説明

金属加工油組成物及び水中油滴型エマルジョン

【構成】 (a)モノエタノールアミン及び/又はジエタノールアミンを0.01〜5重量%、(b)トリエタノールアミンを1〜10重量%、(c)脂肪酸を4〜30重量%、及び(d)鉱油、油脂及び合成油から選ばれる1種又は2種以上を65〜90.99重量%の割合で含有する金属加工油組成物及びその金属加工油組成物を2〜20容量%含有する水中油滴型エマルジョン。
【効果】 潤滑性及び乳化安定性の両性能を満足し、エマルジョン粒径分布を適正にコントロールすることができ、この結果その水中油滴型エマルジョンを、金属加工、例えばアルミニウム及びアルミニウム合金の熱間圧延に使用して、表面品質に優れた金属加工製品、例えばアルミニウム及びアルミニウム合金圧延板を得ることができる。しかも、非イオン系乳化剤とは異なり排水処理時に分解可能なため、従来の設備のまま使用できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、潤滑性及び乳化安定性の両性能に優れ、エマルジョン粒径分布がコントロール可能であり、かつ表面品質に優れたアルミニウム圧延板などの金属加工製品を得ることができる金属加工油組成物及びその水中油滴型エマルジョンに関するものである。
【0002】
【従来の技術】金属加工製品、例えばアルミニウム及びアルミニウム合金の熱間圧延板製品は、板の表面品質によりその商品価値が決まり、その表面品質は使用する加工油又は圧延油の性能によって大きく左右される。用いられる加工油又は圧延油は、一般的には鉱油を基油として、油性剤、極圧剤、防腐剤、酸化防止剤、防錆剤などが配合され、乳化剤としてオレイン酸などの脂肪酸のトリエタノールアミン塩及び非イオン系界面活性剤などが添加されている加工油又は圧延油である。これらの金属加工油又は圧延油の中で、乳化系に脂肪酸トリエタノールアミン塩を使用しているアニオン系金属加工油又は熱間圧延油は、水中油滴型エマルジョンとして使用される。そして、この水中油滴型エマルジョンにした金属加工剤又は圧延剤は、例えば熱間圧延装置ではロールと材料間の潤滑とロールの冷却を兼ねて、クーラントの循環方式で用いられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、この熱間圧延油エマルジョンは、繰り返し使用されていくにつれて、オレイン酸などの脂肪酸のトリエタノールアミン塩のうちの脂肪酸が優先的にロール、圧延されたアルミニウム板及び発生したアルミニウム粉に付着して持ち去られる。このため、エマルジョンの乳化力が低下してエマルジョンが不安定になり、水中に分散する油滴の粒径を一定の粒径分布にコントロールすることが非常に困難になるという問題があった。そこで、その対策として、オレイン酸などの脂肪酸の添加量を過剰にすることが考えられる。しかし、脂肪酸濃度を増加させると熱間圧延油エマルジョンの粒径が大きくなり、熱間圧延油エマルジョンが不安定となる。そのため、エマルジョン粒径分布のコントロールが困難となる問題がある。このことは、アルミニウムの熱間圧延油に限らず、脂肪酸−トリエタノールアミン塩系の金属加工油エマルジョンにも同様のことが言える。また、熱間圧延油エマルジョンの場合、その他の方法として非イオン系界面活性剤を用いてこれらの性能を両立する試みもあるが、最適なエマルジョン粒径分布にコントロールすることが十分でなく、さらに排水処理性が悪く、排水処理装置に負担がかかるという問題がある。本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、潤滑性及び乳化安定性の両性能に優れ、最適なエマルジョン粒径分布を継続して保つことができ、かつ排水処理性にも優れ、この結果表面品質に優れた金属加工製品、例えばアルミニウム圧延板及びアルミニウム合金圧延板を得ることができる、金属加工用、例えばアルミニウム及びアルミニウム合金の熱間圧延用の金属加工油組成物及びその水中油滴型エマルジョンを提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、従来の金属加工用又はアルミニウム及びアルミニウム合金熱間圧延用水中油滴型エマルジョン及びそれに使用する金属加工油又は熱間圧延油の有する上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、従来使用されている脂肪酸−トリエタノールアミン塩系金属加工油又は圧延油にモノエタノールアミン又はジエタノールアミン、あるいはこれらの混合物を特定量添加することにより、乳化剤として脂肪酸のモノあるいはジエタノールアミン塩を生成させ、これにより従来の脂肪酸−トリエタノールアミン塩系金属加工油又は圧延油に比べて、極めて乳化安定性に優れ、最適なエマルジョン粒径分布にコントロールすることができ、しかも長期間に亘ってその最適なエマルジョン粒径分布を保つことができ、さらに潤滑性にも優れることを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0005】すなわち、本発明は、(a)モノエタノールアミン及び/又はジエタノールアミンを0.01〜5重量%、(b)トリエタノールアミンを1〜10重量%、(c)脂肪酸を4〜30重量%、及び(d)鉱油、油脂及び合成油から選ばれる1種又は2種以上を65〜90.99重量%の割合で含有することを特徴とする金属加工油組成物を提供するものである。また、本発明は、(a)モノエタノールアミン及び/又はジエタノールアミンを0.01〜5重量%、(b)トリエタノールアミンを1〜10重量%、(c)脂肪酸を4〜30重量%、及び(d)鉱油、油脂及び合成油から選ばれる1種又は2種以上を65〜90.99重量%の割合で含有する金属加工油組成物を2〜20容量%含有することを特徴とする水中油滴型エマルジョンを提供するものである。以下、本発明を詳細に説明する。
【0006】本発明の金属加工油組成物において使用される(a)成分は、モノエタノールアミン及び/又はジエタノールアミンである。モノエタノールアミンとジエタノールアミンは、それぞれ単独で用いてもよいし、混合して用いてもよいが、特にジエタノールアミンの配合量が0.05〜3.5重量%の範囲が好ましい。モノエタノールアミンとジエタノールアミンを混合して用いる場合に、その混合割合は、特に限定されるものではなく、種々の割合で使用可能である。
【0007】本発明の金属加工油組成物において使用される(c)成分である脂肪酸としては、例えばカプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ウンデシレン酸、ラウロレイン酸、エルカ酸、リンデル酸、ツズ酸、フィゼテリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸、エライジン酸、アスクレピン酸、パクセン酸、リノール酸、ヒラゴ酸、エレオステアリン酸、プニカ酸、リノレン酸、モロクチ酸、ステアリドン酸、タリリン酸、ステアロール酸、クレペニン酸、キシメニン酸、マルバニン酸、ヒドノカルピン酸、ショールムーグリン酸、ゴルリン酸、サビニン酸、イプロール酸、ヤラピノール酸、ユニペリン酸、アンブレットール酸、アリューリット酸、リシノール酸、カムロレイン酸、リカン酸などが挙げられる。これらの脂肪酸のうち、炭素数10〜22の脂肪酸が好ましく、潤滑性と基油への溶解性を考慮すると、特にオレイン酸が好ましい。これらの脂肪酸は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0008】本発明の金属加工油組成物において使用される(d)成分の基油は、鉱油、油脂及び合成油の何れでもよく、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いられる。ここで、鉱油としては、例えば白灯油、スピンドル油、マシン油、タービン油、シリンダー油などが挙げられ、油脂としては、例えば鯨油、牛脂、豚油、ナタネ油、ヒマシ油、ヌカ油、パーム油、ヤシ油などが挙げられ、合成油としては、例えばポリアルファオレフィン(PAO)、ポリブテン、エステル類などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの基油のうち、粘度が2〜80mm2/s(40℃)のものが好ましい。
【0009】本発明の金属加工油組成物においては、(a)成分であるモノエタノールアミン及び/又はジエタノールアミンの配合量は、0.01〜5重量%であるが、モノエタノールアミンの配合量は、0.01〜4重量%が好ましく、特に0.05〜2.5重量%が好ましい。また、ジエタノールアミンの配合量は、0.01〜4重量%が好ましく、特に0.05〜3.5重量%が好ましい。このモノエタノールアミン及び/又はジエタノールアミンの配合量が5重量%を超えると、溶解性が悪くなり、原液の安定性も悪くなり、泡が消えにくくなる。また、モノエタノールアミン及び/又はジエタノールアミンの配合量が0.01重量%未満であると乳化力が低下し、安定なエマルジョンを形成できず、粒子径分布も広がり粒子径のコントロールができなくなる。(b)成分であるトリエタノールアミンの配合量は、1〜10重量%である。(c)成分である脂肪酸の配合量は、4〜30重量%、好ましくは8〜20重量%である。
【0010】(a)成分、(b)成分及び(c)成分は、上記の範囲で配合されればよいが、モノエタノールアミンの配合量は、トリエタノールアミン100重量部に対し0.01〜25重量部の範囲が好ましく、さらに0.1〜10重量部の範囲が好ましく、特に0.2〜5重量部の範囲が好ましい。また、ジエタノールアミンの配合量は、トリエタノールアミン100重量部に対し0.01〜50重量部の範囲が好ましく、さらに0.1〜30重量部の範囲が好ましく、特に0.5〜10重量部の範囲が好ましい。モノエタノールアミン及び/又はジエタノールアミンの配合量が少な過ぎると、エマルジョンの粒径分布が広がり、粒径分布コントロールの効果が少ない。一方、この配合量が多過ぎると、エマルジョンが安定過ぎてフリーオイルが発生せず、泡の発生が多くなり易い。さらに、モノエタノールアミンの配合量が多過ぎると、pHが高くなり過ぎてアルミニウム表面を黒く変色させる問題が出てくることがある。また、モノエタノールアミン及び/又はジエタノールアミンと、トリエタノールアミンとの合計配合量は、脂肪酸100重量部に対し10〜50重量部の範囲が好ましく、さらに20〜40重量部の範囲が好ましく、特に25〜35重量部の範囲が好ましい。モノエタノールアミン及び/又はジエタノールアミンと、トリエタノールアミンとの合計配合量が少ないと乳化安定性が不足する傾向があり、一方多過ぎると溶解せず、原液の安定性が悪くなり易い。
【0012】また、本発明の金属加工油組成物においては、乳化助剤を含有させることが好ましい。この乳化助剤としては、親油基と親水基の両方を有する化合物を用いることができ、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジヘキシレングリコールなどが挙げられる。乳化助剤の含有量は、通常0.1〜10重量%の範囲であり、好ましくは0.5〜3重量%の範囲である。
【0013】また、本発明の金属加工油組成物においては、前記成分以外に、従来の金属加工油又は圧延油組成物に用いられる成分、例えば油性剤、極圧剤、酸化防止剤、防錆剤、防腐剤、殺菌剤などの各種添加剤を適宜添加することができる。油性剤としては、例えば油脂及び脂肪酸エステルなどが挙げられ、極圧剤としては、例えばトリクレジルフォスフェートなどのリン系化合物などが挙げられ、酸化防止剤としては、例えば2,4−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールなどのフェノール系化合物などが挙げられ、防錆剤としては、例えば1,2,3−ベンゾトリアゾール及びその誘導体などが挙げられ、殺菌剤としては、例えばトリアジン系、チアゾリン系及びモルホリン系などが挙げられる。
【0014】本発明の金属加工油組成物の一般的性状としては、粘度(40℃)が通常20〜80mm2/sの範囲であり、全酸価が通常20〜30mgKOH/gの範囲であり、塩基価が通常10〜18mgKOH/gの範囲であることが好ましい。本発明の金属加工油組成物は、前記各必須成分及び必要に応じて各種添加剤を所定量適宜配合して混合することにより製造することができる。各種必須成分及び各種添加剤の混合方法及び添加方法は、特に制限されるものではなく、種々の方法により行うことができ、混合順序及び添加順序も種々の混合順序及び添加順序で行うことができる。
【0015】本発明の水中油滴型エマルジョンは、上記本発明の金属加工油組成物を水に混合し、乳化させることにより調製することができる。水中油滴型エマルジョン中の油分の濃度は、2〜20容量%であり、特に4〜15容量%が好ましい。油分が少ないと、潤滑性が悪くなる傾向があり、油分が多過ぎると材料がかみ込まなくなる傾向があり、また圧延ロール(60〜100℃)の冷却が十分でなくなる。本発明の水中油滴型エマルジョンの調製方法は、通常のエマルジョン調製法の種々の方法により行うことができ、例えば40℃の水に金属加工油組成物を徐々に加え、その後60℃に温度を上げて24時間ポンプで循環して調製する方法が挙げられる。ポンプの循環条件としては、特に限定されるものではなく、例えばポンプのノズルの先端系を5mmφにし、容量を7l/minにし、ノズル先端を液中に設置するなどの条件が挙げられる。
【0016】本発明の水中油滴型エマルジョンの粒径は、通常0.3〜20μmの範囲にすればよく、好ましくは0.5〜10μmの範囲にすればよい。さらに、エマルジョン粒径分布の50%点の粒径が2〜5μmの範囲にあることが好ましく、特に2〜3μmの範囲にあることが好ましい。また、標準偏差が1〜2の範囲にあることが好ましい。なお、標準偏差は、使用中あまり変化しない方が好ましく、具体的には標準偏差の変動幅が0〜0.5の範囲が好ましく、特に0〜0.2の範囲が好ましい。この水中油滴型エマルジョンを金属加工装置又はアルミニウム熱間圧延装置に適用した場合、エマルジョンの粒径が小さくなると、潤滑が得られない潤滑不足が起こり、粒径が大きくなると一般に潤滑がよい方向にいくが、エマルジョンが非常に不安定になる。本発明の水中油滴型エマルジョンの一般的性状としては、pHが通常7〜9の範囲であり、予備アルカリ度が通常15〜24の範囲であり、静置中層油分濃度が通常4.5〜5.8%の範囲であることが好ましい。本発明の水中油滴型エマルジョンは、金属加工又はアルミニウムもしくはアルミニウム合金の熱間圧延に使用することができる。熱間圧延としては、粗・仕上げ兼用、粗用及び仕上げ用の何れにも適用することができる。金属加工には、圧延の他、切削、研削などの加工が含まれる。
【0017】
【作用】水中油滴型エマルジョンによる潤滑機構は、次のように考えられる。すなわち、例えばアルミニウム及びアルミニウム合金熱間圧延において圧延ロールへ噴射されたエマルジョンは、ロール表面で乳化破壊し、油分と水とに分離する。分離した油がロール表面に付着し、ロールと圧延板との接触弧内に引き込まれて摩擦を低減し、圧延荷重を低減する。潤滑性に寄与するオレイン酸などの脂肪酸は、脂肪酸のトリエタノール塩の分解により供給される。脂肪酸のジエタノールアミン塩又はモノエタノールアミン塩はトリエタノールアミン塩に比べて乳化力が強く、乳化剤として脂肪酸のジエタノールアミン塩又はモノエタノールアミン塩は安定に存在する。
【0018】
【実施例】次に、本発明を実施例及び比較例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明は、これらの例によって何ら制限されるものではない。実施例及び比較例の評価試験は、次の方法により行った。
【0019】(1)粒径分布メークアップ法(1l建浴の場合)
40℃の水940mlに所定濃度(6容量%)に相当する量(60ml)の圧延油を徐々に加えてポンプ循環を行う。全量添加した後、エマルジョンの温度を60℃に上昇し、24時間循環した後粒径分布を測定する。
(2)乳化安定性■上記メークアップ法により調製したエマルジョンを20分間静置後、中層部の油分濃度を測定する。
■バブコックフラスコ中に試料を入れ1500rpm(650G)で20分間遠心分離を行い、フリーオイル及びクリームの生成をバブコックフラスコ内の目盛りで測定する。
(3)Feイオンとの反応性鋳鉄(FC−200)、アルミニウム(JIS A1050)を各5gずつ6容量%油分濃度の水中油滴型エマルジョン1lに浸漬し、60℃で300rpmのマグネチックスターラーで撹拌しながら10日間反応を行う。このエマルジョンを、油分濃度、pH、Fe分の各項目について分析する。
【0020】実施例1〜5基油、モノエタノールアミン及び/又はジエタノールアミン、トリエタノールアミン及びオレイン酸の必須成分と、TCP(トリクレジルフォスフェート)、乳化助剤(DEG:ジエチレングリコール)及び殺菌剤の添加剤を表1の配合割合で順次混合してアルミニウム熱間圧延油組成物を調製した。これらのアルミニウム熱間圧延油組成物をメークアップ法により水中に添加して乳化させ、それぞれ水中油滴型エマルジョンを調製した。得られた水中油滴型エマルジョンについて、乳化安定性、Feイオンとの反応性及び粒径分布を測定した。乳化安定性及びFeイオンとの反応性の結果を表2に示し、粒径分布の結果を表3に示した。なお、実施例2のアルミニウム熱間圧延油組成物の性状は、粘度が32.9mm2/s(40℃)、全酸価が26.6、塩基価が14.0であり、6容量%の水中油滴型エマルジョンの性状は、pHが8.8、予備アルカリ度が20、静置中層油分濃度が5.2であった。また、その他の実施例のアルミニウム熱間圧延油組成物の性状も、粘度(40℃)が25〜50mm2/sの範囲であり、全酸価が20〜30mgKOH/gの範囲であり、塩基価が10〜18mgKOH/gの範囲であり、水中油滴型エマルジョンの性状も、pHが7〜9の範囲であり、予備アルカリ度が15〜24の範囲であり、静置中層油分濃度が4.5〜5.8%の範囲であった。
【0021】比較例1モノエタノールアミンとジエタノールアミンを添加しないで、基油、トリエタノールアミン及びオレイン酸と、TCP(トリクレジルフォスフェート)、乳化助剤(DEG:ジエチレングリコール)及び殺菌剤の添加剤を表1の配合割合で順次混合してアルミニウム熱間圧延油組成物を調製した。このアルミニウム熱間圧延油組成物をメークアップ法により水中に添加して乳化させ、水中油滴型エマルジョンを調製した。得られた水中油滴型エマルジョンについて、乳化安定性、Feイオンとの反応性及び粒径分布を測定した。乳化安定性及びFeイオンとの反応性の結果を表2に示し、粒径分布の結果を表3に示した。
【0022】比較例2モノエタノールアミンとトリエタノールアミンを添加しないで、基油、ジエタノールアミン及びオレイン酸の必須成分と、TCP(トリクレジルフォスフェート)、乳化助剤(DEG:ジエチレングリコール)及び殺菌剤の添加剤を表1の配合割合で順次混合してアルミニウム熱間圧延油組成物を調製した。このアルミニウム熱間圧延油組成物をメークアップ法により水中に添加して乳化させ、水中油滴型エマルジョンを調製した。得られた水中油滴型エマルジョンについて、乳化安定性、Feイオンとの反応性及び粒径分布を測定した。乳化安定性及びFeイオンとの反応性の結果を表2に示し、粒径分布の結果を表3に示した。なお、表1において、各成分の配合量を示す数値の単位は、重量%である。
【0023】
【表1】


注1):鉱油(粘度:30mm2/s(40℃))
2):ポリ−α−オレフィン(粘度:30mm2/s(40℃))
【0024】
【表2】


【0025】
【表3】


【0026】表2および表3に示すように、実施例1〜5は、適正なエマルジョン粒径分布を有する。なお、実施例1の水中油滴型エマルジョンの粒径分布のみを図1に示しているが、粒径分布がシャープであり、適正な粒径分布であることが分かる。また、比較例2も適正なエマルジョン粒径分布を有するが、比較例1は、ブロード過ぎる。比較例2は、フリーオイルがなく、泡立ちが多かった。また、クリームが多いため圧延機回りが汚れ易い。
【0027】圧延テスト(1)
実施例1〜5、比較例1及び2の水中油滴型エマルジョンをアルミニウム熱間圧延用エマルジョンとして使用し、下記条件にてアルミニウムの熱間圧延を行った。そのときのアルミニウム板の表面品質を下記の基準に従って目視で判定した。また、10日間使用後のエマルジョン安定性を下記の基準に従って判定した。その結果を表4に示した。
(1)条件Work Roll径:178mmφ,2段ミル圧延速度:10m/minテストピース:99.7%アルミニウム熱間圧延板圧下:1パスで6mmから3mmへ落とす。
テスト枚数:100枚圧延開始温度:500℃(アルミニウム板温度)
圧延油供油方式:スプレー方式で上下ワークロールへ散布圧延油供給量:8.6l/min圧延油濃度:6容量%エマルジョン圧延油温度:60℃(2)アルミニウム板の表面品質判定基準○:良い×:悪いエマルジョン安定性○:Feイオン濃度が800ppm以下である×:Feイオン濃度が800ppmを超える
【0028】
【表4】


表4に示すように、実施例1〜5は、アルミニウム板の表面品質及びエマルジョン安定性の何れも良好であるのに対し、比較例1はアルミニウム板の表面品質は良いが、エマルジョン安定性が劣る。比較例2はエマルジョン安定性は良いが、潤滑性が劣る。
【0029】圧延テスト(2)
実施例2及び3、比較例1及び2の水中油滴型エマルジョンをアルミニウム熱間圧延用エマルジョンとして使用し、下記条件でアルミニウムの熱間圧延を行った。
Work Roll径:360mmφ 2段回転可逆可能ミル圧延速度:80m/minテストピース:99.7%アルミニウム熱間圧延板圧下:6パスで60mmから6mmへ落とす。
テスト枚数:40枚圧延開始温度:600℃(アルミニウム板温度)
圧延油供給方式:スプレーで上下Work Rollへ散布。
圧延油供給量:20l/min圧延油濃度:6容量%エマルジョン、圧延油温度:60℃上記圧延条件で圧延潤滑性を以下の項目で評価した。
圧延安定性:かみ込み性で評価(入れば○、滑って入らなければ×、その中間が△)
板表面性状:熱延上り板表面のアルマイト処理後の均一性(表面の仕上がり性)を下記の基準により評価した。
○:良い△:普通×:悪いその結果を表5に示す。
【0030】
【表5】


さらに、上記圧延テストで使用されている水中油滴型エマルジョンをテスト枚数20枚、40枚の時点でサンプリングし、使用途中におけるエマルジョン粒径分布を測定した。その結果を表6及び表7に示す。
【0031】
【表6】


【0032】
【表7】


【0033】
【発明の効果】本発明の金属加工油組成物は、潤滑性及び乳化安定性の両性能に優れており、エマルジョン粒径分布を極めて適正にコントロールすることができ、しかも長期間に亘ってその最適なエマルジョン粒径分布を保つことができる。従って、その水中油滴型エマルジョンを、金属加工、例えばアルミニウム及びアルミニウム合金の熱間圧延に使用することにより、表面品質に優れた金属加工製品、例えばアルミニウム及びアルミニウム合金圧延板を得ることができる。しかも、非イオン系乳化剤とは異なり排水処理時に分解可能なため、従来の設備のまま使用できる。本発明は、実用上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の水中油滴型エマルジョンの粒径分布を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (a)モノエタノールアミン及び/又はジエタノールアミンを0.01〜5重量%、(b)トリエタノールアミンを1〜10重量%、(c)脂肪酸を4〜30重量%、及び(d)鉱油、油脂及び合成油から選ばれる1種又は2種以上を65〜90.99重量%の割合で含有することを特徴とする金属加工油組成物。
【請求項2】 請求項1記載の金属加工油組成物を2〜20容量%含有することを特徴とする水中油滴型エマルジョン。

【図1】
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【公開番号】特開平7−258672
【公開日】平成7年(1995)10月9日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−76290
【出願日】平成6年(1994)3月24日
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)