説明

過酸化水素の分解促進方法

【課題】過酸化水素を含有する水、特に各種処理のために過酸化水素が添加され、その処理後に過酸化水素が残存する海水、汽水もしくは淡水または工業用水中の過酸化水素を、簡便な操作で、早期に安全かつ確実に自然界レベルにまで過酸化水素の分解を促進する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】過酸化水素を含む水に、表面に硝酸パラジウム粉末が溶射された金属構造物を接触させ、かつ前記接触と同時に、前記過酸化水素を含む水に接触可能な任意の位置に設けた陽極および陰極の間に直流電圧を印加することにより、前記水中の過酸化水素の分解を促進することを特徴とする過酸化水素の分解促進方法により、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化水素の分解促進方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、過酸化水素を添加した海水、汽水もしくは淡水または工業用水に残存する過酸化水素を早期に安全かつ確実に分解させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素は、水の殺菌や洗浄用の薬剤として、各種分野において幅広く用いられている。その用途としては、例えば、海水冷却水系における海生生物の付着防止剤、養殖魚類の寄生虫駆除剤および赤潮駆除剤、船舶バラスト水の処理剤、循環冷却水系のスライム処理剤、食品容器の洗浄剤、半導体材料のウエハの洗浄剤およびその洗浄に用いられる装置における超純水配管の洗浄殺菌剤、織物工業や製紙工業における漂白剤ならびに廃水処理剤などが挙げられる。
【0003】
これらの過酸化水素を含有する水を自然界に放出する際には、水中に残存する過酸化水素を分解させることが望まれる。例えば、海生生物駆除のために過酸化水素で処理された船舶バラスト水を海に排出する場合には、周辺海域の環境破壊を起こさないレベルにまで過酸化水素を分解させる必要があり、その基準は国際条約で定められている。
しかしながら、水中の過酸化水素は、各種の要因により毒性のない酸素と水に容易に分解されるが、自然界レベル(0.001〜10mg/L)まで分解するには非常に長い時間を要する。
【0004】
そこで、過酸化水素を添加した海水、汽水もしくは淡水または工業用水に残存する過酸化水素を分解させる方法として、例えば、チオ硫酸ナトリウムおよび亜硫酸ナトリウムなどの還元剤を用いる方法、カタラ−ゼおよびペルオキシダ−ゼなどの酵素触媒を用いる方法、活性炭を用いる方法、電気分解による方法および固体の金属または貴金属触媒(固体触媒)を用いる方法などが提案され、一部では実用化されている。
【0005】
このような観点から、本出願人は、金属換算で特定割合のマンガンとビスマスとを含有する過酸化水素分解用固体触媒およびこれを用いる過酸化水素の分解方法を提案した(特開2000−308828号公報(特許文献1)および特開2002−59003号公報(特許文献2)参照)。
また、過酸化水素を含有する液を白金族触媒、活性炭などの触媒と接触させつつ、この系に超音波を印加する過酸化水素の分解方法も提案されている(特開2001−276619号公報(特許文献3)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−308828号公報
【特許文献2】特開2002−59003号公報
【特許文献3】特開2001−276619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、過酸化水素を含有する水、特に各種処理のために過酸化水素が添加され、その処理後に過酸化水素が残存する海水、汽水もしくは淡水または工業用水中の過酸化水素を、簡便な操作で、早期に安全かつ確実に自然界レベルにまで過酸化水素の分解を促進する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行なった結果、過酸化水素を含有する水に、表面に硝酸パラジウム粉末が溶射された金属構造物を接触させ、それと同時にその水に直流電圧を印加することにより、水中の過酸化水素を効率よく分解できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
かくして、本発明によれば、過酸化水素を含む水に、表面に硝酸パラジウム粉末が溶射された金属構造物を接触させ、かつ前記接触と同時に、前記過酸化水素を含む水に接触可能な任意の位置に設けた陽極および陰極の間に直流電圧を印加することにより、前記水中の過酸化水素の分解を促進することを特徴とする過酸化水素の分解促進方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、過酸化水素を含有する水、特に各種処理のために過酸化水素が添加され、その処理後に過酸化水素が残存する海水、汽水もしくは淡水または工業用水中の過酸化水素を、簡便な操作で、早期に安全かつ確実に自然界レベルにまで過酸化水素の分解を促進する方法を提供することができる。
例えば、海生生物駆除のために過酸化水素で処理された船舶バラスト水を海に排出する際には、残存する過酸化水素を国際条約で定められたレベルにまで分解させる必要があり、通常、中和剤で処理しているが、本発明を予め適用することで中和剤の添加量を低減でき、本発明は産業上極めて有用である。
【0011】
また、本発明において、金属構造物が重量比100:1〜10の粒子径10〜40μmのニッケル粉末と粒子径10〜40μmの硝酸パラジウム粉末との混合材料をプラズマ溶射されてなる場合に、金属構造物が鉄、ニッケル、銅およびこれらの合金から選択される基材の表面に前記硝酸パラジウム粉末が溶射されてなる場合に、特にその合金がステンレス鋼である場合に、金属構造物がJIS Z8801における10〜100メッシュの多孔体である場合に、金属構造物が複数である場合に、本発明の効果がさらに発揮される。
さらに、本発明において、直流電圧が0.75〜1.25Vである場合に、本発明の効果がさらに発揮される。
【0012】
また、本発明において、金属構造物が過酸化水素を含む水の流通経路に設けられた、電気導電性の複数のフィルタであり、フィルタの2つが陽極および陰極を兼ねる場合に、そのフィルタがJIS Z8801における10〜100メッシュの複数枚の金網を、天然または合成の樹脂による枠を介して挟持したものである場合に、そのフィルタが100〜5000リットル/時間のろ過能力を有する場合に、本発明の効果がさらに発揮される。
また、本発明において、過酸化水素を含む水が過酸化水素を用いて処理された船舶バラスト水である場合に、本発明の効果がさらに発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の過酸化水素の分解促進方法に用いられる金属構造物の一形態を示す模式図である。
【図2】試験例(過酸化水素の分解促進効果確認試験)で用いた装置の模式図である。
【図3】本発明の過酸化水素の分解促進方法を船舶バラスト水に適用する場合の模式図である。
【図4】図3のフィルタの部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の過酸化水素の分解促進方法は、過酸化水素を含む水に、表面に硝酸パラジウム粉末が溶射された金属構造物を接触させ、かつ前記接触と同時に、前記過酸化水素を含む水に接触可能な任意の位置に設けた陽極および陰極の間に直流電圧を印加することにより、前記水中の過酸化水素の分解を促進することを特徴とする。
【0015】
本発明において処理の対象となる過酸化水素を含む水は、各種処理のために過酸化水素が添加され、その処理後に過酸化水素が残存する海水、汽水もしくは淡水または工業用水であれば特に限定されない。
このような過酸化水素を含む水としては、例えば、
海生生物の付着防止のために過酸化水素を添加した海水冷却水、
スライム処理またはスライム洗浄のために過酸化水素を添加した淡水冷却水、
テトラパックまたはPET(ポリエチレンテレフタレート)容器などの食品容器の洗浄のために過酸化水素を添加した水(過酸化水素濃度:0.1〜10,000mg/L程度)、
半導体基板ウエハなどの電子部品の洗浄用に過酸化水素を添加した水、
半導体基板ウエハなどの電子部品の製造装置(例えば、半導体装置など)の洗浄(超純水の送水配管に沈着するスライムや微生物などの洗浄・殺菌)のために過酸化水素を添加した水(過酸化水素濃度:0.1〜10,000mg/L程度)、
織物工業または製紙工業の製品漂白のために過酸化水素を添加した水、
織物工業または製紙工業の染色廃水の脱色のために過酸化水素を添加した廃水
養殖魚類の寄生虫駆除または赤潮駆除のために過酸化水素を添加した水(過酸化水素濃度:0.1〜1,000mg/L程度)、
プランクトン・シスト・細菌などの殺滅のために過酸化水素を添加した船舶バラスト水
などが挙げられる。
【0016】
過酸化水素を含む水における過酸化水素濃度は、過酸化水素の使用された目的やその使用条件により異なるが、上記のように、通常0.1〜10,000mg/L程度である。
本発明の方法で分解促進が可能な水中の過酸化水素濃度は特に限定されないが、通常、0.1mg/L以上が好ましい。過酸化水素濃度が0.1mg/L未満であれば、自然界レベルの濃度に近くなるため、本発明の方法を用いて処理しても得られる効果が小さく、また経済的な面からも好ましくない。
【0017】
本発明の方法において、過酸化水素を含む水の水温は、過酸化水素の分解効率の点で、0〜100℃が好ましく、10〜50℃が特に好ましい。
【0018】
本発明の方法における第1の手段は、過酸化水素を含む水に、表面に硝酸パラジウム粉末が溶射された金属構造物を接触させることである。
本発明における過酸化水素の分解促進のメカニズムは明らかではないが、パラジウム成分が何らかの触媒的な機能をしているものと考えられる。
したがって、表面に硝酸パラジウム粉末が溶射された金属構造物(以下「金属構造物」ともいう)は、対象となる水に効率よく接触するような形態であれば特に限定されない。
【0019】
本発明の金属構造物としては、基材表面に硝酸パラジウム粉末が溶射されたものが挙げられ、その基材としては、用時にその形状を維持し得る強度および耐食性を有する金属材料が挙げられる。
金属材料としては、鉄、ニッケル、銅およびこれらの合金が挙げられ、合金としてはJIS SUS316などのステンレス鋼などが挙げられる。
【0020】
本発明の金属構造物の形状は、対象となる過酸化水素を含む水に効率よく接触するような形状であれば特に限定されず、ハニカム形状のような、また表面に凹凸を有する形状であってもよい。例えば、複数枚の金網を積層した素材を焼結した多孔体が挙げられる。
また、対象となる過酸化水素を含む水に効率よく接触させるために、本発明の金属構造物は複数であるのが好ましい。
【0021】
また、過酸化水素を含む水の通水経路に設ける場合には、本発明の金属構造物は通水可能な多孔体であるのが好ましく、JIS Z8801における10〜100メッシュの多孔体であるのが好ましい。そのような基材としては、金属材料からなる金網(フィルタ)が挙げられる。
【0022】
フィルタは、JIS Z8801における目開き10〜100メッシュの複数枚の金網を、天然または合成の樹脂による枠を介して挟持したものであるのが好ましく、100〜5000リットル/時間のろ過能力を有するのが好ましい。
天然または合成の樹脂としては、通常、シール材料として用いられる材料であれば特に限定されず、使用条件により適宜選択すればよい。このような樹脂としては、天然ゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴムなどの合成ゴム、四フッ化エチレンゴム(テフロン(登録商標))樹脂などが挙げられる。
【0023】
フィルタの目開きが10メッシュ未満もしくはフィルタのろ過能力が100リットル/時間未満では、対象となる過酸化水素を含む水と金属構造物との接触が過剰になり、処理効率が低下することがある。一方、フィルタの目開きが100メッシュを超えるもしくはフィルタのろ過能力が5000リットル/時間を超えると、対象となる過酸化水素を含む水と金属構造物との接触が不足になり、本発明の効果が十分に得られないことがある。
【0024】
本発明の金属構造物は、例えば、重量比100:1〜10の粒子径10〜40μmのニッケル粉末と粒子径10〜40μmの硝酸パラジウム粉末との混合材料をプラズマ溶射されてなるのが好ましい。
これらの粉末の粒子径が10μm未満では、溶射時の損失が大きくなり、また粉末自体がコスト高になることがある。一方、これらの粉末の粒子径が40μmを超えると、高い溶射出力が必要になり、通常の溶射装置が使用できないことがある。
【0025】
上記の粉末の混合材料を基材にプラズマ溶射することにより、これらの材料がナノレベルにまで微細化し基材に分散担持されるものと考えられ、ニッケル成分がパラジウム成分の結合を防止して、触媒性能の劣化を防止するものと考えられる。
したがって、上記のようにニッケル粉末と硝酸パラジウム粉末との好ましい重量比は100:1〜10である。ニッケル粉末の重量100に対して硝酸パラジウム粉末の重量が1未満では、パラジウム成分の触媒能力、すなわち本発明の効果が得られないことがある。一方、ニッケル粉末の重量100に対して硝酸パラジウム粉末の重量が10を超えてもそれに見合う本発明の効果が得られないことがある。
【0026】
溶射された膜厚は、上記のようにパラジウム成分が触媒的に機能するに足る厚さであればよく、0.1〜10μm程度であればよい。
膜厚が0.1μm未満では、パラジウム成分が削れて基材が表面に出ることがある。一方、膜厚が10μmを超えると、メッシュ幅が狭くなり効果が低下することがある。
【0027】
上記の好ましい条件を満足し得るフィルタとして、株式会社ニチダイフィルタ製のオゾン分解フィルタが挙げられ、これを好適に用いることができる。このオゾン分解フィルタは、ステンレス製金網にパラジウム成分を含む触媒が加工されている。
【0028】
本発明の方法における第2の手段は、第1の手段と同時に、過酸化水素を含む水に接触可能な任意の位置に設けた陽極および陰極の間に直流電圧を印加することである。
【0029】
陽極および陰極としては、過酸化水素を含む水に侵されない電極材料であれば特に限定されない。例えば、炭素鋼、鉛合金(Pb−2%Ag、Pb−6%Sb−1%Agなど)、高珪素鉄(例えば、Fe−14.5%Si)、高珪素クロム鉄(例えば、Fe−14.5%Si−4.5%Cr)、黒鉛、酸化鉄、チタン、ステンレス鋼、白金、金、銀、白金めっきチタン、白金めっきニオブ、白金めっきタンタル、カーボンブラック混合物などが挙げられる。
【0030】
陽極および陰極を設ける過酸化水素を含む水に接触可能な任意の位置は、第1の手段によって金属構造物に接触する過酸化水素を含む水が印加された直流電圧の影響を受ける範囲であれば特に限定されない。例えば、金属構造物に近接して陽極および陰極を設けてもよく、また過酸化水素を含む水が導電性材料からなる配管もしくは容器内を流れる場合には、配管もしくは内壁自体を陽極もしくは陰極とし、それに近接して対極(陰極もしくは陽極)を設けてもよい。配管もしくは容器が非導電性材料からなる場合には、その過酸化水素を含む水との接触面を上記電極材料でコーテングしてもよい。
さらに、金属構造物が過酸化水素を含む水の流通経路に設けられた、電気導電性の複数のフィルタであれば、これらフィルタの2つが陽極および陰極を兼ねてもよい。この場合、実施例に記載のように、少なくとも一方のフィルタが表面に硝酸パラジウム粉末が溶射された金属構造物であればよい。
【0031】
本発明の方法において、陰極近傍に参照電極(照合電極)を設け、直流電圧を制御してもよい。参照電極としては、過酸化水素を含む水に侵されない電極材料であれば特に限定されない。具体的には、塩化銀電極、亜鉛電極、飽和甘こう電極等が挙げられ、これらの中でも比較的安価である点で亜鉛電極が特に好ましい。
【0032】
本発明の方法において、陽極および陰極の両電極間に印加する直流電圧は、過酸化水素を含む水の種類および条件により適宜設定すればよく、通常0.75〜1.25Vであるのが好ましく、1.00〜1.25Vであるのがより好ましい。
直流電圧が0.75V未満では、本発明の過酸化水素の分解効果が十分に得られないことがある。一方、直流電圧が1.25Vを超えると、過剰電圧になるだけでなく、特に過酸化水素を含む水が海水である場合に電気化学的作用(電気分解)により塩素イオンが発生し、海水中のブロムイオンと反応して、発ガン性の高いトリハロメタンやハロゲン化フェノールなどの有害物質が生成することがある。
【0033】
また、本発明の方法は、公知の過酸化水素の分解方法、例えば、還元剤を用いる方法、酵素触媒を用いる方法、活性炭を用いる方法、電気分解による方法、固体の金属または貴金属触媒(固体触媒)を用いる方法などと適宜組み合わせて実施することもできる。
【0034】
本発明の方法を船舶バラスト水中の過酸化水素の分解促進に適用する場合について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図3は、本発明の過酸化水素の分解促進方法を船舶バラスト水に適用する場合の模式図であり、外枠は船体を示し、それぞれ図番1はバラストタンク、2はフィルタ(本発明の金属構造物)、3は中和剤タンク、4はバラストポンプ、9は配管、矢符は船舶バラスト水の流れを示す。また図4は、図3のフィルタ2の部分拡大図であり、それぞれ図番5aはパラジウム塗装フィルタ、5bはステンレスフィルタ、7は直流電源、9は配管、矢符は船舶バラスト水の流れを示す。図4に示すように、パラジウム塗装フィルタ5aおよびステンレスフィルタ5bの電気導電性の部分がそれぞれ陽極および陰極の電極を兼ねている。
【0035】
バラストタンク1内の過酸化水素を含む船舶バラスト水は、送液用のバラストポンプ4により配管9を経て船外の海に排出される。その間、フィルタ2において本発明の方法により船舶バラスト水内の過酸化水素の分解が促進され、中和剤タンク3からの亜硫酸ナトリウムなどの中和剤の添加により補助的に船舶バラスト水内の過酸化水素の分解が促進される。
このように過酸化水素を用いて処理された船舶バラスト水中の過酸化水素の分解促進処理は、本発明の方法の好ましい一形態である。
【実施例】
【0036】
本発明を試験例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの試験例により限定されるものではない。
【0037】
(フィルタAの作製)
図1に示すように、ステンレス鋼(SUS316)製の基材上に硝酸パラジウム粉末が溶射されたフィルタ(パラジウム塗装フィルタ)5a(直径100mm、厚さ2mm、100μmメッシュ、ニチダイフィルタ株式会社製)と、ステンレス鋼(SUS316)製のフィルタ(ステンレスフィルタ)5b(直径100mm、厚さ2mm、100μmメッシュ)との間にゴム状(材質:ニトリルゴム)の輪6(内径75mm、外径100mm、厚さ3mm)を挟み込むように接着剤で貼り付けてフィルタAを得た。
【0038】
(フィルタBの作製)
フィルタ5aの代わりにフィルタ5bを用いること以外は、フィルタAと同様にして、2枚のステンレス鋼製のフィルタ5bの間にゴム状の輪6を挟み込むように接着剤で貼り付けてフィルタBを得た。
【0039】
(試験例1:過酸化水素の分解促進効果確認試験)
図2に示すように、容量1リットルのビーカー9に、和歌山県某所で採取した海水1リットルを入れ、過酸化水素濃度が22.5mg/リットルになるように過酸化水素系製剤(PERACLEAN(登録商標)Ocean、Evonik Degussa社製)を添加して試験液を調製し、ゴム状の輪6を挟持するフィルタ5aとフィルタ5bに直流電源7(株式会社高砂製作所製、型式:LX−035−1A)を接続したフィルタAを浸水させた。また、フィルタAに接触しないように、参照電極として白金電極(図示せず)を試験液に浸水させた。
次いで、攪拌子(外径7〜8mm、長さ25mm)およびマグネチックスターラー8(株式会社三商(SANSYO)製、型式:SR−100 60Hz)を用いて、回転数450rpmで試験液を撹拌しながら、直流電源(株式会社高砂製作所製、型式:LX035−1A)を用いて、フィルタ5aとフィルタ5bとの間に0.5Vの電圧を印加して、印加直後から10分毎に30分後まで、試験水中の過酸化水素の分解率(%)を測定した。各電極にテスター(三和電気計器株式会社製、型式:153−BX)を接続して、印加電圧をモニターした。
試験水中の過酸化水素の濃度測定に関しては、特許第3997265号公報に記載されている過酸化水素濃度の測定方法に準拠して行い、予め測定しておいた初期濃度との差異から過酸化水素の分解率(%)を算出した。
得られた結果を表1に示す。
【0040】
(試験例2〜4)
印加電圧をそれぞれ0.75V、1.0Vおよび1.25Vとすること以外は試験例1と同様にして、経時的に試験水中の過酸化水素の分解率(%)を測定した。
得られた結果を表1に示す。
【0041】
(試験例5:比較)
電圧を印加しないこと以外は試験例1と同様にして、経時的に試験水中の過酸化水素の分解率(%)を測定した。
得られた結果を表1に示す。
【0042】
(試験例6:比較)
フィルタAの代わりにフィルタBを用い、印加電圧を1.0Vとすること以外は試験例1と同様にして、電圧印加直後と印加直後から30分後における試験水中の過酸化水素の分解率(%)を測定した。
得られた結果を表1に示す。
【0043】
(試験例7:ブランク)
フィルタを用いず、電圧を印加しないこと以外は試験例1と同様にして、電圧印加直後と印加直後から30分後における試験水中の過酸化水素の分解率(%)を測定した。
得られた結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1の結果から、硝酸パラジウム粉末が溶射されたフィルタの浸漬と電圧の印加とを組み合わせることにより、過酸化水素の分解が促進されることがわかる。具体的には、最低電圧0.50Vであっても30分間で65%以上、0.75Vでは70%以上、1.25Vでは85%以上の過酸化水素の分解が促進されることがわかる。
【符号の説明】
【0046】
1 バラストタンク
2 フィルタ
3 中和剤タンク
4 バラストポンプ
5a パラジウム塗装フィルタ
5b ステンレスフィルタ
6 ゴム状の輪
7 直流電源
8 マグネチックスターラー
9 配管
矢符 船舶バラスト水の流れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素を含む水に、表面に硝酸パラジウム粉末が溶射された金属構造物を接触させ、かつ前記接触と同時に、前記過酸化水素を含む水に接触可能な任意の位置に設けた陽極および陰極の間に直流電圧を印加することにより、前記水中の過酸化水素の分解を促進することを特徴とする過酸化水素の分解促進方法。
【請求項2】
前記金属構造物が、重量比100:1〜10の粒子径10〜40μmのニッケル粉末と粒子径10〜40μmの硝酸パラジウム粉末との混合材料をプラズマ溶射されてなる請求項1に記載の過酸化水素の分解促進方法。
【請求項3】
前記金属構造物が、鉄、ニッケル、銅およびこれらの合金から選択される基材の表面に前記硝酸パラジウム粉末が溶射されてなる請求項1または2に記載の過酸化水素の分解促進方法。
【請求項4】
前記合金が、ステンレス鋼である請求項3に記載の過酸化水素の分解促進方法。
【請求項5】
前記金属構造物が、JIS Z8801における10〜100メッシュの多孔体である請求項1〜4のいずれか1つに記載の過酸化水素の分解促進方法。
【請求項6】
前記金属構造物が、複数である請求項1〜5のいずれか1つに記載の過酸化水素の分解促進方法。
【請求項7】
前記直流電圧が、0.75〜1.25Vである請求項1〜6のいずれか1つに記載の過酸化水素の分解促進方法。
【請求項8】
前記金属構造物が、前記過酸化水素を含む水の流通経路に設けられた、電気導電性の複数のフィルタであり、前記フィルタの2つが陽極および陰極を兼ねる請求項1〜7のいずれか1つに記載の過酸化水素の分解促進方法。
【請求項9】
前記フィルタが、JIS Z8801における10〜100メッシュの複数枚の金網を、天然または合成の樹脂による枠を介して挟持したものである請求項8に記載の過酸化水素の分解促進方法。
【請求項10】
前記フィルタが、100〜5000リットル/時間のろ過能力を有する請求項8または9に記載の過酸化水素の分解促進方法。
【請求項11】
前記過酸化水素を含む水が、過酸化水素を用いて処理された船舶バラスト水である請求項1〜10のいずれか1つに記載の過酸化水素の分解促進方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−646(P2013−646A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133372(P2011−133372)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000154727)株式会社片山化学工業研究所 (82)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】