説明

金属−金属ガラス複合材、電気接点部材および金属−金属ガラス複合材の製造方法

【課題】コネクタなどの接点材料として銅合金における析出硬化機構を活用した高強度・中導電率材料が創出されてきた。しかし、コネクタの更なる小型化のために、高強度・高接続信頼性・耐応力緩和性の改善が求められている。
【解決手段】Zr基、Ti基、Cu基、Ni基、またはFe基の金属ガラスを芯材とする金属−金属ガラス複合材であって、前記芯材の外側に1層以上の金属または合金からなる被覆層が設けられ、前記被覆層の断面積は、前記金属−金属ガラス複合材の断面積に対する比率が20%以上90%以下とする。また、好ましくは、金属ガラス芯材の表面に、Pd、Pt、Rh、Ni、Au、Ta、W、Ti、Moからなる群から選ばれる金属からなる厚さ0.1〜5μmの下地層を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ガラス表面を金属で被覆した金属−金属ガラス複合材に関し、特に高強度で導電率に優れ、耐応力緩和性に優れ、他金属との接続信頼性に優れる金属−金属ガラス複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
金属系の元素を主成分とし、溶融状態から結晶化せずに固化した非晶質体は、アモルファス金属(アモルファス合金)または金属ガラスとして知られている。このうち、過冷却液体温度領域の温度幅が非常に狭い組成の金属を、溶融状態から単ロール等で急冷凝固(10K/s以上)して非晶質としたものを、一般にアモルファス金属と呼ぶ。また、過冷却液体温度領域の温度幅が広く、急冷しないでも(0.1〜100K/s)過冷却液体状態を経由して非晶質になるものを金属ガラスと呼ぶのが一般的である。そのため、通常のアモルファス金属が50μm以下程度の薄帯状等でしか得られないのに対し、金属ガラスは厚板や棒状のバルクで製造できるという特徴がある。金属ガラスはガラス合金(glassy alloy)とも呼ばれる。
【0003】
金属ガラスは、(1)3元系以上の金属からなる合金で、且つ(2)広い過冷却液体温度領域を有する合金と定義されている。最近では、金属ガラスはナノクリスタルの集合体との見方もされており、金属ガラスのアモルファス状態における微細構造は従来のアモルファス金属のアモルファス状態とは異なると考えられている。
【0004】
金属ガラスは、高強度、低ヤング率、広い弾性変形範囲、高耐食性、高耐磨耗性などの特性があり、構造材として期待されている。また、非晶質であることから耐応力緩和性にも優れているという特徴もある。また、磁気特性に特徴があるものがあり、磁性材料への応用が考えられる。
【0005】
金属ガラス表面にめっきを施すことで、耐食性・耐候性・指紋払拭性・耐剥離性や有彩色性などの構造材とした例(特許文献1)や、複合材の硬度を増大させるために金属ガラスを用いた例(特許文献2)、また、板状の金属基材表面に、金属ガラスをプレス加工して複合させたものが提案されている(特許文献3)。
【0006】
また、高強度であるが導電率の低い鋼線の表面に、銅等の導電率の高い金属を溶融被覆することで強度と導電率に優れる複合材とする技術が特許文献4に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−77475号公報
【特許文献2】特表2005−524776号公報
【特許文献3】特開2007−83692号公報
【特許文献4】特開平5−220545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電気接点材料のコネクタには、導電性の面から銅および銅合金が主として用いられているが、電気・電子機器の小型化、軽量化、省資源の要求から、コネクタについても小型化の要求が高まっている。そのため、コネクタ材料には、導電性に加え、高強度、高接続信頼性、耐応力緩和特性、耐へたり性が求められるようになっている。そのため最近では、Cu−Ni−Si合金等における析出硬化機構を活用した、高強度・中導電率の材料が開発されている。しかし、銅をベースとする合金で、これらの機能を同時に向上することは困難であった。
【0009】
これに対し、金属ガラスは、コネクタの小型化のために必要な機械的特性を備えている。しかし、金属ガラスは導電率が数%IACSと低いため導電材料としては不適で、これまで検討されてこなかった。また、金属ガラスは弾性変形範囲が広いが塑性変形しにくいため、ハンドリング・組み立て工程などで表面に微細なキズが付いた場合には、そこを起点としてクラックが発生しやすいという問題もある。
【0010】
金属ガラスの機械的特性を生かしつつ、コネクタ等の電子機器接続部材として使用するために、導電性の改善と微小クラックの発生を低減することが課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するための、本発明の金属−金属ガラス複合材の構成は、以下のようなものである。請求項1に記載の発明は、Zr基、Ti基、Cu基、Ni基、またはFe基の金属ガラスを芯材とする金属−金属ガラス複合材であって、前記芯材の外側に1層以上の金属または合金からなる被覆層が設けられ、前記被覆層の断面積は、前記金属−金属ガラス複合材の断面積に対する比率が20%以上90%以下であることを特徴とする、金属−金属ガラス複合材である。
【0012】
この構成によれば、金属ガラスを芯材に用いることで、金属ガラスの機械的特性が利用でき、被覆層の金属または合金によって導電性が利用でき、複合材全体の断面積に対する被覆層の断面積の比率を20%以上90%以下とすることによって、金属ガラスの機械的特性と被覆層の導電率を、電気接続部材の特性として好ましい範囲に調整することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、前記金属ガラス芯材の表面に、Pd、Pt、Rh、Ni、Au、Ta、W、Ti、Moからなる群から選ばれる金属からなる厚さ0.1〜5μmの下地層を有することを特徴とする、請求項1に記載の金属−金属ガラス複合材である。
【0014】
この構成によれば、下地層により、金属ガラス芯材と被覆層の間の原子の拡散を防ぐことができ、金属ガラスの機械的特性の低下や、被覆層の導電性の低下を防ぐことができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、前記被覆層は、Cu、Ag、Al、Au、Pd、Pt、Rh、Ni、Sn、またはこれらの元素のいずれかを主成分とする合金からなる群から選ばれる金属または合金であることを特徴とする、請求項1または2に記載の金属−金属ガラス複合材である。
【0016】
この構成によれば、金属−金属ガラス複合材を電気接点部材として用いた場合に、好ましい導電性、強度、耐食性が得られる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の金属ガラス複合材を所定形状に加工した電気接点部材である。
【0018】
この構成によれば、コネクタ、バーンインソケット、コンタクトプローブ等の電気接点部材、特に小型化、細径化、薄肉化が要求される場合においても、導電性に加え、高強度、高接続信頼性、耐応力緩和特性、が得られ、電気・電子機器の小型化、軽量化、省資源の要求に応えることができる。特にコンタクト部での導電性を向上し、接点部材に加工する際の曲げ加工性改善や、ハンドリング中のキズ発生によるクラックを防止することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、金属−金属ガラス複合材の製造方法であって、Zr基、Ti基、Cu基、Ni基、またはFe基の金属ガラスの芯材の外側に、全体の断面積に対する比率が20%以上90%以下となるように金属または合金を1層以上付着させることによって、被覆層を形成することを特徴とする、金属−金属ガラス複合材の製造方法である。
【0020】
この製造方法によれば、金属ガラスを芯材に用いることで、金属ガラスの機械的特性が利用でき、被覆層の金属または合金によって導電性が利用でき、全体の断面積に対する被覆層の割合を20%以上90%以下とすることによって、金属ガラスの機械的特性と被覆層の導電率を、電気接続部材の特性として好ましい範囲に調整できる、金属−金属ガラス複合材が製造できる。
【0021】
請求項6に記載の発明は、前記被覆層を、電気めっきまたは無電解めっきで形成することを特徴とする、請求項5に記載の金属−金属ガラス複合材の製造方法である。
【0022】
この製造方法によれば、被覆層の金属または合金を、金属ガラス芯材の表面に、所定の組成、所定の厚さで容易に付着させることができる。また、被覆層を複数の層で形成することもできる。
【0023】
請求項7に記載の発明は、前記金属ガラス芯材の表面に、Pd、Pt、Rh、Ni、Auからなる群から選ばれる金属からなる厚さ0.1〜5μmの下地めっきを施し、その後前記被覆層を形成することを特徴とする、請求項5または6に記載の金属−金属ガラス複合材の製造方法である。
【0024】
この製造方法によれば、下地層を所定の組成、所定の厚さで容易に付着させることができる。さらに下地層が金属ガラス芯材と被覆層の間の原子の拡散を防ぐことができ、金属ガラスの機械的特性の低下や、被覆層の導電性の低下を防ぐことができるとともに、金属ガラス芯材と被覆層の密着性を高めることができる。
【0025】
請求項8に記載の発明は、前記金属ガラス芯材の表面に、Ta、W、Ti、Moからなる群から選ばれる金属からなる厚さ0.1〜5μmの薄膜を蒸着により施し、その後前記被覆層を形成することを特徴とする、請求項5または6に記載の金属−金属ガラス複合材の製造方法である。
【0026】
この製造方法によれば、めっきがしにくいこれらの金属であっても、下地層として利用でき、高融点金属であることから、金属ガラス芯材と被覆層の間の原子の拡散をより効果的に防ぐことができる。
【0027】
請求項9に記載の発明は、前記芯材を、Cu、Ag、Al、Au、Pd、Pt、Rh、Ni、Sn、またはこれらの元素のいずれかを主成分とする合金からなる群から選ばれる金属または合金の融体にディップフォーミングすることで、前記金属−金属ガラス複合材の断面積に対する比率が20%以上60%以下となるように前記被覆層を形成することを特徴とする、請求項5に記載の金属−金属ガラス複合材の製造方法である。
【0028】
この製造方法によれば、被覆層を厚く形成することが容易であり、同じ厚さの被覆層を形成するのであれば、めっきよりも短時間で処理できる。ディップフォーミング(Dip−forming)とは、溶融金属浴中に芯材を連続的に通し、次いで冷却することにより、芯材の表面に金属を凝固付着させて被覆を形成する方法である。ここで、被覆層の断面積比率が60%以下であれば、金属ガラス芯材が溶融金属浴中を通過する際に過熱されるのを防ぎ、金属ガラスの結晶化を防ぐことができる。
【0029】
請求項10に記載の発明は、前記芯材の表面にPd、Pt、Rh、Ni、Auからなる群から選ばれる金属からなる厚さ0.1〜5μmの下地めっきを施したものを、Cu、Ag、Al、Au、Pd、Pt、Rh、Ni、Sn、またはこれらの元素のいずれかを主成分とする合金からなる群から選ばれる金属または合金の融体にディップフォーミングして、前記被覆層を形成することを特徴とする、請求項9に記載の金属−金属ガラス複合材の製造方法である。
【0030】
この製造方法によれば、金属ガラス芯材がディップフォーミング時に高温にさらされても、下地層によって金属ガラス芯材と被覆層の間の原子の拡散を防ぐことができ、金属ガラスの機械的特性の低下や、被覆層の導電性の低下を防ぐことができるとともに、金属ガラス芯材と被覆層の密着性を高めることができる。
【0031】
請求項11に記載の発明は、前記芯材の表面にTa、W、Ti、Moからなる群から選ばれる金属からなる厚さ0.1〜5μmの薄膜を蒸着により施したものを、Cu、Ag、Al、Au、Pd、Pt、Rh、Ni、Sn、またはこれらの元素のいずれかを主成分とする合金からなる群から選ばれる金属または合金の融体にディップフォーミングして、前記被覆層を形成することを特徴とする、請求項9に記載の金属−金属ガラス複合材の製造方法である。
【0032】
この製造方法によれば、めっきがしにくいこれらの金属であっても、下地層として利用でき、高融点金属であることから、金属ガラス芯材と被覆層の間の原子の拡散をより効果的に防ぐことができる。さらに、これらの金属は熱伝導率が低いことから、金属ガラス芯材がディップフォーミング時に過熱されるのを防ぎ、金属ガラスの結晶化を防ぐことができる。
【0033】
請求項12に記載の発明は、Zr基、Ti基、Cu基、Ni基、またはFe基のバルク状金属ガラスを、非酸化性雰囲気下で誘導加熱によりガラス遷移温度以上に加熱し、ドローイング法によって細径化または薄肉化し、その後急冷して前記芯材を形成することを特徴とする、請求項5〜11のいずれかに記載の金属−金属ガラス複合材の製造方法である。
【0034】
この製造方法によれば、最初に鋳造によって製造したバルク状の金属ガラスを、芯材として最適な径まで細径化することができる。金属ガラスは、ガラス遷移温度(ガラス転移点とも呼ぶ)以上に加熱することによって粘度が急激に低下するので、ドローイング法によって細径化するのが容易である。
【0035】
請求項13に記載の発明は、Zr基、Ti基、Cu基、Ni基、またはFe基のバルク金属ガラスを、非酸化性雰囲気下で誘導加熱によりガラス遷移温度以上に加熱し、コンフォーム押出機で線、棒、平角もしくは異型の棒を押出し、ダイスの出側で急冷して前記芯材を形成することを特徴とする、請求項5〜11のいずれかに記載の金属−金属ガラス複合材の製造方法である。
【0036】
この製造方法によれば、丸線や平角線のような単純形状以外の異形断面を持つ金属ガラス芯材を製造することができる。
【0037】
請求項14に記載の発明は、前記コンフォーム押出機の内面に、TiN、TiC、Pt、またはPdを50%以上含有する膜を形成し、その膜厚が0.5〜5μmであることを特徴とする、請求項13記載の金属ガラス複合材の製造方法である。
【0038】
この製造方法によれば、コンフォーム押出し機の内面に、粘度が低く活性な金属ガラスが付着して焼き付くのを防ぎ、押出し後の金属ガラス芯材の表面品質を向上することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明の金属−金属ガラス複合材は、高強度であるが導電性に乏しい金属ガラスを芯材として用い、表面に導電性に優れた金属を複合化することで、導電性を改善し、小型コネクタ等の電気・電子機器用接続部材として使用することが可能となった。また、金属層が軟質の金属であることで、接続信頼性にも優れたものができる。さらに、芯材の金属ガラスが耐応力緩和性に優れることから、超小型コネクタ、バーンインソケット、コンタクトプローブなどの材料として用いる場合に高信頼性のものが得られる。この結果、コネクタ等の電気接続部材を、従来以上に小型化することが可能になる。また、金属ガラスの表面が金属で覆われていることによって、金属ガラスの表面にキズがつき、クラックの起点となることを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1の実施形態である金属−金属ガラス複合材の断面図。
【図2】本発明の第2の実施形態である金属−金属ガラス複合材の断面図。
【図3】本発明の第3の実施形態である金属−金属ガラス複合材の断面図。
【図4】本発明の第4の実施形態である金属−金属ガラス複合材の断面図。
【図5】本発明の第5の実施形態である金属−金属ガラス複合材の断面図。
【図6】本発明の実施例1、試料1から9における、引張り強度と繰り返し曲げ破断回数の関係。
【発明を実施するための形態】
【0041】
所定の組成に配合された合金を、真空溶解炉にて溶解し、これを水冷銅鋳型を用いた急冷キャップ法や、双ロール鋳造法等によって、バルク状で非晶出の金属ガラスを鋳造する。
【0042】
このバルク状金属ガラスを、ガラス遷移温度以上で、かつ結晶化温度より低い温度に加熱して加工を施し、芯材となる形状(線・棒・板・シート)を製造する。ここでの加工法としては、丸線、平角線等の単純な断面形状のものは、非酸化性雰囲気での光ファイバ製造法に見られるドローイング法によって伸線し、所定の断面サイズに伸線できたら、その下方でガス急冷などを施す。
【0043】
また、断面形状が異型の場合には、コンフォーム押出法を用いても良い。この場合、バルク状金属ガラスを、回転ホイール直前で非酸化性雰囲気中で誘導加熱によってガラス遷移温度直上まで昇温させてから、コンフォーム押出し機に装入して成形し、その出側で急冷する。コンフォーム押出し法は、断面形状が単純な場合にも適用できる。
【0044】
その他にも、ガラス遷移温度直上に加熱しての熱間鍛造や、溝ロール圧延なども適用できる。
【0045】
この工程で得られた金属ガラスの外側に、断面積比率が20〜90%となるように、金属めっきを施すことで、金属−金属ガラス複合材が得られる。このようにして得られる金属−金属ガラス複合材の例を、図1および図2に示す。図1の金属−金属ガラス複合材10は、丸線状の金属ガラス芯材20の表面に、金属被覆層30を全周に被覆したものである。図2の金属−金属ガラス複合材11は、平角線状の金属ガラス芯材21の表面に、金属被覆層31を全周に被覆したものである。
【0046】
また、金属ガラスとめっき金属間の拡散を防止するため、予め金属ガラスの表面に0.1〜5μmのPd、Pt、Rh、Ni、Au等の下地めっきを施しても良い。または、金属ガラスの表面に、蒸着にてTa、W、Ti、Moを0.1〜5μmの薄膜を施しても良い。このようにして得られる金属−金属ガラス複合材の例を、図3に示す。図3の金属−金属ガラス複合材12は、丸線状の金属ガラス芯材22の表面に、下地層42をめっきまたは蒸着によって全周に付着させ、その上に金属被覆層32を全周に被覆したものである。
【0047】
被覆層のめっきは、電解めっきや無電解めっきの他にも、溶融金属浴へ浸漬させて金属を凝固させるディップフォーミング法も適応できる。但し、その場合には金属ガラスが結晶化温度に到達しないように、凝固量の制御(鋳造速度の高速化)に留意する必要がある。また、このディップフォーミングの際に、溶融金属との濡れ性改善の目的で、予め金属ガラスの表面に0.1〜5μmのPd、Pt、Rh、Ni、Au、Ta、W、Ti、Moの中間層を施すことも有効である。
【0048】
被覆層の形成や下地層の形成は、金属ガラス芯材のドローイング等による加工の直後に連続して行うと、より望ましい。加工直後に被覆層や下地層を形成することで、金属ガラス芯材がむき出しのままで取り扱われることがなくなり、金属ガラス芯材の表面にキズやクラックが入るのを防ぐことができる。
【0049】
本発明の金属−金属ガラス複合材は、単線として用いることもできるが、複数本を束ねて撚線に加工しても良い。また、この複合材を中心に配置し、その周辺に他の金属線材を配置して撚線を構成することで、導電率と機械的特性の関係をさらに広い範囲で制御することが可能である。
【0050】
このようにして得られる金属−金属ガラス複合材の例を、図4および図5に示す。図4の金属−金属ガラス複合材13は、丸線状の金属ガラス芯材23の表面に金属被覆層33を被覆したものを、7本束ねて撚り線としたものである。図5の金属−金属ガラス複合材14は、丸線状の金属ガラス芯材24の表面に金属被覆層34を被覆したものを中心線とし、その周囲に8本の金属線54を配置し、撚り線としたものである。
【0051】
[実施例1]
表1に示す本発明の試料1から9の9種類の組成を持つ合金を調製し、特開平8−109419に記載されているような溶解方法および鋳造方法によって、それぞれ棒状の金属ガラス素材を製造した。その後、これらの金属ガラス素材を、ドローイング法やコンフォーム押出法によって、複合材の芯材となる丸線・平角線・異型角線等の線材形状に加工し、表1に示す形状を得た。
【0052】
次いで、これらの金属ガラス芯材が成形加工時に結晶しなかったことを確認した上で、この外面に銅・銀及びその合金をめっきして、所定の被覆率になるように被覆層を形成した。被覆率は、複合材の全断面積に対する被覆層部分の断面積の比率である。
【0053】
本発明の試料3、5、7、9には、被覆層の形成前に所定の下地層を形成した。これらの複合材の特性を、Ts(引張り強度)、EC(導電率)、応力緩和率、繰り返し曲げ破断回数について試験を行った。
【0054】
ここで、応力緩和率は、伸銅協会の仮規格(JCBA T309:2001、銅及び銅合金薄板条の曲げによる応力緩和試験方法)に準拠し、以下のように評価した。まず各試料に、520MPaの曲げ応力をかけ、たわみを発生させた。このときの試料のたわみを初期たわみ変位δ(mm)とした。δを保った状態で、150℃で1000時間保持した。その後室温に戻して除荷し、回復せずに残留したたわみを永久たわみ変位δ(mm)とした。ここで、応力緩和率(%)を、δ/δ×100として求めた。応力緩和率が小さいものが好ましい。
【0055】
また、繰り返し曲げ破断は、日本工業規格(JIS Z2273、金属材料の疲れ試験方法)に準拠し、両振り試験で曲げ応力が350Nとなる曲げを繰り返しかけ、破断するまでの繰り返し回数を測定した。繰り返し回数の大きいものが好ましい。
【0056】
これらの評価結果を合わせて、総合判定として、導電率が25%IACS以上で、応力緩和率が10%未満で、繰返し曲げ破断回数が5×10回を超えるものを○とした。また導電率が25%IACS、応力緩和率が10%、繰返し曲げ破断回数が5×10回のものを△とし、導電率が25%IACS未満、応力緩和率が10%を超える、繰返し曲げ破断回数が5×10回未満のものを×とした。評価結果を表1に示す。
【0057】
また、比較例として、試料10から18を作製した。これらは、本発明の試料1から9で用いたのと同じ金属ガラス芯材表面に、被覆率の異なる被覆層を形成したものである。また、比較例の試料19から21として、従来よりコネクタ材として使用されているコルソン合金(Cu−Ni−Si合金)を単体で用い、同様の評価を行った。結果を合わせて表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
本発明の試料1から9のように、被覆率が20%から90%であるものは、導電性、応力緩和率、繰り返し曲げ破断回数とも好ましい結果となった。
【0060】
一方、比較例の試料10、12、14、16、18のように被覆率が20%未満のものは導電性が低く、好ましい特性が得られなかった。また、比較例の試料11、13、15、17のように被覆率が90%より大きいものは応力緩和率が高く、やはり好ましい特性が得られなかった。
【0061】
また、比較例の試料19から21のコルソン合金単体では、導電率、応力緩和率、繰り返し曲げ破断回数とも、本発明の試料1から9と、比較例の試料10から18の間となったが、好ましい結果は得られなかった。
【0062】
さらに、本発明の試料1から9について、引張り強度と繰り返し曲げ破断回数の関係を調べた結果を図6に示す。下地処理を施すことで、繰返し曲げ破段回数が向上することがわかる。これは、下地層が芯材と被覆層の間の原子拡散を防ぐことや、被覆層の密着性が向上するためである。
[実施例2]
【0063】
表2に、本発明の試料22から30および比較例の試料31から39の詳細を示す。本発明の試料22から30として、本発明の試料1から9と同様に作製した金属ガラス芯線に、銅・銀及びその合金をディップフォーミングによって被覆した。金属ガラス芯線の組成、断面形状、下地めっきの有無、種類、厚さ、被覆層の種類については、すべて本発明の試料1から9と同じに揃えた。被覆層の被覆率は異なっている。
【0064】
また、比較例の試料31から39として、比較例の試料10から18と同様に作製した金属ガラス芯線に、銅・銀及びその合金をディップフォーミングによって被覆した。金属ガラス芯線の組成、断面形状、下地めっきの有無、種類、厚さ、被覆層の種類については、すべて比較例の試料10から18と同じに揃えた。被覆層の被覆率は異なっている。
【0065】
本実施例の各試料についても、実施例1と同様の試験を行った。また、評価基準も同様である。評価結果を合わせて表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
本発明の試料22から30のように、被覆率が20%から60%であるものは、導電性、応力緩和率、繰り返し曲げ破断回数とも好ましい結果となった。
【0068】
一方、比較例の試料31、34、35、37、39のように被覆率が20%未満のものは導電性が低く、好ましい特性が得られなかった。また、比較例の試料32、33、36、38のように被覆率が60%より大きいものは、金属ガラスが結晶化したために、製造が不可能と判断し、それ以降の評価は実施しなかった。表2ではNGと表示している。
【0069】
以上述べたように、本発明の試料は、導電性、応力緩和率、繰り返し曲げ破断回数とも好ましい結果が得られ、小型の電気接点部材として好適な特性を備えていることがわかった。
【0070】
ただし、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、発明の本質の範囲内で適宜変更可能である。例えば、金属ガラスの組成、加工方法、サイズ、被覆層の種類や厚さ、下地層の種類や厚さなどを変更しても良い。被覆層は、Cu、Ag、またはこれらの元素のいずれかを主成分とする合金に限らず、Al、Au、Pd、Pt、Rh、Ni、Sn、またはこれらの元素のいずれかを主成分とする合金であっても良い。また、被覆層が異種の金属からなる複数の層であっても良い。
【0071】
また、被覆層または下地層を、金属ガラス芯材の全周ではなく一部のみに複合化させたり、金属−金属ガラス複合材と他の金属材料とを更に複合化することなども、可能である。
【符号の説明】
【0072】
10、11、12、13、14・・・金属−金属ガラス複合材
20、21、22、23、24・・・芯材(金属ガラス芯材)
30、31、32、33、34・・・被覆層(金属被覆層)
42・・・下地層(中間層)
54・・・金属線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zr基、Ti基、Cu基、Ni基、またはFe基の金属ガラスを芯材とする金属−金属ガラス複合材であって、前記芯材の外側に1層以上の金属または合金からなる被覆層が設けられ、前記被覆層の断面積は、前記金属−金属ガラス複合材の断面積に対する比率が20%以上90%以下であることを特徴とする、金属−金属ガラス複合材。
【請求項2】
前記金属ガラス芯材の表面に、Pd、Pt、Rh、Ni、Au、Ta、W、Ti、Moからなる群から選ばれる金属からなる厚さ0.1〜5μmの下地層を有することを特徴とする、請求項1に記載の金属−金属ガラス複合材。
【請求項3】
前記被覆層は、Cu、Ag、Al、Au、Pd、Pt、Rh、Ni、Sn、またはこれらの元素のいずれかを主成分とする合金からなる群から選ばれる金属または合金であることを特徴とする、請求項1または2に記載の金属−金属ガラス複合材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の金属ガラス複合材を所定形状に加工した電気接点部材。
【請求項5】
金属−金属ガラス複合材の製造方法であって、Zr基、Ti基、Cu基、Ni基、またはFe基の金属ガラスの芯材の外側に、全体の断面積に対する比率が20%以上90%以下となるように金属または合金を1層以上付着させることによって、被覆層を形成することを特徴とする、金属−金属ガラス複合材の製造方法。
【請求項6】
前記被覆層を、電気めっきまたは無電解めっきで形成することを特徴とする、請求項5に記載の金属−金属ガラス複合材の製造方法。
【請求項7】
前記金属ガラス芯材の表面に、Pd、Pt、Rh、Ni、Auからなる群から選ばれる金属からなる厚さ0.1〜5μmの下地めっきを施し、その後前記被覆層を形成することを特徴とする、請求項5または6に記載の金属−金属ガラス複合材の製造方法。
【請求項8】
前記金属ガラス芯材の表面に、Ta、W、Ti、Moからなる群から選ばれる金属からなる厚さ0.1〜5μmの薄膜を蒸着により施し、その後前記被覆層を形成することを特徴とする、請求項5または6に記載の金属−金属ガラス複合材の製造方法。
【請求項9】
前記芯材を、Cu、Ag、Al、Au、Pd、Pt、Rh、Ni、Sn、またはこれらの元素のいずれかを主成分とする合金からなる群から選ばれる金属または合金の融体にディップフォーミングすることで、前記金属−金属ガラス複合材の断面積に対する比率が20%以上60%以下となるように前記被覆層を形成することを特徴とする、請求項5に記載の金属−金属ガラス複合材の製造方法。
【請求項10】
前記芯材の表面にPd、Pt、Rh、Ni、Auからなる群から選ばれる金属からなる厚さ0.1〜5μmの下地めっきを施したものを、Cu、Ag、Al、Au、Pd、Pt、Rh、Ni、Sn、またはこれらの元素のいずれかを主成分とする合金からなる群から選ばれる金属または合金の融体にディップフォーミングして、前記被覆層を形成することを特徴とする、請求項9に記載の金属−金属ガラス複合材の製造方法。
【請求項11】
前記芯材の表面にTa、W、Ti、Moからなる群から選ばれる金属からなる厚さ0.1〜5μmの薄膜を蒸着により施したものを、Cu、Ag、Al、Au、Pd、Pt、Rh、Ni、Sn、またはこれらの元素のいずれかを主成分とする合金からなる群から選ばれる金属または合金の融体にディップフォーミングして、前記被覆層を形成することを特徴とする、請求項9に記載の金属−金属ガラス複合材の製造方法。
【請求項12】
Zr基、Ti基、Cu基、Ni基、またはFe基のバルク状金属ガラスを、非酸化性雰囲気下で誘導加熱によりガラス遷移温度以上に加熱し、ドローイング法によって細径化または薄肉化し、その後急冷して前記芯材を形成することを特徴とする、請求項5〜11のいずれかに記載の金属−金属ガラス複合材の製造方法。
【請求項13】
Zr基、Ti基、Cu基、Ni基、またはFe基のバルク金属ガラスを、非酸化性雰囲気下で誘導加熱によりガラス遷移温度以上に加熱し、コンフォーム押出機で線、棒、平角もしくは異型の棒を押出し、ダイスの出側で急冷して前記芯材を形成することを特徴とする、請求項5〜11のいずれかに記載の金属−金属ガラス複合材の製造方法。
【請求項14】
前記コンフォーム押出機の内面に、TiN、TiC、Pt、またはPdを50%以上含有する膜を形成し、その膜厚が0.5〜5μmであることを特徴とする、請求項13記載の金属ガラス複合材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−94199(P2011−94199A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250147(P2009−250147)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】