説明

酸化エチレンガスを含む排ガスの処理方法及び処理装置

【課題】爆発等の危険がなく、安全で、運転経費の少ない安価な、酸化エチレンガスを含む排ガスの処理方法及び処理装置を提供する。
【解決手段】
酸化エチレンガス滅菌器から排出された酸化エチレンガスを含む排ガスを細孔径0.5〜1.0nm、表面積80〜100m2/gの固体酸で処理する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療用具の滅菌処理等に使われる酸化エチレンガス(以下、EOGと略記)を含む排ガスの処理方法及び処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療用具の滅菌方法として、EOGを用いる方法が知られている。この方法で医療用具を滅菌処理する場合は、容器内に医療用具を収容した後、容器内にEOG(通常は炭酸ガスで希釈されて20%の濃度)を注入する。そして一定時間経過後、容器内のEOGを排出し、しかる後に容器から医療用具を取り出す。
【0003】
ところで、上述のような滅菌方法において用いられるEOGは、発がん性を有し、また、慢性および急性中毒症状を引き起こす可能性のある有害な物質である。しかもそのまま大気中に排出すると環境汚染を引き起こす恐れがあるため、通常EOGを容器から直接大気中に放出するのではなく、分解処理を施してから大気中に放出している。
【0005】
現在医療施設では、滅菌器から放出されるEOGを300℃以上に加熱した触媒層を通過させて「炭酸ガス」と「水」に分解する方法が採用されている。しかし、EOGは沸点が10.7℃で、爆発限界が0.1〜99.9%という極めて引火・爆発性の大きい物質である。したがって、その導入系から廃棄系の配管の機密性には細心の注意が必要であるが、医療施設における滅菌業務の従事者は必ずしもこのような毒性や爆発の危険性のある物質の取り扱いに習熟していないのが現状である。
【0006】
また、触媒層を通過させてEOGを炭酸ガスと水に分解するためには、この触媒層を電熱ヒーター、或いは外套管に熱媒を循環させることによって加熱させなければならず、その運転経費も嵩むとともに、分解後の排出ガスが300〜400℃の高温となり、このまま排出することができず、別途冷却装置や外気による希釈装置を設けなければならないという問題があった。
【0007】
さらに、送気ポンプを作動させるため、装置全体が正圧となり、装置から排ガスが外部に漏洩することがあり、これを防止するために機密性の高い装置にする必要があり、余分の設備コストがかかる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって本発明は、爆発等の危険がなく、安全で、運転経費の少ない安価な、酸化エチレンガスを含む排ガスの処理方法及び処理装置を提供することである。また装置からEOGを含む排ガスが外部に漏洩することのないEOGを含む排ガスの処理方法及び処理装置を提供することである。
【0009】
本発明者らは、常温でEOGをエチレングリコール(以下、EGと略記)に変換する化学反応に着目し、更に検討した結果本発明に到達したものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するため、請求項1にかかる発明は、酸化エチレンガス滅菌器から排出された酸化エチレンガスを含む排ガスを細孔径0.5〜1.0nm、表面積80〜100m2/gの固体酸で処理することを特徴とする酸化エチレンガスを含む排ガスの処理方法である。
【0011】
請求項2にかかる発明は、該排出された酸化エチレンガスを含む排ガスを0.01〜1.0%の希硫酸水溶液中を通過させた後、固体酸で処理することを特徴とする請求項1記載の酸化エチレンガスを含む排ガスの処理方法である。
請求項3にかかる発明は、該固体酸がゼオライトである請求項1または2記載の酸化エチレンガスを含む排ガスの処理方法である。
【0012】
請求項4にかかる発明は、滅菌部から排出される酸化エチレンガスを含む排ガスをバッキする散気管を備えたバッキ槽と、該バッキ槽から送出される加湿排ガスが供給され、該排ガス中の酸化エチレンガスを分解する、細孔径0.5〜1.0nm、表面積80〜100m2/gの固体酸を収納した分解部と、該バッキ槽と分解部を負圧とする排気部からなる酸化エチレンガスを含む排ガスの処理装置である。
【0013】
請求項5にかかる発明は、該バッキ槽内に0.01〜1.0%の希硫酸水溶液が満たされてなる請求項4記載の酸化エチレンガスを含む排ガスの処理装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、EOGの分解手段として、特定の細孔径を有する固体酸を使用しているので、固体酸でEOGを常温でEGに化学変化させると同時に、該固体酸でEGを吸着除去するため、爆発等の危険が無く安全に、かつ安価にEOGを含む排ガスを処理することができる。また分解後の排出ガスの温度が低いためそのまま大気中に放出できる。さらに、装置全体を負圧とすることで、装置からEOGを含む排ガスが外部に漏れることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明のEOGを含む排ガス処理装置の一例を示すもので、この装置は滅菌部1、バッキ槽2、分解槽3及び排気部4で構成されている。
滅菌部1は、さらに滅菌容器5とエジェクター6とから構成されている。滅菌容器5は、その内部に種々の医療器具が収容され、EOG供給源(図示せず)から供給されるEOGが導入されて内部に収容した医療器具が滅菌処理される。また滅菌容器5には、外気に解放した管10が弁12を介して接続されており、この管10から外気が導入できるようになっている。
【0016】
滅菌容器5には、圧縮空気を用いるエジェクター6が付設されている。このエジェクターは滅菌容器内のEOGを含む排ガスを外部に排出する機能を有するものである。
【0017】
滅菌部1の後段には、バッキ槽2が設けられている。バッキ槽は内部に水が満たされた水槽である。この水槽内にはバッキ用の散気管7が水中に沈められており、滅菌部1から管13を通って流入する排ガスが、この散気管から水中にバッキされるようになっている。また、バッキ槽2の上部には水面から離れて開口する管14が取り付けられており、この管は分解槽3に接続され、バッキ槽2からの排ガスが後段の分解槽3に送られるようになっている。
【0018】
滅菌部1とバッキ槽2を連結する管13には、外気に解放した管15が弁16を介して接続されており、弁16を開放することで、外気が管15を経て散気管7から水中にバッキされるようになっている。
このバッキ槽2での散気管によるバッキ及び管14から分解槽3への排ガスの流入は、排気部4による排気に起因して発生するバッキ槽内及び分解槽内の負圧によってなされるようになっている。
【0019】
バッキ槽2の後段には、分解槽3が設けられている。この分解槽3は、バッキ槽2から供給される排ガス中のEOGを固体酸によりEGに化学変化させて吸着除去するものである。
固体酸としてはゼオライト、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化チタン、アルミナなどが挙げられる。形状としては、吸着能力が高い粒状やタブレット状とすることが好ましい。
【0020】
分解槽3の後段には、排気部4が設けられている。この排気部は分解槽から排出される分解処理ガスを吸引して外部に排出するとともに、その前段にある分解槽3及びバッキ槽2の内部を負圧にするものである。この排気部4には真空ポンプやエジェクターなどが用いられる。排気部4から排出される分解処理ガスは管17から系外に放出される。また排気部は常時作動状態にあり、常時分解槽及びバッキ槽の内部を負圧にするようになっている。
【実施例】
【0021】
次に各種吸着剤によるEOGの分解除去についての試験結果を説明する。
試験方法
試験装置
図2に示す装置を用いて下記の手順でEOGの吸着性能を測定した。
1.ボンベ中の液状の純EOGを気化させ、内容積100mlのガラス製注射筒22に採取し、これを大気中でEOG濃度が20%になるように5倍に希釈して試料ガス23とする。
2.内容積、10mlポリプロピレン製注射筒26出口側にグラスウール28を充填し、その後方に所定の吸着剤27を所定の重量(0.5,1.0,2.0g)充填し、その後方のプランジャー挿入部にシリコーンゴム25密栓した。このシリコーンゴムに20Gの注射針24を穿刺し、これとEOGを充填したガラス製注射筒22を連結し、プランジャーをマイクロフィーダー21で2.0ml/minの速度で試料ガスを吹き込んだ。
3.吸着剤層を通過した試料ガスをマイクロフィーダ−作動後、所定時間毎に出口側に連結したゴム管29にマイクロシリンジ30を穿刺して試料ガス、10μl採取してガスクロマトグラフィーを行った。
4.吸着剤の層を通過した試料ガスのガスクロマトグラム上にEOGが出現した試料の採取時間をその吸着剤のEOGの飽和到達時間として、それぞれの吸着剤のEOGの吸着活性の評価の目安とした。
【0022】
なお、ガスクロマトグラフィー条件は次の通りである。
ガスクロマトグラフ:島津製作所(株)GC−8A型
カラム:ポラパックQS(3mL X 3mmφ) ガラスカラム
カラム温度:230℃ 注入口温度:250℃ キャリアーガス:窒素
注入量:10μl 検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
【0023】
本実施例で使用した吸着剤のEOGの飽和到達時間を表1に示す。
【表1】

【0024】
表から明らかなように、ゼオライト13X(細孔径:0.9nm)が最も優れたEOG吸着能を有することが判明した。対照試料として使用した活性炭(椰子殻炭)もかなり優れた活性を示した。
ゼオライトと活性炭のEOGの吸着挙動についてみると、ゼオライトの比表面積は高々100m/gに過ぎないが、活性炭はその約10倍の1000m/gであり、分子量が30〜数百の分子に対しては優れた吸着能を有することが知られている。また、本実験では細孔径が0.4nmのゼオライトについても検討したが、細孔径が0.9nmの吸着剤よりもEOGの吸着率は低く、EOG吸着活性には吸着剤の細孔径も重要なファクターであることが明らかになった。また、吸着剤の表面に多数のHが存在する陽イオン交換樹脂についても検討したが、この吸着剤の比表面積は小さく、そのためか余り注目すべき検討結果は得られなかった。
【0025】
ここでゼオライト13Xと活性炭のEOG吸着活性に差が認められたことについて考察すると、前者は後者の約1/10であるにも拘わらず高活性を示したことは、後者のEOGの吸着機構は物理吸着であるのに対して、前者にはその細孔表面に酸性点(H)が存在し、EOGは化学吸着しており、それが結果的には吸着量の差として認められたものと考えられる。これらの知見から、活性炭はEOG吸着除去能が一見優れているように見えるが、「物理吸着」のため、吸着層の温度の変動に対して敏感であり、EOGが容易に脱着することを示唆している。
【0026】
このように医療用具の滅菌処理後のEOGを酸性白土の吸着層を常温で通過させることによって効率的に除去することが可能であることを見出したが、実際の医療用具の滅菌処理工程は20mという膨大なEOGを含有した気体を処理しなければならない。そのためには吸着層に導入する気体を前もって0.01〜1.0%の希硫酸水溶液の水中を通過させることによって、ゼオライトのEOGの吸着除去活性を飛躍的に延長させることも可能である。
この方法は希硫酸水溶液によってゼオライトの吸着層へのEOG含有の排気ガスの導入速度を抑制すると同時にEOGをEGに変化させ、そこで未反応のEOGをゼオライトで処理するという複合形式の処理方法を採用することによって、常温による完璧なEOG吸着除去処理方法を達成することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、医療用EOG以外に、EOGを原料とする各種有機合成装置から排出されるEOGの分解処理にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のEOGを含む排ガスの処理装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】EOGの分解除去試験装置である。
【符号の説明】
【0029】
1・・・滅菌部
2・・・バッキ槽
3・・・分解槽
4・・・排気部
5・・・滅菌容器
6・・・エジェクター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化エチレンガス滅菌器から排出された酸化エチレンガスを含む排ガスを細孔径0.5〜1.0nm、表面積80〜100m2/gの固体酸で処理することを特徴とする酸化エチレンガスを含む排ガスの処理方法。
【請求項2】
該排出された酸化エチレンガスを含む排ガスを0.01〜1.0%の希硫酸水溶液中を通過させた後、固体酸で処理することを特徴とする請求項1記載の酸化エチレンガスを含む排ガスの処理方法。
【請求項3】
該固体酸がゼオライトである請求項1または2記載の酸化エチレンガスを含む排ガスの処理方法。
【請求項4】
滅菌部から排出される酸化エチレンガスを含む排ガスをバッキする散気管を備えたバッキ槽と、該バッキ槽から送出される加湿排ガスが供給され、該排ガス中の酸化エチレンガスを分解する、細孔径0.5〜1.0nm、表面積80〜100m2/gの固体酸を収納した分解槽と、該バッキ槽と分解槽を負圧とする排気部からなる酸化エチレンガスを含む排ガスの処理装置。
【請求項5】
該バッキ槽内に0.01〜1.0%の希硫酸水溶液が満たされてなる請求項4記載の酸化エチレンガスを含む排ガスの処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−114210(P2008−114210A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−324840(P2006−324840)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【出願人】(301000871)株式会社メディテック ジャパン (3)
【Fターム(参考)】