説明

鋳造機の条件設定方法および装置

【目的】 最適な鋳造条件を迅速かつ容易に設定できる鋳造機の条件設定方法の提供。
【構成】 初期設定に対応した鋳造条件および不具合とその要因に関する経験的知識を知識ベース21にまとめておき、入力した初期条件に応じて推論エンジン22で推論して最適鋳造条件を設定し、実際にダイカストマシン10を作動させて製品12の状態等を検出し、再度の推論により鋳造条件を再設定する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は鋳造機の条件設定方法および装置に関し、ダイカストマシン等の鋳造動作にあたっての動作条件設定の自動化に関する。
【0002】
【背景技術】従来より、ダイカストマシン等の鋳造機においては、鋳造動作にあたって射出プランジャの直径、射出速度、射出ストローク、給湯量などの鋳造条件を制御装置に設定しておき、この条件設定に基づいて鋳造動作が行われるようになっている。
【0003】しかし、同じ鋳造条件で動作を行っても、鋳造する金属の材質、鋳造製品の肉厚、形状などの初期条件が異なると鋳造結果も異なるものとなる。このため、最良の鋳造結果を得るためには初期条件に応じた微妙な調整が要求される。
【0004】従来は、このような微妙な調整を行うために、熟練作業者(エキスパート)が経験に基づいて条件設定を行い、試験的な鋳造を繰り返し行って調整し、これらにより最良の条件設定を得ていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、近年では、ダイカストマシンにおいても制御の自動化による生産効率の向上が図られ、制御にあたっての条件設定に関しても自動化が試みられている。
【0006】しかし、鋳造における条件要素は多岐にわたり、これらが相互に複雑に関連しているため、簡単に自動化することができないという問題がある。特に、ダイカストマシンでは高温、高湿度域の悪条件下での作業が要求され、しかも金属溶湯の凝固時間が短いため、凝固時間内に溶湯を金型に充填する必要があり、ゲート噴出速度は60m/sec 程度、充填時間は0.02〜0.1secと瞬時であり、制御ないしその動作条件設定は非常に難しいという問題がある。
【0007】このため、ダイカストマシン等の鋳造における条件設定は従来どおりにエキスパートの経験に基づいて試行錯誤的に行われており、生産効率を向上するうえで大きな障害となっていた。さらに、設定時に限らず、鋳造運転中に不良品が発生した場合、エキスパートが不良要因を長い時間かけて分析判断し、鋳造条件を変更するという作業を繰り返すことになり、迅速なトラブル対策が難しいうえ、エキスパートがいない場合には対応がとれず、長時間の運転停止が避けられないという問題がある。
【0008】本発明の目的は、最適な鋳造条件を迅速かつ容易に設定できる鋳造機の条件設定方法および装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明の鋳造機の条件設定方法では、予め鋳造する製品に関する製品データ、鋳造に用いる金型に関する金型データ、鋳造に用いる鋳造機に関する機械データ、前記各データの組み合わせに応じた各種の鋳造条件等に経験的知識データを加えて知識ベースを構築しておき、鋳造する製品データ、金型データ、機械データを入力し、入力された各データおよび前記知識ベースに基づいて最適条件を推論して設定する。また、前記知識ベースに前記各種の鋳造条件の許で得られる製品の状態および不具合等に関する鋳造結果データおよび当該データに付随する経験的知識データを加えておき、前記設定した最適条件に基づいて鋳造を行い、得られた製品の状態および前記知識ベースに基づいて最適条件を推論して調整する。
【0010】一方、本発明の鋳造機の条件設定装置は、予め鋳造する製品に関する製品データ、鋳造に用いる金型に関する金型データ、鋳造に用いる鋳造機に関する機械データ、前記各データの組み合わせに応じた各種の鋳造条件等に経験的知識データを加えて構築された知識ベースと、指定された条件に基づいて前記知識ベースを参照して最適条件を推論する推論処理部と、外部入力される製品データ、金型データ、機械データに基づいて条件を指定して前記推論処理部を起動し、その推論結果に基づいて前記鋳造機に最適な鋳造条件を設定する設定処理部とを有することを特徴とする。また、前記知識ベースは、前記各種の鋳造条件の許で得られる製品の状態および不具合等に関する鋳造結果データおよび当該データに付随する経験的知識データを含み、前記設定処理部は、前記外部入力される各データに基づいて前記推論処理部に推論を行わせ、最適な鋳造条件を設定する基本設定制御部と、前記基本設定制御部が設定した最適な鋳造条件に基づいて前記鋳造機を作動させて得られた製品の状態および前記知識ベースに基づいて前記推論処理部に推論を行わせ、最適な鋳造条件を調整する再設定制御部とを有することを特徴とする。
【0011】
【作 用】このような本発明においては、実際に鋳造する際の初期条件から知識ベースを参照することで、最適条件設定が得られることになる。また、鋳造した結果の不具合から知識ベースを参照することで、元の条件設定を調整し、最適条件設定が得られることになる。この際、予め各種条件要素や各々の関連およびこれらに関するエキスパートの経験的知識を知識ベースにまとめておくことにより、条件設定にあたってエキスパートが判断する必要がなくなるとともに、試行錯誤も不要となり、これらにより条件設定が迅速かつ容易に行えるようになり、前記目的が達成される。
【0012】
【実施例】以下、本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。図1において、ダイカストマシン10は、既存の金型、型締め装置、給湯装置、射出装置等からなり、制御装置11の制御のもとで動作し、所定のダイカスト製品12を製造するものである。
【0013】このようなダイカストマシン10においては、制御装置11に設定された所定の鋳造条件に基づいて鋳造動作が行われる。具体的な鋳造条件としては、射出する金属溶湯の温度、射出量、高速および低速の射出速度、高速および低速の射出ストローク、射出圧力、射出後の保持時間金型へのスプレイ条件、金型の型締め条件等が適宜選択される。
【0014】これらのダイカストマシン10に対する鋳造条件は、鋳造にあたって製品12に要求される品質等の初期条件を満足するように設定される。具体的な初期条件としては、ダイカストマシン10で使用される金型の材質、形状といった金型データ、ダイカストマシン10の形式や機械的な性能および射出スリーブ内径といった各種諸元に関する機械データ、および製品12の材質、形状といった要求品質に関する製品データ等が適宜選択される。
【0015】このような初期条件に基づいて最適な鋳造条件を自動設定するために、制御装置11には鋳造条件設定装置20が接続されている。
【0016】まず、鋳造条件設定装置20には、各種指示やデータ表示等を行う表示装置31、各種入力等の操作を行うキーボード等の操作装置32、各種コード入力用のコードリーダ33等を含む操作コンソール34が接続されている。
【0017】また、鋳造条件設定装置20には、ダイカストマシン10の運転状態を検出するセンサ35、製品12の成形状態を検査する製品検査装置36等を含む状態検出器群37が接続されている。具体的なセンサ35としては、ダイカストマシン10の各部の温度、射出圧力や射出速度、キャビティ内圧力等の運転に伴う状態を示す変量を計測する各種センサが利用される。具体的な製品検査装置36としては、 CCDカメラによる撮影映像を画像処理により検査し、製品12の輪郭や形状精度、表面性状、バリや引け等の不具合の発生を検出する装置、その他の計測手段により製品12の寸法等を計測する装置、製品12の重量を測定する装置、あるいは同様な処理によりビスケット厚さを検出する装置、オーバーフロー等を検出する装置等が利用される。なお、必要に応じて作業者14が目視等により製品12の不具合等を検査し、操作コンソール34から状態データとして入力する。
【0018】一方、鋳造条件設定装置20は、予めダイカストマシン10での鋳造にあたっての各種データやエキスパートの経験的知識をデータベース化した知識ベース21を備え、与えられた初期条件に基づいて知識ベース21を参照して最適な鋳造条件を推論する推論処理部22を備えている。
【0019】知識ベース21には、各種の初期条件に対応した一般的な鋳造条件セットが記憶され、推論処理部22での推論の際に参照できるようになっている。また、知識ベース21には各種成形結果とその要因に関する因果関係(ルール)データおよび改善のための対策データ等が記憶され、例えば「バリの発生」という不具合に対して、「型締め力不足」、「型締め力不均等」、「増圧タイミングが早すぎる」等の要因が記憶され、推論処理部22から不具合項目が指定されるとそれに対応する要因が順次指示され、この要因を解消するための対策等が指示されるようになっている。
【0020】また、鋳造条件設定装置20は、操作コンソール34から入力された初期条件あるいは状態検出器群37で検出された状態データに基づいて推論処理部22および知識ベース21を起動し、推論された最適な鋳造条件を制御装置11に設定する設定処理部23を備えている。
【0021】設定処理部23は、所定ハードウェアおよびソフトウェア等により実現されるコンピュータシステムであり、基本設定制御部24および再設定制御部25を備えている。
【0022】基本設定制御部24は、操作コンソール34から入力される初期条件に基づいて、推論処理部22に知識ベース21を用いた推論を要求し、その推論結果に基づいて鋳造条件を設定する。なお、設定された鋳造条件は操作コンソール34に表示され、作業員13による適宜変更等を受けたのち再設定制御部25に転送される。
【0023】再設定制御部25は、転送された鋳造条件を制御装置11に設定してダイカストマシン10を作動させるとともに、状態検出器群37から検出される状態データに基づいて推論処理部22に知識ベース21を用いた推論を要求し、その推論結果に基づいて鋳造条件を適宜調整して再設定する。なお、再設定された鋳造条件は操作コンソール34に表示され、作業員13による適宜変更等を受けたのち制御装置11に再度転送される。
【0024】次に、図2を参照して、本実施例におけるダイカストマシン10の鋳造条件設定について説明する。先ず、操作コンソール34から鋳造条件設定装置20を起動し、製品データ、金型データ、機械データ等の初期条件を入力する(処理S1)。
【0025】初期条件が入力されると、基本設定制御部24は入力された初期条件に基づいて知識ベース21および推論処理部22に推論を実行させ(処理S2)、その推論結果に基づいてダイカストマシン10の基本的な鋳造条件を設定する(処理S3)。次に、基本設定制御部24は設定した鋳造条件を操作コンソール34に表示し、この表示に基づいて作業者13が確認ないし適宜調整等を行う(処理S4)。
【0026】確認された鋳造条件は基本設定制御部24から再設定制御部25に転送される。再設定制御部25はその鋳造条件を制御装置11に設定してダイカストマシン10に試験的な鋳造動作を行わせる(処理S5)。鋳造動作の間に、再設定制御部25には状態検出器群37からダイカストマシン10の動作状態の良否や製品12の成形状態の良否といった状態データが返される(処理S6)。また、必要に応じて作業者14が目視等により製品12の不具合等を確認し、操作コンソール34から状態データとして入力する。
【0027】状態データが返されると、再設定制御部25はその状態データの良否から先の鋳造条件の適切性を評価する(処理S7)。
【0028】鋳造条件が適切でないと評価された場合、再設定制御部25は状態データの不良な点に基づいて知識ベース21および推論処理部22による推論を実行させ(処理S8)、その推論結果に基づいて調整を行ってダイカストマシン10の鋳造条件を再設定する(処理S9)。そして、再設定制御部25は再設定した鋳造条件を操作コンソール34に表示し、この表示に基づいて作業者13が確認ないし適宜調整等を行う(処理S10 )。再設定された鋳造条件が確認されると、再設定制御部25はこの鋳造条件を制御装置11に設定してダイカストマシン10に試験的鋳造を再度実行させ(処理S5)、その間の状態データを取込み(処理S6)、再びこの鋳造条件の適切性を評価する(処理S7)。
【0029】鋳造条件が適切であると評価された場合、鋳造条件設定装置20による設定処理は完了し、制御装置11には最適な鋳造条件が設定されることになる。
【0030】このような本実施例によれば、鋳造にあたっての初期条件を入力することで、鋳造条件設定装置20により鋳造条件が自動的に設定されるため、エキスパートでなくともダイカストマシン10の鋳造条件設定を迅速かつ容易に行うことができ、鋳造にあたっての作業効率を大幅に向上することができる。
【0031】また、鋳造条件設定にあたってエキスパートの判断が不要となるため、従来の条件設定のような試行錯誤等を解消することができ、これらにより鋳造条件の設定を一層効率よく行うことができる。
【0032】そして、鋳造条件設定装置20では、知識ベース21に基づいて推論を行うことで初期条件に応じた最適な鋳造条件を設定することができ、エキスパートでなくともダイカストマシン10の鋳造条件設定を確実に行うことができ、良好な製品12を製造することができる。
【0033】さらに、鋳造中のダイカストマシン10の運転状態および鋳造した製品12の不具合等を検出し、知識ベース21を参照して推論を行って元の鋳造条件設定を調整することで、鋳造条件の設定を一層適切なものにすることができ、従って製品12の状態を一層良好なものとすることができる。
【0034】なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、例えば初期条件や鋳造条件の内容や形式、知識ベース21の内容や形式、推論処理部22における処理方式等は実施にあたって適宜選択すればよい。
【0035】また、設定処理部23の具体的構成や処理方式も任意であり、操作コンソール34や状態検出器群37の具体的構成や検出方式も実施にあたって適宜選択すればよい。
【0036】さらに、ダイカストマシン10の形式等、制御装置11の形式等、製品12の材質形状等も任意であり、本発明はダイカストに限らず各種の鋳造方式に対して適用できるものである。
【0037】
【発明の効果】以上に述べたように、本発明によれば知識ベースを参照して推論を行うことで初期条件に応じた最適な鋳造条件を迅速かつ容易に設定することができるようになり、鋳造における作業効率を大幅に向上することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の構成を示すブロック図。
【図2】同実施例の動作を示すフローチャート。
【符号の説明】
10 ダイカストマシン
11 制御装置
12 製品
20 鋳造条件設定装置
21 知識ベース
22 推論処理部
23 設定処理部
24 基本設定制御部
25 再設定制御部
34 操作コンソール
37 状態検出器群

【特許請求の範囲】
【請求項1】 予め鋳造する製品に関する製品データ、鋳造に用いる金型に関する金型データ、鋳造に用いる鋳造機に関する機械データ、前記各データの組み合わせに応じた各種の鋳造条件等に経験的知識データを加えて知識ベースを構築しておき、鋳造する製品データ、金型データ、機械データを入力し、入力された各データおよび前記知識ベースに基づいて最適条件を推論して設定することを特徴とする鋳造機の条件設定方法。
【請求項2】 請求項1記載の鋳造機の条件設定方法において、前記知識ベースに前記各種の鋳造条件の許で得られる製品の状態および不具合等に関する鋳造結果データおよび当該データに付随する経験的知識データを加えておき、前記設定した最適条件に基づいて鋳造を行い、得られた製品の状態および前記知識ベースに基づいて最適条件を推論して調整することを特徴とする鋳造機の条件設定方法。
【請求項3】 予め鋳造する製品に関する製品データ、鋳造に用いる金型に関する金型データ、鋳造に用いる鋳造機に関する機械データ、前記各データの組み合わせに応じた各種の鋳造条件等に経験的知識データを加えて構築された知識ベースと、指定された条件に基づいて前記知識ベースを参照して最適条件を推論する推論処理部と、外部入力される製品データ、金型データ、機械データに基づいて条件を指定して前記推論処理部を起動し、その推論結果に基づいて前記鋳造機に最適な鋳造条件を設定する設定処理部とを有することを特徴とする鋳造機の条件設定装置。
【請求項4】 請求項3記載の鋳造機の条件設定装置において、前記知識ベースは、前記各種の鋳造条件の許で得られる製品の状態および不具合等に関する鋳造結果データおよび当該データに付随する経験的知識データを含み、前記設定処理部は、前記外部入力される各データに基づいて前記推論処理部に推論を行わせ、最適な鋳造条件を設定する基本設定制御部と、前記基本設定制御部が設定した最適な鋳造条件に基づいて前記鋳造機を作動させて得られた製品の状態および前記知識ベースに基づいて前記推論処理部に推論を行わせ、最適な鋳造条件を調整する再設定制御部とを有することを特徴とする鋳造機の条件設定装置。

【図1】
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【図2】
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