説明

金属電極および該金属電極を有する有機半導体素子

【課題】本発明は、有機高分子等の半導体薄膜形成材料が単結晶でなく、多結晶であっても、印刷方法により金属電極上に安定で良好な有機半導体薄膜を簡便に形成することができ、性能の優れた有機半導体素子を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の金属電極は、下記式(1)で表される化合物を含有する溶液を用いて形成された表面処理層を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属電極および該金属電極を有する有機半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体薄膜形成材料としては、シリコン(珪素)が最も多く用いられている。そして、シリコンによる薄膜形成は、通常、蒸着法により行われている。しかしながら、蒸着法は、真空や高温という条件下で行わなければならない。また、溶媒への溶解性が低いシリコンは固体として用いらざるを得ないため、形成膜のムラが生じやすい。さらに薄膜形成可能な面積も限られる。
【0003】
一方、半導体薄膜形成材料として、近年、半導体性を有する有機高分子が着目されており(例えば、特許文献1〜5参照)、優れたキャリア移動度を示すポリアセン等の有機高分子が知られている(例えば、特許文献5参照)。このような有機高分子が、有機溶媒に高濃度で溶解する特性を有していれば、有機高分子を有機溶媒に溶解させた溶液を用いた種々の印刷方法により薄膜形成が可能となる。印刷方法による薄膜形成は、常温・常圧下で、また簡便かつ短時間で行うことができ、蒸着法による薄膜形成よりも有利である。また、印刷方法は、表面均一性に優れた半導体薄膜を形成することができる。
【0004】
また、上記のような印刷方法による半導体薄膜形成が実現できれば、プログラマブルデバイス(programmable device)で生じるような不必要な回路を焼き切ったり、電気的に
バイパスしたりする製造工程を簡略化することができる。そのうえ、有機半導体薄膜を可とう性のある高分子表面に形成すれば、折り曲げられる半導体素子を形成することができる。
【0005】
特許文献5に記載のペンタセン等のポリアセン化合物は、高いキャリア移動度を有するが、芳香族化合物特有の高い凝集力を有するために、溶解性に劣る。したがって、該ポリアセン化合物を印刷方法等のウェットプロセスによる薄膜形成に用いることは困難である。
【0006】
これまでのところ、優れたキャリア移動度を有し、かつ溶解性にも優れ、印刷方法等のウェットプロセスにより良好な有機半導体薄膜を形成可能な材料の開発には至っていない。
【0007】
一方、半導体薄膜を形成する電極表面の状態を改善し、印刷方法等のウェットプロセスによる良好な有機半導体薄膜を形成可能とし、キャリア移動度等の特性の優れた有機半導体素子を製造する研究が行われている。
【0008】
例えば、非特許文献1には、ニトロベンゼンチオールで電極表面を処理して、電極と有機半導体薄膜との界面のオーミックコンタクト(以下「電荷注入効率」とも記す。)を改善する方法が報告されている。しかしながら、当該方法は、導入されたニトロ基によって、形成される有機半導体薄膜の導電性が不安定となる場合がある。有機半導体薄膜の導電性を安定させるためには、有機半導体薄膜形成材料として、単結晶のペンタセンを用いる必要があり、実用上適用し難い。
【0009】
従来、キャリア移動度等の特性の優れた有機半導体薄膜形成材料を探索する手法として、バンド理論に基づいて、有機半導体薄膜形成材料のHOMO-LUMOのギャップと熱
エネルギーとを比較し、半導体性を検討するという方法があった(例えば、非特許文献2
参照)。
【0010】
しかしながら、有機半導体薄膜形成材料は、分子性結晶の場合、バンド理論を適用できるほどの分子間距離がなく、原子軌道同士の重なりが弱い。したがって、バンド理論に基づく方法は、実際の有機半導体薄膜形成材料の特性を表しているとは言い難い。
【0011】
別の方法として、非特許文献3には、Marcusの非古典的理論により、ラジカルカチオンおよびラジカルアニオンと中性分子二分子間の電子ポテンシャルを仮定して、キャリア移動度等の特性の優れた有機半導体薄膜を形成する方法が提案されている。
【0012】
この方法は、金属電極表面に一時的に生じたカチオン種またはアニオン種を種に、金属電極間の電界を介して、有機半導体薄膜の厚み方向内部に電子交換反応をなだれ的に起こすことが必要となる。そして、このように電子交換反応をなだれ的に起こすことによってのみ、有機半導体薄膜形成材料の結晶状態に依存せずに、形成される有機半導体薄膜の半導体性維持が可能となる。
【0013】
しかしながら、これまでのところ、有機半導体薄膜形成材料の結晶状態に依存せずに、良好な有機半導体薄膜を形成できる実用的な方法は見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2003−338377号公報
【特許文献2】特開2003−347058号公報
【特許文献3】WO03/080762
【特許文献4】WO01/064611
【特許文献5】特開2004−256532号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】J. Appl. Phys 94(9)、 2003年、p.5800
【非特許文献2】Organic Electronics: Materials Manufacturing and Applications Hagen Klauk (編集) ハードカバー: 446ページ Wiley-VCH (2006/8/30) ISBN: 3527312641
【非特許文献3】Valeev(JACS 2006, 128, 9882)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、有機高分子等の有機半導体薄膜形成材料が単結晶でなく、多結晶であっても、印刷方法により金属電極上に安定で良好な有機半導体薄膜を簡便に形成することができ、性能の優れた有機半導体素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
有機半導体薄膜の厚み方向内部に電子交換反応をなだれ的に起こすためには、有機半導体薄膜と金属電極との界面に、種となるアニオン種またはカチオン種を存在させることが重要となる。さらに、金属電極表面と硫黄原子とが直接隣接した場合、該隣接部が半導体性を示す(慶大須田ほか、日本化学会87春季年会4G708発表)。
【0018】
本発明者らは、上記知見を基に上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、金属電極表面と硫黄原子とを直接隣接させるように、硫黄原子を含む特定の化合物で表面を被覆した金属電極によれば、有機半導体薄膜形成材料が単結晶でなく、多結晶であっても、印刷方法により金属電極上に安定で良好な有機半導体薄膜を簡便に形成することが
でき、性能の優れた有機半導体素子が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明は、たとえば以下の[1]〜[7]に関する。
【0020】
[1] 下記式(1)で表される化合物を含有する溶液を用いて形成された表面処理層を有することを特徴とする金属電極。
【0021】
【化1】

【0022】
(式(1)中、R1は炭素数1〜12のアルキルまたは炭素数1〜12のアルコキシであ
り、R2は単結合または炭素数1〜4のアルキレンであり、A1〜A8はそれぞれ独立にC
−HまたはNである。)
[2] 前記金属電極が、金、銀、白金、パラジウム、クロム、鉄、ニッケル、チタンおよびコバルトからなる群より選択される少なくとも1種の金属から形成されることを特徴とする[1]に記載の金属電極。
【0023】
[3] 前記式(1)中、A1〜A8のうちの0〜4個がNであることを特徴とする[1]または[2]に記載の金属電極。
【0024】
[4] 前記式(1)で表される化合物が、下記式(1−1)〜(1−3)で表される化合物のいずれかであることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の金属電極。
【0025】
【化2】

【0026】
[5] 下記式(1)で表される化合物を含有する溶液を金属電極表面に接触させる工程を含むことを特徴とする金属電極表面処理方法。
【0027】
【化3】

【0028】
(式(1)中、R1は炭素数1〜12のアルキルまたは炭素数1〜12のアルコキシであ
り、R2は単結合または炭素数1〜4のアルキレンであり、A1〜A8はそれぞれ独立にC
−HまたはNである。)
[6] [1]〜[4]のいずれかに記載の金属電極と、該金属電極上に有機半導体薄膜とを有することを特徴とする有機半導体素子。
【0029】
[7] 有機半導体薄膜、ゲート電極、誘電体層、ソース電極およびドレイン電極を有するトランジスタであって、前記ソース電極および前記ドレイン電極が[1]〜[4]のいずれかに記載の金属電極であることを特徴とするトランジスタ。
【発明の効果】
【0030】
本発明の金属電極によれば、有機半導体薄膜形成材料が単結晶でなく、多結晶であっても、印刷方法により金属電極上に安定で良好な有機半導体薄膜を簡便に形成することができ、移動度等の性能の優れた有機半導体素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】FETの一般的な構成例を示す図である。
【図2a】キャリア移動度を求める際に作製したFETの構成を示す図である。
【図2b】図2aの断面図である。
【図3】実施例1で作製したFETにおけるゲート電圧に対するドレイン電流(ピンチオフ電流)の絶対値の平方根の関係を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の金属電極、金属電極表面処理方法および有機半導体素子について詳細に説明する。
【0033】
<金属電極>
本発明の金属電極は、下記式(1)で表される化合物を含有する溶液を用いて形成された表面処理層を有することを特徴としている。
【0034】
【化4】

【0035】
上記式(1)中、R1は炭素数1〜12のアルキルまたは炭素数1〜12のアルコキシ
であり、炭素数2〜11のアルキルまたは炭素数2〜11のアルコキシであることが好ましく、炭素数4〜10のアルキルまたは炭素数4〜10のアルコキシであることがより好ましく、炭素数8〜10のアルキルまたは炭素数8〜10のアルコキシであることが特に好ましい。R1がこのような基であると、有機半導体薄膜形成材料が金属電極表面上に安
定して形成されやすくなる。
【0036】
上記式(1)中、R2は単結合または炭素数1〜4のアルキレンであり、炭素数1〜2
のアルキレンであることが好ましく、メチレン(炭素数1のアルキレン)であることがより好ましい。R2がこのような基であると、上記式(1)中の芳香環が金属電極に対して
垂直に形成されるため、上記式(1)で表される化合物が密に充填される傾向がある。
【0037】
上記式(1)中、A1〜A8はそれぞれ独立にC−HまたはNである。
【0038】
上記式(1)中、A1〜A8のうちの0〜4個がNであることが好ましく、1〜3個であることがより好ましく、1〜2個であることが特に好ましい。また、上記式(1)中、A
1〜A8のうち、A3がNであり、残りがC−Hであることが好ましく、A3、A6およびA8がNであり、残りがC−Hであることがより好ましい。このようにNを有すると、上記式(1)で表される化合物が、強誘電性または反強誘電性を示すため、金属電極と有機半導体薄膜との界面での電荷注入効率が向上する。
【0039】
上記式(1)中、A2またはA4と、A5またはA7とが同時にNになる場合、上記式(1)で表される化合物は、不純物とキレートを形成してしまうため、性質が変わるおそれがある。
【0040】
上記式(1)で表される化合物を含有する溶液を用いて形成された表面処理層を有する金属電極は、有機半導体薄膜形成材料に対する濡れ性が良好となる傾向がある。その結果、有機半導体薄膜を塗布法により金属電極表面上に安定かつ簡便に形成可能となる。
【0041】
上記式(1)で表される化合物の具体例としては、下記式(1−1)〜(1−3)で表される化合物が挙げられる。
【0042】
【化5】

【0043】
上記式(1−3)で表される化合物は、液晶性を示し、さらにそれ自体で強誘電性を示すため、特に好ましい。
【0044】
なお、上記式(1)で表される化合物を含有する溶液を用いて形成された表面処理層の状態は、下記のように、金属電極表面に、上記式(1)中のSが化学的に結合している状態であると本発明者らは推定している。
【0045】
【化6】

【0046】
本発明の金属電極は、遷移金属を用いて形成することができるが、中でも、金、銀、白金、パラジウム、クロム、鉄、ニッケル、チタンおよびコバルトからなる群より選択される少なくとも1種の金属から形成されることが好ましく、金、クロム、鉄、ニッケル、チタンおよびコバルトからなる群より選択される少なくとも1種の金属から形成されることがより好ましい。
【0047】
このような金属を用いると、金属電極に直接隣接した硫黄原子が弱く分極した状態となりやすい。
【0048】
<金属電極表面処理方法>
本発明の金属電極表面処理方法は、上記式(1)で表される化合物を含有する溶液を金属電極表面に接触させる工程を含むことを特徴としている。当該金属電極表面処理方法により、上記表面処理層が形成される。
【0049】
上記式(1)で表される化合物を溶解させる溶媒としては、メタノール、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、2−プロパノール、酢酸エチル、乳酸エチル、ジオキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロオルム、アセトニトリル、アセトン、シクロヘキサン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン、ブチルセロソルブ、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの溶媒は、1種で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0050】
溶液中の上記式(1)で表される化合物の含有濃度は、1〜50重量%であることが好ましく、5〜40重量%であることがより好ましく、10〜20重量%であることがさらに好ましい。このような含有濃度であると、金属電極表面に対する上記式(1)で表される化合物の吸着および脱着が実用的な時間で平衡状態に達しやすく、また、上記式(1)で表される化合物の単分子膜が金属電極表面に形成されやすくなる。
【0051】
上記式(1)で表される化合物を含有する溶液を金属電極表面に接触させる方法としては、浸漬法、塗布法等が挙げられる。
【0052】
浸漬法において、上記式(1)で表される化合物を含有する溶液中に、金属電極を浸漬させる時間は、溶液中の上記式(1)で表される化合物の含有濃度に依存するが、0.01〜10時間であることが好ましく、0.1〜5時間であることがより好ましく、0.1〜1時間であることが特に好ましい。
【0053】
塗布法としては、種々の方法が挙げられ、例えばスピンコート法、ディップコート法、ブレード、インクジェット法が挙げられる。
【0054】
これらの方法により、上記式(1)で表される化合物を含有する溶液を金属電極表面に接触させ、その後、洗浄、乾燥することにより、上記表面処理層が形成される。
【0055】
上記式(1)で表される化合物を含有する溶液を金属電極表面に接触させ、洗浄、乾燥することにより、金属電極界面に電離しやすい表面処理層を薄く形成することができる。電離しやすい表面処理層を薄く形成することよって、有機半導体薄膜における前記表面処理層との界面部分をイオン化させることができる。これは、Valeevのモデルによれば、有機半導体薄膜に半導体性が発現することに相当する。そして、有機半導体薄膜を形成する材料の結晶構造やその欠陥によらず、分子間距離が長く電位勾配が生じた状態で電子交換反応を起こすこと(すなわち、有機半導体性を示すこと)ができる。
【0056】
本発明の金属電極表面処理方法によって処理された金属電極によれば、有機高分子等の有機半導体薄膜形成材料が単結晶でなく、多結晶であっても、印刷方法により金属電極上に安定で良好な有機半導体薄膜を簡便に形成することができ、性能の優れた有機半導体素子、例えば、高いキャリア移動度を有するトランジスタ等を得ることができる。また、有機溶媒に対する高い溶解性を有する有機半導体薄膜形成材料を用いれば、キャスト法または印刷法等の簡便な製膜工程を利用することができるので、有機半導体薄膜形成材料の高いキャリア移動度を損なうことなく、有機半導体薄膜または有機半導体素子を製造するこ
とができる。
【0057】
また、本発明の金属電極表面処理方法によれば、金属電極表面の濡れ性が改善するため、金属電極表面への有機半導体薄膜形成材料の塗布性が向上する。
【0058】
<有機半導体素子>
本発明の有機半導体素子は、上述した金属電極と、該金属電極上に有機半導体薄膜とを有することを特徴としている。
【0059】
本発明の有機半導体素子は、電力増幅素子、信号制御素子、整流機能または信号処理機能を有する素子として用いることができる。また、有機半導体薄膜と、他の半導体性を有する有機物または無機物とを組み合わせることによって、整流素子または電流駆動型のトランジスタ、スイッチング動作を行うサイリスタ・トライアック・ダイアックなどの素子とすることができる。
【0060】
また、本発明の有機半導体素子は、表示素子としても用いることができ、特にすべての部材を有機化合物で構成した表示素子として用いることが好ましい。例えば、液晶表示素子または電子ペーパーが挙げられる。具体的には、電子ペーパーもしくはICカードタグなどのフレキシブルなシート状表示装置または固有識別符号応答装置などが挙げられる。これらの装置は、可とう性を示す高分子化合物から形成された絶縁基板の上に、有機半導体薄膜と、該薄膜を機能させる一つ以上の層とを形成することにより、作製することができる。
【0061】
フレキシブルなシート状表示装置は、有機半導体薄膜を可とう性のある高分子基板上に形成した表示素子を用いることで提供できる。この可とう性の効果より、衣類のポケットや財布などに入れて携帯することができる表示素子が実現される。
【0062】
固有識別符号応答装置は、特定周波数または特定符号を持つ電磁波に反応し、固有識別符号を含む電磁波を返答するものである。固有識別符号応答装置は、例えば、再利用可能な乗車券または会員証、代金の決済手段、荷物または商品の識別用シール、荷札または切手の役割、会社または行政サービスにおいて、高い確率で書類または個人を識別する手段として用いられる。
【0063】
固有識別符号応答装置は、ガラス基板または可とう性のある高分子基板の上に、信号に同調して受信するための空中線と、受信電力で動作し識別信号を返信する半導体素子とによって構成される。
【0064】
有機半導体薄膜形成材料としては、例えば、特開2007−217340号公報に開示されているテトラセン化合物を含む材料が挙げられる。
【0065】
有機半導体素子を製造する際、印刷方法により有機半導体薄膜を形成することが好ましい。当該印刷方法としては、インクジェット印刷、マスク印刷、スクリーン印刷およびオフセット印刷等が挙げられる。また、印刷方法による有機半導体素子の製造は、回路の単純化、製造効率の向上および素子の低廉化・軽量化に寄与する。また、加熱や真空プロセスの必要性がなく流れ作業によって製造できるので、低コスト化および工程変更への対応性を増すことに寄与する。
【0066】
前記有機半導体薄膜を形成する材料としては、上記テトラセン化合物等の有機高分子以外に、合成有機高分子を組み合わせて、樹脂組成物(ブレンド樹脂)として使用することができる。ブレンド樹脂における上記テトラセン化合物等の有機高分子の含有量は、ブレ
ンド樹脂100重量%中、1〜99重量%、好ましくは10〜99重量%、より好ましくは50〜99重量%である。
【0067】
上記合成有機高分子としては、熱可塑性高分子、熱硬化性高分子、エンジニアリングプラスチックス、導電性高分子が挙げられる。具体的には、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリシクロオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリアリレンビニレンなどが挙げられる。
【0068】
<トランジスタ>
本発明のトランジスタは、有機半導体薄膜、ゲート電極、誘電体層、ソース電極およびドレイン電極を有するトランジスタであって、前記ソース電極および前記ドレイン電極が上述の金属電極であることを特徴としている。
【0069】
具体例として、図1に示すような断面構造を有する電界効果型トランジスタ(FET(6))が挙げられる。以下、一般的なFET(6)の製造方法について、図1を参考にして説明する。
【0070】
まず、ガラス基板または高分子基板などの基板(2)の上に、金属のマスク蒸着または導電性インクの印刷により、ゲート電極(1)を形成する。必要に応じて、さらに絶縁膜(3)を形成してもよい。その上に、有機半導体薄膜形成材料の溶液を印刷、塗布または滴下することによって有機半導体薄膜(4)を形成する。有機半導体薄膜(4)の上に上記ソースおよびドレイン電極(5)を形成することにより、FET(6)を製造することができる。このようなFETは、液晶表示素子またはEL素子として用いることができる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0072】
[実施例1]
(i)表面処理された金属電極の調製
金属電極を形成する材料として、金線((株)ニラコ製AU−171481、直径:1.0mm、長さ:100mm)を用いた。当該金線を折り曲げて、下記式(1−1)で表される化合物10mgを溶解させたエタノール溶液3mlに浸漬し、該溶液の入った容器の蓋を閉じ、一晩放置して金線の表面処理を行った。
【0073】
【化7】

【0074】
一晩放置後、上記式(1−1)で表される化合物により表面処理された金線をエタノール溶液から取り出し、純エタノールで洗浄し、乾燥した。
【0075】
(ii)電界効果トランジスタ(縦型FET)の製造
上記(i)で表面処理された金線をドレイン電極およびソース電極として用い、基板上
に、ドレイン電極、ゲート電極およびソース電極をこの順序で積層し、各層をFETテス
ト用のフィクスチャー(材料固定具)に固定した(図2aおよびb参照)。
【0076】
次に、ソース・ドレイン電極間に、1,4,7,10−テトラヘキシルテトラセン(以下「化合物(2)」とも記す。)10mgをメチルエチルケトン(和光純薬製、電子材料用)1mlに溶解した溶液を0.1g滴下し、有機半導体薄膜を形成させ、該有機半導体薄膜を有する電界効果トランジスタ(縦型FET)を得た(図2aおよびb参照)。ソース・ゲート電極の間隔(L1)およびゲート・ドレイン電極の間隔(L2)の合計(チャネル長(L=L1+L2))は1μmだった(図2b参照)。なお、1,4,7,10−テトラヘキシルテトラセンは、特開2007−217340号公報に記載の方法で製造した。
【0077】
縦型FETの基本構成は下記のとおりである。
【0078】
(縦型FETの基本構成)
ゲート電極:市販の絶縁膜を形成した銅製金網(直径:3mm、厚さ:150μm[銅製金網;(株)応研商事#09−1013、TEM電子顕微鏡用グリッドメッシュ。]、[ポリイミド絶縁膜;直径:3mm])
ソース電極:上記(i)で表面処理された金線(長さ:20mmにカットしたもの)
ドレイン電極:上記(i)で表面処理された金線(長さ:20mmにカットしたもの)
基板:ガラス基板(スライドガラス(サイズ:1.3mm×26mm×76mm))
有機半導体薄膜:1,4,7,10−テトラヘキシルテトラセン
(iii)縦型FETの評価
上記(ii)で得られた縦型FETを用いて半導体特性を以下のとおり評価した。測定は、遮光、常圧(101325Pa)かつ空気雰囲気下で行った。
【0079】
上記(ii)のとおり、化合物(2)をメチルエチルケトンに溶解した溶液を0.1g滴下し、有機半導体薄膜を形成させた後、直ちにアジレントテクノロジー社製B1500三端子半導体デバイスアナライザにより、数回、電圧掃引をすると、3回目でFET応答が見られた。5回目の掃引で、FET応答はみられなくなった。3回目からは、有機半導体薄膜の結晶化の進展によってFET性能が発現した。しかしながら、5回目以降は、溶媒が乾燥し、大気暴露された有機半導体薄膜が酸化されてしまったことで、半導体としての働きをなさなくなったものと推察される。
【0080】
当該計測後、有機半導体薄膜を目視観察したところ、微結晶が多数析出しており、指で衝撃を加えたが粉末等が落ちることはなく、安定した有機半導体薄膜が形成されていることがわかった。
【0081】
次に、上記(ii)で得られた縦型FETのキャリア移動度を以下のとおり測定した。
【0082】
上記(ii)で得られた縦型FETと、アジレントテクノロジー社製B1500三端子半導体デバイスアナライザとを配線した。該B1500三端子半導体デバイスアナライザにより、ゲート電極とソース電極とを同電圧にして、ゲート電圧に対するドレイン電流(ピンチオフ電流)を計測し、ゲート電圧に対するドレイン電流(ピンチオフ電流)の絶対値の平方根の関係をグラフ化した(図3参照)。このグラフの傾き(a;0.036829)からキャリア移動度を算出した。
【0083】
ソース・ドレイン電極の幅(Z;1[mm])、チャネル長(L=L1+L2;1[μm](0.001[mm])、絶縁膜の単位面積あたりの静電容量(Co;6.4×10-5[F/cm2])より、下記計算式によってキャリア移動度(μ;cm2/Vs)を求め
た。
【0084】
μ=(L×a2)/(Z×Co)
この結果、実施例1で得られた化合物(3)のキャリア移動度は、0.021cm2
Vsであった。
【0085】
[比較例1]
金線((株)ニラコ製AU−171481、直径:1.0mm、長さ:100mm)を、表面処理せずにそのままソース電極およびドレイン電極として用いた以外は、実施例1と同様にして縦型FETを製造し、該縦型FETを評価した。
【0086】
化合物(2)をメチルエチルケトンに溶解した溶液を0.1g滴下し、有機半導体薄膜を形成させた後、直ちにアジレントテクノロジー社製B1500三端子半導体デバイスアナライザにより、数回、電圧掃引をしたが、導通はみられなかった。
【0087】
計測終了後、有機半導体薄膜を目視観察する結晶の析出が見られたが、該結晶は、指で軽く衝撃を加えることにより崩落し、電極との機械的接触ができていないことがわかった。
【符号の説明】
【0088】
1: ゲート電極
2: 基板
3: 絶縁膜
4: 有機半導体薄膜
5: ソース電極・ドレイン電極
6: FET
11: ソース電極(表面処理した金線)
12: ゲート電極(絶縁膜を表面に形成した銅製グリッド)
13: ドレイン電極(表面処理した金線)
14: ガラス基板
15: 有機半導体薄膜
16: 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物を含有する溶液を用いて形成された表面処理層を有することを特徴とする金属電極。
【化1】

(式(1)中、R1は炭素数1〜12のアルキルまたは炭素数1〜12のアルコキシであ
り、R2は単結合または炭素数1〜4のアルキレンであり、A1〜A8はそれぞれ独立にC
−HまたはNである。)
【請求項2】
前記金属電極が、金、銀、白金、パラジウム、クロム、鉄、ニッケル、チタンおよびコバルトからなる群より選択される少なくとも1種の金属から形成されることを特徴とする請求項1に記載の金属電極。
【請求項3】
前記式(1)中、A1〜A8のうちの0〜4個がNであることを特徴とする請求項1または2に記載の金属電極。
【請求項4】
前記式(1)で表される化合物が、下記式(1−1)〜(1−3)で表される化合物のいずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属電極。
【化2】

【請求項5】
下記式(1)で表される化合物を含有する溶液を金属電極表面に接触させる工程を含むことを特徴とする金属電極表面処理方法。
【化3】

(式(1)中、R1は炭素数1〜12のアルキルまたは炭素数1〜12のアルコキシであ
り、R2は単結合または炭素数1〜4のアルキレンであり、A1〜A8はそれぞれ独立にC
−HまたはNである。)
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属電極と、該金属電極上に有機半導体薄膜とを有することを特徴とする有機半導体素子。
【請求項7】
有機半導体薄膜、ゲート電極、誘電体層、ソース電極およびドレイン電極を有するトランジスタであって、前記ソース電極および前記ドレイン電極が請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属電極であることを特徴とするトランジスタ。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−138926(P2011−138926A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297901(P2009−297901)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【出願人】(596032100)チッソ石油化学株式会社 (309)
【Fターム(参考)】