説明

鉛蓄電池

【課題】寿命特性を低下させること無く、高容量の鉛蓄電池を提供する。
【解決手段】正極支配で電池容量が決定される鉛蓄電池であって、満充電の状態において、電解液の比重を1.30〜1.36(20℃換算)とする。そして、正極活物質質量に対する電解液中の硫酸質量の比率を0.48〜0.58とする。好ましくは、満充電の状態において、正極活物質の細孔容積を0.11〜0.15ml/gとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉛蓄電池、特に自動車用鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車では、搭載される電装品が増加している。これに伴い、電装品の電源である鉛蓄電池に対する負荷が高まっている。そのため、鉛蓄電池には、高容量化と長寿命化の特性を両立させることが求められている。
【0003】
鉛蓄電池の容量の支配因子は、正極活物質量、負極活物質量及び電解液量であるので、鉛蓄電池の容量を設計する場合、各々の物質量を考慮する必要がある。高容量化を計るためには、正極活物質量や負極活物質量を増し、電解液中の硫酸量、すなわち硫酸イオン(SO2−)量を増す手段がある。限られた容積の電槽内で電解液中の硫酸量を増やすということは、電解液の比重を高めることである。
【0004】
特許文献1(特開2003−132937号公報)は、鉛粉に鉛丹化率が90%以上の鉛丹を添加した混合物を正極活物質の原料として正極板を作製し、完全充電状態における20℃での電解液比重を1.350〜1.300とすることを開示している。これにより、保存特性と期待寿命を減退させずに鉛蓄電池の高容量化を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−132937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のように電解液の比重を高くすると、電解液中の硫酸イオン量が増え、極板格子体の腐食速度や負極板のサルフェーションが促進される。さらに、深い充放電を繰り返した場合、正極活物質層の深部まで硫酸イオンが浸透し、活物質と活物質を保持している格子体との界面に不導態である硫酸鉛が生成される。この硫酸鉛は、充放電反応を阻害し、鉛蓄電池が短寿命になりやすかった。
【0007】
本発明の目的は、寿命性能を低下させることなく、高容量の鉛蓄電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、第1の発明は、正極支配で電池容量が決定される鉛蓄電池を対象とし、満充電の状態において、電解液(希硫酸)の比重(20℃換算値、以下同じ)が、1.30〜1.36であり、かつ正極活物質質量に対する電解液中の硫酸質量の比率が、0.48〜0.58であることを特徴とする。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、満充電の状態において、正極活物質の細孔容積が、0.11〜0.15ml/gであることを特徴とする。
【0010】
本発明では、電解液の比重を、1.30〜1.36の範囲に設定する。単に比重の高い電解液を用いる場合は、電解液中の硫酸イオン量が増え、活物質と活物質を保持している格子体との界面に不導態である硫酸鉛が生成されやすくなるが、正極活物質質量に対する電解液中の硫酸質量の比率を、0.48〜0.58の範囲に制限することにより、硫酸イオンが正極活物質層の深部まで到達するのを防ぎ、前記界面における硫酸鉛化を抑制することができる。このため、高容量化して寿命性能を確保できる。
さらに、満充電の状態において、正極活物質の細孔容積を0.11〜0.15ml/gとする場合には、一層の高容量化を図ることができる。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、寿命性能を低下させることなく、高容量の鉛蓄電池を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<正極板の作製>
正極板は、例えば、次のようにして作製することができる。
酸化度70%の鉛粉に鉛丹化度90%の鉛丹を混合し、水及び希硫酸を加えて混練して正極活物質ペーストを調製する。
圧延鉛シートをエキスパンド加工した格子体(幅:90mm、高さ:70mm、厚さ:1.7mm)に前記ペーストを99g/枚の量で充填し、熟成・乾燥の工程を経て正極板を作製する。
格子体に保持される正極活物質の質量は、調製した活物質ペーストに含まれる硫酸鉛量と水分量を調整することによって変えることができる。活物質ペーストに含まれる硫酸鉛量及び/又は水分量を多くすると、格子体に保持される正極活物質の量は減少する。また、正極活物質の特性は、極板化成時の温度と電流密度と電解液比重の調整によって変えることができるが、格子体に保持された正極活物質の細孔容積は、化成温度を高くすると減少し、電解液比重を高くすると増加する。
【0013】
<負極板の作製>
負極板は、例えば、次のようにして作製することができる。
酸化度70%の鉛粉に少量の炭素粉末、リグニン、バリウム化合物を混合し、水及び希硫酸を加えて混練して負極活物質ペーストを調製する。
圧延鉛シートをエキスパンド加工した格子体(幅:100mm、高さ:70mm、厚さ:1.3mm)に前記ペーストを78g/枚の量で充填し、熟成・乾燥の工程を経て負極板を作製する。
【0014】
<鉛蓄電池の組立>
ポリエチレン製の袋状セパレータに収納した前記負極板8枚と前記正極板7枚とを、1枚ずつ交互に積層して極板群とする。この極板群を6つの区画(セル)を有する電槽の各セルに収容し、電槽に蓋を熱溶着して電池を組み立てた。そして、電池内に、比重1.26の希硫酸を注入し、鉛蓄電池を40℃水槽に静置して、電流16Aで16時間通電して化成する。化成後に、電池内の電解液の比重及び液量を調整して、JIS 5301D規定のB24形の鉛蓄電池とする。
ここでは、正極支配で電池容量が決定されるように、正極活物質と負極活物質の量が決定される。
【実施例】
【0015】
以下に、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】
尚、以下の実施例では、各物性値、特性値等を次のようにして測定した。
【0017】
<正極活物質質量の測定>
満充電後の鉛蓄電池を解体し、極板群から正極板を取り出す。正極板に付着している電解液(希硫酸)を取り除いた後、正極板を乾燥する。前記正極板から正極活物質を全量採取し、その正極活物質質量を測定する。
【0018】
<電解液中の硫酸質量の計算>
満充電状態における正極活物質量に対する電解液中の硫酸質量の比率(R)は、
電解液比重:G
電解液量:V
硫酸濃度(質量%):C
正極活物質質量:M
として、次の式(1)で求める。
R=G×V×C/M・・・(1)
<正極活物質の細孔容積の測定>
上記正極活物質質量測定のための正極活物質(正極板の上中下位置からサンプリングし混合したもの)を粉砕する。この活物質の細孔容積を、島津製作所社製「マイクロメトリクスオートポアIV」(水銀圧入式多孔度測定機)を用いて測定する。
【0019】
<5時間率の実容量の測定>
鉛蓄電池を、5時間率放電電流で、電池電圧が10.5V(終止電圧)に達するまで放電し、前記放電電流と終止電圧に達するまでの放電持続時間との積から5時間率放電の実容量を求める。
【0020】
<重負荷寿命試験>
前記5時間率容量試験後の電池を、40℃の水槽中に置き、(ア)放電電流:20Aで1時間放電し、(イ)充電電流:5Aで1時間充電する。前記(ア)(イ)を1サイクルとして、充放電を繰り返す。25サイクルごとに放電電流:20Aで、電池電圧が10.2V(終止電圧)に達するまで放電し、その放電持続時間を測定して放電容量を求める。この放電容量が、前記5時間率放電の実容量の50%以下に低下し、再び上昇しないことを確認したサイクル数を寿命(寿命サイクル数)と判断する。
【0021】
まず、満充電の状態において、正極活物質質量523g/セル、電解液比重1.32、電解液量500ml/セルである鉛蓄電池を作製した。
電解液比重1.32における硫酸濃度は41.9質量%であるので、正極活物質質量に対する電解液中の硫酸質量の比率(R)は、式(1)により0.53となる。
【0022】
次に、満充電状態における電解液比重を1.32、正極活物質量を523g/セルに固定し、電解液量を変えて、Rを0.45〜0.60の範囲で変えた鉛蓄電池を作製した。
【0023】
さらに、電解液比重を、1.28、1.30、1.34、1.36、1.38のそれぞれとし、正極活物質質量及び電解液量を調整して、Rを0.45〜0.60の範囲で変えた鉛蓄電池を作製した。
【0024】
なお、電解液比重と電解液の硫酸濃度との関係は表1に示すとおりである。
【0025】
【表1】

【0026】
上記の各種鉛蓄電池を5時間率の実容量試験、続いて重負荷寿命試験に供し、電池容量と寿命サイクル数を求め、その結果を表2に示した。
自動車用鉛蓄電池は、電解液比重が1.28、Rが0.53の鉛蓄電池(表2中No.3)が標準仕様であり、この鉛蓄電池の電池容量及び寿命サイクル数を100として、各鉛蓄電池と相対比較した。
【0027】
【表2】

【0028】
表2の結果から、電池容量と寿命サイクル数の双方が100より大きい性能を満足するのは、電解液の比重が1.30〜1.36の範囲であり、かつRが0.48〜0.58の範囲であることが分かる。
電解液比重の低い鉛蓄電池は、電解液中の硫酸イオン量が少ないため、電池容量は小さくなっている。一方、電解液比重の高い鉛蓄電池は、電解液中の硫酸イオン量が増え、電池容量が増すものの、正極格子体と正極活物質の界面に不導態である硫酸鉛が生成されやすくなり、寿命サイクル数が少なくなっている。
そこで、電解液比重を1.30〜1.36の範囲に設定し、Rを0.48〜0.58の範囲とすることで、硫酸イオン量を多くしながら硫酸イオンが正極板活物質層の深部まで到達するのを抑制し、正極格子体と正極活物質の界面の硫酸鉛化を抑制するため、寿命性能を低下させることなく、高容量な電池を得ることができる。
【0029】
上記の表2中のNo.13における鉛蓄電池は、満充電状態における正極活物質の細孔容積が0.13ml/gである。
正極活物質の細孔容積は、化成温度を高くすると減少し、電解液比重を高くすると増加させることができるので、これら条件を調整して、化成後の正極活物質の細孔容積を0.11〜0.15ml/gの範囲で調整した表3に示す各種鉛蓄電池を作製した。
【0030】
これらの鉛蓄電池の電池容量及び寿命サイクル数を、表2中No.3を100として相対比較し、表3に併せて示した。
【0031】
【表3】

【0032】
表3の結果から、正極活物質の細孔容積が0.11〜0.15ml/gの範囲において電池容量及び寿命サイクル数が一層大きくなることが分かる。
正極活物質の細孔容積が小さくなると、放電反応により活物質が硫酸鉛化したとき、硫酸鉛が細孔を閉塞して充放電反応を阻害するようになる。一方、細孔容積が大きくなると、活物質粒子同士の接触面積が減り、容量低下につながると考えられる。
【0033】
以上のように、本発明によれば、寿命性能を低下させることなく、高容量の鉛蓄電池を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極支配で電池容量が決定される鉛蓄電池であって、
満充電の状態において、電解液の比重(20℃換算値)が、1.30〜1.36であり、かつ正極活物質質量に対する電解液中の硫酸質量の比率が、0.48〜0.58であることを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項2】
請求項1において、満充電の状態において、正極活物質の細孔容積が、0.11〜0.15ml/gであることを特徴とする鉛蓄電池。

【公開番号】特開2013−98016(P2013−98016A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239909(P2011−239909)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】