説明

鋳込み用パイプリングの製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、例えば車両用エンジンのピストン、シリンダブロックの鋳造の際に、その内部に鋳込んで収容設置され、冷却液通路等に使用される鋳込み用パイプリングの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、車両用エンジンにおいては、エンジン本体を小型、軽量化すると共に、エンジン出力を増大して、動力性能、燃費等を向上する開発が行われている。この高出力のエンジンでは、必然的に燃焼室の燃焼温度が高くなってシリンダブロック、ピストンの熱負荷が増大し、ここで特に高速運動しているピストンの熱負荷に対する冷却性能の強化が必要になっている。そこで、このようなピストンの冷却性能の強化対策として、ピストンの内部にパイプリングを鋳込んでオイルギャラリを形成し、このオイルギャラリにオイルを強制的に供給してピストンを冷却することが提案されている。このことから、この冷却手段に対処した鋳込み用のパイプリングを、低コスト、高精度で製造することが要求されている。
【0003】従来、上記鋳込み用パイプリングを製造する場合の製造方法について以下に説明する。このようなパイプリングを製造する場合に要求される条件は、パイプ材を量産することが可能な方法で閉じたリング状に加工し、リングに形成した際に所定の寸法に調整することが容易である。また、パイプリングはピストンの鋳造時に鋳込んで設置される際に高温に加熱されるので、内部に水や油等の残渣があると、鋳造時にそれらがガスとなって吐出して鋳造を損う。そこで、パイプリングの内部を洗浄し、これらの残渣を完全に除去すること等である。
【0004】そこで、先ず、引抜き加工して長いパイプ材を製造し、この長尺状態のパイプ材を1次洗浄し、曲げ加工し易いように焼きなまし等の熱処理を行ってコイル状に曲げ加工する。そして、コイル状のパイプ材を所定の長さに切断してリング材を形成し、上記熱処理の際の油を除去するためにこのリング材を苛性ソーダにより2次洗浄し、更に水で3次洗浄し、内部の水分を完全に除去するように加熱する。その後、別のサブ工程で製造したクリップをリング材の継ぎ目に取付け、リング材のコイル癖の捩れを矯正しながらクリップをカシメてパイプリングを製造し、更に鋳造時と同様の高温で加熱して最終的に内部の残渣を除去する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上記従来の鋳込み用パイプリングの製造方法にあっては、長尺のパイプ材をコイル状に曲げ加工するので、リング材を量産し易い利点を有するが、内部の洗浄が不充分になり、このためリング材に切断した後に苛性ソーダや水で再度洗浄、加熱する必要があって、残渣除去の作業工程が多くなる。また、コイル状のものを切断するので、長さの精度を一定化することが難しく、捩れが大きいので矯正が大変面倒になり、カシメも不安定化する。更に、リング材の継ぎ目をクリップによりカシメるので、部品点数が増す等の不具合がある。
【0006】本発明は、この点に鑑みてなされたもので、特に残渣除去、矯正、カシメの作業性を向上し、部品点数を減少して、全体として鋳込み用パイプリングの製造を容易且つ正確に行うことを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明は、長尺パイプ材を所定の短尺に切断し、且つ一端に雄継手または雌継手を加工して短尺パイプ材を形成し、次にこの短尺パイプ材の内部を洗浄して残渣を除去し、その後短尺パイプ材を1本ずつ常温で半円形または円形に曲げ加工してリング材を形成し、更にこのリング材をストレート端部と雄継手または雌継手との接続により円形に組合わせ、矯正しながら各継手部をカシメて一体的に結合することによりパイプリングを製造するものである。
【0008】
【作用】上記製造方法により、先ず短尺パイプ材に切断してその後常温で曲げ加工されることで、最初の1回の洗浄のみでパイプ材内部の残渣が完全に除去され、1本ずつの曲げ加工により捩れ等を生じないために、円形状態での矯正、カキメが安定して強固に行われて最適なパイプリングを製造することが可能になる。
【0009】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1において、本発明を実施するのに適した製造工程について説明する。先ず、工程(1)において、引抜き加工により、例えば直径が8mm、肉厚が0.5mm、長さが3000mmの中空アルミ製の長尺パイプ材1を製造し、工程(2)でその長尺パイプ材1を、パイプリングの製品の略半分の、例えば100mmの長さに切断して短尺パイプ材2を形成する。そして、工程(3)で一方の短尺パイプ材2の一端にストレート端部3をその他端に肉厚分だけ小径の雄継手4を、他方の短尺パイプ材2の一端に同様のストレート端部3をその他端に肉厚分だけ大径の雌継手5をそれぞれカシメに必要な所定の長さ加工し、2種類の短尺パイプ材6A,6Bを形成する。工程(4)では、これらの2種類の短尺パイプ材6A,6Bの内部を苛性ソーダ等により洗浄して加熱し、上記引抜き、切断及び伸縮加工においてパイプ材内部に残っている油等の残渣を、短尺、直管状態でまとめて除去する。その後、工程(5)において、上述の2種類の短尺パイプ材6A,6Bを特殊な曲げ加工機10を用いて1本ずつ半円形に曲げ加工して、2種類の半円形リング材7A,7Bを形成する。
【0010】上記曲げ加工機10は、例えば図2に示すように、固定側に金具11により所定の間隔で固定される2つの押圧ローラ12,13を有し、これらの押圧ローラ12,13の中間に円形の型ローラ14を上下移動可能に設けて構成される。これにより、一方の短尺パイプ材6Aの曲げ加工時には、その短尺パイプ材2と型ローラ14の中心を一致するように位置決めして短尺パイプ材2を2つの押圧ローラ12,13の上に水平に装架し、この状態で型ローラ14を下方に押圧移動する。すると、型ローラ14の押圧に伴い押圧ローラ12,13が転動して短尺パイプ材2はU字形に曲げられながら下降し、このとき押圧ローラ12,13により短尺パイプ材2は中心側から両端側に押圧点を移行しながら押し返される。こうして、このような型ローラ14と押圧ローラ12,13による半径方向逆向きの押圧作用により、短尺パイプ材6Aの短尺パイプ2と雄継手4は中空状態を保って型ローラ14に沿った半円形のリング材に自動的に曲げ加工される。また、この場合の半円形リング材7Aは、型ローラ14の形状により殆ど半円形になるが、両端部は若干開いた形状になり、これが後の工程で矯正されることになる。
【0011】他方の短尺パイプ材6Bも、短尺パイプ2と雌継手5が同様の型ローラ14と押圧ローラ12,13を用い、型ローラ14の下方の押圧移動により自動的に半円形リング材7Bに曲げ加工される。ここで、アルミ製の短尺のものを1本ずつ半円形に曲げ加工するだけであるから、熱処理等を施すことが不要になり、このため常温で加工することが可能になる。これにより、半円形リング材7A,7Bの内部は初期の洗浄状態に保持され、この加工後に再度洗浄することは不要になる。こうして、2種類の半円形リング材7A,7Bは内部がきれいな状態で1本ずつ自動的に量産して形成される。
【0012】そして最終工程(6)において、2種類の半円形リング材7A,7Bを、両者のストレート端部3をそれぞれ雄継手4、雌継手5に差込んで短尺パイプ2,2を接続するのであり、これにより1本の閉じた円形リング状に組合わされる。このとき、円周上の2箇所の継手部で比較的大きい嵌合調整域を生じることになり、これにより2種類の半円形リング材7A,7Bは両端が開いた形状でも容易且つ確実に1本の円形に組合わせることができる。また、半円形リング材7A,7Bは内部が初期洗浄のきれいな状態を保つため、残渣除去の処理が不要であってその後直ちにカシメ作業に移行される。そこで、ストレート端部3と雄継手4、ストレート端部3と雌継手5の差込み部の開いた形状を円形に矯正し、且つ例えば内径を所定の寸法に設定するように修正しながら、雄継手4と雌継手5の部分を同時にカシメて一体的に結合するのであり、こうして1本の中空円形の鋳込み用パイプリング8が内部に残渣の無い状態で製造される。
【0013】図3(a)、(b)において、上述のように製造された鋳込み用パイプリング8の適応例として、ピストンに鋳込んだ場合について説明する。符号20はアルミ合金を鋳造して製造されるピストンであり、ヘッド21に円形筒状のスカート22が連設され、ヘッド21側の厚肉部23の外周にピストンリングを装着する複数の溝24が形成され、スカート22の途中のボス部25にピン孔26を設けて構成される。そこで、このピストン20の鋳造の際に、その鋳型の内部にパイプリング8を挿入設置して溶解したアルミ合金Sを注入する。するとこのとき高温で溶解するアルミ合金Sによりパイプリング8は加熱されるが、内部の残渣が除去されてガスの発生が無いことで、良好に鋳造される。また、パイプリング8は半円形のものの組合わせであるから、仮に熱膨張する場合にも同心円的に膨張し、円周上の雄継手4、雌継手5に若干の隙間があってもそれはアルミ合金Sで閉じられることになり、こうしてピストンのヘッド21側の厚肉部にパイプリング8が同軸上に収容して一体的に鋳込まれる。そして、このパイプリング8によりオイルギャラリ27が形成され、このオイルギャラリ27にオイルを循環することによりエンジン運転時のピストン20が強制冷却されるのである。
【0014】図4において、本発明の他の実施例について説明する。(a)は短尺パイプ材2の一端に雌継手5のみを加工して1種類の半円形リング材7を形成し、この1種類の2本の半円形リング材7を、ストレート端部3と雌継手5の接続により円形に組合わせたものである。(b)は短尺パイプ材2の一端に雄継手4のみを加工して1種類の半円形リング材7’を形成し、この1種類の2本の半円形リング材7’を、ストレート端部3と雄継手4の接続により円形に組合わせたものである。これらの実施例では1種類の継手4または5によりカシメの強度は若干低下するが、中空円形の鋳込み用パイプリング8を同様に内部に残渣の無い状態で製造することができ、且つ1種類の半円形リング材7または7’で済むという利点を有する。
【0015】図5において、本発明の更に他の実施例について説明する。この実施例では、上述の場合に比べて2倍の長さの短尺パイプ材2’の一端に例えば雌継手5を加工し、特殊な曲げ加工機により略閉じた円形に曲げ加工して円形リング材9を形成する。そして、この円形リング材9のストレート端部3と雌継手5を接続してカシメることで、鋳込み用パイプリング8が同様に製造される。この実施例では、円形リング材9に形成されるため、矯正、カシメの作業が容易になるが、曲げ加工機の構造が複雑になる。尚、この実施例においても、雄継手、雄継手と雌継手を用いることができるのは勿論である。
【0016】以上、本発明の実施例について説明したが、これのみに限定されない。
【0017】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、鋳込み用パイプリングの製造において、内部の残渣の除去を重視し、先ず短尺パイプ材に切断してその後に常温で曲げ加工されるので、最初の1回の洗浄のみで内部の残渣を完全に除去することができ、洗浄作業工程が大幅に簡素化する。1本ずつ曲げ加工機により曲げ加工してリング材が捩れ等を生じることなく形成されるので、リング材の矯正、カシメを安定して、強固に行うことができる。短尺パイプには予め雄継手、雌継手が加工されるので、部品点数が減少し、半円形リング材の形成の場合には円形の組合わせを容易且つ確実に行い得る。半円形リング材を形成する実施例では、曲げ加工が容易になり、円形リング材を形成する実施例では、矯正、カシメが容易になる。曲げ加工機は2つの押圧ローラに対し型ローラを押圧移動して自動的に加工するように構成されるので、生産性が良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る鋳込み用パイプリングの製造方法の実施に適した製造工程を、断面して示す工程図である。
【図2】短尺パイプ材の曲げ加工機の実施例を示す略図である。
【図3】本発明に係る鋳込み用パイプリングをピストンに鋳込んだ状態を示すものであり、(a)は縦断面図、(b)は水平断面図である。
【図4】本発明の他の実施例を示すものであり、(a),(b)はいずれも鋳込み用パイプリングの断面図である。
【図5】本発明の更に他の実施例の鋳込み用パイプリングの断面図である。
【符号の説明】
1 長尺パイプ材
2 短尺パイプ材
3 ストレート端部
4 雄継手
5 雌継手
6A 短尺パイプ材
6B 短尺パイプ材
7 リング材
7’ リング材
7A リング材
7B リング材
8 パイプリング
9 リング材

【特許請求の範囲】
【請求項1】 長尺パイプ材を所定の短尺に切断し、且つ一端に雄継手または雌継手を加工して短尺パイプ材を形成し、次にこの短尺パイプ材の内部を洗浄して残渣を除去し、その後短尺パイプ材を1本ずつ常温で半円形または円形に曲げ加工してリング材を形成し、更にこのリング材をストレート端部と雄継手または雌継手との接続により円形に組合わせ、矯正しながら各継手部をカシメて一体的に結合することによりパイプリングを製造することを特徴とする鋳込み用パイプリングの製造方法。
【請求項2】 上記短尺パイプは雄継手と雌継手を各別に加工した2種類有し、この2種類の短尺パイプをそれぞれ半円形に曲げ加工して2種類の半円形リング材を形成し、この2種類の半円形リング材をストレート端部と雄継手、雌継手をそれぞれ接続して円形に組合わせることを特徴とする請求項1記載の鋳込み用パイプリングの製造方法。
【請求項3】 上記短尺パイプは一端にストレート端部を、他端に雄継手と雌継手のいずれか一方を有する1種類に形成されることを特徴とする請求項1記載の鋳込み用パイプリングの製造方法。
【請求項4】 上記リング材は2つの押圧ローラと、その中間に押圧移動可能に設けられる型ローラにより構成される曲げ加工機で、半円形または円形に曲げ加工されることを特徴とする請求項1記載の鋳込み用パイプリングの製造方法。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図5】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【特許番号】第2882898号
【登録日】平成11年(1999)2月5日
【発行日】平成11年(1999)4月12日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−110762
【出願日】平成3年(1991)4月17日
【公開番号】特開平5−69068
【公開日】平成5年(1993)3月23日
【審査請求日】平成9年(1997)12月17日
【出願人】(391035304)日本伸管株式会社 (8)