説明

銅合金注湯炉の注湯ノズル及び注湯ノズル開閉用ストッパ並びにこれらを用いた注湯口装置

【目的】銅合金注湯炉の注湯口の長寿命化を図る。
【構成】銅合金自動注湯炉1の注湯口3に設けられる注湯ノズル6の素材として、Cを10〜20重量%、Al2 3 を70〜80重量%含む耐火物を用い、またこの注湯ノズルを開閉するストッパ7の素材として、Cを30〜40重量%、SiCを35〜55重量%含む耐火物を使用する。これにより、スラグ付着によるノズル閉塞や熱衝撃によるストッパ割れなどの発生を防止して長期間の安定した運転が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、銅合金、特に青銅の注湯に適した注湯炉の注湯ノズル及びこれを開閉するストッパに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、自動車部品などの鋳物工場では省力化、合理化、品質の安定化を目的として自動注湯システムが多く採用され、注湯炉についても数々の技術的改善が図られてきている。しかし、それらはほとんど鋳鉄用であり、非鉄金属への適用例はあまりない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】一方、近時、水栓器具などの増産要求から銅合金鋳物についても自動注湯設備の導入意欲が高まっている。しかし、銅合金には鋳鉄にはない性質があり、その自動注湯を実用化するためには解決すべき種々の技術的課題が存在する。とりわけ、過酷な使用条件に曝される注湯炉の注湯ノズル、あるいはこれを開閉するためのストッパの素材の選定には注意を要する。この発明は、上記素材について試験を重ねた結果得られたもので、自動注湯の長時間の繰り返し作業にも十分に耐えられる注湯ノズル及び注湯ノズル開閉用ストッパを提供することを目的とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、この発明の銅合金注湯炉の注湯ノズルは、Cを10〜20重量%、Al2 3 を70〜80重量%含む耐火物で構成するものとする。また、上記注湯ノズルを開閉するこの発明のストッパは、Cを30〜40重量%、SiCを35〜55重量%含む耐火物で構成するものとする。
【0005】
【作用】銅合金の注湯ノズル、あるいはその開閉用ストッパの素材には、下記のような特性が求められる。
(1) 約1200℃においても変質しない耐熱性(2) 急冷、急加熱の繰り返しでもスポーリングを生じない耐熱衝撃性(3) 溶湯及びスラグと接触しても減肉しない耐溶損性(4) ストッパの開閉動作により磨耗しない耐磨耗性(5) 溶湯及びスラグが付着しない耐濡れ性
【0006】ストッパは溶湯に浸漬しない部分が大気に曝されるため非酸化物系の耐火物が適しており、特にコスト的にも入手が容易なSiCが良い。その場合、発明者らの試験によれば、C量が30重量%以下になると、溶湯に浸漬する部位と大気に曝される部位との温度差及び急冷、急加熱による熱衝撃特性の低下によりスポーリングの発生する確率が高くなる。また、C量が40重量%以上になると、耐磨耗性の著しい低下により、短期間で注湯ノズルとの接触面が荒れ、溶湯の漏れが発生する。結果として、Cが30〜40重量% 、SiCが35〜55重量%のものが最適であった。
【0007】一方、注湯ノズルは炉体れんがに囲まれるため蓄熱があり、ストッパほど耐熱衝撃性は要求されず、かつ大気に曝される面積が少ないため、耐磨耗性の良好なAl2 3 が適している。その場合、C量が10重量%以下になるとスラグの付着が著しくなり、ノズル閉塞が短時間で発生する。また、C量が20重量%以上になると、ストッパとの接触面の荒れが著しくなり、短時間で溶湯の漏れが発生する。結果として、Cが10〜20重量% 、Al2 3 が70〜80重量%のものが最適であった。
【0008】
【実施例】図1はこの発明の注湯ノズル及びストッパの試験を行った開閉式自動注湯炉の概略縦断面図である。図において、炉体1は円筒状の溶湯貯留槽2と、これに前後から連通する注湯口3及び受湯口4とからなっている。溶湯貯留槽2は図示の通り蓋体1aにより密閉構造となっており、給気口5からのガス圧で湯面が加圧されるようになっている。また、注湯口3には注湯ノズル6とこれを開閉する丸棒状のストッパ7とが設けられている。炉体1の内部には図示しない溶解炉から受湯口4を通して移された青銅(JIS青銅鋳物BC−6)の溶湯が貯留され、かつこの溶湯は図示しないインダクタによる熱により1200〜1230℃の温度に保持されている。
【0009】上記注湯炉により注湯を行うには、溶湯貯留槽2の湯面を加圧して注湯口3の湯面を図示の通り一定に保持しておき、注湯ノズル6の下側に図示しない鋳型が送り込まれた時に、ストッパ7を一定時間上昇させる。これにより、注湯口3の溶湯が注湯ノズル6を通過して鋳型に注入される。注湯を終了したら、ストッパ7を下降させて溶湯流を停止させる。これらの動作の繰り返しにより、青銅鋳物が自動的に鋳造される。試験では、以下に説明するような注湯ノズル6及びストッパ7を作成し、これを図1の自動注湯炉に組み込んで、1日10時間、5日間の稼働で注湯を繰り返し、スラグ地金の付着によるノズル閉塞、熱衝撃によるスポーリングなどの発生を観測した。
【0010】ストッパ表1に示すように5種類の配合の素材でストッパを作成した。配合Aの場合は、無余熱で溶湯に浸漬すると、ストッパ本体にクラックが発生して割れてしまった。これは、熱衝撃による割れである。配合Eの場合は、約1〜2日で割れてしまったが、ストッパの鉱物組成を分析すると、α−クリストバル石(cristobalite)が生成していた。この割れは、過熱冷却の繰り返しにより熱膨張率が0の溶融シリカがα−クリストバル石になり、熱膨張特性が変化したことが原因と考えられる。配合Cの場合は、注湯ノズルと接触するストッパの先端部分の磨耗溶損が激しく、2〜3日で湯漏れが発生した。配合Dの場合は、湯面より上部の大気雰囲気の部位が酸化劣化して2〜3日で破損した。配合Bの場合は、5日間良好に使用できた。
【0011】
【表1】


【0012】注湯ノズル表2に示すような3種類の配合で注湯ノズルを作成した。配合Hの場合は、ストッパと接触する面が磨耗してしまい、2〜3日で湯漏れが発生した。配合Fの場合は、注湯ノズル内に地金及びスラグが付着し、それが成長して1〜2日でノズル内径を狭め、正確な注湯量が確保出来なくなった。配合Gの場合は、地金及びスラグの付着も磨耗溶損も少なく、5日間良好に使用できた。
【0013】
【表2】


【0014】
【発明の効果】この発明によれば、従来、ほとんど実績のない銅合金の自動注湯において、最も使用条件の過酷な注湯口の寿命信頼性を向上させ、長期間にわたって製品品質の安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の注湯ノズル及びストッパの試験に使用した自動注湯炉の縦断面図である。
【符号の説明】
3 注湯口
6 注湯ノズル
7 ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】Cを10〜20重量%、Al2 3 を70〜80重量%含む耐火物で構成したことを特徴とする銅合金注湯炉の注湯ノズル。
【請求項2】Cを30〜40重量%、SiCを35〜55重量%含む耐火物で構成したことを特徴とする銅合金注湯炉の注湯ノズル開閉用ストッパ。
【請求項3 】請求項1記載の注湯ノズルと請求項2記載の注湯ノズル開閉用ストッパとを備えたことを特徴とする銅合金注湯炉の注湯口装置。

【図1】
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【公開番号】特開平5−154647
【公開日】平成5年(1993)6月22日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−348888
【出願日】平成3年(1991)12月5日
【出願人】(000000479)株式会社イナックス (1,429)
【出願人】(000244176)明智セラミックス株式会社 (40)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)