説明

金属表面処理剤、金属表面処理方法及び表面処理鋼板

【解決課題】ノンクロムでありながら、耐食性及び耐指紋性に優れる金属表面処理剤及び金属表面処理方法を提供すること。
【解決手段】防錆成分が溶媒に溶解又は分散しており、該防錆成分の全部又は一部がフィチン酸チタンであることを特徴とする金属表面処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材の表面に塗布することにより、金属材が腐食するのを防ぐ金属表面処理剤であり、ノンクロムの金属表面処理剤に関する。また、本発明は、ノンクロムの金属表面処理剤を用いる金属表面処理方法に関する。また、本発明は、ノンクロムの金属表面処理方法により得られる表面処理鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛系、アルミニウム系等のめっき鋼板は、自動車、家電及び建材等の分野で幅広く使用されている。これらのめっき鋼板には、さらなる耐食性を付与する目的でクロメート処理、即ち、クロム酸又はその塩類を主成分とする処理液により表面処理が行われてきたが、処理液中に含有される6価クロムが人体、環境に悪影響を及ぼすことから、近年では敬遠されてきている。
【0003】
このようなことから、クロメート処理以外の表面処理方法として3価クロメート処理や、クロム自体を使用しないノンクロメート処理といった方法の研究が盛んに行われている。
【0004】
ノンクロメート処理方法としては、例えば、特許文献1には、亜鉛系メッキ鋼板をリン酸系化合物イオンを含む水溶液に接触させ、水洗後、硫黄化合物、水性樹脂及び水分散性シリカを含む防錆コーティング剤を塗布する処理方法が記載されている。特許文献2には、リン酸塩粒子、金属アルコキシド及び安定剤を含有する表面調整用組成物、及びこれを使用した表面調整方法が記載されている。また、特許文献3では、アルミニウム合金材とマグネシウム合金材とが混在した製品の表面処理剤であって、チタンイオンと、フィチン酸と、硝酸イオンと、遊離フッ素イオンとを含有した表面処理剤及びこれを使用した表面処理方法が記載されている。
【0005】
しかしながら、これらのノンクロムの表面処理剤又はノンクロメート処理方法は、クロメート処理と比較して、耐食性の向上効果が小さく、更なる耐食性の向上が求められている。
【0006】
また、金属表面処理剤及び金属表面処理方法では、前述した耐食性の他、耐指紋性、耐黒変性などの他の被膜特性の向上も要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−64055号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2007−77500号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2003−253459号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、ノンクロムでありながら、耐食性を始めとする被膜特性に優れる金属表面処理剤及び金属表面処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、防錆成分として、フィチン酸チタンを含有する金属表面処理剤は、被膜特性の向上効果が高いことを見出し、本発明を完成させるに到った。
【0010】
すなわち、本発明(1)は、防錆成分が溶媒に溶解しており、該防錆成分の全部又は一部が、フィチン酸チタンであること、を特徴とする金属表面処理剤を提供するものである。
【0011】
また、本発明(2)は、防錆成分と、樹脂と、を含有し、該防錆成分は溶媒に溶解しており、該防錆成分の全部又は一部がフィチン酸チタンであることを特徴とする金属表面処理剤を提供するものである。
【0012】
また、本発明(3)は、本発明(1)又は本発明(2)の金属表面処理剤を、被処理金属材に接触させることを特徴とする金属表面処理方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明(4)は、本発明(3)の金属表面処理方法を行い得られる表面処理鋼板を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ノンクロムでありながら、耐食性を始めとする被膜特性に優れる金属表面処理剤及び金属表面処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の第一の形態の金属表面処理剤(以下、本発明の金属表面処理剤(1)とも記載する。)は、防錆成分が溶媒に溶解しており、該防錆成分の全部又は一部がフィチン酸チタンであることを特徴とする金属表面処理剤である。なお、本発明の金属表面処理剤(1)は、後述する樹脂、シランカップリング剤、シリカ及びタンニン酸を含有しない。
【0016】
本発明の金属表面処理剤(1)は、被処理金属材の表面に塗布して、被処理金属材の表面に、防錆被膜を形成させることにより、被処理金属材を防錆するための金属表面処理剤である。
【0017】
本発明の金属表面処理剤(1)では、水、メタノール、エタノール等のアルコール、アセトン等の溶媒に、防錆成分が溶解している。本発明の金属表面処理剤(1)において、防錆成分が溶解している溶媒としては、水が好ましい。
【0018】
本発明の金属表面処理剤(1)の溶媒として水が使用される場合、使用される水としては、純水、イオン交換水、工業用水、蒸留水等が挙げられ、これらのうち、金属表面処理剤の保存安定性、経済性の面から、イオン交換水が好ましい。
【0019】
本発明の金属表面処理剤(1)中の防錆成分は、全部又は一部が、フィチン酸チタンである。つまり、本発明の金属表面処理剤(1)では、防錆成分として含有されている成分が、全てフィチン酸チタンであるか、又は防錆成分として含有されている成分が、フィチン酸チタンとフィチン酸チタン以外の防錆成分である。
【0020】
本発明の金属表面処理剤(1)中では、フィチン酸アニオン(12価)とチタンイオンとが、フィチン酸チタンという化合物を形成して、溶媒に溶解して存在している。フィチン酸の構造は、下記式(1):
【0021】
【化1】

【0022】
で表される構造であり、フィチン酸アニオン(12価)は、下記式(2):
【0023】
【化2】

【0024】
で表される構造である。そして、フィチン酸チタンは、フィチン酸アニオン(12価)と4価のチタンイオンが結合している化合物であるが、化学当量でフィチン酸アニオン(12価)に4価のチタンイオンが結合している場合は、フィチン酸チタンは、1つのフィチン酸アニオンに3つの4価のチタンイオンが結合している。ただし、フィチン酸チタンには、フィチン酸アニオン(12価)に4価のチタンアニオンが、1つ又は2つ結合しているものが含まれていてもよい。そのため、フィチン酸チタン全体におけるフィチン酸アニオンのモル数に対するチタン原子のモル数の比は、好ましくは3であるが、本発明の効果を損なわない範囲であれば、3以下であってもよい。フィチン酸チタン全体におけるフィチン酸アニオンのモル数に対するチタン原子のモル数の比は、0.5〜3.0、好ましくは0.7〜3.0である。なお、本発明の金属表面処理剤(1)中に、フィチン酸チタンが存在しているということは、溶液の色が橙色に呈色していることによって、確認される。
【0025】
本発明において、防錆成分とは、防錆成分が溶媒に溶解されている液が、被処理金属材の表面に塗布されることにより、被処理金属材の表面に、防錆被膜を形成して、被処理金属材を防錆する性能を発揮する成分であり、被膜形成により、防錆性能を発揮する金属塩、金属酸化物、ポリ金属酸、ポリ金属酸の塩である。
【0026】
本発明の金属表面処理剤(1)では、防錆成分として、フィチン酸チタン以外の防錆成分が溶媒に溶解されていてもよい。フィチン酸チタン以外の防錆成分としては、特に限定されないが、例えば、Co、Zn、Al、V、Ca、Mo、Mg、Mn、Li、Sr、Zr、Ba、Ni及びCeから選ばれる群のうちの少なくとも1種以上の金属を有する防錆成分が挙げられる。フィチン酸チタン以外の防錆成分は、1種単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。
【0027】
フィチン酸チタン以外の防錆成分としては、具体的には、例えば、Co、Zn、Al、V、Ca、Mo、Mg、Mn、Li、Sr、Zr、Ba、Ni及びCeから選ばれる群のうちの少なくとも1種以上の金属の硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、酢酸塩、酸化物、ポリ酸、ポリ酸塩等が挙げられる。更に、具体的には、硫酸塩としては、硫酸マンガン、硫酸コバルト、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム、硫酸ニッケル、硫酸バナジウム、硫酸ジルコニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸セリウム、硫酸リチウム、硫酸アルミニウム、硫酸ストロンチウム等が挙げられる。硝酸塩としては、硝酸マンガン、硝酸コバルト、硝酸亜鉛、硝酸マグネシウム、硝酸バリウム、硝酸ジルコニウム、硝酸セリウム、硝酸カルシウム、硝酸リチウム、硝酸アルミニウム、硝酸ストロンチウム等が挙げられる。リン酸塩としては、リン酸マンガン、リン酸コバルト、リン酸亜鉛、リン酸マグネシウム、リン酸リチウム、リン酸ニッケル、リン酸バリウム、リン酸カルシウム、リン酸セリウム等が挙げられる。炭酸塩としては、炭酸マンガン、炭酸コバルト、炭酸亜鉛、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、塩基性炭酸ジルコニウム、炭酸ストロンチウム、炭酸セリウム等が挙げられる。酢酸塩としては、酢酸マンガン、酢酸コバルト、酢酸亜鉛、酢酸マグネシウム、酢酸バナジウム、酢酸ジルコニウム、酢酸バリウム、酢酸カルシウム、酢酸セリウム、酢酸リチウム、酢酸アルミニウム、酢酸ストロンチウム等が挙げられる。金属酸化物としては、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ニッケル、酸化バナジウム、酸化ジルコニウム、酸化モリブデン、水酸化リチウム等が挙げられる。ポリ酸としてはバナジウム酸又はその塩、モリブデン酸又はその塩等が挙げられる。
【0028】
本発明の金属表面処理剤(1)中、全防錆成分に占めるフィチン酸チタンの割合、つまり、防錆成分の全量に対するフィチン酸チタンの含有割合((フィチン酸チタンの含有量/全防錆成分の合計含有量)×100)は、好ましくは1.0〜100重量%、特に好ましくは10.0〜90.0重量%、更に好ましくは50.0〜85.0重量%である。防錆成分の全量に対するフィチン酸チタンの含有割合が上記範囲にあることにより、被膜特性、特に耐食性が高くなる。
【0029】
本発明の金属表面処理剤(1)中のフィチン酸チタンの濃度((フィチン酸チタンの含有量/金属表面処理剤(1))×100)は、好ましくは0.5〜40.0重量%、特に好ましくは1.0〜25.0重量%である。本発明の金属表面処理剤(1)中のフィチン酸チタンの濃度が上記範囲にあることにより、被膜特性、特に耐食性が高くなる。
【0030】
本発明の金属表面処理剤(1)が、フィチン酸チタン以外の防錆成分を含有する場合、本発明の金属表面処理剤(1)中のフィチン酸チタン以外の防錆成分の濃度((フィチン酸チタン以外の防錆成分が有する各金属原子の合計含有量/金属表面処理剤(1))×100)は、好ましくは0.2〜5.0重量%、特に好ましくは0.5〜3.0重量%である。本発明の金属表面処理剤(1)中のフィチン酸チタン以外の防錆成分の濃度が上記範囲にあることにより、被膜特性、特に耐食性が高くなる。なお、本発明の金属表面処理剤(1)が、金属種が同一の防錆成分を複数含有する場合、本発明の金属表面処理剤(1)中のフィチン酸チタン以外の防錆成分が有する各金属種の濃度とは、同一の金属種については、同一の金属種の合計含有量に基づいて算出される。
【0031】
本発明の金属表面処理剤(1)は、溶媒に防錆成分を添加することにより製造される。溶媒に防錆成分を添加するときに、添加される防錆成分は、溶媒に溶解又は分散されていない固体の防錆成分であっても、溶媒に溶解又は分散された防錆成分であってもよい。また、本発明の金属表面処理剤(1)は、金属表面処理剤(1)のpHを0を超え6以下、好ましくは2以上5以下となるように調節するために、防錆成分の他に、アルカリ金属又はアルカリ土類金属などの水酸化物、アンモニア及びアミン等のpH調整剤を添加して製造されたものであってもよい。これらのpH調整剤を、単独で使用しても良く、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0032】
本発明の金属表面処理剤(1)中の全防錆成分の含有割合(((フィチン酸チタンの含有量+フィチン酸チタン以外の防錆成分が有する各金属原子の合計含有量)/金属表面処理剤(1))×100)は、好ましくは0.5〜40.0重量%、特に好ましくは1.5〜25.0重量%である。
【0033】
本発明の金属表面処理剤(1)は、フッ素イオンを含有しなくても、優れた耐食性能を発揮する。特に、本発明の金属表面処理剤(1)の処理対象である被処理金属材が、亜鉛めっき鋼板又は亜鉛とアルミニウムの合金めっき鋼板である場合、本発明の金属表面処理剤(1)は、フッ素イオンを含有しなくても、優れた耐食性能を発揮する。そして、本発明の金属表面処理剤(1)は、フッ素イオンを含有しないことが、美麗な外観を得易かったり、薬剤の取り扱いが容易であったりすることや、排水による環境汚染を起こし難いといった点で好ましい。
【0034】
本発明の金属表面処理剤(1)は、金属材に塗料を塗装するときの塗膜の下地を形成させるために用いられる、塗膜下地形成用の金属表面処理剤として、好適に用いられる。特に、本発明の金属表面処理剤(1)は、亜鉛めっき鋼板又は亜鉛とアルミニウムの合金めっき鋼板に塗料を塗装するときの塗膜下地形成用の金属表面処理剤として、好適である。
【0035】
本発明の第二の形態の金属表面処理剤(以下、本発明の金属表面処理剤(2))は、防錆成分と、樹脂と、を含有し、該防錆成分は溶媒に溶解しており、該防錆成分の全部又は一部がフィチン酸チタンであることを特徴とする金属表面処理剤である。
【0036】
本発明の金属表面処理剤(2)は、被処理金属材の表面に塗布して、被処理金属材の表面に化成被膜を形成させることにより、被処理金属材に耐食性、耐指紋性、耐黒変性等の被膜特性を付与するための金属表面処理剤である。
【0037】
本発明の金属表面処理剤(2)では、水、メタノール、エタノール等のアルコール、アセトン等の溶媒に、防錆成分及び樹脂が溶解又は分散している。本発明の金属表面処理剤(2)において、防錆成分及び樹脂が溶解又は分散している溶媒としては、水が好ましい。
【0038】
本発明の金属表面処理剤(1)の溶媒として水が使用されている場合、使用されている水としては、純水、イオン交換水、工業用水、蒸留水等が挙げられ、これらのうち、金属表面処理剤の保存安定性、経済性の面から、イオン交換水が好ましい。
【0039】
本発明の金属表面処理剤(2)中の防錆成分は、全部又は一部がフィチン酸チタンである。つまり、本発明の金属表面処理剤(2)では、防錆成分として含有されている成分が、全てフィチン酸チタンであるか、又は防錆成分として含有されている成分が、フィチン酸チタンとフィチン酸チタン以外の防錆成分である。本発明の金属表面処理剤(2)中の防錆成分は、溶媒に溶解している。
【0040】
本発明の金属表面処理剤(2)に係るフィチン酸チタンは、本発明の金属表面処理剤(1)に係るフィチン酸チタンと同様である。
【0041】
本発明の金属表面処理剤(2)では、防錆成分として、フィチン酸チタン以外の防錆成分が溶媒に溶解されていてもよい。本発明の金属表面処理剤(2)に係るフィチン酸チタン以外の防錆成分は、本発明の金属表面処理剤(1)に係るフィチン酸チタン以外の防錆成分と同様である。
【0042】
本発明の金属表面処理剤(2)中、全防錆成分に占めるフィチン酸チタンの含有割合、つまり、防錆成分の全量に対するフィチン酸チタンの含有割合((フィチン酸チタンの含有量/全防錆成分の合計含有量)×100)は、好ましくは1.0〜100重量%、特に好ましくは10.0〜90.0重量%、更に好ましくは50.0〜85.0重量%である。防錆成分の全含有量に対するフィチン酸チタンの含有割合が上記範囲にあることにより、被膜特性、特に耐食性が高くなる。
【0043】
本発明の金属表面処理剤(2)中、フィチン酸チタンの濃度((フィチン酸チタンの含有量/金属表面処理剤(2))×100)は、好ましくは0.1〜8.0重量%、特に好ましくは0.5〜5.0重量%である。本発明の金属表面処理剤(2)中のフィチン酸チタンの含有割合が上記範囲にあることにより、被膜特性、特に耐食性が高くなる。
【0044】
本発明の金属表面処理剤(2)が、フィチン酸チタン以外の防錆成分を含有する場合、本発明の金属表面処理剤(2)中、フィチン酸チタン以外の防錆成分の濃度((フィチン酸チタン以外の防錆成分が有する各金属原子の合計含有量/金属表面処理剤(2))×100)は、好ましくは0.1〜5.0重量%、特に好ましくは0.5〜3.0重量%である。本発明の金属表面処理剤(2)中のフィチン酸チタン以外の防錆成分の含有割合が上記範囲にあることにより、被膜特性、特に耐食性が高くなる。なお、本発明の金属表面処理剤(2)が、金属種が同一の防錆成分を複数含有する場合、本発明の金属表面処理剤(2)中のフィチン酸チタン以外の防錆成分が有する各金属種の含有割合は、同一の金属種については、同一の金属種の合計含有量に基づいて算出される。
【0045】
本発明の金属表面処理剤(2)中、全防錆成分の含有割合(((フィチン酸チタンの含有量+フィチン酸チタン以外の防錆成分が有する各金属原子の合計含有量)/金属表面処理剤(2))×100)は、好ましくは0.1〜13.0重量%、より好ましくは1.0〜8.0重量%である。本発明の金属表面処理剤(2)中の全防錆成分の含有割合が上記範囲にあることにより、十分な化成被膜が被処理金属材の表面に形成され、且つ、塗膜密着性の向上を図ることができる。
【0046】
本発明の金属表面処理剤(2)は、樹脂を含有する。本発明の金属表面処理剤(2)に含有される樹脂としては、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられ、水溶性のウレタン樹脂、水溶性のアクリル樹脂、水溶性のエポキシ樹脂、水溶性のポリエステル樹脂、水溶性のポリアミド樹脂が好ましい。本発明の金属表面処理剤(2)が、樹脂を含有することにより、金属表面処理剤により形成される被膜の被処理金属材への密着性が増す。本発明の金属表面処理剤(2)に含有される樹脂は、1種単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。
【0047】
本発明の金属表面処理剤(2)中、樹脂の含有割合((樹脂の含有量/金属表面処理剤(2))×100)は、好ましくは5.0〜95.0重量%、特に好ましくは30.0〜80.0重量%である。本発明の金属表面処理剤(2)中の樹脂の含有割合が上記範囲にあることにより、耐食性を維持しつつ被膜成形性が安定する。
【0048】
本発明の金属表面処理剤(2)に含有される樹脂の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜1,000,000、特に好ましくは2,000〜500,000である。本発明の金属表面処理剤(2)に含有される樹脂の重量平均分子量が、上記範囲にあることにより、被膜形成性が安定する。
【0049】
本発明の金属表面処理剤(2)に含有される樹脂のうち、水溶性のウレタン樹脂としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール等のポリオールと、脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート等のポリイソシアネートとの縮合物が挙げられる。また、水溶性のウレタン樹脂としては、ポリオールの一部として、アミノ基やポリオキシエチレン鎖を有するポリオール、例えばポリエチレングリコール等のポリオールを用いて、得られるものであってもよい。
【0050】
本発明の金属表面処理剤(2)に含有される樹脂のうち、水溶性のアクリル樹脂としては、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリレート、N−メチルアミノエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等のモノマーと、(メタ)アクリルエステル等のアクリルモノマー、スチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニルなどの付加重合性不飽和モノマーとの共重合により得られるものが挙げられる。
【0051】
本発明の金属表面処理剤(2)に含有される樹脂のうち、水溶性のエポキシ樹脂としては、ビスフェノールAジグリシジルエーテル等のジグリシジルエーテル化合物に、エチレンジアミン等のジアミンを作用させて、カチオン化して得られるエポキシ樹脂、ビスフェノールAジグリシジルエーテル等のジグリシジルエーテル化合物の側鎖にポリエチレングリコールを付加させたエポキシ樹脂などが挙げられる。
【0052】
本発明の金属表面処理剤(2)に含有される樹脂のうち、水溶性のポリエステル樹脂としては、エチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどのポリオールと、テレフタル酸、イソフタル酸等の多塩基酸との縮合物が挙げられる。
【0053】
本発明の金属表面処理剤(2)に含有される樹脂のうち、水溶性のポリアミド樹脂としては、ポリカルボン酸とポリアミンとの重縮合、例えば、アジピン酸、セバシン酸等のジカルボン酸と、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のジアミンとの重縮合、ラクタムの開環重合、又はアミノカルボン酸の重縮合によって得られるナイロンなどが挙げられる。
【0054】
本発明の金属表面処理剤(2)は、シランカップリング剤を含有することができる。
【0055】
本発明の金属表面処理剤(2)に含有されるシランカップリング剤としては、アミノ基、エポキシ基、ビニル基、メルカプト基及びメタクリロキシ基から選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有するものであれば、特に限定されず、例えば、N−(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、メトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は、1種単独であっても2種以上の組み合わせであってもよい。本発明の金属表面処理剤(2)がシランカップリング剤を含有することにより、金属表面処理剤(2)中で加水分解して生じるシラノール基がめっき被膜表面と水素結合し、さらに脱水縮合反応することにより、優れた密着性を付与することが可能になる。
【0056】
本発明の金属表面処理剤(2)がシランカップリング剤を含有する場合、本発明の金属表面処理剤(2)中のシランカップリング剤の含有量は、好ましくは30.0重量%以下、特に好ましくは1.0〜10.0重量%である。
【0057】
本発明の金属表面処理剤(2)は、シリカを含有することができる。本発明の金属表面処理剤がシリカを含有することにより、耐食性が高くなる。
【0058】
本発明の金属表面処理剤(2)がシリカを含有する場合、溶媒にシリカを混合することにより、シリカを含有する金属表面処理剤が得られるが、シリカ源としては、コロイダルシリカであっても乾式シリカであってもよい。シリカの平均粒径は、1〜500nm、好ましくは3〜100nmである。
【0059】
本発明の金属表面処理剤(2)がシリカを含有する場合、本発明の金属表面処理剤(2)中のシリカの含有割合は、好ましくは50.0重量%以下、特に好ましくは0.1〜30.0重量%である。
【0060】
本発明の金属表面処理剤(2)は、タンニン酸を含有することができる。本発明の金属表面処理剤(2)がタンニン酸を含有することにより、耐食性が高くなる。
【0061】
本発明の金属表面処理剤(2)がタンニン酸を含有する場合、本発明の金属表面処理剤(2)中のタンニン酸の含有割合は、好ましくは5.0重量%以下、特に好ましくは0.1〜1.0重量%である。
【0062】
本発明の金属表面処理剤(2)は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、界面活性剤、潤滑剤、消泡剤、着色剤、レベリング剤等の各種添加剤を含有することができる。これらの成分は、本発明の金属表面処理剤(2)の溶媒に溶解又は分散して存在している。
【0063】
本発明の金属表面処理剤(2)は、溶媒に必要成分を溶解又は分散させることにより製造される。また、本発明の金属表面処理剤(2)は、金属表面処理剤(2)のpHを0を超え6以下、好ましくは2以上5以下となるように調節するために、アンモニア又はアミンを添加して製造されたものであってもよい。
【0064】
本発明の金属表面処理剤(2)は、フッ素イオンを含有しなくても、優れた耐食性能を発揮する。特に、本発明の金属表面処理剤(2)の処理対象である被処理金属材が、亜鉛めっき鋼板又は亜鉛とアルミニウムの合金めっき鋼板である場合、本発明の金属表面処理剤(2)は、フッ素イオンを含有しなくても、優れた耐食性能を発揮する。そして、本発明の金属表面処理剤(2)は、フッ素イオンを含有しないことが、美麗な外観を得易かったり、薬剤の取り扱いが容易であったりすることや、排水による環境汚染を起こし難いといった点で好ましい。
【0065】
本発明の金属表面処理剤(2)は、金属材に塗料を塗装するときの塗膜の下地を形成させるために用いられる、塗膜下地形成用の金属表面処理剤として、好適に用いられる。特に、本発明の金属表面処理剤(2)は、亜鉛めっき鋼板又は亜鉛とアルミニウムの合金めっき鋼板に塗料を塗装するときの塗膜下地形成用の金属表面処理剤として、好適である。
【0066】
本発明の金属表面処理剤(1)及び本発明の金属表面処理剤(2)中の不揮発分の濃度は、使用条件により異なるため一概にはいえず、使用条件により適宜選択される。なお、本発明の金属表面処理剤中の不揮発分とは、溶媒以外の成分を指す。
【0067】
本発明の金属表面処理剤(1)及び本発明の金属表面処理剤(2)は、クロムを含有しない。
【0068】
そして、本発明の金属表面処理剤(1)及び本発明の金属表面処理剤(2)においては、先に、フィチン酸チタンを生成させ、次いで、生成させたフィチン酸チタンを、溶媒又は他の成分と混合することにより製造される。そのため、本発明の金属表面処理剤(1)及び本発明の金属表面処理剤(2)中には、フィチン酸チタンが存在している。本発明の金属表面処理剤(1)及び本発明の金属表面処理剤(2)において、フィチン酸チタンが存在することにより、耐食性が向上する理由は明らかではないが、緻密な被膜が被処理金属材表面に密着することによるバリア効果にあると考えられる。一方、従来の金属表面処理剤には、フィチン酸とチタン化合物を混合させる態様は存在するものの、先に、フィチン酸チタンを得、得られたフィチン酸チタンを用いて、製造されたものではないので、従来の金属表面処理剤中で、フィチン酸チタンは生成しておらず、フィチン酸チタンは存在していない。
【0069】
本発明の金属表面処理剤(1)及び本発明の金属表面処理剤(2)の製造に用いられるフィチン酸チタンは、市販のフィチン酸チタンであってもよく、また、フィチン酸とチタン化合物とを反応させることにより得られるものであってもよく、以下のフィチン酸チタンの製造方法の形態例に示すように、フィチン酸と水酸化チタンとを反応させることにより得られるものが好ましい。
【0070】
フィチン酸チタンの製造方法の形態例は、フィチン酸と水酸化チタンとを反応させる方法である。水酸化チタンは、他のチタン化合物と比べてフィチン酸との反応性が優れており、また副生物を生成しないため、所望するフィチン酸チタンを得ることが容易である。
【0071】
フィチン酸チタンの製造方法の形態例に用いられる水酸化チタンは、例えば、塩化チタン、硫酸チタン、硝酸チタン、臭化チタン等の水酸化チタン製造原料のチタン化合物水溶液と、アルカリ金属塩水溶液とを混合することにより得られる。水酸化チタン製造原料のチタン化合物水溶液中の、水酸化チタン製造原料のチタン化合物の濃度は、チタン原子の濃度に換算して、0.1〜10.0重量%が好ましく、0.3〜5.0重量%が特に好ましい。
【0072】
水酸化チタンの製造に用いられるアルカリ金属塩としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。水酸化チタン製造用のアルカリ金属塩水溶液中の、アルカリ金属塩の濃度は、アルカリ金属原子の濃度に換算して、1.0〜20.0重量%が好ましく、5.0〜10.0重量%が特に好ましい。
【0073】
先ず、水酸化チタン製造原料のチタン化合物水溶液と、アルカリ金属塩水溶液とを混合し、反応させることにより、水酸化チタンを含有するスラリーが得られる。このとき、反応を効率的に進めるために攪拌しながら混合することが好ましい。水酸化チタン製造原料のチタン化合物水溶液とアルカリ金属塩水溶液との反応温度は、10〜60℃、好ましくは20〜40℃であり、反応時間は、5〜180分、好ましくは10〜60分である。
【0074】
次いで、水酸化チタン製造原料のチタン化合物水溶液とアルカリ金属塩水溶液とを反応させて得られる水酸化チタンを含有するスラリーを、ろ過し、洗浄することにより、水酸化チタンが得られる。
【0075】
そして、フィチン酸チタンの製造方法の形態例では、フィチン酸と水酸化チタンとを混合し、反応させることにより、フィチン酸チタンを得る。フィチン酸チタンの製造方法の形態例では、フィチン酸と水酸化チタンとの混合割合は、水酸化チタン1重量部に対してフィチン酸1.8〜9.0重量部、好ましくは3.0〜7.0重量部である。
【0076】
フィチン酸チタンの製造方法の形態例では、反応の効率化の観点から、フィチン酸と水酸化チタンとを水に添加し撹拌して、反応させることが好ましい。このとき用いられる水は、純水、イオン交換水、工業用水、蒸留水等であり、不純物混入を防ぐ観点から、イオン交換水が好ましい。水酸化チタン及びフィチン酸の合計混合量に対する水の使用量は、水酸化チタン及びフィチン酸の合計混合量1重量部に対して0.5〜10.0重量部、好ましくは1.0〜5.0重量部である。フィチン酸と水酸化チタンとを水に添加し撹拌して、反応させるときの反応温度は、40〜100℃、好ましくは60〜80℃であり、反応時間は、10〜600分、好ましくは30〜300分である。これらの範囲を満たすことで、効率的に高品質なフィチン酸チタンが得られる。
【0077】
このようにして、フィチン酸チタンの製造方法の形態例を行うことにより、フィチン酸チタンの水溶液が得られる。なお、水溶液中に、フィチン酸チタンが存在していることは、水溶液が橙色に呈色することにより、確認される。また、フィチン酸チタンの水溶液をICP発光分析し、チタン原子の含有量とリン原子の含有量を測定して、チタン原子とリン原子のモル比を求めることにより、フィチン酸アニオンとチタンイオンのモル比を把握することができる。
【0078】
次いで、フィチン酸チタンの製造方法の形態例を行うことにより得られるフィチン酸チタンの水溶液から、フィチン酸チタンを蒸発乾固や再結晶等により取り出すことにより、固体のフィチン酸チタンを得ることができる。
【0079】
フィチン酸チタンの製造方法の形態例を行うことにより得られるフィチン酸チタンの水溶液は、水酸化チタン製造原料のチタン化合物由来の塩化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、臭化物イオン等を含まないか、含んでいたとしても少量なので、フィチン酸チタンの製造方法の形態例を行うことにより得られるフィチン酸チタンの水溶液から、フィチン酸チタンを蒸発乾固や再結晶等により取り出すことなく、そのまま、本発明の金属表面処理剤(1)及び本発明の金属表面処理剤(2)の製造に用いることができる。つまり、フィチン酸チタンの製造方法の形態例を行うことにより得られるフィチン酸チタンの水溶液に、他の防錆成分や、樹脂、シランカップリング剤、シリカ、タンニン酸等を混合して、本発明の金属表面処理剤(1)又は本発明の金属表面処理剤(2)を製造することができる。
【0080】
また、フィチン酸チタンの製造方法の形態例を行うことにより得られるフィチン酸チタンの水溶液から、フィチン酸チタンを蒸発乾固や再結晶等により取り出し、次いで、本発明の金属表面処理剤(1)又は本発明の金属表面処理剤(2)の溶媒に、取り出したフィチン酸チタン及び他の防錆成分や、樹脂、シランカップリング剤、シリカ、タンニン酸等を混合して、本発明の金属表面処理剤(1)又は本発明の金属表面処理剤(2)を製造することもできる。
【0081】
本発明の金属表面処理方法は、本発明の金属表面処理剤(1)又は本発明の金属表面処理剤(2)を、被処理金属材に接触させることを特徴とする金属表面処理方法である。
【0082】
本発明の金属表面処理方法に係る被処理金属材は、特に制限されないが、亜鉛めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、亜鉛とアルミニウムの合金めっき鋼板が挙げられ、これらのうち、亜鉛めっき鋼板、亜鉛とアルミニウムの合金めっき鋼板が好ましい。例えば、亜鉛とアルミニウムの合金めっき鋼板としては、アルミニウムを1〜70重量%の割合で合金した亜鉛の合金めっき鋼板が挙げられる。
【0083】
本発明の金属表面処理方法において、本発明の金属表面処理剤(1)又は本発明の金属表面処理剤(2)を、被処理金属材に接触させる方法としては、特に制限はなく、例えば、本発明の金属表面処理剤(1)又は本発明の金属表面処理剤(2)に、被処理金属材を浸漬する方法や、本発明の金属表面処理剤(1)又は本発明の金属表面処理剤(2)を、被処理金属材にスプレーする方法、ロールコート法等が挙げられる。本発明の金属表面処理方法において、本発明の金属表面処理剤(1)又は本発明の金属表面処理剤(2)を、被処理金属材に接触させるときの処理時間、処理温度等の諸条件は、本発明の効果が損なわれない範囲で、適宜選択される。
【0084】
本発明の金属表面処理方法において、本発明の金属表面処理剤(1)又は本発明の金属表面処理剤(2)を、被処理金属材に接触させて、本発明の金属表面処理剤(1)又は本発明の金属表面処理剤(2)を、被処理金属材に塗布した後、加熱乾燥し又は水洗後に加熱乾燥して、被処理金属材に、化成被膜を形成させ、表面処理鋼板を得る。加熱乾燥には、誘導加熱炉、熱風炉、近赤外線炉等が用いられる。加熱乾燥のときの加熱温度は、50〜300℃であり、好ましくは60〜220℃である。加熱乾燥のときの加熱温度が上記範囲にあることにより、被膜中に水分が残らず、耐食性が増し、塗膜欠陥による耐食性の低下が起こらない。
【0085】
本発明の金属表面処理方法において、本発明の金属表面処理剤(1)又は本発明の金属表面処理剤(2)により被処理金属材の表面に形成される化成被膜の厚さは、0.1〜100.0μm、好ましくは0.2〜70.0μm、特に好ましくは0.3〜10.0μmである。
【0086】
本発明の金属表面処理方法により得られる表面処理鋼板には、ノンクロムでありながら、耐食性、耐指紋性、耐黒変性、潤滑性及び塗料密着性に優れた被膜が形成されており、クロメート処理で得られたものと比較しても、前記特性に優れている。
【0087】
本発明の金属表面処理方法により得られる金属表面処理鋼板の表面には、本発明の金属表面処理剤(1)又は本発明の金属表面処理剤(2)を用いて得られる下地が形成されているので、その上に塗料を塗布することにより、耐食性に優れた塗装金属鋼板を得ることができる。下地である本発明の金属表面処理剤(1)又は本発明の金属表面処理剤(2)により形成される化成被膜の厚さは、0.1〜100.0μm、好ましくは0.2〜70.0μm、特に好ましくは0.3〜10.0μmである。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0089】
(実施例1)
<水酸化チタンの製造>
塩化チタン水溶液(TiCl、Ti濃度9.2%)130gにイオン交換水を加えて1300mlとした。この水溶液を攪拌しながら、40%水酸化ナトリウム水溶液を100g滴下して、塩化チタンと水酸化ナトリウムを反応させた。反応により得られた水酸化チタン(Ti(OH))のスラリーをろ過、洗浄し、29gの水酸化チタンを得た。
<フィチン酸チタン水溶液の製造>
次いで、得られた水酸化チタン29gに、フィチン酸水溶液(フィチン酸濃度50%)280gとイオン交換水260mlを加え、攪拌しながら60℃で加熱して、水酸化チタンの固形分がなくなるまで加熱撹拌を続け、フィチン酸チタン水溶液Aを得た。得られたフィチン酸チタン水溶液Aは、橙色に呈色していた。フィチン酸チタン水溶液A中のフィチン酸チタンの含有量は、151gである。
<防錆剤の製造>
得られたフィチン酸チタン水溶液Aに、表1で示す各化合物を表1に示す量添加して溶解した後、アンモニア水及びイオン交換水でpH2.5、容量780mlに調整して、防錆剤Aを製造した。
【0090】
<フィチン酸チタンの分析>
上記と同様にして得られたフィチン酸チタン水溶液Aを、ICP発光分析にて分析して、チタン原子及びリン原子の含有量を求めた。それらの含有量から算出したチタン原子のモル数/フィチン酸アニオンのモル数の値は、1.2であった。
【0091】
(実施例2)
<水酸化チタンの製造>
実施例1と同様の方法で、29gの水酸化チタンを得た。
<フィチン酸チタン水溶液の製造>
次いで、得られた水酸化チタン29gに、フィチン酸水溶液(フィチン酸濃度50%)358gとイオン交換水260mlを加え、攪拌しながら70℃で加熱して、水酸化チタンの固形分がなくなるまで加熱撹拌を続け、フィチン酸チタン水溶液Bを得た。得られたフィチン酸チタン水溶液Bは、橙色に呈色していた。フィチン酸チタン水溶液B中のフィチン酸チタンの含有量は、190gである。
<防錆剤の製造>
得られたフィチン酸チタン水溶液Bに、表1で示す各化合物を表1に示す量添加して溶解した後、アンモニア水、メチルアミン及びイオン交換水でpH2.5、容量780mlに調整して、防錆剤Bを製造した。
【0092】
<フィチン酸チタンの分析>
上記と同様にして得られたフィチン酸チタン水溶液Bを、ICP発光分析にて分析して、チタン原子及びリン原子の含有量を求めた。それらの含有量から算出したチタン原子のモル数/フィチン酸アニオンのモル数の値は、0.9であった。
【0093】
(実施例3)
<水酸化チタンの製造>
塩化チタン水溶液(TiCl、Ti濃度9.2%)150gにイオン交換水を加えて1500mlとした。この水溶液を攪拌しながら、40%水酸化ナトリウム水溶液を116g滴下して、塩化チタンと水酸化ナトリウムを反応させた。反応により得られた水酸化チタン(Ti(OH))のスラリーをろ過、洗浄し、33gの水酸化チタンを得た。
<フィチン酸チタン水溶液の製造>
次いで、得られた水酸化チタン33gに、フィチン酸水溶液(フィチン酸濃度50%)370gとイオン交換水300mlを加え、攪拌しながら70℃で加熱して、水酸化チタンの固形分がなくなるまで加熱撹拌を続け、フィチン酸チタン水溶液Cを得た。得られたフィチン酸チタン水溶液Cは、橙色に呈色していた。フィチン酸チタン水溶液C中のフィチン酸チタンの含有量は、197gである。
<防錆剤の製造>
得られたフィチン酸チタン水溶液Cに、表1で示す各化合物を表1に示す量添加して溶解した後、アンモニア水、メチルアミン及びイオン交換水でpH2.5、容量900mlに調整して、防錆剤Cを製造した。
【0094】
<フィチン酸チタンの分析>
上記と同様にして得られたフィチン酸チタン水溶液Cを、ICP発光分析にて分析して、チタン原子及びリン原子の含有量を求めた。それらの含有量から算出したチタン原子のモル数/フィチン酸アニオンのモル数の値は、1.0であった。
【0095】
(比較例1)
<水酸化チタンの製造>
塩化チタン水溶液(TiCl、Ti濃度9.2%)325gにイオン交換水を加えて3000mlとした。この水溶液を攪拌しながら、40%水酸化ナトリウム水溶液を250g滴下して、塩化チタンと水酸化ナトリウムを反応させた。反応により得られた水酸化チタン(Ti(OH))のスラリーをろ過、洗浄し、72gの水酸化チタンを得た。
<シュウ酸チタン水溶液の製造>
次いで、得られた水酸化チタン72gに、シュウ酸188gとイオン交換水800mlを加え、攪拌しながら70℃で加熱して、水酸化チタンの固形分がなくなるまで加熱撹拌を続け、シュウ酸チタン水溶液Dを得た。
<防錆剤の製造>
得られたシュウ酸チタン水溶液Dに、表1で示す各化合物を表1に示す量添加して溶解した後、アンモニア水及びイオン交換水でpH2.5、容量700mlに調整して、防錆剤Dを製造した。
【0096】
(比較例2)
<水酸化チタンの製造>
塩化チタン水溶液(TiCl、Ti濃度9.2%)283gにイオン交換水を加えて3000mlとした。この水溶液を攪拌しながら、40%水酸化ナトリウム水溶液を218g滴下して、塩化チタンと水酸化ナトリウムを反応させた。反応により得られた水酸化チタン(Ti(OH))のスラリーをろ過、洗浄し、63gの水酸化チタンを得た。
<酒石酸チタン水溶液の製造>
次いで、得られた水酸化チタン63gに、酒石酸196gとイオン交換水900mlを加え、攪拌しながら80℃で加熱して、水酸化チタンの固形分がなくなるまで加熱撹拌を続け、酒石酸チタン水溶液Eを得た。
<防錆剤の製造>
得られた酒石酸チタン水溶液Eに、表1で示す量の各化合物を添加して溶解した後、アンモニア水、メチルアミン及びイオン交換水でpH2.5、容量800mlに調整して、防錆剤Eを製造した。
【0097】
【表1】

* :(フィチン酸チタンの含有量/防錆剤)×100
**:((フィチン酸チタンの含有量+フィチン酸チタン以外の防錆成分が有する各金属原子の合計含有量)/防錆剤)×100
【0098】
(実施例4〜6、比較例3〜4)
実施例1〜3及び比較例1〜2で得られた防錆剤を、表2に示す量の各薬剤と共に配合して、金属表面処理剤を得た。得られた金属表面処理剤を亜鉛めっき鋼板に塗布し、60℃で乾燥後、各種試験を行った。その結果を表3に示す。
【0099】
(比較例5)
塩化チタン(III)4.8gに、フィチン酸1.5g、硝酸亜鉛0.15g、フッ化水素0.1gを添加し、水酸化ナトリウム水溶液及びイオン交換水でpH3.0、容量1000mlに調整して、防錆剤Fを得た。亜鉛めっき鋼板に脱脂処理を施した後、この防錆剤Fを塗布し、各種試験を行った。その結果を表3に示す。
【0100】
(比較例6)
比較例5で得られた金属表面処理剤Fを、表2に示す量の各薬剤と共に配合して金属表面処理剤Gを得た。得られた金属表面処理剤Gを亜鉛めっき鋼板に塗布し、60℃で乾燥後、各種試験を行った。その結果を表3に示す。
【0101】
<評価試験>
(1)耐食性
処理平面部において、JIS Z 2371に基づき、塩水噴霧を240時間実施した。試験後、白錆発生状況を目視により観察した。
評価基準 ○:20%未満
×:20%以上
(2)耐指紋性
耐指紋性試験板に指を押し付け、指紋の残存度合を目視により評価した。
評価基準 ○:指紋の痕跡が残らない。
×:指紋の痕跡が残る。
(3)耐黒変性
試験板を温度70℃−RH90%以上の雰囲気に24時間暴露し、色調の変化を色差計にて測定した。
評価基準 ○:ΔLが6未満
×:ΔLが6以上
【0102】
【表2】

【0103】
水溶性樹脂:(中央理化株式会社製、変性オレフィン系エマルジョン、ET−8)
ワックス:(三洋化成株式会社製、サンワックス LEL−400P)
タンニン酸:(和光純薬工業株式会社製、化学用)
シリカゾル:(日本化学工業株式会社製、シリカドール5SE−4)
シランカップリング剤:(東芝シリコーン株式会社製、N−(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン)
【0104】
【表3】

* :(フィチン酸チタンの含有量/金属表面処理剤)×100
**:((フィチン酸チタンの含有量+フィチン酸チタン以外の防錆成分が有する各金属原子の合計含有量)/金属表面処理剤)×100
【0105】
以上の結果から明らかなように、本発明の金属表面処理剤により処理しためっき鋼板は、各種試験において優れた特性を示したのに対し、比較例として挙げた金属表面処理剤は総合的に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によれば、ノンクロムでありながら、耐食性、耐指紋性、耐黒変性、潤滑性及び塗料密着性に優れた表面処理金属鋼板を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防錆成分が溶媒に溶解しており、該防錆成分の全部又は一部がフィチン酸チタンであることを特徴とする金属表面処理剤。
【請求項2】
前記防錆成分の含有割合(((フィチン酸チタンの含有量+フィチン酸チタン以外の防錆成分が有する各金属原子の合計含有量)/金属表面処理剤)×100)が0.5〜40.0重量%であることを特徴とする請求項1記載の金属表面処理剤。
【請求項3】
前記防錆成分の全量に対するフィチン酸チタンの含有割合が1.0〜100重量%であることを特徴とする請求項1又は2いずれか1項記載の金属表面処理剤。
【請求項4】
フィチン酸チタン以外の前記防錆成分が、Co、Zn、Al、V、Ca、Mo、Mg、Mn、Li、Sr、Zr、Ba、Ni及びCeから選ばれる群のうちの少なくとも1種以上の金属を有する防錆成分であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の金属表面処理剤。
【請求項5】
フッ素イオンを含有しないことを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の金属表面処理剤。
【請求項6】
防錆成分と、樹脂と、を含有し、該防錆成分は溶媒に溶解しており、該防錆成分の全部又は一部がフィチン酸チタンであることを特徴とする金属表面処理剤。
【請求項7】
前記防錆成分の含有割合(((フィチン酸チタンの含有量+フィチン酸チタン以外の防錆成分が有する各金属原子の合計含有量)/金属表面処理剤)×100)が0.1〜13.0重量%であることを特徴とする請求項6記載の金属表面処理剤。
【請求項8】
前記防錆成分の全量に対するフィチン酸チタンの含有割合が1.0〜100重量%であることを特徴とする請求項6又は7いずれか1項記載の金属表面処理剤。
【請求項9】
フィチン酸チタン以外の前記防錆成分が、Co、Zn、Al、V、Ca、Mo、Mg、Mn、Li、Sr、Zr、Ba、Ni及びCeから選ばれる群のうちの少なくとも1種以上の金属を有する防錆成分であることを特徴とする請求項6〜8いずれか1項記載の金属表面処理剤。
【請求項10】
シランカップリング剤を含有することを特徴とする請求項6〜9いずれか1項記載の金属表面処理剤。
【請求項11】
シリカを含有することを特徴とする請求項6〜10いずれか1項記載の金属表面処理剤。
【請求項12】
タンニン酸を含有することを特徴とする請求項6〜11いずれか1項記載の金属表面処理剤。
【請求項13】
請求項1〜12いずれか1項記載の金属表面処理剤を、被処理金属材に接触させることを特徴とする金属表面処理方法。
【請求項14】
前記被処理金属材が、亜鉛めっき鋼板又は亜鉛とアルミニウムの合金めっき鋼板であることを特徴とする請求項13記載の金属表面処理方法。
【請求項15】
請求項13又は14いずれか1項記載の金属表面処理方法を行い得られる表面処理鋼板。

【公開番号】特開2012−188685(P2012−188685A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51061(P2011−51061)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【出願人】(000006910)株式会社淀川製鋼所 (34)
【Fターム(参考)】