説明

金属箔を溶着させたガラス体及び金属箔をガラス体に溶着させる方法

【課題】金属箔をガラスに溶着させる。
【解決手段】金属箔を貼り付けたガラス体を徐々に急加熱しても割れない温度であって、ガラスが変形しない温度まで加熱し、加熱されたガラス体をさらに急加熱して、金属箔の融点の温度に上げ、該金属箔をガラス体に溶着させ、金属箔が溶着されたガラス体を徐冷温度以上である所定温度にまで急冷し、所定温度となった金属箔が溶着されたガラス体を徐冷する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスに金、銀、銅などの表面に金属箔を溶着させたガラス体、及び金属箔をガラス体に溶着させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種製品の質感を高めるために、ガラスや合成樹脂等に金属類似の外観を持たせた製品が多数出回っている。
特許文献1に記載の発明は、金属類似の外観を持った安価な樹脂製品を製造するために、非金属基質の素材の表面に金属−燐被覆を電気鍍金をする方法である。
この方法は、金鍍金を行う前の前処理が必要であるため、金鍍金をする面の裏側から見ると、黒く見えるという欠点もあり、高価でもあった。
【0003】
【特許文献1】特公昭47−24477号公報
【0004】
一般に、ガラスや樹脂製の素材に薄膜を形成するには、特許文献1に記載のメッキや、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーテイング、及び気相成長の何れかの方法によって、行われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの方法は、ガラス工房などにおいて、硝子体の表面に金やその他の金属箔を被覆させる方法としては、一般のガラス工房における手工業的な設備以外の特別の設備や特殊技術を必要とするものである。
【0006】
従来、手工業的に金箔を基材に被覆させる方法としては、漆製品、日本画、仏具等の製作で行われている、金箔を接着剤(箔を貼り付ける対象によって異なる材質のものを用いる。)等を使用して接着させることが一般的であった。
この方法によって製作されたものは、金箔のキラキラした輝きが強く、特有のしわが残りやすく、ガラス体を金属の質感を持たせるものとしては、技術的高度性が要求された。
従来、ガラス体の基材に金属箔(以下、金属箔を「金箔」として説明する。)を被覆させる方法として、図5、図6に示すような方法が行われていた。
【0007】
図5に示す従来方法は、まず、基台101上に金箔102を載置する(図5(a))。吹き竿103の先端に溶融ガラス104を付着させ(図5(b))、基台101上の金箔102に溶融ガラス104を付着させて、吹き竿103を回転させて、巻き取る(図5(c))。
吹き竿105の他端Aから、空気を吹き込み、金箔102が付着している溶融ガラス104を膨らませて内部に空洞Bを形成し(図5(d))、膨らませた溶融ガラス104を所定の形状に成形して、例えば図5(e)のような、椀100を作る。椀100の外表面は、金箔102が割れて、分散され、不規則な模様を形成することとなる。
図5に示す方法は、金箔102によって形成される模様は製作者の意図するような模様とはならず、かつ、椀100の外表面に一様に金箔を被覆させることができなかった。
【0008】
図6に示す方法は、板状のガラス101a、101bの間に金箔102を挟み込み、金箔が模様となった装飾体110を形成するものである。この装飾体100は、このまま板体の装飾体として使用するか、器状の型にスラッピング(加熱して曲げる)させて、器とすることができる。この方法では、挟み込む金箔102を装飾として利用することができるものの、基材を金属の質感を持ったものとして形成することはできなかった。
【0009】
また、ガラスの器をまず製作し、その内側に金箔を貼って、その上から少し小さめのガラスの器を重ね、加熱して2つの器を溶着させる方法、いわゆるゴールドサンドイッチという方法も行われていた。ガラスとガラスの間に金箔が挟まれたものであるが、金箔を用いた装飾体ではあるが、金属の質感を持ったガラス体を形成するものではなかった。
【0010】
また、ガラス体の表面に金彩溶液(水性或いはペースト性の金溶液)を筆で模様等を描き、電気炉によって焼き付け、金属固有の光彩生地面を形成する方法もある。この方法は、金彩溶液が高価であること、広い面積を覆うことは実質的に困難であること、筆で塗ることから、一面に同質の質感を持たせることは技術的に困難であること、という課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、特別な設備を必要としない種々の形状のガラス基材を金属の質感を持つように形成したガラス体及び金属箔をガラス体に溶着させる方法を提供するものである。
【0012】
本発明の金属箔をガラス体に溶着させる方法は、成形されたガラス体に金属箔を貼り付け、金属箔が貼り付けられたガラス体を急加熱しても割れない温度であって、ガラスが変形しない温度まで徐々に加熱し、前記加熱されたガラス体をさらに急加熱して、前記金属箔の融点の温度に上げ、該金属箔をガラス体に溶着させ、前記金属箔が溶着されたガラス体を徐冷温度以上である所定温度にまで急冷し、前記所定温度となった金属箔が溶着されたガラス体を徐冷する工程からなる。
【0013】
本発明の金属箔溶着させたガラス体は、成形されたガラス体に金属箔を貼り付け、金属箔が貼り付けられたガラス体を徐々に急加熱しても割れない温度であって、ガラスが変形しない温度まで加熱し、前記金属箔の融点の温度に上げ、該金属箔をガラス体に溶着させ、前記金属箔が溶着されたガラス体を徐冷温度以上である所定温度にまで急冷し、前記所定温度となった金属箔が溶着されたガラス体を徐冷することによって製造される。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、種々の形状のガラス体に、金属の地金そのもののような質感を持ったものを特別な設備を必要とすることなく、容易に、且つ低コストでガラス工房で製造することができる。特に、金属箔をガラス体に溶着するものであるため、シワがなくなり表面に張りがでて、落ち着いた輝きがあり、本物の金属地金(インゴット)に近い質感のものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施の態様を、図1〜図4に基づいて、以下に説明する。
本発明の金属箔としては、金箔、銀箔、銅箔、アルミ箔が用いられる。金の融点は、1064.43°C、銀の融点は、961.93°C、銅の融点は、1084.5°C、アルミニウムの融点は、660.37°Cであり、合金であっても、融点が1100°C以下のものであれば、本発明を適用することができる。
金属箔の厚みは、市販のものの厚みでよく、0.1〜0.5ミクロンのものが市販されている。
銀箔、銅箔、アルミ箔の場合、その純度が100%のものが市販され、厚みは、0.3〜0.5ミクロン、洋箔(真鍮箔)は、銅87.00%、亜鉛13.00%のものが市販されている。
【0016】
本発明のガラスの基材の形状は、ガラスが溶け、外形が溶け始める温度が約620°Cのソーダガラスを使用し、実施例においては、金塊(インゴット、INGOT)の台形状とし(図4(a))、厚さ21mm、下辺の長辺127mm、幅39mm、上辺の長辺117mm、幅32mmのものとされ、重さは、250g、とされている。
本実施例においては、金箔の場合、その純度は、標準色(22.7K、94.43%)のものを用い、厚みは0.5ミクロンの市販のもの(株式会社今井金箔製)を用いている。
【0017】
ガラスのガラスが溶け、外形が崩れ始める温度は、600°C〜640°C(ガラスの種類によって異なる。)前後であり、金の融点がそれより高く約1064°Cであるため、金箔をガラス体の表面に貼り付けて、通常に加熱すると、金箔が溶ける前に、ガラスが溶けてしまい、ガラス体の形状を保ったまま溶着することはできない。
【0018】
本発明者は、ガラスは、急加熱しても割れない温度であって、ガラスが変形しない温度範囲(350°C〜480°C)にまで徐々に加熱してから、急激に温度を上げて、高温(電気炉内の温度1100°C)にさらしても、割れずに耐えるという性質を備えていることを実験等によって発見した。
【0019】
本発明は、このガラスの性質を利用して、金属箔を貼り付けたガラス体を徐々に急加熱しても割れない温度であって、ガラスが変形しない温度にまで加熱し、その後、この金属箔が貼り付けられたガラス体の表面温度を短時間で、例えば金箔の場合であれば、その融点近くの温度1100°C以上に上げると、ガラス体の表面の金箔だけが融けて、ガラス体の表面のガラスと溶着する。ガラスと金属箔の溶着は、温度計を用いなくとも、金属箔の表面にシワがなくなり、張りが出てくるので溶着したと判断できる。そのとき、ガラス体の内部は、ガラスが変形する温度にまで上がっていないので、ガラス体の初期の形状は保たれたままである。
【0020】
この高温の状態のままガラス体を電気炉内に置いておくと、ガラス体の内部まで高温となってしまうため、ガラス体が溶けて崩れないように、金箔がガラス体の表面に溶着したのが確認できた時点で、金属箔が溶着されたガラス体を電気炉から取り出し、徐冷点(徐冷温度。徐冷炉において徐冷をしないと、ガラスが割れてしまう限界の温度。470〜480°Cくらいの温度)近傍まで、急冷する。なお、電気炉から取り出さずに、電気炉の電熱部から遠ざけるか、又は、電気炉を開放して自然冷却するようにしても良い。
金属箔が溶着されたガラス体の温度が徐冷温度近傍にまで冷却された状態になったら、金属箔が溶着されたガラス体を徐冷炉に入れて、常温まで徐冷する。
【0021】
図1は、本発明を実施した第1の実施例のガラス体に金属箔を電熱炉を用いて、電熱溶着する方法を示す。
ガラス体21を成形する。このガラス体の形状は、図4に示すように種々の形状のものを選択できるが、この実施例においては、ガラス体21の形状は直方体とし、ガラスが溶け、外形が崩れ始める温度が約620°C、徐冷温度約480°Cのソーダガラスとした。
金属箔は、金箔とし、標準色(22.7K、94.43%)、厚み0.5ミクロン、の株式会社今井金箔製のものを使用した。以下、第1の実施例を説明するが、金箔の種類によって、ガラスと溶着する温度、加熱時間には相違がある。
【0022】
ガラス体21に、金箔22を貼り付け(図1(a)→図1(b))、金箔貼着ガラス体10とする。金箔22のガラス体21への貼り付けは、水を使用した。一般に使用されている接着剤を使用すると、溶着の際に接着剤が焼け残り、表面の色が悪くるなるため、使用しない方がよい。
金箔貼着ガラス体10を電気炉50に設置する(図1(c))。
51は、縦型電気炉の場合、ガラス体10を電熱線52の近くに置くための載置台である。
【0023】
次に、電気炉の加熱して、約5時間かけて、ガラス体10の温度を350°C乃至490°Cとする。この温度は、使用する電気炉等の加熱手段の特性によって、5〜10分間で炉内温度を上げることができる温度を選択する。
【0024】
次に、電気炉50を、5〜10分間で、炉内温度を1100°Cまであげるように、温度設定する。
【0025】
金箔22は、1000°C前後以上の熱を受けて融け始め(箔の厚みにより、溶け始める温度は相違する。)、ガラス体21に溶着する。金属箔とガラスとの溶着は、温度計を使用して確認もできるが、金箔の表面からシワがなくなり張りが出ることが確認できる。この際、ガラス体21は、10分間では、ガラス体内部まで高温とならないため、溶けることなく、ガラス体21の外形状は保たれたままである。
【0026】
金箔が溶着したのを確認したら、電気炉50を開けて、電気炉50全体を冷却するか、金箔貼着ガラス体10を取り出して、480°Cくらいまで冷却する。温度の確認は、温度計を使用しても良いが、表面の色によっても確認できる。
金箔貼着ガラス体10の温度が、480°Cくらいまで冷却されたことを確認したら、金箔貼着ガラス体10を徐冷炉に入れて、徐冷する。
【0027】
なお、金箔の面に文字等を刻印する場合は、480°Cくらいまで冷却されてから行う。
【0028】
図2に、本発明の第2実施例を示す。
ガラス体31は、仏像のような形状のものとした場合の方法を示す。
像形状のガラス体31に金箔22を貼り付け、像形状の金箔貼着ガラス体20とし、電気炉50に設置し、第1実施例と同様の温度設定をして、金箔22をガラス体31に溶着させる。
金箔が溶着したガラス体31は、高さがあるため、表面温度にばらつきが生じて、金箔22がガラス体31に完全に溶着していない場合がある。その場合は、急冷後、ガスバーナーで不完全な溶着部分を加熱して、全体を溶着させる。この整形工程よって、ガラス体が不規則な形状であっても、金箔をガラス体に完全に溶着させることができる。その後、第1実施例と同様に徐冷する。
【0029】
図3は、電気炉の形状による、ガラス体10の設置方法の違いを示すものである。
電気炉が、縦型電気炉50aの場合は、載置台51にガラス体10を載置して、電熱線52と近付けて設置するようにする。
電気炉が平型電気炉50bの場合は、ガラス体10をそのまま設置する。
【0030】
図4は、本発明が適用されるガラス体の種々の形状を示すものである。
図4(a)は、いわゆる金塊(インゴット)の形状のもので、この金塊形状のガラス体10に金箔を溶着させることで、金塊そのものの質感及び重量感を持ったガラス体とすることができる。
なお、インゴット形状以外にも適用可能で、市販されている金地金の形状を模したものとすればよい。
また、メダル形状として、金メダル、銀メダル、銅メダルとすることもできる。
【0031】
図4(b)は、、板状、タイル形状のもので、質感のある建築材とすることもできる。
図4(c)は、盃や猪口形状のもので、金杯や銀杯を模したものとすることができる。
図4(d)は、碗形状のもので、底の浅いものであれば、内側、外側の何れにも金箔を溶着させることができ、外観が金無垢茶椀とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、貴金属のインゴットやメダルに適用できるとともに、人形、家具、日用品の何れにも適用することができ、単なる置物以外の用途に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1の実施例を示すプロセス図。
【図2】本発明の第2の実施例を示すプロセス図。
【図3】本発明を実施するために使用する電気炉の使用方法を示す図。
【図4】本発明が実施されるガラス体の形状を示す斜視図。
【図5】従来のガラス体に金属箔を被覆させる方法を示す。
【図6】従来のガラス体に金属箔を挟み込む方法を示す。
【符号の説明】
【0034】
10 金属箔溶着ガラス体
21 ガラス体21
22 金属箔
50 電気炉
52 電熱線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形されたガラス体に金属箔を貼り付け、
金属箔が貼り付けられたガラス体を急加熱しても割れない温度であって、ガラスが変形しない温度まで徐々に加熱し、
前記加熱されたガラス体をさらに急加熱して、前記金属箔の融点の温度に上げ、該金属箔をガラス体に溶着させ、
前記金属箔が溶着されたガラス体を徐冷温度以上である所定温度にまで急冷し、
前記所定温度となった金属箔が溶着されたガラス体を徐冷すること
を特徴とする金属箔をガラス体に溶着させる方法。
【請求項2】
前記金属箔を前記ガラス体に溶着させた後に、該金属箔が溶着されたガラス体をガスバーナー等によって、溶着部分の整形を行うことを特徴とする請求項1に記載の金属箔をガラス体に溶着させる方法。
【請求項3】
成形されたガラス体に金属箔を貼り付け、該金属箔が貼り付けられたガラス体を徐々に急加熱しても割れない温度であって、ガラスが変形しない温度まで加熱し、前記加熱されたガラス体をさらに急加熱して、前記金属箔の融点の温度に上げ、該金属箔をガラス体に溶着させ、前記金属箔が溶着されたガラス体を徐冷温度以上である所定温度にまで急冷し、前記所定温度となった金属箔が溶着されたガラス体を徐冷することによって製造された金属箔溶着させたガラス体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−179492(P2009−179492A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18028(P2008−18028)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(505076739)
【Fターム(参考)】