説明

金属被覆材

【課題】低吸水性でありながら、溶融重合による高分子量化が可能で、融点と熱分解温度の差から見積もられる成形可能温度幅が広く溶融成形性に優れ、耐薬品性及び耐加水分解性に優れる金属被覆材の提供。
【解決手段】ジカルボン酸成分が蓚酸からなり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が1:99〜99:1であるポリアミド樹脂を含む金属被覆材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば一般工業用の流体金属配管の防錆コーティング、自動車用の燃料・オイル・ブレーキ液などの鋼管・アルミ配管といった金属管の防錆用コーティング、金属ワイヤーのコーティング、水槽タンクなど水回りプレートのコーティングなどの金属被覆用途に使用できる、新規なポリアミド樹脂を含む金属被覆材に関する。詳しくは、ジカルボン酸成分が蓚酸であるポリアミド樹脂を含み、低吸水性で、溶融重合による高分子量化が可能であり、耐薬品性、耐加水分解性に優れ、成形可能温度幅が広く成形加工性に優れる金属被覆材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナイロン6、ナイロン66などの結晶性ポリアミドに代表されるポリアミド樹脂は、その優れた特性と溶融成形の容易さから、衣料用、産業資材用繊維、あるいは汎用のエンジニアリングプラスチックとして広く用いられている。特に、金属基材の被覆用途においては、ポリアミド樹脂の金属基材への接着性が求められている。また、これらのポリアミド樹脂においては吸水による物性変化、酸、高温のアルコール、熱水中での劣化などの問題点も指摘されており、より寸法安定性及び耐薬品性にも優れたポリアミドへの要求が高まっている。
【0003】
金属基材への接着性に優れるポリアミド樹脂を提供するための技術が例えば特許文献1に開示されている。しかしこの技術では、ポリアミド樹脂の吸水によって、物性変化、金属基材の錆発生、長期使用における金属基材と金属被覆材との間の接着性低下などが生じやすいという問題がある。
【0004】
一方、ジカルボン酸成分として蓚酸を用いるポリアミド樹脂はポリオキサミド樹脂と呼ばれ、同じアミノ基濃度の他のポリアミド樹脂と比較して融点が高いこと、吸水率が低いことが知られ(特許文献2)、吸水による物性変化が問題となっていた従来のポリアミドが使用困難な分野での活用が期待される。
【0005】
これまでに、ジアミン成分として種々の脂肪族直鎖ジアミンを用いたポリオキサミド樹脂が提案されている。しかしながら、例えば、ジアミン成分として1,6−ヘキサンジアミンを用いたポリオキサミド樹脂は融点(約320℃)が熱分解温度(窒素中の1%重量減少温度;約310℃)より高いため(非特許文献1)、溶融重合、溶融成形が困難であり実用に耐えうるものではなかった。
【0006】
ジアミン成分が1,9−ノナンジアミンであるポリオキサミド樹脂(以後、PA92と略称する)については、L. Francoらが蓚酸源として蓚酸ジエチルを用いた場合の製造法とその結晶構造を開示している(非特許文献2)。ここで得られるPA92は固有粘度が0.97dL/g、融点が246℃のポリマーであるが、実用に耐える強靭な成形体が成形できない程度の低分子量体しか得られていない。また、特許文献3には、ジカルボン酸エステルとして蓚酸ジブチルを用いた場合について、固有粘度が0.99dL/g、融点が248℃のPA92を製造したことが示されている。この場合も強靭な成形体が成形できない程度の低分子量体しか得られていないという問題点がある。
【0007】
【非特許文献1】S. W. Shalaby., J. Polym. Sci., 11, 1(1973)
【非特許文献2】L. Franco et al., Macromolecules., 31, 3912(1988)
【特許文献1】特開2004−346255号公報
【特許文献2】特開2006−57033号公報
【特許文献3】特表平5−506466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、低吸水性でありながら、溶融重合による高分子量化が可能で、融点と熱分解温度の差から見積もられる成形可能温度幅が広く溶融成形性に優れ、耐薬品性、耐加水分解性に優れる金属被覆材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ジカルボン酸成分が蓚酸からなり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなるポリアミド樹脂が、低吸水性でありながら、溶融重合による高分子量化が可能で、融点と熱分解温度の差から見積もられる成形可能温度幅が広く溶融成形性に優れ、更に、耐薬品性、耐加水分解性などにも優れることを既に見出した。そして上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ジカルボン酸成分が蓚酸からなり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が1:99〜99:1であるポリアミド樹脂を用いることにより、低吸水性で金属基材の錆の発生及び長期使用時の金属基材と金属被覆材との間の接着性低下を抑制でき、溶融重合による高分子量化が可能で、融点と熱分解温度の差で見積もられる成形可能温度幅が例えば50℃以上と広く溶融成形性に優れ、耐薬品性及び耐加水分解性に優れる金属被覆材が得られることを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明は以下の通りである。
【0010】
[1] ジカルボン酸成分が蓚酸からなり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が1:99〜99:1であるポリアミド樹脂を含む、金属被覆材。
【0011】
[2] 前記ポリアミド樹脂の、96%硫酸を溶媒とし、濃度1.0g/dlのポリアミド樹脂溶液を用いて25℃で測定した場合の相対粘度(ηr)が1.8〜6.0である、上記[1]に記載の金属被覆材。
【0012】
[3] 前記ポリアミド樹脂の、窒素雰囲気下、10℃/分の昇温速度で測定した熱重量分析における1%重量減少温度と窒素雰囲気下、10℃/分の昇温速度で測定した示差走査熱量法により測定した融点との温度差が50℃以上である、上記[1]又は[2]に記載の金属被覆材。
【0013】
[4] 前記ジアミン成分の、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が5:95〜95:5である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の金属被覆材。
【0014】
[5] 熱可塑性エラストマーを更に含む、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の金属被覆材。
【0015】
[6] スチレン系化合物を主体とする重合体ブロックと共役ジエン化合物又はその部分水添物を主体とする重合体ブロックとからなるブロック共重合体の、共役ジエン化合物に由来する二重結合をエポキシ化したエポキシ化スチレン系熱可塑性エラストマーを更に含む、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の金属被覆材。
【0016】
[7] シランカップリング剤を更に含む、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の金属被覆材。
【0017】
[8] 自動車用金属管を被覆する、上記[1]〜[7]のいずれかに記載の金属被覆材。
【発明の効果】
【0018】
本発明の金属被覆材は、低吸水性でありながら、溶融重合による高分子量化が可能で、融点と熱分解温度の差から見積もられる成形可能温度幅が広く溶融成形性に優れ、耐薬品性及び耐加水分解性に優れるため、一般工業用の流体金属配管の防錆コーティング、自動車用の燃料・オイル・ブレーキ液などの鋼管・アルミ配管といった金属管の防錆用コーティング、金属ワイヤーのコーティング、水槽タンクなど水回りプレートのコーティングなどの金属被覆用途における金属被覆材として広範に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(I)ポリアミド樹脂
(1)ポリアミド樹脂の構成成分
本発明において用いるポリアミド樹脂は、ジカルボン酸成分が蓚酸からなり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が1:99〜99:1であるポリアミド樹脂である。
【0020】
上記ポリアミド樹脂の製造に用いられる蓚酸源としては、蓚酸ジエステルを採用でき、これらはアミノ基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、蓚酸ジメチル、蓚酸ジエチル、蓚酸ジn−(又はi−)プロピル、蓚酸ジn−(又はi−、又はt−)ブチル等の脂肪族1価アルコールの蓚酸ジエステル、蓚酸ジシクロヘキシル等の脂環式アルコールの蓚酸ジエステル、蓚酸ジフェニル等の芳香族アルコールの蓚酸ジエステル等が挙げられる。
【0021】
上記の蓚酸ジエステルの中でも炭素原子数が3を超える脂肪族1価アルコールの蓚酸ジエステル、脂環式アルコールの蓚酸ジエステル、芳香族アルコールの蓚酸ジエステルが好ましく、その中でも蓚酸ジブチル及び蓚酸ジフェニルが特に好ましい。
【0022】
ジアミン成分としては1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンの混合物を用いる。更に、1,9−ノナンジアミン成分と2−メチル−1,8−オクタンジアミン成分のモル比は、1:99〜99:1であり、好ましくは5:95〜95:5、より好ましくは5:95〜40:60又は60:40〜95:5、特に好ましくは5:95〜30:70又は70:30〜90:10である。1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンを上記の特定量共重合することにより、低吸水性でありながら、溶融重合による高分子量化が可能で、成形可能温度幅が広く溶融成形性に優れ、かつ耐薬品性、耐加水分解性に優れたポリアミドが得られる。
【0023】
特に、該モル比が5:95〜40:60、更に5:95〜30:70である場合、結晶性に優れるため、低吸水性及び力学特性に特に優れるとともに、液体及び/又は気体(例えばアルコールなど)の透過性も低いという利点が得られる他、例えば1,9−ノナンジアミンの含有量が2−メチル−1,8−オクタンジアミンの含有量よりも多い場合と比べて吸水性がより低いという利点も有する。一方該モル比が60:40〜95:5、更に70:30〜95:5、更に70:30〜90:10である場合には、低吸水性及び力学特性が特に優れるとともに、良好な透明性が付与されるという利点が得られる。
【0024】
(2)ポリアミド樹脂の製造において配合できる成分
本発明において用いるポリアミド樹脂を製造する際には、本発明の効果を損なわない範囲で他のジカルボン酸成分を混合する事ができる。蓚酸以外の他のジカルボン酸成分としては、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、3,3−ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸などの脂肪族ジカルボン酸、また、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、更にテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジ安息香酸、4,4’−オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸などを単独で、あるいはこれらの任意の混合物を重縮合反応時に添加することもできる。更に、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸を溶融成形が可能な範囲内で用いることもできる。他のジカルボン酸成分の使用量は、ジカルボン酸成分全体の5モル%以下であることが好ましい。
【0025】
また、本発明において用いるポリアミド樹脂を製造する際には、本発明の効果を損なわない範囲で、他のジアミン成分を混合する事ができる。1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミン以外の他のジアミン成分としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミンなどの脂肪族ジアミン、更にシクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミン、更にp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−キシレンジアミン、m−キシレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどの芳香族ジアミンなどを単独で、あるいはこれらの任意の混合物を重縮合反応時に添加することもできる。他のジアミン成分の使用量は、ジアミン成分全体の5モル%以下であることが好ましい。
【0026】
本発明で用いるポリアミド樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、一部が他のポリマー成分で置き換えられたものであってもよい。他のポリマー成分としては、ジカルボン酸成分が蓚酸からなり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が1:99〜99:1であるポリアミド以外のポリアミドとしての、ポリオキサミド、芳香族ポリアミド、脂肪族ポリアミド、脂環式ポリアミドなどのポリアミド類や、ポリアミド以外の熱可塑性ポリマーなどが挙げられる。本発明において用いるポリアミド樹脂中の、ジカルボン酸成分が蓚酸からなり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が1:99〜99:1であるポリアミドの割合は、50質量%超、更に70質量%以上が好ましい。
【0027】
(3)ポリアミド樹脂の性状及び物性
本発明において用いるポリアミド樹脂の分子量に特別の制限はないが、ポリアミド樹脂濃度が1.0g/dlの96%濃硫酸溶液を用い、25℃で測定した相対粘度ηrが1.8〜6.0の範囲内であることが好ましく、より好ましくは2.0〜5.5であり、2.5〜4.5が特に好ましい。ηrが1.8より低いと成形物が脆くなり物性が低下する傾向がある。一方、ηrが6.0より高いと溶融粘度が高くなり、成形加工性が悪くなる傾向がある。
【0028】
本発明において用いるポリアミド樹脂は、ジカルボン酸成分として蓚酸を用い、ジアミン成分として1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンを共重合することで、蓚酸と1,9−ノナンジアミンからなるポリアミドと比べて、上記相対粘度を増加させること、すなわち分子量を増加させることが可能である。また、実質的な熱分解の指標である1%重量減少温度(以下、Tdと略す)と融点(以下、Tmと略す)の差(Td−Tm)で表される成形可能温度範囲が、蓚酸と1,9−ノナンジアミンからなるポリアミドと比べて拡大し、成形可能温度範囲が好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上であることができ、更には90℃以上も可能である。本発明において用いるポリアミド樹脂は、Tdが好ましくは280℃以上、より好ましくは300℃以上、更に好ましくは320℃以上であり、高い耐熱性を有することを特徴とする。
【0029】
(4)ポリアミド樹脂の製造
本発明において用いるポリアミド樹脂は、ポリアミドを製造する方法として知られている任意の方法を用いて製造することができる。本発明者らの研究によれば、ジアミン及び蓚酸ジエステルをバッチ式又は連続式で重縮合反応させることによりポリアミド樹脂を得ることができる。具体的には、以下の操作で示されるような、(i)前重縮合工程、(ii)後重縮合工程の順で行うのが好ましい。
【0030】
(i)前重縮合工程:まず反応器内を窒素置換した後、ジアミン(ジアミン成分)及び蓚酸ジエステル(蓚酸源)を混合する。混合する場合にジアミン及び蓚酸ジエステルが共に可溶な溶媒を用いても良い。ジアミン成分及び蓚酸源が共に可溶な溶媒としては、特に制限されないが、トルエン、キシレン、トリクロロベンゼン、フェノール、トリフルオロエタノールなどを用いることができ、特にトルエンを好ましく用いることができる。例えば、ジアミンを溶解したトルエン溶液を50℃に加熱した後、これに対して蓚酸ジエステルを加える。このとき、蓚酸ジエステルと上記ジアミンの仕込み比は、蓚酸ジエステル/上記ジアミンで、0.8〜1.5(モル比)、好ましくは0.91〜1.1(モル比)、更に好ましくは0.99〜1.01(モル比)であることができる。
【0031】
このように仕込んだ反応器内を攪拌及び/又は窒素バブリングしながら、常圧下で昇温する。反応温度は、最終到達温度が80〜150℃、好ましくは100〜140℃の範囲になるように制御するのが好ましい。最終到達温度での反応時間は例えば3時間〜6時間である。
【0032】
(ii)後重縮合工程:更に高分子量化を図るために、前重縮合工程で生成した重合物を常圧下において反応器内で徐々に昇温する。昇温過程において前重縮合工程の最終到達温度、すなわち80〜150℃から、最終的に220℃以上300℃以下、好ましくは230℃以上280℃以下、更に好ましくは240℃以上270℃以下の温度範囲にまで到達させる。昇温時間を含めて1〜8時間、好ましくは2〜6時間保持して反応を行うことが好ましい。更に後重合工程において、必要に応じて減圧下での重合を行うこともできる。減圧重合を行う場合の好ましい最終到達圧力は0.1MPa未満〜13.3Paである。
【0033】
本発明に用いるポリアミド樹脂の製造方法のより具体的な例を以下に説明する。まず原料の蓚酸ジエステルを容器内に仕込む。容器は、後に行う重縮合反応の温度及び圧力に耐え得るものであれば、特に制限されない。その後、容器を原料のジアミンと混合する温度まで昇温させ、次いでジアミンを注入し重縮合反応を開始させる。原料を混合する温度は、原料の蓚酸エステル及びジアミンの融点以上、沸点未満の温度であり、かつ蓚酸ジエステルとジアミンとの重縮合反応によって生じるポリオキサミドが熱分解しない温度であれば特に制限されない。例えば、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとの混合物からなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が1:99〜99:1であるジアミンと蓚酸ジメチルとを原料とするポリオキサミド樹脂の場合、上記混合温度は15℃から240℃が好ましい。また、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が5:95〜90:10の場合、常温で液体か又は40℃程度に加温するだけで液化するので取り扱いやすいためより好ましい。混合温度が縮合反応によって生成するアルコールの沸点以上の場合、アルコールを留去、凝縮する装置を備えた容器を用いるのが望ましい。また、縮合反応によって生成するアルコール存在下で加圧重合する場合には、耐圧容器を用いる。蓚酸ジエステルとジアミンとの仕込み比は、蓚酸ジエステル/上記ジアミンで、好ましくは0.8〜1.2(モル比)、より好ましくは0.91〜1.09(モル比)、更に好ましくは0.98〜1.02(モル比)である。
【0034】
次に、容器内をポリオキサミド樹脂の融点以上かつ熱分解しない温度以下に昇温する。例えば、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が85:15であるジアミンと、蓚酸ジブチルとを原料とするポリオキサミド樹脂の場合、融点は235℃であることから240℃から280℃に昇温するのが好ましい(圧力は、2MPa〜4MPa)。生成したアルコールを留去しながら、必要に応じて、常圧窒素気流下もしくは減圧下において継続して重縮合反応を行う。耐圧容器内で原料を混合し、縮合反応によって生成するアルコール存在下で加圧重合する場合は、まず生成したアルコールを留去しながら放圧する。その後、必要に応じて常圧窒素気流下もしくは減圧下において継続して重縮合反応を行う。減圧重合を行う場合の好ましい最終到達圧力は760〜0.1Torrである。温度は、240〜280℃が好ましい。また、アルコールは水冷コンデンサで冷却して液化し、回収する。
【0035】
(II)その他の含有成分
本発明においては、上述のポリアミド樹脂に加えて、必要に応じて各種添加剤を組合せることができ、これらはポリアミド重縮合反応時、又はその後に組合せることができる。
【0036】
各種添加剤としては、接着性改良剤、フィラー、補強繊維、銅化合物などの安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、結晶化促進剤、ガラス繊維、可塑剤、潤滑剤、耐熱剤などが挙げられる。
【0037】
本発明の金属被覆材を金属基材上に例えばプライマーを介さずに形成する場合、金属被覆材は接着性改良剤を更に含むことが好ましい。接着性改良剤としては従来公知のものを使用でき、例えば熱可塑性エラストマー、特にエポキシ化スチレン系エラストマー、変性ポリオレフィンなど、更にシランカップリング剤などが挙げられる。
【0038】
上記のエポキシ化スチレン系エラストマーとしては、例えば前述の特開2004−346255号公報に記載されるような、スチレン系化合物を主体とする重合体ブロックと、共役ジエン化合物又はその部分水添物を主体とする重合体ブロックとからなるブロック共重合体の、共役ジエン化合物に由来する二重結合をエポキシ化したエポキシ化スチレン系熱可塑性エラストマー(以下、単にエポキシ化スチレン系熱可塑性エラストマーというときは特記しない限り上述のものを指す)などが挙げられる。
【0039】
上記スチレン系化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−第3級ブチルスチレン、ジビニルベンゼン、p−メチルスチレン、1,1−ジフェニルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどから選択される1種又は2種以上を例示でき、中でもスチレンが好ましい。
【0040】
また上記共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、ピペリレン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、フェニル−1,3−ブタジエンなどから選択される1種又は2種以上を例示でき、中でもブタジエン、イソプレン及びこれらの組み合わせが好ましい。
【0041】
上記ブロック共重合体における上記スチレン系化合物由来の構成単位の含有量は、5〜70質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜60質量%である。また、上記ブロック共重合体の重量平均分子量は、5,000〜600,000であることが好ましく、より好ましくは10,000〜500,000の範囲であり、分子量分布[重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)]は、10以下であることが好ましい。
【0042】
上記ブロック共重合体の分子構造は、直鎖状であることが好ましい。また上記スチレン系化合物(A)と上記共役ジエン化合物(B)とが、例えばA−B−A、B−A−B−A、A−B−A−B−Aなどの構造をとるスチレン系化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体が好ましい。また上記ブロック共重合体は、分子末端に多官能のカップリング剤残基を有していてもよい。
【0043】
上記ブロック共重合体の製造方法は、上述のような構造を有するものが得られればどのような製造方法でもよい。例えば、特公昭40−23798号、特公昭43−17979号、特公昭46−32415号、特公昭56−28925号公報に記載された方法により、リチウム触媒等を用いて不活性溶媒中でスチレン系化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体を製造することができる。更に、特公昭42−8704号、特公昭43−6636号、又は特開昭59−133203号公報に記載された方法により、不活性溶媒中で水素添加触媒の存在下に水素添加して、本発明に供するエポキシ変性ブロック共重合体の原料である部分的に水素添加したブロック共重合体を製造することができる。なお、水添の程度は、水添前及び水添後のブロック共重合体をNMR分析することによって知ることができる。水添率は、未水添・未エポキシ化の原料ブロック共重合体の共役ジエン化合物に由来する二重結合のうち、水添されたものの百分率として定義する。本発明においては、水添率0〜80%の範囲であることが好ましく、特には10〜70%の範囲であることが好ましい。この範囲で耐熱性、凝集性に優れたエポキシ化スチレン系熱可塑性エラストマーが得られる。
【0044】
上記ブロック共重合体をエポキシ化することにより、エポキシ化スチレン系熱可塑性エラストマーを得ることができる。例えば、上記ブロック共重合体を不活性溶媒中でハイドロパーオキサイド類、過酸類等のエポキシ化剤と反応させることにより得ることができる。
【0045】
不活性溶媒は、原料粘度の低下、エポキシ化剤の希釈による安定化等の目的で使用し、例えばヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、ベンゼン、酢酸エチル、四塩化炭素、クロロホルム等を用いることができる。
【0046】
エポキシ化剤の内、ハイドロパーオキサイド類として、過酸化水素、ターシャリブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等が例示できる。また、「過酸類」として、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、トリフルオロ過酢酸等が例示できる。中でも、工業的に大量に製造され、安価に入手でき、安定度も高い点で過酢酸が好ましい。エポキシ化剤の使用量には厳密な制限がなく、使用する個々のエポキシ化剤、所望されるエポキシ化度、使用する個々のブロック共重合体の性状の違いによって変更することができる。
【0047】
エポキシ化の際には必要に応じて触媒を用いることができる。例えば過酸類の場合、炭酸ソーダ等のアルカリや硫酸等の酸を触媒として用いることができる。一方、ハイドロパーオキサイド類の場合、タングステン酸と苛性ソーダの混合物を過酸化水素と、あるいは有機酸を過酸化水素と、あるいはモリブデンヘキサカルボニルをターシャリブチルハイドロパーオキサイドとそれぞれ併用して触媒効果を得ることができる。
【0048】
エポキシ化反応の条件には厳密な制限はないが、例えば、過酢酸についていえば0〜70℃が好ましい。70℃を越えると過酢酸の分解が起こるからである。反応混合物の特別な操作は必要なく、例えば原料の混合物を2〜10時間攪拌すればよい。エポキシ化の反応温度は、常法に従い、用いるエポキシ化剤の反応性によって変更することができる。
【0049】
得られたエポキシ化スチレン系熱可塑性エラストマーの単離は、例えば貧溶媒で沈殿させる方法、エポキシ化スチレン系熱可塑性エラストマーを熱水中に攪拌の下で投入し溶媒を蒸留除去する方法、加熱及び/又は減圧操作によって溶媒を直接乾燥させる方法等で行うことができる。また、最終的に溶液形態で利用する場合には、単離せずに用いることもできる。
【0050】
エポキシ化スチレン系熱可塑性エラストマーのエポキシ化率は、10〜40%であること、特には15〜35%であることが好ましい。10%よりエポキシ基の量が少ないと本発明の効果が小さくなる傾向があり、その反面、40%を越えると、エポキシ基の反応活性が高くなりすぎてゲル化し易くなり、熱安定性が低下する傾向がある。また、特に熱安定性が要求される場合には、水素添加もエポキシ化もされずに不飽和のまま残存する共役ジエン化合物に由来する二重結合が全体の90%未満であることが好ましく、特には40%以下のものが好ましい。
【0051】
エポキシ化スチレン系熱可塑性エラストマーのエポキシ化率は、未水素添加・未エポキシ化の原料ブロック共重合体の共役ジエン化合物に由来する二重結合のうち、エポキシ化されたものの百分率であり、エポキシ当量(N)から、式:エポキシ化率={10000×D+2×H×(100−S)}/{(N−16)×(100−S)}で示すことができる(Dは共役ジエン化合物の分子量、Hは水添率(%)、Sはスチレン系化合物の含有量(重量%)を示す)。本発明において好ましく使用できるエポキシ化スチレン系熱可塑性エラストマーのエポキシ当量(N)は、0.1規定の臭化水素酸で滴定し、式:エポキシ当量(N)=10000×W/(f×V)(Wは、滴定に用いたエポキシ化スチレン系熱可塑性エラストマーの重量(g)、Vは、臭化水素酸の滴定量(ml)、fは、臭化水素酸のファクターを示す)で示すことができる。
【0052】
エポキシ化スチレン系熱可塑性エラストマーの配合量は、ポリアミド樹脂100質量部に対して3〜30質量部が好ましく、3〜28質量部がより好ましく、3〜25質量部が特に好ましい。3質量部以上の場合には金属基材と金属被覆材との間の接着性が特に良好であり、30質量部以下の場合、ポリアミド樹脂が有している機械的特性や表面特性が損なわれ難い。
【0053】
一方、シランカップリング剤は、無機材料に対して親和性又は反応性を有する加水分解性のシリル基に、有機樹脂に対して親和性又は反応性を有する有機官能性基を化学的に結合させた構造を持つシラン化合物である。ケイ素に結合した加水分解性基としては、アルコキシ基、ハロゲン、アセトキシ基が挙げられるが、通常、アルコキシ基、特にメトキシ基、エトキシ基が好ましく用いられる。1個のケイ素原子につく加水分解性基の数は、1〜3個の間で選択される。有機官能性基としては、アミノ基、エポキシ基、ビニル基、カルボキシル基、メルカプト基、ハロゲン基、メタクリロキシ基、イソシアネート基等を挙げることができ、好ましくは、アミノ基又はエポキシ基である。
【0054】
シランカップリング剤の具体例としては、α−アミノエチルトリエトキシラン、α−アミノプロピルトリエトキシシラン、α−アミノブチルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ベンジル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ビニルベンジル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基含有シラン類;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリソドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等のエポキシ基含有シラン類;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン等のビニル基含有シラン類;β−カルボキシエチルトリエトキシシラン、β−カルボキシエチルフェニルビス(2−メトキシエトキシ)シラン、N−β−(N−カルボキシルメチルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのカルボキシル基含有シラン類;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン等のメルカプト基含有シラン類;γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等のハロゲン含有シラン類;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等の(メタ)アクリル基含有シラン類;γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン等のイソシアネート基含有シラン類等が挙げられる。
【0055】
シランカップリング剤の量は、上述のポリアミド樹脂100質量部に対し、0.01〜0.5質量部が好ましく、0.01〜0.3質量部がより好ましい。0.01質量部以上の場合には金属被覆材の金属基材に対する接着性が特に良好であり、0.5質量部以下の場合にはポリアミド樹脂が有している流動性や表面特性が損なわれ難い。
【0056】
上述のエポキシ化スチレン系熱可塑性エラストマーと上述のシランカップリング剤とを併用する場合、金属基材と本発明の金属被覆材との接着性が特に良好であり好ましい。
【0057】
(III)金属被覆材の形成
本発明の金属被覆材は、アルミニウムなどの非鉄金属及び鉄といった幅広い金属の基材に対して適用できる。金属被覆材の用途としては、一般工業用の流体金属配管の防錆コーティング、自動車用の燃料・オイル・ブレーキ液などの鋼管・アルミ配管といった金属管に対する防錆用コーティング、金属ワイヤーのコーティング、水槽タンクなど水回りプレートのコーティングなどが挙げられ、特に自動車用金属管に対して好ましく適用できる。
【0058】
本発明の金属被覆材で金属基材を被覆する方法としては、これらに限定するものではないが、例えば押出しによる鋼管被覆などのように、既に溶融状態にあるポリアミド樹脂組成物で被着物である金属基材を被覆する方法、粉体塗装のように、被着物である金属基材を加熱しておき、その熱により固体状のポリアミド樹脂組成物を溶融させて金属基材を被覆する方法、及び、金属基材と固体状態のポリアミド樹脂組成物を接触させたものを共に加熱して被覆する方法などが挙げられる。金属基材には本発明の金属被覆材による被覆に先立って金属用の従来公知のプライマーを用いたプライマー処理を施してもよい。
【0059】
なお、金属被覆材の形成時において、ポリアミド樹脂組成物の温度は、該ポリアミド樹脂組成物を変質させない温度に維持することが好ましい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
[物性測定、成形、評価方法]
特性値を、以下の方法により測定した。
【0062】
(1)相対粘度(ηr)
ηrは、ポリアミドの96%硫酸溶液(濃度:1.0g/dl)を用いて、オストワルド型粘度計により25℃で測定した。
【0063】
(2)融点(Tm)及び結晶化温度(Tc)
Tm及びTcは、PerkinELmer社製PYRIS Diamond DSC用いて窒素雰囲気下で測定した。30℃から270℃まで10℃/分の速度で昇温し(昇温ファーストランと呼ぶ)、270℃で3分保持したのち、−100℃まで10℃/分の速度で降温し(降温ファーストランと呼ぶ)、次に270℃まで10℃/分の速度で昇温した(昇温セカンドランと呼ぶ)。得られたDSCチャートから降温ファーストランの発熱ピーク温度をTc、昇温セカンドランの吸熱ピーク温度をTmとした。
【0064】
(3)1%重量減少温度(Td)
Tdは島津製作所社製THERMOGRAVIMETRIC ANALYZER TGA−50を用い、熱重量分析(TGA)により測定した。20ml/分の窒素気流下室温から500℃まで10℃/分の昇温速度で昇温し、Tdを測定した。
【0065】
(4)溶融粘度
溶融粘度はティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製溶融粘弾性測定装置ARESに25mmのコーン・プレートを装着して、窒素中、250℃、せん断速度0.1s-1の条件で測定した。
【0066】
(5)フィルム成形
東邦マシナリー社製真空プレス機TMB−10を用いて、ペレットからフィルムを成形した。500〜700Paの減圧雰囲気下において260℃(PA66を用いた場合は290℃、PA12を用いた場合は230℃)で5分間加熱溶融させた後、5MPaで1分間プレスを行いフィルム成形した。次に減圧雰囲気を常圧まで戻したのち室温5MPaで1分間冷却結晶化させてフィルムを得た。
【0067】
(6)飽和吸水率
上記(5)の条件で成形したフィルム(寸法:20mm×10mm、厚さ0.25mm;質量約0.05g)を23℃のイオン交換水に浸漬し、所定時間ごとにフィルムを取り出し、フィルムの質量を測定した。フィルム質量の増加率が0.2%の範囲内で3回続いた場合にポリアミド樹脂フィルムへの水分の吸収が飽和に達したと判断して、水に浸漬する前のフィルムの質量(Xg)と飽和に達した時のフィルムの質量(Yg)から次の式(1)により飽和吸水率(%)を算出した。
【0068】
飽和吸水率(%)=(Y−X)/X×100 (1)
【0069】
(7)耐薬品性
本発明によって得られるポリアミドの熱プレスフィルムを以下の薬品中に7日間浸漬した後に、フィルムの質量残存率(%)及び外観の変化を観測した。濃塩酸、64%硫酸、氷酢酸のそれぞれの溶液において23℃下で浸漬した試料について試験を行った。
【0070】
(8)耐加水分解性
上記(5)の条件で成形したフィルムをオートクレーブに入れ、水、0.5mol/l硫酸、1mol/l水酸化ナトリウム水溶液中(すなわち、順に、pH=7、pH=1、pH=14)でそれぞれ121℃、60分間処理した後の質量残存率(%)を調べた。
【0071】
(9)機械的物性
以下に示す測定は、下記の試験片を樹脂温度260℃(PA66を用いた場合は290℃、PA12を用いた場合は230℃)、金型温度80℃の射出成形により成形し、これを用いて行った。
【0072】
〔1〕引張降伏点強度:ASTM D638に記載のTypeIの試験片を用いてASTM D638に準拠して測定した。
【0073】
〔2〕曲げ弾性率:試験片寸法3.2mm×12.7mm×127mmの試験片を用いてASTM D790に準拠し、23℃で測定した。成形後に調湿せずに評価したものをdry、成形後に23℃湿度65%で調湿した後に評価したものをwetとして表中に記載した。
【0074】
〔3〕アイゾット衝撃強度:試験片寸法3.2mm×12.7mm×127mmの試験片を用いてASTM D256に準拠し、23℃で測定した。
【0075】
〔4〕荷重たわみ温度(熱変形温度):試験片寸法3.2mm×12.7mm×127mmの試験片を用いてASTM D648に準拠し、荷重1.82MPaで測定した。
【0076】
(10)吸水率
上記(5)の条件で成形したフィルム(寸法:20mm×10mm、厚さ0.25mm;質量約0.05g)を23℃65%RH条件下におき、所定時間ごとにフィルムを取り出し、フィルムの質量を測定した。フィルム質量の増加率が0.2%の範囲内で3回続いた場合にポリアミド樹脂フィルムへの水分の吸収が飽和に達したと判断して、上記23℃65%RH条件下におく前のフィルムの質量(Xg)と飽和に達した時のフィルムの質量(Yg)から次の式(2)により吸水率(%)を算出した。
【0077】
吸水率(%)=(Y−X)/X×100 (2)
【0078】
(11)接着力
上記(5)の条件で調製した150mm×100mm、厚み0.1mmのフィルムを、1辺150mm、厚み0.5mmの金属板(亜鉛メッキ鋼板:JIS G3302 SPGC Z22、アルミプレート:JIS1100番)2枚ではさみ、東邦マシナリー社製真空プレス機TMB−10を用いて、500〜700Paの減圧雰囲気下において260℃で5分間加熱溶融させた後、10MPaで1分間プレスを行いフィルム成形した。次に減圧雰囲気を常圧まで戻したのち室温5MPaで1分間冷却させて試料を得た。その試料を25mm幅で切り、JIS K−6853に準じてT型剥離試験を行った。接着力はピーク強度と幅25mm×100mmを完全に剥離するまでに要したエネルギーで評価した。
【0079】
[製造例1:PA92−1の製造]
攪拌機、温度計、トルクメーター、圧力計、ダイアフラムポンプを直結した原料投入口、窒素ガス導入口、放圧口、圧力調節装置及びポリマー抜出し口を備えた内容積が150リットルの圧力容器にシュウ酸ジブチル28.40kg(140.4モル)を仕込み、圧力容器の内部を純度が99.9999%の窒素ガスで0.5MPaに加圧した後、次に常圧まで窒素ガスを放出する操作を5回繰り返し、窒素置換を行った後、封圧下、攪拌しながら系内を昇温した。約30分間かけてシュウ酸ジブチルの温度を100℃にした後、1,9−ノナンジアミン18.89kg(119.3モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン3.34kg(21.1モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が85:15)をダイアフラムフポンプにより流速1.49リットル/分で約17分間かけて反応容器内に供給すると同時に昇温した。供給直後の圧力容器内の内圧は、重縮合反応により生成したブタノールによって0.35MPaまで上昇し、重縮合物の温度は約170℃まで上昇した。その後、1時間かけて温度を235℃まで昇温した。その間、生成したブタノールを放圧口より抜き出しながら、内圧を0.5MPaに調節した。重縮合物の温度が235℃に達した直後から放圧口よりブタノールを約20分間かけて抜き出し、内圧を常圧にした。常圧にしたところから、1.5リットル/分で窒素ガスを流しながら昇温を開始し、約1時間かけて重縮合物の温度を260℃にし、260℃において4.5時間反応させた。その後、攪拌を止めて系内を窒素で1MPaに加圧して約10分間静置した後、内圧0.5MPaまで放圧し、重縮合物を圧力容器下部抜出口より紐状に抜き出した。紐状の重合物は直ちに水冷し、水冷した紐状の樹脂はペレタイザーによってペレット化した。得られたポリアミドは白色の強靭なポリマーであり、ηr=3.20であった。
【0080】
[製造例2:PA92−2の製造]
1,9−ノナンジアミン17.62kg(111.3モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン4.45kg(28.1モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が80:20)を仕込んだほかは、製造例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られたポリアミドは白色の強靭なポリマーであり、ηr=3.10であった。
【0081】
[製造例3:PA92−3の製造]
1,9−ノナンジアミン11.11kg(70.2モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン11.11kg(70.2モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が50:50)を仕込んだ以外は、製造例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られた重合物は白色の強靭なポリマーであり、ηr=3.35であった。
【0082】
[製造例4:PA92−4の製造]
1,9−ノナンジアミン6.67kg(42.1モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミン15.56kg(98.3モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が30:70)を仕込んだ以外は製造例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られたポリアミドは白色の強靭なポリマーであり、ηr=3.55であった。
【0083】
[製造例5:PA92−5の製造]
1,9−ノナンジアミン1.33kg(8.4モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン20.88kg(131.9モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が6:94)を仕込んだほかは、製造例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られた重合物は白色の強靭なポリマーであり、ηr=3.53であった。
【0084】
[製造例6:PA92−6の製造]
1,9−ノナンジアミン1.33kg(8.4モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン20.88kg(131.9モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が6:94)を仕込み、ブタノールの抜出による内圧を0.25MPaに保持した以外は、製造例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られた重合物は白色の強靭なポリマーであり、ηr=4.00であった。
【0085】
[製造例7:PA−1の製造]
ジアミン原料として1,9−ノナンジアミン22.25kg(140.4モル)だけを用いて、製造例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られた重合物は黄白色のポリマーであり、ηr=2.78であった。
【0086】
製造例1〜7で調製したポリアミド、並びに市販品のPA6(宇部興産製、UBEナイロン1015B)、PA66(UBEナイロン2020B)及びPA12(宇部興産製、UBESTA3020U)の特性データを表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
[実施例1〜8、比較例1,2]
エポキシ化スチレン系熱可塑性エラストマーとして、ダイセル化学製エポフレンドA1010を用い、表2に示す組成で、池貝鉄工(株)製2軸混練機PCM−45にて、シリンダー設定温度260℃(PA12を用いた場合は230℃)、回転速度150rpmで溶融混練して金属被覆材を調製した。上記溶融混練した試料を金属基材(亜鉛メッキ鋼板及びアルミプレート)間に挟んだ複合体を作製し、接着力の評価を行った。また、上記溶融混練した試料から上記(5)の条件で成形したフィルムを用いて、それらの飽和吸水率および耐薬品性を、前述した方法により評価した。
【0089】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の金属被覆材は、低吸水性でありながら、溶融重合による高分子量化が可能で、融点と熱分解温度の差から見積もられる成形可能温度幅が広く溶融成形性に優れ、耐薬品性、耐加水分解性に優れるため、例えば一般工業用の流体金属配管の防錆コーティング、自動車用の燃料・オイル・ブレーキ液などの鋼管・アルミ配管といった金属管の防錆用コーティング、金属ワイヤーのコーティング、水槽タンクなど水回りプレートのコーティングなどの金属被覆材として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分が蓚酸からなり、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が1:99〜99:1であるポリアミド樹脂を含む、金属被覆材。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂の、96%硫酸を溶媒とし、濃度1.0g/dlのポリアミド樹脂溶液を用いて25℃で測定した場合の相対粘度(ηr)が1.8〜6.0である、請求項1に記載の金属被覆材。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂の、窒素雰囲気下、10℃/分の昇温速度で測定した熱重量分析における1%重量減少温度と窒素雰囲気下、10℃/分の昇温速度で測定した示差走査熱量法により測定した融点との温度差が50℃以上である、請求項1又は2に記載の金属被覆材。
【請求項4】
前記ジアミン成分の、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が5:95〜95:5である、請求項1〜3のいずれかに記載の金属被覆材。
【請求項5】
熱可塑性エラストマーを更に含む、請求項1〜4のいずれかに記載の金属被覆材。
【請求項6】
スチレン系化合物を主体とする重合体ブロックと共役ジエン化合物又はその部分水添物を主体とする重合体ブロックとからなるブロック共重合体の、共役ジエン化合物に由来する二重結合をエポキシ化したエポキシ化スチレン系熱可塑性エラストマーを更に含む、請求項1〜5のいずれかに記載の金属被覆材。
【請求項7】
シランカップリング剤を更に含む、請求項1〜6のいずれかに記載の金属被覆材。
【請求項8】
自動車用金属管を被覆する、請求項1〜7のいずれかに記載の金属被覆材。

【公開番号】特開2009−298866(P2009−298866A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152322(P2008−152322)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】