動機構が、拘束用枠体の回転軸部を一方向に回転付勢する弾性体と回転軸部に係合して拘束用枠体を前後方向に開放する待機位置に固定するストッパと運転者の操作により前記ストッパを作動させてストッパと回転軸部との係合を解除する操作機構とを有し、操作機構がストッパと回転軸部との係合を解除すると拘束用枠体が弾性体の回転付勢力により回転駆動されることにより、機械的な機構のみで駆動機構を構成して構造を簡便でコンパクトにして、ストッパの係合あるいは係合の解除により装置をセットするため、製造・組立コストを大幅に低減できるとともに、運転者保護装置の装着や、待機状態のセット及び作動後の復帰操作など、専門的な知識を要することなく運転者が簡便に行なうことができる。
【0022】
本請求項4に係る発明の運転者保護装置は、請求項3に係る運転者保護装置が奏する効果に加えて、弾性体が、拘束用枠体をねじり方向に弾性力を付与するねじりコイルばねであり、ねじり方向の力によって拘束用枠体の回転軸を回転付勢することにより、駆動機構を非常にコンパクトでシンプルな機構で構成するため、車両のコンソールボックスに無理なく収容させることができるとともに、設置スペースや電源の確保等、付帯的なことに捉われることなく運転者保護装置を設置でき、しかも電池切れ、断線等に起因する誤作動の虞を絶無とすることができる。
【0023】
本請求項5に係る発明の運転者保護装置は、請求項1又は請求項2に係る運転者保護装置が奏する効果に加えて、駆動機構が拘束用枠体の回転軸部に連結したモータと運転席の周辺に設置した操作スイッチとを有し、モータが前記操作スイッチの操作で作動して前記拘束用枠体の回転軸部を回転させることにより、駆動機構をモータのみでコンパクトに構成できるとともに、操作スイッチを適宜の箇所に設置するため、駆動機構のレイアウトの自由度が高く、低コストで、しかも、保護装置の復帰操作を非常に簡便なものとできる。
【0024】
本請求項6に係る発明の運転者保護装置は、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に係る運転者保護装置が奏する効果に加えて、拘束用枠体が、前記開放枠部の開放面を車両正面から助手席側に向ける方向に回転駆動又は回転付勢されることにより、運転者保護装置作動したときに、拘束用枠体に拘束された腕又は凶器が、運転者から離れる方向に強制的に回転されるため、凶器、腕などが運転者に向かうことを阻止して、確実に運転者を保護するか、運転者が逃亡あるいは乗客を取り押さえる余裕を生じさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施例である運転者保護装置を装着した車室の平面図。
【図2】本発明の第1実施例である運転者保護装置の斜視図。
【図3】図2に示す運転者保護装置の側方視断面図。
【図4】図2に示す運転者保護装置の後方視断面図。
【図5】本発明の第2実施例である運転者保護装置の斜視図。
【図6】図5に示す運転者保護装置の側方視断面図。
【図7】図5に示す運転者保護装置の後方視断面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の運転者保護装置は、運転席と助手席との間に立設される拘束用枠体と該拘束用枠体を回転する駆動機構とを備えて後方から接近する物体を遮断し運転者を保護する運転者保護装置であって、拘束用枠体が運転席と助手席との間の空間の周囲に沿う外形を呈して中央を開放した開放枠部と開放枠部の回転中心となる回転軸部とを有し、開放枠部の開放面を運転席と助手席の間の空間を前後方向に開放するように設置され、駆動機構が拘束用枠体の開放枠部を前後方向に開放する待機位置から一方向に回転駆動可能であるとともに、駆動機構が運転席と助手席との間に設置されたコンソールボックスの内部に収用されていて、コンパクトで低コストの構造で設置が容易であって目立たず、作動時に与える危害を最小としつつ確実に運転者の安全を確保するものであれば、その具体的な実施態様は如何なるものであっても何ら構わない。
【0027】
すなわち、本発明の運転者保護装置は、タクシー、バス等の自動車の運転席に設置されてもよく、鉄道車両等の他の交通機関の運転席に設置されてもよい。
また、本発明の運転者保護装置に使用される駆動機構は、一方向に回転付勢する弾性体、ストッパおよび操作機構などを使用した機構を使用しているが、特にこのような機構に限ることはなく、ドアなどに設置されて運転者により操作される操作スイッチ、およびこれに応答して回転駆動する電動モータ若しくは電磁ソレノイドなどを使用して構成してもよい。
弾性体に関しても、回転軸部を回動付勢するものであれば、引張コイルばね、ゴム等の素材を使用してもよい。
【0028】
同様に、運転者による操作機構の操作およびこれに応じたストッパの作動を、引張プラグ、ハンドル、操作レバーのいずれか及びボーデンワイヤ等の機械的操作機構により構成してもよいし、操作スイッチ及び電動モータ等の電気的操作、駆動機構により構成してもよい。
機械的駆動機構とした場合には、電源、配線等に注意する必要がないという利点を有するが、ワイヤを張設可能な位置が限定されるので運転者による操作できる操作部の位置が制約を受けることになり、他方、電気的駆動機構とした場合には、操作スイッチを運転席の周囲のどこにでも設置できるという利点を有するものの、電源、配線等を考慮する必要が生ずるが、タクシー等の車両に装備される電装設備、運転席周りの装備品の配置などを考慮の上、有利な機構を採用すべきである。
【0029】
さらに、本発明の運転者保護装置において拘束用枠体の作動時における回転方向は、開放枠部から突き出された腕若しくは凶器を払いのける若しくは拘束するという機能を果たすものであれば、上方からみて時計回り、反時計回りのいずれの方向でもよいが、待機位置において車両正面を向いている開放枠部の開放面を助手席側の方向で運転者から離れる方向、すなわち、上方から見て反時計回りに回転駆動するほうが、凶器などを運転者から遠ざけることができるため、運転者の安全確保の観点から好ましい。
加えて、本発明の運転者保護装置において拘束用枠体の開放枠部は、棒状部材を枠状に折り曲げたもの、複数の棒状部材を枠状に組み立てたもの、板状部材の中央部を開放したもの等、いかなる材料、構造で構成しても構わない。
【0030】
また、運転者保護装置あるいは駆動機構を目立たないように設置するサービス機器としては、例えば、飲料(販売用)冷蔵庫、テレビ、ビデオなどのAV機器、または雑誌やパンフレット、公告などを収容するラック若しくはマガジン、などを設置してもよい。
【実施例1】
【0031】
以下、本発明の第1実施例である運転者保護装置について、図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1実施例である運転者保護装置を装着した車室の平面図であり、図2は、本発明の第1実施例である運転者保護装置の斜視図であり、図3は、図2に示す運転者保護装置の側方視断面図であり、図4は、図2に示す運転者保護装置の後方視断面図である。
【0032】
本発明の実施例である運転者保護装置100は、図1に示すように、運転席170の背もたれ171と助手席180の背もたれ181との間の空間に立設された拘束用枠体110と、該拘束用枠体110の下方に設けた下方回転軸部111を下端中心に回転させる駆動機構120とを有する防犯手段からなり、運転席170の後部側方から接近する物体、例えば助手席180の後方に座った乗客Pが後部側方から拘束用枠体110の開放枠部112を通じて運転者Dに刃物等の凶器を近付けてきた場合など、拘束用枠体110の開放枠部112を回転させて腕若しくは凶器を拘束し、あるいは、腕に持った凶器等を払いのけて運転者Dを保護する。
なお、運転席170のヘッドレスト172の後方には防御板173が設置されていて、運転席170を後方から遮断している。
【0033】
拘束用枠体110は、運転席170の背もたれ171と助手席180の背もたれ181との間の空間に近似する形状に開放された開放枠部112の上下に、コンソールボックス150に固定された駆動機構120によって回転される下方回転軸部111と、天井(図示せず)に回転軸支される上方回転軸部113が設けられ、これら下方回転軸部111、上方回転軸部113を回転軸として一体に回転するように構成されている。
なお、拘束用枠体110は、運転席170の側についてはヘッドレスト172部に設けた防御板173と近接させて凶器等が挿入されるような隙間を可能な限り小さくすべきであるが、助手席180の側については、助手席180に設けたヘッドレスト182に近接させてヘッドレスト182の運転者D側の端部付近までをカバーする程度の大きさ、形状としておけば、それより外側からは実際上運転者Dに凶器等を近付けることはできないため、防犯上は充分に機能する。
【0034】
図2及び図3に示されるように、拘束用枠体110の下方回転軸部111は、コンソールボックス150内に、ねじ、ボルト121などの固着手段により強固に固定した支持部120に回転自在に軸支されている。
支持部120は、コンソールボックス150のみにねじ、ボルト121などで固定してもよいが、コンソールボックス150の下方にある、フロアトンネル、フロアパネルなどの車両の床部材にまで挿通してねじなどで固定すると、運転者保護装置100をより強固に固定することができる。
また、支持部120に対し、側方支持ボルト122を使用してコンソールボックス150の側方側からも固定するようにすると、一層強固に支持部120を固定できるとともに、コンソールボックスの幅の異なる車種であっても、運転席170や助手席180との位置を適切に調整して装着することが可能となる。
【0035】
本第1実施例では、コンソールボックス150内に拘束用枠体110の支持部120及び、これを駆動する駆動機構130、ストッパ134、操作機構140などを組み込むようにしているので、既成の車両に後付けで装備する場合にも、コンソール部分の蓋体部を改造する程度で、車室内の改造を最低限で済ませることができる。
なお、図1乃至図4ではいずれもコンソールボックス150を通じて駆動機構130、操作機構140が透けて見えるように記載されているが、これはあくまで説明の都合上、このように記載しているものであり、実際のコンソールボックス150は、従前通り不透明な合成樹脂等で形成されていて、駆動機構130などは、乗客Pからも運転者Dからも見えない。
【0036】
下方回転軸部111の下端部には、下方回転軸部111と同軸に拘束用枠体110を回転方向に付勢する弾性体としてのねじりコイルばね131と、同じく下方回転軸部111と同軸にラチェット歯車132とが装着されていて、ねじりコイルばね131により下方回転軸部111が、図1において反時計まわりに回転付勢されている。
【0037】
ラチェット歯車132は、従前知られたラチェット機構に使用されるラチェット歯車と同様に、一方向への回転のみを許容するラチェット歯133を外周面に備えているとともに、外周面の一箇所にストッパ134と係合する係合部が形成されている。
当該ラチェット歯車132に隣接してストッパ134が設けられていて、ストッパ134の一端がラチェット歯車132に形成された係合部に係合して下方回転軸部111を係止し、拘束用枠体110を図1に実線に示されるような、運転席170と助手席180との間の空間の全体をほぼ開放する、待機位置に固定している。
また、ストッパ134の係合部と係合する端部には、ワイヤ141が接続され、当該ワイヤ141が、コンソールボックス150の前方側上方に設けたリング状の操作部142に接続されている。
【0038】
したがって、本第1実施例である運転者保護装置100は、ストッパ134の一端をラチェット歯車132の係合部に係合させて、拘束用枠体110を、ねじりコイルばね131により回転付勢された状態で、図1乃至図4に示されるような待機位置に固定してセットされる。
通常はこの状態を維持しているが、悪意の乗客Pが拘束用枠体110の開放枠部112の開放面を通して腕、凶器などを突き出して来たとき運転者Dが身の危険を感じて操作部142を操作すると、ワイヤ141を介してストッパ134が作動されてラチェット歯車133の係合を解除し、拘束用枠体110は、ねじりコイルばね131の回転付勢力により、図1において2点鎖線で示されるように反時計回りに回転駆動される。
この拘束用枠体110の回転駆動により、悪意の乗客Pの腕若しくは凶器を払いのけるか、ねじりを加えて拘束するので、運転者Dは、悪意の乗客Pが手間取っている隙に逃亡するか、あるいは腕が拘束された悪意の乗客Pを取り押さえるかする、時間的、空間的余裕を充分に確保することができる。
【0039】
なお、本第1実施例の運転者保護装置100はラチェット歯車を使用しており、ストッパ134に設けたラチェット爪と共同してラチェット機構を構成し、運転者保護装置の拘束用枠体110がねじりコイルばね131により回転付勢される方向にのみ回転を許容されているので、悪意の乗客Pが拘束用枠体110による拘束から逃れるべく腕力に任せて腕を逆方向に回転させようとしても、ラチェット機構の作用により拘束用枠体110を逆方向に回転することができず、悪意の乗客Pがもがくほどに拘束用枠体110が乗客Pの腕などを拘束する方向のみに回転し乗客Pの自由を奪うので、運転者Dが相手を取り押さえたり車外に脱出する時間的、空間的余裕を、一層充分に確保することができる。
しかし、悪意の乗客Pから運転者を保護するという最小限の目的を果たすだけであれば、ラチェット歯車132を使用せずに、下方回転軸部111に係合部を設けて、これにストッパを係合させるように構成してもよい。
【0040】
本第1実施例の運転者保護装置100は、運転者保護装置100を駆動する駆動機構130や操作機構140をコンパクトにまとめてコンソールボックス150内に収用しているので、外観も良く、乗客Pに圧迫感を抱かせることがない。
また、乗客Pからは拘束用枠体110が立設されていることしか分らないのでこれが防犯用であることを俄には理解されず、これに起因して不快感を与えることもなく、タクシーのサービス低下を招くこともない。
一方、悪意の乗客Pの場合にも、駆動機構130がどこに存在するか即座には判断できないので、事前に駆動機構130が破壊されることもなく、また運転者保護装置100が作動した場合にも簡単に駆動機構130を破壊することもできない。
【0041】
なお、本第1実施例では、操作機構140をワイヤ141及びリング状の操作部142と、純粋に機械的構造により形成しているが、操作部142を電気接点を使用した操作スイッチとし、またストッパ134を電磁ソレノイドで牽引するようにして、電気的な操作機構を採用して構成してもよい。
さらに、ねじりコイルばねに変えて下部回転軸部111に電磁モータを設置し、電気接点の操作スイッチの操作により、電磁モータで拘束用枠体110を回転駆動するようにしてもよい。
これらのように、操作機構140を電気スイッチとすると、操作部142を運転者の右方のドア付近に配置したり、ハンドルの付近に設置したり、というように、操作機構140を設置する自由度を高めることができる。
【0042】
以上のようにして得られた本第1実施例の運転者保護装置は、運転席170と助手席180との間に立設される拘束用枠体110と当該拘束用枠体110を回転する駆動機構130とを備えて後方から接近する物体を遮断し運転者Dを保護する運転者保護装置100であって、拘束用枠体110が運転席170と助手席180との間の空間の周囲に沿う外形を呈して中央を開放した開放枠部112と当該開放枠部112の回転中心となる上下の回転軸部111、113とを有し、開放枠部112の開放面を運転席170と助手席180の間の空間を前後方向に開放するように設置され、駆動機構130が拘束用枠体110の開放枠部112を前後方向に開放する待機位置から一方向に回転駆動可能であることにより、コンパクトな構造で低コストかつ目立たない運転者保護装置100を構成することができるとともに、通常はストッパ134によりラチェット歯車132を係止して拘束用枠体110を前後方向に開放した待機位置に固定しておき、悪意の乗客Pが後方側から拘束用枠体110の開放枠部を通じて運転者Dに刃物などの凶器を突きつけようとしても、運転者Dの操作により拘束用枠体110が速やかに回転して、後方から突き出された腕若しくは凶器を払いのけるか拘束するので、運転者Dは更なる危害から保護され、悪意の乗客Pを取り押さえたり、車外に脱出する時間的若しくは空間的な余裕を十分確保することができる。
また、勘違いや誤動作により運転者保護装置100が動作しても、運転者保護装置100が作動する範囲はほぼ運転席170と助手席180との間のみで作動するため、通常、拘束用枠体110から離れた位置に乗車している乗客Pを傷つけてしまうことがなく、運転者保護装置を作動させた後の復帰操作も容易であるから、運転者Dも大きな心理的負担を負うことなく運転者保護装置100を使用することができる。
【0043】
加えて、防犯手段が、運転席170と助手席180との間の空間部の周囲に沿う外形を呈した拘束用枠体110及びねじりコイルばね131を使用した駆動機構130という程度の簡単・コンパクトな構造であり、タクシー等への装着も簡便で低コストに抑えることができるとともに、拘束用枠体110の存在が目立つことはなく乗客Pにとって前方の視認性が悪く圧迫感があるなど、サービス面での問題が生じることはない。
【0044】
さらに、本第1実施例の運転者保護装置100は、運転席170と助手席180との間の空間部の周囲に沿う外形を呈した拘束用枠体110及びねじりコイルばね122を使用した駆動機構120という程度の簡単・コンパクトな構造で、タクシー等への装着も簡便で低コストに抑えることができるとともに、駆動機構120が運転席170と助手席180との間に設置されたコンソールボックス150の内部に収容されているので、運転者保護装置100の存在が目立つことはなく、しかも乗客Pが車室内に露出した駆動機構130などにより怪我をするような虞を解消することができる。
その上、悪意の乗客の場合には、運転者保護装置100の駆動機構130の所在がわからず、予め運転者保護装置100の駆動機構を破壊されたり、作動中の運転者保護装置100の駆動機構130を破壊して運転者保護装置100を動作不能とされることがないなど、その効果は甚大である。
【実施例2】
【0045】
次に、本発明の第2実施例である運転者保護装置200について、図5乃至図7を参照して説明する。
図5は、本発明の第2実施例である運転者保護装置200の斜視図であり、図6は、図5に示す運転者保護装置200の側方視断面図であり、図7は、図5に示す運転者保護装置200の後方視断面図である。
なお、本第2実施例の運転者保護装置200と前述した第1実施例の運転者保護装置100とは、運転者保護装置200のコンソールボックス250付近への装着態様を異にするのみで、その他の部分は特に異なるところはないので、共通する事項については下2桁を共通する200番代の番号を付すのみとして詳しい説明は省略する。
【0046】
本第2実施例の運転者保護装置200は、運転席270と助手席280との間のコンソールボックス250に設けられる機器を利用して、運転者保護装置200を装着するものである。
タクシーの場合、コンソールボックス部には、しばしば、テレビ、ビデオ用ディスプレイや、雑誌、パンフレットなどを載置したラックなど、乗客用サービス機器が装備されるので、本第2実施例では、このような乗客用サービス機器を活用して運転者保護装置200を装備するものである。
【0047】
図5乃至図7から理解されるように、本第2実施例の運転者保護装置200は、従前設けられたコンソールボックス250の上部に取り付けるようになっている。
第2実施例では、乗客用サービス機器として、テレビ、ラジオ放送やビデオ画像を再生するAV機器を採用した場合を示していて、コンソールボックス250の上部にAV機器本体260を構成する箱状体に運転者用保護装置200の駆動機構を組み込んでいる。
より具体的には、AV機器本体260の後方には乗客に向けてディスプレイ263が設置され、またその上部には、タクシー料金授受用の料金皿264が設けられている。
AV機器本体260の内部には、前述した第1実施例の運転者保護装置100に使用されているのと同様に、ねじりコイルばね231、ラチェット歯車232、ストッパ234などから構成される駆動機構230が取り付けられていて、天板を構成する料金皿264の部分から上方に拘束用枠体210が突出している。
【0048】
拘束用枠体210は、運転席270の背もたれ271と助手席280の背もたれ281との間の空間に近似する形状に開放された開放枠部212の上下に、AV機器本体250に固定された駆動機構230によって回転される下方回転軸部211と、天井(図示せず)に回転軸支される上方回転軸部213が設けられ、これら下方回転軸部211、上方回転軸部213を回転軸として一体に回転するように構成されている。
【0049】
また、AV機器本体250の前方側に操作部242が設けられ、AV機器本体260内部には、操作機構240の操作部242と駆動機構230のストッパ234との間をワイヤ241で接続している。
したがって、運転者保護装置200の操作部242は、後部座席280に位置する乗客Pから見ることができない死角に位置することになり、悪意の乗客Pに気付かれることなく操作部242を操作することができる。
さらに、AV機器本体260は、両側から下方に延在する板状の装着部261を、コンソールボックス250若しくは車室のフロアトンネルなどの構造部材に、多数のねじ262を使用して強度高く設置するので、拘束用枠体210も車両内に強固に設置される。
【0050】
本第2実施例の運転者保護装置200に使用される拘束用枠体210は、その形状からみて、AV機器本体260を装着する支持部材のようにも、あるいは、FM放送受信用のアンテナのようにも見えるので、本第2実施例のような運転者保護装置200を設置しても、乗客Pに、特に不審の念を抱かせることもなく、また、これにより乗客Pに圧迫感や不快感を抱かせるようなこともなく、逆に、AV機器を装備したことにより乗客に対するサービスを一層向上することができる。
【0051】
なお、操作機構240を、電気接点を備えるスイッチで構成し、ストッパを電磁ソレノイドで駆動するようにしてもよいことや、回転駆動機構としてねじりコイルばねに代えて電磁モータを採用してもよいことは、前述した第1実施例の運転者保護装置100と同等である。
【0052】
以上のようにして得られた本第2実施例の運転者保護装置200は、先に記述した第1実施例の運転保護装置100に加えて、駆動機構230が運転席270と助手席280との間に設置されたコンソールボックス250に装着されたAV機器本体260の内部に収容されていることにより、前述した第1実施例の運転者保護装置100と同様の効果を奏するとともに、運転者保護装置200が乗客Pの目につくことなくAV機器のような乗客用サービス機器に紛れて装着され、乗客Pに対し圧迫感や不快感を抱かせる虞を全く解消でき、車室内を乗客Pにとってサービスの充実した快適な雰囲気に維持することができる。
また、運転者保護装置200を装着する際にも、コンソールボックス250付近については側面にねじ止めする程度の改造で済むので、取付作業を簡便とすることができる。
【0053】
さらに、運転席270と助手席280との間にAV機器260を配置したことにより、この間に生ずる空間が減少し、ここに装着される拘束用枠体210の開放部の面積も小さくなるので、拘束用枠体210の上下方向の寸法を小さくして、その強度を向上させることができるので、拘束用枠体210による悪意の乗客Pの拘束をより長時間、維持し、運転者Dに乗客Pを取り抑えたり、車外へ脱出する余裕を一層増大することができるなど、その効果は甚大である。
【符号の説明】
【0054】
100 ・・・ 運転者保護装置
110 ・・・ 拘束用枠体
111,211 ・・・ 下方回転軸部
112 ・・・ 開放枠部
113 ・・・ 上方回転軸部
120、220 ・・・ 支持部
121、221 ・・・ 取付ボルト
122、222 ・・・ 側方支持ボルト
130、230 ・・・ 駆動機構
131、231 ・・・ ねじりコイルばね
132、232 ・・・ ラチェット歯車
133、233 ・・・ ラチェット歯
134、234 ・・・ ストッパ
140 ・・・ 操作機構
141、241 ・・・ ワイヤ
142、242 ・・・ 操作部
150、250 ・・・ コンソールボックス
260 ・・・ AV機器本体(箱状体)
261 ・・・ 装着部
262 ・・・ ねじ
263 ・・・ ディスプレイ
264 ・・・ 料金皿
170、270 ・・・ 運転席
171、271 ・・・ (運転席)背もたれ
172、272 ・・・ (運転席)ヘッドレスト
173、273 ・・・ 防御板
180、280 ・・・ 助手席
181、281 ・・・ (助手席)背もたれ
182、282 ・・・ (助手席)ヘッドレスト
D ・・・ 運転者
P ・・・ 乗客

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転席と助手席との間に立設される拘束用枠体と該拘束用枠体を回転する駆動機構とを備えて後方から接近する物体を遮断し運転者を保護する運転者保護装置であって、
前記拘束用枠体が、運転席と助手席との間の空間の周囲に沿う外形を呈して中央を開放した開放枠部と該放枠部の回転中心となる回転軸部とを有し、該開放枠部の開放面を運転席と助手席の間の空間を前後方向に開放するように設置され、
前記駆動機構が前記拘束用枠体の開放枠部を前後方向に開放する待機位置から一方向に回転駆動可能であるとともに、
前記駆動機構が運転席と助手席との間に設置されたコンソールボックスの内部に収用されていることを特徴とする運転者保護装置。
【請求項2】
前記駆動機構が、運転席と助手席との間に設置されたコンソールボックスに装着された箱状体の内部に収容されていることを特徴とする請求項1に記載の運転者保護装置。
【請求項3】
前記駆動機構が、前記拘束用枠体の回転軸部を一方向に回転付勢する弾性体と、前記回転軸部に係合して前記拘束用枠体を前後方向に開放する待機位置に固定するストッパと、前記運転者の操作により前記ストッパを作動させてストッパと回転軸部との係合を解除する操作機構とを有し、
前記操作機構がストッパと回転軸部との係合を解除すると、前記拘束用枠体が前記弾性体の回転付勢力により回転駆動されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の運転者保護装置。
【請求項4】
前記弾性体が、前記拘束用枠体をねじり方向に弾性力を付与するねじりコイルばねであり、該ねじり方向の力によって前記拘束用枠体の回転軸を回転付勢することを特徴とする請求項3に記載の運転者保護装置。
【請求項5】
前記駆動機構が、前記拘束用枠体の回転軸部に連結したモータと操作スイッチとを有し、
前記モータが、前記操作スイッチの操作で作動して前記拘束用枠体の回転軸部を回転させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の運転者保護装置。
【請求項6】
前記拘束用枠体が、前記開放枠部の開放面を車両正面から助手席側に向ける方向に回転付勢又は回転駆動されることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の運転者保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−240622(P2012−240622A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115343(P2011−115343)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【出願人】(508330685)株式会社フジテレビジョン (13)