説明

部分的に異なるせん断剛性を有する編地及びその製造方法

【課題】編地を構成材とする靴のアッパー材に使用したときに、フィット感を与え、温湿度環境をコントロール可能とする編地であり、また、かかる編地を低コストで提供する。
【解決手段】複数の構成糸が多層構造に配された多重組織からなる編地であって、部分的にせん断剛性の異なる部分を有し、せん断剛性の最大部分とせん断剛性の最小部分とのせん断剛性の比が2以上である部分的に異なるせん断剛性を有する編地を、多層構造の少なくとも一層に易溶解性繊維を或いはさらに難溶解性繊維を他層に配した多重組織からなる編地を、抜蝕剤に該易溶解性繊維の溶解剤を用いて部分的に抜蝕加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部分的に異なるせん断剛性を有し、靴のアッパー材に使用したときに、フィット感を与え、温湿度環境をコントロール可能とする編地及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、スポーツシューズのように編地が甲皮に用いられる靴のアッパー材或いは他の甲皮と張り合わせて用いられる靴のアッパー材として、合成繊維や天然繊維を用いた編地が用いられているが、これら編地では足部の個体差によるフィット感の乏しさ、肌や足からの発熱、発汗による温湿度上昇によるベトツキ、蒸れ感等が発生するという問題があった。
【0003】
このような、フィット感を改善し、また温湿度環境をコントロールするために、各種材料の編地を縫い合わせ或いは張り合わせて用いている。しかしながら、多種材料の編地を縫い合わせ、貼り合わせすることから、材料の接合部が粗硬となり易く、フィット感に乏しく、多種の材料と工程が煩雑になり満足し難いものであった。
【0004】
さらに、特許文献1には、表と裏との外面層から構成される編地の、いずれか一方の外面層の表面が凹凸構造に、他方の外面層がフラット構造に形成されている編地が開示されている。しかしながら、ジャガード編機を使用し、編組織を一部変更するのみでは、アッパー材のどの部分も均一なフィット感及び温湿度環境となり、個々人の足に合わせた対応は困難であり、生産ロット、サイズ毎等に編組織を変更することは、昨今の多品種小ロット化における工程では非常に煩雑であり効率を下げるものであった。
【0005】
【特許文献1】特開平9−143842号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、スポーツシューズのように編地が甲皮に用いられる靴のアッパー材或いは他の甲皮と張り合わせて用いられる靴のアッパー材として使用したときに、フィット感を与え、温湿度環境をコントロール可能とする編地を提供することにあり、また、かかる編地を低コストで得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は、複数の構成糸が多層構造に配された多重組織からなる編地であって、部分的にせん断剛性の異なる部分を有し、せん断剛性の最大部分とせん断剛性の最小部分とのせん断剛性の比が2以上であることを特徴とする部分的に異なるせん断剛性を有する編地、及び、易溶解性繊維からなる複合糸或いはさらに難溶解性繊維からなる構成糸を含む複数の構成糸を用いて編成した、複数の構成糸からなる多層構造の少なくとも一層に易溶解性繊維が配され或いはさらに難溶解性繊維が易溶解性繊維と同一または異なる層に配された多重組織からなる編地を、抜触剤として該易溶解性繊維の溶解剤を用いて部分的に抜蝕加工することを特徴とする部分的に異なるせん断剛性を有する編地の製造方法、にある。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、本発明の編地は、複数の構成糸が多層構造に配された多重組織からなり、かつ部分的にせん断剛性の異なる部分を有する織物であり、編地を構成材とする靴のアッパー材として使用したときに、靴のフィット性、温湿度環境の改善に優れた効果を発揮し、また、靴のフィット性、温湿度環境に応じた多様なアッパー材を提供しうる編地を低コストで得ることを可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の編地は、複数の構成糸が多層構造に配された多重組織からなる編地であって、部分的にせん断剛性の異なる部分を有し、せん断剛性の最大部分とせん断剛性の最小部分とのせん断剛性の比(せん断剛性の最大部分でのせん断剛性/せん断剛性の最小部分でのせん断剛性)が2以上であることが必要である。
【0010】
本発明の編地における多重組織とは、編地の構成糸を同一または異なる2本以上の複数とし、複数の構成糸が2層以上の多層構造に配されて形成された組織であり、多重組織からなる編地としては、例えば、ラッセル編地、トリコット編地、ダブルラッセル編地、ダブルジャージ編地等が挙げられる。
【0011】
特に、本発明における編地は、構成糸による多層構造の少なくとも一層に易溶解性繊維が配され、或いはさらに難溶解性繊維が易溶解性繊維と同一または異なる層に配されて構成され、せん断剛性の最大部分には易溶解性繊維が含まれ、せん断剛性の最小部分に含まれる易溶解性繊維がせん断剛性の最大部分に含まれる易溶解性繊維より少ないか、或いは多層構造の少なくとも一層に難溶解性繊維が配されるときは、せん断剛性の最小部分には易溶解性繊維が含まれない編地であることが好ましい。
【0012】
本発明においては、各構成糸が易溶解性繊維のみからなり、多層構造の全層が易溶解性繊維のみで構成されるときは、せん断剛性の最小部分における易溶解性繊維は、せん断剛性の比が2以上になるよう多層構造のいずれかの層或いは全層にわたって含まれていることが必要である。また、編地には、せん断剛性の最大部分でのせん断剛性とせん断剛性の最小部分でのせん断剛性の中間のせん断剛性を有する部分が存在してもよい。
【0013】
本発明の編地におけるせん断剛性は、20℃、65%RHの環境下で、KES法を用いて測定され、単位が(gf/cm・deg)の値(G値)で示される。
【0014】
本発明の編地は、部分的にせん断剛性の異なる部分を有しており、このせん断剛性の変化でアッパー材の足へのフィット性を調節している。せん断剛性の最大部分とせん断剛性の最小部分とのせん断剛性の比が2未満であると、アッパー材の足部への快適なフィット感が得られない。
【0015】
せん断剛性の異なる部分の形状としては、特に限定はないが、例えば、直線、三角形、四角形、円形、楕円形、扇形、台形等が挙げられ、特に、かかる形状部分が易溶解性繊維が含まれないか或いは含有量が極めて少なく、せん断剛性の最小部分を形成し、かかる形状部分以外の部分に易溶解性繊維が含まれ、せん断剛性の最大部分を形成していることが好ましい。またかかる形状、大きさのせん断剛性の最小部分を組み合わせ、或いはせん断剛性の最大部分と最小部分の中間部分のせん断剛性を有する形状部分を存在させ、例えば靴のアッパー材として使用する編地においては、足の甲部全体に当たるよう曲げ剛性が低くなる部分或いはさらに曲げ剛性が中間部分を曲げ剛性が高い地の部分に展開させた状態に編地に配置することにより、快適なフィット感や温湿度環境を得ることが可能である。
【0016】
本発明の編地は、せん断剛性の最大部分と最小部分において、コース及び/又はウェール方向の伸び率の比が2以上、コース及びウェールの伸縮弾性率が80%以上であることが好ましい。伸び率の比を2以上とすることで、編地が変形する時の可動域にゆとりを持たせることができ、また伸縮弾性率が80%以上であることで足へのフィット性に優れたものとなる。また、せん断剛性の最小部分においては、伸び率は、編地の形態案定性の観点から5%以下であることが好ましい。
【0017】
また、本発明の編地は、アッパー材として使用したときに、せん断剛性の最大部分とせん断剛性の最小部分での通気性の比が1.4以上であることが、靴の内部の温湿度環境を快適にするうえで好ましく、さらに1.7以上であることがより好ましい。通気性の比が1.4未満であると、アッパー材として使用したときに、靴の内部への通気性が損なわれ、温湿度が高くなり蒸れ易くなる。
【0018】
本発明の編地における通気性は、20℃、65%RHの環境下で、JIS L1018 一般編物試験方法(フラジール形試験) に従って測定され、単位が(cm/cm/s)で示される値で、通気度と同じ意味である。
【0019】
本発明の編地は、編地に存在する繊維量によってせん断剛性が変化することから、含有する易溶解性繊維が最大量存在する部分はせん断剛性の最大部分となり、含有する易溶解性繊維が最少量存在する部分はせん断剛性の最小部分となる。またせん断剛性は、易溶解性繊維の存在量に比例することから、易溶解性繊維の存在させる量を部分的に変化させることによって、せん断剛性及び通気性のコントロールを簡易に調整することが可能となる。
【0020】
すなわち、本発明の編地を得る際に、各構成糸を易溶解性繊維のみで構成し、易溶解性繊維のみを多層構造の全層に配して多重組織の編地を編成し、或いは易溶解性繊維からなる構成糸、難溶解性繊維からなる構成糸或いは易溶解性繊維と難溶解性繊維からなる構成糸をを用い、易溶解性繊維と難溶解性繊維を多層構造のいずれかの層に配して多重組織の編地を編成し、任意の箇所の易溶解性繊維を不完全に或いは完全に溶解除去することで、任意の箇所のせん断剛性及び通気性をコントロールすることが可能となり、ロットや、個々人の足に合わせ編地の組織を変更することもなく、任意の性状の編地を得ることが可能となる。
【0021】
また、本発明の編地は、複数の構成糸のうちに易溶解性繊維、難溶解性繊維を含む複数の溶解性の異なる繊維からなる構成糸が含まれて編地が構成されているときには、例えば、易溶解性繊維に易アルカリ溶解性の共重合ポリエステル繊維、他の易溶解性繊維にレーヨンを用い、難溶解性繊維に通常のポリエステル繊維を用いることにより、さらに高度にせん断剛性及び通気性のコントロールが調整された編地となる。
【0022】
多重組織の編地において、各構成糸が易溶解性繊維のみからなり、多層構造の全層に易溶解性繊維のみが配する場合は前記のとおりであるが、易溶解性繊維からなる構成糸と難溶解性繊維からなる構成糸を用い、多層構造に易溶解性繊維と難溶解性繊維を配する例としては、例えば、2層構造では、片面の層に易溶解性繊維を主体に、他方の面の層に難溶解性繊維を主体に配することにより、任意の箇所のせん断剛性及び通気性をコントロールでき、また、易溶解性繊維、難溶解性繊維の各繊維の配置箇所には、本発明の機能を阻害しない程度に他の異溶解性繊維を混在させ配してもよい。
【0023】
また、3層構造では、以下のパターンが例示される。
1)片面の層に易溶解性繊維を主体に、他方の面の層及び中層に難溶解性繊維を主体に配する。
2)片面の層に易溶解性繊維を主体に、他方の面の層に同じ易溶解性繊維または他の異溶解性の繊維を主体に、中層に難溶解性繊維を主体に配する。
3)両面の層に易溶解性繊維を主体に、中層に他の異溶解性繊維を主体に配する。
4層構造以上では、片面〜他方の面に易溶解性繊維を主体に配した層と難溶解性繊維を主体に配した層とを、編地の外観、風合い、強度等により任意の数または組み合わせで配置する。
【0024】
本発明の編地の構成糸に用いられる易溶解性繊維或いは難溶解性繊維は、易溶解性重合体、難溶解性重合体それぞれ単独の重合体からなる繊維、または易溶解性重合体と難溶解性重合体の混合物からなる繊維であってもよいし、溶解性重合体を含む2種以上の溶解性の異なる重合体からなる芯鞘型や海島型等の複合繊維でもよく、またそれらの合撚糸、カバーヤーンまたは複合仮撚加工糸でもよい。特に、本発明においては、編地の構成糸に用いられる易溶解性繊維、或いは難溶解性繊維等の繊維は、フィラメント糸の形態であることが撚糸、仮撚加工等の加工面、さらには編成面または取り扱い面からも好ましい。また、本発明の編地の構成糸には易溶解性繊維、難溶解性繊維以外に、本発明の機能を阻害しない程度に他の溶解性の程度の異なる繊維を用いてもよい。
【0025】
例えば、本発明の編地の各構成糸が易溶解性繊維のみからなり、編地が易溶解性繊維のみで構成される場合は、部分的に編地から易溶解性繊維を不完全に消失させた編地とするが、本発明の編地が易溶解性繊維と難溶解性繊維の合撚糸や易溶解性重合体と難溶解性重合体との芯鞘型、海島型等の複合繊維を含む構成糸で構成される場合は、易溶解性繊維や易溶解性成分が完全に溶解除去させた部分にも難溶解性繊維や難溶解性成分を残すことができ、難溶解性繊維や難溶解性成分の存在は強度保持性や安定性の面から好ましいことである。
【0026】
本発明における易溶解性繊維は、溶解剤によって溶解する繊維であり、溶解剤の種類により異なり、用いる溶解剤が同一であるとき、他の繊維に比べより多く溶解する或いはより早く溶解する繊維をいう。従い、溶解剤が同一であるとき、易溶解性繊維に比べ全くまたは僅かしか溶解しない或いはより遅く溶解する繊維を難溶解性繊維という。
【0027】
例えば、溶解剤が水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液の場合には、易溶解性繊維には易アルカリ溶解性の共重合ポリエステル繊維等が用いられ、難溶解性繊維には通常のポリエステル繊維が用いられる。また、溶解剤が硫酸アルミニウム、酸性硫酸ナトリウム等の場合には、易溶解性繊維にはレーヨン、ベンベルグ、リヨセル、綿、麻、アセテート繊維等のセルロース系繊維、ナイロン等のポリアミド繊維等が用いられ、難溶解性繊維にはこれら繊維以外の繊維が用いられる。さらに、溶解剤が水の場合には、易溶解性繊維にはビニロン等の水溶性繊維が用いられ、難溶解性繊維には水溶性繊維以外の繊維が用いられる。
【0028】
特に、本発明においては、易溶解性繊維が、易アルカリ溶解性の共重合ポリエステル繊維、詳しくは易アルカリ溶解性の共重合ポリエステルからなる共重合ポリエステル繊維であることが好ましい。また、共重合ポリエステル繊維は、撚糸や仮撚加工が容易であることからフィラメント糸であることがより好ましい。共重合ポリエステルの共重合成分は、特に限定するものではないが、例えばアルカリ金属スルホン酸を有する化合物或いはさらにポリエステルを構成する酸成分以外の酸成分であり、共重合ポリエステルを易アルカリ溶解性とする成分であればよい。本発明においては、さらに詳しくは、より好ましい共重合ポリエステルを挙げるなら、5−ナトリウムスルホイソフタル酸0.5〜5.0モル%及びアジピン酸2.0〜13.0モル%を共重合させたポリエチレンテレフタレートが挙げられる。
【0029】
次に、本発明の部分的に異なるせん断剛性を有する編地の製造方法について説明する。本発明の編地は、易溶解性繊維からなる複合糸或いはさらに難溶解性繊維からなる構成糸を含む複数の構成糸を用いて編成した、複数の構成糸からなる多層構造の少なくとも一層に易溶解性繊維が配され或いはさらに難溶解性繊維が易溶解性繊維と同一または異なる層に配された多重組織からなる編地を、抜触剤として該易溶解性繊維の溶解剤を用いて部分的に抜蝕加工することにより得ることができる。
【0030】
易溶解性繊維を多層構造として含む多重組織の編地は、複数の構成糸を易溶解性繊維単独、易溶解性繊維と難溶解性繊維の組み合わせ、或いは易溶解性重合体と難溶解性重合体の芯鞘型または海島型の複合繊維或いはさらにこれらと易溶解性繊維または難溶解性繊維の組み合わせとし、またこれらの繊維は好ましくはフィラメント糸として撚糸、仮撚加工糸等の単糸或いは合撚糸、カバーヤーン、複合仮撚加工糸等の複合糸の形態で、編成される。本発明においては、複数の構成糸で多層構造を形成した多重組織でありさえすれば、編組織、易溶解性繊維或いは難溶解性繊維の配置については特に限定はない。
【0031】
抜蝕加工の手法としては、特に限定するものではなく公知の方法が用いられるが、抜蝕促進剤を含む抜蝕糊を、型或いはロールスクリーン等により多重組織の編地に部分的に印捺した後、抜蝕剤である溶解剤により印捺部の抜蝕の促進された繊維の一部または全部を溶解除去する方法が好ましく用いられる。
【0032】
前記の好ましく用いられる抜蝕加工においては、例えば、易溶解性繊維に易アルカリ溶解性の共重合ポリエステル繊維を用い、難溶解性繊維に通常のポリエステル繊維を用いる場合には、抜蝕促進剤として、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン、多価アルコールにエチレンオキシドを2モル以上付加した多価アルコールエチレンオキシド付加物、多価アルコールオキシド付加物と第四級アンモニウム塩の混合物等を用い、抜蝕剤として、易アルカリ溶解性共重合ポリエステル繊維の溶解剤である水酸化ナトリウム等の熱水状態のアルカリ水溶液を用いる。また抜蝕糊における糊剤には公知のものが用いられ、例えば小麦粉糊、トラガントガム、ローカストビーンガム、グアガム、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ソーダ等が挙げられ、単独でまたは2種以上の組み合わせにて用いられる。
【0033】
また、本発明の編地の製造に際し、易溶解性繊維に易アルカリ溶解性でかつカチオン染料可染性の共重合ポリエステル繊維を用い、難溶解性繊維に難アルカリ溶解性でかつ酸性染料可染性の共重合ポリエステル繊維を用いるときには、易溶解性繊維の抜蝕加工後に、抜蝕部と非抜蝕部の染め分けが可能となり、意匠効果を高め、より好ましい編地とし得る。
【0034】
本発明の編地の製造方法において、抜蝕加工後の編地の一部または全面に樹脂加工を行うこともできる。樹脂加工は、さらに部分的なせん断剛性、通気性、伸縮性差を設けることもでき、また、意匠の面においてもさらに好ましい効果を得ることが可能である。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、実施例中の各物性の測定は、下記の方法に拠った。
【0036】
(せん断剛性、せん断剛性の比)
20℃、65%RHの環境可変室で、KES法を用い、せん断剛性の値(G値)(gf/cm・deg)を測定した。また、せん断剛性の比は、下記式にて計算した。
せん断剛性の比=せん断剛性の最大部分のせん断剛性/せん断剛性の最小部分のせん断剛性
【0037】
(通気性、通気性の比)
20℃、65%RHの環境可変室で、JIS L1018 一般編物試験方法(フラジール形試験)に従って、20cm×20cmの試験布を用い、テクステスト( TEXTEST) 社製、通気度試験機FX3300で通気性の値(cm/cm/s)を測定した。また、通気性の比は、下記式にて計算した。
通気性の比=せん断剛性の最小部分の通気性/せん断剛性の最大部分の通気性
【0038】
(伸び率、伸縮弾性率)
20℃、65%RHの環境可変室で、JIS L1018 一般編物試験方法(定荷重時伸び率) に従って伸び率(%)、伸縮弾性率(%)を測定した。また、伸び率の比は、下記式にて計算した。
伸び率の比=せん断剛性の最小部分の伸び率/せん断剛性の最大部分の伸び率
【0039】
(実施例1〜3)
(a)ダブルカバーヤーン(芯糸が難溶解性繊維としてポリエチレンテレフタレートフィラメント糸(帝人社製、33dtex/1フィラメント(f))2本、鞘糸が易溶解性繊維として易アルカリ溶解性の5−ナトリウムスルホイソフタル酸2.25モル%、アジピン酸5.0モル%共重合ポリエチレンテレフタレートフィラメント糸(三菱レイヨン社製、84dtex/48f)1本で構成)、(b)難溶解性繊維としてポリエチレンテレフタレートフィラメント糸(帝人社製、84dtex/36f)及び(c)難溶解性繊維としてのポリエチレンテレフタレート仮撚加工糸(帝人社製、84dtex/36f)の3種の糸を使用し、編機としてカールマイヤー社製RD6DPLM(22ゲージ)を使用して、表1に示す条件にて構成糸が5〜6層の多層構造に配された多重組織のダブルラッセル編地を編成し、常法にて精練処理を施した。なお、表1中のL1〜L6は筬を示し、抜触が容易な易溶解性繊維を含む糸を片面側に配した。
【0040】
この編地を下記処方の抜蝕促進剤を含む抜蝕糊を用い、熱水状態の水酸化ナトリウム水溶液を抜蝕剤として用い、抜蝕加工を施した。抜蝕加工は、靴のアッパー材に適合するパターンに、抜蝕促進剤を含む抜蝕糊を編地の所定の箇所に部分的に印捺し、乾燥後180℃で2分間の乾燥熱処理を行う工程、次いで湯洗い後、抜触剤の80℃の水酸化ナトリウム10g/l水溶液にて30分間浸漬処理し、弱酸にて中和、水洗して印捺部の易溶解性繊維を除去する工程からなる。前記抜蝕糊の印捺には、複数の小円でW状に形取り、このW状小円群を縦列に配列した型を用いた。
【0041】
(抜蝕促進剤含有抜蝕糊)
グリセリンエチレンオキシド10モル付加物:10部(質量部、以下同じ)
下式の第四級アンモニウム塩:2.5部
[[C1225N(CH)(CHCHO)mH](CHCHO)nH]Cl(m+n=2〜8の混合品)
ファインガムG17(第一工業製薬社製グアガム系糊剤):6部
水:81.5部
【0042】
さらに、抜蝕加工された編地を常法にて青色のカチオン染料を用いて染色したところ、編地の抜蝕されていない部分は、片面が青色に染まったせん断剛性が大きい部分となり、抜蝕された部分は白残しのせん断剛性が小さい部分となり、部分的に曲げ感及び通気性、伸縮性の異なる他の片面が柔軟な風合いの編地が得られた。得られた編地の物性を表2に示した。この編地をアッパー材として使用した靴は、足へのフィット感に優れ、履き心地がよく、運動時の蒸れ感も少ない靴となった。また、この靴のサイズを変更する際にも、編地組織や柄の変更から行うのではなく、抜蝕加工以降の工程にて変更できるため、コスト的にも優れ、フレキシブルな対応が可能であった。
【0043】
(比較例1)
実施例1にて編成して得た編地を、抜蝕加工を施さずに、靴のアッパー材として使用した。この靴は、足へのフィット感に乏しく、靴内部のシワ、折れ目等より履き心地が悪く、運動時に足の蒸れ感を有するものであった。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の編地は、部分的に異なるせん断剛性を有することから、部分的に異なる曲げ特性を示す編地であり、特にスポーツシューズのように編地が甲皮に用いられる靴のアッパー材或いは他の甲皮と張り合わせて用いられる靴のアッパー材として有用なるものである。本発明の編地を靴のアッパー材に使用したときには、快適な着用感、詳しくは、フィット性、熱及び湿度環境を得ることが可能とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の構成糸が多層構造に配された多重組織からなる編地であって、部分的にせん断剛性の異なる部分を有し、せん断剛性の最大部分とせん断剛性の最小部分とのせん断剛性の比が2以上であることを特徴とする部分的に異なるせん断剛性を有する編地。
【請求項2】
せん断剛性の最大部分とせん断剛性の最小部分との通気性の比が1.4以上である請求項1に記載の部分的に異なるせん断剛性を有する編地。
【請求項3】
多重組織からなる編地が、多層構造の少なくとも一層に易溶解性繊維が配され、或いはさらに難溶解性繊維が易溶解性繊維と同一または異なる層に配されて構成され、せん断剛性の最大部分には易溶解性繊維が含まれ、せん断剛性の最小部分は含まれる易溶解性繊維がせん断剛性の最大部分に含まれる易溶解性繊維より少ないか、或いは多層構造の少なくとも一層に難溶解性繊維が配されるときは、せん断剛性の最小部分には易溶解性繊維が含まれない編地である請求項1または請求項2に記載の部分的に異なるせん断剛性を有する編地。
【請求項4】
易溶解性繊維が、易アルカリ溶解性の共重合ポリエステル繊維である請求項3に記載の部分的に異なるせん断剛性を有する編地。
【請求項5】
易溶解性繊維が易溶解性フィラメント糸、難溶解性繊維が難溶解性フィラメント糸である請求項3または請求項4に記載の部分的に異なるせん断剛性を有する編地。
【請求項6】
易溶解性繊維からなる複合糸或いはさらに難溶解性繊維からなる構成糸を含む複数の構成糸を用いて編成した、複数の構成糸からなる多層構造の少なくとも一層に易溶解性繊維が配され或いはさらに難溶解性繊維が易溶解性繊維と同一または異なる層に配されて構成された多重組織からなる編地を、抜触剤として該易溶解性繊維の溶解剤を用いて部分的に抜触加工することを特徴とする部分的に異なるせん断剛性を有する編地の製造方法。
【請求項7】
易溶解性繊維として易アルカリ溶解性の共重合ポリエステル繊維を用い、抜触剤として熱水状態のアルカリ水溶液を用いる請求項6に記載の部分的に異なるせん断剛性を有する編地の製造方法。
【請求項8】
易溶解性繊維として易溶解性フィラメント糸、難溶解性繊維として難溶解性フィラメント糸を用いる請求項6または請求項7に記載の部分的に異なるせん断剛性を有する編地の製造方法。



【公開番号】特開2010−84255(P2010−84255A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253292(P2008−253292)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(301067416)三菱レイヨン・テキスタイル株式会社 (102)
【Fターム(参考)】