説明

錠剤用添加剤

錠剤用崩壊剤であって、重合度が180以上1230未満であって分散度(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が1.25以下であるα−1,4−グルカン、またはその修飾物からなる、崩壊剤。錠剤用結合剤であって、重合度が1230以上37000以下であって分散度が1.25以下であるα−1,4−グルカン、またはその修飾物からなる、結合剤。低分子量α−1,4−グルカンまたはその修飾物と、高分子量グルカンまたはその修飾物とからなる、錠剤用崩壊結合剤であって、該低分子量α−1,4−グルカンは、重合度が180以上1230未満であって分散度が1.25以下であり、該高分子量α−1,4−グルカンは、重合度が1230以上37000未満であって分散度が1.25以下である、崩壊結合剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、崩壊性または結合性を改良した錠剤用添加剤およびこれを用いた錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品の投与手段として、錠剤は、取扱いが容易であること、安定で精度の高い投与量制御が可能であることから最もよく利用される形態のひとつである。錠剤には、生理活性のある主薬以外に、錠剤の性質を向上させるために種々の添加剤を配合することが一般的である。このような添加剤の例としては、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤等が挙げられる。
【0003】
賦形剤は、錠剤への形状賦与および増量を目的として添加される。賦形剤としては通常、微結晶セルロース、乳糖、澱粉等が用いられる。しかし、賦形剤としてこれらの賦形剤のうちの1種類のみを含む錠剤は、その錠剤の崩壊時間が長くなって主薬が体内に速やかに吸収されなかったり、錠剤の硬度が低く包装中または運搬中に錠剤が損傷する場合がある。そのため、通常の錠剤には、2種類以上の賦形剤が配合されているか、または崩壊剤もしくは結合剤がさらに配合されている。
【0004】
崩壊剤は、錠剤が消化管液中または口腔内で崩壊するのを促進させる作用を持つ。崩壊剤としては通常、カルメロースナトリウム、クロスポビドン、部分アルファー化澱粉等が使用される。カルメロース(CMC)は、代表的な崩壊剤であり、崩壊時間は早いが、解離基を有するため、pHの影響を受けやすいという欠点を有する。カルメロースは、化学処理を行って製造されるため、安全性が懸念されるという欠点および賦形性が悪いという欠点も有する。部分アルファー化澱粉は、澱粉原料のうちの代表的な崩壊剤である。配合量が多いと逆に崩壊が遅延するという欠点を有する。
【0005】
結合剤は、錠剤を製造する際に成分粒子を相互に結合し、錠剤の硬度を上げることを目的として添加される。結合剤としては通常、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アラビアゴム、ゼラチン等が使用される。
【0006】
これらの錠剤用添加剤は通常、各添加剤が独立した機能のみを持っているのではなく、ひとつの物質が賦形性と崩壊性とを併せ持っていたり、賦形性と結合性とを併せ持っていることが多い。
【0007】
錠剤の崩壊性と硬度とは密接な関係があり、崩壊時間を短くするために崩壊剤を多く添加すると硬度が低下し、逆に結合剤を多く添加すると硬度は上がるが崩壊性が悪くなる。この二つの性能を単独で両立する賦形剤はこれまでに知られていない。
【0008】
さらに、錠剤を小型化して飲みやすくするために、主薬に対して添加剤の割合が小さくても十分な性能を発揮する錠剤用添加剤が必要とされている。
【0009】
澱粉およびその誘導体は現在、錠剤用添加剤として使用されている。天然の澱粉は通常、アミロースとアミロペクチンとの混合物である。アミロースは、グルコース残基が主にα−1,4−グルコシド結合で直鎖状に結合した構造のポリマーであるが、近年の研究により、アミロースにも、分岐部分が若干存在することがわかっている。アミロペクチンは、グルコース残基が、α−1,4−グルコシド結合で直鎖状に結合した構造にさらにα−1,6−グルコシド結合で枝別れが生じた房状のポリマーである。
【0010】
アミロースについては、水の存在下で膨潤したり、水素結合によって螺旋状の結晶を形成することが知られている。このような性質を利用したいくつかの錠剤用添加剤が研究されている。特表平10−506627号公報(特許文献1)では天然澱粉から得たアミロースを用いた賦形剤について述べられている。また特表平8−507769号公報(特許文献2)では、架橋したアミロースを錠剤の結合剤および崩壊剤として用いている。
【0011】
天然の澱粉からアミロースを得る方法はいくつか公知である。たとえば、天然澱粉に、α−1,6−グルコシド結合のみを特異的に切断する酵素(例えば、イソアミラーゼまたはプルラナーゼ;これらは、枝切り酵素として既知として既知である)を作用させて分岐部分を分解することにより、アミロースを得る方法(いわゆる澱粉酵素分解法)がある。また澱粉糊液からアミロース/ブタノール複合体を沈殿させてアミロースのみを分離する方法がある。
【0012】
しかしこのようにして天然の澱粉から得られたアミロースには、次のような問題点が指摘されている:
(a)天然澱粉に含まれるアミロースは、通常、分散度(Mw/Mn)が1.3以上と広い。これらのアミロースには、(i)結晶化度が高く膨潤しにくい低分子量アミロース、(ii)結合力の高い高分子量アミロース、および(iii)その中間の分子量の、膨潤しやすいアミロースが混在する。そのため、これらの種々の分子量のアミロースは、互いに阻害しあい、分子量の異なる他のアミロースが有する優れた特性を打ち消してしまう。したがって製剤性をはじめ、最終製品である錠剤の崩壊性および結合性について十分な性能を発揮できない;
(b)天然澱粉に含まれるアミロースの分子量は、通常、数十kDaから数百kDaであり、低い;ならびに
(c)天然澱粉からのアミロースの分離は、操作が煩雑で、収率も低く、工業的製法になり得ない。
【0013】
以上のような理由で、天然澱粉から得られたアミロースの錠剤への応用は進展しなかったものと思われる。
【0014】
酵素の作用によりグルコース残基を連結してα−1,4−グルカンを合成する方法(酵素合成法)は、いくつか公知である。
【0015】
一例として、スクロースを基質として、アミロスクラーゼ(amylosucrase、EC 2.4.1.4)を作用させる方法がある(以降、AMSU法と略す)。AMSU法で得られるα−1,4−グルカンは低重合度である。高度に精製されたアミロスクラーゼを用いて製造されるα−1,4−グルカンであっても、分子量は8,941Daであると報告されている(Montalkら、FEBS Letters 471、第219〜223頁(2000年);非特許文献1)。
【0016】
特表2002−511429号公報(特許文献3)は、AMSU法で作製したα−1,4−グルカンを用いた徐放性錠剤を開示する。特許文献3の中では、α−1,4−グルカンの分散度は1.5〜15が特に好ましいと記載されている。この分散度は天然澱粉由来のアミロースと同等の値でであり、分子量の分布が広い。そのため、特許文献3で用いられたα−1,4−グルカンには、天然澱粉に対する優位性は認められない。さらに、徐放性錠剤と本願発明で目的とする錠剤とは全く技術分野が異なる。後述の「発明を実施するための最良の形態」に記載するように、本明細書でいう錠剤には、徐放性錠剤は含まれない。本発明の錠剤は、経口投与後迅速に(例えば、1分以内に)崩壊して錠剤中の主薬が口腔または胃腸で放出されることが好ましいのに対して、徐放性錠剤は、経口投与後長(例えば、24時間以上)にわたって徐々に崩壊して主薬を放出することが好ましい。
【0017】
AMSU法で分散度が小さい、すなわち分子量分布が狭いα−1,4−グルカンが得られたとしても、その平均分子量は上述のように小さい。分子量が数万Da以下のα−1,4−グルカンは非常に結晶性が高く、α−1,4−グルカン粉末同士、あるいは他の添加物、薬剤との結合作用および賦形作用は非常に弱い。このことから、上記出願は分散度の高い、すなわち分子量分布が広いα−1,4−グルカンに混在する、微量の高分子部分のみが錠剤の結合および徐放に寄与していると考えられる。AMSU法で得られるα−1,4−グルカンは、本質的には結合性も賦形性も持たないか、持っていたとしてもそれらの性質は非常に弱い。
【0018】
酵素合成の別の方法として、グルカンホスホリラーゼ(α−glucan phosphorylase、EC 2.4.1.1;通常、ホスホリラーゼという)を用いる方法がある。このような方法には、ホスホリラーゼのみを基質(グルコース−1−リン酸)に作用させてそのグルコシル基をプライマー(例えば、マルトヘプタオース)に転移する方法(GP法と呼ばれる)およびホスホリラーゼに加えてスクロースホスホリラーゼを用いることによってスクロースからG−1−Pを合成してこのG−1−Pのグルコシル基をプライマーに転移する方法(SP−GP法と呼ばれる)がある(例えば、国際公開第WO02/097107号パンフレット(特許文献4)を参照のこと)。
【0019】
このようなGP法またはSP−GP法によって作製されたα−1,4−グルカンを生分解性物品に用いる方法は、国際公開WO02/06507号パンフレット(特許文献5)に記載されている。このパンフレットには、例えば、試料番号3として分子量84.4kDa、分散度1.02のアミロース;試料番号4として分子量110.0kDa、分散度1.01のアミロース;試料番号5として分子量276.1kDa、分散度1.01のアミロース;試料番号6として分子量741.9kDa、分散度1.01のアミロースが記載されている。このパンフレットには、そのような酵素合成アミロースが水溶性の合成高分子や天然澱粉、蛋白を使用してきた医農薬及び肥料などのマトリックス材としても使用できることが記載されている。しかし、このパンフレットに記載されている「医農薬および肥料などマトリックス材」とは、医農薬および肥料などに大量に添加され得る材料であって、特別な機能を有さず、充填材の増量効果のような重要性の極めて低い機能のみを有する材料を意味する。マトリックス材とは、増量効果のような重要性の低い機能を有するものであり、添加しても錠剤の物性にほとんど影響を与えない。すなわち、マトリックス材には、薬物などの活性成分または他の機能を持つ添加剤と任意の比率で混合しても、その比率が錠剤の物性および錠剤中の薬物の活性に影響を及ぼさないことが要求される。それに対して、結合剤は、そのままでは打錠が難しい活性成分を含む錠剤に対して錠剤の硬度を向上させることを目的として添加される。崩壊剤は、生薬等の経口投与後に崩壊しにくい成分を含む錠剤に対して、活性成分の速やかな放出をもたらすことを目的として添加される。この硬度向上効果または崩壊効果は、結合剤または崩壊剤の添加量に応じて変化する。また錠剤の小型化、あるいは錠剤中の活性成分の割合を高めるためにできるだけ少量で効果を発揮する結合剤および崩壊剤が求められている。このような使用方法は、増量材的な使用方法とは相反するものである。従って、結合剤または崩壊剤のような特殊な機能を有する材料は通常は「マトリックス材」には含まれない。
【0020】
このパンフレットは、結合剤または崩壊剤のような特殊な機能を有する材料を開示も示唆もしない。結合剤は、極めて特殊な機能を有する材料である。なぜなら、結合剤は、そのままでは打錠が難しい活性成分を含む錠剤に対して錠剤の硬度を向上させることを目的として添加される材料であるからである。また崩壊剤も、極めて特殊な機能を有する材料である。なぜなら、崩壊剤は、生薬等の経口投与後に崩壊しにくい成分を含む錠剤に対して、活性成分の速やかな放出を促すために添加される材料であるからである。また、錠剤の小型化のため、あるいは錠剤中の活性成分の割合を高めるため、結合剤や崩壊剤はできるだけ少量で効果を発揮することが求められており、この意味からも増量材とは相反するものである。
【0021】
このパンフレットに記載されたアミロースを錠剤の結合剤または崩壊剤のような特殊な機能を有する材料として使用することは当業者に容易ではない。このパンフレットに記載されたマトリックス材とは、通常は、特殊な機能を持たない材料を意味するからである。このパンフレットからは、特定の重合度のα−1,4−グルカンが、錠剤用の崩壊剤または結合剤として優れていることは予想され得ない。このパンフレットには、α−1,4−グルカンの重合度と性質について、高重合度のものは水溶性、低重合度のものはゲル化あるいは結晶化する性質が述べられているだけであり、崩壊剤に必要な膨潤性についても結合剤に必要な結合性についても記載も示唆もされていない。膨潤性も結合性も、このパンフレットに記載の成形物の構成に必要な性質ではない。
【0022】
膨潤性および結合性は、今回錠剤としての応用を検討する中で、錠剤の物性とα−1,4−グルカンの重合度との関係を調べた際に初めて見出されて関連付けられた極めて特殊な性質である。それゆえ、本願発明の結合剤および崩壊剤とこのパンフレットに記載されるマトリックス材とは極めて顕著に異なる。
【0023】
しかし、このパンフレットに記載されたアミロースを錠剤に用いることは当業者に容易ではない。さらに、これらのアミロースを錠剤の崩壊剤または結合剤として用いることも容易ではない。なぜなら、本パンフレットで用いているα−1,4−グルカンは、一般に市販されておらず、評価実験を行うこと自体が容易ではないためである。評価実験を行おうとするものは、自ら酵素を製造し、その酵素を用いてα−1,4−グルカンを製造しなくてはならない。その後ようやく、特定の重合度のα−1,4−グルカンを用いて打錠した錠剤の硬度を測定して、結合剤としての性能を評価したり、特定の重合度のα−1,4−グルカンの膨潤度を測定して崩壊剤としての性能を評価することが可能となる。なお、上述したとおり、上述パンフレットの発明の実施の手順は煩雑であるが、上述パンフレットの発明を実施するに充分な記載が上記パンフレットにあることはいうまでもない。
【0024】
さらに、このパンフレットは、分子量が異なる複数種類のアミロースを組み合わせることを開示も示唆もしない。
【特許文献1】特表平10−506627号公報(第2頁〜第4頁)
【特許文献2】特表平8−507769号公報(第2頁)
【特許文献3】特表2002−511429号公報(第2頁)
【特許文献4】国際公開第WO02/097107号パンフレット(第127頁−第134頁)
【特許文献5】国際公開第WO02/06507号パンフレット(第22頁および23頁)
【非特許文献1】Montalkら、FEBS Letters 471、2000年、第219〜223頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、圧縮成形性に加えて、崩壊性または強度を満足する錠剤用添加剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明者らは、上記課題を解決するために天然のアミロースに比べて分散度が狭く、かつ重合度が正確に制御された酵素合成α−1,4−グルカンを用いた錠剤用添加剤について鋭意研究を重ねた結果、α−1,4−グルカンの重合度に応じて崩壊性および結合性が変化することを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。酵素合成α−1,4−グルカンを単独、または組み合わせて錠剤に使用することにより、崩壊性および結合性に優れた錠剤用添加剤が提供される。
【0027】
本発明の錠剤用崩壊剤は、重合度が180以上1230未満であって分散度(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が1.25以下であるα−1,4−グルカン、またはその修飾物からなる。
【0028】
1つの実施形態では、上記α−1,4−グルカンは、酵素合成α−1,4−グルカンであり得る。
【0029】
1つの実施形態では、上記崩壊剤はα−1,4−グルカンの修飾物であって、該修飾が、エステル化、エーテル化および架橋からなる群より選択される化学修飾であり得る。
【0030】
本発明の錠剤用結合剤は、重合度が1230以上37000以下であって分散度が1.25以下であるα−1,4−グルカン、またはその修飾物からなる。
【0031】
1つの実施形態では、上記α−1,4−グルカンは、酵素合成α−1,4−グルカンであり得る。
【0032】
1つの実施形態では、上記結合剤はα−1,4−グルカンの修飾物であって、該修飾が、エステル化、エーテル化および架橋からなる群より選択される化学修飾であり得る。
【0033】
本発明の錠剤用崩壊結合剤は、低分子量α−1,4−グルカンまたはその修飾物と、高分子量グルカンまたはその修飾物とからなり、該低分子量α−1,4−グルカンは、重合度が180以上1230未満であって分散度が1.25以下であり、該高分子量α−1,4−グルカンは、重合度が1230以上37000未満であって分散度が1.25以下である。
【0034】
1つの実施形態では、上記α−1,4−グルカンは、酵素合成α−1,4−グルカンであり得る。
【0035】
1つの実施形態では、上記崩壊結合剤はα−1,4−グルカンの修飾物であって、該修飾が、エステル化、エーテル化および架橋からなる群より選択される化学修飾であり得る。
【0036】
1つの実施形態では、上記低分子量α−1,4−グルカンまたはその修飾物と、前記高分子量α−1,4−グルカンまたはその修飾物との重量比が、98:2〜60:40であり得る。
【0037】
1つの実施形態では、上記低分子量α−1,4−グルカンまたはその修飾物と、前記高分子量α−1,4−グルカンまたはその修飾物との重量比が、2:98〜40:60であり得る。
【0038】
本発明の錠剤は、低分子量α−1,4−グルカンまたはその修飾物と、高分子量グルカンまたはその修飾物とを含み、該低分子量α−1,4−グルカンは、重合度が180以上1230未満であって分散度が1.25以下であり、該高分子量α−1,4−グルカンは、重合度が1230以上37000未満であって分散度が1.25以下である。
【発明の効果】
【0039】
錠剤に含まれる分散度の小さいα−1,4−グルカンの分子量を適切に変動させることにより、この錠剤の崩壊時間および結合性を任意に制御できる。本発明によって、崩壊性および硬度を満足する錠剤用添加剤を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
(用語の定義)
(分散度Mw/Mn)
高分子化合物は、タンパク質のような特別の場合を除き、その由来が天然または非天然のいずれかであるかに関わらず、その分子量は単一ではなく、ある程度の幅を持っている。そのため、高分子化合物の分子量の分散程度を示すために、高分子化学の分野では通常、分散度Mw/Mnが用いられている。分散度Mw/Mnは、重量平均分子量Mwに対する数平均分子量Mnの比(すなわち、Mw÷Mn)で表わされる。分散度は、その高分子化合物の分子量分布の幅広さの指標である。分子量が完全に単一な高分子化合物であればMw/Mnは1であり、分子量分布が広がるにつれてMw/Mnは1よりも大きな値になる。本明細書中で「分子量」という用語は、特に断りのない限り重量平均分子量を指す。
【0041】
用語「錠剤」とは、本明細書中で用いられる場合、有効成分を含む錠剤材料を一定の形状に圧縮して製造したものであって、経口投与後10分以内に崩壊する錠剤をさす。すなわち、本明細書中の「錠剤」の概念には、「徐放性錠剤」は含まれない。このような錠剤は、その製法にちなんで、圧縮錠剤ともいわれる。本明細書中では、錠剤は、医薬品用途の錠剤であっても、食品用途の錠剤であってもよい。食品用途の錠剤の例としては、錠菓および健康食品(例えば、サプリメント)としての錠剤が挙げられる。
【0042】
用語「崩壊剤」とは、本明細書中で用いられる場合、水中または胃液中で錠剤に崩壊性を与える添加剤をいう。
【0043】
用語「結合剤」とは、本明細書中で用いられる場合、成分粉末の混合物に結合力を与え安定な錠剤または顆粒を製造するために用いられる添加剤をいう。
【0044】
用語「崩壊結合剤」は、本明細書中で用いられる場合、崩壊剤としての作用および結合剤としての作用の両方を発揮する添加剤をいう。
【0045】
用語「α−1,4−グルカン」とは、本明細書中で用いられる場合、本明細書中では「α−1,4−グルカン」とは、D−グルコースを構成単位とする糖であって、α−1,4−グルコシド結合のみによって連結された糖単位を少なくとも2糖単位以上有する糖をいう。α−1,4−グルカンは、直鎖状の分子である。α−1,4−グルカンは、直鎖状グルカンとも呼ばれる。1分子のα−1,4−グルカンに含まれる糖単位の数を、重合度という。
【0046】
本発明で用いられるα−1,4−グルカンは、当該分野で公知の方法で作製され得る。好ましくは、公知の酵素合成法によって作製される。このような酵素合成法の例としては、グルカンホスホリラーゼ(α−glucan phosphorylase、EC 2.4.1.1;通常、ホスホリラーゼという)を用いる方法が挙げられる。ホスホリラーゼは、加リン酸分解反応を触媒する酵素である。
【0047】
ホスホリラーゼを用いた酵素合成法の一例は、ホスホリラーゼを作用させて、基質であるグルコース−1−リン酸(以降、G−1−Pという)のグルコシル基を、プライマーとして用いられる例えばマルトヘプタオースに転移する方法(以降、GP法という)である。GP法は、原料であるG−1−Pが高価であるため、α−1,4−グルカンを工業的に生産するのにはコストがかかるが、糖単位をα−1,4−グルコシド結合のみで逐次結合させることにより100%直鎖のα−1,4−グルカンが得られるという顕著な利点がある。GP法は、当該分野で公知である。
【0048】
ホスホリラーゼを用いた酵素合成法の別の例は、スクロースを基質とし、例えば、マルトオリゴ糖をプライマーとして用い、これらに無機リン酸の存在下でスクロースホスホリラーゼ(sucrose phosphorylase、EC 2.4.1.7)とグルカンホスホリラーゼとを同時に作用させることによってα−1,4−グルカンを酵素合成する方法(以降、SP−GP法という)である。SP−GP法は、GP法と同様100%直鎖のα−1,4−グルカンの分子量を自由に制御して製造できることに加え、安価なスクロースを原料とすることで、製造コストをより低くできるという利点を有する。SP−GP法は当該分野で公知である。SP−GP法の効率的な生産方法は、例えば、国際公開第WO02/097107号パンフレットに記載される。本発明で用いられるα−1,4−グルカンは、このパンフレットに記載される方法に従って製造され得る。
【0049】
一方、上記のAMSU法も、酵素を用いたα−1,4−グルカン合成法ではあるが、得られるα−1,4−グルカンは、極めて低重合度(分子量が約9kDa未満)となり、本発明の使用には適さない。
【0050】
上記GP法および/またはSP−GP法を採用して酵素合成された酵素合成α−1,4−グルカンは次のような特徴を有する:
(i)分子量分布が狭い(Mw/Mnが1.1以下);
(ii)製造条件を適切に制御することによって任意の重合度(約60〜約37000)のものが得られる;
(iii)完全に直鎖であり、天然澱粉から分画したアミロースに認められるわずかな分岐構造がない;
(iv)天然澱粉と同様にグルコース残基のみで構成されており、α−1,4−グルカンも、その分解中間体も、そして最終分解物に至るまで生体に対して毒性がない;および
(v)必要に応じて澱粉と同様の化学修飾が可能である。
【0051】
上記GP法および/またはSP−GP法を採用して酵素合成された酵素合成α−1,4−グルカンは、製造条件によって分子量および結晶形が異なる。GP法およびSP−GP法によるα−1,4−グルカンの製造においては、低分子量α−1,4−グルカンを合成する条件では反応液中に生成物のα−1,4−グルカンが沈殿するのに対し、高分子量α−1,4−グルカンを合成する条件では生成したα−1,4−グルカンは可溶化したままである。その境界は、合成条件によって変動し得るが、一般に、重合度約1230(分子量約200kDa)程度である。この製造時の違いによってα−1,4−グルカンの結晶形が異なり、以下の表1に記載のように、錠剤にした場合の物性が異なってくる。単に分子量ではなく結晶形が物性に影響する。天然澱粉からアミロースを分離する場合には、得られるアミロースのこのような分子量および結晶形の制御ができない。
【0052】
【表1】

【0053】
上記の2分類は、酵素合成α−1,4−グルカンの分子量および結晶形に依存する特性に基づいて性質の説明上便宜的におこなったものである。2分類の境界領域では酵素合成α−1,4−グルカンは崩壊性および結合性を併せ持ち、またそのバランスは分子量に応じて連続的に変化する。そのため使用者は、主薬の種類および必要な錠剤の物性に応じて任意の分子量の酵素合成α−1,4−グルカンを選択して使用し得る。分子量の異なる2以上の酵素合成α−1,4−グルカンを混合して使用することができる。
【0054】
天然澱粉から得られたアミロースおよびAMSU法で得られた結合・賦形作用のある高分子アミロースをわずかに含有するアミロースの分子量分布は広く、各種の分子量のアミロースの混合物であるとみなすことも可能である。しかし、その分布は由来および製造方法によって一義的に決まり、錠剤に使用する場合の性質も固定される。それに対して、本発明で用いられるα−1,4−グルカンの混合物は、分子量分布が狭くその性質も分子量に応じて違うアミロースを混合して得られるものであり、そのため混合比率を変えることによって目的の錠剤に応じた性能を容易に発揮できる点で明らかに異なる。
【0055】
用語「低分子量α−1,4−グルカン」とは、本明細書中で用いられる場合、重合度が1230未満のα−1,4−グルカンをいう。
【0056】
用語「高分子量α−1,4−グルカン」とは、本明細書中で用いられる場合、重合度が1230以上のα−1,4−グルカンをいう。
【0057】
用語「修飾物」とは、本明細書中で用いられる場合、対象物に対して化学的に修飾を施すことによって得られるものをいう。このような修飾の例としては、エステル化、エーテル化および架橋が挙げられる。
【0058】
エステル化は、例えば、α−1,4−グルカンを各種溶媒中でまたは無溶媒で、エステル化試薬(例えば、酸無水物、有機酸、酸塩化物、ケテンまたは他のエステル化試薬)と反応させることによって行われ得る。このようなエステル化によって、例えば、酢酸エステル、プロピオン酸エステルなどのアシル化エステルが得られる。
【0059】
エーテル化は、例えば、α−1,4−グルカンを、アルカリ存在下でエーテル化剤(例えば、ハロゲン化アルキル、硫酸ジアルキルなど)と反応させることによって行われ得る。このようなエーテル化によって、例えば、カルボキシメチルエーテル、ヒドロキシプロピルエーテル、ヒドロキシメチルエーテル、メチルエーテル、エチルエーテルが得られる。
【0060】
架橋は、例えば、α−1,4−グルカンを、架橋剤(ホルマリン、エピクロロヒドリン、グルタルアルデヒド、各種ジグリシジルエーテル、各種エステルなど)と反応させることによって行われ得る。
【0061】
(1.錠剤用崩壊剤)
本発明の錠剤用崩壊剤は、重合度が180以上1230未満であって分散度(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が1.25以下であるα−1,4−グルカン、またはその修飾物からなる。錠剤用崩壊剤として用いられるα−1,4−グルカンの重合度は、より好ましくは、200以上1200未満であり、より好ましくは400以上1100未満であり、さらに好ましくは600以上900未満である。
【0062】
崩壊剤は水を吸収して膨潤することによって錠剤を崩壊させる。膨潤度は、特定の物質の崩壊しやすさ(崩壊性)の指標である。膨潤とは、架橋された高分子固体が液体に浸されたとき、大量の液体を吸収して体積を顕著に増大させる現象のことをいう。微量の液体を吸収する場合、または際限なく液体を吸収して固体の性質を失う場合は、それぞれ吸収または溶解と呼び、膨潤とはいわない。膨潤度が高いほど崩壊性が高い。膨潤度は、当該分野で公知の方法によって測定され得るが、例えば、本明細書の膨潤度測定実験に従って測定され得る。本明細書中では、膨潤度とは、5gのα−1,4−グルカンを60mlの蒸留水中に分散させ、100ml容メスシリンダーで100mlにメスアップして一晩静置した後の沈降物の体積を1gあたりに換算した体積をいう。膨潤度が5ml/g以上であると崩壊剤として使用可能である。本発明の崩壊剤の膨潤度は、5ml/g以上であることが好ましく、10ml/g以上であることがより好ましい。膨潤度に特に上限はないが、必要に応じて適宜、50ml/g以下、40ml/g以下、30ml/g以下、または20ml/g以下に設定することができる。膨潤度が高すぎると、錠剤の硬度が極端に低くなる場合がある。
【0063】
本発明で用いられる重合度が180以上1230未満であって分散度(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が1.25以下であるα−1,4−グルカン、またはその修飾物は、当該分野で公知の方法で作製され得る。好ましくは、公知の酵素合成法によって作製され、より好ましくはGP法またはSP−GP法によって作製され、さらに好ましくはSP−GP法によって作製される。
【0064】
本発明で用いられる崩壊剤は、非修飾のα−1,4−グルカンであってもよく、あるいは、α−1,4−グルカンの修飾物であってもよい。崩壊剤がα−1,4−グルカンの修飾物である場合、修飾は、エステル化、エーテル化および架橋からなる群より選択される化学修飾であることが好ましく、エーテル化であることがより好ましく、カルボキシメチル化であることが最も好ましい。カルボキシメチル化のような化学修飾をすると、崩壊性が強まるという利点がある。このような化学修飾を単独であるいは組み合わせて施すことにより、α−1,4−グルカンの親水性、疎水性、水に対する溶解性、粘度などを変化させることができる。主薬の種類、必要な錠剤の物性に応じてこれらの化学修飾したα−1,4−グルカンを選択することができる。
【0065】
(2.錠剤用結合剤)
本発明の錠剤用結合剤は、重合度が1230以上37000以下であって分散度が1.25以下であるα−1,4−グルカン、またはその修飾物からなる。α−1,4−グルカンの重合度が約37000を越えても結合剤としての効果を持つが、SP−GP法による収率を考慮すると約37000以下の重合度のα−1,4−グルカンが好ましく、約18600以下の重合度のα−1,4−グルカンがより好ましい。錠剤用結合剤として用いられるα−1,4−グルカンの重合度は、より好ましくは、1500以上30000未満であり、より好ましくは1600以上18000未満である。
【0066】
結合剤は錠剤に含まれる物質問を結合することによって錠剤の硬度を向上させる。特定の物質のみを用いて打錠して得られる錠剤の硬度は、その物質の結合剤としての特性の指標である。硬度が高いほど結合力が強い。本発明の結合剤は、実施例に記載の「結合剤としての性能試験」と同じ条件で錠剤を得た場合に、その錠剤の硬度が8kgf以上であることが好ましく、硬度が10kgf以上であることが好ましく、硬度が11kgf以上であることがより好ましい。硬度に特に上限はないが、必要に応じて適宜、30kgf以下、25kgf以下、20kgf以下、または16kgf以下に設定することができる。硬度が高すぎると、錠剤の崩壊性が極端に悪くなる場合がある。
【0067】
本発明で用いられる重合度が1230以上37000以下であって分散度(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が1.25以下であるα−1,4−グルカン、またはその修飾物は、当該分野で公知の方法で作製され得る。好ましくは、公知の酵素合成法によって作製され、より好ましくはGP法またはSP−GP法によって作製され、さらに好ましくはSP−GP法によって作製される。
【0068】
本発明で用いられる結合剤は、非修飾のα−1,4−グルカンであってもよく、あるいは、α−1,4−グルカンの修飾物であってもよい。結合剤がα−1,4−グルカンの修飾物である場合、修飾は、エステル化、エーテル化および架橋からなる群より選択される化学修飾であることが好ましく、架橋またはエーテル化であることがより好ましく、架橋であることが最も好ましい。架橋のような化学修飾をすると、崩壊性を極端に悪化させずに結合性が強まるという利点がある。このような化学修飾を単独であるいは組み合わせて施すことにより、α−1,4−グルカンの親水性、疎水性、水に対する溶解性、粘度などを変化させることができる。主薬の種類、必要な錠剤の物性に応じてこれらの化学修飾したα−1,4−グルカンを選択することができる。
【0069】
(3.錠剤用崩壊結合剤)
本発明の錠剤用崩壊結合剤は、低分子量α−1,4−グルカンまたはその修飾物と、高分子量グルカンまたはその修飾物とからなる。
【0070】
本発明の錠剤用崩壊結合剤に含まれる低分子量α−1,4−グルカンは、重合度が180以上1230未満であって分散度が1.25以下である。
【0071】
本発明の錠剤用崩壊結合剤に含まれる高分子量α−1,4−グルカンは、重合度が1230以上37000未満であって分散度が1.25以下である。
【0072】
これらの低分子量α−1,4−グルカンおよび高分子量α−1,4−グルカンは、好ましくは、酵素合成α−1,4−グルカンである。
【0073】
本発明の錠剤用崩壊結合剤は、非修飾のα−1,4−グルカンであってもよく、あるいは、α−1,4−グルカンの修飾物であってもよい。崩壊結合剤がα−1,4−グルカンの修飾物である場合、修飾は、エステル化、エーテル化および架橋からなる群より選択される化学修飾であることが好ましく、エーテル化であることがより好ましく、カルボキシメチル化であることが最も好ましい。カルボキシメチル化のような化学修飾をすると、崩壊性が強まるという利点がある。崩壊結合剤の結合性を強めたい場合には、架橋、エーテル化などのような化学修飾をすればよい。このような化学修飾を単独であるいは組み合わせて施すことにより、α−1,4−グルカンの親水性、疎水性、水に対する溶解性、粘度などを変化させることができる。主薬の種類、必要な錠剤の物性に応じてこれらの化学修飾したα−1,4−グルカンを選択することができる。
【0074】
本発明の錠剤用崩壊結合剤は、特定の重量平均重合度であって分散度が1.25以下である低分子量α−1,4−グルカンと、特定の重量平均重合度であって分散度が1.25以下である高分子量α−1,4−グルカンとを混合することによって製造され得る。本発明の錠剤用崩壊結合剤は、2種以上のα−1,4−グルカンを混合することによって製造される。本発明の錠剤用崩壊結合剤は、例えば、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上などの複数種類のα−1,4−グルカンを混合することによっても製造され得る。しかし、あまりにも多数の種類のα−1,4−グルカンを混合すると、互いの有する特性を妨害する場合があるので、このように混合されるα−1,4−グルカンの種類は好ましくは5種類以下、より好ましくは4種類以下、さらに好ましくは3種類以下、最も好ましくは2種類である。なお、本明細書中で1種類とは、α−1,4−グルカン約300μgを実施例の測定法の項目に記載の方法でゲル濾過クロマトグラフィーに供した場合に出現して判別可能なピークの数が1つであることを意味する。
【0075】
本発明の1つの実施形態の錠剤用崩壊結合剤においては、低分子量α−1,4−グルカンまたはその修飾物と、高分子量α−1,4−グルカンまたはその修飾物との重量比は、好ましくは98:2〜60:40である。このような比率で混合した場合、崩壊剤の特性が強くでる。
【0076】
本発明の1つの実施形態の錠剤用崩壊結合剤においては、低分子量α−1,4−グルカンまたはその修飾物と、高分子量α−1,4−グルカンまたはその修飾物との重量比は、2:98〜40:60である。このような比率で混合した場合、結合剤の特性が強くでる。
【0077】
本発明の錠剤用崩壊結合剤の膨潤度は、5ml/g以上であることが好ましく、10ml/g以上であることがより好ましい。膨潤度に特に上限はないが、必要に応じて適宜、50ml/g以下、40ml/g以下、30ml/g以下、または20ml/g以下に設定することができる。膨潤度が高すぎると、錠剤の硬度が極端に低くなる場合がある。
【0078】
本発明の錠剤用崩壊結合剤は、実施例に記載の「結合剤としての性能試験」と同じ条件で錠剤を得た場合に、その錠剤の硬度が8kgf以上であることが好ましく、硬度が10kgf以上であることが好ましく、硬度が11kgf以上であることがより好ましい。硬度に特に上限はないが、必要に応じて適宜、30kgf以下、25kgf以下、20kgf以下、または16kgf以下に設定することができる。硬度が高すぎると、錠剤の崩壊性が極端に悪くなる場合がある。
【0079】
(4.錠剤)
本発明の錠剤は、低分子量α−1,4−グルカンまたはその修飾物と、高分子量グルカンまたはその修飾物とを含む。ここで、低分子量α−1,4−グルカンは、重合度が180以上1230未満であって分散度が1.25以下であり、高分子量α−1,4−グルカンは、重合度が1230以上37000未満であって分散度が1.25以下である。これらの低分子量α−1,4−グルカンおよび高分子量α−1,4−グルカンについては、上記1、2および3に説明したとおりである。
【0080】
本発明の錠剤は、主薬を含む。本発明の錠剤には、低分子量α−1,4−グルカンおよび高分子量α−1,4−グルカン以外に、必要に応じて他の賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、流動化剤、コーティング剤等の物性の改良を図ることを目的とした添加剤を加えることができる。これらの添加剤は当該分野で周知であり、例えば、日本薬局方に記載される。
【0081】
本発明の錠剤は、従来の錠剤製造に用いられている手法および設備をそのまま利用して製造することができる。例えば、主薬と添加剤とを混合して直接打錠する方法、成分を湿式または乾式で顆粒化した後に打錠する方法などが採用できる。
【0082】
また本発明の添加剤(崩壊剤、結合剤および崩壊結合剤)は、医薬品用錠剤に限らず、農薬、肥料、化粧品、食品、飼料等の分野で、有効成分の粉末を固めて使用する場合の賦形剤、崩壊剤、結合剤として使用できる。
【0083】
本発明の錠剤の崩壊時間は、以下の実施例2または3に記載の方法で測定した場合、約10分以下であることが好ましく、約5分以下であることがより好ましく、約3分以下であることがさらに好ましく、約1分以下であることがなおさら好ましく、約40秒以下であることがよりさらに好ましく、そして約30秒以下であることが特に好ましく、そして約25秒以下であることが最も好ましい。崩壊時間は短いほど好ましい。
【0084】
本発明の錠剤の硬度は、以下の実施例2に記載の方法で測定した場合、約4.0以上であることが好ましく、約4.5以上であることがより好ましく、約5.0以上であることが最も好ましい。錠剤の硬度が低すぎると、輸送中に崩壊する場合がある。錠剤の硬度に特に上限はないが、例えば、10.0まで、9.0まで、8.0までの硬度が好適に選択され得る。
【実施例】
【0085】
以下、実施例および試験例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例および試験例に限定されることはない。
【0086】
(調製方法および測定法)
試験例において、馬鈴薯塊茎由来の精製グルカンホスホリラーゼの調製方法、Streptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼの調製方法、α−1,4−グルカンの収率(%)の計算方法、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)の測定方法は、特開2002−345458号公報および国際公開第WO02/097107号パンフレットに記載の方法に従った。
【0087】
具体的に、合成したα−1,4−グルカンの分子量を次のように測定した。まず、合成したグルカンを1N水酸化ナトリウムで完全に溶解し、適切な量の塩酸で中和した後、グルカン約300μg分を、示差屈折計と多角度光散乱検出器とを併用したゲル濾過クロマトグラフィーに供することにより重量平均分子量を求めた。詳しくは、カラムとしてShodex SB806M−HQ(昭和電工製)を用い、検出器としては多角度光散乱検出器(DAWN−DSP、Wyatt Technology社製)および示差屈折計(ShodexRI−71、昭和電工製)をこの順序で連結して用いた。カラムを40℃に保ち、溶離液としては0.1M硝酸ナトリウム溶液を流速1mL/分で用いた。得られたシグナルを、データ解析ソフトウェア(商品名ASTRA、Wyatt Technology社製)を用いて収集し、同ソフトを用いて解析することにより、重量平均分子量、数平均分子量を求めた。
【0088】
(崩壊性試験)
崩壊性試験を日本薬局方に記載の方法に基づいて行い、各試料について6錠の崩壊時間を測定して平均値を求めた。
【0089】
(硬度)
硬度については、木屋式硬度計を用い、錠剤の直径方向に荷重をかけ、破壊する時の荷重を各試料について5錠測定して平均値を求めた。
【0090】
(摩損度)
錠剤の摩損度は以下のようにして求めた。錠剤6.5gを秤量し、錠剤摩損度試験機に入れて1分あたり25回転の速度で100回転させた。回転終了後の錠剤を取り出して10メッシュの篩にかけ、粉化したものを除いた重量を測定した。摩損度(%)は次式で求められる。
【0091】
【数1】

【0092】
(試験例1:α−1,4−グルカンの合成)
6mMリン酸緩衝液(pH7.0)、106mMスクロース、および種々の濃度のマルトオリゴ糖混合物(2200、880、176、132、44または8.8mg/リットル)を含有する反応液(1リットル)に、国際公開第WO02/097107号パンフレットに記載の方法に従って調製した馬鈴薯塊茎由来の精製グルカンホスホリラーゼ(1単位/ml)と、国際公開第WO02/097107号パンフレットに記載の方法に従って調製したStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼ(1単位/ml)を加えて37℃で16時間保温し、反応終了後、生成したα−1,4−グルカンの収率(%)、重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)を決定した。各結果を下記の表2に示す。
【0093】
【表2】

【0094】
表2によれば、スクロースとプライマー(すなわちマルトオリゴ糖混合物)との濃度比を変化させることにより、重合度68〜4818(Mw11.0〜780.5kDa)までのα−1,4−グルカンが得られた。これらの試料におけるα−1,4−グルカンの分子量分布(Mw/Mn)はいずれも狭かった(全て1.05以下)。このうち試料1および2のような低分子量のα−1,4−グルカンは沈殿を形成した。しかし試料3、試料4、試料5および試料6においては、重合度が高くなるにつれて、沈殿の形成は減少し、試料4〜6では、反応液は透明なままであり、得られたα−1,4−グルカンが水溶性であった。
【0095】
(試験例2:天然由来アミロースの分画)
馬鈴薯根茎から分離した澱粉30gを1リットルの熱水中によく攪拌しながら添加し、3%の糊液とした。この糊液をオートクレーブ(120℃、30分)した後、不溶解物をガラスフィルターを用いて除去した。この溶液にブタノール(飽和量以上15%)を加え、95℃(沸騰水浴中)にて30分加熱後、魔法瓶の中でゆっくり冷却した。1日後、沈殿物(アミロース/ブタノール複合体)を遠心分離した。分離された複合体に再度ブタノールを加えて同じ操作を行い、熱ブタノール飽和水溶液からアミロース/ブタノール複合体を沈殿させ、遠心分離によって分離した。分離されたアミロース/ブタノール複合体をエタノールで2度洗浄した後、真空乾燥し、200メッシュの飾を通して白色粉末を得た。得られたアミロースの収量は3.5g、Mwは280,000、Mw/Mnは3.3であった。
【0096】
(膨潤度測定実験)
上記試験例1で得られた種々のα−1,4−グルカンの膨潤度を測定した。まず、60mlの蒸留水に試験例1の1〜6のいずれかのα−1,4−グルカンを5g分散させ、100ml容メスシリンダーで100mlにメスアップして一晩静置した後の沈降物の体積を読み取った。この体積を5で除算することによって、初発のα−1,4−グルカン1gあたりの沈降物の体積(すなわち、膨潤度)を算出した。結果を以下の表3に示す。
【0097】
【表3】

【0098】
この結果、試料2〜4は、崩壊剤として好適な膨潤度を有することがわかった。試料5は水に添加した時にゲル化し、分散できなかった。また試料6は完全に溶解したため、膨潤度は0あった。このように、重合度が186〜668のα−1,4−グルカンが、崩壊剤として好適であることが示された。
【0099】
(結合剤としての性能試験)
上記試験例1で得られた種々のα−1,4−グルカンを、それぞれ単独で打錠用金型(直径9mm、厚み5.5mm)に入れ、卓上型プレス機(島津製作所製;SSP−10A)で500kgfの荷重を30秒かけた後に荷重を開放し、錠剤を取り出した。得られた錠剤の硬度を上記の方法に従って測定した。結果を以下の表4に示す。
【0100】
【表4】

【0101】
この結果、重合度が大きいα−1,4−グルカンほど硬度が大きくなったが、試料5および6のα−1,4−グルカンでは、それ以外のα−1,4−グルカンと比べて大きく硬度が上昇することがわかった。
【0102】
(実施例1:低分子量α−1,4−グルカンの崩壊剤としての利用)
以下の表5に示すような組成比になるように、試験例1で得られたα−1,4−グルカン(試料3)と、錠剤の他の成分とを混合した。混合物を打錠用金型(直径9mm、厚み5.5mm)に入れ、卓上型プレス機(島津製作所製;SSP−10A)で500kgfの荷重を30秒かけた後に荷重を開放し、錠剤を取り出した。
【0103】
【表5】

【0104】
(比較例1:他の崩壊剤との比較)
試料3のα−1,4−グルカンの代りに、重量平均分子量が11kDaのα−1,4−グルカン(試料1)、部分アルファー化澱粉(PC−10、旭化成製、試料名A)、カルメロース(NS−300、五徳薬品製、試料名B)、微結晶セルロース(アビセルPH−101、旭化成製、試料名C)を用いた以外は実施例1と同じ方法で錠剤を得た。アビセルはコントロールである。
【0105】
(実施例2:蒸留水中での崩壊時間および硬度の測定)
実施例1および比較例1の錠剤の蒸留水中における崩壊時間および硬度を測定した。結果を以下の表6に示す。
【0106】
【表6】

【0107】
この結果、試料3のα−1,4−グルカンを加えた錠剤がもっとも迅速に崩壊した。この重合度のα−1,4−グルカンの場合、崩壊速度は顕著に速くなったが、硬度はほとんど低下しなかった。
【0108】
一方、他の成分を用いた場合も、賦形剤である微結晶セルロース(試料C)を加えた錠剤と比べると崩壊時間は短くなったが、重合度が小さいα−1,4−グルカンである試料1または部分アルファー化澱粉を加えたものは硬度が顕著に低下した。
【0109】
このように、本発明のα−1,4−グルカンは、崩壊剤として優れた適性を示す。
【0110】
(実施例3:胃液または腸液を想定した局方I液および局方II液中での崩壊時間の測定)
実施例1および比較例1の錠剤の崩壊性試験を、蒸留水の代わりに局方I液(pH約1.2)および局方II液(pH約6.8)を用いて測定した。崩壊時間を以下の表7に示す。
【0111】
【表7】

【0112】
実施例1のα−1,4−グルカンは、pHが変化しても崩壊時間がほとんど変化しなかったのに対し、比較例のカルメロースは蒸留水中に比べると低pHおよび高pHの環境中で崩壊の遅延が認められた。
【0113】
この結果、α−1,4−グルカンの崩壊性は、pH変化に影響されないことがわかった。
【0114】
(実施例4:配合量と崩壊時間との関係)
試験例1の試料3、部分アルファー化澱粉(PC−10、旭化成製、試料名A)またはカルメロース(NS−300、五徳薬品製、試料名B)を、種々の比率で微結晶セルロース(アビセルPH−101)と混合した錠剤を実施例1の方法で作製し、蒸留水中での崩壊時間を測定した。結果を表8に示す。
【0115】
【表8】

【0116】
表8によれば、試料3のα−1,4−グルカンを用いた場合、α−1,4−グルカンの添加量が多くなるほど錠剤の崩壊時間が短くなった。しかし、部分アルファー化澱粉を用いた場合、α−1,4−グルカンに比べると崩壊時間が長く、添加量が50%以上になると崩壊時間が極めて遅延した。またクロスカルメロースを75%以上添加した錠剤はひび割れが生じ、硬度も低下した。
【0117】
このことから、α−1,4−グルカンの配合比率を高めても崩壊の遅延および錠剤の強度低下につながらないことがわかった。
【0118】
(実施例5:実機製造での性能)
試験例1の試料3を、実施例1の配合で混合し、ロータリー式打錠機(菊水製作所製、クリーンプレス19)を用いて打錠した。また比較として試料3の代わりに微結晶セルロース(アビセルPH−101、旭化成製、試料名C)を用いた。打錠条件は、錠剤径9mm、厚み5.5mm、打錠圧は1500kgfであった。得られた錠剤の蒸留水中における崩壊時間、硬度および摩損度を測定した。結果を以下の表9に示す。
【0119】
【表9】

【0120】
この結果、試料3を加えることによる打錠時の流動性、付着性などの粉体特性への影響は認められなかった。また製剤後の流通過程での欠け、摩耗の程度の指針となる摩損度も実用上まったく問題のない値であった。このことから、α−1,4−グルカンは、実機製造においても、打錠性および摩耗性に問題がないことがわかった。
【0121】
(実施例6:結合剤としての配合例)
試験例1で得られた試料5、4または試験例2で得られた馬鈴薯澱粉由来のアミロース(試料D)を以下の表10に記載の組成比になるように用いて、実施例1と同じ方法で錠剤を作製した。
【0122】
【表10】

【0123】
得られた錠剤の蒸留水中での崩壊時間および硬度を測定した。結果を以下の表11に示す。
【0124】
【表11】

【0125】
この結果、高重合度のα−1,4−グルカン(試料5および6)を加えた錠剤に比べると、馬鈴薯澱粉由来のアミロースを用いた錠剤は崩壊時間の遅延が認められた。
【0126】
(実施例7:α−1,4−グルカンの混合物を用いた錠剤)
試験例1で得られた試料5および3のα−1,4−グルカンを、重量比で5:95、10:90、30:70の三種類の比率で混合し、試料(i)、(ii)および(iii)を得た。試料(i)〜(iii)ならびに試料3および5を以下の表12に記載の組成比で用いて、実施例3と同じ方法で錠剤を作製した。
【0127】
【表12】

【0128】
得られた錠剤の蒸留水中での崩壊時間および硬度を測定した。結果を以下の表13に示す。
【0129】
【表13】

【0130】
この結果、分子量の異なるアミロースを混合し、その混合比に応じて崩壊時間と硬度が変化した。試料5単独をこの条件で用いた場合、この錠剤は錠剤の形を保持したままゲル化し、一晩経過しても崩壊しなかった。このような崩壊時間および硬度の変化は、混合比に比例したものではなく、相乗効果がみられることがわかった。このことから、異なる分子量のα−1,4−グルカンの混合比率によって錠剤の物性が変化するが、それでもなお必要な硬度および崩壊時間が満たされることがわかった。
【0131】
(試験例3:α−1,4−グルカンのカルボキシメチル化)
実施例1で得られた試料3の100gをメタノール1500mlに懸濁した。40重量%の水酸化ナトリウム溶液を230ml、モノクロロ酢酸を128g加え、50℃で6時間反応させた。沈殿を遠心分離機で回収し、メタノールに懸濁させた後、再度遠心分離で沈殿を回収した。この操作を三度繰り返したのち、沈殿を加熱乾燥してから粉砕し、200メッシュの篩を通してα−1,4−グルカンのカルボキシメチル化物を得た。
【0132】
(実施例8:α−1,4−グルカンのカルボキシメチル化物を用いた錠剤)
試験例3で得られたα−1,4−グルカンのカルボキシメチル化物を実施例1の配合で混合し、実施例1と同じ条件で卓上型プレス機で打錠した。得られた錠剤の崩壊時間は18秒、硬度は5.2kgfであった。
【0133】
このことから、中重合度のα−1,4−グルカンをカルボキシメチル化することで、錠剤の硬度を維持しながらも、さらに崩壊時間を短くできることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明により、α−1,4−グルカンを含む、優れた崩壊性および結合性を有する錠剤用崩壊剤、錠剤用結合剤および錠剤用崩壊結合剤が提供される。α−1,4−グルカンを含む錠剤もまた提供される。本発明の錠剤用崩壊剤、錠剤用結合剤および錠剤用崩壊結合剤は、賦形剤としても用いられ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
錠剤用崩壊剤であって、重合度が180以上1230未満であって分散度(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が1.25以下であるα−1,4−グルカン、またはその修飾物からなる、崩壊剤。
【請求項2】
前記α−1,4−グルカンが、酵素合成α−1,4−グルカンである、請求項1に記載の崩壊剤。
【請求項3】
前記崩壊剤がα−1,4−グルカンの修飾物であって、該修飾が、エステル化、エーテル化および架橋からなる群より選択される化学修飾である、請求項1に記載の崩壊剤。
【請求項4】
錠剤用結合剤であって、重合度が1230以上37000以下であって分散度が1.25以下であるα−1,4−グルカン、またはその修飾物からなる、結合剤。
【請求項5】
前記α−1,4−グルカンが、酵素合成α−1,4−グルカンである、請求項4に記載の結合剤。
【請求項6】
前記結合剤がα−1,4−グルカンの修飾物であって、該修飾が、エステル化、エーテル化および架橋からなる群より選択される化学修飾である、請求項4に記載の結合剤。
【請求項7】
低分子量α−1,4−グルカンまたはその修飾物と、高分子量グルカンまたはその修飾物とからなる、錠剤用崩壊結合剤であって、
該低分子量α−1,4−グルカンは、重合度が180以上1230未満であって分散度が1.25以下であり、
該高分子量α−1,4−グルカンは、重合度が1230以上37000未満であって分散度が1.25以下である、崩壊結合剤。
【請求項8】
前記α−1,4−グルカンが、酵素合成α−1,4−グルカンである、請求項7に記載の崩壊結合剤。
【請求項9】
前記崩壊結合剤がα−1,4−グルカンの修飾物であって、該修飾が、エステル化、エーテル化および架橋からなる群より選択される化学修飾である、請求項7に記載の崩壊結合剤。
【請求項10】
前記低分子量α−1,4−グルカンまたはその修飾物と、前記高分子量α−1,4−グルカンまたはその修飾物との重量比が、98:2〜60:40である、請求項7に記載の崩壊結合剤。
【請求項11】
前記低分子量α−1,4−グルカンまたはその修飾物と、前記高分子量α−1,4−グルカンまたはその修飾物との重量比が、2:98〜40:60である、請求項7に記載の崩壊結合剤。
【請求項12】
低分子量α−1,4−グルカンまたはその修飾物と、高分子量グルカンまたはその修飾物とを含む、錠剤であって、
該低分子量α−1,4−グルカンは、重合度が180以上1230未満であって分散度が1.25以下であり、
該高分子量α−1,4−グルカンは、重合度が1230以上37000未満であって分散度が1.25以下である、錠剤。

【国際公開番号】WO2005/018678
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【発行日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513328(P2005−513328)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012080
【国際出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【出願人】(591173213)三和澱粉工業株式会社 (33)
【Fターム(参考)】