説明

銅塩微粒子分散樹脂の製造方法、銅塩微粒子分散樹脂およびマスターバッチ

【課題】様々なサイズの光学材料を好適に製造することが可能であり、かつ、白濁等が起こりがたく透明性に優れる光学材料を得ることが可能な、銅塩微粒子分散樹脂を製造する方法を提供すること。
【解決手段】本発明の銅塩微粒子分散樹脂の製造方法は、平均粒径が1〜1000nmの近赤外線吸収性銅塩微粒子を溶媒に分散することにより、銅塩微粒子の分散液を得る工程、前記分散液と樹脂とを混合することにより、混合物を得る工程、前記混合物中の溶媒を除去することにより、樹脂および銅塩微粒子から形成される、銅塩微粒子が1〜30質量%分散したマスターバッチを得る工程および、前記マスターバッチと樹脂とを、混練することにより、樹脂および銅塩微粒子から形成される、銅塩微粒子が0.1〜5質量%分散した銅塩微粒子分散樹脂を得る工程を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅塩微粒子分散樹脂の製造方法、銅塩微粒子分散樹脂およびマスターバッチに関する。
【背景技術】
【0002】
銅イオンは、近赤外領域の光(以下、「近赤外線」ともいう)の吸収特性に優れており、銅イオンが有する近赤外線の吸収特性を利用した光学材料が従来から提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。特許文献1には、特定のリン酸エステル化合物と銅化合物とから形成されるリン酸エステル銅化合物を含有する光学材料が開示されている。特許文献2には、特定のリン酸エステル化合物、銅化合物および樹脂を含有する樹脂組成物から形成されたディスプレイ前面板が開示されている。特許文献3には、特定のリン酸エステル化合物と、銅化合物とから形成されるリン酸エステル銅化合物を含有する近赤外線吸収層を有する光学フィルターが開示されている。また、特許文献4には、特定のリン酸エステル化合物と、銅イオンとを含有してなる近赤外線吸収性組成物が開示されている。
【0003】
従来から提案されている銅イオンを含む近赤外線吸収剤を含有する光学材料は、重合用セルに、近赤外線吸収剤およびモノマーを充填し、重合を行うことにより製造されていた。しかしながら、重合用セルを用いた光学材料の製造方法は、サイズの大きな光学材料を得ることが困難であり、また製造コストが大きくなる傾向があった。
【0004】
また、一般に機能性金属塩微粒子を樹脂に均一に分散する方法として、金属塩微粒子と樹脂を混錬する方法が挙げられるが、金属塩微粒子によっては均一に混合するのが難しく透明度が下がることがある。その改良として金属塩微粒子を含む分散液を調製し、該分散液と樹脂とを混練する方法が挙げられる。該方法で用いる分散液は、可塑剤や溶媒等が含まれており、かつ金属塩微粒子が均一に分散しているスラリー状態であることが好ましい。しかしながら、スラリー状態の分散液と樹脂とを混合・混錬した場合であっても、得られる材料が白濁等することにより、透明性に劣る傾向があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−83318号公報
【特許文献2】特開2001−83890号公報
【特許文献3】特開2001−154015号公報
【特許文献4】国際公開第01/77250号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記背景技術に鑑み、様々なサイズの光学材料を好適に製造することが可能であり、かつ、白濁等が起こりがたく透明性に優れる光学材料を得ることが可能な、銅塩微粒子分散樹脂を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、重合用セルを用いて、光学材料を製造するのではなく、銅塩微粒子が樹脂中に分散した、銅塩微粒子分散樹脂を用いれば、様々なサイズの光学材料を好適に製造することが可能であることを見出した。
【0008】
また、本発明者らは、銅塩微粒子分散溶液と樹脂とを混合する際に銅塩微粒子が偏在すると、光学材料を製造した際に白濁等がおこり、透明性に劣ることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明の銅塩微粒子分散樹脂の製造方法は、平均粒径が1〜1000nmの近赤外線吸収性銅塩微粒子を溶媒に分散することにより、銅塩微粒子の分散液を得る工程、前記分散液と樹脂とを混合することにより、混合物を得る工程、前記混合物中の溶媒を除去することにより、樹脂および銅塩微粒子から形成される、銅塩微粒子が1〜30質量%分散したマスターバッチを得る工程および、前記マスターバッチと樹脂とを、混練することにより、樹脂および銅塩微粒子から形成される、銅塩微粒子が0.1〜5質量%分散した銅塩微粒子分散樹脂を得る工程を有することを特徴とする。
【0010】
前記銅塩微粒子の平均粒径が5〜300nmであることが好ましい。
前記樹脂が、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン‐酢酸ビニル共重合体、(メタ)アクリル酸樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、およびノルボルネン樹脂から選択される少なくとも1種の樹脂であることが好ましく、ポリビニルブチラール樹脂、またはエチレン‐酢酸ビニル共重合体であることがより好ましい。
【0011】
前記銅塩の少なくとも一部が、下記一般式(1)で表わされる銅塩であることが好ましく、下記一般式(2)で表わされるアルキルホスホン酸銅塩であることがより好ましい。
【0012】
【化1】

[一般式(1)中、Rは、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基、置換基で置換されていてもよいフェニル基、置換基で置換されていてもよいベンジル基、または‐OR1基であり、R1はフッ素原子で置換されていてもよいアルキル基、置換基で置換されていてもよいフェニル基、置換基で置換されていてもよいベンジル基である。]
【0013】
【化2】

[一般式(2)中、R2は、−CH2CH2−R11で表される1価の基であり、R11は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、または炭素数1〜20のフッ素化アルキル基を示す。]
【0014】
本発明の銅塩微粒子分散樹脂は、前述の製造方法で得られる。
本発明の銅塩微粒子が1〜30質量%分散したマスターバッチは、平均粒径が1〜1000nmの近赤外線吸収性銅塩微粒子を溶媒に分散することにより、銅塩微粒子の分散液を得て、前記分散液と樹脂とを混合することにより、混合物を得て、前記混合物中の溶媒を除去することにより得られ、樹脂および銅塩微粒子から形成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の銅塩微粒子分散樹脂の製造方法は、銅塩微粒子含有量が高いマスターバッチを用いて銅塩微粒子分散樹脂を調製することにより、銅塩微粒子の偏在を抑制することが可能である。本発明の銅塩微粒子分散樹脂は、公知の成形法により、成形することにより近赤外線吸収フィルム等の光学材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に本発明について具体的に説明する。
本発明の銅塩微粒子分散樹脂の製造方法は、平均粒径が1〜1000nmの近赤外線吸収性銅塩微粒子を溶媒に分散することにより、銅塩微粒子の分散液を得る工程、前記分散液と樹脂とを混合することにより、混合物を得る工程、前記混合物中の溶媒を除去することにより、樹脂および銅塩微粒子から形成される、銅塩微粒子が1〜30質量%分散したマスターバッチを得る工程および、前記マスターバッチと樹脂とを、混練することにより、樹脂および銅塩微粒子から形成される、銅塩微粒子が0.1〜5質量%分散した銅塩微粒子分散樹脂を得る工程を有することを特徴とする。
【0017】
本発明の銅塩微粒子分散樹脂の製造方法は、銅塩微粒子の含有量が高いマスターバッチを経由し、目的物である銅塩微粒子分散樹脂を製造する。マスターバッチを経由することにより、得られる銅塩微粒子分散樹脂に含まれる、銅塩微粒子の偏在を抑制することが可能であり、銅塩微粒子分散樹脂および該樹脂から形成される光学材料は透明性に優れる。なお、本発明の製造方法で得られる銅塩微粒子分散樹脂の銅塩微粒子の含有量は、マスターバッチよりも小さい。
【0018】
本発明の製造方法に用いられる、平均粒径が1〜1000nmの近赤外線吸収性銅塩微粒子について、まず説明する。
[平均粒径が1〜1000nmの近赤外線吸収性銅塩微粒子]
本発明の製造方法では、平均粒径が1〜1000nmの近赤外線吸収性銅塩微粒子が用いられる。本発明の製造方法では、平均粒径が1〜1000nmであれば、近赤外線吸収性銅塩微粒子が偏在することなく存在する銅塩微粒子分散樹脂を得ることができる。平均粒径としては、製造の容易さ、透明性の保持の観点から5〜300nmであることがより好ましい。
【0019】
また、近赤外線吸収性銅塩微粒子としては、耐熱性に優れ、銅塩微粒子分散樹脂の着色を起こし難い銅塩微粒子が好ましい。近赤外線吸収性銅微粒子を構成する銅塩としては、銅塩の少なくとも一部が、下記一般式(1)で表わされる銅塩であることが好ましい。
【0020】
【化3】

[一般式(1)中、Rは、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基、置換基で置換されていてもよいフェニル基、置換基で置換されていてもよいベンジル基、または‐OR1基であり、R1はフッ素原子で置換されていてもよいアルキル基、置換基で置換されていてもよいフェニル基、置換基で置換されていてもよいベンジル基である。]
【0021】
前記フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基としては、後述の一般式(2)におけるR2が挙げられる。R2以外のフッ素原子で置換されていてもよいアルキル基としては、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロ−n−ブチル基、パーフルオロへキシル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロデシル基等が挙げられる。
【0022】
前記置換基で置換されていてもよいフェニル基としては、フェニル基、直鎖または分岐した炭素数1〜20のアルキル基を有するアルキルフェニル基、直鎖または分岐した炭素数1〜20のアルコキシ基を有するアルコキシフェニル基、アミノフェニル基、チオフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ニトロフェニル基、シアノフェニル基、直鎖または分岐した炭素数1〜20のアルコキシ基を有するアルコキシカルボニルフェニル基、アシルフェニル基、カルボキシルフェニル基等が挙げられる。これら置換基はリン原子のオルト位、メタ位、パラ位いずれの位置に置換されていてもよいし、2ヶ所以上置換されていてもよい。また、これらの置換基で置換されていてもよいフェニル基が有する水素原子の少なくとも一部がフッ素原子で置換されていてもよい。
【0023】
前記置換基で置換されていてもよいベンジル基としては、ベンジル基、直鎖または分岐した炭素数1〜20のアルキル基を有するアルキルベンジル基、直鎖または分岐した炭素数1〜20のアルコキシ基を有するアルコキシベンジル基、アミノベンジル基、チオベンジル基、ヒドロキシベンジル基、ニトロベンジル基、シアノベンジル基、直鎖または分岐した炭素数1〜20のアルコキシ基を有するアルコキシカルボニルベンジル基、アシルベンジル基、カルボキシルベンジル基等が挙げられる。これら置換基は、リン原子と結合するメチレン基のオルト位、メタ位、パラ位いずれの位置に置換されていてもよいし、2ヶ所以上置換されていてもよい。また、これらの置換基で置換されていてもよいベンジル基が有する水素原子の少なくとも一部がフッ素原子で置換された基であってもよい。
【0024】
前記一般式(1)で表わされる銅塩としては、Rが、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基であることが、近赤外線の吸光特性に優れるため好ましい。また、前記銅塩の少なくとも一部が、下記一般式(2)で表わされるアルキルホスホン酸銅塩であると、近赤外線の吸光特性に特に優れるためより好ましい。
【0025】
【化4】

[一般式(2)中、R2は、−CH2CH2−R11で表される1価の基であり、R11は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、または炭素数1〜20のフッ素化アルキル基を示す。]
【0026】
前記R11としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロ−n−ブチル基、パーフルオロへキシル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロデシル基等が挙げられる。
【0027】
本発明に用いる、近赤外線吸収性銅塩微粒子の製造方法としては、特に限定はないが、銅塩として、前記一般式(2)で表わされる銅塩を用いる場合には、例えば以下の方法で製造することができる。
【0028】
銅塩が、前記一般式(2)で表わされる銅塩である近赤外線吸収性銅塩微粒子の製造方法としては例えば、溶媒中で、下記一般式(3)で表わされるホスホン酸化合物と、銅塩とを、好ましくは分散剤存在下で混合し、反応混合物を得る工程(以下、反応工程とも記す)、該反応混合物中の溶媒を除去することにより近赤外線吸収性銅塩微粒子を得る工程(以下、溶媒除去工程とも記す)を有する方法が挙げられる。
【0029】
【化5】

[一般式(3)中、R2は、−CH2CH2−R11で表される1価の基であり、R11は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、または炭素数1〜20のフッ素化アルキル基を示す。]
【0030】
前記R11としては例えば、前記一般式(2)におけるR11と同様のものが挙げられる。なお、一般式(3)で表されるホスホン酸化合物としては、一種単独で用いても、二種以上を用いてもよい。
【0031】
前記銅塩としては、2価の銅イオンを供給することが可能な銅塩が通常用いられる。前記銅塩としては例えば、無水酢酸銅、無水蟻酸銅、無水ステアリン酸銅、無水安息香酸銅、無水アセト酢酸銅、無水エチルアセト酢酸銅、無水メタクリル酸銅、無水ピロリン酸銅、無水ナフテン酸銅、無水クエン酸銅等の有機酸の銅塩、該有機酸の銅塩の水和物もしくは水化物;酸化銅、塩化銅、硫酸銅、硝酸銅、リン酸銅、塩基性硫酸銅、塩基性炭酸銅等の無機酸の銅塩、該無機酸の銅塩の水和物もしくは水化物;水酸化銅が挙げられる。なお、銅塩としては、一種単独で用いても、二種以上を用いてもよい。
【0032】
銅塩としては、無水酢酸銅、酢酸銅1水和物が、溶解性や副生成物の除去の点から好ましく用いられる。
銅塩が、前記一般式(2)で表わされる銅塩である近赤外線吸収性銅塩微粒子を製造する際には、好ましくは分散剤が用いられる。分散剤を用いると、一般式(2)で表わされる銅塩の分散性が向上するため好ましい。前記分散剤としては、例えば一般式(4a)で表されるリン酸エステル化合物および一般式(4b)で表されるリン酸エステル化合物から選択される少なくとも1種のリン酸エステル化合物が挙げられる。一般式(4a)で表されるリン酸エステル化合物および一般式(4b)で表されるリン酸エステル化合物から選択される少なくとも1種のリン酸エステル化合物としては、例えば、NIKKOL DOP−8NV、NIKKOL DLP−10、NIKKOL DDP−6、NIKKOL DDP−8、NIKKOL DDP−10、NIKKOL TDP−6、NIKKOL TDP−8、NIKKOL TDP−10(以上、日光ケミカルズ(株)製)や、プライサーフA219B、プライサーフA217E、プライサーフA210G(以上、第一工業製薬(株)製)等の市販品を用いることもできる。また、これらの化合物中のリン酸(P−OH)を適当な塩基で中和して用いることもできる。中和に使用する塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。
【0033】
【化6】

[一般式(4a)および(4b)中、R21、R22およびR23は、−(CH2CH2O)n5で表される1価の基であり、nは4〜45の整数であり、R5は、炭素数6〜25のアルキル基または炭素数6〜25のアルキルフェニル基を示す。ただし、R21、R22およびR23は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【0034】
前記nは6〜30の整数であるとより好ましい。nが4未満である場合には、赤外線吸収フィルター等を製造した際に透明性が不充分となる場合がある。また、nが45を超えると、充分な透明性を有する赤外線吸収フィルターを得るために必要な、リン酸エステル化合物の量が増え、コスト高の原因となる傾向がある。
【0035】
また、R5は、炭素数6〜25のアルキル基または炭素数6〜25のアルキルフェニル基であり、炭素数6〜25のアルキル基であることが好ましく、10〜20のアルキル基であることがより好ましい。R5が、炭素数6未満の基であると、近赤外線吸収フィルターを製造した際に透明性が不充分となる場合がある。また、R5が、炭素数25を超える基であると、充分な透明性を有する赤外線吸収フィルターを得るために必要な、リン酸エステル化合物の量が増え、コスト高の原因となる傾向がある。
【0036】
本発明に用いる近赤外線吸収剤を得る際には、前記一般式(4a)で表されるリン酸エステル化合物、前記一般式(4b)で表されるリン酸エステル化合物の少なくとも一方が用いられることが好ましいが、前記一般式(4a)で表されるリン酸エステル化合物、前記一般式(4b)で表されるリン酸エステル化合物の両方を用いることがより好ましい。前記一般式(4a)で表されるリン酸エステル化合物および前記一般式(4b)で表されるリン酸エステル化合物を用いると、近赤外線吸収フィルターの透明性、耐熱性に優れる傾向があり好ましい。前記一般式(4a)で表されるリン酸エステル化合物、前記一般式(4b)で表されるリン酸エステル化合物の両方を用いる場合には、一般式(4a)で表されるリン酸エステル化合物と、一般式(4b)で表されるリン酸エステル化合物との割合は、特に限定されないが、通常はモル比((4a):(4b))で10:90〜90:10である。
【0037】
また、前記一般式(4a)で表されるリン酸エステル化合物としては、一種単独で用いても、二種以上を用いてもよく、前記一般式(4b)で表されるリン酸エステル化合物としては、一種単独で用いても、二種以上を用いてもよい。
【0038】
なお、近赤外線吸収性銅塩微粒子を製造する際には、前記銅塩1モルあたり、一般式(3)で表されるホスホン酸化合物を0.9〜1.1モル用いることが好ましい。また、分散剤が、一般式(4a)で表されるリン酸エステル化合物および一般式(4b)で表されるリン酸エステル化合物から選択される少なくとも1種のリン酸エステル化合物である場合には、前記銅塩1モルあたり、0.005〜0.5モル用いることが好ましい。
【0039】
前記溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、トルエン、キシレン、塩化メチレン、クロロホルム、水等が挙げられ、良好に反応を行う観点から、エタノール、トルエン、THFまたはDMFが好ましい。また、反応工程は、好ましくは5〜60℃、より好ましくは10〜40℃の温度条件で、好ましくは0.5〜50時間、より好ましくは1〜30時間行われる。
【0040】
前記反応工程では、前記一般式(3)で表されるホスホン酸化合物と、前記銅塩とが反応し、該反応によって、前記溶媒に溶解しない微粒子状の一般式(2)で表わされるホスホン酸銅塩が生成する。前記一般式(4a)で表されるリン酸エステル化合物および一般式(4b)で表されるリン酸エステル化合物から選択される少なくとも1種のリン酸エステル化合物は、反応時に良好な分散剤として作用することができるため、前記ホスホン酸銅塩は分散性が高く保たれ、凝集を抑制することができる。
【0041】
なお、前記反応工程では、前記一般式(3)で表されるホスホン酸化合物と銅塩との反応のみではなく、例えば前記一般式(4a)で表されるリン酸エステル化合物および一般式(4b)で表されるリン酸エステル化合物から選択される少なくとも1種のリン酸エステル化合物と、銅塩の一部とが反応してもよい。また、原料の一部が反応せずに残存していてもよい。
【0042】
なお、前記近赤外線吸収性銅塩微粒子の製造方法では、通常、前記反応混合物から、少なくとも前記溶媒の一部を除去することにより、近赤外線吸収性銅塩微粒子を得る。
溶媒除去工程では、反応混合物中から、少なくとも前記溶媒の一部を除去する。溶媒除去工程では、溶媒以外にも、反応混合物中の液体成分を合わせて除去してもよい。
【0043】
溶媒除去工程では、通常反応混合物を加熱することにより、少なくとも前記溶媒の一部を除去するが加熱条件は、通常、室温〜70℃であり、好ましくは40〜60℃である。また、溶媒除去工程は、常圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。減圧下で溶媒除去工程を行う場合には、加熱を行わなくてもよい場合や、加熱温度が低くてもよい場合がある。
【0044】
また、溶媒除去工程を行った後に、近赤外線吸収性銅塩微粒子中に含まれる揮発性の不純物を共沸によって除去することを目的として、近赤外線吸収性銅塩微粒子を、分散媒に分散した後に、該分散媒を除去する工程を設けてもよい。
【0045】
前記分散媒としては、例えばトルエン、キシレン、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、塩化メチレン、クロロホルム等が挙げられる。
次に、本発明の製造方法に用いられる、樹脂について説明する。
【0046】
[樹脂]
本発明には、樹脂が用いられる。本発明に用いられる樹脂としては、前述の近赤外線吸収性銅塩微粒子を分散することが可能であればよく特に限定はないが、例えば以下の樹脂を用いることができる。
【0047】
本発明に用いる樹脂としては、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン‐酢酸ビニル共重合体、(メタ)アクリル酸樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、およびノルボルネン樹脂から選択される少なくとも1種の樹脂が、近赤外線吸収性銅塩微粒子を良好に分散することが可能であり、かつ可視光の透過性に優れることが好ましい。
【0048】
本発明に用いる樹脂としては、ポリビニルアセタール樹脂、およびエチレン‐酢酸ビニル共重合体から選択される少なくとも1種の樹脂であることがより好ましく、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)、およびエチレン‐酢酸ビニル共重合体から選択される少なくとも1種の樹脂であることが特に好ましく、ポリビニルブチラール樹脂、またはエチレン‐酢酸ビニル共重合体が最も好ましい。ポリビニルアセタール樹脂を用いると、前述の近赤外線吸収性銅塩微粒子の分散性に優れ、本発明の製造方法で得られる銅塩微粒子分散樹脂を用いて、光学材料を製造する際に、ガラス等への接着性に優れ、銅塩微粒子分散樹脂が柔軟であり、かつ温度変化に伴う銅塩微粒子分散樹脂の変形が起こり難いため好ましい。また、ポリビニルアセタール樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)を用いることが、ガラス密着性、分散性、透明性、耐熱性、耐光性などの観点から好ましい。
【0049】
ポリビニルアセタール樹脂は、必要な物性に応じて、二種以上を組み合わせたブレンド物であってもよく、アセタール化時にアルデヒドを組み合わせてアセタール化することにより得られるポリビニルアセタール樹脂であってもよい。上記ポリビニルアセタール樹脂の分子量、分子量分布およびアセタール化度は特に限定されないが、アセタール化度は、一般に40〜85%であり、好ましい下限は60%、上限は75%である。
【0050】
ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコール樹脂をアルデヒドによりアセタール化することにより得ることができる。上記ポリビニルアルコール樹脂は、一般にポリ酢酸ビニルを鹸化することにより得られるものであり、鹸化度80〜99.8モル%のポリビニルアルコール樹脂が一般的に用いられる。上記ポリビニルアルコール樹脂の粘度平均重合度は好ましい下限は200、上限は3000である。200未満であると、得られる合わせガラスの耐貫通性が低下する場合がある。3000を超えると、銅塩微粒子分散樹脂の成形性が悪くなる場合があり、しかも銅塩微粒子分散樹脂の剛性が大きくなり過ぎ、加工性が悪くなる。より好ましい下限は500、上限は2200である。なお、ポリビニルアルコール樹脂の粘度平均重合度、および鹸化度は、例えば、JISK 6726「ポリビニルアルコール試験方法」に基づいて測定することができる。
【0051】
アルデヒドとしては特に限定されず、例えば、炭素数が1〜10のアルデヒド等が挙げられ、より具体的には、例えば、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n−バレルアルデヒド、2−エチルブチルアルテヒド、n−へキシルアルデヒド、n−オクチルアルデヒド、n−ノニルアルデヒド、n−デシルアルデヒド、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。なかでも、n−ブチルアルデヒド、n−へキシルアルデヒド、n−バレルアルデヒド等が好ましい。より好ましくは、炭素数が4のブチルアルデヒドである。
【0052】
また、エチレン‐酢酸ビニル共重合体を用いると、前述の近赤外線吸収性銅塩微粒子の分散性に優れ、ガラス密着性、分散性、透明性、耐熱性、耐光性などの観点から好ましい。
【0053】
本発明の銅塩微粒子分散樹脂の製造方法は、前述のように銅塩微粒子の分散液を得る工程、混合物を得る工程、マスターバッチを得る工程および、銅塩微粒子分散樹脂を得る工程をこの順で有する。以下、本発明の製造方法における各工程について、説明する。
【0054】
[銅塩微粒子の分散液を得る工程]
本発明の銅塩微粒子分散樹脂の製造方法では、まず、前述の平均粒径が1〜1000nmの近赤外線吸収性銅塩微粒子を溶媒に分散することにより、銅塩微粒子の分散液を得る工程を行う。
【0055】
前記銅塩微粒子の分散液を得る工程では、前述の平均粒径が1〜1000nmの近赤外線吸収性銅塩微粒子を、溶媒に分散する。溶媒としては、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、塩化メチレン、クロロホルム、トリエチレングリコールビス(2−エチルヘキサノエート)等が挙げられる。
【0056】
銅塩微粒子を溶媒に分散させる方法としては、特に限定はなく、溶媒に銅塩微粒子を加え、超音波を照射して分散させる方法、溶媒に銅塩微粒子を加え、攪拌することにより分散させる方法、溶媒に銅塩微粒子を加え、ボールミルで粉砕して分散する方法等が挙げられる。
【0057】
該銅塩微粒子の分散液を得る工程で用いる溶媒の量としては、特に限定はないが、製造設備のサイズの観点から、通常は、近赤外線吸収性銅塩微粒子を100重量部とすると、溶媒は300〜50000重量部用いられる。
【0058】
なお、近赤外線吸収性銅塩微粒子を製造する際に分散剤を用いた場合には、銅塩微粒子と共に分散剤も溶媒に加えてもよい。また、別途分散剤を溶媒に加えることもできる。分散剤としては、前述の近赤外線吸収性銅塩微粒子を製造する方法において例示したものを用いることができる。
【0059】
また、該工程においては、他の添加剤を溶媒に加えてもよい。他の添加剤としては、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、脱水剤、接着力調整剤、シランカップリング剤、顔料等が挙げられる。
【0060】
[混合物を得る工程]
本発明の銅塩微粒子分散樹脂の製造方法では、前述の銅塩微粒子の分散液を得る工程に続いて、前記分散液と樹脂とを混合することにより、混合物を得る工程が行われる。
【0061】
該工程は、通常前記分散液に、樹脂を添加し、混合することにより行われる。
混合物を得る工程で用いる樹脂の量としては、後述のマスターバッチを得る工程において、銅塩微粒子が1〜30質量%分散したマスターバッチが得られればよい。マスターバッチには、銅塩微粒子と、樹脂とが含まれ、さらに分散剤等の添加剤が含まれる。樹脂の使用量としては、マスターバッチ全体を100質量%とした際に、銅塩微粒子が1〜30質量%となる範囲で用いればよく、特に限定はされないが、マスターバッチ全体を100質量%とした際に、通常は樹脂が30〜95質量%となる範囲で用いられ、好ましくは50〜90質量%となる範囲で用いられる。
【0062】
また、該工程においては、他の添加剤を、分散液および樹脂と混合してもよい。他の添加剤としては、可塑剤(例えば、3GO(トリエチレングリコールビス(2−エチルヘキサノエート))等が挙げられる。さらに、樹脂の溶解性を高めることを目的として、塩化メチレン、クロロホルム、エタノール/トルエン混合溶媒等の溶媒を添加してもよい。
【0063】
混合物を得る工程では、分散液の状態で樹脂と混合するため、近赤外線吸収性銅塩微粒子を、直接樹脂と混合する場合と比べて、近赤外線吸収性銅塩微粒子を樹脂中に均一に分散することができる。
【0064】
[マスターバッチを得る工程]
本発明の銅塩微粒子分散樹脂の製造方法では、前述の混合物を得る工程に続いて、前記混合物中の溶媒を除去することにより、樹脂および銅塩微粒子から形成される、銅塩微粒子が1〜30質量%分散したマスターバッチを得る工程が行われる。
【0065】
該工程では、前記混合物中の溶媒を除去すればよい。具体例としては、前記混合物を、キャスト成形法で、所望の形状に成形した後に溶媒の除去を行いマスターバッチを得てもよく、スプレードライ法等によって粉末(マスターバッチ)を得ると同時に溶媒の除去を行ってもよい。
【0066】
溶媒の除去方法としては、溶媒の沸点によっても異なるが、加熱乾燥、真空乾燥、加熱真空乾燥等の方法が用いられる。乾燥の際には、樹脂の変質を抑制する観点から、加熱する場合であっても温度が、室温〜100℃であることが好ましい。
【0067】
該工程によって、銅塩微粒子が1〜30質量%分散したマスターバッチを得ることができる。マスターバッチには、近赤外線吸収性銅塩微粒子を得る際に用いた添加剤や、前述の分散液を得る工程、混合物を得る工程等で用いた添加剤が含まれていてもよい。該工程で得られるマスターバッチは、近赤外線吸収性銅塩微粒子を、直接樹脂と混練することにより得られたマスターバッチと比べて、近赤外線吸収性銅塩微粒子を樹脂中に均一に分散することができる。
【0068】
[銅塩微粒子分散樹脂を得る工程]
本発明の銅塩微粒子分散樹脂の製造方法では、前述のマスターバッチを得る工程に続いて、前記マスターバッチと樹脂とを、混練することにより、樹脂および銅塩微粒子から形成される、銅塩微粒子が0.1〜5質量%分散した銅塩微粒子分散樹脂を得る工程が行われる。
【0069】
該工程により、銅塩微粒子の含有量の高いマスターバッチを用いて、各種用途に用いる際の所望の銅塩微粒子含有量に調整された銅塩微粒子分散樹脂を得ることができる。
該工程に用いる樹脂としては、前記混合物を得る工程で用いる樹脂と、同様の樹脂を用いても、異なる樹脂を用いてもよいが、樹脂の相溶性、分散性、透明性の観点から、通常は同様の樹脂が用いられる。
【0070】
混練は、通常混練機を用いて、前記マスターバッチおよび樹脂を混練することにより行われる。混練機としては例えば、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミル、ニーダー等が用いられる。
【0071】
混練は、通常温度150〜240℃の範囲で行われる。
また、該工程では、添加剤を用いてもよい。添加剤としては、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、脱水剤、接着力調整剤、シランカップリング剤、顔料等が挙げられる。
【0072】
該工程で用いる樹脂の量としては、銅塩微粒子が0.1〜5質量%、好ましくは0.5〜3.0質量%分散した銅塩微粒子分散樹脂が得られればよい。銅塩微粒子分散樹脂には、銅塩微粒子と、樹脂とが含まれ、さらに分散剤等の添加剤が含まれる。樹脂の使用量としては、銅塩微粒子分散樹脂全体を100質量%とした際に、銅塩微粒子が0.1〜5質量%となる範囲で用いればよく、特に限定はされないが、マスターバッチ100質量部に対して、通常は樹脂が50〜2000質量部用いられ、好ましくは100〜1000質量部用いられる。
【0073】
本発明の銅塩微粒子分散樹脂は、近赤外線吸収性銅塩微粒子が、偏在することなく、均一に分散しているため、該銅塩微粒子分散樹脂を用いて形成された光学材料は、白濁等が起こり難く、透明性に優れる。また、該銅塩微粒子分散樹脂は、押出成形、キャスト成形、射出成形等の様々な成形法により成形可能であるため、様々なサイズの光学材料を好適に製造することが可能である。
【0074】
なお、本発明の銅塩微粒子分散樹脂から形成される光学材料としては、ディスプレイ用の近赤外線吸収フィルム、フォトダイオード等の受光部等に配置される視感度補正フィルター等が挙げられる。
【実施例】
【0075】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
[粒径の測定]
実施例、比較例で得られた各分散液中のエチルホスホン酸銅塩の粒径は、サブミクロン粒径測定器N4plus(ベックマンコールター(株)製)を用いて、(25℃)の温度で測定することにより求めた。
【0076】
[ヘイズ(Haze)の測定]
実施例、比較例で得られた各樹脂シートの両面を、スライドガラス(厚み1.2〜1.5mm)で挟み、70℃のプレート上で合わせガラスとした。
【0077】
該合わせガラスを、オートクレーブ内で、窒素1.5MPa、130℃で0.5時間加熱し、樹脂シートの両面にスライドガラスが配設された測定サンプルを得た。
該測定サンプルのヘイズ(Haze)を、濁度計NDH2000(日本電色工業(株)製)を用いて(D65光源を用いて)測定した。
【0078】
〔実施例1〕
(銅塩の分散液の調製)
500mlナスフラスコに、酢酸銅1水和物5.82g(29.1mmol)、エタノール116gを加え、完全に溶解した。該フラスコにさらに、プライサーフA219Bナトリウム中和物2.5g(第一工業化学製)(分散剤)、エタノール58gを加え、3時間室温で攪拌を行い、A液を得た。
【0079】
前記A液に、エチルホスホン酸3.21g(29.1mmol,1.0当量)をエタノール58gに溶解した溶液(B液)を約12分間かけて加えた。室温で25時間撹拌後、エバポレーターで溶媒を留去し、次いでトルエン50gを加えた。
【0080】
恒量になり、酢酸臭がしなくなるまでエバポレーターでトルエンを留去し、反応物(収量7.5g、銅塩含有量5.0g)を得た。該反応物7.5gにトルエン75gを加えて、超音波を5時間照射して銅塩を分散させ、分散液(エチルホスホン酸銅塩トルエン分散液)を得た。該分散液中のエチルホスホン酸銅塩の粒径は72nmであった。
【0081】
(高濃度樹脂膜(マスターバッチ)の作成)
1Lビーカーに、上記エチルホスホン酸銅塩トルエン分散液39.6g(銅塩2.4g含有)、塩化メチレン900ml、トリエチレングリコールビス(2−エチルヘキサノエート(可塑剤)8.3gを加えて混合攪拌した。
【0082】
さらに、ポリビニルブチラール(PVB)21.7g(Mowital、クラレ製)を加えて5時間攪拌した。得られた混合物を、テフロンバットに流し込み、キャスト成形を行い、一晩風乾し、キャスト膜を得た。得られたキャスト膜を50℃で4時間真空乾燥し、エチルホスホン酸銅塩が7.1質量%含有された高濃度樹脂膜(マスターバッチ)を作成した。
【0083】
(銅塩微粒子分散樹脂の調製)
前記高濃度樹脂膜(マスターバッチ)を10.5g、PVBを30.0g、トリエチレングリコールビス(2−エチルヘキサノエート)を11.4gそれぞれ秤量し、スパチュラで混合し、混合物を得た。
【0084】
得られた混合物を、混練機〔ブラベンダー社製;商品名プラスチコーダー、設定温度170℃、回転速度10rpm〕に投入し、3分間混練を行った。続いて回転速度を90rpmに上げて3分間さらに混練を行い、エチルホスホン酸銅塩が1.4質量%含有された銅塩微粒子分散樹脂を得た。
【0085】
なお混練中のトルクは、始めは18N・m/kpmであり、徐々に低下し、混練終了時には12N・m/kpmであった。混練中の実際の樹脂温は、210〜220℃であった。
【0086】
得られた銅塩微粒子分散樹脂8gを、プレス(温度120℃、プレス圧3MPaで1分間保持し、その後15MPaで3分間保持した。)し、樹脂シートを作成した。
該樹脂シートを用いて作成した測定サンプルのHazeは2.3%であった。
【0087】
〔比較例1〕
(銅塩微粒子の調製)
500mlナスフラスコに、酢酸銅1水和物5.82g(29.1mmol)、エタノール116gを加え、完全に溶解した。該フラスコにさらに、プライサーフA219Bナトリウム中和物2.5g、エタノール58gを加え、18時間室温で攪拌を行い、A液を得た。
【0088】
前記A液に、エチルホスホン酸3.21g(29.1mmol,1.0当量)をエタノール58gに溶解した溶液(B液)を約12分間かけて加えた。室温で7時間撹拌後、エバポレーターで溶媒を留去し、次いでトルエン50gを加えた。
【0089】
恒量になり、酢酸臭がしなくなるまでエバポレーターでトルエンを留去し、反応物(収量7.5g、銅塩含有量5.0g)を得た。該銅塩7.5gにトルエン75gを加えて、超音波を16時間照射して銅塩を分散させ、次いで、トリエチレングリコールビス(2−エチルヘキサノエート、可塑剤)を94.24g加え、トルエンを留去し、超音波を7時間照射し、分散液(エチルホスホン酸銅塩可塑剤分散液)を得た。該分散液中のエチルホスホン酸銅塩の粒径は66nmであった。
【0090】
(銅塩微粒子分散樹脂の調製)
前記エチルホスホン酸銅塩可塑剤分散液を15.3g、PVBを36.6gそれぞれ秤量し、スパチュラで混合し、混合物を得た。
【0091】
得られた混合物を、混練機〔ブラベンダー社製;商品名プラスチコーダー、設定温度170℃、回転速度10rpm〕に投入し、3分間混練を行った。続いて回転速度を90rpmに上げて3分間さらに混練を行い、エチルホスホン酸銅塩が1.4質量%含有された銅塩微粒子分散樹脂を得た。
【0092】
なお混練中のトルクは、始めは18N・m/kpmであり、徐々に低下し、混練終了時には11〜12N・m/kpmであった。混練中の実際の樹脂温は、210〜220℃であった。
【0093】
得られた銅塩微粒子分散樹脂8gを、プレス(温度120℃、プレス圧3MPaで1分間保持し、その後15MPaで3分間保持)し、樹脂シートを作成した。
該樹脂シートを用いて作成した測定サンプルのHazeは30.2%であった。
【0094】
〔実施例2〕
(銅塩の分散液の調製)
500mlナスフラスコに、酢酸銅1水和物5.82g(29.1mmol)、エタノール116gを加え、完全に溶かした。該フラスコにさらに、NIKKOL DLP−10を2.5g(日光ケミカルズ(株)製)、EtOHを58g加え、3時間室温で攪拌を行い、A液を得た。
【0095】
前記A液に対し、エチルホスホン酸3.21g(29.1mmol、1.0当量)をエタノール58gに溶解した溶液(B液)を約12分間で加えた。室温で25時間撹拌後、エバポレーターでエタノールを留去し、次いでトルエン50gを加えた。
【0096】
恒量になり、酢酸臭がしなくなるまでエバポレーターでトルエンを留去し、反応物(収量7.5g、銅塩含有量5.0g)を得た。該反応物7.5gにトルエン75gを加えて、超音波を10時間照射して銅塩を分散させ分散液(エチルホスホン酸銅塩トルエン分散液)を得た。該分散液中のエチルホスホン酸銅塩の粒径は60nmであった。
【0097】
(高濃度樹脂膜(マスターバッチ)の作成)
1Lビーカーに、トルエン665ml、EVA(エチレン‐酢酸ビニル共重合体)42.5g(EV170, 三井デュポンポリケミカル(株)製)を加えて混合攪拌した。
【0098】
さらに、上記エチルホスホン酸銅塩トルエン分散液82.5g(エチルホスホン酸銅塩5.0g含有)を加え、2時間室温で混合攪拌した。得られた混合物を、テフロンバットに流し込み、キャスト成形を行い、一晩風乾後し、キャスト膜を得た。得られたキャスト膜を50℃で4時間真空乾燥し、エチルホスホン酸銅塩が10重量%含有された高濃度樹脂膜(マスターバッチ)を作成した。
【0099】
(銅塩微粒子分散樹脂の調製)
前記高濃度樹脂膜(マスターバッチ)を10.5g、EVAを30.0g、それぞれ秤量し、スパチュラで混合し、混合物を得た。
【0100】
得られた混合物を、混練機〔ブラベンダー社製;商品名プラスチコーダー、設定温度170℃、回転速度10rpm〕に投入し、3分間混練を行った。続いて回転速度を90rpmに上げて3分間さらに混練を行い、エチルホスホン酸銅塩が2.6質量%含有された銅塩微粒子分散樹脂を得た。
【0101】
なお混練中のトルクは、始めは18N・m/kpmであり、徐々に低下し、混練終了時には12N・m/kpmであった。混練中の実際の樹脂温は、210〜220℃であった。
【0102】
得られた銅塩微粒子分散樹脂8gを、プレス(温度120℃、プレス圧3MPaで1分間保持し、その後15MPaで3分間保持)し、樹脂シートを作成した。
該樹脂シートを用いて作成した測定サンプルのHazeは3.0%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が1〜1000nmの近赤外線吸収性銅塩微粒子を溶媒に分散することにより、銅塩微粒子の分散液を得る工程、
前記分散液と樹脂とを混合することにより、混合物を得る工程、
前記混合物中の溶媒を除去することにより、樹脂および銅塩微粒子から形成される、銅塩微粒子が1〜30質量%分散したマスターバッチを得る工程および、
前記マスターバッチと樹脂とを、混練することにより、樹脂および銅塩微粒子から形成される、銅塩微粒子が0.1〜5質量%分散した銅塩微粒子分散樹脂を得る工程を有することを特徴とする銅塩微粒子分散樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記銅塩微粒子の平均粒径が5〜300nmである請求項1に記載の銅塩微粒子分散樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂が、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン‐酢酸ビニル共重合体、(メタ)アクリル酸樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、およびノルボルネン樹脂から選択される少なくとも1種の樹脂である請求項1または2に記載の銅塩微粒子分散樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂が、ポリビニルブチラール樹脂、またはエチレン‐酢酸ビニル共重合体である請求項1または2に記載の銅塩微粒子分散樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記銅塩の少なくとも一部が、下記一般式(1)で表わされる銅塩である請求項1〜4のいずれか一項に記載の銅塩微粒子分散樹脂の製造方法。
【化1】

[一般式(1)中、Rは、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基、置換基で置換されていてもよいフェニル基、置換基で置換されていてもよいベンジル基、または‐OR1基であり、R1はフッ素原子で置換されていてもよいアルキル基、置換基で置換されていてもよいフェニル基、置換基で置換されていてもよいベンジル基である。]
【請求項6】
前記銅塩の少なくとも一部が、下記一般式(2)で表わされるアルキルホスホン酸銅塩である請求項1〜4のいずれか一項に記載の銅塩微粒子分散樹脂の製造方法。
【化2】

[一般式(2)中、R2は、−CH2CH2−R11で表される1価の基であり、R11は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、または炭素数1〜20のフッ素化アルキル基を示す。]
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法で得られる、銅塩微粒子分散樹脂。
【請求項8】
平均粒径が1〜1000nmの近赤外線吸収性銅塩微粒子を溶媒に分散することにより、銅塩微粒子の分散液を得て、
前記分散液と樹脂とを混合することにより、混合物を得て、
前記混合物中の溶媒を除去することにより得られる、樹脂および銅塩微粒子から形成される、銅塩微粒子が1〜30質量%分散したマスターバッチ。

【公開番号】特開2012−87243(P2012−87243A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236368(P2010−236368)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】