説明

鍛造機のピストンロッドの亀裂検出方法

【課題】 ピストンロッドの亀裂の進展を簡易かつ確実に検出できる鍛造機のピストンロッドの亀裂検出方法を提供する。
【解決手段】 上下に駆動するピストンロッドと、貫通孔を有し該貫通孔と前記ピストンロッドの下端部とが接続されたラムと、該ラムに取り外し可能に接続された上金型と、該上金型に対向して配置された下金型とを具備し、前記ピストンロッドの駆動により、上金型と下金型とによって材料を鍛造するたとえばドロップハンマ式鍛造機のピストンロッドの亀裂検出方法であって、前記上金型を前記ラムから取り外し、露出した前記ピストンロッドの下端面に超音波探傷用の探触子を接触させて、前記ピストンロッドの側面から半径方向に進展する亀裂を検出する鍛造機のピストンロッドの亀裂検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の鍛造に使用される鍛造機のピストンロッドに発生する亀裂を検出する鍛造機のピストンロッドの亀裂検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属素材を加熱して塑性変形能を高めておき、金型間に機械的応力を加えて金属素材の塑性加工を行う熱間鍛造技術においては、プレス、ハンマといった鍛造機が用いられている。
従来より用いられている一般的なドロップハンマ式の型打ち鍛造機の例を図1に示す。図1に示す鍛造機は、フレーム1に設置した駆動装置(図示せず)により、上下に駆動するピストンロッド2と、前記ピストンロッド2の下端部とをブッシュ3を介して接続したラム4と、該ラム4に設置された上金型5と、該上金型5に対向して配置される下金型6とを具備し、前記ピストンロッド2の駆動により、上金型と下金型とによって材料を鍛造するものである。なお、図1ではラム4とブッシュ3については、説明のために部分断面図として示している。
そして駆動源として空気圧を用いるものはエアドロップハンマと呼ばれることが多い(特許文献1参照)。他の駆動源としては、油圧を用いるものもある。
【0003】
このようなドロップハンマに対して、もっとも問題なのは、ピストンロッドの折損である。最近、ピストンロッドの折損に対して、斜角探触子を用いた折損予知の研究の報告がなされている。(非特許文献2参照)
この報告には、ラム上部に位置するピストンロッドの表面より、ラム内部に位置するピストンロッドの亀裂の進展を検出した例が記載されており、ラム内部の嵌めあい面よりも50mm以上深い場所に多くの亀裂が発生し、進展していることが確認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−250840号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本機械学会中国四国支部地方講演会講演論文集 143−144頁 2002年発行 「エアドロップハンマにおけるピストンロッドの超音波探傷法による折損予知の研究(第2報)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1にも記載されている通り、ピストンロッドは、ラム等へ圧入されることで組み立てられており、鍛造時の上昇や下降の力が加わるときにピストンロッド自体の伸びによりピストンロッドとラム等の表面にすべり運動がおこり、フレッティング摩耗の様相を呈する。フレッティング摩耗と大きな繰返し応力を断続的に受け続けることで疲労亀裂が生じ、使用するにしたがって徐々に進展し突発的に折損に至る。このピストンロッドはドロップハンマ構造上の主要部品であり、一旦折損すると、ラム等も含めた部品の交換に多大な工数が必要となるばかりでなく、操業中に予測不能な事故を招く危険性がある。
従い、鍛造機を分解することなく、ピストンロッド全長において亀裂の進展を簡易かつ確実に検出し、折損となる前に修理あるいは交換の準備を開始するようにすることは、工業上大きな意味を持つ。
【0007】
非特許文献1の斜角探触子を用いた方法によると、ピストンロッド軸芯に対して超音波を角度を持って入射する必要があるために、斜角探触子位置、向き等の姿勢維持が難しいという問題がある。走査中に入射角が変化すると、亀裂を見逃す可能性があるほか、亀裂を発見しても、その位置が正確に判断できないといった問題がある。また、ピストンロッドの温度変動により、音速が変化し、結果として入斜角が変化してしまう可能性もある。
本発明の目的は、ピストンロッドの亀裂の進展を簡易かつ確実に検出できる鍛造機のピストンロッドの亀裂検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ピストンロッドの亀裂に対する超音波探傷による検出技術を検討し、鍛造機の構造に適合する合理的な亀裂検出方法を見いだし本発明に到達した。
すなわち本発明は、上下に駆動するピストンロッドと、貫通孔を有し該貫通孔と前記ピストンロッドの下端部とが接続されたラムと、該ラムに取り外し可能に接続された上金型と、該上金型に対向して配置された下金型とを具備し、前記ピストンロッドの駆動により、上金型と下金型とによって材料を鍛造する鍛造機のピストンロッドの亀裂検出方法であって、前記上金型を前記ラムから取り外し、露出した前記ピストンロッドの下端面に超音波探傷用の探触子を接触させて、前記ピストンロッドの側面から半径方向に進展する亀裂を検出する鍛造機のピストンロッドの亀裂検出方法である。
本発明は、例えば、ドロップハンマ式の鍛造機のピストンロッドの亀裂検出方法として使用できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、鍛造機を分解することなく、ピストンロッド全長において亀裂の進展を確実かつ容易に検出でき、突発的な折損が発生する前にピストンロッドの修理あるいは交換の準備を計画的に実施することができる。これにより、予定外の生産停止を未然に防ぐことができ、鍛造品の安定生産および操業の安全確保にとって重要な技術となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に適用する鍛造機の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の亀裂検出方法を説明する図である。
【図3】亀裂の検出波形の例を示す図である。
【図4】ピストンロッド断面の亀裂範囲の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上述したように、本発明の重要な特徴はピストンロットの亀裂に対する超音波探傷による検出技術を検討し、鍛造機の構造に適合する合理的な亀裂検出方法を見いだしたことにある。
まず、本発明が対象とする鍛造機の構造を、図1を用いて説明する。図1はドロップハンマ式の鍛造機であり、先に従来技術として説明した通り、フレーム1に設置した駆動装置(図示せず)により、上下に駆動するピストンロッド2と、前記ピストンロッド2の下端部とをブッシュ3を介して接続したラム4と、該ラム4に設置された上金型5と、該上金型5に対向して配置される下金型6とを具備し、前記ピストンロッド2の駆動により、上金型5と下金型6とによって材料を鍛造する鍛造機である。
本発明に適用されるのは、ラム4は貫通孔7を有し、該貫通孔7とピストンロッド2の下端部とが接続され、また、上金型5はラム4に対して取り外し可能に接続されるものである。
【0012】
具体的な亀裂検出方法について、図2を用いて説明する。図2は図1に示す装置において金型5をラム4から取り外した状態を示す拡大図である。
通常の鍛造作業において、金型の交換時あるいは、鍛造の休止期間において、上金型5をラム4から取り外す。そうすると、ラム4の貫通孔7から、露出したピストンロッド2の下端面を見ることができるようになる。
ピストンロッドの亀裂の検出において、この下端面に垂直式超音波探傷用の探触子8を接触させれば、ピストンロッド全長にわたって割れの有無を検出できる。また、下端面から探傷することで走査中の探触子位置が安定し、入射角の変動要因は減少し、精度の安定した探傷が可能となる。特に、ピストンロッドで問題となるのは、側面から半径方向への亀裂の進展であり、その方向は、まさに上述した探触子からの超音波の発信方向に直交するものとなる。したがって、超音波探傷にとって、もっとも検出感度の高い割れを確認すればよいことになり、簡易かつ確実に亀裂を検出できることになる。
【0013】
具体的に、図2に示す構成を有する12tonエアドロップハンマ式鍛造機において、ロッド径300mm、ロッド長3900mm、ロッド材質JIS SNCM420相当材のピストンロッドに対して、垂直式の超音波探傷用の探触および、パナメトリクス社製EPOCH3探傷装置を用いて、ロッド下端より795mmの位置に確認された亀裂の検出波形例を図3に示す。
また、ピストンロッド下端面を探触子を移動させながら探傷し、同様な割れの波形の有無を確認しながら探触子の位置を記録していくことで、実際の亀裂の範囲を特定することができる。
具体的な亀裂範囲の検出例を図4に示す。図4に示すように、ロッド下端より795mm前後の位置における断面内で、健全部(図4中の白抜き部)のなかにピストンロッド外表面より中心方向へ約30mm、周長が約450mmの範囲(図4中の斜線部)に比較的大きな亀裂が存在することを知ることができた。なお、ピストンロッド交換後に、対応する亀裂を確認した部分を切り出したところ、検出結果と同一な範囲に割れがあることを確認でき、ピストンロッド下端面を探触子により走査することで、精度の高い亀裂範囲の特定が可能であることが確認できた。
【符号の説明】
【0014】
1 フレーム
2 ピストンロッド
3 ブッシュ
4 ラム
5 上金型
6 下金型
7 貫通孔
8 探触子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に駆動するピストンロッドと、貫通孔を有し該貫通孔と前記ピストンロッドの下端部とが接続されたラムと、該ラムに取り外し可能に接続された上金型と、該上金型に対向して配置された下金型とを具備し、前記ピストンロッドの駆動により、上金型と下金型とによって材料を鍛造する鍛造機のピストンロッドの亀裂検出方法であって、前記上金型を前記ラムから取り外し、露出した前記ピストンロッドの下端面に超音波探傷用の探触子を接触させて、前記ピストンロッドの側面から半径方向に進展する亀裂を検出することを特徴とする鍛造機のピストンロッドの亀裂検出方法。
【請求項2】
鍛造機は、ドロップハンマであることを特徴とする鍛造機のピストンロッドの亀裂検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−218019(P2012−218019A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85204(P2011−85204)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】