説明

酸化チタン膜の成膜方法

【課題】
高分散させて酸化チタン量を低減し、容易な工程で成膜できる酸化チタン膜の成膜方法の提供。
【解決手段】
表面にアルカリを有する成膜対象物(例えばセメント)に、噴霧、塗布、或いは浸漬することによりペルオクソチタン酸イオン水溶液(例えばTi(SO42aq+H22)を付着させて酸化チタン膜を成膜する。又は、表面にアルカリを有する成膜対象物に、チタン塩水溶液を付着させた後、過酸化水素水を付着させて酸化チタン膜を成膜する。前記アルカリは、前記表面に噴霧、塗布、或いは浸漬されたアルカリ水溶液によるものでも良いし、前記表面をアルカリ含有材料によって形成しても良い。更に、前記表面が多孔質物質であればより好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化チタン膜の成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、酸化チタン(二酸化チタン:TiO2)が光触媒としての機能を有することは知られている。酸化チタンに紫外線が当たると光電効果により電子が励起され、電子と正孔が発生し、酸化チタンの表面に移動する。電子は空気や水の酸素を還元してスーパーオキサイドに変化させ、他方、正孔は表面の水分を酸化して水酸基ラジカルに変化させる。スーパーオキサイドイオンと水酸基ラジカルは活性酸素種と呼ばれ、強力な酸化作用を示す。この状態で酸化チタン表面に、例えば有機物が接触すると、スーパーオキサイドイオンが有機物の炭素を奪い、水酸基ラジカルが水素を奪い、その有機物を分解する。そして、炭素と水素はそれぞれ酸化されて二酸化炭素と水に変化する。
【0003】
また、例えば自動車の排気ガス等に含まれる大気汚染物質のひとつである窒素酸化物(NOX)を酸化チタンに接触させても、紫外線を含む太陽光等の照射により、窒素酸化物を硝酸イオンに酸化し除去することができる。
【0004】
そして、いわゆるシックハウス症候群の原因物質のひとつであるホルムアルデヒド等の揮発性有機物質の分解や、重油等の油分の分解反応等にも、当然、酸化チタンは光触媒として機能する。
【0005】
このように、酸化チタンは紫外線のエネルギーを受けて化学反応を促進するため、紫外線の照射を受ける材料の表面に存在する酸化チタンのみが触媒として機能する。
【0006】
従って、光触媒として酸化チタンを用いる場合には、酸化チタンを材料の表面にのみ設ければ良いと考えられる。
【0007】
このため、従来から、材料の表面に酸化チタン膜を形成する方法が考案されている。
【0008】
その一例として、粉末状の酸化チタンをセメント及び砂と混練して表面層用混練物を生成し、これにより対象物に2mm〜15mmの表面層を形成する酸化チタン膜の形成方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0009】
また、酸化チタン粒子を水に高度に分散させて酸化チタン含有スラリーを形成し、この酸化チタン含有スラリーを対象物の表面に含浸させ、これを乾燥することにより酸化チタン膜を形成する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0010】
また、このような酸化チタン膜の形成に用いられる酸化チタン膜形成用溶液として、ペルオキソ基で修飾されたアナターゼ微粒子が分散しているアナターゼ分散液や(例えば、特許文献3参照。)、溶液中のチタンイオン、チタン含有イオン及び水素イオン以外の陽イオン濃度がチタン濃度の1/2以下であるチタン酸化物形成用溶液(例えば、特許文献4参照。)、アンモニウムイオンや塩素イオン等を取り除いたチタン酸化物形成用溶液(例えば、特許文献5参照。)が提案されている。
【0011】
更に、過酸化状態の水酸化チタンを含むチタン酸化物形成用溶液を加熱することによりチタニア膜を形成する方法も提案されている(例えば、特許文献6参照。)。
【0012】
また、水酸化チタンを含むゲル又はゾルに過酸化水素水を加えて得られたチタン酸水溶液を被膜対象物の共存下で加熱して、該被膜対象物の表面に酸化チタン膜を形成する酸化チタン膜形成方法も知られている(例えば、特許文献7及び特許文献8参照。)。
【特許文献1】特開平9−268509号公報(第2−3頁、図1)
【特許文献2】特開平11−33413号公報(第2−4頁)
【特許文献3】特開平10−67516号公報(第2−3頁)
【特許文献4】特開2001−48538号公報(第2−4頁)
【特許文献5】特開2000−247639号公報(第2−3頁)
【特許文献6】特開平9−71418号公報(第2−3頁)
【特許文献7】特開平1−224220号公報(第1−3頁)
【特許文献8】特開2001−97717号公報(第4−5頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載の酸化チタン膜形成方法では、酸化チタン粉末を用いており、被膜対象物の表面上に酸化チタンを高分散させることは困難であった。すなわち、酸化チタン粉末は粒子状の酸化チタンから形成されているが、非常に細かい粒子で安定な分散体を作り出す技術は高度な技術を要する。従って、緻密で密着性が良好な酸化チタン膜を得ることは難しく、前述の表面層用混練物或いは酸化チタン含有スラリーの調整には多量の酸化チタンが必要となってしまう。このため、製造コストが増大してしまう、という問題があった。
【0014】
また、特許文献3、4、5及び6に記載のものでは、酸化チタン膜の形成に用いるチタン酸化物被膜形成溶液を得るまでに多くの工程を必要とする。すなわち、水酸化チタンやチタン酸化物を濾過し、洗浄する工程や、陰イオン交換樹脂を用いて陰イオンを除去する工程、ゲル化工程、分離工程等が必要であり、工程が多く煩雑である。このため、製造コストが増大してしまう、という問題があった。
【0015】
また、特許文献7及び8に記載のものでは、ペルオキソチタン酸イオンと思われるチタン過酸化物化合物を熱分解して酸化チタンにするため、熱エネルギーを必要とする。このため、特に被膜対象物の形状によっては大きな熱エネルギーが必要となってしまう。更には、加熱できない材料や既存構造物に対しては、チタン酸化物被膜を形成することが困難である、という問題があった。そして、チタン過酸化物化合物を熱分解して酸化チタンにする際に、酸化チタン同士が凝集して粒子が生成してしまう虞や、反応容器の壁面において酸化チタンが析出してしまう虞もある。従って、酸化チタンを余分に必要とし、製造コストの増大を招いてしまう、という問題があった。
【0016】
本発明は、従来のこのような課題を解決するためになされたものであり、使用する酸化チタンの量を低減することができ、且つ容易な工程による成膜を可能とし、これにより製造コストの低減を図ることのできる酸化チタン膜の成膜方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、表面にアルカリを有する成膜対象物にペルオクソチタン酸イオン水溶液を付着させて酸化チタン膜を成膜することを特徴とする酸化チタン膜の成膜方法である。
【0018】
このように構成された請求項1に記載のものでは、表面にアルカリを有する成膜対象物にペルオクソチタン酸イオン水溶液を付着させるため、前記アルカリと前記ペルオクソチタン酸イオン水溶液とが反応して酸化チタン(TiO2)が生成し、これにより、酸化チタン膜が成膜する。
【0019】
従って、この酸化チタン膜の成膜方法によれば、加熱工程やイオン交換工程を必要とせず、容易に、前記成膜対象物の表面に酸化チタン膜を成膜することができる。
【0020】
しかも、前記ペルオクソチタン酸イオンを前記アルカリに反応させるようにしたため、酸化チタンを含有する酸化チタン水溶液や酸化チタンゲル等を用いる場合と比し、容易に酸化チタンを高分散させることができる。
【0021】
従って、成膜に必要とする酸化チタンの量を低減することができ、製造コストの低減化を図ることができる。
【0022】
また、請求項2に記載された発明は、前記ペルオクソチタン酸イオン水溶液は、チタン塩水溶液と過酸化水素水と混合水溶液であることを特徴とする請求項1に記載の酸化チタン膜の成膜方法である。
【0023】
このように構成された請求項2に記載のものでは、前記ペルオクソチタン酸イオン水溶液がチタン塩水溶液と過酸化水素水と混合水溶液であるため、チタン塩水溶液と過酸化水素水とを混合するだけで容易に、前記ペルオクソチタン酸イオン水溶液を得ることができる。
【0024】
また、請求項3に記載された発明は、表面にアルカリを有する成膜対象物に、チタン塩水溶液を付着させた後、過酸化水素水を付着させて酸化チタン膜を成膜することを特徴とする酸化チタン膜の成膜方法である。
【0025】
このように構成された請求項3に記載のものでは、チタン塩水溶液を付着させた後、過酸化水素水を付着させるため、まず、チタン塩水溶液と過酸化水素水とによってペルオクソチタン酸イオンが生成される。そして、このペルオクソチタン酸イオンと表面のアルカリとが反応して酸化チタンが生成し、これにより、成膜対象物の表面に酸化チタン膜を成膜することができる。
【0026】
従って、これらの本発明の酸化チタン膜の成膜方法によれば、加熱工程やイオン交換工程を必要とせず、容易に、酸化チタンが高分散した酸化チタン膜を前記成膜対象物の表面に成膜することができる。
【0027】
しかも、生成させたペルオクソチタン酸イオンを前記アルカリに反応させるようにしたため、酸化チタンを含有する酸化チタン水溶液や酸化チタンゲル等を用いる場合と比し、容易に酸化チタンを高分散させることができる。
【0028】
従って、成膜に必要とする酸化チタンの量を低減することができ、製造コストの低減化を図ることができる。
【0029】
また、請求項4に記載された発明は、前記チタン塩は、硫酸チタン又は塩化チタンであることを特徴とする請求項2又は3に記載の酸化チタン膜の成膜方法である。
【0030】
このように構成された請求項4に記載のものでは、前記チタン塩が硫酸チタン又は塩化チタンであるため、水に容易に溶解させることができ、容易にチタン塩水溶液を得ることができる。
【0031】
また、請求項5に記載された発明は、前記成膜対象物がアルカリ含有材料からなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の酸化チタン膜の成膜方法である。
【0032】
このように構成された請求項5に記載のものでは、前記成膜対象物がアルカリ含有材料からなるため、成膜対象物の表面にアルカリを保持させる別途の工程を必要とせず、酸化チタン膜の成膜工程を削減することができる。
【0033】
また、請求項6に記載された発明は、前記表面は、前記成膜対象物に保持されたアルカリ含有材料から形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の酸化チタン膜の成膜方法である。
【0034】
このように構成された請求項6に記載のものでは、前記表面が前記成膜対象物に保持されたアルカリ含有材料から形成されているため、前記成膜対象物がアルカリを保持しにくい性質を有するものであっても、前記アルカリ含有材料を介して前記成膜対象物に酸化チタン膜を成膜することができる。
【0035】
また、請求項7に記載された発明は、前記アルカリ含有材料は、セメント又はフライアッシュであることを特徴とする請求項5又は6に記載の酸化チタン膜の成膜方法である。
【0036】
このように構成された請求項7に記載のものでは、前記アルカリ含有材料がセメント又はフライアッシュであるため、前記アルカリ含有材料がセメントであれば、構造物等に容易に酸化チタン膜を成膜することができ、又、前記アルカリ含有材料がフライアッシュであれば、土壌等に混入した油分等の有機物質を分解することができる粉体を得ることができる。
【0037】
また請求項8に記載の発明は、前記表面は多孔質物質からなり、該多孔質物質から形成された前記表面に前記アルカリが担持されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の酸化チタン膜の成膜方法である。
【0038】
このように構成された請求項8に記載のものでは、前記表面が多孔質物質からなるため、該多孔質物質が備える多数の空孔に前記アルカリを担持することができる。
【0039】
従って、アルカリを含む水溶液を塗布し、浸漬し、或いは噴霧等することにより、容易に、前記成膜対象物の表面にアルカリを保持させることができる。
【0040】
また、請求項9に記載された発明は、前記多孔質物質が、コンクリート、シリカゲル、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、又は砂のいずれか一つ又は二以上の混合物であることを特徴とする請求項8に記載の酸化チタン膜の成膜方法である。
【0041】
このように構成された請求項9に記載のものでは、前記多孔質物質が、コンクリート、シリカゲル、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、又は砂のいずれか一つ又は二以上の混合物であるため、これにより製造されたものが紫外線が照射されないときは窒素酸化物や細菌等を吸着し、紫外線が照射されたときは酸化チタン膜の光触媒機能により窒素酸化物や細菌等を酸化或いは分解することができる。
【0042】
また、請求項10に記載された発明は、前記アルカリは、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、又はアンモニアのいずれか一つであることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の酸化チタン膜の成膜方法である。
【0043】
また、請求項11に記載された発明は、前記チタン塩が硫化チタンであり、前記アルカリ土類金属水酸化物が水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムのいずれか一つであることを特徴とする請求項10に記載の酸化チタン膜の成膜方法である。
【0044】
このように構成された請求項11に記載のものでは、前記チタン塩が硫化チタンであり、前記アルカリ土類金属水酸化物が水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムのいずれか一つであるため、酸化チタンを生成させる際に、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム、或いは硫酸バリウムが生成する。この硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム、或いは硫酸バリウムは、酸化チタン膜の光触媒能をほとんど低下させずに酸化チタン(二酸化チタン)のバインダーとして機能する。しかも、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム、或いは硫酸バリウムは水に難溶性であるため、酸化チタン膜中の酸化チタンが雨等により溶出し難く、前記酸化チタン膜の耐久性の向上を図ることができる。
【0045】
また、請求項12に記載された発明は、前記チタン塩が塩化チタンであり、前記アルカリ土類金属水酸化物が水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムのいずれか一つであることを特徴とする請求項10に記載の酸化チタン膜の成膜方法である。
【0046】
このように構成された請求項12に記載のものでは、前記チタン塩が塩化チタンであり、前記アルカリ土類金属水酸化物が水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムのいずれか一つであるため、酸化チタン膜を成膜させる際に、水溶性の塩化ナトリウム、塩化カルシウム或いは塩化バリウムが生成する。従って、水洗するだけで容易に、塩素(塩素化合物)を除去することができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明のひとつである酸化チタン膜の成膜方法によれば、表面にアルカリを有する成膜対象物にペルオクソチタン酸イオン水溶液を付着させるため、前記アルカリと前記ペルオクソチタン酸イオン水溶液とが反応して酸化チタン(TiO2)が生成し、これにより、酸化チタン膜が成膜する。
【0048】
また、本発明の他の酸化チタン膜の成膜方法によれば、チタン塩水溶液を付着させた後、過酸化水素水を付着させるため、まず、チタン塩水溶液と過酸化水素水とによってペルオクソチタン酸イオンが生成する。そして、このペルオクソチタン酸イオンと表面のアルカリとが反応して酸化チタンが生成し、これにより、成膜対象物の表面に酸化チタン膜を成膜することができる。
【0049】
従って、これらの酸化チタン膜の成膜方法によれば、加熱工程やイオン交換工程を必要とせず、容易に、前記成膜対象物の表面に酸化チタン膜を成膜することができる。
【0050】
しかも、前記ペルオクソチタン酸イオンを前記アルカリに反応させるようにしたため、酸化チタンを含有する酸化チタン水溶液や酸化チタンゲル等を用いる場合と比し、容易に酸化チタンを高分散させることができる。
【0051】
従って、成膜に必要とする酸化チタンの量を低減することができ、製造コストの低減化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
本発明の実施の形態を説明する。
【0053】
本発明は、被膜対象物の表面に、酸化チタンを含む被膜(酸化チタン膜)を形成する酸化チタン膜の成膜方法に係るものであり、酸化チタン(TiO2)を、被膜対象物の表面に容易に高分散化することができ、これにより、低コストで酸化チタン膜を成膜することができるものである。
【0054】
本発明の一つは、表面にアルカリを有する成膜対象物にペルオクソチタン酸イオン水溶液を付着させて酸化チタン膜を成膜する酸化チタン膜の成膜方法である。
【0055】
表面にアルカリを有する成膜対象物にペルオクソチタン酸イオン水溶液を付着させれば、表面のアルカリとペルオクソチタン酸イオンとが反応して酸化チタン(TiO2)が生成し、これにより、成膜対象物の表面に酸化チタン膜を成膜することができる。
【0056】
また、表面にアルカリを有する成膜対象物に、可溶性チタン塩の水溶液を付着させた後、過酸化水素水(H22水溶液)を付着させるようにしても良い。この成膜方法によれば、可溶性チタン塩水溶液を付着させた後、過酸化水素水を付着させるため、まず、可溶性チタン塩水溶液と過酸化水素水とによってペルオクソチタン酸イオンが生成する。そして、このペルオクソチタン酸イオンと表面のアルカリとが反応して酸化チタンが生成し、これにより、成膜対象物の表面に酸化チタン膜を成膜することができる。
【0057】
従って、これらの本発明の酸化チタン膜の成膜方法によれば、加熱工程やイオン交換工程を必要とせず、容易に、前記成膜対象物の表面に酸化チタン膜を成膜することができる。
【0058】
しかも、本発明では、ペルオクソチタン酸イオンをアルカリに反応させるようにしたため、粒子状の酸化チタンを含有する酸化チタン水溶液や酸化チタンゲル等を用いる場合と比し、容易に酸化チタンを高分散させることができる。このため、成膜に必要とする酸化チタンの量を低減することができ、製造コストの低減化を図ることができる。そして、酸化チタンが高分散した酸化チタン膜は分解対象物との接触面積が大きいため効率的であり、より高い光触媒能を発揮することができる。
【0059】
更に、本発明の成膜方法により酸化チタン膜を成膜したものによれば、紫外線の照射を受けていないときは所定の物質を吸着し、紫外線の照射を受けると光触媒機能を発揮すると考えられる。例えば、本発明の成膜方法により酸化チタン膜を成膜したものを屋外に設ければ、大気汚染物質のひとつである窒素酸化物(NOX)を夜間に吸着し、昼間に太陽光が照射されると光触媒として機能して窒素酸化物を酸化、除去すると考えられる。すなわち、本発明によれば、コンクリート製品やアルカリを保持することのできる各種材料に、大気中の窒素酸化物の吸着及び除去機能を付与することが可能となり、大気環境浄化に寄与することができる。また、このようなコンクリート製品等の表面に付着した有機物を主成分とする汚れ成分を酸化チタン膜により分解することもできると考えられる。
【0060】
本発明に用いられるペルオクソチタン酸イオン水溶液は、ペルオクソチタン酸(過酸化チタン:TiO3・nH2O)由来のペルオクソチタン酸イオン(化学式)を含有する水溶液であれば良く、製造方法は特に限定されない。例えば、硫酸チタン(Ti(SO42)水溶液や塩化チタン(TiCl4)水溶液等のチタン塩水溶液と過酸化水素水とを混合すれば、ペルオクソチタン酸イオン水溶液を容易に得ることができる。
【0061】
また、このようなチタン塩水溶液に用いるチタン塩としては、硫酸チタンや塩化チタンの他、ペルオクソチタン酸カリウム(K4TiO8・6H2O)、ペルオクソチタン酸ナトリウム(Na4TiO8・2H2O又はNa22・TiO3・3H2O)等を用いることができるが、水に溶けてペルオクソチタン酸イオンを生じる水溶性チタン塩であれば特に限定されない。
【0062】
また、成膜対象物の表面が有するアルカリとしては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物等を用いることができ、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、水酸化ストロンチウム(Sr(OH)2)、水酸化バリウム(Ba(OH)2)等を用いることができる。更に、アルカリとしてアンモニア(NH3)等も用いることができる。
【0063】
また、成膜対象物は、アルカリを、少なくともその表面に有しているものであれば良い。これは、本発明では、アルカリとペルオクソチタン酸イオンとを反応させて酸化チタン膜を成膜するものであり、これにより、成膜対象物の深層部に酸化チタンを生成させることなく、表面にのみ(或いは表層部にのみ)酸化チタン膜を効率良く成膜することができる。すなわち、酸化チタンは紫外線の照射により光触媒機能を発揮することから、成膜対象物の表面に酸化チタン膜を成膜すれば、少量のチタンを用いて、より大きな効果を得ることが可能となる。
【0064】
更に、アルカリは、どのような態様で成膜対象物の表面に保持されていても良い。例えば、成膜対象物の材料自体をアルカリ含有材料から形成し、これによりその表面がアルカリを有するように構成しても良いし、又、成膜対象物に別途のアルカリ含有材料を保持させて、これによりその表面がアルカリを有するように構成しても良い。更には、成膜対象物にアルカリ含有液を塗布、噴霧、浸漬等することにより、その表面にアルカリを付着させても良い。この場合、表面により均一にアルカリを保持させるためには、成膜対象物を多孔質物質から形成すれば好適である。これは、多孔質物質にアルカリ含有液を噴霧等すれば、アルカリが多孔質物質の空孔に担持されるからである。
【0065】
成膜対象物の材料自体をアルカリ含有材料から形成する場合、このアルカリ含有材料としてアルカリ性のセメント、フライアッシュ等を採用することができる。このようなアルカリ含有材料を成膜対象物として用いれば、特に別途の加工を施すことなく、アルカリを有する表面を形成することができる。特に、粉末状のフライアッシュを成膜対象物として酸化チタン膜を成膜すれば、油分や農薬等の有機物に汚染された土壌等に散布することにより、これらの有機物を分解し、除去することができると考えられる。
【0066】
他方、成膜対象物に別途のアルカリ含有材料を保持させる場合には、例えば、コンクリートからなる成膜対象物に、ペースト状の水酸化カルシウムや水酸化ストロンチウム、セメント等を塗布することにより保持させれば良い。このようにしても、保持されたアルカリ含有材料によって成膜対象物の表面を構成して該表面はアルカリを有するものとなる。
【0067】
また、成膜対象物の表面にアルカリ含有液を付着させる場合、付着させる方法は限定されない。例えば、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化バリウム水溶液等を成膜対象物に塗布し、浸漬し、或いは噴霧することにより付着させることができる。例えば、成膜対象物にアルカリをより均一に付着させるためには、噴霧により付着させると好適である。また、塗布により付着させれば、既存の構造物等であっても容易に付着させることができる。また、例えばコンクリートブロック等に製造段階で付着させる場合には、生産効率の観点から浸漬による付着が好適である。
【0068】
前述の多孔質物質としては、多数の微細な空孔備える物質であれば、本発明の効果を奏する範囲内で任意に選択することができる。例えば、コンクリート、シリカゲル、アルミナ、タルク、砂、更に、炭酸カルシウム、窒化カルシウム、炭化カルシウム、ハイドロキシアパタイト等のいずれを用いても良いし、また、これらの中の任意の二以上の混合物であっても良い。ただし、多孔質物質は有機物質でないことが望ましい。これは、表面に形成した酸化チタンの光触媒機能によって、多孔質物質自体が分解されてしまう虞があるからである。仮に有機物質からなる有機材料を成膜対象物(基材)として用いる場合には、例えば、前記有機材料に中間層としての無機物質を保持させ、該無機物質により前記表面を形成すればよい。このようにすれば、基材としての有機材料に酸化チタン膜を成膜することができ、しかも酸化チタンの光触媒機能により有機材料が分解される虞を低減することができる。
【0069】
また、成膜対象物にペルオクソチタン酸イオン水溶液や、可溶性チタン水溶液、過酸化水素水を付着させる方法は特に限定されず、噴霧、塗布、浸漬等、所望の方法により付着させることができる。成膜対象物に噴霧することにより付着させれば、より均一に付着させることができる。また、塗布により付着させれば、既存の構造物等であっても容易に付着させることができる。また、例えばコンクリートブロック等に製造段階で付着させる場合には、生産効率の観点から浸漬による付着が好適である。
【実施例】
【0070】
(A)試料の製造
下記実施例1乃至5及び比較例1、2により試料1〜試料36を製造した。なお、試料1〜36における各水溶液の濃度や噴霧量は、表1乃至3に従って行った。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
【表3】

(A−1)実施例1
下記の工程により試料1〜試料15を製造した。
(1)成膜対象物にアルカリ含有材料を保持させる工程
成膜対象物(基材)としてのコンクリートブロック(幅10cm×長さ20cm×厚さ6cm)の表面にペースト状のアルカリ含有材料を塗布した。表1に示すように、このアルカリ含有材料として、試料1〜試料11にはセメントを、試料12及び試料13には水酸化カルシウムを、試料14及び試料15には水酸化ストロンチウムを、それぞれ用いた。
(2)成膜対象物にペルオクソチタン酸イオン水溶液を付着させる工程
試料1〜9及び試料12〜15にはセメントが乾燥して固化した後に、試料10、11にはセメントが乾燥する前に、ペルオクソチタン酸イオン水溶液を噴霧した。表1に示したように、ペルオクソチタン酸イオン水溶液として、試料1〜試料4には塩化チタン水溶液と過酸化水素水との混合溶液を、試料5から試料15には硫酸チタン水溶液と過酸化水素水との混合溶液を、それぞれ用いた。
(3)脱イオン水への浸漬及び乾燥工程
表1に示したように、試料3、11、13、15は脱イオン水に浸漬させた。この工程では、対象試料を脱イオン水1.4l中に1日間浸漬させ、その後に乾燥させた。また、試料4についてはこの浸漬・乾燥工程を二回繰り返した。
(A−2)実施例2
下記の工程により試料16及び試料17を製造した。
(1)成膜対象物にアルカリ含有材料を保持させる工程
成膜対象物としてのコンクリートブロック(実施例1と同様)の表面にペースト状のアルカリ含有材料を塗布した。表1に示すように、このアルカリ含有材料としてはセメントを用いた。
(2)成膜対象物の表面に可溶性チタン塩水溶液を付着させる工程
コンクリートブロックに保持されたセメントの表面に可溶性チタン塩水溶液を噴霧することにより付着させた。ここで、可溶性チタン塩水溶液として硫酸チタン水溶液を用いた。
(3)成膜対象物に過酸化水素水を付着させる工程
硫酸チタン水溶液が付着したセメントの表面に過酸化水素水を噴霧することにより付着させた。
(4)脱イオン水への浸漬及び乾燥工程
表1に示したように、試料17は脱イオン水に浸漬させた。この工程では、対象試料を脱イオン水1.4l中に1日間浸漬させ、その後に乾燥させた。
(A−3)実施例3
下記の工程により試料18を製造した。
(1)成膜対象物にペルオクソチタン酸イオン水溶液を付着させる工程
成膜対象物としてのアルカリ含有材料にペルオクソチタン酸イオン水溶液10gを噴霧することにより付着させた。ここでは、アルカリ含有材料としてフライアッシュ25gを用いた。このフライアッシュはアルカリ性の粉体であり、その表面にアルカリを有している。また、表1に示したように、ペルオクソチタン酸イオン水溶液として硫酸チタン水溶液と過酸化水素水との混合溶液を用いた。
【0074】
また、ペルオクソチタン酸イオン水溶液を噴霧後、乾燥させた。
(2)コンクリートブロックにフライアッシュを堆積させる工程
ペルオクソチタン酸イオン水溶液を付着させたフライアッシュを、コンクリートブロック(実施例1と同様)に堆積させた。
(A−4)実施例4
下記の工程により試料19乃至試料29を製造した。
(1)成膜対象物にアルカリを付着させる工程
成膜対象物としてのコンクリートブロック(実施例1と同様)に、アルカリ水溶液を噴霧することによりその表面に含浸させ、これによりアルカリを付着させた。表2に示したように、アルカリ水溶液として、試料19から試料21には水酸化ナトリウム水溶液を、試料22から試料29には水酸化バリウム水溶液を、それぞれ用いた。
(2)成膜対象物に過酸化水素水を付着させる工程
アルカリ水溶液が付着したコンクリートブロックの表面に過酸化水素水を噴霧することにより付着させた。
(3)脱イオン水への浸漬及び乾燥工程
表2に示したように、試料20、23、26、29は脱イオン水に浸漬させた。この工程では、対象試料を脱イオン水1.4l中に1日間浸漬させ、その後に乾燥させた。また、試料21、24、27についてはこの浸漬・乾燥工程を二回繰り返した。
(A−5)実施例5
下記の工程により試料32乃至試料36を製造した。
(1)チタン含有過酸化水素水とアルカリ水溶液とを混合する工程
表3に示したように、硫酸チタン水溶液又は塩化チタン水溶液に過酸化水素水を添加した水溶液(Ti−H水溶液)に、水酸化ナトリウム、水酸化バリウム8水和物、若しくは水酸化ストロンチウム8水和物を添加して、淡黄色若しくは白色の沈殿を生成させた。
(2)沈殿物から水溶性成分を取り除く工程
前述の混合して得た水溶液を静置し、上澄み液を除去し、水100mlを混合した。更に、この水溶液を静置し、上澄み液を除去し、水を混合する操作を数回繰り返した。そして、沈殿物を濾過することにより、水溶性成分を取り除いた。
(3)沈殿物を乾燥する工程
得られた沈殿物をシリカゲル入りのデシケータ内で乾燥した後、約107℃に保った電気乾燥機内で乾燥して試料32〜試料36を得た。
(A−6)比較例1
第一の比較例として、酸化チタン含有ゲルを用いる従来の成膜方法によって試料30及び試料31を製造した。
(1)酸化チタン含有ゲルの調整工程
硫酸チタン水溶液と過酸化水素水との混合水溶液にアンモニア水溶液(NH4OH)を添加してpH7とし、これにより、黄色のゲル状物質を含有する懸濁液を得た。
(2)成膜対象物に懸濁液を付着させる工程
懸濁液を成膜対象物としてのコンクリートブロック(実施例1と同様)に付着させた。
(3)脱イオン水への浸積及び乾燥工程
表2に示したように、試料31は脱イオン水に浸漬させた。この工程では、対象試料を脱イオン水1.4l中に1日間浸漬させ、その後に乾燥させた。
(A−7)比較例2
第二の比較例として、コンクリートブロック(実施例1と同様)にペースト状のセメントを塗布し、酸化チタン膜を備えていない試料32を製造した。
(B)各試料の光触媒能及び組成の測定実験及び結果
実施例1〜実施例5、及び比較例1及び比較例2で得られた試料1〜36について、下記の実験を行った。
(B−1)一酸化窒素吸着速度測定
(B−1−1)実験方法
(1)試料1を、上面が石英ガラスで形成された測定用容器(長さ10cm×幅20cm×厚さ8cm)にセットした。このとき、表面(酸化チタン膜が成膜された表面)が上方を向くように試料1を配設した。
(2)測定用容器の長手方向の一端から、一酸化窒素を含むガス(NO含有ガス)を0.5l/minで送気し、他端から排出した。NO含有ガスとしては、NO:4.7ppm、O2:10.5vol%、N2:89.5vol%の体積割合を有するガス(以下、「第一のNO含有ガス」という。)、NO:4.7ppm、N2:100.0vol%の体積割合を有するガス(以下、「第二のNO含有ガス」という。)、及び4.7ppmよりNO濃度を高めたガスを用いた。
(3)化学発光法のNO濃度測定装置(TN−7:柳本製作所)を用い、他端から排出されたガス(排出ガス)のNO濃度を測定した。更に、検知管法により、排出ガスの二酸化窒素濃度を測定した。
(4)試料2〜試料32のそれぞれについて、上記(1)〜(3)を行った。
(B−1−2)実験結果
(1)第一のNOガスの通気時には、試料1〜試料31の総てについて、測定用容器からの排出ガスのNO濃度は測定用容器に送気した第一のNOガスのNO濃度(4.7ppm)より低下した。
【0075】
また、排出ガスからは二酸化窒素は検出されなかった(検出下限値以下であった)。
【0076】
そして、酸素を含有していない第二のNO含有ガスを通気させても、第一のNO含有ガスと同程度のNO濃度の低下が確認され、且つ、O2濃度は低下しなかった。
【0077】
更に、4.7ppmよりNO濃度を高めたガスを通気したものでは、NO濃度の低下率が大きくなった。
【0078】
他方、試料32では、ほとんどNO濃度は低下しなかった。
(2)このようなNO濃度の低下率より、次式によりNO吸着速度を求めた。このNO吸着速度は、各試料が紫外線を照射されていない場合のNOの減少速度に相当するものである。
【0079】
NO吸着速度(μmol/h)=通気ガス流量(l・N/h)×(送気ガスNO濃度−排出ガスNO濃度)(ppm)/22.4(l・N/mol)
これにより得た結果を表1及び表2に示した。
(3)また、試料1〜3及び試料5〜9の実験結果より、噴霧したペルオクソチタン酸イオン水溶液のH22/Ti(モル比、以下同じ)とNO吸着速度との関係を図1に示した。
(4)試料6、12、14、19、22の実験結果より、アルカリの種類別に比較したNO吸着速度を図3に示した。
(5)試料22、23、25、26、28、29の実験結果より、噴霧した水酸化バリウム及びペルオクソチタン酸イオン水溶液におけるBa(OH)2/Ti(モル比、以下同じ)とNO吸着速度との関係を図5に示した。
(B−2)一酸化窒素光酸化速度測定
(B−2−1)実験方法
(1)試料1を、上面が石英ガラスで形成された測定用容器(長さ10cm×幅20cm×厚さ8cm)にセットした。このとき、表面(酸化チタン膜が成膜された表面)が上方を向くように試料1を配設した。
(2)測定用容器の長手方向の一端から、第一のNO含有ガスを0.5l/minで送気し、他端から排出した。更に、このように第一のNO含有ガスを通気しつつ、石英ガラスからなる上面から0.6W/cm2で紫外線を照射した。
(3)化学発光法のNO濃度測定装置(TN−7:柳本製作所)を用い、排出ガスのNO濃度を測定した。更に、検知管法により、排出ガスの二酸化窒素濃度を測定した。
(4)試料2〜試料31のそれぞれについて、上記(1)〜(3)を行った。
(B−2−2)実験結果
(1)紫外線の照射を開始するとNO濃度が低下し始め、一定時間を経過すると排出ガス中のNO濃度が一定となった。このように定常状態となった際のNO低下率を用いて、次式によりNO光酸化速度を求め、この結果を表1及び表2に示した。
【0080】
NO光酸化速度(μmol/h)=通気ガス流量(l・N/h)×(送気ガスNO濃度−排出ガスNO濃度)(ppm)/22.4(l・N/mol)
(2)また、試料1〜3及び試料5〜9の実験結果より、噴霧したペルオクソチタン酸イオン水溶液のH22/TiとNO光吸着速度との関係を図2に示した。
(3)更に、試料6、12、14、19、22の実験結果より、アルカリの種類によるNO光酸化速度を図4に示した。
(4)試料22、23、25、26、28、29の実験結果より、噴霧した水酸化バリウム及びペルオクソチタン酸イオン水溶液におけるBa(OH)2/TiとNO光酸化速度との関係を図6に示した。
(B−3)光触媒活性成分の同定
(B−3−1)実験方法
(1)試料32〜36のそれぞれについて、X線回折測定を行った。
(2)試料32〜36のそれぞれについて、X線光電子分光法により組成分析を行った(社製X線光電子分光装置5000型:アルバック・ファイ株式会社)。
(B−3−2)実験結果
(1)試料32〜36のX線回折パターンを図7に示した。
(2)X線光電子分光法の測定結果を表4に示した。
【0081】
【表4】

(C)考察
(C−1)酸化チタン膜のNO吸着性及びNO光酸化速度
試料1〜試料31の総てについて、測定用容器からの排出ガスのNO濃度は測定用容器に送気したガスのNO濃度(4.7ppm)より低下した。
【0082】
そして、排出ガスからは二酸化窒素は検出されなかったこと、及び、酸素を含有していない第二のNO含有ガスを通気させても第一のNO含有ガスと同程度のNO濃度の低下が確認され、且つO2濃度が低下しなかったことから、NO濃度の低下はNOからNO2への変換に基づくものではないことが確認できた。
【0083】
また、4.7ppmよりNO濃度を高めたガスを通気したものでは、NO濃度の低下率が大きくなった。これにより、NO濃度の低下は酸化チタン膜を有するコンクリートブロック(試料1〜試料31)によるNOの吸着によるものと考えられる。更に、セメントが塗布されただけであり酸化チタン膜を備えていない試料32では、NO濃度はほとんど低下しなかった。従って、NOの吸着は酸化チタン膜に関連しているものと考えられる。
【0084】
また、試料30及び試料31においてもNO吸着性能、及びNO光酸化性能が確認できたものの、試料5、16、17、20、21、25、29等と比し、その値は低いものとなっている。このことから、酸化チタンをゲルとして付着させるよりも、本発明の実施例1〜4に基づき酸化チタン膜を成膜したものの方が酸化チタンをより高分散化させることができることがわかった。これは、本発明の酸化チタン膜の成膜方法によれば、イオン状のチタン(ペルオクソチタン酸イオン)が溶解した水溶液を用いるため、固体の酸化チタンを含有するゲルを付着させる成膜方法よりも酸化チタンを高分散化することができるものと考えられる。
(C−2)NO吸着速度のH22/Ti依存性
図1に示したように、チタン塩として硫酸チタンを用いた場合には、H22/Tiが0.1〜1程度までは略一定であり、H22/Tiが1より大きくなるとNO吸着速度は大きく上昇した。一方、チタン塩として塩化チタンを用いた場合には、H22/Tiが0.1〜2の範囲内ではNO吸着速度が略一定となった。また、脱イオン水に一日間浸漬し乾燥させた試料3、7は、H22/Tiが同等(H22/Ti=1)で脱イオン水に浸漬させていない試料1、6よりも高い吸着速度を示した。
(C−3)アルカリの相違に基づくNO吸着速度
図3に示したように、アルカリとして水酸化カルシウムを用いた試料12や水酸化ストロンチウムを用いた試料14では高いNO吸着速度を示したが、これらを水に浸漬した試料13や試料15ではNO吸着速度は大きく低下している。
【0085】
アルカリとして水酸化バリウムや水酸化ナトリウムを用いた試料19、22の結果によれば、これらを水に浸漬した試料20、23のNO吸着速度と大きな相違は確認できなかった。
(C−4)アルカリの相違に基づくNO光酸化速度
図4に示したように、NO光酸化速度は、アルカリとしてセメントを用いた試料6、7を除き、水に浸漬していない試料12、14、19、22と比し、水に浸漬した試料13、15、20、23の方が同等或いは高い値を示した。これより、セメント以外のアルカリを用いた場合には、少なくとも水に浸漬されることによりNO光酸化速度が著しく低下するような特性の変化はないと考えられる。
(C−5)NO光酸化速度のH22/Ti依存性
図2に示したように、可溶性チタン塩として塩化チタンを用いた場合には、H22/Tiの値に関わらずNO光酸化速度は略一定となった。他方、可溶性チタン塩として硫酸チタンを用いた場合には、H22比率の増加(すなわち、H22/Tiの増大)に伴いNO光酸化速度は増加し、H22/Ti=2程度でその変化は微小となり略一定のNO光酸化速度となった。また、脱イオン水に一日間浸漬し乾燥させた試料3、7は、H22/Tiの値が同等(H22/Ti=1)で脱イオン水に浸漬させていない試料1、6よりNO吸着速度は低くなったものの、NO分解能は残存していることがわかった。
【0086】
このような図2の結果より、酸化チタン膜の成膜の際のH22/Tiは、0.1≦H22/Tiであることが好ましく、より少量のチタンを用いて効率的にNOを吸着するためには1.0≦H22/Ti≦2.0であることが好ましいと考えられる。
【0087】
また、表1に示したように、試料16、17も高いNO光酸化速度(4.02μmol/h)を示すことがわかった。すなわち、アルカリ含有材料としてのセメントを保持したコンクリートブロックに硫酸チタン水溶液を噴霧した後、過酸化水素水を噴霧する成膜方法によっても高いNO光酸化速度を示す酸化チタン膜を成膜できることがわかった。しかも、脱イオン水1.4l中に1日間浸漬後乾燥させた試料17についても同等の高いNO光酸化速度(4.02μmol/h)を示したため、この成膜方法によれば、成膜対象物から脱離し難い酸化チタン膜を成膜することができると考えられる。
(C−6)NO吸着速度及びNO光酸化速度とアルカリ/Ti(モル比、以下同じ)との関係
図5に示したように、NO吸着速度はBa(OH)2/Tiの値には大きく依存せず、略一定の値となった。
【0088】
また、NO光酸化速度は、0.25≦Ba(OH)2/Ti<1の範囲でBa(OH)2/Tiの増加に伴いNO光酸化速度は増加する傾向にあり、Ba(OH)2/Ti=1付近では略一定となった。
【0089】
これらの結果より、少なくともアルカリとしてBa(OH)2を用いる場合には、モル比で、0.25≦Ba(OH)2/Ti≦1、好ましくはBa(OH)2/Ti≒1となるようにBa(OH)2/Tiの値を定めることが良いと考えられる。
(C−7)光触媒活性成分の結晶構造
図7を参照すると、Ti(SO42−H22−NaOH系では、幅広なピーク(ブロードピーク)のみが現れていることから、非結晶質成分が生成したものと考えられる。
【0090】
また、TiCl4−H22−Ca(OH)2系、TiCl4−H22−Sr(OH)2系、及びTiCl4−H22−Ba(OH)2系では、炭酸塩(CaCO3、SrCO3、BaCO3)に由来する回折ピークが検出された。更に、非結晶質に由来するブロードピークも検出された。検出されたこれらの炭酸塩は、試料の製造過程において、空気中に存在するCO2がアルカリ水溶液に吸収されることにより生成したものと推定される。これらの炭酸塩は難水溶性のため、沈殿物中に残存したものと考えられる。この炭酸塩は難水溶性であることから、水に触れても容易には溶出することがなく、非結晶質二酸化チタンを保持して溶出を防ぐバインダーとして機能させることができると考えられる。従って、本発明の酸化チタン膜の成膜方法により酸化チタン膜を成膜する場合において、アルカリとしてCa(OH)2、Sr(OH)2、或いはBa(OH)を用い、このアルカリが残存する程度のペルオクソチタン酸イオン水溶液を付着させれば、空気との接触により経時的に炭酸塩が生成され、非結晶質二酸化チタンの溶出を防止されて酸化チタン膜の耐久性を高めることができると考えられる。
【0091】
また、チタン塩として塩化チタンを用いたTiCl4−H22−Ca(OH)2系、TiCl4−H22−Sr(OH)2系、及びTiCl4−H22−Ba(OH)2系では、塩化ナトリウム、塩化カルシウム或いは塩化バリウムが生成すると考えられるが、これらは沈殿物からは検出されていない。これは、塩化ナトリウム、塩化カルシウム或いは塩化バリウムが水溶性であるためである。従って、本発明の酸化チタン膜の成膜方法により酸化チタン膜を成膜する場合において、チタン塩として塩化チタンを用い、前記アルカリ土類金属水酸化物として水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムのいずれか一つを用いれば、水洗するだけで容易に、塩素(塩素化合物)を除去することができる。
【0092】
他方、前記チタン塩が硫化チタンであり、前記アルカリ土類金属水酸化物が水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムのいずれか一つである本発明の酸化チタン膜の成膜方法によれば、酸化チタンを生成させる際に、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム、或いは硫酸バリウムが生成する。そして、この硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム、或いは硫酸バリウムは、酸化チタン膜の光触媒能をほとんど低下させずに酸化チタン(二酸化チタン)のバインダーとして機能するため、前記酸化チタンが雨等により溶出し難く、より耐久性の高い酸化チタン膜を成膜することができる。
【0093】
また、Ti(SO42−H22−Ba(OH)2系では、難水溶性の硫酸バリウム(Ba(SO42)に由来する明瞭な回折ピークのほか、ブロードピークも検出された。これらの沈殿物のX線回折パターンには、共通してブロードピークが現れている。これより、本発明により成膜した酸化チタン膜は、非結晶質成分がNO光酸化に活性を示す光触媒成分であると推定される。
(C−8)光触媒活性成分の同定
表4を参照すると、Ti(SO42−H22−NaOH系、TiCl4−H22−Ca(OH)2系、TiCl4−H22−Sr(OH)2系、及びTiCl4−H22−Ba(OH)2系では、各沈殿物に、チタン、酸素、アルカリ若しくはアルカリ土類金属が含まれており、更に、炭素が含まれていることが分かった。ここで、これらの各沈殿物のアルカリが総て炭酸塩(MCO3)として存在するとして、残りの酸素とチタンとの原子比を求めると、この比はほぼ2となった(Ti:O≒1:2)。これより、チタンは二酸化チタン(TiO2)として存在するものと推定される。
【0094】
他方、Ti(SO42−H22−Ba(OH)2系では、その沈殿物にチタン、酸素、バリウム、硫黄が含まれていることが分かった。この沈殿物中のバリウムが総て硫酸バリウム(BaSO4)として存在するとして、残りの酸素とチタンとの原子比を求めると、この比はほぼ2.5となった(Ti:O≒2:5)。これより、チタンは二酸化チタン(TiO2)として存在するものと推定される。
【0095】
この組成分析の結果及び前述のX線回折分析の結果を合わせて考察すると、本発明の酸化チタン膜の成膜方法では、非結晶質の二酸化チタン(非結晶質二酸化チタン)が生成しており、これがNO光酸化に活性を示す光触媒成分と推認できる。すなわち、本発明の酸化チタン膜の成膜方法によれば、光触媒成分としての非結晶質二酸化チタンを含有する酸化チタン膜を成膜することができる。また、これらの沈殿物には炭酸塩や硫酸バリウムが共存しているが、NOの光酸化速度の測定結果からこれらの共存物質によって非結晶質二酸化チタンの光触媒活性が著しく阻害されるとは考えられない。これら結晶性の共存物質はいずれも難水溶性であることから、水に触れても容易には溶出することがなく、非結晶質二酸化チタンを保持して溶出を防ぐバインダーとして機能すると考えられる。従って、前記チタン塩が硫化チタンであり、前記アルカリ土類金属水酸化物が水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムのいずれか一つである本発明の酸化チタン膜の成膜方法によれば、酸化チタンを生成させる際に、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム、或いは硫酸バリウムが生成する。そして、この硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム、或いは硫酸バリウムは、酸化チタン膜の光触媒能をほとんど低下させずに酸化チタン(二酸化チタン)のバインダーとして機能するため、前記酸化チタンが雨等により溶出し難く、より耐久性の高い酸化チタン膜を成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】ペルオクソチタン酸イオン水溶液のH22/Ti(モル比)とNO吸着速度との関係を示した図である。
【図2】ペルオクソチタン酸イオン水溶液のH22/Ti(モル比)とNO光吸着速度との関係を示した図である。
【図3】各種アルカリ毎のNO吸着速度を示した図である。
【図4】各種アルカリ毎のNO光酸化速度を示した図である。
【図5】水酸化バリウム及びペルオクソチタン酸イオン水溶液におけるBa(OH)2/Ti(モル比)とNO吸着速度との関係を示した図である。
【図6】水酸化バリウム及びペルオクソチタン酸イオン水溶液におけるBa(OH)2/Ti(モル比)とNO光酸化速度との関係を示した図である。
【図7】アルカリ水溶液とペルオクソチタン酸イオン水溶液とを混合することにより生成した沈殿物のX線回折結果を示した図である。
【符号の説明】
【0097】
なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にアルカリを有する成膜対象物にペルオクソチタン酸イオン水溶液を付着させて酸化チタン膜を成膜することを特徴とする酸化チタン膜の成膜方法。
【請求項2】
前記ペルオクソチタン酸イオン水溶液は、チタン塩水溶液と過酸化水素水と混合水溶液であることを特徴とする請求項1に記載の酸化チタン膜の成膜方法。
【請求項3】
表面にアルカリを有する成膜対象物に、チタン塩水溶液を付着させた後、過酸化水素水を付着させて酸化チタン膜を成膜することを特徴とする酸化チタン膜の成膜方法。
【請求項4】
前記チタン塩は、硫酸チタン又は塩化チタンであることを特徴とする請求項2又は3に記載の酸化チタン膜の成膜方法。
【請求項5】
前記成膜対象物がアルカリ含有材料からなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の酸化チタン膜の成膜方法。
【請求項6】
前記表面は、前記成膜対象物に保持されたアルカリ含有材料から形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の酸化チタン膜の成膜方法。
【請求項7】
前記アルカリ含有材料は、セメント又はフライアッシュであることを特徴とする請求項5又は6に記載の酸化チタン膜の成膜方法。
【請求項8】
前記表面は多孔質物質からなり、該多孔質物質から形成された前記表面に前記アルカリが担持されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の酸化チタン膜の成膜方法。
【請求項9】
前記多孔質物質が、コンクリート、シリカゲル、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、又は砂のいずれか一つ又は二以上の混合物であることを特徴とする請求項8に記載の酸化チタン膜の成膜方法。
【請求項10】
前記アルカリは、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、又はアンモニアのいずれか一つであることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の酸化チタン膜の成膜方法。
【請求項11】
前記チタン塩が硫化チタンであり、前記アルカリ土類金属水酸化物が水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムのいずれか一つであることを特徴とする請求項10に記載の酸化チタン膜の成膜方法。
【請求項12】
前記チタン塩が塩化チタンであり、前記アルカリ土類金属水酸化物が水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムのいずれか一つであることを特徴とする請求項10に記載の酸化チタン膜の成膜方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−50172(P2008−50172A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−402799(P2003−402799)
【出願日】平成15年12月2日(2003.12.2)
【特許番号】特許第3584312号(P3584312)
【特許公報発行日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【Fターム(参考)】