配電線における事故方向判別装置
【課題】分散型電源からの逆潮流がある場合においても変電所を基準とした負荷側の地絡か否かを正確に判別して表示することができる配電線における事故方向判別装置を提供する。
【解決手段】送電方向判別回路42の判別結果に基づいて、分散型電源15が連系され、送電方向が変化した場合に、相電流位相差演算回路44により相電流変化分の位相差Δδの演算が行われ、変化前後の位相差が0°〜45°の範囲内か否かが相電流位相範囲判定回路45により判定され、変化前後の位相差が0°〜45°の範囲内の場合には分散型電源15からの逆潮流と判定される。一方、変化前後の位相差が0°〜45°の場合には、相電圧変化分・相電流変化分位相差演算回路46により電圧変化分ΔVと電流変化分ΔIの位相差の演算が行われ、変化前後の位相差が−90°〜90°の範囲内か否かが変化分位相範囲判定回路47によって判定される。
【解決手段】送電方向判別回路42の判別結果に基づいて、分散型電源15が連系され、送電方向が変化した場合に、相電流位相差演算回路44により相電流変化分の位相差Δδの演算が行われ、変化前後の位相差が0°〜45°の範囲内か否かが相電流位相範囲判定回路45により判定され、変化前後の位相差が0°〜45°の範囲内の場合には分散型電源15からの逆潮流と判定される。一方、変化前後の位相差が0°〜45°の場合には、相電圧変化分・相電流変化分位相差演算回路46により電圧変化分ΔVと電流変化分ΔIの位相差の演算が行われ、変化前後の位相差が−90°〜90°の範囲内か否かが変化分位相範囲判定回路47によって判定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配電線における事故方向判別装置に係り、詳しくは系統に分散型電源が存在する場合或いは変電所が切り換わる場合においても地絡事故の方向を正確に判別することができる配電線における事故方向判別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の架空配電線における事故方向判別装置として、特許文献1に示すものが提案されている。この事故方向判別装置は、配電線の相電圧及び相電流を検出する第1検出手段と、前記配電線の零相電圧及び零相電流を検出する第2検出手段と、前記相電圧と相電流の位相差に基づいて前記配電線の送電方向を判別する送電方向判別手段とを備えている。又、この事故方向判別装置は、前記零相電圧の電圧値と、零相電流の電流値に基づいて地絡事故を検出する地絡検出手段と、前記地絡事故が検出されたとき、前記送電方向と、前記零相電圧及び前記零相電流の位相差に基づいて前記地絡事故の方向を判定する地絡方向判定手段とを備えている。更に、この事故方向判別装置は、前記地絡方向判定手段が地絡事故の方向を負荷側と判定したとき、所定の表示を行う表示手段を備えている。
【0003】
そして、負荷側の地絡事故の標定に際して、単相の相電圧と相電流の位相差から潮流方向を判定し、地絡事故時の零相電圧と零相電流の位相差から地絡方向の判定を行う。前記潮流方向と地絡方向のアンド条件をもって負荷側の地絡か否かの標定を行うようになっていた。この場合の潮流方向は、地絡事故が発生する直前の演算結果を記憶手段に記憶し、地絡事故発生時の地絡方向と比較して負荷側の地絡事故の標定を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−275373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記従来の事故方向判別装置は、近年配電系統に分散型電源が連系され、変電所以外からも電力が供給される場合を想定していなかったために、次のような問題が新たに生じた。すなわち、分散型電源によって送電方向が変わる場合があるため、負荷側の地絡事故以外に電源側の事故も表示するという不必要な表示がなされることになる。この様な誤表示になる理由を図4のケース1の系統構成に基づいて説明する。変電所11Aに接続された第1表示器21と第2表示器22の間に地絡事故が生じた場合、第1表示器21の判定結果は、送電方向が順潮流(K→L)で、変電所11Aを基準とした負荷側地絡であるため地絡事故を「有」と判定する。一方、分散型電源15から第2表示器22に対し電流が供給されて、送電方向が逆潮流(L→K)となった場合には、第2表示器22は電源側の地絡事故であるにも係わらず負荷側地絡「有」と誤判定する。このように、第1表示器21は正しい表示を行うが第2表示器22は誤った表示を行うことになる。図4に示すケース2においては、第1表示器21及び第2表示器22が共に逆潮流になって、第1表示器21は負荷側地絡を「無」と判定し、第2表示器22は負荷側地絡を「有」と判定する。この場合には第1表示器21及び第2表示器22は共に間違った判定を下すことになる。従って、正確な表示を行うことができないという問題があった。
【0006】
なお、上述の地絡事故の誤表示がなされると、その正しい事故点の特定ができないので、事故の復旧作業に時間を要することになる。
本発明は、上記従来の技術に存する問題点を解消して、分散型電源からの逆潮流がある場合においても変電所を基準とした負荷側の地絡か否かを正確に判別して表示することができる配電線における事故方向判別装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、配電線の相電圧及び相電流を検出する第1検出手段と、前記配電線の零相電圧及び零相電流を検出する第2検出手段と、前記相電圧と相電流の位相差に基づいて前記配電線の送電方向を判別する送電方向判別手段と、前記零相電圧の電圧値と、零相電流の電流値に基づいて地絡事故を検出する地絡検出手段と、前記送電方向が切り換わったときにおけるその前後の相電流変化分の位相差を演算するための相電流位相差演算手段と、前記送電方向が切り換わったときにおけるその前後の相電圧変化分と相電流変化分の位相差を演算する相電圧変化分・相電流変化分位相差演算手段と、前記相電流位相差演算手段により演算された位相差が予め設定された所定位相範囲内にあるか否かを判定するための相電流位相範囲判定手段と、前記変化分位相差演算手段により得られた位相差が予め設定された所定位相範囲内にあるか否かを判定する変化分位相範囲判定手段とにより構成され、前記相電流位相範囲判定手段及び前記変化分位相範囲判定手段による判定結果に基づいて、前記送電方向の補正を行う送電方向補正手段と、前記地絡事故が検出されたとき、前記送電方向補正手段により補正された送電方向と、前記零相電圧及び前記零相電流の位相差とに基づいて前記地絡事故の方向を判定する無停電時地絡方向判定手段と、前記無停電時地絡方向判定手段が地絡事故の方向を負荷側と判定したとき、所定の表示を行う表示手段とを備えたことを要旨とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記相電圧と相電流の変化分を演算するとともに、それらの演算結果が所定の設定範囲を超えたか否かを判定する相電圧変化分・相電流変化分演算判定手段を更に設け、前記送電方向判別手段は、該送電方向判別手段により判別された送電方向が予め設定された設定時間を継続して変化したか否かを判定する継続時間判定機能を備え、設定時間が継続した場合には、前記相電流位相差演算手段の処理動作に移行し、一方、継続しなかった場合には、相電圧変化分・相電流変化分演算判定手段により前記相電圧と相電流の変化分を演算するとともに、それらの演算結果が所定の設定範囲を超えたか否かを判定し、その判定結果が設定範囲を超えたと判定された場合には、前記相電圧変化分・相電流変化分位相差演算手段の演算結果に基づいて、前記変化分位相範囲判定手段により相電圧と相電流の変化分の位相差が所定の設定範囲を超えるか否かを判定し、その判定結果が設定範囲を超えた場合は、分散型電源からの逆潮流と判定し、超えていない場合には、変電所の切り換えによる逆潮流と判定する機能を備えたことを要旨とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2において、前記送電方向判別手段は、電源側である変電所の方向を設定するための変電所方向設定手段を備えたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明は、相電流位相範囲判定手段及び変化分位相範囲判定手段による判定結果に基づいて、送電方向補正手段により前記送電方向の補正が行われる。そして、地絡事故が検出されたとき、無停電時地絡方向判定手段は、送電方向補正手段により補正された送電方向と、零相電圧及び零相電流の位相差とに基づいて地絡事故の方向を判定する。このため、分散型電源からの逆潮流がある場合においても変電所を基準とした負荷側の地絡を正確に判別して表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】地絡事故が発生した場合における配電系統の各機器の動作を示すタイミングチャート。
【図2】地絡事故が発生した場合における送電方向と地絡発生位相方向を判定して、負荷側地絡事故を表示する動作を示すフローチャート。
【図3】負荷側地絡事故の判定動作を示すフローチャート。
【図4】地絡事故発生時の系統構成と第1表示器及び第2表示器の判定結果を示す説明図。
【図5】地絡事故発生時の系統構成と第1表示器及び第2表示器の判定結果を示す説明図。
【図6】配電線における送電方向判別機能を備えた事故方向判別装置を示すブロック回路図。
【図7】(a),(b)は、R相電圧基準に対する送電方向の判定位相角の範囲を示す説明図。
【図8】地絡事故の方向を判定するための零相電圧基準に対する零相電流の判定位相角の範囲を示す説明図。
【図9】変電所の切り換えによる逆潮流送電か分散型電源の逆潮流かを判定する相電流変化分の位相差Δδの判定位相角の範囲を示す説明図。
【図10】変電所の切り換えによる逆潮流か分散型電源からの逆潮流かを判定する相電圧変化分ΔV・相電流変化分ΔIの位相差の判定位相角の範囲を示す説明図。
【図11】(a),(b),(c)は、変電所が切り換わる時の手順を示す説明図。
【図12】変電所が切り換わった後の等価回路図。
【図13】(a),(b)は、分散型電源からの逆潮流による送電方向の変化状態を示す説明図。
【図14】分散型電源からの逆潮流が有る状態の等価回路図。
【図15】分散型電源が系統に連系された場合の地絡事故表示動作を示すタイミングチャート。
【図16】分散型電源が系統に連系された場合の地絡事故表示動作を示すタイミングチャート。
【図17】変電所が切り換えられた場合の地絡事故表示動作を示すタイミングチャート。
【図18】変電所方向をK側にセットした場合の送電方向の補正動作を説明するフローチャート。
【図19】変電所方向をL側にセットした場合の送電方向の補正動作を説明するフローチャート。
【図20】負荷側地絡事故の判定表示動作を説明するフローチャート。
【図21】この発明の事故方向判別装置の別例を示すブロック回路図。
【図22】図21の事故方向判別装置の変電所方向をK側にセットした場合の送電方向の補正動作を説明するフローチャート。
【図23】図21の事故方向判別装置の変電所方向をL側にセットした場合の送電方向の補正動作を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した配電線における事故方向判別装置の一実施形態を図1〜図20に従って説明する。
図6に示すように、変電所11Aと変電所11Bは配電線12によって繋がれており、その途中に遮断器13Aが設けられ、この遮断器13Aには転送遮断装置14Aが設けられている。そして、変電所11AのZCT(零相変流器:図示略)及び配電線12に設けたGPT(接地形計器用変圧器器:図示略)が配電線12に生じる一線地絡事故の零相電圧と零相電流を検出したときに地絡継電器が動作して前記遮断器13Aをトリップし、変電所11Aから配電線12を切り離すようになっている。前記配電線12の他端には別の変電所11B、遮断器13B、保護継電器14Bが接続され、必要に応じて負荷20へ供給する電力を切り換えることが可能な構成になっている。前記配電線12の途中には分散型電源15が配設され、負荷20に電力を供給するようになっている。分散型電源15には遮断器13C及び転送遮断装置14Cが設けられ、転送遮断装置14Aの信号に基づいて、転送遮断装置14Cが動作する。すると、所定時間後に分散型電源15を遮断するようになっている。前記配電線12の途中には第1表示器21及び第2表示器22が図示しない区分開閉器と対応して装着されている。これらの第1表示器21及び第2表示器22は同様に構成されているので、図6において一つの第1表示器21について説明する。
【0013】
配電線12のR相、S相及びT相には高圧センサー30がそれぞれ設けられている。この高圧センサー30は、各相の相電圧を検出する結合コンデンサ31a,31b,31c、変流器32a,32b,32cにより構成されている。前記結合コンデンサ31a,31b,31cには三相の配電線からの相電圧信号Vr,Vs,Vtに基づいて零相電圧信号V0を出力するための電圧信号処理回路34が接続されている。又、前記変流器32a,32b,32cには、三相の配電線からの相電流信号Ir,Is,Itに基づいて零相電流信号I0を出力するための電流信号処理回路35が接続されている。
【0014】
次に、地絡事故が発生し遮断器13Aが作動する「停電有モード」において地絡事故判定表示を行うための構成について説明する。
前記結合コンデンサ31a及び変流器32aには第1送電方向判別手段としての第1送電方向判別回路36及び第2送電方向判別手段としての第2送電方向判別回路37が並列に接続されている。前記第1送電方向判別回路36は、常時継続してR相の相電圧Vrと相電流Irの位相差に基づいてR相の配電線の送電方向を判別して記憶するようになっている。前記第2送電方向判別回路37は、前記配電線12が停電されてから再閉路された復電時において新たに送電方向を判別して記憶するようになっている。この実施形態では両判別回路36,37は図7(a)に示すように、R相電圧の位相角0°を基準に遅れ−70°〜進み110°の範囲内に相電流Irの位相が有る場合に、順潮流(K→L)と判別し、無い場合に逆潮流(L→K)と判別する。
【0015】
前記電圧信号処理回路34と電流信号処理回路35には地絡検出手段としての地絡検出回路38が接続され、零相電圧V0の電圧値及び零相電流I0の電流値に基づいて地絡事故を検出するようになっている。例えば、6kVの配電線の場合、零相電流のレベルが100mAに、零相電圧のレベルが380Vに供に達したときに地絡事故であると判定するようになっている。前記第1送電方向判別回路36及び地絡検出回路38には第1地絡方向判定手段としての第1地絡方向判定回路39が接続されている。そして、地絡事故が検出されたとき、前記送電方向と前記零相電圧V0及び零相電流I0の位相差に基づいて前記地絡事故の方向を判定するようになっている。この実施形態では、図8に示すように、零相電圧の位相角0°を基準に遅れ−30°〜進み150°の範囲内に零相電流I0の位相が有り、かつ、送電方向が順潮流(K→L)と判別されているときに、負荷側の地絡事故と判定する。又、前記位相−30°〜150°内に零相電流I0の位相が無い状態で、かつ逆潮流(L→K)と判別されているときにも、負荷側の地絡事故と判定する。この判定結果は第1地絡方向判定回路39に設けた記憶手段により記憶される。
【0016】
前記第2送電方向判別回路37と第1地絡方向判定回路39には第2地絡方向判定手段としての第2地絡方向判定回路40が接続されている。そして、前記第1地絡方向判定回路39により判別記憶された地絡事故の方向と、前記第2送電方向判別回路37により判別された新たな送電方向とに基づいて地絡事故の方向を後述するように新たに判定するようになっている。前記第2地絡方向判定回路40には新たに判定された地絡事故の方向が負荷側である場合にその地絡事故を表示するための表示灯41が接続されている。
【0017】
以上述べた第1及び第2送電方向判別回路36,37、地絡検出回路38、第1及び第2地絡方向判定回路39,40は、配電線12に地絡事故が発生し前記遮断器13Aがトリップして、配電線12が停電する状態において動作する「停電有モード」にて機能するものである。
【0018】
次に、零相電圧V0及び零相電流I0が発生しても遮断器13Aが作動しない「停電無モード」において零相電圧V0及び零相電流I0が発生した区間の判定表示を行うための回路構成について説明する。
【0019】
前記結合コンデンサ31a及び変流器32aには常時送電方向を判別して記憶する第3送電方向判別手段としての第3送電方向判別回路42が接続されている。又、前記第3送電方向判別回路42には、変電所方向設定手段としての変電所方向設定スイッチ43が接続されている。前記変電所方向設定スイッチ43は、配電線12に前記分散型電源15からの逆潮流がある状態で、第1表示器21及び第2表示器22を設置する場合において、前記変電所11A又は変電所11Bの方向を確定するために設けられている。そして、このスイッチ43によって、設定された変電所方向を基準として前記第3送電方向判別回路42はR相の相電圧Vrと相電流Irの位相差の基準位相を決定するようになっている。この実施形態では前記変電所方向設定スイッチ43にてK側に変電所があると設定されている。この設定条件においては、図7(b)に示すように、R相電圧の位相角0°を基準に遅れ−90°〜進み90°の範囲内に相電流Irの位相が有る場合に、前記第3送電方向判別回路42が順潮流(K→L)と判別し、無い場合には、つまり90°〜270°(−90°)の場合に逆潮流(L→K)と判別する。
【0020】
図6に示すように、前記結合コンデンサ31a、変流器32a及び第3送電方向判別回路42には相電流位相差演算手段としての相電流位相差変化分の相電流位相差演算回路44が接続されている。この相電流位相差演算回路44によって送電方向が逆潮流に切り換わった時点におけるその前後の相電流の位相差を演算するようになっている。前記相電流位相差演算回路44には相電流位相範囲判定手段としての相電流位相範囲判定回路45が接続され、前記相電流位相差演算回路44によって得られた位相差が予め設定された所定の位相範囲(0°〜45°)内にあるか否かを判定するようになっている。更に前記相電流位相差演算回路44によって得られた位相差が予め設定された所定の位相範囲(0°〜45°)外であった場合に用いるための相電圧変化分・相電流変化分位相差演算手段としての相電圧変化分・相電流変化分位相差演算回路46が接続されている。この相電圧変化分・相電流変化分位相差演算回路46によって送電方向が逆潮流に切り換わった時点におけるその前後の相電圧変化と相電流変化の位相差を演算するようになっている。前記相電圧変化分・相電流変化分位相差演算回路46には変化分位相範囲判定手段としての変化分位相範囲判定回路47が接続され、前記位相差演算回路46によって得られた位相差が予め設定された所定の位相範囲(−90°〜90°)内にあるか否かを判定するようになっている。
【0021】
前記第3送電方向判別回路42、相電流位相範囲判定回路45及び変化分位相範囲判定回路47には送電方向補正手段としての送電方向補正回路49が接続され、相電流位相範囲判定回路45及び変化分位相範囲判定回路47の判定結果に基づいて、送電方向の補正を行うようになっている。前記地絡検出回路38と送電方向補正回路49には無停電時地絡方向判定手段としての無停電時地絡方向判定回路50が接続されている。そして、地絡事故が検出されたとき、送電方向補正回路49により補正された送電方向と、零相電圧V0と零相電流I0の位相差とに基づいて予め設定された変電所11Aを基準とした負荷側地絡事故か否かを判定するようになっている。無停電時地絡方向判定回路50は前記表示灯41に接続されている。
【0022】
この実施形態では、前記相電流位相差演算回路44と前記相電流位相範囲判定回路45及び前記相電圧変化分・相電流変化分位相差演算回路46と変化分位相範囲判定回路47によって逆潮流種別判別手段としての逆潮流種別判別回路48が構成されている。
【0023】
次に、上述した各回路44、45,46,47,49,50の機能について説明する。
前記相電流位相差演算回路44及び相電流位相範囲判定回路45は、分散型電源15からの逆潮流であるのか、変電所11Aから変電所11Bへの切り換えによる逆潮流なのかを判定する。相電流位相差演算回路44は無停電時送電方向判別回路42からの判別信号(逆潮流の種別は不明)が出力された時、その前後における相電流変化分の位相差Δδを演算する。そして、送電方向が変化した前後の相電流変化分の位相差Δδが図9に示す0°〜45°の所定位相範囲内の場合には、分散型電源15からの逆潮流と判定する。又、前記位相差Δδが0°〜45°の所定位相範囲外の場合には、前記相電圧変化分・相電流変化分位相差演算回路46及び変化分位相範囲判定回路47による判定結果から、分散型電源15からの逆潮流であるのか、変電所11Aから変電所11Bへの切り換えによる逆潮流であるのかを判定する。
【0024】
前記相電圧変化分・相電流変化分位相差演算回路46は、無停電時送電方向判別回路42からの判別信号(逆潮流の種別は不明)が出力された時、その前後における相電圧Vrの変化分ΔVrと、相電流Irの変化分ΔIrとの位相差を演算する。そして、電圧変化分ΔVrが例えば0°にある時の電流変化分ΔIrとの位相差ΔVr−ΔIrが図10に示す−90°〜90°の範囲内の場合には、変電所の切り換えによる逆潮流と判定する。又、前記位相差ΔVr−ΔIrが−90°〜90°の範囲外の場合には分散型電源15からの逆潮流と判定するようにしている。
【0025】
ところで、変電所11A,11Bの切り換え操作を行う手順の一つであるループ点開閉器(図示略)を投入する場合には、ループ点開閉器の左右の電圧位相差が極力近い状態になった時に行われるように電力会社での運用基準が規定されている。又、分散型電源15においても配電系統へ連系する場合には配電系統の電圧を適正値に維持する必要がある。これらのことから主に自動同期投入装置等を用いて配電系統の電圧位相に分散型電源15の電圧位相を合わせて投入する操作が行われているため、変電所11A,11Bの切り換えもしくは分散型電源15の連系が行われた場合についても電圧には顕著な位相変化が現れない。しかしながら、電流については電圧位相のように同期を取ることを行わないため、送電方向が変化した前後において相電流の位相角に変化が現れる。この時、分散型電源15からの逆潮流では、相電流の位相変化が緩やかであり相電流変化分の位相差Δδは小さくなる。これは、分散型電源15の電源容量が変電所11A(11B)の電源容量に比べ当然のことながら小さいため、連系する配電系統に変電所11A(11B)から供給されている相電流に追従するようにして分散型電源15からの電流は除々に増えるように配電系統へ供給されていくためである。又、変電所11A(11B)の切り換えによる逆潮流では、相電流の位相変化が早く相電流変化分の位相差Δδは大きくなる。これは、切り換えをする変電所11A(11B)の電源容量もその配電系統に供給するために十分な電源容量を備えているため、供給する配電系統に既に流れている相電流に追従せずに電流位相が変化するためである。
【0026】
但し、分散型電源15が連系されている状態の配電系統において、その配電系統から分散型電源15の出力に匹敵するような大容量負荷が脱落した場合には、相電流の位相変化が早く相電流変化分の位相差Δδは大きくなる。
【0027】
従って、相電流変化分の位相差Δδが大きくなった場合には、変電所11A,11Bの切り換えによる逆潮流か分散型電源15による逆潮流かを区別するため、送電方向の変化前と変化後における相電圧変化分と相電流変化分の位相差を判断条件に加え、逆潮流の種別を判断することとした。
【0028】
前記相電流変化分の位相差Δδの判定基準となる所定位相範囲を、前述の0°〜45°に設定したのは以下の理由による。即ち、実配電線において、試験して収集したデータをもとに設定したものであって、相電流変化分の位相差Δδが0°〜45°の範囲内にある場合に分散型電源15からの逆潮流と判定しても誤判定にならないことが判明し、それ以外の場合には逆潮流の種別の判定が難しいことが判明したからである。
【0029】
次に、相電流変化分の位相差Δδが大きくなった場合の次の判断条件として用いられる送電方向の変化前と変化後における相電圧変化分と相電流変化分の位相差と、その位相差に基づいて逆潮流の種別を更に判定する理論を以下に順次説明する。
【0030】
変電所11A,11Bの切り換えによる逆潮流は、図11(a)〜(c)に示す変電所11A,11Bの切り換え時の手順により起こり、切り換え前の状態を示す図11(a)はループ点開閉器(図示略)が開放され、区分開閉器16Aが閉じられ、かつ区分開閉器16Bが開かれて、変電所11Aのみが電源側となっている。ループ状態を示す図11(b)はループ点開閉器(図示略)が投入され、両区分開閉器16A,16Bが閉じられ、変電所11A, 11Bがともに電源側となっている。更に、切り換え後を示す図11(c)はループ点開閉器(図示略)が開放され、区分開閉器16Aが開かれ、かつ区分開閉器16Bが閉じられ、変電所11Bが電源側に切り換えられている。図11(c)に示す変電所11A,11Bの切り換え後の破線部分の等価回路は、図12のように示される。
【0031】
ここで、送電方向の変化前と変化後における相電圧変化分ΔVと相電流変化分ΔIは、図11(c)に示す切り換え後の状態から図11(b)に示すループ状態を引くことによって得られ、次の(1)〜(3)式によって演算される。
<ループ>
【0032】
【数1】
<切り換え後>
【0033】
【数2】
<切り換え後>−<ループ>
【0034】
【数3】
変電所11A,11Bの切り換えによる相電圧変化分ΔVと相電流変化分ΔIの位相差θsは、第1表示器21から切り換えられた変電所11B側を見たインピーダンス(R+jX)によって決定される。このインピーダンスのうち、抵抗分Rは正(R>0)であるため、相電圧変化分ΔVと相電流変化分ΔIの位相差θsは、次の不等式(4)のとおりとなり、|π/2|以内となる。
【0035】
【数4】
図13(a)は分散型電源15からの逆潮流が無い状態を示す。この状態から図13(b)に示すように分散型電源15からの逆潮流が有る状態に変化した時の等価回路は、図14のように示される。
【0036】
ここで、送電方向の変化前と変化後における相電圧変化分ΔVと相電流変化分ΔIは、分散型電源15からの逆潮有の状態から逆潮無の状態を引くことによって得られ、次の(5)〜(7)式によって演算される。
<逆潮無>
【0037】
【数5】
<逆潮有>
【0038】
【数6】
<逆潮有>−<逆潮無>
【0039】
【数7】
分散型電源15からの逆潮流の有無による相電圧変化分ΔVと相電流変化分ΔIの位相差θgは、第1表示器21から変電所11A側を見たインピーダンス(R+jX)によって決定される。このインピーダンスのうち、抵抗分Rは正(R>0)であるため、相電圧変化分ΔVと相電流変化分ΔIの位相差θgは、次の不等式(8)のとおりとなり、|π/2|以上となる。
【0040】
【数8】
よって、電圧変化分ΔVrが0°にある時の電流変化分ΔIrとの位相差ΔVr−ΔIrが−90°〜90°の範囲内の場合には、変電所11A,11Bの切り換えによる逆潮流と判定でき、前記位相差ΔVr−ΔIrが−90°〜90°の範囲外の場合には分散型電源15からの逆潮流と判定できる。
【0041】
そして、相電流位相範囲判定回路45又は変化分位相範囲判定回路47により分散型電源15からの逆潮流と判定された場合には、送電方向補正回路49により、送電方向判別回路42が判別記憶していた変化前の送電方向のままロックし、予め設定された変電所11Aを基準とした正しい送電方向を維持する。なお、変化分位相範囲判定回路47によって変電所11Aから変電所11Bへの切り換えによる逆潮流と判定された場合には、変電所を基準とした正しい送電方向であるため変化前の送電方向を維持するためのロックは行われない。更に、無停電時地絡方向判定回路50は、送電方向補正回路49によって補正が行われた適正な送電方向と地絡検出回路38により予め判定記憶されていた地絡方向とに基づいて無停電時地絡方向判定回路50において負荷側地絡の有無を判定する。
【0042】
次に、前記のように構成した配電線の地絡方向判別装置についてその動作を停電有モードと停電無モードに分けて説明する。
(停電有モードの場合)
配電線12が停電する状態において動作する「停電有モード」では、図1のタイミングチャートに示すように、所定時間後に変電所11Aの遮断器13Aがトリップし、所定時間後に転送遮断装置14Aが動作する。そして、転送遮断装置14C及び遮断器13Cが動作すると所定時間後に分散型電源15が停止し、第1表示器21及び第2表示器22の電源がオフになる。地絡事故から所定時間が経過すると変電所11Aの遮断器13Aが再閉路される。その後、分散型電源15は停止したままに保持される。この停電有モードにおいては、分散型電源15は地絡事故の後に一時単独運転状態となるが一定時間後には停止し、遮断器13Aの再閉路後に起動して運転状態でないことを前提としている。なお、この前提は分散型電源15に関する「電力系統連系技術要件ガイドライン」に沿ったものである。
【0043】
次に、図2に示すフローチャートに基づいて図1に示すように分散型電源15が停止されるまでの間の公知の動作について説明する。
ステップS1において、第1送電方向判別回路36により常時送電方向の判別が行われる。ステップS2において、地絡検出回路38により地絡事故の発生が検出されると、ステップS3により零相電圧V0と零相電流I0の位相差が演算される。その後、ステップS4において、第1送電方向判別回路36による常時の送電方向が順潮流(K→L)であるか否かが判断される。そして、ステップS4において、Yesと判断された場合には、ステップS5において、第1地絡方向判定回路39により地絡発生位相方向が負荷側(K→L)か否かが判断される。Yesの場合にはステップS6において負荷側地絡「有」を記憶手段に記憶すると共に負荷側地絡事故の表示が行われる。
【0044】
一方、ステップS4において、Noと判断された場合には、ステップS7において、第2地絡方向判定回路40により地絡発生位相方向が電源側(L→K)か否かが判断され、Yesの場合にはステップS6において負荷側地絡「有」を記憶手段に記憶すると共に負荷側地絡事故の表示が行われる。Noの場合にはステップS8で負荷側地絡「無」を記憶手段により記憶し、負荷側地絡事故の表示は行われない。又、ステップS5でNoの場合にはステップS8に移行する。
【0045】
次に、図3に示すフローチャートに基づいて変電所11Aの遮断器が再閉路された場合の地絡方向判定表示動作について説明する。
図3のステップS1において、第2送電方向判別回路37により復電時の送電方向の判定が行われる。ステップS2において、地絡事故が発生したか否かが地絡検出回路38により確認される。ステップS2において、Yesの場合には、ステップS3において、復電時の送電方向が順潮流(K→L)か否かが判断される。そして、ステップS3においてYesの場合にはステップS4において第1地絡方向判定回路39によって予め判定記憶されていた地絡発生位相方向が負荷側(K→L)か否かが判断される。そして、ステップS4においてYesと判断された場合には、ステップS5において表示灯41による負荷側地絡事故の表示の継続を行う。
【0046】
一方、ステップS3において、Noと判別された場合には、ステップS6において第2地絡方向判定回路40により記憶されている地絡発生位相方向が電源側(L→K)か否かが判断される。そして、Yesの場合にはステップS5において表示灯41による負荷側地絡事故の表示の継続を行う。Noの場合にはステップS7において表示灯41による負荷側地絡事故の表示が復帰され非表示に切り替えられる。
【0047】
図4及び図5は、地絡事故発生時における系統構成をケース1〜ケース5に分けて、第1表示器21及び第2表示器22の送電方向と負荷側地絡の有無を表したものである。ケース1は第1表示器21と第2表示器22の間で地絡事故が発生し、分散型電源15から第2表示器22に電力が供給された状態を示す。従来においては第1表示器21及び第2表示器22共に負荷側地絡事故が「有」の判定が行われるという問題があったが、本実施形態の場合には、第1表示器21は地絡事故が「有」、第2表示器22は「無」の正しい判定が行われる。
【0048】
ケース2は第1表示器21と第2表示器22の間で地絡事故が発生し、第1表示器21と第2表示器22が共に逆潮流を判定した状態を示す。従来においては、第1表示器21が負荷側地絡を「無」と判定し、第2表示器22が負荷側地絡を「有」と判定する間違った表示が行われるという問題があった。しかし、本実施形態においては第1表示器21及び第2表示器22共に正しい判定表示が行われる。
【0049】
なお、図5に示すケース3は変電所11Aから変電所11Bに切り換えられ、第1表示器21及び第2表示器22が逆潮流と判別された状態を示す。又、ケース4は分散型電源15が存在せず、第1表示器21及び第2表示器22共に順潮流の状態を示す。更にケース5は、分散型電源15がない系統で変電所11Bに切り換えられ、第1表示器21及び第2表示器22が共に逆潮流と判別された状態を示す。ケース3〜ケース5については、第1表示器21及び第2表示器22が共に正しい判定表示を行い、公知の図2に示す判定方法においても正しい判定表示が行われることが確認できた。
(停電無モードの場合)
図15及び図16は配電系統に分散型電源15が連系され、変電所11A,11Bの切り換えが行われず、分散型電源15による逆潮流により送電方向が変化した場合の送電方向の判別と、その補正動作及び地絡事故時の第1表示器21,第2表示器22の変電所11Aを基準とした負荷側地絡の表示動作を示すタイミングチャートである。又、図17は分散型電源15が連系されていないか解列されていて、変電所11Aが変電所11Bに切り換えられた場合の図15及び図16と同様の表示動作を示すタイミングチャートである。
【0050】
次に、図15及び図16に関係する図18のフローチャートにより送電方向の補正動作を説明する。
図18のステップS1では変電所方向設定スイッチ43によって変電所方向がK側(変電所11A)にセットされる。ステップ2において、第3送電方向判別回路42によって常時送電方向の判別が行われる。ステップS3において、同じく前記送電方向判別回路42によって送電方向が1秒間継続して変化したか否かが判別され、Yesの場合にはステップS4において相電流位相差演算回路44により送電方向変化前後の相電流変化分の位相差Δδの演算が行われる。そして、ステップS5おいて変化前後の相電流変化分の位相差Δδが45°より大きいか否かが相電流位相範囲判定回路45によって判定される。
【0051】
なお、ステップS5では分散型電源15からの逆潮流か否かが判断され、No、つまり分散型電源15からの逆潮流の場合には、ステップS8において、送電方向補正回路49により送電方向変化後の送電方向が変化前の送電方向のままロックされることで補正され、送電方向補正回路49の記憶媒体に送電方向が順潮流(K→L)と記憶(セット)される。
【0052】
一方、前述のステップS5において、Yesと判断された場合にはステップS6において相電圧変化分・相電流変化分位相差演算回路46により送電方向変化前後の電圧変化分(ΔV)と電流変化分(ΔI)の位相差∠(ΔV−ΔI)の演算が行われる。そして、ステップS7において変化前後の電圧変化分(ΔV)と電流変化分(ΔI)の位相差の絶対値| ∠(ΔV−ΔI)| が90°以上か否かが変化分位相範囲判定回路47によって判定される。即ちステップS7によって、最終的に変電所の切り換えによる逆潮流か、分散型電源15からの逆潮流かが判断され、Yes、つまり分散型電源15からの逆潮流の場合には、ステップS8において、前述したように送電方向補正回路49により送電方向変化後の送電方向が変化前の送電方向のままロックされることで補正され、送電方向補正回路49の記憶媒体に送電方向が順潮流(K→L)として記憶(セット)される。そして、ステップS10において、第3送電方向判別回路42により常時送電方向の判別が行われる。ステップS11において、同じく無停電時送電方向判別回路42により送電方向が1秒間継続して変化前の送電方向へ戻ったか否かが判定され、Yesの場合には、ステップS13において、送電方向補正回路49の記憶媒体に記憶(セット)されている変化前の送電方向を維持するためのロックと、順潮流(K→L)の記憶(セット)が解除され、ステップS2において、再び第3送電方向判別回路42によって常時送電方向の判別が行われる。
【0053】
一方、ステップS11において、Noと判定された場合、ステップS12において、変化前後の相電流変化分ΔIの位相差Δδが30°より大きく、かつ変化前後の相電流変化分ΔIの大きさ(電流値)が5A(アンペア)より大きいかを相電流位相範囲判定回路45によって判定し、Yesの場合には、送電方向補正回路49の記憶媒体(図示略)に記憶(セット)されている変化前の送電方向を維持するためのロックの解除と、順潮流(K→L)の記憶(セット)が解除され、ステップS6に戻る。一方、ステップS12において、Noと判定された場合には、ステップS10に戻る。
【0054】
一方、前述のステップS7において、Noと判定された場合、つまり変電所11A,11Bの切り換えによる逆潮流と判断された場合には、ステップS9において、送電方向補正回路49により送電方向変化後の送電方向が変化前の送電方向のままロックされることなく送電方向補正回路49の記憶媒体に送電方向が逆潮流(L→K)として記憶(セット)され、その後、ステップS2において、第3送電方向判別回路42によって常時送電方向の判別が行われる。
【0055】
図18に示すフローチャートにより、結論として、変電所11A,11Bの切り換えによる逆潮流の場合には、潮流方向は潮流変化後のままでロックする補正が行われず、分散型電源15による逆潮流の場合には潮流方向は変化前の送電方向のままロックされることで、補正が行われることになる。
【0056】
図19は、ステップS1において変電所方向設定スイッチ43によって変電所方向がL側にセットされた場合を示し、図18の動作と同様であるため詳しい説明を省略する。異なる箇所の概要を述べるとステップS7において送電方向変化前後の電圧変化分(ΔV)と電流変化分(ΔI)の位相差の絶対値| ∠(ΔV−ΔI)| が90°以下か否かが変化分位相範囲判定回路47によって判定され、Yes、つまり分散型電源15からの逆潮流の場合には、ステップS8において、送電方向補正回路49により送電方向変化後の送電方向が変化前の送電方向のままロックされることで補正され、送電方向補正回路49の記憶媒体に送電方向が順潮流(L→K)として、記憶(セット)される。一方、ステップS7において、Noと判定された場合には、ステップS9において、送電方向補正回路49により送電方向変化後の送電方向が変化前のままロックされることなく送電方向補正回路49の記憶媒体に送電方向が逆潮流(K→L)として記憶(セット)される。
【0057】
次に、上述した送電方向の反転補正動作と連係して行われる負荷側地絡事故の表示動作を図20のフローチャートに基づいて説明する。
図15のステップS1において地絡検出回路38により地絡事故が発生したか否かが検出され、ステップS2において同じく地絡検出回路38により零相電圧と零相電流の演算が行われる。次にステップS3において図18もしくは図19のフローチャートに基づいて行われた処理において送電方向補正回路49の記憶媒体(図示略)に記憶(セット)されている送電方向が無停電時地絡方向判定回路50によって順潮流( K→L) か否かが判断される。Yesの場合にはステップS2において演算した結果、つまり零相電圧と零相電流の位相差が−30°〜150°の位相範囲内の場合には、ステップS4において無停電時地絡方向判定回路50によって負荷側地絡(K→L)と判定し、零相電圧と零相電流の位相差が上記位相範囲外の場合には、電源側地絡(L→K)と判定する。このステップS4においてYesと判断された場合には、ステップS5で表示灯41により負荷側地絡事故の表示が行われる。
【0058】
一方、ステップS3においてNoと判断された場合には、ステップS6において地絡発生位相方向は負荷側地絡(L→K)か否かが無停電時地絡方向判定回路50によって判断され、Yesの場合には、ステップS1において負荷側地絡事故が表示される。又、ステップ5においてNoと判断された場合には、ステップS7に移行し、負荷側地絡事故は表示されない。更に、ステップS4においてNoと判断された場合には、ステップS7へ移行する。
【0059】
ここで、第3送電方向判別回路42の潮流方向を判定する位相範囲を−90°〜90°の範囲に設定した理由を以下に説明する。
分散型電源15からの逆潮流が及ぶ場合と、変電所11A,11Bの切り換え時には有効電力が変化する。有効電力Pは、相電圧V、相電流I、相電圧V及び相電流Iの力率角θとすると、次式で示される。
【0060】
P=3V・Icosθ
上式のcosθは90°もしくは−90°で0となり、θ<90°→θ>−90°又はθ>−90°→θ<90°には、プラス→マイナスの値となり、極性が変化することから判定処理上において明確に潮流方向が変化することが捉えられるので、−90°〜90°の範囲に設定した。又、無停電時送電方向判別回路42の記憶媒体には−90°〜90°の位相範囲であった場合には順潮流(K→L)と記憶(セット)され、それ以外は逆潮流(L→K)と記憶(セット)される。
【0061】
次に、無停電時地絡方向判定回路50によって、変電所を基準とした負荷側地絡を判定する動作を更に説明する。
相電流位相差演算回路44及び相電流位相範囲判定回路45と、相電圧変化分・相電流変化分位相差演算回路46及び変化分位相範囲判定回路47とにおいてそれぞれ演算が行われる。そして、無停電時地絡方向判定回路50において変電所11Aから変電所11Bの切り換え時には送電方向補正回路49に記憶(セット)された送電方向が変化した変電所11B方向と、地絡方向とのアンド条件をもって変電所11Bを基準とした負荷側地絡か否かを判定する。反対に、分散型電源15からの逆潮流の場合には、送電方向補正回路49に記憶(セット)された送電方向が変化する前の変電所11A方向としてロックされた送電方向と、地絡方向とのアンド条件をもって変電所11Aを基準とした負荷側地絡か否かを判定する。
【0062】
一例として、分散型電源15の連系によって、有効電力の極性が変化するのは、分散型電源15と該分散型電源15の逆潮流のみによって賄われている負荷20との間に設置されている第2表示器22であって、逆潮流(L→K) を示す範囲に入るからである。一方、第1表示器21については、分散型電源15の潮流が及ばない位置にあり、変電所からの供給によって賄われているため分散型電源15が連系されている場合においても順潮流(K→L) を示す範囲に入り極性は変化せず、分散型電源15からの逆潮流が及んでいるか否かを判別することができる。その後の処理として第2表示器22の送電方向は補正され送電方向補正回路49に記憶(セット)された送電方向が変化する前の変電所方向をロックした送電方向と地絡方向とのアンド条件をもって変電所を基準とした負荷側地絡を判定する。第1表示器21の送電方向は送電方向補正回路49に記憶(セット)された送電方向が変化したままの変電所方向をロックしない送電方向と地絡方向とのアンド条件をもって変電所を基準とした負荷側地絡を判定する。
【0063】
上記実施形態の配電線における事故方向判別装置によれば、以下のような特徴を得ることができる。
(1)上記実施形態では、停電有モードにおいて、第1送電方向判別回路36の判別結果に基づいて、第1地絡方向判定回路39により地絡方向を判定し、この判定結果を記憶する。遮断器13Aが再閉路された後、第2送電方向判別回路37の判別結果に基づいて第2地絡方向判定回路40により地絡方向を判定し、負荷側地絡の場合にそれを表示する。このため、分散型電源15が連系されている系統であっても負荷側地絡を正確に判定して表示することができる。
【0064】
(2)上記実施形態では、停電無モードにおいて、第3送電方向判別回路42の判別結果に基づいて、分散型電源15が連系され、送電方向が変化した場合に、相電流位相差演算回路44により相電流変化分の位相差Δδの演算が行われ、変化前後の位相差が0°〜45°の範囲内か否かが相電流位相範囲判定回路45により判定され、変化前後の位相差が0°〜45°の範囲内の場合には分散型電源15からの逆潮流と判定され、一方、変化前後の位相差が0°〜45°の場合には、相電圧変化分・相電流変化分位相差演算回路46により電圧変化分ΔVと電流変化分ΔIの位相差の演算が行われる。そして、変化前後の位相差が−90°〜90°の範囲内か否かが変化分位相範囲判定回路47によって判定される。
【0065】
更に、送電方向変化後の送電方向が順潮流(K→L)か否かが送電方向補正回路49に記憶(セット)される。この記憶(セット)された送電方向の補正結果に基づいて無停電時地絡方向判定回路50により負荷側地絡の判定が行われる。従って、無停電時において送電方向が変化しても負荷側地絡か否かを正確に判定することができる。
【0066】
次に、この発明の別の実施形態を図21〜図23に基づいて説明する。図21は送電方向判別装置の別例を示すブロック回路図、図22,23は図21の回路図に基づく処理動作のフローチャートである。この別の実施形態においては、図21に示すように、前記相電圧変化分・相電流変化分位相差演算回路46の上流側に相電圧変化分・相電流変化分演算判定手段としての相電圧変化分・相電流変化分演算判定回路51を接続している。この演算判定回路51は、相電圧変化分ΔVと電流変化分ΔIが設定値を超えたか否かを判断し、かつ相電圧変化分ΔVと電流変化分ΔIの位相差を演算する機能を備えている。
【0067】
そして、前述した実施形態の図18に示すステップS3において、Noと判断された場合に、図22に示すステップS15〜S17の処理を行うようにしたものである。ステップS15において、前記演算判定回路51によって相電圧と相電流の電圧変化分ΔVが設定値(例えば3V)、電流変化分ΔIが設定値(例えば3A)を超えたか否かが判断され、Yesの場合には、ステップS16において、前記位相差演算回路46によって相電圧と相電流の変化前後の電圧変化分ΔVと電流変化分ΔIの位相差∠ΔV−ΔIが演算される。次に、ステップS17において、演算された位相差∠ΔV−ΔIが所定位相角(90°)以上か否かが判定されるとともに、この判定結果が予め設定された設定回数を超えたか否かがカウントされる。そして、ステップS17において、Yesと判断された場合には、分散型電源15からの逆潮流と判定し、ステップS8に移行する。反対に、ステップS17において、Noと判断された場合には、変電所の切り換えによる逆潮流と判定し、ステップS9に移行する。
【0068】
上述したステップS15〜S17を設けた理由を以下に説明する。
ステップS3において送電方向が1秒間継続して変化した場合には、大方の場合において送電方向が変化したことを判定することができる。しかし、レアケースにおいては、設定された1秒以下の場合においても変電所11A,11Bの切り換えによる逆潮流と分散型電源15からの逆潮流の場合が考えられる。すなわち、変電所11Aから変電所11Bへの切り換えの場合は、例えば変電所11Bからの潮流が分散型電源15の出力の大小によって第1表示器21へ到達したりしなかったりするため、分散型電源15の出力の大小が1秒以内に変動する場合において短時間(1秒以下)に送電方向が切り換わることがある。又、分散型電源15からの逆潮流の場合は、例えば第1表示器21が分散型電源15の連系点と負荷20との間に設置されている場合において、分散型電源15の出力変動ないしは負荷20の電力消費の変化によって短時間(1秒以下)に送電方向が切り換わることがある。従って、所定設定時間の1秒以下の場合においても変電所11A,11Bの切り換えによる逆潮流か分散型電源15からの逆潮流かを判別することにより判別精度を向上することができる。
【0069】
次に、ステップS17において位相差が90°以上となる回数が設定回数を超えたか否かを判定する理由を以下に説明する。
ステップS3でNoとなった場合にはステップS15において電圧変化分ΔVが3V、電流変化分ΔIが3Aを超えるか否かという位相以外の電圧及び電流を判別要素として用いているため、位相差が一定でない状態での相電圧及び相電流から変化分位相範囲判定回路47を用いて位相差ΔV−ΔIが90°以上か否かを演算することとなる。そのために設定回数以上の変化があったか否かを確認することとした。確認する理由としては、ステップS3において送電方向が1秒間継続しておらず、短時間に位相が変化している状態の相電圧及び相電流から位相差∠ΔV−ΔIを判別しようとするために、判別する所定判別時間内(例えば本実施例では変化前後各40ms)において、判定精度を向上するために設定回数を定め、多い回数の条件をセットするようにした。なお、ステップ3において、Yesの場合には送電方向が1秒間継続しているためステップS7において位相差∠ΔV−ΔIが変化することは無いが前述したステップS17と同様の処理を行なってもよい。
【0070】
図23は変電所方向がL側にセットされた場合のフローチャートである。この処理動作は図19の変電所方向がK側にセットされた場合の処理動作のうちステップS7と、S17の判定において所定の設定範囲内であるか否かが逆となる。又、ステップS8,S9においても変電所方向をロックするしないの基準が逆となるが、その他の処理動作は図19の処理動作と同様であるため説明を省略する。
【0071】
なお、前記実施形態は以下のように変更して具体化することができる。
○ 前記相電流位相範囲判定回路45の所定位相範囲を、0°〜45°に代えて、0°〜40°又は0°〜50°に設定してもよい。
【0072】
○ 前記第1送電方向判別回路36の所定位相範囲を、−90°〜90°に設定してもよい。
○ 前記第1送電方向判別回路36を前記第3送電方向判別回路42に置き換えてもよい。
【0073】
○ 前述した第1表示器21及び第2表示器22の各種の位相範囲、設定値については、変電所からの切り換え信号によって切り換えられるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0074】
I,Ir…相電流、V,Vr…相電圧、Δδ,θg,θs,ΔVr−ΔIr,ΔVr−ΔIr…位相差、ΔI…相電流変化分、ΔI,ΔIr…電流変化分、ΔV,ΔVr…電圧変化分、ΔV…相電圧変化分、I0…零相電流、V0…零相電圧、ΔIr,ΔVr…変化分、11A,11B…変電所、12…配電線、15…分散型電源、20…負荷。
【技術分野】
【0001】
本発明は、配電線における事故方向判別装置に係り、詳しくは系統に分散型電源が存在する場合或いは変電所が切り換わる場合においても地絡事故の方向を正確に判別することができる配電線における事故方向判別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の架空配電線における事故方向判別装置として、特許文献1に示すものが提案されている。この事故方向判別装置は、配電線の相電圧及び相電流を検出する第1検出手段と、前記配電線の零相電圧及び零相電流を検出する第2検出手段と、前記相電圧と相電流の位相差に基づいて前記配電線の送電方向を判別する送電方向判別手段とを備えている。又、この事故方向判別装置は、前記零相電圧の電圧値と、零相電流の電流値に基づいて地絡事故を検出する地絡検出手段と、前記地絡事故が検出されたとき、前記送電方向と、前記零相電圧及び前記零相電流の位相差に基づいて前記地絡事故の方向を判定する地絡方向判定手段とを備えている。更に、この事故方向判別装置は、前記地絡方向判定手段が地絡事故の方向を負荷側と判定したとき、所定の表示を行う表示手段を備えている。
【0003】
そして、負荷側の地絡事故の標定に際して、単相の相電圧と相電流の位相差から潮流方向を判定し、地絡事故時の零相電圧と零相電流の位相差から地絡方向の判定を行う。前記潮流方向と地絡方向のアンド条件をもって負荷側の地絡か否かの標定を行うようになっていた。この場合の潮流方向は、地絡事故が発生する直前の演算結果を記憶手段に記憶し、地絡事故発生時の地絡方向と比較して負荷側の地絡事故の標定を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−275373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記従来の事故方向判別装置は、近年配電系統に分散型電源が連系され、変電所以外からも電力が供給される場合を想定していなかったために、次のような問題が新たに生じた。すなわち、分散型電源によって送電方向が変わる場合があるため、負荷側の地絡事故以外に電源側の事故も表示するという不必要な表示がなされることになる。この様な誤表示になる理由を図4のケース1の系統構成に基づいて説明する。変電所11Aに接続された第1表示器21と第2表示器22の間に地絡事故が生じた場合、第1表示器21の判定結果は、送電方向が順潮流(K→L)で、変電所11Aを基準とした負荷側地絡であるため地絡事故を「有」と判定する。一方、分散型電源15から第2表示器22に対し電流が供給されて、送電方向が逆潮流(L→K)となった場合には、第2表示器22は電源側の地絡事故であるにも係わらず負荷側地絡「有」と誤判定する。このように、第1表示器21は正しい表示を行うが第2表示器22は誤った表示を行うことになる。図4に示すケース2においては、第1表示器21及び第2表示器22が共に逆潮流になって、第1表示器21は負荷側地絡を「無」と判定し、第2表示器22は負荷側地絡を「有」と判定する。この場合には第1表示器21及び第2表示器22は共に間違った判定を下すことになる。従って、正確な表示を行うことができないという問題があった。
【0006】
なお、上述の地絡事故の誤表示がなされると、その正しい事故点の特定ができないので、事故の復旧作業に時間を要することになる。
本発明は、上記従来の技術に存する問題点を解消して、分散型電源からの逆潮流がある場合においても変電所を基準とした負荷側の地絡か否かを正確に判別して表示することができる配電線における事故方向判別装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、配電線の相電圧及び相電流を検出する第1検出手段と、前記配電線の零相電圧及び零相電流を検出する第2検出手段と、前記相電圧と相電流の位相差に基づいて前記配電線の送電方向を判別する送電方向判別手段と、前記零相電圧の電圧値と、零相電流の電流値に基づいて地絡事故を検出する地絡検出手段と、前記送電方向が切り換わったときにおけるその前後の相電流変化分の位相差を演算するための相電流位相差演算手段と、前記送電方向が切り換わったときにおけるその前後の相電圧変化分と相電流変化分の位相差を演算する相電圧変化分・相電流変化分位相差演算手段と、前記相電流位相差演算手段により演算された位相差が予め設定された所定位相範囲内にあるか否かを判定するための相電流位相範囲判定手段と、前記変化分位相差演算手段により得られた位相差が予め設定された所定位相範囲内にあるか否かを判定する変化分位相範囲判定手段とにより構成され、前記相電流位相範囲判定手段及び前記変化分位相範囲判定手段による判定結果に基づいて、前記送電方向の補正を行う送電方向補正手段と、前記地絡事故が検出されたとき、前記送電方向補正手段により補正された送電方向と、前記零相電圧及び前記零相電流の位相差とに基づいて前記地絡事故の方向を判定する無停電時地絡方向判定手段と、前記無停電時地絡方向判定手段が地絡事故の方向を負荷側と判定したとき、所定の表示を行う表示手段とを備えたことを要旨とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記相電圧と相電流の変化分を演算するとともに、それらの演算結果が所定の設定範囲を超えたか否かを判定する相電圧変化分・相電流変化分演算判定手段を更に設け、前記送電方向判別手段は、該送電方向判別手段により判別された送電方向が予め設定された設定時間を継続して変化したか否かを判定する継続時間判定機能を備え、設定時間が継続した場合には、前記相電流位相差演算手段の処理動作に移行し、一方、継続しなかった場合には、相電圧変化分・相電流変化分演算判定手段により前記相電圧と相電流の変化分を演算するとともに、それらの演算結果が所定の設定範囲を超えたか否かを判定し、その判定結果が設定範囲を超えたと判定された場合には、前記相電圧変化分・相電流変化分位相差演算手段の演算結果に基づいて、前記変化分位相範囲判定手段により相電圧と相電流の変化分の位相差が所定の設定範囲を超えるか否かを判定し、その判定結果が設定範囲を超えた場合は、分散型電源からの逆潮流と判定し、超えていない場合には、変電所の切り換えによる逆潮流と判定する機能を備えたことを要旨とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2において、前記送電方向判別手段は、電源側である変電所の方向を設定するための変電所方向設定手段を備えたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明は、相電流位相範囲判定手段及び変化分位相範囲判定手段による判定結果に基づいて、送電方向補正手段により前記送電方向の補正が行われる。そして、地絡事故が検出されたとき、無停電時地絡方向判定手段は、送電方向補正手段により補正された送電方向と、零相電圧及び零相電流の位相差とに基づいて地絡事故の方向を判定する。このため、分散型電源からの逆潮流がある場合においても変電所を基準とした負荷側の地絡を正確に判別して表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】地絡事故が発生した場合における配電系統の各機器の動作を示すタイミングチャート。
【図2】地絡事故が発生した場合における送電方向と地絡発生位相方向を判定して、負荷側地絡事故を表示する動作を示すフローチャート。
【図3】負荷側地絡事故の判定動作を示すフローチャート。
【図4】地絡事故発生時の系統構成と第1表示器及び第2表示器の判定結果を示す説明図。
【図5】地絡事故発生時の系統構成と第1表示器及び第2表示器の判定結果を示す説明図。
【図6】配電線における送電方向判別機能を備えた事故方向判別装置を示すブロック回路図。
【図7】(a),(b)は、R相電圧基準に対する送電方向の判定位相角の範囲を示す説明図。
【図8】地絡事故の方向を判定するための零相電圧基準に対する零相電流の判定位相角の範囲を示す説明図。
【図9】変電所の切り換えによる逆潮流送電か分散型電源の逆潮流かを判定する相電流変化分の位相差Δδの判定位相角の範囲を示す説明図。
【図10】変電所の切り換えによる逆潮流か分散型電源からの逆潮流かを判定する相電圧変化分ΔV・相電流変化分ΔIの位相差の判定位相角の範囲を示す説明図。
【図11】(a),(b),(c)は、変電所が切り換わる時の手順を示す説明図。
【図12】変電所が切り換わった後の等価回路図。
【図13】(a),(b)は、分散型電源からの逆潮流による送電方向の変化状態を示す説明図。
【図14】分散型電源からの逆潮流が有る状態の等価回路図。
【図15】分散型電源が系統に連系された場合の地絡事故表示動作を示すタイミングチャート。
【図16】分散型電源が系統に連系された場合の地絡事故表示動作を示すタイミングチャート。
【図17】変電所が切り換えられた場合の地絡事故表示動作を示すタイミングチャート。
【図18】変電所方向をK側にセットした場合の送電方向の補正動作を説明するフローチャート。
【図19】変電所方向をL側にセットした場合の送電方向の補正動作を説明するフローチャート。
【図20】負荷側地絡事故の判定表示動作を説明するフローチャート。
【図21】この発明の事故方向判別装置の別例を示すブロック回路図。
【図22】図21の事故方向判別装置の変電所方向をK側にセットした場合の送電方向の補正動作を説明するフローチャート。
【図23】図21の事故方向判別装置の変電所方向をL側にセットした場合の送電方向の補正動作を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した配電線における事故方向判別装置の一実施形態を図1〜図20に従って説明する。
図6に示すように、変電所11Aと変電所11Bは配電線12によって繋がれており、その途中に遮断器13Aが設けられ、この遮断器13Aには転送遮断装置14Aが設けられている。そして、変電所11AのZCT(零相変流器:図示略)及び配電線12に設けたGPT(接地形計器用変圧器器:図示略)が配電線12に生じる一線地絡事故の零相電圧と零相電流を検出したときに地絡継電器が動作して前記遮断器13Aをトリップし、変電所11Aから配電線12を切り離すようになっている。前記配電線12の他端には別の変電所11B、遮断器13B、保護継電器14Bが接続され、必要に応じて負荷20へ供給する電力を切り換えることが可能な構成になっている。前記配電線12の途中には分散型電源15が配設され、負荷20に電力を供給するようになっている。分散型電源15には遮断器13C及び転送遮断装置14Cが設けられ、転送遮断装置14Aの信号に基づいて、転送遮断装置14Cが動作する。すると、所定時間後に分散型電源15を遮断するようになっている。前記配電線12の途中には第1表示器21及び第2表示器22が図示しない区分開閉器と対応して装着されている。これらの第1表示器21及び第2表示器22は同様に構成されているので、図6において一つの第1表示器21について説明する。
【0013】
配電線12のR相、S相及びT相には高圧センサー30がそれぞれ設けられている。この高圧センサー30は、各相の相電圧を検出する結合コンデンサ31a,31b,31c、変流器32a,32b,32cにより構成されている。前記結合コンデンサ31a,31b,31cには三相の配電線からの相電圧信号Vr,Vs,Vtに基づいて零相電圧信号V0を出力するための電圧信号処理回路34が接続されている。又、前記変流器32a,32b,32cには、三相の配電線からの相電流信号Ir,Is,Itに基づいて零相電流信号I0を出力するための電流信号処理回路35が接続されている。
【0014】
次に、地絡事故が発生し遮断器13Aが作動する「停電有モード」において地絡事故判定表示を行うための構成について説明する。
前記結合コンデンサ31a及び変流器32aには第1送電方向判別手段としての第1送電方向判別回路36及び第2送電方向判別手段としての第2送電方向判別回路37が並列に接続されている。前記第1送電方向判別回路36は、常時継続してR相の相電圧Vrと相電流Irの位相差に基づいてR相の配電線の送電方向を判別して記憶するようになっている。前記第2送電方向判別回路37は、前記配電線12が停電されてから再閉路された復電時において新たに送電方向を判別して記憶するようになっている。この実施形態では両判別回路36,37は図7(a)に示すように、R相電圧の位相角0°を基準に遅れ−70°〜進み110°の範囲内に相電流Irの位相が有る場合に、順潮流(K→L)と判別し、無い場合に逆潮流(L→K)と判別する。
【0015】
前記電圧信号処理回路34と電流信号処理回路35には地絡検出手段としての地絡検出回路38が接続され、零相電圧V0の電圧値及び零相電流I0の電流値に基づいて地絡事故を検出するようになっている。例えば、6kVの配電線の場合、零相電流のレベルが100mAに、零相電圧のレベルが380Vに供に達したときに地絡事故であると判定するようになっている。前記第1送電方向判別回路36及び地絡検出回路38には第1地絡方向判定手段としての第1地絡方向判定回路39が接続されている。そして、地絡事故が検出されたとき、前記送電方向と前記零相電圧V0及び零相電流I0の位相差に基づいて前記地絡事故の方向を判定するようになっている。この実施形態では、図8に示すように、零相電圧の位相角0°を基準に遅れ−30°〜進み150°の範囲内に零相電流I0の位相が有り、かつ、送電方向が順潮流(K→L)と判別されているときに、負荷側の地絡事故と判定する。又、前記位相−30°〜150°内に零相電流I0の位相が無い状態で、かつ逆潮流(L→K)と判別されているときにも、負荷側の地絡事故と判定する。この判定結果は第1地絡方向判定回路39に設けた記憶手段により記憶される。
【0016】
前記第2送電方向判別回路37と第1地絡方向判定回路39には第2地絡方向判定手段としての第2地絡方向判定回路40が接続されている。そして、前記第1地絡方向判定回路39により判別記憶された地絡事故の方向と、前記第2送電方向判別回路37により判別された新たな送電方向とに基づいて地絡事故の方向を後述するように新たに判定するようになっている。前記第2地絡方向判定回路40には新たに判定された地絡事故の方向が負荷側である場合にその地絡事故を表示するための表示灯41が接続されている。
【0017】
以上述べた第1及び第2送電方向判別回路36,37、地絡検出回路38、第1及び第2地絡方向判定回路39,40は、配電線12に地絡事故が発生し前記遮断器13Aがトリップして、配電線12が停電する状態において動作する「停電有モード」にて機能するものである。
【0018】
次に、零相電圧V0及び零相電流I0が発生しても遮断器13Aが作動しない「停電無モード」において零相電圧V0及び零相電流I0が発生した区間の判定表示を行うための回路構成について説明する。
【0019】
前記結合コンデンサ31a及び変流器32aには常時送電方向を判別して記憶する第3送電方向判別手段としての第3送電方向判別回路42が接続されている。又、前記第3送電方向判別回路42には、変電所方向設定手段としての変電所方向設定スイッチ43が接続されている。前記変電所方向設定スイッチ43は、配電線12に前記分散型電源15からの逆潮流がある状態で、第1表示器21及び第2表示器22を設置する場合において、前記変電所11A又は変電所11Bの方向を確定するために設けられている。そして、このスイッチ43によって、設定された変電所方向を基準として前記第3送電方向判別回路42はR相の相電圧Vrと相電流Irの位相差の基準位相を決定するようになっている。この実施形態では前記変電所方向設定スイッチ43にてK側に変電所があると設定されている。この設定条件においては、図7(b)に示すように、R相電圧の位相角0°を基準に遅れ−90°〜進み90°の範囲内に相電流Irの位相が有る場合に、前記第3送電方向判別回路42が順潮流(K→L)と判別し、無い場合には、つまり90°〜270°(−90°)の場合に逆潮流(L→K)と判別する。
【0020】
図6に示すように、前記結合コンデンサ31a、変流器32a及び第3送電方向判別回路42には相電流位相差演算手段としての相電流位相差変化分の相電流位相差演算回路44が接続されている。この相電流位相差演算回路44によって送電方向が逆潮流に切り換わった時点におけるその前後の相電流の位相差を演算するようになっている。前記相電流位相差演算回路44には相電流位相範囲判定手段としての相電流位相範囲判定回路45が接続され、前記相電流位相差演算回路44によって得られた位相差が予め設定された所定の位相範囲(0°〜45°)内にあるか否かを判定するようになっている。更に前記相電流位相差演算回路44によって得られた位相差が予め設定された所定の位相範囲(0°〜45°)外であった場合に用いるための相電圧変化分・相電流変化分位相差演算手段としての相電圧変化分・相電流変化分位相差演算回路46が接続されている。この相電圧変化分・相電流変化分位相差演算回路46によって送電方向が逆潮流に切り換わった時点におけるその前後の相電圧変化と相電流変化の位相差を演算するようになっている。前記相電圧変化分・相電流変化分位相差演算回路46には変化分位相範囲判定手段としての変化分位相範囲判定回路47が接続され、前記位相差演算回路46によって得られた位相差が予め設定された所定の位相範囲(−90°〜90°)内にあるか否かを判定するようになっている。
【0021】
前記第3送電方向判別回路42、相電流位相範囲判定回路45及び変化分位相範囲判定回路47には送電方向補正手段としての送電方向補正回路49が接続され、相電流位相範囲判定回路45及び変化分位相範囲判定回路47の判定結果に基づいて、送電方向の補正を行うようになっている。前記地絡検出回路38と送電方向補正回路49には無停電時地絡方向判定手段としての無停電時地絡方向判定回路50が接続されている。そして、地絡事故が検出されたとき、送電方向補正回路49により補正された送電方向と、零相電圧V0と零相電流I0の位相差とに基づいて予め設定された変電所11Aを基準とした負荷側地絡事故か否かを判定するようになっている。無停電時地絡方向判定回路50は前記表示灯41に接続されている。
【0022】
この実施形態では、前記相電流位相差演算回路44と前記相電流位相範囲判定回路45及び前記相電圧変化分・相電流変化分位相差演算回路46と変化分位相範囲判定回路47によって逆潮流種別判別手段としての逆潮流種別判別回路48が構成されている。
【0023】
次に、上述した各回路44、45,46,47,49,50の機能について説明する。
前記相電流位相差演算回路44及び相電流位相範囲判定回路45は、分散型電源15からの逆潮流であるのか、変電所11Aから変電所11Bへの切り換えによる逆潮流なのかを判定する。相電流位相差演算回路44は無停電時送電方向判別回路42からの判別信号(逆潮流の種別は不明)が出力された時、その前後における相電流変化分の位相差Δδを演算する。そして、送電方向が変化した前後の相電流変化分の位相差Δδが図9に示す0°〜45°の所定位相範囲内の場合には、分散型電源15からの逆潮流と判定する。又、前記位相差Δδが0°〜45°の所定位相範囲外の場合には、前記相電圧変化分・相電流変化分位相差演算回路46及び変化分位相範囲判定回路47による判定結果から、分散型電源15からの逆潮流であるのか、変電所11Aから変電所11Bへの切り換えによる逆潮流であるのかを判定する。
【0024】
前記相電圧変化分・相電流変化分位相差演算回路46は、無停電時送電方向判別回路42からの判別信号(逆潮流の種別は不明)が出力された時、その前後における相電圧Vrの変化分ΔVrと、相電流Irの変化分ΔIrとの位相差を演算する。そして、電圧変化分ΔVrが例えば0°にある時の電流変化分ΔIrとの位相差ΔVr−ΔIrが図10に示す−90°〜90°の範囲内の場合には、変電所の切り換えによる逆潮流と判定する。又、前記位相差ΔVr−ΔIrが−90°〜90°の範囲外の場合には分散型電源15からの逆潮流と判定するようにしている。
【0025】
ところで、変電所11A,11Bの切り換え操作を行う手順の一つであるループ点開閉器(図示略)を投入する場合には、ループ点開閉器の左右の電圧位相差が極力近い状態になった時に行われるように電力会社での運用基準が規定されている。又、分散型電源15においても配電系統へ連系する場合には配電系統の電圧を適正値に維持する必要がある。これらのことから主に自動同期投入装置等を用いて配電系統の電圧位相に分散型電源15の電圧位相を合わせて投入する操作が行われているため、変電所11A,11Bの切り換えもしくは分散型電源15の連系が行われた場合についても電圧には顕著な位相変化が現れない。しかしながら、電流については電圧位相のように同期を取ることを行わないため、送電方向が変化した前後において相電流の位相角に変化が現れる。この時、分散型電源15からの逆潮流では、相電流の位相変化が緩やかであり相電流変化分の位相差Δδは小さくなる。これは、分散型電源15の電源容量が変電所11A(11B)の電源容量に比べ当然のことながら小さいため、連系する配電系統に変電所11A(11B)から供給されている相電流に追従するようにして分散型電源15からの電流は除々に増えるように配電系統へ供給されていくためである。又、変電所11A(11B)の切り換えによる逆潮流では、相電流の位相変化が早く相電流変化分の位相差Δδは大きくなる。これは、切り換えをする変電所11A(11B)の電源容量もその配電系統に供給するために十分な電源容量を備えているため、供給する配電系統に既に流れている相電流に追従せずに電流位相が変化するためである。
【0026】
但し、分散型電源15が連系されている状態の配電系統において、その配電系統から分散型電源15の出力に匹敵するような大容量負荷が脱落した場合には、相電流の位相変化が早く相電流変化分の位相差Δδは大きくなる。
【0027】
従って、相電流変化分の位相差Δδが大きくなった場合には、変電所11A,11Bの切り換えによる逆潮流か分散型電源15による逆潮流かを区別するため、送電方向の変化前と変化後における相電圧変化分と相電流変化分の位相差を判断条件に加え、逆潮流の種別を判断することとした。
【0028】
前記相電流変化分の位相差Δδの判定基準となる所定位相範囲を、前述の0°〜45°に設定したのは以下の理由による。即ち、実配電線において、試験して収集したデータをもとに設定したものであって、相電流変化分の位相差Δδが0°〜45°の範囲内にある場合に分散型電源15からの逆潮流と判定しても誤判定にならないことが判明し、それ以外の場合には逆潮流の種別の判定が難しいことが判明したからである。
【0029】
次に、相電流変化分の位相差Δδが大きくなった場合の次の判断条件として用いられる送電方向の変化前と変化後における相電圧変化分と相電流変化分の位相差と、その位相差に基づいて逆潮流の種別を更に判定する理論を以下に順次説明する。
【0030】
変電所11A,11Bの切り換えによる逆潮流は、図11(a)〜(c)に示す変電所11A,11Bの切り換え時の手順により起こり、切り換え前の状態を示す図11(a)はループ点開閉器(図示略)が開放され、区分開閉器16Aが閉じられ、かつ区分開閉器16Bが開かれて、変電所11Aのみが電源側となっている。ループ状態を示す図11(b)はループ点開閉器(図示略)が投入され、両区分開閉器16A,16Bが閉じられ、変電所11A, 11Bがともに電源側となっている。更に、切り換え後を示す図11(c)はループ点開閉器(図示略)が開放され、区分開閉器16Aが開かれ、かつ区分開閉器16Bが閉じられ、変電所11Bが電源側に切り換えられている。図11(c)に示す変電所11A,11Bの切り換え後の破線部分の等価回路は、図12のように示される。
【0031】
ここで、送電方向の変化前と変化後における相電圧変化分ΔVと相電流変化分ΔIは、図11(c)に示す切り換え後の状態から図11(b)に示すループ状態を引くことによって得られ、次の(1)〜(3)式によって演算される。
<ループ>
【0032】
【数1】
<切り換え後>
【0033】
【数2】
<切り換え後>−<ループ>
【0034】
【数3】
変電所11A,11Bの切り換えによる相電圧変化分ΔVと相電流変化分ΔIの位相差θsは、第1表示器21から切り換えられた変電所11B側を見たインピーダンス(R+jX)によって決定される。このインピーダンスのうち、抵抗分Rは正(R>0)であるため、相電圧変化分ΔVと相電流変化分ΔIの位相差θsは、次の不等式(4)のとおりとなり、|π/2|以内となる。
【0035】
【数4】
図13(a)は分散型電源15からの逆潮流が無い状態を示す。この状態から図13(b)に示すように分散型電源15からの逆潮流が有る状態に変化した時の等価回路は、図14のように示される。
【0036】
ここで、送電方向の変化前と変化後における相電圧変化分ΔVと相電流変化分ΔIは、分散型電源15からの逆潮有の状態から逆潮無の状態を引くことによって得られ、次の(5)〜(7)式によって演算される。
<逆潮無>
【0037】
【数5】
<逆潮有>
【0038】
【数6】
<逆潮有>−<逆潮無>
【0039】
【数7】
分散型電源15からの逆潮流の有無による相電圧変化分ΔVと相電流変化分ΔIの位相差θgは、第1表示器21から変電所11A側を見たインピーダンス(R+jX)によって決定される。このインピーダンスのうち、抵抗分Rは正(R>0)であるため、相電圧変化分ΔVと相電流変化分ΔIの位相差θgは、次の不等式(8)のとおりとなり、|π/2|以上となる。
【0040】
【数8】
よって、電圧変化分ΔVrが0°にある時の電流変化分ΔIrとの位相差ΔVr−ΔIrが−90°〜90°の範囲内の場合には、変電所11A,11Bの切り換えによる逆潮流と判定でき、前記位相差ΔVr−ΔIrが−90°〜90°の範囲外の場合には分散型電源15からの逆潮流と判定できる。
【0041】
そして、相電流位相範囲判定回路45又は変化分位相範囲判定回路47により分散型電源15からの逆潮流と判定された場合には、送電方向補正回路49により、送電方向判別回路42が判別記憶していた変化前の送電方向のままロックし、予め設定された変電所11Aを基準とした正しい送電方向を維持する。なお、変化分位相範囲判定回路47によって変電所11Aから変電所11Bへの切り換えによる逆潮流と判定された場合には、変電所を基準とした正しい送電方向であるため変化前の送電方向を維持するためのロックは行われない。更に、無停電時地絡方向判定回路50は、送電方向補正回路49によって補正が行われた適正な送電方向と地絡検出回路38により予め判定記憶されていた地絡方向とに基づいて無停電時地絡方向判定回路50において負荷側地絡の有無を判定する。
【0042】
次に、前記のように構成した配電線の地絡方向判別装置についてその動作を停電有モードと停電無モードに分けて説明する。
(停電有モードの場合)
配電線12が停電する状態において動作する「停電有モード」では、図1のタイミングチャートに示すように、所定時間後に変電所11Aの遮断器13Aがトリップし、所定時間後に転送遮断装置14Aが動作する。そして、転送遮断装置14C及び遮断器13Cが動作すると所定時間後に分散型電源15が停止し、第1表示器21及び第2表示器22の電源がオフになる。地絡事故から所定時間が経過すると変電所11Aの遮断器13Aが再閉路される。その後、分散型電源15は停止したままに保持される。この停電有モードにおいては、分散型電源15は地絡事故の後に一時単独運転状態となるが一定時間後には停止し、遮断器13Aの再閉路後に起動して運転状態でないことを前提としている。なお、この前提は分散型電源15に関する「電力系統連系技術要件ガイドライン」に沿ったものである。
【0043】
次に、図2に示すフローチャートに基づいて図1に示すように分散型電源15が停止されるまでの間の公知の動作について説明する。
ステップS1において、第1送電方向判別回路36により常時送電方向の判別が行われる。ステップS2において、地絡検出回路38により地絡事故の発生が検出されると、ステップS3により零相電圧V0と零相電流I0の位相差が演算される。その後、ステップS4において、第1送電方向判別回路36による常時の送電方向が順潮流(K→L)であるか否かが判断される。そして、ステップS4において、Yesと判断された場合には、ステップS5において、第1地絡方向判定回路39により地絡発生位相方向が負荷側(K→L)か否かが判断される。Yesの場合にはステップS6において負荷側地絡「有」を記憶手段に記憶すると共に負荷側地絡事故の表示が行われる。
【0044】
一方、ステップS4において、Noと判断された場合には、ステップS7において、第2地絡方向判定回路40により地絡発生位相方向が電源側(L→K)か否かが判断され、Yesの場合にはステップS6において負荷側地絡「有」を記憶手段に記憶すると共に負荷側地絡事故の表示が行われる。Noの場合にはステップS8で負荷側地絡「無」を記憶手段により記憶し、負荷側地絡事故の表示は行われない。又、ステップS5でNoの場合にはステップS8に移行する。
【0045】
次に、図3に示すフローチャートに基づいて変電所11Aの遮断器が再閉路された場合の地絡方向判定表示動作について説明する。
図3のステップS1において、第2送電方向判別回路37により復電時の送電方向の判定が行われる。ステップS2において、地絡事故が発生したか否かが地絡検出回路38により確認される。ステップS2において、Yesの場合には、ステップS3において、復電時の送電方向が順潮流(K→L)か否かが判断される。そして、ステップS3においてYesの場合にはステップS4において第1地絡方向判定回路39によって予め判定記憶されていた地絡発生位相方向が負荷側(K→L)か否かが判断される。そして、ステップS4においてYesと判断された場合には、ステップS5において表示灯41による負荷側地絡事故の表示の継続を行う。
【0046】
一方、ステップS3において、Noと判別された場合には、ステップS6において第2地絡方向判定回路40により記憶されている地絡発生位相方向が電源側(L→K)か否かが判断される。そして、Yesの場合にはステップS5において表示灯41による負荷側地絡事故の表示の継続を行う。Noの場合にはステップS7において表示灯41による負荷側地絡事故の表示が復帰され非表示に切り替えられる。
【0047】
図4及び図5は、地絡事故発生時における系統構成をケース1〜ケース5に分けて、第1表示器21及び第2表示器22の送電方向と負荷側地絡の有無を表したものである。ケース1は第1表示器21と第2表示器22の間で地絡事故が発生し、分散型電源15から第2表示器22に電力が供給された状態を示す。従来においては第1表示器21及び第2表示器22共に負荷側地絡事故が「有」の判定が行われるという問題があったが、本実施形態の場合には、第1表示器21は地絡事故が「有」、第2表示器22は「無」の正しい判定が行われる。
【0048】
ケース2は第1表示器21と第2表示器22の間で地絡事故が発生し、第1表示器21と第2表示器22が共に逆潮流を判定した状態を示す。従来においては、第1表示器21が負荷側地絡を「無」と判定し、第2表示器22が負荷側地絡を「有」と判定する間違った表示が行われるという問題があった。しかし、本実施形態においては第1表示器21及び第2表示器22共に正しい判定表示が行われる。
【0049】
なお、図5に示すケース3は変電所11Aから変電所11Bに切り換えられ、第1表示器21及び第2表示器22が逆潮流と判別された状態を示す。又、ケース4は分散型電源15が存在せず、第1表示器21及び第2表示器22共に順潮流の状態を示す。更にケース5は、分散型電源15がない系統で変電所11Bに切り換えられ、第1表示器21及び第2表示器22が共に逆潮流と判別された状態を示す。ケース3〜ケース5については、第1表示器21及び第2表示器22が共に正しい判定表示を行い、公知の図2に示す判定方法においても正しい判定表示が行われることが確認できた。
(停電無モードの場合)
図15及び図16は配電系統に分散型電源15が連系され、変電所11A,11Bの切り換えが行われず、分散型電源15による逆潮流により送電方向が変化した場合の送電方向の判別と、その補正動作及び地絡事故時の第1表示器21,第2表示器22の変電所11Aを基準とした負荷側地絡の表示動作を示すタイミングチャートである。又、図17は分散型電源15が連系されていないか解列されていて、変電所11Aが変電所11Bに切り換えられた場合の図15及び図16と同様の表示動作を示すタイミングチャートである。
【0050】
次に、図15及び図16に関係する図18のフローチャートにより送電方向の補正動作を説明する。
図18のステップS1では変電所方向設定スイッチ43によって変電所方向がK側(変電所11A)にセットされる。ステップ2において、第3送電方向判別回路42によって常時送電方向の判別が行われる。ステップS3において、同じく前記送電方向判別回路42によって送電方向が1秒間継続して変化したか否かが判別され、Yesの場合にはステップS4において相電流位相差演算回路44により送電方向変化前後の相電流変化分の位相差Δδの演算が行われる。そして、ステップS5おいて変化前後の相電流変化分の位相差Δδが45°より大きいか否かが相電流位相範囲判定回路45によって判定される。
【0051】
なお、ステップS5では分散型電源15からの逆潮流か否かが判断され、No、つまり分散型電源15からの逆潮流の場合には、ステップS8において、送電方向補正回路49により送電方向変化後の送電方向が変化前の送電方向のままロックされることで補正され、送電方向補正回路49の記憶媒体に送電方向が順潮流(K→L)と記憶(セット)される。
【0052】
一方、前述のステップS5において、Yesと判断された場合にはステップS6において相電圧変化分・相電流変化分位相差演算回路46により送電方向変化前後の電圧変化分(ΔV)と電流変化分(ΔI)の位相差∠(ΔV−ΔI)の演算が行われる。そして、ステップS7において変化前後の電圧変化分(ΔV)と電流変化分(ΔI)の位相差の絶対値| ∠(ΔV−ΔI)| が90°以上か否かが変化分位相範囲判定回路47によって判定される。即ちステップS7によって、最終的に変電所の切り換えによる逆潮流か、分散型電源15からの逆潮流かが判断され、Yes、つまり分散型電源15からの逆潮流の場合には、ステップS8において、前述したように送電方向補正回路49により送電方向変化後の送電方向が変化前の送電方向のままロックされることで補正され、送電方向補正回路49の記憶媒体に送電方向が順潮流(K→L)として記憶(セット)される。そして、ステップS10において、第3送電方向判別回路42により常時送電方向の判別が行われる。ステップS11において、同じく無停電時送電方向判別回路42により送電方向が1秒間継続して変化前の送電方向へ戻ったか否かが判定され、Yesの場合には、ステップS13において、送電方向補正回路49の記憶媒体に記憶(セット)されている変化前の送電方向を維持するためのロックと、順潮流(K→L)の記憶(セット)が解除され、ステップS2において、再び第3送電方向判別回路42によって常時送電方向の判別が行われる。
【0053】
一方、ステップS11において、Noと判定された場合、ステップS12において、変化前後の相電流変化分ΔIの位相差Δδが30°より大きく、かつ変化前後の相電流変化分ΔIの大きさ(電流値)が5A(アンペア)より大きいかを相電流位相範囲判定回路45によって判定し、Yesの場合には、送電方向補正回路49の記憶媒体(図示略)に記憶(セット)されている変化前の送電方向を維持するためのロックの解除と、順潮流(K→L)の記憶(セット)が解除され、ステップS6に戻る。一方、ステップS12において、Noと判定された場合には、ステップS10に戻る。
【0054】
一方、前述のステップS7において、Noと判定された場合、つまり変電所11A,11Bの切り換えによる逆潮流と判断された場合には、ステップS9において、送電方向補正回路49により送電方向変化後の送電方向が変化前の送電方向のままロックされることなく送電方向補正回路49の記憶媒体に送電方向が逆潮流(L→K)として記憶(セット)され、その後、ステップS2において、第3送電方向判別回路42によって常時送電方向の判別が行われる。
【0055】
図18に示すフローチャートにより、結論として、変電所11A,11Bの切り換えによる逆潮流の場合には、潮流方向は潮流変化後のままでロックする補正が行われず、分散型電源15による逆潮流の場合には潮流方向は変化前の送電方向のままロックされることで、補正が行われることになる。
【0056】
図19は、ステップS1において変電所方向設定スイッチ43によって変電所方向がL側にセットされた場合を示し、図18の動作と同様であるため詳しい説明を省略する。異なる箇所の概要を述べるとステップS7において送電方向変化前後の電圧変化分(ΔV)と電流変化分(ΔI)の位相差の絶対値| ∠(ΔV−ΔI)| が90°以下か否かが変化分位相範囲判定回路47によって判定され、Yes、つまり分散型電源15からの逆潮流の場合には、ステップS8において、送電方向補正回路49により送電方向変化後の送電方向が変化前の送電方向のままロックされることで補正され、送電方向補正回路49の記憶媒体に送電方向が順潮流(L→K)として、記憶(セット)される。一方、ステップS7において、Noと判定された場合には、ステップS9において、送電方向補正回路49により送電方向変化後の送電方向が変化前のままロックされることなく送電方向補正回路49の記憶媒体に送電方向が逆潮流(K→L)として記憶(セット)される。
【0057】
次に、上述した送電方向の反転補正動作と連係して行われる負荷側地絡事故の表示動作を図20のフローチャートに基づいて説明する。
図15のステップS1において地絡検出回路38により地絡事故が発生したか否かが検出され、ステップS2において同じく地絡検出回路38により零相電圧と零相電流の演算が行われる。次にステップS3において図18もしくは図19のフローチャートに基づいて行われた処理において送電方向補正回路49の記憶媒体(図示略)に記憶(セット)されている送電方向が無停電時地絡方向判定回路50によって順潮流( K→L) か否かが判断される。Yesの場合にはステップS2において演算した結果、つまり零相電圧と零相電流の位相差が−30°〜150°の位相範囲内の場合には、ステップS4において無停電時地絡方向判定回路50によって負荷側地絡(K→L)と判定し、零相電圧と零相電流の位相差が上記位相範囲外の場合には、電源側地絡(L→K)と判定する。このステップS4においてYesと判断された場合には、ステップS5で表示灯41により負荷側地絡事故の表示が行われる。
【0058】
一方、ステップS3においてNoと判断された場合には、ステップS6において地絡発生位相方向は負荷側地絡(L→K)か否かが無停電時地絡方向判定回路50によって判断され、Yesの場合には、ステップS1において負荷側地絡事故が表示される。又、ステップ5においてNoと判断された場合には、ステップS7に移行し、負荷側地絡事故は表示されない。更に、ステップS4においてNoと判断された場合には、ステップS7へ移行する。
【0059】
ここで、第3送電方向判別回路42の潮流方向を判定する位相範囲を−90°〜90°の範囲に設定した理由を以下に説明する。
分散型電源15からの逆潮流が及ぶ場合と、変電所11A,11Bの切り換え時には有効電力が変化する。有効電力Pは、相電圧V、相電流I、相電圧V及び相電流Iの力率角θとすると、次式で示される。
【0060】
P=3V・Icosθ
上式のcosθは90°もしくは−90°で0となり、θ<90°→θ>−90°又はθ>−90°→θ<90°には、プラス→マイナスの値となり、極性が変化することから判定処理上において明確に潮流方向が変化することが捉えられるので、−90°〜90°の範囲に設定した。又、無停電時送電方向判別回路42の記憶媒体には−90°〜90°の位相範囲であった場合には順潮流(K→L)と記憶(セット)され、それ以外は逆潮流(L→K)と記憶(セット)される。
【0061】
次に、無停電時地絡方向判定回路50によって、変電所を基準とした負荷側地絡を判定する動作を更に説明する。
相電流位相差演算回路44及び相電流位相範囲判定回路45と、相電圧変化分・相電流変化分位相差演算回路46及び変化分位相範囲判定回路47とにおいてそれぞれ演算が行われる。そして、無停電時地絡方向判定回路50において変電所11Aから変電所11Bの切り換え時には送電方向補正回路49に記憶(セット)された送電方向が変化した変電所11B方向と、地絡方向とのアンド条件をもって変電所11Bを基準とした負荷側地絡か否かを判定する。反対に、分散型電源15からの逆潮流の場合には、送電方向補正回路49に記憶(セット)された送電方向が変化する前の変電所11A方向としてロックされた送電方向と、地絡方向とのアンド条件をもって変電所11Aを基準とした負荷側地絡か否かを判定する。
【0062】
一例として、分散型電源15の連系によって、有効電力の極性が変化するのは、分散型電源15と該分散型電源15の逆潮流のみによって賄われている負荷20との間に設置されている第2表示器22であって、逆潮流(L→K) を示す範囲に入るからである。一方、第1表示器21については、分散型電源15の潮流が及ばない位置にあり、変電所からの供給によって賄われているため分散型電源15が連系されている場合においても順潮流(K→L) を示す範囲に入り極性は変化せず、分散型電源15からの逆潮流が及んでいるか否かを判別することができる。その後の処理として第2表示器22の送電方向は補正され送電方向補正回路49に記憶(セット)された送電方向が変化する前の変電所方向をロックした送電方向と地絡方向とのアンド条件をもって変電所を基準とした負荷側地絡を判定する。第1表示器21の送電方向は送電方向補正回路49に記憶(セット)された送電方向が変化したままの変電所方向をロックしない送電方向と地絡方向とのアンド条件をもって変電所を基準とした負荷側地絡を判定する。
【0063】
上記実施形態の配電線における事故方向判別装置によれば、以下のような特徴を得ることができる。
(1)上記実施形態では、停電有モードにおいて、第1送電方向判別回路36の判別結果に基づいて、第1地絡方向判定回路39により地絡方向を判定し、この判定結果を記憶する。遮断器13Aが再閉路された後、第2送電方向判別回路37の判別結果に基づいて第2地絡方向判定回路40により地絡方向を判定し、負荷側地絡の場合にそれを表示する。このため、分散型電源15が連系されている系統であっても負荷側地絡を正確に判定して表示することができる。
【0064】
(2)上記実施形態では、停電無モードにおいて、第3送電方向判別回路42の判別結果に基づいて、分散型電源15が連系され、送電方向が変化した場合に、相電流位相差演算回路44により相電流変化分の位相差Δδの演算が行われ、変化前後の位相差が0°〜45°の範囲内か否かが相電流位相範囲判定回路45により判定され、変化前後の位相差が0°〜45°の範囲内の場合には分散型電源15からの逆潮流と判定され、一方、変化前後の位相差が0°〜45°の場合には、相電圧変化分・相電流変化分位相差演算回路46により電圧変化分ΔVと電流変化分ΔIの位相差の演算が行われる。そして、変化前後の位相差が−90°〜90°の範囲内か否かが変化分位相範囲判定回路47によって判定される。
【0065】
更に、送電方向変化後の送電方向が順潮流(K→L)か否かが送電方向補正回路49に記憶(セット)される。この記憶(セット)された送電方向の補正結果に基づいて無停電時地絡方向判定回路50により負荷側地絡の判定が行われる。従って、無停電時において送電方向が変化しても負荷側地絡か否かを正確に判定することができる。
【0066】
次に、この発明の別の実施形態を図21〜図23に基づいて説明する。図21は送電方向判別装置の別例を示すブロック回路図、図22,23は図21の回路図に基づく処理動作のフローチャートである。この別の実施形態においては、図21に示すように、前記相電圧変化分・相電流変化分位相差演算回路46の上流側に相電圧変化分・相電流変化分演算判定手段としての相電圧変化分・相電流変化分演算判定回路51を接続している。この演算判定回路51は、相電圧変化分ΔVと電流変化分ΔIが設定値を超えたか否かを判断し、かつ相電圧変化分ΔVと電流変化分ΔIの位相差を演算する機能を備えている。
【0067】
そして、前述した実施形態の図18に示すステップS3において、Noと判断された場合に、図22に示すステップS15〜S17の処理を行うようにしたものである。ステップS15において、前記演算判定回路51によって相電圧と相電流の電圧変化分ΔVが設定値(例えば3V)、電流変化分ΔIが設定値(例えば3A)を超えたか否かが判断され、Yesの場合には、ステップS16において、前記位相差演算回路46によって相電圧と相電流の変化前後の電圧変化分ΔVと電流変化分ΔIの位相差∠ΔV−ΔIが演算される。次に、ステップS17において、演算された位相差∠ΔV−ΔIが所定位相角(90°)以上か否かが判定されるとともに、この判定結果が予め設定された設定回数を超えたか否かがカウントされる。そして、ステップS17において、Yesと判断された場合には、分散型電源15からの逆潮流と判定し、ステップS8に移行する。反対に、ステップS17において、Noと判断された場合には、変電所の切り換えによる逆潮流と判定し、ステップS9に移行する。
【0068】
上述したステップS15〜S17を設けた理由を以下に説明する。
ステップS3において送電方向が1秒間継続して変化した場合には、大方の場合において送電方向が変化したことを判定することができる。しかし、レアケースにおいては、設定された1秒以下の場合においても変電所11A,11Bの切り換えによる逆潮流と分散型電源15からの逆潮流の場合が考えられる。すなわち、変電所11Aから変電所11Bへの切り換えの場合は、例えば変電所11Bからの潮流が分散型電源15の出力の大小によって第1表示器21へ到達したりしなかったりするため、分散型電源15の出力の大小が1秒以内に変動する場合において短時間(1秒以下)に送電方向が切り換わることがある。又、分散型電源15からの逆潮流の場合は、例えば第1表示器21が分散型電源15の連系点と負荷20との間に設置されている場合において、分散型電源15の出力変動ないしは負荷20の電力消費の変化によって短時間(1秒以下)に送電方向が切り換わることがある。従って、所定設定時間の1秒以下の場合においても変電所11A,11Bの切り換えによる逆潮流か分散型電源15からの逆潮流かを判別することにより判別精度を向上することができる。
【0069】
次に、ステップS17において位相差が90°以上となる回数が設定回数を超えたか否かを判定する理由を以下に説明する。
ステップS3でNoとなった場合にはステップS15において電圧変化分ΔVが3V、電流変化分ΔIが3Aを超えるか否かという位相以外の電圧及び電流を判別要素として用いているため、位相差が一定でない状態での相電圧及び相電流から変化分位相範囲判定回路47を用いて位相差ΔV−ΔIが90°以上か否かを演算することとなる。そのために設定回数以上の変化があったか否かを確認することとした。確認する理由としては、ステップS3において送電方向が1秒間継続しておらず、短時間に位相が変化している状態の相電圧及び相電流から位相差∠ΔV−ΔIを判別しようとするために、判別する所定判別時間内(例えば本実施例では変化前後各40ms)において、判定精度を向上するために設定回数を定め、多い回数の条件をセットするようにした。なお、ステップ3において、Yesの場合には送電方向が1秒間継続しているためステップS7において位相差∠ΔV−ΔIが変化することは無いが前述したステップS17と同様の処理を行なってもよい。
【0070】
図23は変電所方向がL側にセットされた場合のフローチャートである。この処理動作は図19の変電所方向がK側にセットされた場合の処理動作のうちステップS7と、S17の判定において所定の設定範囲内であるか否かが逆となる。又、ステップS8,S9においても変電所方向をロックするしないの基準が逆となるが、その他の処理動作は図19の処理動作と同様であるため説明を省略する。
【0071】
なお、前記実施形態は以下のように変更して具体化することができる。
○ 前記相電流位相範囲判定回路45の所定位相範囲を、0°〜45°に代えて、0°〜40°又は0°〜50°に設定してもよい。
【0072】
○ 前記第1送電方向判別回路36の所定位相範囲を、−90°〜90°に設定してもよい。
○ 前記第1送電方向判別回路36を前記第3送電方向判別回路42に置き換えてもよい。
【0073】
○ 前述した第1表示器21及び第2表示器22の各種の位相範囲、設定値については、変電所からの切り換え信号によって切り換えられるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0074】
I,Ir…相電流、V,Vr…相電圧、Δδ,θg,θs,ΔVr−ΔIr,ΔVr−ΔIr…位相差、ΔI…相電流変化分、ΔI,ΔIr…電流変化分、ΔV,ΔVr…電圧変化分、ΔV…相電圧変化分、I0…零相電流、V0…零相電圧、ΔIr,ΔVr…変化分、11A,11B…変電所、12…配電線、15…分散型電源、20…負荷。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配電線の相電圧及び相電流を検出する第1検出手段と、
前記配電線の零相電圧及び零相電流を検出する第2検出手段と、
前記相電圧と相電流の位相差に基づいて前記配電線の送電方向を判別する送電方向判別手段と、
前記零相電圧の電圧値と、零相電流の電流値に基づいて地絡事故を検出する地絡検出手段と、
前記送電方向が切り換わったときにおけるその前後の相電流変化分の位相差を演算するための相電流位相差演算手段と、
前記送電方向が切り換わったときにおけるその前後の相電圧変化分と相電流変化分の位相差を演算する相電圧変化分・相電流変化分位相差演算手段と、
前記相電流位相差演算手段により演算された位相差が予め設定された所定位相範囲内にあるか否かを判定するための相電流位相範囲判定手段と、
前記変化分位相差演算手段により得られた位相差が予め設定された所定位相範囲内にあるか否かを判定する変化分位相範囲判定手段と
により構成され、
前記相電流位相範囲判定手段及び前記変化分位相範囲判定手段による判定結果に基づいて、前記送電方向の補正を行う送電方向補正手段と、
前記地絡事故が検出されたとき、前記送電方向補正手段により補正された送電方向と、前記零相電圧及び前記零相電流の位相差とに基づいて前記地絡事故の方向を判定する無停電時地絡方向判定手段と、
前記無停電時地絡方向判定手段が地絡事故の方向を負荷側と判定したとき、所定の表示を行う表示手段と
を備えた配電線における事故方向判別装置。
【請求項2】
請求項1において、前記相電圧と相電流の変化分を演算するとともに、それらの演算結果が所定の設定範囲を超えたか否かを判定する相電圧変化分・相電流変化分演算判定手段を更に設け、前記送電方向判別手段は、該送電方向判別手段により判別された送電方向が予め設定された設定時間を継続して変化したか否かを判定する継続時間判定機能を備え、設定時間が継続した場合には、前記相電流位相差演算手段の処理動作に移行し、一方、継続しなかった場合には、相電圧変化分・相電流変化分演算判定手段により前記相電圧と相電流の変化分を演算するとともに、それらの演算結果が所定の設定範囲を超えたか否かを判定し、その判定結果が設定範囲を超えたと判定された場合には、前記相電圧変化分・相電流変化分位相差演算手段の演算結果に基づいて、前記変化分位相範囲判定手段により相電圧と相電流の変化分の位相差が所定の設定範囲を超えるか否かを判定し、その判定結果が設定範囲を超えた場合は、分散型電源からの逆潮流と判定し、超えていない場合には、変電所の切り換えによる逆潮流と判定する機能を備えたことを特徴とする配電線における事故方向判別装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記送電方向判別手段は、電源側である変電所の方向を設定するための変電所方向設定手段を備えた配電線における事故方向判別装置。
【請求項1】
配電線の相電圧及び相電流を検出する第1検出手段と、
前記配電線の零相電圧及び零相電流を検出する第2検出手段と、
前記相電圧と相電流の位相差に基づいて前記配電線の送電方向を判別する送電方向判別手段と、
前記零相電圧の電圧値と、零相電流の電流値に基づいて地絡事故を検出する地絡検出手段と、
前記送電方向が切り換わったときにおけるその前後の相電流変化分の位相差を演算するための相電流位相差演算手段と、
前記送電方向が切り換わったときにおけるその前後の相電圧変化分と相電流変化分の位相差を演算する相電圧変化分・相電流変化分位相差演算手段と、
前記相電流位相差演算手段により演算された位相差が予め設定された所定位相範囲内にあるか否かを判定するための相電流位相範囲判定手段と、
前記変化分位相差演算手段により得られた位相差が予め設定された所定位相範囲内にあるか否かを判定する変化分位相範囲判定手段と
により構成され、
前記相電流位相範囲判定手段及び前記変化分位相範囲判定手段による判定結果に基づいて、前記送電方向の補正を行う送電方向補正手段と、
前記地絡事故が検出されたとき、前記送電方向補正手段により補正された送電方向と、前記零相電圧及び前記零相電流の位相差とに基づいて前記地絡事故の方向を判定する無停電時地絡方向判定手段と、
前記無停電時地絡方向判定手段が地絡事故の方向を負荷側と判定したとき、所定の表示を行う表示手段と
を備えた配電線における事故方向判別装置。
【請求項2】
請求項1において、前記相電圧と相電流の変化分を演算するとともに、それらの演算結果が所定の設定範囲を超えたか否かを判定する相電圧変化分・相電流変化分演算判定手段を更に設け、前記送電方向判別手段は、該送電方向判別手段により判別された送電方向が予め設定された設定時間を継続して変化したか否かを判定する継続時間判定機能を備え、設定時間が継続した場合には、前記相電流位相差演算手段の処理動作に移行し、一方、継続しなかった場合には、相電圧変化分・相電流変化分演算判定手段により前記相電圧と相電流の変化分を演算するとともに、それらの演算結果が所定の設定範囲を超えたか否かを判定し、その判定結果が設定範囲を超えたと判定された場合には、前記相電圧変化分・相電流変化分位相差演算手段の演算結果に基づいて、前記変化分位相範囲判定手段により相電圧と相電流の変化分の位相差が所定の設定範囲を超えるか否かを判定し、その判定結果が設定範囲を超えた場合は、分散型電源からの逆潮流と判定し、超えていない場合には、変電所の切り換えによる逆潮流と判定する機能を備えたことを特徴とする配電線における事故方向判別装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記送電方向判別手段は、電源側である変電所の方向を設定するための変電所方向設定手段を備えた配電線における事故方向判別装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
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【図20】
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【図22】
【図23】
【公開番号】特開2011−247905(P2011−247905A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188388(P2011−188388)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【分割の表示】特願2005−58230(P2005−58230)の分割
【原出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)
【出願人】(000102636)エナジーサポート株式会社 (51)
【出願人】(000144108)株式会社三英社製作所 (35)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【分割の表示】特願2005−58230(P2005−58230)の分割
【原出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)
【出願人】(000102636)エナジーサポート株式会社 (51)
【出願人】(000144108)株式会社三英社製作所 (35)
【Fターム(参考)】
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