説明

釣用錘

【課題】少ない流体抵抗で水中における高速落下を可能とした釣用錘を提供すること。
【解決手段】先端部18に形成した球状面部と後端部14に形成した釣糸取付部との間の外面が、軸方向中心位置よりも前方に最大径部を配置した流線形を有する回転体で形成され、重心位置が軸方向中心位置よりも前方に位置する本体部12と、この本体部12の後端部に、互いに径方向に対向して配置された尾翼16とを有し、この対向する尾翼の面積モーメント比(RatioMTA)が0.10〜0.31の範囲であり、
尾翼の面積モーメント比は、次の関係:
RatioMTA={2*TA*(L−BPAXCG)}/(BPA*L)
ここで、
Lは、本体部の軸方向に沿う長さ、
BPAは、本体部の側面投影面積、
BPAXCGは、本体部の側面投影面の面心、および
TAは、1つの尾翼の側面投影面積を示す:
にしたがって計算される釣用錘。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣用錘に関し、特に水中を高速で落下することのできる釣用錘に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水中を落下する釣用錘には、主として、鉛直方向下方に作用する錘の自重と、上方に作用する流体抵抗との2つの力が作用する。したがって、錘の落下速度を高めるためには、自重を増大すること、および、流体抵抗を減ずることが必要である。
【0003】
このような釣用錘が水中を落下する際の落下姿勢を、抗力の小さい向きに安定させることを可能とするため、重心位置を境界として、軸線に平行な投影面に対する投影面積の一次モーメントの比率を、頭部を球状に形成した下部側に対して、釣糸に接続される上部側を2.3〜5.0とした船釣り用オモリが開発されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
この船釣り用オモリは、オモリが降下するべき方向である鉛直方向に対し、オモリの軸線の角度を常に0度付近に復元させようとする復元モーメントを発生させ、水中で降下中の姿勢を、抗力の小さい向きに安定させようとするものである。この復元モーメントは、球状の頭部を配置した長さの短い下部側に対して、細くかつ長く形成し、あるいは、長く形成することに代えて安定化部材としての羽を設けた上部側で形成するものである。この安定化部材を、オモリ部材と別体に形成する場合には、従来のオモリに対しても復元力を発生させることができる。
【特許文献1】特開2004−290096
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、船舶等の流体中を移動する飛翔体では、舵あるいは尾翼による方向安定性の確保が一般的であるものの、針路安定な船とするためには、舵面積と船体側面投影面積との比が大きく影響する。このため、錘に尾翼を設ける場合においても、錘の側面投影面積と尾翼の面積とが、錘の方向安定性の目安となる。
【0006】
しかし、上述のような従来の船釣り用オモリに復元モーメントを作用させる羽は、オモリ本体の全体の投影面積との関係でその面積を定めるものではない。また、錘自体の落下方向が安定せず、この錘が鉛直方向からずれようとするときに復元モーメントを作用させるものである。このように傾いたオモリを抗力の少ない姿勢に復元しようとする復元モーメントは、例えば航行中に舵を使用して船の針路を変更すると、速度が低下することが広く知られているように、水中で落下中のオモリの向きを修正することにより、オモリの流体抵抗を増大するように作用する。
【0007】
本発明は、このような事情に基づいてなされたもので、少ない流体抵抗で水中における高速落下を可能とした釣用錘を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため、尾翼の側面投影面積が錘本体の側面投影面積に与える影響について鋭意検討し、尾翼の抵抗あるいは面積を最適に設定することにより、鉛直下方を目指した充分な方向安定性が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、先端に形成した球状面部と後端に形成した釣糸取付部との間の外面が、軸方向中心位置よりも前方に最大径部を配置した流線形を有する回転体で形成され、重心位置が軸方向中心位置よりも前方に位置する本体部と、この本体部の後端に、互いに径方向に対向する対をなして配置された尾翼とを有し、この対をなす尾翼の面積モーメント比(RatioMTA)が0.10〜0.31の範囲であり、
尾翼の面積モーメント比は、次の関係:
RatioMTA={2*TA*(L−BPAXCG)}/(BPA*L)
ここで、
Lは、本体部の軸方向に沿う長さ、
BPAは、本体部の側面投影面積、
BPAXCGは、本体部の側面投影面の面心、および
TAは、1つの尾翼の側面投影面積を示す:
にしたがって計算されることを特徴とする釣用錘を提供するものである。
【0009】
前記本体部は、最大径部から後端に向けて次第に縮径する外面が、軸方向に沿って外方に膨出した流線形の曲面で形成され、この本体部の全長が、最大径部の外径の4〜6倍の範囲であることが好ましい。
【0010】
また、4枚の前記尾翼が、周方向に沿って等間隔に配置されることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
この釣用錘によると、先端部が球状の流線形の回転体で形成されると共に重心が軸方向中心位置よりも前方に配置される本体部が、尾翼により方向安定性を確保され、鉛直に安定して落下することができ、このような方向安定性に優れた釣用錘を種々の大きさに形成することができる。
【0012】
また、最大径部から後端に向けて次第に縮径する外面が、軸方向に沿って外方に膨出した流線型の曲面で形成され、この本体部の全長を、最大径部の外径の4〜6倍の範囲とした場合には、特に、最大径部よりも後端側の外面に渦が発生するのが抑制された流線形を形成し、直進方向の抵抗が低減される。
【0013】
また、4枚の尾翼が周方向に沿って等間隔に配置されることにより、落下中における姿勢を確実に安定させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明の好ましい実施形態による釣用錘10の全体を示す。
【0015】
本実施形態の釣用錘10は、流線形の回転体で形成した中実構造の本体部12と、釣糸取付部である後端部14に配置した4枚の尾翼16とを備え、この後端部の好ましくは軸芯位置に、図示しない釣糸係止部材が取付けられる。
【0016】
本体部12は、先端部18を球形形状に形成し、最大径部20まで後端部側に向けて次第に拡径させ、この最大径部20から後端部14まで滑らかに縮径する凹凸の無い滑らかな外面を備えている。この最大径部20から後端部14に向けて縮径する部位は、軸方向に沿って半径方向外方に膨出した流線形の曲面を形成し、最大径部20を超えて後端部14までこの外面に沿う流れに乱流を形成させることなく、滑らかに変化させることが好ましい。
【0017】
先端部18が球状形状に形成されることにより、釣用錘10の向きがある程度変化しても、先端部18のの球状面に沿って滑らかな流れを形成し、先端部18における流体抵抗を小さくすることができる。また、最大径部20が本体部12の軸方向の中心位置Oよりも前方に配置されることにより、重心が前方に位置し、水中に投入したときに、先端部18が確実に下方を向く。そして、この最大径部20から後端部14に至る外面が縮径しつつ軸方向に沿って半径方向外方に膨出する流線形の曲面を形成することにより、最大径部20を超えた後も、渦のできにくい滑らかな流れを形成し、これにより、先端部18から後端部14まで、渦による粘性圧力抵抗の発生を抑制して直進方向の流体抵抗を最小とした流線形の外面を形成する。
【0018】
このような流線形の回転体で形成した本体部12の後端部14には、三角形状の4枚の尾翼16を配置してある。これらの尾翼16は、互いに同一形状に形成してあり、周方向に沿って等間隔に配置され、径方向に対向する2枚の尾翼16が同一平面内に配置される。各尾翼16の先縁部16aは、本体部16から離隔する先端に移行するにつれて薄肉化され、充分な強度を有すると共に、流体抵抗を減じる形状に形成してある。
【0019】
図2は、尾翼16が水中における釣用錘の落下速度に対する影響を確認した実験データを示す。ここに、Aは従来の鉛製の錘、B1およびB2は従来のロケット形(羽付き)の錘、C1およびC2はそれぞれ流線形の同じ外形を有する回転体で、C1は尾翼付き、C2は尾翼無しの錘である。いずれも、重さを等しく形成し、同一条件化で計測したものである。
【0020】
図2から明らかなように、尾翼の無いAおよびC1の錘よりも、ロケット形(羽付き)の錘B1,B2および尾翼付きの錘C2の方が、水中を高速で落下することができる。特に、尾翼の無いC1の錘に対し、同一形状の本体部12に尾翼16を配置した錘C2は、投入直後の50mまでの範囲でほぼ2倍の速度となることが計測された。
【0021】
この実験結果から明らかに、尾翼16が釣用錘10の方向安定性を増大し、これにより水中での落下速度が増大する。また、釣用錘の落下速度が3〜6m/s程度であることから、120号(450g)の釣用錘の本体部12の全長Lを155mmとした場合に、釣用錘のレイノルズ数Reは4.4〜8.8x10であり、直進最小抵抗となる形状は、全長/最大径の値が4〜6程度で、好ましくは5程度である。この範囲よりも小さい場合には、流体抵抗が増大し、大きい場合には、不安定となるために尾翼16の面積を大きくする必要があるためある。
【0022】
方向安定性を図る尾翼16の面積が、本体部12に対して小さすぎる場合には、釣用錘10の落下方向を安定させることはできず、逆に、大きすぎる場合は抵抗を増大し、落下速度の低下に繋がる。
【0023】
このような尾翼16の大きさを本体部12との関係は、以下の関係式で定義する尾翼モーメント比(RatioMTA)を指標として特定することができる。
【0024】
すなわち、この関係式は、
RatioMTA={2*TA*(L−BPAXCG)}/(BPA*L)、
と表される。
【0025】
ここで、*を乗算記号として、
Lは、本体部の軸方向に沿う長さ、
BPAは、本体部の側面投影面積、
BPAXCGは、本体部の側面投影面の面心、および
TAは、1つの尾翼の側面投影面積を示す。
【0026】
なお、図1では、BPAXCGを、便宜的に先端部18から本体部12の外面上に配置した点Fまでの距離として示してあるが、この点Fは、実際には本体部12の側面投影面内に表示されるものであることは明らかである。
【0027】
図3は、上述の関係式で特定される面積モーメントを種々変更した尾翼16を、同一形状の流線形の回転体で形成した本体部12に取付けた釣用錘10について水中での最大落下速度を比較した実験結果を示す。
【0028】
この実験では、本体部12の軸方向に沿う全長Lが155mmで、この全長Lに対して先端部18の球状形状の半径を0.07〜0.08L、先端部18から0.2Lの位置における最大径部の直径dを0.19〜0.2L、後端部14の端面の外径を0.04Lに形成し、本体部12の側面投影面積(BPA)を1584.5mm、その面心(BPAXCG)を66.3mmに形成してある。そして、それぞれ面積(TA)の異なる尾翼16を設けた4つの実験例D1〜D4について実験を行ったものである。
【0029】
実験例D1の尾翼16は、底辺の長さが20mm、高さが8mmの直角三角形で、2枚の尾翼16の面積の合計が160mmであり、実験例D2の尾翼は、それぞれ25mmの2つの辺と略14mm他辺とを有し、高さを略13.3mmの二等辺三角形で、2枚の尾翼16の合計が略332mmに形成してある。また、実験例D3は、底辺の長さが30mm、高さが15mmの直角三角形で、2枚の尾翼16の合計面積が450mmであり、実験例D4は、底辺の長さが30mm、高さが28mmの直角三角形で、2枚の尾翼16の合計面積が840mmに形成してある。これらの実験例D1〜D4の尾翼面積モーメント(TA*(L−BPAXCG))は、それぞれ14192mm、29471mm、39915mm、74508mmであり、尾翼面積比(TA/BPA)は、それぞれ略0.10、0.20、0.28、0.53である。また、実験例D1〜D4の面積モーメント比(RatioMTA)は、それぞれ略0.06、0.12,0.16、0.31である。
【0030】
このような実験例D1〜D4の釣用錘について測定した最大速度は、水深20m付近で発生していた。
【0031】
図3に示すように、尾翼面積モーメント比が略0.06の実験例D1は、方向安定性に劣り、水中で斜航し、最大速度が略3.5m/sであった。これに対し、尾翼面積モーメント比が0.1以上である実験例D2〜D4は、いずれも略6m/s以上の速度が得られ、方向安定性が確保されていることが判明した。
【0032】
図3に示す符号Eは、優れた方向安定性が得られると共に、尾翼16の面積が最も小さく、したがって尾翼16の流体抵抗が最も小さい最適の範囲であり、この範囲は0.10〜0.12である。勿論、実験例D4のように、面積モーメント比が0.31であっても、最大速度が6m/sに満たない従来の錘(B2)よりも高速で落下することができる。したがって、面積モーメント比は0.1〜0.31の範囲であれば、従来の錘A,Bよりも高速で水中を落下することができる。
【0033】
逆に、尾翼16の面積モーメント比が0.1に満たない斜航エリア内では、尾翼16による方向安定性が確保されず、流線形回転体で形成した本体部12の利点を有効に利用することができないことになる。
【0034】
図4は、種々の釣用錘を用いたときの魚釣用リールからのの釣糸送出速度と釣糸送出長さとを実測した計測値をグラフで示す。これは、従来の鉛製錘Aおよびロケット形錘(羽付き)Bと共に、上述の実験例D2およびD3による釣用錘10の水中落下速度を同一条件(風速4〜8m/s)下で測定したものである。
【0035】
図4に示す実験結果から明らかに、釣糸送出速度は、従来の錘A,Bの最大速度が5m/sに満たないのに対し、上述の実験例D2が7.14m/s、実験例D3が6.56m/sの最大速度となり、いずれもよりも極めて高速で水中を落下することが確認された。
【0036】
このように、上述の釣用錘10は、流体抵抗が小さい外形形状を備えた本体部12に方向安定性を確保する尾翼16を効果的に配置したことにより、比重の小さな鉄材料で形成することもでき、例えば鋳造により製造する場合には、極めて安価に製造することができ、鉛のような比重の大きな材料を必要としない。必要な場合には、外周部に保護用被膜(図示しない)を設けることにより、耐食性を向上させることも可能である。また、尾翼16の面積を面積モーメント比から求めることができるため、本体部12の外形形状あるいは寸法を種々変更した場合であっても、水中を高速で落下することのできる釣用錘10を極めて簡単に形成することができる。更に、本体部12内に、比重の大きな材料を配置することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の好ましい実施形態による釣用錘の全体構造を示す図。
【図2】釣用錘の尾翼の効果を示すグラフ図。
【図3】尾翼の面積モーメント比による方向安定性を示すグラフ図。
【図4】種々の釣用錘の釣糸送出速度と釣糸送出し長さとの関係を示すグラフ図。
【符号の説明】
【0038】
10…釣用錘、12…本体部、14…後端部、16…尾翼、18先端部、20…最大径部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に形成した球状面部と後端部に形成した釣糸取付部との間の外面が、軸方向中心位置よりも前方に最大径部を配置した流線形を有する回転体で形成され、重心位置が軸方向中心位置よりも前方に位置する本体部と、この本体部の後端部に、互いに径方向に対向して配置された尾翼とを有し、この対向する尾翼の面積モーメント比(RatioMTA)が0.10〜0.31の範囲であり、
尾翼の面積モーメント比は、次の関係:
RatioMTA={2*TA*(L−BPAXCG)}/(BPA*L)
ここで、
Lは、本体部の軸方向に沿う長さ、
BPAは、本体部の側面投影面積、
BPAXCGは、本体部の側面投影面の面心、および
TAは、1つの尾翼の側面投影面積を示す:
にしたがって計算されることを特徴とする釣用錘。
【請求項2】
前記本体部は、最大径部から後端部に向けて次第に縮径する外面が、軸方向に沿って外方に膨出した流線形の曲面で形成され、この本体部の全長が、最大径部の外径の4〜6倍の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の釣用錘。
【請求項3】
4枚の前記尾翼が、周方向に沿って等間隔に配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の釣用錘。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−237167(P2008−237167A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85729(P2007−85729)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】