説明

銅合金微粒子の製造方法、及び該製造方法で得られる銅合金微粒子

【課題】デンドライト化が抑制された球状でかつ粒子径がナノメータサイズの銅−亜鉛合金微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】電解還元反応による、銅−亜鉛からなる銅合金微粒子の製造方法であって、
(i)少なくとも硫酸銅、硫酸亜鉛、錯化剤(a)、有機分散剤、及び無機分散剤を含む還元反応水溶液(還元反応水溶液1)、(ii)少なくとも塩化第一銅、水溶性亜鉛化合物、錯化剤(b)、有機分散剤、及び無機分散剤を含む還元反応水溶液(還元反応水溶液2)、
(iii)少なくとも酒石酸銅、酸化亜鉛、有機分散剤、及び無機分散剤を含む還元反応水溶液(還元反応水溶液3)、又は(iv)少なくとも酢酸銅、酢酸亜鉛、有機分散剤、及び無機分散剤を含む還元反応水溶液(還元反応水溶液4)、でpHが4.5〜13である還元反応水溶液から、電解還元反応により銅−亜鉛からなる合金微粒子を析出させることを特徴とする、銅合金微粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅−亜鉛合金微粒子の製造方法、及び該製造方法により得られる銅合金微粒子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナノメートルサイズ(μm未満のサイズをいう。以下同じ)の金属微粒子は、比表面積が大きく、粒子径が小さくなるにつれて融点が除々に低下する性質を有し、新しい形態の物質として近年注目されつつある。このナノメートルサイズの金属微粒子は、粒子の種類によって、樹脂との複合化のための微粒子表面修飾、薄膜化技術・粒子の配列、機能素子向けの研究開発が行われ、回路配線、インターコネクター、触媒、電池電極、光機能素子、可視光LED素子などへの応用も検討されている。これらの金属微粒子の製造法として、気相合成法、液相合成法が知られている。
【0003】
これらの微粒子の中でも銅−亜鉛合金微粒子は、バルク状態でも融点が低いので、ナノメートルサイズの該合金微粒子が商業的に得られれば電気・電子部品等に使用される焼結導電体として有望である。銅−亜鉛合金微粒子の気相合成法としては、例えば銅の塩化物及び合金化すべき元素の塩化物をそれぞれ加熱して蒸発させ、これらの蒸気を混合し水素ガスによって還元して平均粒子径が0.1〜1μmの銅50〜95重量%、亜鉛5〜50重量%からなる導電ペースト用銅合金粉が開示されている(特許文献1)。また液相合成法として、水アトマイズ法によって製造された体積平均径がいずれも3.0〜4.0μmの、銅合金粉における亜鉛の含有量が0.02〜1.2質量%の合金が開示されている(特許文献2)。又、還元溶液中の金属イオンを還元法により金属微粒子として析出させる際に、還元溶液中にハロゲンイオン又はアルカリ金属イオンと、有機分散剤とを散在させると、デンドライト化が防止できることが開示されている(特許文献3、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−118424号公報
【特許文献2】特開2009−99443号公報
【特許文献3】特開2008−231564号公報
【特許文献4】特開2009−185348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1には、積層セラミックコンデンサ外部電極用銅−亜鉛合金粉をペーストにして高温(焼成完了温度:633〜770℃程度)で焼結して電気比抵抗(μΩ・cm)が評価されているが、焼成温度はいずれも極めて高温である。特許文献2には、回路導体形成用や積層セラミックコンデンサ外部電極用に使用される導電材ペーストとして、亜鉛の含有量を0.02〜1.2質量%とし、かつリン0.005〜0.05質量%と共存させることにより、耐食耐酸化性を著しく向上できることが開示されている。特許文献3、4には、還元反応水溶液中の銅イオンを還元して、銅微粒子を析出させる際にハロゲンイオン又はアルカリ金属イオンと、有機分散剤とを存在させて、析出する銅微粒子のデンドライト状の凝集を防止しているが、銅−亜鉛からなる銅合金微粒子を析出させること、及び低温で焼結が可能となる微粒子分散溶液いついては記載されていない。電子部品や半導体などの実装接続に用いられるペーストやインクにおいて、多く用いられる金属粒子は、粒子サイズを小さくすると、低温における加熱でも粒子同士の相互焼結が起こり、金属的な導電性が得られるため、実用的にも金属微粒子が用いられるようになってきているが、より低温でのプロセスに適用するためには、粒子の融点が低くなるような合金化を行うことが必要になる。本発明は、電解還元を行うことにより、デンドライト化が抑制された球状でかつ粒子径がナノメータサイズの銅−亜鉛合金微粒子の製造方法、及びこれらの製造により得られる銅合金微粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、液相において従来行われていた電解還元を行う際に、通常使用される光沢剤や光沢補助剤を用いることなく、銅−亜鉛合金微粒子が析出可能とする特定の成分である金属塩、有機分散剤、及び無機分散剤を電解還元反応水溶液に添加して、電解還元を行うとデンドライト化が抑制された、平均一次粒子径がナノメートルサイズの銅−亜鉛からなる銅合金微粒子が効率よく製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、以下の〈1〉〜〈11〉に記載する発明を要旨とする。
〈1〉電解還元反応による、銅−亜鉛からなる銅合金微粒子の製造方法であって、
(i)少なくとも硫酸銅、硫酸亜鉛、錯化剤(a)、有機分散剤、及び無機分散剤を含む還元反応水溶液(還元反応水溶液1)、
(ii)少なくとも塩化第一銅、水溶性亜鉛化合物、錯化剤(b)、有機分散剤、及び無機分散剤を含む還元反応水溶液(還元反応水溶液2)、
(iii)少なくとも酒石酸銅、酸化亜鉛、有機分散剤、及び無機分散剤を含む還元反応水溶液(還元反応水溶液3)、又は
(iv)少なくとも酢酸銅、酢酸亜鉛、有機分散剤、及び無機分散剤を含む還元反応水溶液(還元反応水溶液4)、
でpHが4.5〜13である還元反応水溶液から、電解還元反応により銅−亜鉛からなる合金微粒子を析出させることを特徴とする、銅合金微粒子の製造方法(以下、第一の態様ということがある)。
〈2〉前記還元反応水溶液1における錯化剤(a)がグリセリン、トリエタノールアミン、エタノールアミン、シュウ酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、及びグルコヘプトン酸ナトリウムから選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、前記〈1〉に記載の銅合金微粒子の製造方法。
〈3〉前記還元反応水溶液2における水溶性亜鉛化合物が塩化亜鉛又は硫酸亜鉛であり、錯化剤(b)がチオ硫酸ナトリウムであることを特徴とする、前記〈1〉に記載の銅合金微粒子の製造方法。
〈4〉前記有機分散剤が水溶性高分子からなる有機分散剤であって、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、デンプン、及びゼラチンから選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、前記〈1〉ないし〈3〉のいずれかに記載の銅合金微粒子の製造方法。
〈5〉前記還元反応水溶液中における無機分散剤の濃度が無機分散剤と銅原子及び亜鉛原子のモル比(無機分散剤/(銅+亜鉛))で0.01〜20であることを特徴とする、前記〈1〉ないし〈4〉のいずれかに記載の銅合金微粒子の製造方法。
【0008】
〈6〉前記無機分散剤がハロゲンイオン、アルカリ金属イオン、及びアルカリ土類金属イオンから選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、前記〈1〉ないし〈5〉のいずれかに記載の銅合金微粒子の製造方法。
〈7〉前記ハロゲンイオンの供給源が塩化水素、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、臭化水素、臭化カリウム、臭化ナトリウム、臭化アンモニウム、沃化水素、沃化カリウム、沃化ナトリウム、沃化アンモニウム、フッ化水素、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、及び弗化アンモニウムから選択される1種又は2種以上であり、
前記アルカリ金属イオンの供給源が水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム、酢酸ナトリウム、及び酢酸カリウムから選択される1種又は2種以上であり、
前記アルカリ土類金属イオンの供給源が臭化カルシウム、臭化バリウム、塩化カルシウム、塩化バリウム、沃化カルシウム、及び沃化バリウムから選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、前記〈6〉に記載の銅合金微粒子の製造方法。
【0009】
〈8〉前記還元反応水溶液中における無機分散剤の濃度が無機分散剤と銅原子及び亜鉛原子の質量比(無機分散剤/(銅+亜鉛))で0.01〜20であることを特徴とする、前記〈6〉に記載の銅合金微粒子の製造方法。
〈9〉前記還元反応水溶液中の銅原子濃度が0.01〜4モル/リットルであり、亜鉛原子濃度が前記銅原子濃度の0.01〜1モル倍であることを特徴とする、前記〈1〉ないし〈8〉のいずれかに記載の銅合金微粒子の製造方法。
〈10〉前記還元反応水溶液中に設けられたアノード(陽極)とカソード(陰極)間に電圧を印加して還元反応を行うことによりカソード表面付近に銅−亜鉛からなる銅合金微粒子を析出させることを特徴とする、前記〈1〉ないし〈9〉のいずれかに記載の銅合金微粒子の製造方法。
〈11〉前記〈1〉ないし〈10〉のいずれかに記載の還元反応により製造された、銅−亜鉛からなる銅合金微粒子の平均一次粒子径が1〜80nmの範囲であり、かつ平均アスペクト比が10以下である銅合金微粒子(以下、第二の態様ということがある)。
【発明の効果】
【0010】
本発明の還元反応水溶液に、特定の銅と亜鉛の金属塩(又は錯体)を組み合わせた還元反応水溶液とし、且つ有機分散剤を添加することにより、電解還元反応で析出する金属微粒子を平均一次粒子径がナノメータサイズの合金微粒子として析出させる可能となる。又、該還元反応水溶液に無機分散剤が添加されていることにより、合金微粒子が析出する際にデンドライト状の凝集が抑制された銅−亜鉛からなる銅合金微粒子が形成される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳述する。
〔1〕銅合金微粒子の製造方法
本発明の「銅合金微粒子の製造方法」は、電解還元反応による、銅−亜鉛からなる銅合金微粒子の製造方法であって、
(i)少なくとも硫酸銅、硫酸亜鉛、錯化剤(a)、有機分散剤、及び無機分散剤を含む還元反応水溶液(還元反応水溶液1)、
(ii)少なくとも塩化第一銅、水溶性亜鉛化合物、錯化剤(b)、有機分散剤、及び無機分散剤を含む還元反応水溶液(還元反応水溶液2)、
(iii)少なくとも酒石酸銅、酸化亜鉛、有機分散剤、及び無機分散剤を含む還元反応水溶液(還元反応水溶液3)、又は
(iv)少なくとも酢酸銅、酢酸亜鉛、有機分散剤、及び無機分散剤を含む還元反応水溶液(還元反応水溶液4)、
でpHが4.5〜13である還元反応水溶液から、電解還元反応により銅−亜鉛からなる銅合金微粒子を析出させることを特徴とする。
【0012】
以下に本発明の還元反応水溶液1〜4について記載する。
(1)有機分散剤
本発明における有機分散剤の作用のメカニズムは定かではないが、還元反応水溶液中において還元反応による銅合金微粒子の結晶核の生成を助長し、更に生成した結晶を分散させる作用を有するものと推定される。有機分散剤として、水溶性の高分子化合物を使用することができる、このような水溶性の高分子化合物としてポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン等のアミン系の高分子;ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース等のカルボン酸基を有する炭化水素系高分子;ポリアクリルアミド等のアクリルアミド;ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、更にはデンプン、ゼラチン等が例示できる。
【0013】
上記例示した水溶性の高分子化合物の具体例として、ポリエチレンイミン(平均分子量:100〜100,000)、ポリビニルピロリドン(平均分子量:1000〜500、000)、カルボキシメチルセルロース(ヒドロキシル基Na塩のカルボキシメチル基への置換度:0.4以上、平均分子量:1000〜100,000)、ポリアクリル酸(平均分子量:1000〜10000)、ポリアクリルアミド(平均分子量:100〜6,000,000)、ポリビニルアルコール(分子量:1000〜100,000)、ポリエチレングリコール(平均分子量:100〜50,000)、ポリエチレンオキシド(平均分子量:50,000〜900,000)、ゼラチン(平均分子量:61,000〜67,000)、水溶性のデンプン等が挙げられる。
【0014】
上記かっこ内に示す範囲にある平均分子量の高分子化合物は水溶性を有するので、本発明の有機分散剤として好適に使用できる。尚、これらの有機分散剤は、2種以上を混合して使用することもできる。前記還元反応水溶液中における有機分散剤の濃度は、有機分散剤と、銅原子及び亜鉛原子の質量比(有機分散剤/(銅+亜鉛))で0.01〜30が好ましく、0.5〜10がより好ましい。該比が前記0.01未満では還元反応が著しく遅くなり、前記30を超えると添加効果がなくなるおそれがある。
【0015】
(2)無機分散剤
本発明における無機分散剤は、ハロゲンイオン、アルカリ金属イオン、及びアルカリ土類金属イオンから選択される1種又は2種以上であることが望ましい。本発明における無機分散剤の作用についてのメカニズムは明らかではないが、還元反応水溶液中に好適な濃度範囲で存在していると、銅合金の結晶核の生成を促進すると共に、還元反応により銅合金微粒子の結晶が結晶核から成長する際にデンドライト状の凝集を抑制して、結晶が略球状に成長していくのを助長しているものと推定される。一方、還元反応水溶液中に無機分散剤を存在させずに、銅イオン、亜鉛イオン、及び有機分散剤が溶解している水溶液から電解還元により銅−亜鉛合金微粒子を析出させた場合には、析出した結晶中に原料の銅化合物と亜鉛化合物の混入、及びこれらの化合物の結晶面を介して結晶がデンドライト状に成長していく。特許文献4において無機分散剤は、還元反応水溶液中でデンドライト状の凝集を抑制して、粒子が略球状に成長するのを助長していることが電子顕微鏡等で確認されている。
【0016】
前記ハロゲンイオンの供給源として、塩化水素、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、臭化水素、臭化カリウム、臭化ナトリウム、臭化アンモニウム、沃化水素、沃化カリウム、沃化ナトリウム、沃化アンモニウム、フッ化水素、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、及び弗化アンモニウム等から選択される1種又は2種以上が例示でき、前記アルカリ金属イオンの供給源として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム、酢酸ナトリウム、及び酢酸カリウム等から選択される1種又は2種以上が例示でき、前記アルカリ土類金属イオンの供給源として、臭化カルシウム、臭化バリウム、塩化カルシウム、塩化バリウム、沃化カルシウム、及び沃化バリウムから選択される1種又は2種以上が例示できる。銅−亜鉛合金微粒子を電解析出させる場合、前記還元反応水溶液中における無機分散剤と、銅原子及び亜鉛原子のモル比([無機分散剤/(銅+亜鉛)])は好ましくは0.01〜20、より好ましくは0.05〜10である。該モル比が前記20を超えると還元反応が遅くなり、一方前記0.01未満では、添加効果が十分に発揮されない。
【0017】
(3)還元反応水溶液中の金属塩
(イ)還元反応水溶液1
還元反応水溶液1は、少なくとも硫酸銅、硫酸亜鉛、錯化剤(a)、有機分散剤、及び無機分散剤を含む還元反応水溶液である。還元反応水溶液中における硫酸銅の濃度は、0.01〜4.0モル/リットルが好ましい。該濃度が0.01モル/リットル未満では、銅−亜鉛合金微粒子の生成量が低減し反応相からの銅−亜鉛合金微粒子の収率が低下するという不都合を生じ、一方、4.0モル/リットルを超えると生成される粒子間での粗大な凝集がおこるおそれがある。よリ好ましい硫酸銅の濃度は、0.05〜0.5モル/リットルである。硫酸亜鉛の濃度は、前記硫酸銅の濃度の0.01〜1モル倍(モル倍はモル濃度の比を示す。以下同じ。)が好ましく、0.1〜0.5モル倍がより好ましい。該濃度が0.01モル倍未満では、還元される亜鉛量が低下するおそれがあり、一方、1モル倍を超えると銅と亜鉛の金属間化合物からなる微粒子を析出するおそれがある。錯化剤(a)は、グリセリン、トリエタノールアミン、エタノールアミン、シュウ酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、及びグルコヘプトン酸ナトリウムから選択される1種又は2種以上が好ましい。錯化剤(a)の使用量は、前記硫酸銅の濃度の2〜60モル倍が好ましく、5〜30モル倍がより好ましい。該濃度が2モル倍未満では、銅と亜鉛の共析が困難となるおそれがあり、一方、60モル倍を超えると金属の還元反応が遅くなるおそれがある。
【0018】
(ロ)還元反応水溶液2
還元反応水溶液2は、少なくとも塩化第一銅、水溶性亜鉛化合物、錯化剤(b)、有機分散剤、及び無機分散剤を含む還元反応水溶液である。還元反応水溶液中における塩化第一銅の濃度は、0.01〜4.0モル/リットルが好ましい。該濃度が0.01モル/リットル未満では、銅−亜鉛合金微粒子の生成量が低減し反応相からの銅−亜鉛合金微粒子の収率が低下するという不都合を生じ、一方、4.0モル/リットルを超えると生成される粒子間での粗大な凝集がおこるおそれがある。より好ましい塩化第一銅の濃度は、0.05〜0.5モル/リットルである。水溶性亜鉛化合物としては、塩化亜鉛又は硫酸亜鉛が好ましく、錯化剤(b)はチオ硫酸ナトリウムが好ましい。好ましい水溶性亜鉛化合物の濃度は、前記塩化第一銅の濃度の0.01〜1モル倍が好ましく、0.1〜0.5モル倍がより好ましい。該濃度が0.01モル倍未満では、還元される亜鉛量が低下するおそれがあり、一方、1モル倍を超えると銅と亜鉛の金属間化合物からなる微粒子が析出するおっそれがある。錯化剤(b)の使用量は、前記塩化第一銅の濃度の5〜30モル倍が好ましく、7〜10モル倍がより好ましい。該濃度が5モル倍未満では、銅と亜鉛の共析が困難となるおそれがあり、一方、30モル倍を超えると金属の還元反応が遅くなるおそれがある。
【0019】
(ハ)還元反応水溶液3
還元反応水溶液3は、少なくとも酒石酸銅、酸化亜鉛、有機分散剤、及び無機分散剤を含む還元反応水溶液である。この還元反応水溶液3において、酒石酸銅は錯イオンを形成しているので新に錯化剤の添加は不要である。還元反応水溶液中における酒石酸銅の濃度は、0.01〜4.0モル/リットルが好ましい。該濃度が0.01モル/リットル未満では、銅−亜鉛合金微粒子の生成量が低減し反応相からの銅−亜鉛合金微粒子の収率が低下するという不都合を生じ、一方、4.0モル/リットルを超えると生成される粒子間での粗大な凝集がおこるおそれがある。より好ましい酒石酸銅の濃度は、0.05〜0.5モル/リットルである。好ましい酸化亜鉛の濃度は、前記酒石酸銅の濃度の0.01〜1モル倍が好ましく、0.1〜0.5モル倍がより好ましい。該濃度が0.01モル倍未満では、還元される亜鉛量が低下するおそれがあり、一方、1モル倍を超えると銅と亜鉛の金属間化合物からなる微粒子を析出するおそれがある。
【0020】
(ニ)還元反応水溶液4
還元反応水溶液4は、少なくとも酢酸銅、酢酸亜鉛、有機分散剤、及び無機分散剤を含む還元反応水溶液である。還元反応水溶液中における酢酸銅の濃度は、0.01〜4.0モル/リットルが好ましい。該濃度が0.01モル/リットル未満では、銅−亜鉛合金微粒子の生成量が低減し反応相からの銅−亜鉛合金微粒子の収率が低下するという不都合を生じ、一方、4.0モル/リットルを超えると生成される粒子間での粗大な凝集がおこるおそれがある。よリ好ましい酢酸銅の濃度は、0.05〜0.5モル/リットルである。好ましい酢酸亜鉛の濃度は、前記酢酸銅の濃度の0.01〜1モル倍が好ましく、0.01〜0.5モル倍がより好ましい。該濃度が0.01モル倍未満では、還元される亜鉛量が低下するおそれがあり、一方、1モル倍を超えると銅と亜鉛の金属間化合物からなる微粒子を析出するおそれがある。
【0021】
(4)電解還元について
(イ)電極(陽極と陰極)材料等
陰極は、白金、カーボン等が好ましく、陽極は、銅、銅−亜鉛合金、カーボン、白金等が好ましい。尚、陰極表面付近に析出した粒子を脱離、回収するために陰極に超音波振動等の揺動を与えることが可能な構造とすることもできる。
(ロ)電解還元反応
電解還元反応のpHは4.5〜13の範囲に調整する。pHが4.5未満だと錯化剤の効果が低下するなどの悪影響を与える場合があり、pHが13を超えると電流密度範囲が狭くなり、電流効率が低下する場合がある。尚、pHの調整は次亜リン酸アルカリ金属塩等の添加により行うことができる。電流密度は好ましくは0.3〜20A/dm、より好ましくは5〜15A/dm程度である。還元温度は、0〜70℃が好ましく、高温になるほど還元反応速度は速くなり、低温になるほど析出する粒子の粒径は小さくなる傾向がある。
【0022】
(ハ)電解溶液からの銅合金微粒子の回収
電解還元反応終了後に、電極の洗浄等により電極表面に付着した銅合金微粒子を回収する。回収方法としては、電極に逆電流を流し、電極表面に付着した微粒子を脱離させ、沈殿物を回収することも可能である。また上記したように、陰極に超音波振動等の揺動を与える回収を行うこともできる。かくして得られる銅合金微粒子は、平均一次粒子径が1〜80nmの範囲であり、かつ平均アスペクト比が10以下の比較的小さい略球状である。尚、前記平均一次粒子径と平均アスペクト比は、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、JIS Z8827−1に規定される解析方法によって求めることができる。本発明において平均一次粒子径は透過型電子顕微鏡で観察可能な粒子の数平均粒子径である。
【0023】
〔2〕第2の態様
前記第1の態様に記載の還元反応により製造された、銅−亜鉛からなる合金微粒子は、平均一次粒子径が1〜80nmの範囲であり、かつ平均アスペクト比が10以下である。上記第1の態様に記載の製造方法により得られる銅合金微粒子は、有機分散剤と無機分散剤の存在下に還元反応がおこなわれる結果、デンドライト化が抑制されて平均一次粒子径が好ましくは1〜80nmの範囲、より好ましくは1〜50nmの範囲であり、平均アスペクト比が好ましくは10以下、より好ましくは5以下、特に好ましくは2以下の略球状のものである。
【実施例】
【0024】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。電解還元反応により銅−亜鉛からなる銅合金微粒子を調製して、得られた微粒子の評価を行った。
[実施例1]
(1)銅合金微粒子の調製
まず、銅イオンとして硫酸銅0.1モル/L、亜鉛イオンとして硫酸亜鉛0.02モル/L、錯化剤としてエタノールアミン5.7モル/L、無機分散剤として硫酸ナトリウム0.01モル/L、有機分散剤としてポリビニルピロリドン(数平均分子量:3500)5g/Lを含有する1000mlの還元反応水溶液を調製した。pHは約5.0であった。
次にこの溶液中で2cm四方の銅シートからなる陽極(アノード電極)と白金基板からなる陰極(カソード電極)間を浴温25℃で、電流密度10A/dmで30分間通電を行った。得られたコロイド溶液を、カーボン支持膜をとりつけたアルミメッシュ上に採取し、溶媒を乾燥除去して、銅合金微粒子を得た。
(2)生成した銅合金微粒子の評価
得られた銅合金微粒子について、透過電子顕微鏡(TEM)による観測結果、粒子の90%以上の一次粒子径は5〜50nmの範囲で、平均アスペクト比は1.5であった。また、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)による分析結果、合金組成は、銅90質量%、亜鉛10質量%の合金であった。
【0025】
[実施例2]
(1)銅合金微粒子の調製
まず、銅イオンとして塩化第一銅0.1モル/L、亜鉛イオンとして塩化亜鉛0.01モル/L、錯化剤としてチオ硫酸ナトリウム0.8モル/L、無機分散剤として塩化アンモニウム1.5モル/L、有機分散剤としてポリビニルピロリドン(数平均分子量:3500)5g/Lを含有する1000mlの還元反応水溶液を調製した。pHは約5.0であった。
次にこの溶液中で2cm四方の銅シートからなる陽極(アノード電極)と、白金基板からなる陰極(カソード電極)間を浴温25℃で、白金基板からなる陽極(アノード電極)と陰極(カソード電極)を用いて陰極電流密度10A/dmで30分間通電を行った。得られたコロイド溶液を、カーボン支持膜をとりつけたアルミメッシュ上に採取し、溶媒を乾燥除去して、銅合金微粒子を得た。
(2)生成した銅合金微粒子の評価
得られた銅合金微粒子について、透過電子顕微鏡(TEM)による観測結果、粒子の90%以上の一次粒子径は5〜50nmの範囲で、平均アスペクト比は1.5であった。また、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)による分析結果、合金組成は、銅98質量%、亜鉛2質量%の合金であった。
【0026】
[実施例3]
(1)銅合金微粒子の調製
まず、銅イオンとして酒石酸銅0.096モル/L、亜鉛イオンとして酸化亜鉛0.032モル/L、無機分散剤として水酸化ナトリウム2.5モル/L、有機分散剤としてポリビニルピロリドン(数平均分子量:3500)5g/Lを含有する1000mlの還元反応水溶液を調製した。pHは約5.0であった。
次にこの溶液中で2cm四方の銅シートからなる陽極(アノード電極)と、白金基板からなる陰極(カソード電極)間を浴温25℃で、白金基板からなる陽極(アノード電極)と陰極(カソード電極)を用いて陰極電流密度10A/dmで30分間通電を行った。得られたコロイド溶液を、カーボン支持膜をとりつけたアルミメッシュ上に採取し、溶媒を乾燥除去して、銅合金微粒子を得た。
(2)生成した銅合金微粒子の評価
銅合金微粒子について、透過電子顕微鏡(TEM)による観測結果、粒子の90%以上の一次粒子径は5〜50nmの範囲で、平均アスペクト比は1.5であった。また、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)による分析結果、合金組成は、銅80質量%、亜鉛20質量%の合金であった。
【0027】
[実施例4]
(1)銅合金微粒子の調製
まず、銅イオンとして酢酸銅0.1モル/L、亜鉛イオンとして酢酸亜鉛0.01モル/L、無機分散剤として酢酸ナトリウム0.01モル/L、有機分散剤としてポリビニルピロリドン(数平均分子量:3500)5g/Lを含有する1000mlの還元反応水溶液を調製した。pHは約5.0であった。次にこの溶液中で2cm四方の銅シートからなる陽極(アノード電極)と白金基板からなる陰極(カソード電極)間を浴温25℃で、電流密度15A/dmで30分間通電を行った。得られたコロイド溶液を、カーボン支持膜をとりつけたアルミメッシュ上に採取し、溶媒を乾燥除去して、銅合金微粒子を得た。
(2)生成した銅合金微粒子の評価
得られた銅合金微粒子について、透過電子顕微鏡(TEM)による観測結果、粒子の90%以上の一次粒子径は5〜50nmの範囲で、平均アスペクト比は1.5であった。また、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)による分析結果、合金組成は、銅95質量%、亜鉛5質量%の合金であった。
【0028】
[比較例1]
還元反応水溶液中の無機分散剤濃度を0モル/Lとして、電解還元反応により銅合金微粒子を調製して、得られた微粒子の評価を行った。
(1)銅合金微粒子の調製
酢酸ナトリウム濃度を0モル/Lとした以外は実施例4と同様に、還元反応水溶液を調製し、電解還元反応を行った。得られたコロイド溶液を、カーボン支持膜をとりつけたアルミメッシュ上に採取し、溶媒を乾燥除去して、銅合金微粒子を得た。
(2)生成した銅合金微粒子の評価
銅合金微粒子について、透過電子顕微鏡(TEM)により観測した結果、粒子の90%以上の一次粒子径は5〜300nmの範囲で、結晶形状はデンドライト状に凝集して、1〜10μmの凝集体になっていることが観察された。また、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)による分析結果、合金組成は、銅95質量%、亜鉛5質量%の合金であった。
【0029】
[比較例2]
(1)銅合金微粒子の調製
硫酸ナトリウム濃度を0モル/Lとした以外は実施例1と同様に、還元反応水溶液を調製し、電解還元反応を行った。得られたコロイド溶液を、カーボン支持膜をとりつけたアルミメッシュ上に採取し、溶媒を乾燥除去して、銅合金微粒子を得た。
(2)生成した銅合金微粒子の評価
得られた銅合金微粒子について、透過電子顕微鏡(TEM)により観測した結果、粒子の90%以上の一次粒子径は5〜300nmの範囲で、結晶形状はデンドライト状に凝集して、1〜10μmの凝集体になっていることが観察された。また、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)による分析結果、合金組成は、銅90質量%、亜鉛10質量%の合金であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解還元反応による、銅−亜鉛からなる銅合金微粒子の製造方法であって、
(i)少なくとも硫酸銅、硫酸亜鉛、錯化剤(a)、有機分散剤、及び無機分散剤を含む還元反応水溶液(還元反応水溶液1)、
(ii)少なくとも塩化第一銅、水溶性亜鉛化合物、錯化剤(b)、有機分散剤、及び無機分散剤を含む還元反応水溶液(還元反応水溶液2)、
(iii)少なくとも酒石酸銅、酸化亜鉛、有機分散剤、及び無機分散剤を含む還元反応水溶液(還元反応水溶液3)、又は
(iv)少なくとも酢酸銅、酢酸亜鉛、有機分散剤、及び無機分散剤を含む還元反応水溶液(還元反応水溶液4)、
でpHが4.5〜13である還元反応水溶液から、電解還元反応により銅−亜鉛からなる合金微粒子を析出させることを特徴とする、銅合金微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記還元反応水溶液1における錯化剤(a)がグリセリン、トリエタノールアミン、エタノールアミン、シュウ酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、及びグルコヘプトン酸ナトリウムから選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項1に記載の銅合金微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記還元反応水溶液2における水溶性亜鉛化合物が塩化亜鉛又は硫酸亜鉛であり、錯化剤(b)がチオ硫酸ナトリウムであることを特徴とする、請求項1に記載の銅合金微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記有機分散剤が水溶性高分子からなる有機分散剤であって、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、デンプン、及びゼラチンから選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の銅合金微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記還元反応水溶液中における有機分散剤の濃度が、有機分散剤と、銅原子及び亜鉛原子の質量比(有機分散剤/(銅+亜鉛))で0.01〜30であることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の銅合金微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記無機分散剤がハロゲンイオン、アルカリ金属イオン、及びアルカリ土類金属イオンから選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の銅合金微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記ハロゲンイオンの供給源が塩化水素、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、臭化水素、臭化カリウム、臭化ナトリウム、臭化アンモニウム、沃化水素、沃化カリウム、沃化ナトリウム、沃化アンモニウム、フッ化水素、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、及び弗化アンモニウムから選択される1種又は2種以上であり、
前記アルカリ金属イオンの供給源が水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム、酢酸ナトリウム、及び酢酸カリウムから選択される1種又は2種以上であり、
前記アルカリ土類金属イオンの供給源が臭化カルシウム、臭化バリウム、塩化カルシウム、塩化バリウム、沃化カルシウム、及び沃化バリウムから選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項6に記載の銅合金微粒子の製造方法。
【請求項8】
前記還元反応水溶液中における無機分散剤の濃度が無機分散剤と銅原子及び亜鉛原子のモル比(無機分散剤/(銅+亜鉛))で0.01〜20であることを特徴とする、請求項6に記載の銅合金微粒子の製造方法。
【請求項9】
前記還元反応水溶液中の銅原子濃度が0.01〜4モル/リットルであり、亜鉛原子濃度が前記銅原子濃度の0.01〜1モル倍であることを特徴とする、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の銅合金微粒子の製造方法。
【請求項10】
前記還元反応水溶液中に設けられたアノード(陽極)とカソード(陰極)間に電圧を印加して還元反応を行うことによりカソード表面付近に銅−亜鉛からなる銅合金微粒子を析出させることを特徴とする、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の銅合金微粒子の製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項に記載の還元反応により製造された、銅−亜鉛からなる銅合金微粒子の平均一次粒子径が1〜80nmの範囲であり、かつ平均アスペクト比が10以下である銅合金微粒子。

【公開番号】特開2011−202245(P2011−202245A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71734(P2010−71734)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】