説明

錠ユニット及び錠付装置

【課題】ロータケースの凹部に係止板を確実に保持させることで、組立作業の容易化を実現する。
【解決手段】ロータケース21の凹部211A,211B,211Cに連通部212,213を形成し、係止板29に当接部291,292を設けた。係止板29は、当接部291,292を連通部212,213に嵌入させてロータケース21に装着する。当接部291,292は、凹部211A,211B,211Cに露出するとともに、ロータケース21における連通部212,213の間をロータケース21の軸方向に沿って挟持する。係止板29は、ロータケース21の周面に形成された凹部211A,211B,211Cの少なくとも1つに、半径方向の外側から選択的に装着される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ロータの複数の回転位置の少なくとも1つでサイドバーの変位を規制することによって板鍵の抜取りを禁止する錠ユニット、及びこの錠ユニットを備えた錠付装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工場内に設置された機器を制御する制御盤は、例えば、装置を予め設定された状態で自動的に動作させる自動モード、機器の動作状態を設定するセッティングモード、及び機器の安全装置を解除する解除モード等の複数の制御モードの選択操作を受け付ける。制御モードを切り換えるために制御盤には錠ユニットを備えた錠付装置が備えられている(例えば、特許文献1の図6参照。)。錠付装置は、板鍵を介して操作された錠ユニットのロータの回転位置に応じた選択信号を出力する。
【0003】
制御盤での制御モードの選択に錠付装置を使用する場合、板鍵の紛失の防止、及び制御モードの緊急変更時の便宜等のため、一部の制御モードに対応した回転位置にあるロータからの板鍵の抜取りを禁止する必要がある。
【0004】
そこで、従来の錠付装置に備えられる錠ユニットでは、所定の回転位置にあるロータからの板鍵の抜取りを禁止するための係止板を装着できるようにされている。錠ユニットは、鍵穴に挿入された板鍵の鍵溝の形状に応じて上下動するディスクタンブラと、ディスクタンブラの上下動に連動してロータの半径方向に移動するサイドバーと、を備えている。また、ロータが回転自在に内挿されるロータケースの内周面における所定の回転位置にサイドバーが嵌入する凹部が形成されている。係止板は、ロータケースの凹部に挿入されて凹部へのサイドバーの嵌入を禁止し、ディスクタンブラが上下方向に移動できないようにして板鍵の抜取りを防止する。また、サイドバー式の錠ユニットとしては、特許文献2がある。
【特許文献1】特開平08−185767号公報の図6
【特許文献2】特開平05−287942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の錠ユニットでは、係止板がロータケースの凹部へロータケースの軸方向に挿入されていたため、錠ユニットの組立時にロータケースが傾斜すると凹部から係止板が容易に脱落し、組立作業が煩雑になる問題があった。
【0006】
この発明の目的は、サイドバー式の錠ユニットにおいて、ロータケースの凹部に係止板を確実に保持させることで、組立作業の容易化を実現できる錠ユニット及び錠付装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための手段として、この発明の錠ユニットは、ロータケース、ロータ、サイドバー、タンブラを備え、係止板を装着可能にしている。
【0008】
ロータケースは、円筒形を呈し、ロータが回転自在に内挿される。また、ロータケースは、内周面における複数の回転位置のそれぞれでサイドバーが嵌入する複数の凹部であってロータケースの軸方向の一部にロータケースの外周面に連通する連通部を有する複数の凹部を有している。ロータは、ロータケース内に複数の回転位置の何れかに選択的に位置するように回転自在に挿入され、前面に開放した軸方向の鍵穴と、鍵穴の内周面から互いに異なる第1及び第2の半径方向に沿って外周面に連通する第1及び第2の孔部と、を有している。サイドバーは、第1の孔部に第1の半径方向に沿って移動自在に挿入されている。タンブラは、第2の孔部に第2の半径方向に沿って移動自在に挿入され、鍵穴に連通する貫通孔、及びサイドバーに選択的に当接する突起を有する。係止板は、ロータケースの外周面における複数の凹部に対向する位置にロータケースの半径方向に沿って装着される。係止板は、連通部に嵌入してサイドバーに当接する当接部を有している。
【0009】
この構成では、鍵穴に対する板鍵の抜き差しに連動したタンブラの移動をサイドバーを介して規制する係止板が、当接部をロータケースの外周面から凹部の連通部に嵌入した状態でロータケースに装着される。したがって、錠ユニットの組立時に係止板を装着したロータケースが傾斜した際に、ロータケースから係止板が容易に脱落することがない。
【0010】
この構成において、当接部をロータケースに対して軸方向に弾性係合させることが好ましい。ロータケースからの係止板の脱落をより確実に防止できるとともに、ロータケースに対して係止板を容易に着脱できる。例えば、複数の凹部のそれぞれの軸方向の2個所に連通部を形成し、係止板における軸方向の両端部のそれぞれに当接部を形成し、当接部の間にロータケースの一部を挟持させる。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、ロータケースの凹部に係止板を確実に保持させることができ、組立作業の容易化を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、この発明の実施形態に係る錠付装置の組立図である。錠付装置1は、例えば、セレクタスイッチであり、本体10、錠ユニット20、カム30及び固定ネジ40を備え、例えば工場内に設置された装置の動作状態の制御操作を受け付ける制御盤に備えられ、制御モードの切り換えに用いられる。
【0013】
本体10は一例として樹脂材料によって前面及び背面が開放した略円筒形状に形成されている。錠ユニット20は、一例として金属材料によって形成されたロータケース21及びロータ22を備えている。ロータ22は、ロータケース21内で回転自在に保持されている。ロータ22には、前面側に開放した鍵穴23が形成されている。鍵穴23には、板鍵50が挿入される。カム30は、一例として樹脂材料によって前面が開放した略円筒形状に形成されており、底面には固定ネジ40が貫通する孔部31が形成されている。
【0014】
錠ユニット20は本体10の内部に前面側から挿入され、カム30は本体10内部に背面側から挿入される。本体10の内部で、錠ユニット20の背面に突出したロータ22の軸部20Aがカム30に前面側から嵌入する。カム30に対する軸部20Aの嵌入状態は、固定ネジ40によって固定的に維持され、カム30はロータ22と一体的に回転する。
【0015】
カム30の周面には、筒状カム32が形成されている。筒状カム32には、操作部材11(図3参照。)の前面側端部11Aが背面側からバネ12によって当接(摺接)する。本体10の錠ユニット20の反対側には、図示しないスイッチ部が接続されている。操作部材11の背面側端部11Bはスイッチ部の可動接点に当接する。
【0016】
鍵穴23に挿入された板鍵50を介してロータ22が回転すると、筒状カム31と操作部材との当接位置が軸方向に変位する。ロータ22の回転位置に応じて、スイッチ部の可動接点が動作し、スイッチ部から信号が出力される。
【0017】
ロータ22は、鍵穴23が垂直方向に平行な中立位置から時計方向及び反時計方向にそれぞれ所定の回転範囲内で回転できるようにされている。スイッチは、ロータ22が中立位置から時計方向に所定の回転範囲まで回転した時と反時計方向に所定の回転範囲まで回転した時とで互いに異なる制御モードに対応した信号を出力する。
【0018】
図2は、錠付装置に備えられるこの発明の実施形態に係る錠ユニットの組立図である。錠ユニット20は、一例としてロータケース21、ロータ22、3枚のディスクタンブラ24、3個のタンブラバネ25、サイドバー26、2個のサイドバーバネ27、2本のモードピン28A,28B及び係止板29を備えている。
【0019】
ディスクタンブラ24、タンブラバネ25、サイドバー26、サイドバーバネ27及びモードピン28は、ロータ22に保持される。
【0020】
3枚のディスクタンブラ24は、それぞれロータ22の軸方向の異なる位置に形成された凹部221に嵌入し、ロータ22の半径方向に沿って移動自在に保持される。各ディスクタンブラ24には、凸部242を備えた孔部241が形成されている。孔部241は、ロータ22内で鍵穴23にロータ22の軸方向に連通する。各ディスクタンブラ24で段部243は互いに異なる上下位置に形成されている。各ディスクタンブラ24には、同じ上下位置に凸部242が形成されている。
【0021】
3個のタンブラバネ25は、ロータ22内に保持されて、それぞれディスクタンブラ24を一方向に付勢する。
【0022】
サイドバー26は、ロータ22の凹部222に嵌入し、ロータ22の半径方向であってディスクタンブラの移動方向とは異なる方向に沿って移動自在に保持される。サイドバー26は、段部243が選択的に嵌入する凹部261を内側面に備えている。また、サイドバー26は、突起262を外側面に備えている。
【0023】
サイドバーバネ27は、サイドバー26をロータ22の外側に向けて付勢する。
【0024】
係止板29は、一例として樹脂を素材として形成されており、ロータケース21の周面に形成された凹部211A,211B,211Cのうち板鍵50の抜取りを禁止すべき凹部に、半径方向の外側から装着される。一例として、凹部211Bには、ロータケース21の軸方向の両端部に連通部212,213が形成されている。連通部212,213は、凹部211Bにおいてロータケース21の外周面と内周面との間を貫通している。凹部211A,211Cも凹部211Bと同様に形成されている。
【0025】
係止板29は、ロータケース21の軸方向の両端部から延出する当接部291,292を備えている。係止板29は、当接部291,292を連通部212,213に嵌入させてロータケース21に装着される。当接部291,292は、ロータケース21における連通部212,213の間をロータケース21の軸方向に沿って挟持する。これによって、係止板29がロータケース21に確実に装着され、錠ユニット20の組立時にロータケース21が傾斜しても係止板29がロータケース21から脱落することはない。また、当接部291及び292は、係止板29の両端側に設け、係止板29の中央側に設けていないのは、ディスクタンブラ24が干渉しない位置に設ける必要があるためでもある。
【0026】
凹部211A,211B,211Cのうち、係止板29が装着されていないものには、サイドバー26の突起262が選択的に嵌入する。
【0027】
鍵孔23に挿入される板鍵50には、上下面のそれぞれに一例として2個ずつの凹部51A,51Bが形成されており、側面にキー溝52が形成されている。凹部51A,51Bは、板鍵50が鍵穴23に挿入された状態で、ロータ22におけるモードピン28の保持位置に対向する位置に形成されている。
【0028】
図3(A)は錠ユニットの平面断面図であり、図3(B)は図3(A)のB−B部における正面断面図である。図3では、鍵穴23に板鍵50が挿入されており、サイドバー26がロータケース21の凹部211Bに対向する回転位置にある状態を示している。ロータケース21の凹部211A,211B,211Cのうち、凹部211Bに係止板29が装着されている。
【0029】
ロータ22は、ロータケース21において複数の凹部211A,211B,211Cのそれぞれにサイドバー26の突起262が対向する回転位置で停止する。複数の凹部211A,211B,211Cのうち係止板29が装着されていない凹部211A,211Cに突起262が対向する回転位置にロータ22が位置している場合、サイドバーバネ27の弾性力によって突起262が凹部211に嵌入するようにサイドバー26が外側に移動する。このとき、段部243は、凹部261に嵌入することがなく、ディスクタンブラ24はロータ22の半径方向に自由に移動できるため、鍵穴23に板鍵50を自由に抜き差しできる。
【0030】
複数の凹部211A,211B,211Cのうち係止板29が装着されている凹部211Bに突起262が対向する回転位置にロータ22が位置している場合、サイドバーバネ27の弾性力によってもサイドバー26が外側に移動しない。このとき、段部243は、凹部261に嵌入し、ディスクタンブラ24はロータ22の半径方向への移動を規制されるため、鍵穴23から板鍵50を抜き出すことができない。
【0031】
したがって、係止板29をロータケース21の凹部211A,211B,211Cの何れかに装着することにより、ロータ22の何れかの回転位置で板鍵50の抜取りを規制することができる。
【0032】
上記の実施形態はいずれも一例であり、この発明はこれらに限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々の変更を加えることが可能である。
【0033】
例えば、この発明の係止板は、上記の実施形態に示した係止板29の形状に限るものではなく、凹部211A,211B,211Cの何れかで連通孔212,213に嵌入してロータケース21の内周部に露出する当接部を有し、ロータケース21の外周面に外側から装着されることを条件に種々の形状とすることができる。また、この発明の連通孔は、凹部211A,211B,211Cのそれぞれにおいて少なくとも1つ形成されていれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の実施形態に係る錠付装置の組立図である。
【図2】錠付装置に備えられるこの発明の実施形態に係る錠ユニットの組立図である。
【図3】(A)は錠ユニットの平面断面図であり、(B)は(A)のB−B部における正面断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1:錠付装置
10:本体
20:錠ユニット
21:ロータケース
22:ロータ
23:鍵穴
29:係止板
50:板鍵
211A,211B,211C:凹部
212,213:連通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形のロータケースと、
前記ロータケース内に複数の回転位置の何れかに選択的に位置するように回転自在に挿入されたロータであって、前面に開放した軸方向の鍵穴と、前記鍵穴の内周面から互いに異なる第1及び第2の半径方向に沿って外周面に連通する第1及び第2の孔部と、を有するロータと、
前記第1の孔部に前記第1の半径方向に沿って移動自在に挿入されたサイドバーと、
前記第2の孔部に前記第2の半径方向に沿って移動自在に挿入されたタンブラであって前記鍵穴に連通する貫通孔、及び前記サイドバーに選択的に当接する突起を有するタンブラと、
を備え、
前記ロータケースは、内周面における前記複数の回転位置のそれぞれで前記サイドバーが嵌入する複数の凹部であって前記ロータケースの軸方向の一部に前記ロータケースの外周面に連通する連通部を有する複数の凹部を有し、
前記ロータケースの外周面における前記複数の凹部に対向する位置に前記ロータケースの半径方向に沿って装着される係止板であって前記連通部に嵌入して前記サイドバーに当接する当接部を有する係止板が装着可能な錠ユニット。
【請求項2】
前記当接部は、前記ロータケースの軸方向に沿って前記ロータケースに弾性係合する請求項1に記載の錠ユニット。
【請求項3】
前記複数の凹部のそれぞれは、前記軸方向の2個所に前記連通部を有し、
前記係止板は、前記軸方向の両端部のそれぞれに当接部を有するとともに、前記当接部の間に前記ロータケースの一部を挟持する請求項1又は2に記載の錠ユニット。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の錠ユニットを備え、前記ロータの複数の回転位置のそれぞれに応じた信号を出力するスイッチを備えた錠付装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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