鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁の接合装置及び鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁の接合構造
【課題】十分な接合性能が得られるとともに、高い施工精度を要求されることなく、容易にかつ的確にS梁をRC柱に接合することが可能なRC柱とS梁の接合装置及びRC柱とS梁の接合構造を提供する。
【解決手段】フープ筋3内方に配設してRC柱1に埋設する接合金物6と、接合金物に基端部分12aを接合し、先端部分12cのネジ孔をRC柱側面に開口すべく、フープ筋を避けてRC柱に埋設する雌ネジ部材12と、ルーズホールを有し、RC柱との間にグラウト充填空間を形成すべく、RC柱に面するS梁端部に設けるエンドプレートと、エンドプレートと雌ネジ部材を結合すべくルーズホールに挿通され、雌ネジ部材と螺合される第1ネジ部が一端に形成され、他端にエンドプレートと締結される第2ネジ部が形成されると共に、第1ネジ部と第2ネジ部の間のRC柱側面を経過する箇所に、軸体部が形成された接合ネジ部材を備えた。
【解決手段】フープ筋3内方に配設してRC柱1に埋設する接合金物6と、接合金物に基端部分12aを接合し、先端部分12cのネジ孔をRC柱側面に開口すべく、フープ筋を避けてRC柱に埋設する雌ネジ部材12と、ルーズホールを有し、RC柱との間にグラウト充填空間を形成すべく、RC柱に面するS梁端部に設けるエンドプレートと、エンドプレートと雌ネジ部材を結合すべくルーズホールに挿通され、雌ネジ部材と螺合される第1ネジ部が一端に形成され、他端にエンドプレートと締結される第2ネジ部が形成されると共に、第1ネジ部と第2ネジ部の間のRC柱側面を経過する箇所に、軸体部が形成された接合ネジ部材を備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、十分な接合性能が得られるとともに、高い施工精度を要求されることなく、容易にかつ的確にS梁をRC柱に接合することが可能な鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁の接合装置及び鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート(以下、「RC」という)柱とRC梁とを接合して構築するRC構造においては、特に現場打ちの場合、RC梁が所定のコンクリート強度を発現するまでは底型枠を脱型できず、支保工を撤去できないことから、RC梁の施工期間がかかり、RC梁の下方空間における他の作業に支障を来す。そこで、近年では、工期短縮や作業性の改善を図るために、H形鋼などの鉄骨梁(以下、「S梁」という)を用いた構造が採用されてきており、RC柱とS梁との接合技術が数多く開発されている。
【0003】
しかしながら、RC柱とS梁を接合するにあたって、例えば、S梁の一部をRC柱の内部に埋設する技術においては、柱梁接合部内の配筋作業に手間がかかって施工性が良くないばかりでなく、S梁によって柱梁接合部における梁成範囲内にフープ筋を配設するのが難しい。さらに、S梁端部に作用する曲げモーメントや、それに伴い、RC柱のコンクリートに生じるS梁のフランジ面からの支圧力により、前述したようにフープ筋が配設されない場合には、柱のコンクリートが早期に剥落するといった問題が懸念される。また、コンクリート打設に際して、S梁がRC柱から突出していることから、柱梁接合部の型枠作業は非常に煩雑である。
【0004】
これら問題点を解決するため、上述した接合構造においては、柱梁接合部の外周面に鋼板製等の塞ぎ板を設けることが一般的であり、かえって従来のRC構造よりも施工コストが嵩むものであった。
【0005】
一方、性能面や施工面における上記問題点を改善するため、予め、RC柱内部に埋設した「通しボルト」や「接合金物」を用いて、これらにS梁をボルト接合する技術も開示されている(特許文献1及び2参照)。
【0006】
特許文献1の「鉄骨梁とコンクリート体との接合構造、およびその施工方法」では、コンクリート体内にPC鋼材が設置され、PC鋼材に引張力が導入されるとともにPC鋼材の端部が鉄骨梁に定着されることで、コンクリート体にプレストレスが付与され、鉄骨梁の端面がコンクリート体の側面に圧着される鉄骨梁とコンクリート体との接合構造において、コンクリート体の内部には、PC鋼材を挿通させるためのシース管が埋設され、シース管の端部には、先端が鉄骨梁の端面に当接されるとともにその中にPC鋼材が挿通される中空のカプラーが取り付けられている。
【0007】
特許文献2の「柱梁接合部」では、RC製又は鋼管コンクリート製の柱に柱梁接合部たるパネルゾーン体が介在され、このパネルゾーン体は、柱に接合すべき鉄骨製の梁の上下フランジ位置に各々配置される上下一対の接合金物から構成され、かつ、各接合金物にはコンクリートあるいは鉄筋用の通し孔がそれぞれ設けられ、各接合金物の各側面には、ボルト締結用金物を介して前記梁の上下フランジの端部がそれぞれボルト締結されるようになっている。
【0008】
さらに、特許文献3が知られている。特許文献3の「被覆鋼管コンクリート柱を用いた構造」では、一階毎に床上端レベルで区切られたプレキャスト鉄筋コンクリート材で鋼管柱を被覆し、梁との仕口部分はプレキャスト鉄筋コンクリート部材に設けられた孔を通して、プレキャスト鉄筋コンクリート部材の上から梁をボルトで鋼管柱に接合し、現場打ちコンクリートを鋼管柱内部だけにするようにしている。この技術は、RC柱ではないものの、鉄筋を埋設したコンクリートで被覆した鋼管柱(被覆鋼管コンクリート柱)に孔を形成し、その孔と連通する鋼製筒部材を鋼管柱外周面に設けるとともに、その鋼製筒部材に高力ボルトを挿通させることでS梁を接合するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−211449号公報
【特許文献2】特開平03−244725号公報
【特許文献3】特開平07−062741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これらボルト接合による背景技術は、従来よりも施工性に優れるが、以下のような課題が挙げられる。
【0011】
通しボルトは、RC柱の全幅で埋め込まれるため、接合性能として剛性が低くなってしまい、その傾向は、RC柱が大型化することで顕著に現れる。特許文献1では、シース管に挿入したPC鋼材に張力を付与することで性能面の問題解決を企図しているが、現場にて全てのPC鋼材に一定の張力を導入することは非常に難しい。さらに、柱梁接合部は高所であるため、S梁を仮固定した状態での緊張装置による張力導入作業は非常に手間がかかる。
【0012】
プレキャスト柱などであれば、予めPC鋼材に一定の張力を付与することも可能だが、PC鋼材両端部の雄ネジ部分や張力を保持するナットがRC柱外周面から突出した状態になるため、柱運搬時に雄ネジ部分が曲がってしまうなど、損傷を来す虞がある。この点は、通しボルトであっても同様である。
【0013】
ボルトによるRC柱とS梁の接合では、RC柱外周面とS梁端部との境界面、すなわち柱と梁のせん断面に、雄ネジ部分が位置することとなる。雄ネジ部分は変形能に乏しく、従って変形性能が劣ることになる。
【0014】
また、S梁端部には、ボルト接合用として、ボルト孔を形成したエンドプレートが取り付けられ、このボルト孔にボルトが挿通されるが、S梁端部に大きなせん断力が作用したり、外力の作用でPC鋼材にかけたプレストレスが相殺されたり、あるいは、上記境界面におけるせん断方向摩擦力が低下すると、ボルト孔とボルトの相対移動が生じ、これによりボルト孔内面とボルトの雄ネジ部分とが点接触状態になる虞がある。点接触状態になると、その部分に曲げ(引張)せん断力が集中することとなり、接合性能が低下して、脆性的な破壊やせん断破壊が生じる虞がある。
【0015】
RC柱内部に埋設する通しボルトやシース管、接合金物は、これらに接合されるボルトと当該ボルトを挿通するボルト孔のクリアランスが数mm程度と僅かであるため、精度良く施工しないと、所定の位置にエンドプレート、そしてまたS梁を接合できない虞もある。
【0016】
特許文献2の接合金物は、S梁を接合した後にコンクリートを打設する必要があることから、型枠等の作業性が悪く、施工に手間がかかるという課題もある。
【0017】
特許文献3は、鋼管柱内部にコンクリートを打設する前に、予め鋼製筒部材に高力ボルトを挿通して、鋼管柱とS梁を接合しておく必要があり、鋼管柱内部での接合作業性が良くなく、梁成が大きくなればなるほど、困難性が増すという課題がある。また、柱にS梁を直接接合するため、その境界面では構造的に不連続となり、S梁から柱への応力伝達が十分になされたいため、接合部の性能が懸念される。
【0018】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、十分な接合性能が得られるとともに、高い施工精度を要求されることなく、容易にかつ的確にS梁をRC柱に接合することが可能なRC柱とS梁の接合装置及びRC柱とS梁の接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明にかかるRC柱とS梁の接合装置は、鉄筋コンクリート柱に鉄骨梁を接合するための装置であって、フープ筋内方に配設して上記鉄筋コンクリート柱に埋設するための接合金物と、該接合金物に基端部分を接合し、先端部分のネジ孔を上記鉄筋コンクリート柱の側面に開口すべく、上記フープ筋を避けて該鉄筋コンクリート柱に埋設するための雌ネジ部材と、ルーズホールが形成され、上記鉄筋コンクリート柱の側面との間にグラウト充填空間を形成すべく、該鉄筋コンクリート柱の側面に面する上記鉄骨梁の端部に設けるためのエンドプレートと、該エンドプレートと上記雌ネジ部材を結合するために上記ルーズホールに挿通して設けられ、上記ネジ孔を介して上記雌ネジ部材と螺合される第1ネジ部が一端に形成され、他端に上記エンドプレートと締結される第2ネジ部が形成されると共に、該第1ネジ部と該第2ネジ部の間に位置して上記鉄筋コンクリート柱の側面を経過する箇所に、軸体部が形成された接合ネジ部材とを備えたことを特徴とする。
【0020】
本発明にかかるRC柱とS梁の接合構造は、前記鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁の接合装置を用い、前記鉄筋コンクリート柱には、前記雌ネジ部材を接合した前記接合金物が埋設され、前記鉄骨梁には、前記エンドプレートが設けられ、前記ルーズホールに挿通され、上記鉄筋コンクリート柱の側面を前記軸体部が経過して、前記第1ネジ部が上記雌ネジ部材に螺合されると共に、前記第2ネジ部が上記エンドプレートに締結される前記接合ネジ部材により、該鉄筋コンクリート柱の側面に上記鉄骨梁が接続され、上記鉄筋コンクリート柱の側面と上記エンドプレートとの間に上記ルーズホールに亘ってグラウトが充填されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかるRC柱とS梁の接合装置及びRC柱とS梁の接合構造にあっては、十分な接合性能が得られるとともに、高い施工精度を要求されることなく、容易にかつ的確にS梁をRC柱に接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るRC柱とS梁の接合装置の第1実施形態に適用される接合金物を示す斜視図である。
【図2】図1の接合金物に雌ネジ部材を接合した様子を示す斜視図である。
【図3】図2に示した雌ネジ部材付きの接合金物の正面図である。
【図4】図2に示した雌ネジ部材付きの接合金物の側面図である。
【図5】図2に示した雌ネジ部材付きの接合金物をRC柱に埋設した状態の平面図である。
【図6】本発明に係るRC柱とS梁の接合構造の好適な実施形態を説明するための、S梁の接合状況を示す斜視図である。
【図7】図6に示したRC柱とS梁の接合構造の要部拡大側断面図である。
【図8】図6に示したRC柱とS梁の接合構造の一部破断平面図である。
【図9】本発明に係るRC柱とS梁の接合装置の第2実施形態に適用される接合金物を示す斜視図である。
【図10】図9の接合金物に雌ネジ部材を接合した様子を示す斜視図である。
【図11】図10に示した雌ネジ部材付きの接合金物の正面図である。
【図12】図10に示した雌ネジ部材付きの接合金物をRC柱に埋設した状態の平面図である。
【図13】図10に示した雌ネジ部材付きの接合金物をRC柱に埋設した状態の側面図である。
【図14】図10に示した雌ネジ部材付き接合金物を中央柱に適用した場合のRC柱とS梁の接合構造の一部破断平面図である。
【図15】本発明にかかるRC柱とS梁の接合装置及びRC柱とS梁の接合構造の変形例を示す一部破断平面図である。
【図16】本発明に係るRC柱とS梁の接合装置に適用される接合金物の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明に係るRC柱とS梁の接合装置及びRC柱とS梁の接合構造の好適な実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。図1から図8には、RC柱とS梁の接合装置の第1実施形態が示されている。
【0024】
RC柱1は従来周知のように、柱主筋2及び柱主筋2周りに配筋したフープ筋3を、柱のコンクリート4内部に埋設して形成される。S梁5も従来周知のように、H形鋼などで構成される。接合金物6は、RC柱1に埋設され、当該RC柱1にS梁5を接合して定着するための部品である。接合金物6は、鋼板を互いに溶接接合することで構成される。H形鋼を組み込んで構成するようにしてもよい。
【0025】
接合金物6の平面外形寸法は、RC柱1に埋設されるフープ筋3内方に配設し得るように、当該フープ筋3の内径寸法よりも小さく設定される。さらに具体的には、接合金物6は、フープ筋3の内側に配設される柱主筋2と干渉しないように、当該柱主筋2の配筋位置内方に納まる平面外形寸法で形成される。
【0026】
接合金物6の平面断面形状は、S梁5が四方から接合される中央柱に埋設される接合金物であれば、これらS梁5の配置に対応させて少なくとも4面を有する形態で、S梁5が三方もしくは左右二方から接合される側柱に埋設されるものであれば、これらS梁5の配置に対応させて少なくとも3面もしくは2面を有する形態で、S梁5が直交する方向から接合される隅柱に埋設されるものであれば、これらS梁5の配置に対応させて少なくとも直交する配置で2面を有する形態で形成される。もちろん、それ以上の面を有する平面断面形状で形成してもよい。
【0027】
図1から図5には、中央柱に適用するために、平面断面形状が4面を有する閉鎖型断面の正方形状に形成された接合金物6が示されている。接合金物6の平面断面形状は、閉鎖型断面に限らず、十字形状などの開断面形状であってもよい(図15参照)。
【0028】
図1には、第1実施形態の接合金物6が具体的に示されている。この接合金物6は、1つのH形鋼7に、鋼板をT字状に組んで作成した4つのT字ユニット8を組み付けることで構成されている。H形鋼7は、長さ寸法が接合金物6の高さ寸法に設定され、柱高さ方向に沿う縦向きで用いられる。
【0029】
4つのT字ユニット8は、H形鋼7の上方部分及び下方部分それぞれに2つずつ、H形鋼7のフランジ7a間を閉塞するように組み付けられる。具体的にはH形鋼7の上方部分においては、2つのT字ユニット8は、H形鋼7のウエブ7bを挟んでその両面に、それらの脚片8a下端が接合され、それらの左右方向腕片8b両端が各フランジ7a先端に接合される。H形鋼7の下方部分においても、同様にして、2つのT字ユニット8が接合される。
【0030】
これらT字ユニット8及びH形鋼7により、S梁5の上端及び下端に対応する接合金物6の上部及び下部にはそれぞれ、平面外形輪郭が閉鎖型断面の正方形状で、内部に十字形状の骨組みを備える中空筒状の上部接合部6a及び下部接合部6bが形成される。
【0031】
これら上部接合部6aと下部接合部6bで挟まれた接合金物6の中央部(H形鋼7の中間部分)には、上下のT字ユニット8により横向き開口部9aが区画形成され、これにより平面断面形状がH形鋼7のウエブ7bとフランジ7aによるH形状の開断面であって、中空筒体状の上部及び下部接合部6a,6bに連通して柱のコンクリート4を流通させるコンクリート流通部9が形成される。
【0032】
コンクリート流通部9に位置するウエブ7b部分には、これを貫通して、柱のコンクリート4を流通させる大径の丸穴部10が形成される。H形鋼7のウエブ7bの上下端縁及びT字ユニット8の各脚片8aの上下端縁には、弧状の切り欠き部11が形成される。
【0033】
これら切り欠き部11、丸穴部10、並びにT字ユニット8間の横向き開口部9aにより、柱のコンクリート4の充填性と、接合金物6の軽量化が図られる。H形鋼7について、これに代えて、鋼板をH字状に組んで作成したH字ユニットを用いるようにしてもよい。
【0034】
接合金物6には、RC柱1に埋設するための直管状の雌ネジ部材12の基端部分12aが接合される。雌ネジ部材12は、S梁5を接合金物6に結合するための部品である。雌ネジ部材12は鋼製で形成され、図7に示すように内部にネジ穴12bが形成される。第1実施形態にあっては、雌ネジ部材12の基端部分12aは、接合金物6の4面、すなわちH形鋼7の各フランジ7a及びT字ユニット8の左右方向腕片8bに形成されたボルト挿通孔13に挿通される高力ボルト14をネジ孔12bに螺合することで、接合金物6に接合される。
【0035】
雌ネジ部材12の先端部分12cは、当該先端部分12cのネジ孔12bがRC柱1の側面に開口するように、RC柱1の側面に、ほぼ面一に揃えて配置される。ネジ孔12bがRC柱1の側面に開口するとは、雌ネジ部材12がRC柱1の側面から突出して、先端部分12cのネジ孔12bがRC柱1の側面位置よりも外方で開口する状態を除く意味である。他方、RC柱1の側面位置から僅かながら没していても、当該RC柱1の側面に先端部分12cのネジ孔12bが開口している状態を含む意味である。
【0036】
雌ネジ部材12は、RC柱1のフープ筋3の配設位置を避けて、設けられる。従って、接合金物6のボルト挿通孔13位置は、フープ筋3の配筋位置を避けて設定される。図示例にあっては、雌ネジ部材12は、接合金物6の上部及び下部接合部6a,6bの各4面に4つずつ、計32個配設される。
【0037】
雌ネジ部材12の先端部分12cの端縁には図7に示すように、RC柱1とS梁5の接合部分のせん断性能を向上するために、ネジ孔を形成しないネジ無し孔部12dが形成される。ネジ無し孔部12dは例えば、ネジ孔12bに対し面取りなどを施したザグリによって形成される。
【0038】
図6から図8には、RC柱1の側面に面する各S梁5の端部に設けるためのエンドプレート15が示されている。エンドプレート15は鋼製で形成され、例えばH形鋼製のS梁5の上下フランジ5a及びウエブ5bに溶接接合される。エンドプレート15は、これにリブを形成するなどして、S梁5にボルト接合するようにしてもよい。エンドプレート15は、S梁5端部の外形寸法よりも一回り大きな外形寸法で形成される。
【0039】
エンドプレート15は、RC柱1の側面との間に、グラウト材G充填用のグラウト充填空間Qを形成するために、S梁5端部に接合された状態で、RC柱1の側面から間隔を空けて配置される。エンドプレート15には、雌ネジ部材12のネジ孔12b位置に対応させて、ルーズホール16が貫通形成される。
【0040】
ルーズホール16には、後述するように、エンドプレート15を貫通して雌ネジ部材12のネジ孔12bに螺合される接合ネジ部材17が挿通される。ルーズホール16の穴径は、当該接合ネジ部材17を高い融通性で緩く挿通し得、かつグラウト充填空間Qに充填されるグラウト材Gが接合ネジ部材17と当該ルーズホール16との間の隙間に回り込み得るように、接合ネジ部材17の外径寸法よりも過度に大きく設定される。以上のエンドプレート15は、接合ネジ部材17を介してS梁5を雌ネジ部材12と結合し、かつ、RC柱1の側面との間にグラウト充填空間Qを形成するための部品である。
【0041】
エンドプレート15のルーズホール16には、軸体状の接合ネジ部材17が挿通して設けられる。接合ネジ部材17は、エンドプレート15、ひいてはS梁5を、雌ネジ部材12に結合するための部品である。接合ネジ部材17には、長さ方向一端に、ネジ孔12bを介して雌ネジ部材12と螺合される第1ネジ部17aが形成される。
【0042】
接合ネジ部材17の他端には、エンドプレート15に締結するための第2ネジ部17bが形成される。接合ネジ部材17は、ルーズホール16を封鎖するワッシャ18を介して、第2ネジ部17bにナット19が螺合されることにより、グラウト充填空間Qに充填されたグラウト材Gや雌ネジ部材12と螺合された第1ネジ部17aに締め付け反力をとって、エンドプレート15に締結される。
【0043】
接合ネジ部材17には、RC柱1とS梁5の接合部分のせん断性能を向上するために、第1ネジ部17aと第2ネジ部17bの間に位置して、RC柱1の側面を経過する箇所を含む適宜長さに亘り、ネジを形成しない軸体部17cが形成される。
【0044】
さらに、上記部品に加えて、グラウト充填空間Qに充填するグラウト材Gが用いられる。グラウト充填空間Qは、互いに間隔を空けて向かい合うエンドプレート15とRC柱1の側面との間に、別途型枠を配設することで区画形成される。
【0045】
グラウト材Gは、一般周知の高強度無収縮モルタル等であって、エンドプレート15とRC柱1の側面の間及びルーズホール16と接合ネジ部17の隙間に充填される。また、グラウト材Gは、ネジ孔12bのネジ無し孔部12dへも充填される。
【0046】
次に、第1実施形態に係るRC柱とS梁の接合装置を用いたRC柱とS梁の接合構造について説明する。図6から図8に示すように、RC柱1の柱のコンクリート4内には、雌ネジ部材12を接合した接合金物6が埋設される。接合金物6は、フープ筋3内方に配設される。雌ネジ部材12は、フープ筋3を避けて配設され、先端部分12cのネジ孔12bがRC柱1の側面に開口される。
【0047】
他方、RC柱1の側面に面するS梁5の端部には、エンドプレート15が接合して設けられる。エンドプレート15は、グラウト充填空間Qを形成するために、RC柱1の側面から間隔を空けて配置される。
【0048】
エンドプレート15のルーズホール16には、接合ネジ部材17が挿通して設けられる。接合ネジ部材17の第1ネジ部17aは、ネジ孔12bを介して雌ネジ部材12に先端部分12c側から螺合される。第1ネジ部17aを螺合することにより、軸体部17cはRC柱1の側面を経過する箇所に配置される。また、軸体部17cは、ネジ孔12bのネジ無し孔部12dに面して位置される。
【0049】
エンドプレート15とRC柱1の側面の間のグラウト充填空間Qには、RC柱1の側面とエンドプレート15を接合すると共に、ルーズホール16内に流入して接合ネジ部材17を当該ルーズホール16内に定着するためのグラウト材Gが充填される。グラウト材Gは、ネジ無し孔部12dへも流入する。
【0050】
エンドプレート15からS梁5側に突出する接合ネジ部材17の第2ネジ部17bには、ルーズホール16を封鎖するワッシャ18を介してナット19が螺合され、これにより第2ネジ部17bがエンドプレート15に締結される。接合ネジ部材17の第1ネジ部17aが、RC柱1内部に埋設した雌ネジ部材12に螺合され、第2ネジ部17bが、S梁5に接合したエンドプレート15に締結されることで、S梁5はRC柱1の側面に接合される。
【0051】
次に、上記実施形態に係るRC柱とS梁の接合装置及びRC柱とS梁の接合構造の作用について説明する。本接合装置を用いて、本接合構造を構築する手順を説明すると、まず、H形鋼7にT字ユニット8を接合して、接合金物6を作製する。接合金物6の4面には、ボルト挿通孔13を形成しておく。
【0052】
柱主筋2とフープ筋3を組んで構成した柱鉄筋籠の内方に、接合金物6を挿入配置し、当該柱鉄筋籠に取付固定する。次いで、ボルト挿通孔13に高力ボルト14を挿通し、雌ネジ部材12の基端部分12aを接合金物6に接合する。雌ネジ部材12の接合金物6への取り付けは、柱鉄筋籠との融通が利けば、柱鉄筋籠に接合金物6を挿入する以前に予め行っておいてもよい。
【0053】
次いで、接合金物6を固定した柱鉄筋籠を柱型枠内に配設し、柱型枠内部に柱のコンクリート4を打設して、柱鉄筋籠と共に、雌ネジ部材12付きの接合金物6を柱のコンクリート4内に埋設し、RC柱1を形成する。RC柱1の形成は、プレキャストもしくは現場打ちのいずれであってもよい。
【0054】
他方、S梁5の端部に、エンドプレート15を接合して取り付ける。エンドプレート15には、ルーズホール16を形成しておく。
【0055】
RC柱1の構築位置において、RC柱1とエンドプレート15との間にグラウト充填空間Qを確保するようにして、S梁5を建て込む。次いで、接合ネジ部材17をルーズホール16に挿通し、第1ネジ部17aを雌ネジ部材12に螺合する。他方、第2ネジ部17bに、ワッシャ18を介してナット19を螺合し、これにより、S梁5をRC柱1に仮接合する。
【0056】
次いで、型枠で取り囲んで形成したグラウト充填空間Qに、ルーズホール16内やネジ無し孔部12dへも流入させるようにしてグラウト材Gを充填し、その後、グラウト材Gを固化させる。
【0057】
グラウト材Gが固化したら、ナット19を第2ネジ部17bに本締めする。これにより、本接合装置を用いて、本接合構造が構築される。
【0058】
以上説明した第1実施形態に係るRC柱とS梁の接合装置及びRC柱とS梁の接合構造にあっては、RC柱1内に接合金物6を埋設していて、雌ネジ部材12の長さ及び接合ネジ部材17の長さは、接合に要する必要最小限の長さで足りるので、背景技術のようにRC柱全幅で埋め込む必要のある通しボルトに比べて、接合部分の剛性を高く確保でき、接合性能を向上することができる。
【0059】
接合金物6をフープ筋3内方に配設するようにしたので、フープ筋3及び柱主筋1と柱のコンクリート4との一体性が損なわれることはなく、柱のコンクリート4の早期剥離などを防止できて、RC柱1の構造性能を適切に確保することができる。
【0060】
RC柱1に埋設する雌ネジ部材12の先端部分12cのネジ孔12bを、RC柱1の側面に開口するようにしたので、背景技術のようにRC柱の外周面から接合用部品が突出することがなく、接合箇所が損傷を受けることを防止することができる。
【0061】
接合ネジ部材17に関し、せん断変形が生じるRC柱1とS梁5の接合境界面であるRC柱1の側面を経過する箇所に、ネジを形成しない軸体部17cを位置させるようにしていて、当該軸体部17cは、背景技術における雄ネジ部分よりも高いせん断変形能を発揮するので、RC柱1とS梁5との接合部分の変形性能を向上でき、せん断破壊を防止することができる。軸体部17cを、第1及び第2ネジ部17a,17bの谷径よりも細径にすれば、接合ネジ部材17は、軸体部17cで確実に変形するので、設計段階での性能把握も適切に行うことができる。
【0062】
RC柱1の側面とS梁5端部のエンドプレート15との間に、グラウト材Gを充填するようにしたので、構造的連続性を確保でき、S梁5からRC柱1への応力伝達を十分に確保できて、接合部分の性能を向上することができる。
【0063】
エンドプレート15に、接合ネジ部材17との間にグラウト材Gが回り込むルーズホール16を形成したので、当該ルーズホール16内で接合ネジ部材17を定着させることができ、S梁5端部に大きなせん断力が作用したり、接合境界面におけるせん断方向の摩擦力が低下しても、ルーズホール16に対し、接合ネジ部材17が動いて点接触状態となることを防止できて、当該箇所に曲げ(引張)せん断力が集中することを防止できる。
【0064】
RC柱1の側面に面する雌ネジ部材12の先端部分12cの端縁にネジ無し孔部12dを形成したので、これに充填されるグラウト材Gとも相俟って、せん断力によって接合ネジ部材17とネジ孔12bとが点接触状態になることを防止でき、せん断破壊を防止できて、せん断耐力を向上することができる。
【0065】
接合金物6は、S梁5の上下フランジ5aに対応する上部及び下部接合部6a,6bを有し、各接合部6a,6bには図8に示すように、例えばH形鋼7の一対のフランジ7aと2つのT字ユニット8の脚片8aによってS梁5の長さ方向に3段、またH形鋼7のウエブ7bと2つのT字ユニット8の左右方向腕片8bによってS梁5と直交する方向に3段の補剛部分を確保することができ、高い接合性能を確保することができる。
【0066】
他方、施工面からすると、基本的にネジ接合であり、背景技術のように煩雑で作業精度が要求される張力の導入による場合に比べて、容易に施工することができる。
【0067】
エンドプレート15にはルーズホール16を形成し、RC柱1に埋設した雌ネジ部材12と接合する接合ネジ部材17を、このルーズホール16に挿通するようにしたので、S梁5の接合位置調整に融通を利かせることができ、容易かつ的確にS梁5をRC柱1に接合することができる。
【0068】
S梁5をRC柱1に接合する前に、雌ネジ部材12付きの接合金物6を柱のコンクリート4中に埋設して、柱梁仕口部を含めてRC柱1を完成しておくことができ、背景技術のように、柱のコンクリートを打設する前に、S梁との接合部を施工するのに比べて、容易に施工することができる。
【0069】
また、接合金物6に、コンクリート流通部9を形成したので、柱のコンクリート4の充填性を良好に確保することができる。
【0070】
第1実施形態にあっては、接合ネジ部材17として第2ネジ部17bにナット19が螺合されるものを例示して説明したが、ナットを省略して、頭付きの高力ボルトなどを採用してもよい。第1及び第2ネジ部17a,17bは、転造加工によるものが好ましい。
【0071】
なお、RC柱1の側面に開口するネジ孔12bについては、使用しないネジ孔12bがある場合には、当該ネジ孔12bに栓をすることなどで塞ぐことができ、これにより、例えば中央柱に適用するものを、側柱や隅柱に流用することができる。
【0072】
図9から図14には、本発明に係るRC柱とS梁の接合装置の第2実施形態が示されている。第2実施形態では、接合金物6として、左右2面にS梁5が接合される側柱用のものが示されている。図14では、4面に雌ネジ部材12が取り付けられているが、使用しない雌ネジ部材12には上述したように、栓などをすればよい。
【0073】
この接合金物6は、1つのH形鋼7に、4枚の短尺な鋼板20を組み付けることで構成されている。4枚の鋼板20は、H形鋼7の上方部分及び下方部分それぞれに2枚ずつ、H形鋼7のフランジ7a間を閉塞するように組み付けられる。具体的にはH形鋼7の上方部分においては、2枚の鋼板20の縦向き両端縁がそれぞれ各フランジ7a先端に接合される。H形鋼7の下方部分においても、同様にして、2枚の鋼板20が接合される。
【0074】
これら鋼板20及びH形鋼7により、S梁5の上端及び下端に対応する接合金物6の上部及び下部にはそれぞれ、平面外形輪郭が閉鎖型断面の正方形状で、内部にウエブ7bが介在する中空筒状の上部接合部6a及び下部接合部6bが形成される。これら上部接合部6aと下部接合部6bで挟まれた接合金物6の中央部(H形鋼7の中間部分)には、第1実施形態と同様に、コンクリート流通部9が形成される。
【0075】
コンクリート流通部9に位置するウエブ7b部分には、コンクリート流通用の丸穴部10が形成される。H形鋼7のウエブ7bの上下端縁及び各鋼板20の上下端縁には、弧状の切り欠き部11が形成される。これら切り欠き部11、丸穴部10、並びに横向き開口部9aにより、第1実施形態と同様に、柱のコンクリート4の充填性と、接合金物6の軽量化が図られる。
【0076】
H形鋼7について、これに代えて、鋼板をH字状に組んで作成したH字ユニットを用いるようにしてもよい。第2実施形態では、ボルト挿通孔13は、H形鋼7のフランジ7aに形成されている。
【0077】
第2実施形態では、接合金物6と雌ネジ部材12は、高力ボルトに代えて、軸体状の全ネジ部材21で接合される。全ネジ部材21は、接合金物6のボルト挿通孔13に挿通されて雌ネジ部材12のネジ孔12bに一端が螺合されると共に、フランジ7aから突出する他端がナット22で接合金物6に締結されて、雌ネジ部材12を接合金物6に接合する。その他の構成は、第1実施形態と同様であって、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0078】
図15には、上記実施形態の変形例が示されている。この変形例では、接合金物6は、平面断面形状が十字形状の開断面で形成される。十字形状の4つの先端にはそれぞれ、フランジ片23が接合され、このフランジ片23に、雌ネジ部材12が溶接接合Wにより取付固定される。
【0079】
図16には、上記実施形態の他の変形例が示されている。この変形例は、おおよそ第1実施形態のT字ユニット8を、H形鋼7の全高に亘るように形成したものである。これら変形例にあっても、上記実施形態と同様の作用効果を奏することはもちろんである。
【符号の説明】
【0080】
1 RC柱
3 フープ筋
5 S梁
6 接合金物
12 雌ネジ部材
12a 雌ネジ部材の基端部分
12b 雌ネジ部材のネジ孔
12c 雌ネジ部材の先端部分
15 エンドプレート
16 ルーズホール
17 接合ネジ部材
17a 接合ネジ部材の第1ネジ部
17b 接合ネジ部材の第2ネジ部
17c 接合ネジ部材の軸体部
G グラウト材
Q グラウト充填空間
【技術分野】
【0001】
本発明は、十分な接合性能が得られるとともに、高い施工精度を要求されることなく、容易にかつ的確にS梁をRC柱に接合することが可能な鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁の接合装置及び鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート(以下、「RC」という)柱とRC梁とを接合して構築するRC構造においては、特に現場打ちの場合、RC梁が所定のコンクリート強度を発現するまでは底型枠を脱型できず、支保工を撤去できないことから、RC梁の施工期間がかかり、RC梁の下方空間における他の作業に支障を来す。そこで、近年では、工期短縮や作業性の改善を図るために、H形鋼などの鉄骨梁(以下、「S梁」という)を用いた構造が採用されてきており、RC柱とS梁との接合技術が数多く開発されている。
【0003】
しかしながら、RC柱とS梁を接合するにあたって、例えば、S梁の一部をRC柱の内部に埋設する技術においては、柱梁接合部内の配筋作業に手間がかかって施工性が良くないばかりでなく、S梁によって柱梁接合部における梁成範囲内にフープ筋を配設するのが難しい。さらに、S梁端部に作用する曲げモーメントや、それに伴い、RC柱のコンクリートに生じるS梁のフランジ面からの支圧力により、前述したようにフープ筋が配設されない場合には、柱のコンクリートが早期に剥落するといった問題が懸念される。また、コンクリート打設に際して、S梁がRC柱から突出していることから、柱梁接合部の型枠作業は非常に煩雑である。
【0004】
これら問題点を解決するため、上述した接合構造においては、柱梁接合部の外周面に鋼板製等の塞ぎ板を設けることが一般的であり、かえって従来のRC構造よりも施工コストが嵩むものであった。
【0005】
一方、性能面や施工面における上記問題点を改善するため、予め、RC柱内部に埋設した「通しボルト」や「接合金物」を用いて、これらにS梁をボルト接合する技術も開示されている(特許文献1及び2参照)。
【0006】
特許文献1の「鉄骨梁とコンクリート体との接合構造、およびその施工方法」では、コンクリート体内にPC鋼材が設置され、PC鋼材に引張力が導入されるとともにPC鋼材の端部が鉄骨梁に定着されることで、コンクリート体にプレストレスが付与され、鉄骨梁の端面がコンクリート体の側面に圧着される鉄骨梁とコンクリート体との接合構造において、コンクリート体の内部には、PC鋼材を挿通させるためのシース管が埋設され、シース管の端部には、先端が鉄骨梁の端面に当接されるとともにその中にPC鋼材が挿通される中空のカプラーが取り付けられている。
【0007】
特許文献2の「柱梁接合部」では、RC製又は鋼管コンクリート製の柱に柱梁接合部たるパネルゾーン体が介在され、このパネルゾーン体は、柱に接合すべき鉄骨製の梁の上下フランジ位置に各々配置される上下一対の接合金物から構成され、かつ、各接合金物にはコンクリートあるいは鉄筋用の通し孔がそれぞれ設けられ、各接合金物の各側面には、ボルト締結用金物を介して前記梁の上下フランジの端部がそれぞれボルト締結されるようになっている。
【0008】
さらに、特許文献3が知られている。特許文献3の「被覆鋼管コンクリート柱を用いた構造」では、一階毎に床上端レベルで区切られたプレキャスト鉄筋コンクリート材で鋼管柱を被覆し、梁との仕口部分はプレキャスト鉄筋コンクリート部材に設けられた孔を通して、プレキャスト鉄筋コンクリート部材の上から梁をボルトで鋼管柱に接合し、現場打ちコンクリートを鋼管柱内部だけにするようにしている。この技術は、RC柱ではないものの、鉄筋を埋設したコンクリートで被覆した鋼管柱(被覆鋼管コンクリート柱)に孔を形成し、その孔と連通する鋼製筒部材を鋼管柱外周面に設けるとともに、その鋼製筒部材に高力ボルトを挿通させることでS梁を接合するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−211449号公報
【特許文献2】特開平03−244725号公報
【特許文献3】特開平07−062741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これらボルト接合による背景技術は、従来よりも施工性に優れるが、以下のような課題が挙げられる。
【0011】
通しボルトは、RC柱の全幅で埋め込まれるため、接合性能として剛性が低くなってしまい、その傾向は、RC柱が大型化することで顕著に現れる。特許文献1では、シース管に挿入したPC鋼材に張力を付与することで性能面の問題解決を企図しているが、現場にて全てのPC鋼材に一定の張力を導入することは非常に難しい。さらに、柱梁接合部は高所であるため、S梁を仮固定した状態での緊張装置による張力導入作業は非常に手間がかかる。
【0012】
プレキャスト柱などであれば、予めPC鋼材に一定の張力を付与することも可能だが、PC鋼材両端部の雄ネジ部分や張力を保持するナットがRC柱外周面から突出した状態になるため、柱運搬時に雄ネジ部分が曲がってしまうなど、損傷を来す虞がある。この点は、通しボルトであっても同様である。
【0013】
ボルトによるRC柱とS梁の接合では、RC柱外周面とS梁端部との境界面、すなわち柱と梁のせん断面に、雄ネジ部分が位置することとなる。雄ネジ部分は変形能に乏しく、従って変形性能が劣ることになる。
【0014】
また、S梁端部には、ボルト接合用として、ボルト孔を形成したエンドプレートが取り付けられ、このボルト孔にボルトが挿通されるが、S梁端部に大きなせん断力が作用したり、外力の作用でPC鋼材にかけたプレストレスが相殺されたり、あるいは、上記境界面におけるせん断方向摩擦力が低下すると、ボルト孔とボルトの相対移動が生じ、これによりボルト孔内面とボルトの雄ネジ部分とが点接触状態になる虞がある。点接触状態になると、その部分に曲げ(引張)せん断力が集中することとなり、接合性能が低下して、脆性的な破壊やせん断破壊が生じる虞がある。
【0015】
RC柱内部に埋設する通しボルトやシース管、接合金物は、これらに接合されるボルトと当該ボルトを挿通するボルト孔のクリアランスが数mm程度と僅かであるため、精度良く施工しないと、所定の位置にエンドプレート、そしてまたS梁を接合できない虞もある。
【0016】
特許文献2の接合金物は、S梁を接合した後にコンクリートを打設する必要があることから、型枠等の作業性が悪く、施工に手間がかかるという課題もある。
【0017】
特許文献3は、鋼管柱内部にコンクリートを打設する前に、予め鋼製筒部材に高力ボルトを挿通して、鋼管柱とS梁を接合しておく必要があり、鋼管柱内部での接合作業性が良くなく、梁成が大きくなればなるほど、困難性が増すという課題がある。また、柱にS梁を直接接合するため、その境界面では構造的に不連続となり、S梁から柱への応力伝達が十分になされたいため、接合部の性能が懸念される。
【0018】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、十分な接合性能が得られるとともに、高い施工精度を要求されることなく、容易にかつ的確にS梁をRC柱に接合することが可能なRC柱とS梁の接合装置及びRC柱とS梁の接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明にかかるRC柱とS梁の接合装置は、鉄筋コンクリート柱に鉄骨梁を接合するための装置であって、フープ筋内方に配設して上記鉄筋コンクリート柱に埋設するための接合金物と、該接合金物に基端部分を接合し、先端部分のネジ孔を上記鉄筋コンクリート柱の側面に開口すべく、上記フープ筋を避けて該鉄筋コンクリート柱に埋設するための雌ネジ部材と、ルーズホールが形成され、上記鉄筋コンクリート柱の側面との間にグラウト充填空間を形成すべく、該鉄筋コンクリート柱の側面に面する上記鉄骨梁の端部に設けるためのエンドプレートと、該エンドプレートと上記雌ネジ部材を結合するために上記ルーズホールに挿通して設けられ、上記ネジ孔を介して上記雌ネジ部材と螺合される第1ネジ部が一端に形成され、他端に上記エンドプレートと締結される第2ネジ部が形成されると共に、該第1ネジ部と該第2ネジ部の間に位置して上記鉄筋コンクリート柱の側面を経過する箇所に、軸体部が形成された接合ネジ部材とを備えたことを特徴とする。
【0020】
本発明にかかるRC柱とS梁の接合構造は、前記鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁の接合装置を用い、前記鉄筋コンクリート柱には、前記雌ネジ部材を接合した前記接合金物が埋設され、前記鉄骨梁には、前記エンドプレートが設けられ、前記ルーズホールに挿通され、上記鉄筋コンクリート柱の側面を前記軸体部が経過して、前記第1ネジ部が上記雌ネジ部材に螺合されると共に、前記第2ネジ部が上記エンドプレートに締結される前記接合ネジ部材により、該鉄筋コンクリート柱の側面に上記鉄骨梁が接続され、上記鉄筋コンクリート柱の側面と上記エンドプレートとの間に上記ルーズホールに亘ってグラウトが充填されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかるRC柱とS梁の接合装置及びRC柱とS梁の接合構造にあっては、十分な接合性能が得られるとともに、高い施工精度を要求されることなく、容易にかつ的確にS梁をRC柱に接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るRC柱とS梁の接合装置の第1実施形態に適用される接合金物を示す斜視図である。
【図2】図1の接合金物に雌ネジ部材を接合した様子を示す斜視図である。
【図3】図2に示した雌ネジ部材付きの接合金物の正面図である。
【図4】図2に示した雌ネジ部材付きの接合金物の側面図である。
【図5】図2に示した雌ネジ部材付きの接合金物をRC柱に埋設した状態の平面図である。
【図6】本発明に係るRC柱とS梁の接合構造の好適な実施形態を説明するための、S梁の接合状況を示す斜視図である。
【図7】図6に示したRC柱とS梁の接合構造の要部拡大側断面図である。
【図8】図6に示したRC柱とS梁の接合構造の一部破断平面図である。
【図9】本発明に係るRC柱とS梁の接合装置の第2実施形態に適用される接合金物を示す斜視図である。
【図10】図9の接合金物に雌ネジ部材を接合した様子を示す斜視図である。
【図11】図10に示した雌ネジ部材付きの接合金物の正面図である。
【図12】図10に示した雌ネジ部材付きの接合金物をRC柱に埋設した状態の平面図である。
【図13】図10に示した雌ネジ部材付きの接合金物をRC柱に埋設した状態の側面図である。
【図14】図10に示した雌ネジ部材付き接合金物を中央柱に適用した場合のRC柱とS梁の接合構造の一部破断平面図である。
【図15】本発明にかかるRC柱とS梁の接合装置及びRC柱とS梁の接合構造の変形例を示す一部破断平面図である。
【図16】本発明に係るRC柱とS梁の接合装置に適用される接合金物の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明に係るRC柱とS梁の接合装置及びRC柱とS梁の接合構造の好適な実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。図1から図8には、RC柱とS梁の接合装置の第1実施形態が示されている。
【0024】
RC柱1は従来周知のように、柱主筋2及び柱主筋2周りに配筋したフープ筋3を、柱のコンクリート4内部に埋設して形成される。S梁5も従来周知のように、H形鋼などで構成される。接合金物6は、RC柱1に埋設され、当該RC柱1にS梁5を接合して定着するための部品である。接合金物6は、鋼板を互いに溶接接合することで構成される。H形鋼を組み込んで構成するようにしてもよい。
【0025】
接合金物6の平面外形寸法は、RC柱1に埋設されるフープ筋3内方に配設し得るように、当該フープ筋3の内径寸法よりも小さく設定される。さらに具体的には、接合金物6は、フープ筋3の内側に配設される柱主筋2と干渉しないように、当該柱主筋2の配筋位置内方に納まる平面外形寸法で形成される。
【0026】
接合金物6の平面断面形状は、S梁5が四方から接合される中央柱に埋設される接合金物であれば、これらS梁5の配置に対応させて少なくとも4面を有する形態で、S梁5が三方もしくは左右二方から接合される側柱に埋設されるものであれば、これらS梁5の配置に対応させて少なくとも3面もしくは2面を有する形態で、S梁5が直交する方向から接合される隅柱に埋設されるものであれば、これらS梁5の配置に対応させて少なくとも直交する配置で2面を有する形態で形成される。もちろん、それ以上の面を有する平面断面形状で形成してもよい。
【0027】
図1から図5には、中央柱に適用するために、平面断面形状が4面を有する閉鎖型断面の正方形状に形成された接合金物6が示されている。接合金物6の平面断面形状は、閉鎖型断面に限らず、十字形状などの開断面形状であってもよい(図15参照)。
【0028】
図1には、第1実施形態の接合金物6が具体的に示されている。この接合金物6は、1つのH形鋼7に、鋼板をT字状に組んで作成した4つのT字ユニット8を組み付けることで構成されている。H形鋼7は、長さ寸法が接合金物6の高さ寸法に設定され、柱高さ方向に沿う縦向きで用いられる。
【0029】
4つのT字ユニット8は、H形鋼7の上方部分及び下方部分それぞれに2つずつ、H形鋼7のフランジ7a間を閉塞するように組み付けられる。具体的にはH形鋼7の上方部分においては、2つのT字ユニット8は、H形鋼7のウエブ7bを挟んでその両面に、それらの脚片8a下端が接合され、それらの左右方向腕片8b両端が各フランジ7a先端に接合される。H形鋼7の下方部分においても、同様にして、2つのT字ユニット8が接合される。
【0030】
これらT字ユニット8及びH形鋼7により、S梁5の上端及び下端に対応する接合金物6の上部及び下部にはそれぞれ、平面外形輪郭が閉鎖型断面の正方形状で、内部に十字形状の骨組みを備える中空筒状の上部接合部6a及び下部接合部6bが形成される。
【0031】
これら上部接合部6aと下部接合部6bで挟まれた接合金物6の中央部(H形鋼7の中間部分)には、上下のT字ユニット8により横向き開口部9aが区画形成され、これにより平面断面形状がH形鋼7のウエブ7bとフランジ7aによるH形状の開断面であって、中空筒体状の上部及び下部接合部6a,6bに連通して柱のコンクリート4を流通させるコンクリート流通部9が形成される。
【0032】
コンクリート流通部9に位置するウエブ7b部分には、これを貫通して、柱のコンクリート4を流通させる大径の丸穴部10が形成される。H形鋼7のウエブ7bの上下端縁及びT字ユニット8の各脚片8aの上下端縁には、弧状の切り欠き部11が形成される。
【0033】
これら切り欠き部11、丸穴部10、並びにT字ユニット8間の横向き開口部9aにより、柱のコンクリート4の充填性と、接合金物6の軽量化が図られる。H形鋼7について、これに代えて、鋼板をH字状に組んで作成したH字ユニットを用いるようにしてもよい。
【0034】
接合金物6には、RC柱1に埋設するための直管状の雌ネジ部材12の基端部分12aが接合される。雌ネジ部材12は、S梁5を接合金物6に結合するための部品である。雌ネジ部材12は鋼製で形成され、図7に示すように内部にネジ穴12bが形成される。第1実施形態にあっては、雌ネジ部材12の基端部分12aは、接合金物6の4面、すなわちH形鋼7の各フランジ7a及びT字ユニット8の左右方向腕片8bに形成されたボルト挿通孔13に挿通される高力ボルト14をネジ孔12bに螺合することで、接合金物6に接合される。
【0035】
雌ネジ部材12の先端部分12cは、当該先端部分12cのネジ孔12bがRC柱1の側面に開口するように、RC柱1の側面に、ほぼ面一に揃えて配置される。ネジ孔12bがRC柱1の側面に開口するとは、雌ネジ部材12がRC柱1の側面から突出して、先端部分12cのネジ孔12bがRC柱1の側面位置よりも外方で開口する状態を除く意味である。他方、RC柱1の側面位置から僅かながら没していても、当該RC柱1の側面に先端部分12cのネジ孔12bが開口している状態を含む意味である。
【0036】
雌ネジ部材12は、RC柱1のフープ筋3の配設位置を避けて、設けられる。従って、接合金物6のボルト挿通孔13位置は、フープ筋3の配筋位置を避けて設定される。図示例にあっては、雌ネジ部材12は、接合金物6の上部及び下部接合部6a,6bの各4面に4つずつ、計32個配設される。
【0037】
雌ネジ部材12の先端部分12cの端縁には図7に示すように、RC柱1とS梁5の接合部分のせん断性能を向上するために、ネジ孔を形成しないネジ無し孔部12dが形成される。ネジ無し孔部12dは例えば、ネジ孔12bに対し面取りなどを施したザグリによって形成される。
【0038】
図6から図8には、RC柱1の側面に面する各S梁5の端部に設けるためのエンドプレート15が示されている。エンドプレート15は鋼製で形成され、例えばH形鋼製のS梁5の上下フランジ5a及びウエブ5bに溶接接合される。エンドプレート15は、これにリブを形成するなどして、S梁5にボルト接合するようにしてもよい。エンドプレート15は、S梁5端部の外形寸法よりも一回り大きな外形寸法で形成される。
【0039】
エンドプレート15は、RC柱1の側面との間に、グラウト材G充填用のグラウト充填空間Qを形成するために、S梁5端部に接合された状態で、RC柱1の側面から間隔を空けて配置される。エンドプレート15には、雌ネジ部材12のネジ孔12b位置に対応させて、ルーズホール16が貫通形成される。
【0040】
ルーズホール16には、後述するように、エンドプレート15を貫通して雌ネジ部材12のネジ孔12bに螺合される接合ネジ部材17が挿通される。ルーズホール16の穴径は、当該接合ネジ部材17を高い融通性で緩く挿通し得、かつグラウト充填空間Qに充填されるグラウト材Gが接合ネジ部材17と当該ルーズホール16との間の隙間に回り込み得るように、接合ネジ部材17の外径寸法よりも過度に大きく設定される。以上のエンドプレート15は、接合ネジ部材17を介してS梁5を雌ネジ部材12と結合し、かつ、RC柱1の側面との間にグラウト充填空間Qを形成するための部品である。
【0041】
エンドプレート15のルーズホール16には、軸体状の接合ネジ部材17が挿通して設けられる。接合ネジ部材17は、エンドプレート15、ひいてはS梁5を、雌ネジ部材12に結合するための部品である。接合ネジ部材17には、長さ方向一端に、ネジ孔12bを介して雌ネジ部材12と螺合される第1ネジ部17aが形成される。
【0042】
接合ネジ部材17の他端には、エンドプレート15に締結するための第2ネジ部17bが形成される。接合ネジ部材17は、ルーズホール16を封鎖するワッシャ18を介して、第2ネジ部17bにナット19が螺合されることにより、グラウト充填空間Qに充填されたグラウト材Gや雌ネジ部材12と螺合された第1ネジ部17aに締め付け反力をとって、エンドプレート15に締結される。
【0043】
接合ネジ部材17には、RC柱1とS梁5の接合部分のせん断性能を向上するために、第1ネジ部17aと第2ネジ部17bの間に位置して、RC柱1の側面を経過する箇所を含む適宜長さに亘り、ネジを形成しない軸体部17cが形成される。
【0044】
さらに、上記部品に加えて、グラウト充填空間Qに充填するグラウト材Gが用いられる。グラウト充填空間Qは、互いに間隔を空けて向かい合うエンドプレート15とRC柱1の側面との間に、別途型枠を配設することで区画形成される。
【0045】
グラウト材Gは、一般周知の高強度無収縮モルタル等であって、エンドプレート15とRC柱1の側面の間及びルーズホール16と接合ネジ部17の隙間に充填される。また、グラウト材Gは、ネジ孔12bのネジ無し孔部12dへも充填される。
【0046】
次に、第1実施形態に係るRC柱とS梁の接合装置を用いたRC柱とS梁の接合構造について説明する。図6から図8に示すように、RC柱1の柱のコンクリート4内には、雌ネジ部材12を接合した接合金物6が埋設される。接合金物6は、フープ筋3内方に配設される。雌ネジ部材12は、フープ筋3を避けて配設され、先端部分12cのネジ孔12bがRC柱1の側面に開口される。
【0047】
他方、RC柱1の側面に面するS梁5の端部には、エンドプレート15が接合して設けられる。エンドプレート15は、グラウト充填空間Qを形成するために、RC柱1の側面から間隔を空けて配置される。
【0048】
エンドプレート15のルーズホール16には、接合ネジ部材17が挿通して設けられる。接合ネジ部材17の第1ネジ部17aは、ネジ孔12bを介して雌ネジ部材12に先端部分12c側から螺合される。第1ネジ部17aを螺合することにより、軸体部17cはRC柱1の側面を経過する箇所に配置される。また、軸体部17cは、ネジ孔12bのネジ無し孔部12dに面して位置される。
【0049】
エンドプレート15とRC柱1の側面の間のグラウト充填空間Qには、RC柱1の側面とエンドプレート15を接合すると共に、ルーズホール16内に流入して接合ネジ部材17を当該ルーズホール16内に定着するためのグラウト材Gが充填される。グラウト材Gは、ネジ無し孔部12dへも流入する。
【0050】
エンドプレート15からS梁5側に突出する接合ネジ部材17の第2ネジ部17bには、ルーズホール16を封鎖するワッシャ18を介してナット19が螺合され、これにより第2ネジ部17bがエンドプレート15に締結される。接合ネジ部材17の第1ネジ部17aが、RC柱1内部に埋設した雌ネジ部材12に螺合され、第2ネジ部17bが、S梁5に接合したエンドプレート15に締結されることで、S梁5はRC柱1の側面に接合される。
【0051】
次に、上記実施形態に係るRC柱とS梁の接合装置及びRC柱とS梁の接合構造の作用について説明する。本接合装置を用いて、本接合構造を構築する手順を説明すると、まず、H形鋼7にT字ユニット8を接合して、接合金物6を作製する。接合金物6の4面には、ボルト挿通孔13を形成しておく。
【0052】
柱主筋2とフープ筋3を組んで構成した柱鉄筋籠の内方に、接合金物6を挿入配置し、当該柱鉄筋籠に取付固定する。次いで、ボルト挿通孔13に高力ボルト14を挿通し、雌ネジ部材12の基端部分12aを接合金物6に接合する。雌ネジ部材12の接合金物6への取り付けは、柱鉄筋籠との融通が利けば、柱鉄筋籠に接合金物6を挿入する以前に予め行っておいてもよい。
【0053】
次いで、接合金物6を固定した柱鉄筋籠を柱型枠内に配設し、柱型枠内部に柱のコンクリート4を打設して、柱鉄筋籠と共に、雌ネジ部材12付きの接合金物6を柱のコンクリート4内に埋設し、RC柱1を形成する。RC柱1の形成は、プレキャストもしくは現場打ちのいずれであってもよい。
【0054】
他方、S梁5の端部に、エンドプレート15を接合して取り付ける。エンドプレート15には、ルーズホール16を形成しておく。
【0055】
RC柱1の構築位置において、RC柱1とエンドプレート15との間にグラウト充填空間Qを確保するようにして、S梁5を建て込む。次いで、接合ネジ部材17をルーズホール16に挿通し、第1ネジ部17aを雌ネジ部材12に螺合する。他方、第2ネジ部17bに、ワッシャ18を介してナット19を螺合し、これにより、S梁5をRC柱1に仮接合する。
【0056】
次いで、型枠で取り囲んで形成したグラウト充填空間Qに、ルーズホール16内やネジ無し孔部12dへも流入させるようにしてグラウト材Gを充填し、その後、グラウト材Gを固化させる。
【0057】
グラウト材Gが固化したら、ナット19を第2ネジ部17bに本締めする。これにより、本接合装置を用いて、本接合構造が構築される。
【0058】
以上説明した第1実施形態に係るRC柱とS梁の接合装置及びRC柱とS梁の接合構造にあっては、RC柱1内に接合金物6を埋設していて、雌ネジ部材12の長さ及び接合ネジ部材17の長さは、接合に要する必要最小限の長さで足りるので、背景技術のようにRC柱全幅で埋め込む必要のある通しボルトに比べて、接合部分の剛性を高く確保でき、接合性能を向上することができる。
【0059】
接合金物6をフープ筋3内方に配設するようにしたので、フープ筋3及び柱主筋1と柱のコンクリート4との一体性が損なわれることはなく、柱のコンクリート4の早期剥離などを防止できて、RC柱1の構造性能を適切に確保することができる。
【0060】
RC柱1に埋設する雌ネジ部材12の先端部分12cのネジ孔12bを、RC柱1の側面に開口するようにしたので、背景技術のようにRC柱の外周面から接合用部品が突出することがなく、接合箇所が損傷を受けることを防止することができる。
【0061】
接合ネジ部材17に関し、せん断変形が生じるRC柱1とS梁5の接合境界面であるRC柱1の側面を経過する箇所に、ネジを形成しない軸体部17cを位置させるようにしていて、当該軸体部17cは、背景技術における雄ネジ部分よりも高いせん断変形能を発揮するので、RC柱1とS梁5との接合部分の変形性能を向上でき、せん断破壊を防止することができる。軸体部17cを、第1及び第2ネジ部17a,17bの谷径よりも細径にすれば、接合ネジ部材17は、軸体部17cで確実に変形するので、設計段階での性能把握も適切に行うことができる。
【0062】
RC柱1の側面とS梁5端部のエンドプレート15との間に、グラウト材Gを充填するようにしたので、構造的連続性を確保でき、S梁5からRC柱1への応力伝達を十分に確保できて、接合部分の性能を向上することができる。
【0063】
エンドプレート15に、接合ネジ部材17との間にグラウト材Gが回り込むルーズホール16を形成したので、当該ルーズホール16内で接合ネジ部材17を定着させることができ、S梁5端部に大きなせん断力が作用したり、接合境界面におけるせん断方向の摩擦力が低下しても、ルーズホール16に対し、接合ネジ部材17が動いて点接触状態となることを防止できて、当該箇所に曲げ(引張)せん断力が集中することを防止できる。
【0064】
RC柱1の側面に面する雌ネジ部材12の先端部分12cの端縁にネジ無し孔部12dを形成したので、これに充填されるグラウト材Gとも相俟って、せん断力によって接合ネジ部材17とネジ孔12bとが点接触状態になることを防止でき、せん断破壊を防止できて、せん断耐力を向上することができる。
【0065】
接合金物6は、S梁5の上下フランジ5aに対応する上部及び下部接合部6a,6bを有し、各接合部6a,6bには図8に示すように、例えばH形鋼7の一対のフランジ7aと2つのT字ユニット8の脚片8aによってS梁5の長さ方向に3段、またH形鋼7のウエブ7bと2つのT字ユニット8の左右方向腕片8bによってS梁5と直交する方向に3段の補剛部分を確保することができ、高い接合性能を確保することができる。
【0066】
他方、施工面からすると、基本的にネジ接合であり、背景技術のように煩雑で作業精度が要求される張力の導入による場合に比べて、容易に施工することができる。
【0067】
エンドプレート15にはルーズホール16を形成し、RC柱1に埋設した雌ネジ部材12と接合する接合ネジ部材17を、このルーズホール16に挿通するようにしたので、S梁5の接合位置調整に融通を利かせることができ、容易かつ的確にS梁5をRC柱1に接合することができる。
【0068】
S梁5をRC柱1に接合する前に、雌ネジ部材12付きの接合金物6を柱のコンクリート4中に埋設して、柱梁仕口部を含めてRC柱1を完成しておくことができ、背景技術のように、柱のコンクリートを打設する前に、S梁との接合部を施工するのに比べて、容易に施工することができる。
【0069】
また、接合金物6に、コンクリート流通部9を形成したので、柱のコンクリート4の充填性を良好に確保することができる。
【0070】
第1実施形態にあっては、接合ネジ部材17として第2ネジ部17bにナット19が螺合されるものを例示して説明したが、ナットを省略して、頭付きの高力ボルトなどを採用してもよい。第1及び第2ネジ部17a,17bは、転造加工によるものが好ましい。
【0071】
なお、RC柱1の側面に開口するネジ孔12bについては、使用しないネジ孔12bがある場合には、当該ネジ孔12bに栓をすることなどで塞ぐことができ、これにより、例えば中央柱に適用するものを、側柱や隅柱に流用することができる。
【0072】
図9から図14には、本発明に係るRC柱とS梁の接合装置の第2実施形態が示されている。第2実施形態では、接合金物6として、左右2面にS梁5が接合される側柱用のものが示されている。図14では、4面に雌ネジ部材12が取り付けられているが、使用しない雌ネジ部材12には上述したように、栓などをすればよい。
【0073】
この接合金物6は、1つのH形鋼7に、4枚の短尺な鋼板20を組み付けることで構成されている。4枚の鋼板20は、H形鋼7の上方部分及び下方部分それぞれに2枚ずつ、H形鋼7のフランジ7a間を閉塞するように組み付けられる。具体的にはH形鋼7の上方部分においては、2枚の鋼板20の縦向き両端縁がそれぞれ各フランジ7a先端に接合される。H形鋼7の下方部分においても、同様にして、2枚の鋼板20が接合される。
【0074】
これら鋼板20及びH形鋼7により、S梁5の上端及び下端に対応する接合金物6の上部及び下部にはそれぞれ、平面外形輪郭が閉鎖型断面の正方形状で、内部にウエブ7bが介在する中空筒状の上部接合部6a及び下部接合部6bが形成される。これら上部接合部6aと下部接合部6bで挟まれた接合金物6の中央部(H形鋼7の中間部分)には、第1実施形態と同様に、コンクリート流通部9が形成される。
【0075】
コンクリート流通部9に位置するウエブ7b部分には、コンクリート流通用の丸穴部10が形成される。H形鋼7のウエブ7bの上下端縁及び各鋼板20の上下端縁には、弧状の切り欠き部11が形成される。これら切り欠き部11、丸穴部10、並びに横向き開口部9aにより、第1実施形態と同様に、柱のコンクリート4の充填性と、接合金物6の軽量化が図られる。
【0076】
H形鋼7について、これに代えて、鋼板をH字状に組んで作成したH字ユニットを用いるようにしてもよい。第2実施形態では、ボルト挿通孔13は、H形鋼7のフランジ7aに形成されている。
【0077】
第2実施形態では、接合金物6と雌ネジ部材12は、高力ボルトに代えて、軸体状の全ネジ部材21で接合される。全ネジ部材21は、接合金物6のボルト挿通孔13に挿通されて雌ネジ部材12のネジ孔12bに一端が螺合されると共に、フランジ7aから突出する他端がナット22で接合金物6に締結されて、雌ネジ部材12を接合金物6に接合する。その他の構成は、第1実施形態と同様であって、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0078】
図15には、上記実施形態の変形例が示されている。この変形例では、接合金物6は、平面断面形状が十字形状の開断面で形成される。十字形状の4つの先端にはそれぞれ、フランジ片23が接合され、このフランジ片23に、雌ネジ部材12が溶接接合Wにより取付固定される。
【0079】
図16には、上記実施形態の他の変形例が示されている。この変形例は、おおよそ第1実施形態のT字ユニット8を、H形鋼7の全高に亘るように形成したものである。これら変形例にあっても、上記実施形態と同様の作用効果を奏することはもちろんである。
【符号の説明】
【0080】
1 RC柱
3 フープ筋
5 S梁
6 接合金物
12 雌ネジ部材
12a 雌ネジ部材の基端部分
12b 雌ネジ部材のネジ孔
12c 雌ネジ部材の先端部分
15 エンドプレート
16 ルーズホール
17 接合ネジ部材
17a 接合ネジ部材の第1ネジ部
17b 接合ネジ部材の第2ネジ部
17c 接合ネジ部材の軸体部
G グラウト材
Q グラウト充填空間
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート柱に鉄骨梁を接合するための装置であって、
フープ筋内方に配設して上記鉄筋コンクリート柱に埋設するための接合金物と、
該接合金物に基端部分を接合し、先端部分のネジ孔を上記鉄筋コンクリート柱の側面に開口すべく、上記フープ筋を避けて該鉄筋コンクリート柱に埋設するための雌ネジ部材と、
ルーズホールが形成され、上記鉄筋コンクリート柱の側面との間にグラウト充填空間を形成すべく、該鉄筋コンクリート柱の側面に面する上記鉄骨梁の端部に設けるためのエンドプレートと、
該エンドプレートと上記雌ネジ部材を結合するために上記ルーズホールに挿通して設けられ、上記ネジ孔を介して上記雌ネジ部材と螺合される第1ネジ部が一端に形成され、他端に上記エンドプレートと締結される第2ネジ部が形成されると共に、該第1ネジ部と該第2ネジ部の間に位置して上記鉄筋コンクリート柱の側面を経過する箇所に、軸体部が形成された接合ネジ部材とを備えたことを特徴とする鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁の接合装置。
【請求項2】
請求項1記載の鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁の接合装置を用い、
前記鉄筋コンクリート柱には、前記雌ネジ部材を接合した前記接合金物が埋設され、
前記鉄骨梁には、前記エンドプレートが設けられ、
前記ルーズホールに挿通され、上記鉄筋コンクリート柱の側面を前記軸体部が経過して、前記第1ネジ部が上記雌ネジ部材に螺合されると共に、前記第2ネジ部が上記エンドプレートに締結される前記接合ネジ部材により、該鉄筋コンクリート柱の側面に上記鉄骨梁が接続され、
上記鉄筋コンクリート柱の側面と上記エンドプレートとの間に上記ルーズホールに亘ってグラウト材が充填されることを特徴とする鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁の接合構造。
【請求項1】
鉄筋コンクリート柱に鉄骨梁を接合するための装置であって、
フープ筋内方に配設して上記鉄筋コンクリート柱に埋設するための接合金物と、
該接合金物に基端部分を接合し、先端部分のネジ孔を上記鉄筋コンクリート柱の側面に開口すべく、上記フープ筋を避けて該鉄筋コンクリート柱に埋設するための雌ネジ部材と、
ルーズホールが形成され、上記鉄筋コンクリート柱の側面との間にグラウト充填空間を形成すべく、該鉄筋コンクリート柱の側面に面する上記鉄骨梁の端部に設けるためのエンドプレートと、
該エンドプレートと上記雌ネジ部材を結合するために上記ルーズホールに挿通して設けられ、上記ネジ孔を介して上記雌ネジ部材と螺合される第1ネジ部が一端に形成され、他端に上記エンドプレートと締結される第2ネジ部が形成されると共に、該第1ネジ部と該第2ネジ部の間に位置して上記鉄筋コンクリート柱の側面を経過する箇所に、軸体部が形成された接合ネジ部材とを備えたことを特徴とする鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁の接合装置。
【請求項2】
請求項1記載の鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁の接合装置を用い、
前記鉄筋コンクリート柱には、前記雌ネジ部材を接合した前記接合金物が埋設され、
前記鉄骨梁には、前記エンドプレートが設けられ、
前記ルーズホールに挿通され、上記鉄筋コンクリート柱の側面を前記軸体部が経過して、前記第1ネジ部が上記雌ネジ部材に螺合されると共に、前記第2ネジ部が上記エンドプレートに締結される前記接合ネジ部材により、該鉄筋コンクリート柱の側面に上記鉄骨梁が接続され、
上記鉄筋コンクリート柱の側面と上記エンドプレートとの間に上記ルーズホールに亘ってグラウト材が充填されることを特徴とする鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁の接合構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−7018(P2011−7018A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154413(P2009−154413)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】
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