説明

鍵盤楽器の鍵盤蓋装置

【課題】楽器本体の奥行き寸法をコンパクトに維持しながら、鍵盤蓋の開閉操作を円滑に行えるとともに、楽器本体の良好な外観を得ることができる鍵盤楽器の鍵盤蓋装置を提供する。
【解決手段】鍵盤3を含む演奏部4を前部に有するピアノ本体1において、演奏部4を開閉する鍵盤楽器の鍵盤蓋装置5であって、演奏部4よりも短い奥行き寸法を有する単一の板状部材で構成され、演奏部4を閉鎖するための閉鎖位置と、ピアノ本体1の内部に収容された状態で、演奏部4を開放する開放位置との間で、前後方向にスライド自在に設けられたメイン鍵盤蓋23と、ピアノ本体1の演奏部4の後部上方に、左右方向に延びる支軸26を中心として回動自在に設けられ、メイン鍵盤蓋23のスライド操作に連動して回動することにより、メイン鍵盤蓋23と協働して演奏部4を開閉する補助鍵盤蓋24と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ピアノなどの鍵盤楽器に適用され、鍵盤を含む演奏部をスライド式の鍵盤蓋によって開閉する鍵盤楽器の鍵盤蓋装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の鍵盤蓋装置を備えた鍵盤楽器として、特許文献1に開示されたものが知られている。この鍵盤楽器の楽器本体には、その前部に鍵盤を含む演奏部が設けられるとともに、この演奏部を開閉するスライド式の鍵盤蓋が設けられている。この鍵盤蓋は、前後2つの鍵盤蓋からなり、いずれも平面形状が横長矩形状の単一の板状部材で構成されている。前側の鍵盤蓋(以下「前鍵盤蓋」という)の後端付近には、その縁部に沿って左右方向に延び、両端部にそれぞれピニオンを固定したピニオン軸が、回転自在に設けられている。また、楽器本体の左右の側板の内面にはそれぞれ、前後方向に延びる左右のラックが設けられており、これらのラックに左右のピニオンがそれぞれ噛み合っている。一方、後ろ側の鍵盤蓋(以下「後鍵盤蓋」という)の左右両端面にはそれぞれ、各端面の全体にわたって前後方向に延びるとともに後鍵盤蓋から上方に突出するガイド部材が取り付けられ、各ガイド部材の突出した部分に、前後方向に延びる長孔状のガイド孔が形成されている。そして、前鍵盤蓋のピニオン軸が、両ガイド孔に貫通した状態で、両ガイド部材に摺動自在に係合している。
【0003】
このように構成された鍵盤蓋装置において、演奏部を開放する際にはまず、前鍵盤蓋を後方にスライドさせ、後鍵盤蓋上に重ね合わせる。この場合、両ピニオンが、回転しながら、両ラックに沿って後方に移動するとともに、ピニオン軸が両ガイド孔に案内されながら後方に移動する。次いで、ピニオン軸が両ガイド孔の後端縁部に当接した後、前鍵盤蓋をさらに後方にスライドさせることにより、後鍵盤蓋が前鍵盤蓋と一体に後方にスライドする。これにより、前鍵盤蓋および後鍵盤蓋が上下に重なり合った状態で、楽器本体の内部に収容され、演奏部が開放される。逆に、上記のように開放された演奏部を閉鎖する際には、後鍵盤蓋上の前鍵盤蓋を前方にスライドさせ、後鍵盤蓋の前側に移動させる。そして、ピニオン軸が、両ガイド孔の前端縁部に当接した後、前鍵盤蓋をさらに前方にスライドさせることにより、後鍵盤蓋が前鍵盤蓋と一体に前方にスライドする。これにより、前鍵盤蓋および後鍵盤蓋が前後に並んだ状態で、演奏部の前半部および後半部をそれぞれ覆い、両鍵盤蓋によって演奏部が閉鎖される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−263051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来の鍵盤蓋装置では、鍵盤蓋が、前後2つの前鍵盤蓋および後鍵盤蓋で構成され、演奏部の開放時に、これらの鍵盤蓋が上下に重なり合った状態で、楽器本体内に収容される。このため、上記の鍵盤楽器では、鍵盤蓋が、演奏部全体を覆う単一の板状部材で構成される場合に比べて、楽器本体内における鍵盤蓋の収容スペースの奥行き寸法を小さくすることができ、それにより、楽器本体自体の奥行き寸法も小さくすることが可能である。
【0006】
しかし、この鍵盤蓋装置では、鍵盤蓋をスライドさせながら開閉操作する際、当初は、前鍵盤蓋のみをスライドさせるため、比較的円滑に操作可能であるものの、操作途中から後鍵盤蓋を前鍵盤蓋と一体にスライドさせることになるので、開閉操作する者にとっては、操作途中に鍵盤蓋が急に重くなるように感じてしまう。また、開閉操作の際に、前鍵盤蓋を勢い良くスライドさせると、前鍵盤蓋のピニオン軸が、両ガイド部材のガイド孔の前端または後端縁部に衝突することで、不快な衝突音が発生することがある。
【0007】
さらに、上記の鍵盤楽器では、演奏部が前鍵盤蓋および後鍵盤蓋で閉鎖された状態において、両鍵盤蓋の境界部分に前鍵盤蓋の厚さ分の段差が生じたり、ピニオン軸が露出したりすることなどにより、楽器本体の外観が損なわれてしまう。また、この鍵盤楽器では、ピニオンを介して前鍵盤蓋を案内する左右のラックが、鍵盤の前後方向の中央付近まで延びている。このため、演奏部が開放された状態において、両ラックの前部が演奏者側から見えてしまい、この場合も楽器本体の外観が損なわれる。
【0008】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、楽器本体の奥行き寸法をコンパクトに維持しながら、鍵盤蓋の開閉操作を円滑に行えるとともに、楽器本体の良好な外観を得ることができる鍵盤楽器の鍵盤蓋装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、鍵盤を含む演奏部を前部に有する楽器本体において、演奏部を覆った状態に閉鎖するとともに露出した状態に開放する鍵盤楽器の鍵盤蓋装置であって、演奏部よりも短い奥行き寸法を有する単一の板状部材で構成され、演奏部を閉鎖するための閉鎖位置と、楽器本体の内部に収容された状態で、演奏部を開放する開放位置との間で、楽器本体に前後方向にスライド自在に設けられたメイン鍵盤蓋と、楽器本体の演奏部の後部上方に、左右方向に延びる軸線を中心として回動自在に設けられ、メイン鍵盤蓋のスライド操作に連動して回動することにより、メイン鍵盤蓋と協働して演奏部を開閉する補助鍵盤蓋と、を備えていることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、鍵盤を含む演奏部を前部に有する楽器本体において、その演奏部がメイン鍵盤蓋および補助鍵盤蓋によって開閉される。具体的には、閉鎖されている演奏部を開放する際には、メイン鍵盤蓋を、閉鎖位置から後方の開放位置までスライドさせ、楽器本体の内部に収容する。この場合、メイン鍵盤蓋とともに演奏部を閉鎖していた補助鍵盤蓋は、メイン鍵盤蓋のスライド操作に連動して、左右方向に延びる軸線を中心として回動し、メイン鍵盤蓋と協働して、演奏部を開放する。逆に、上記のように開放された演奏部を閉鎖する際には、楽器本体内の開放位置に位置するメイン鍵盤蓋を、前方の閉鎖位置までスライドさせる。この場合、補助鍵盤蓋は、メイン鍵盤蓋のスライド操作に連動して、元の位置に回動復帰し、メイン鍵盤蓋と協働して、演奏部を閉鎖する。
【0011】
上記のように、メイン鍵盤蓋は、演奏部よりも短い奥行き寸法を有する単一の板状部材で構成されているので、演奏部全体を覆うような奥行き寸法を有するように構成される場合に比べて、楽器本体内におけるメイン鍵盤蓋の収容スペースの奥行き寸法を小さくすることができる。したがって、本発明によれば、楽器本体の奥行き寸法をコンパクトに維持することができる。また、補助鍵盤蓋は、メイン鍵盤蓋のスライド操作に連動して回動するので、メイン鍵盤蓋を閉鎖位置から開放位置にスライドさせるだけで、メイン鍵盤蓋および補助鍵盤蓋で閉鎖されている演奏部を開放することができ、逆に、メイン鍵盤蓋を開放位置から閉鎖位置にスライドさせるだけで、開放されている演奏部を、メイン鍵盤蓋および補助鍵盤蓋で閉鎖することができる。このように、演奏部を開閉するための両鍵盤蓋の開閉操作を円滑に行うことができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵盤蓋装置において、補助鍵盤蓋は、上端部において回動自在に支持されており、メイン鍵盤蓋が閉鎖位置に位置するときに、下端部がメイン鍵盤蓋の後端面に当接した状態で、メイン鍵盤蓋とともに演奏部を閉鎖し、メイン鍵盤蓋が開放位置側にスライド操作されることにより、メイン鍵盤蓋による押圧によって後方に回動するとともに、下端部がメイン鍵盤蓋の上面に接した状態に保持され、メイン鍵盤蓋とともに演奏部を開放することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、補助鍵盤蓋は、上端部において回動自在に支持され、演奏部の閉鎖時に、下端部がメイン鍵盤蓋の後端面に当接した状態で、メイン鍵盤蓋とともに演奏部を閉鎖する。このように、演奏部の閉鎖時には、メイン鍵盤蓋と補助鍵盤蓋が一連なりの状態となるので、従来と異なり、両鍵盤蓋の間に段差が生じることがなく、楽器本体の良好な外観を得ることができる。
【0014】
また、演奏部を開放する際に、メイン鍵盤蓋を開放位置側にスライドさせると、補助鍵盤蓋は、メイン鍵盤蓋による押圧によって後方に回動するとともに、下端部がメイン鍵盤蓋の上面に接した状態に保持される。具体的には、補助鍵盤蓋は、上記のように回動することにより、下端部がメイン鍵盤蓋の後端面から上面側に回り込み、その上面上を摺動して、これに接した状態に保持される。これにより、補助鍵盤蓋は、メイン鍵盤蓋とともに演奏部を開放する。なお、このように開放された演奏部を閉鎖する際には、メイン鍵盤蓋を閉鎖位置側にスライドさせることにより、補助鍵盤蓋が、上記と逆の動作により、元の位置に回動復帰し、補助鍵盤蓋の下端部がメイン鍵盤蓋の後端面に当接する。これにより、補助鍵盤蓋は、メイン鍵盤蓋とともに演奏部を閉鎖する。以上のように、メイン鍵盤蓋のスライド操作に連動して回動し、メイン鍵盤蓋と協働して演奏部を開閉する補助鍵盤蓋を、比較的簡単な構成で容易に実現することができる。
【0015】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の鍵盤楽器の鍵盤蓋装置において、補助鍵盤蓋の下端部に回転自在に設けられ、メイン鍵盤蓋が閉鎖位置に位置するときにメイン鍵盤蓋の後端面に当接するとともに、メイン鍵盤蓋がスライド操作されるときにメイン鍵盤蓋の上面上を転動するローラを、さらに備えていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、補助鍵盤蓋の下端部に回転自在に設けられたローラは、メイン鍵盤蓋が閉鎖位置に位置するときにメイン鍵盤蓋の後端面に当接する一方、メイン鍵盤蓋がスライド操作されるときにその上面上を転動する。これにより、メイン鍵盤蓋のスライド操作時に、補助鍵盤蓋がメイン鍵盤蓋に直接、接する場合に比べて、両鍵盤蓋間の摩擦を低減でき、それにより、メイン鍵盤蓋のスライド操作をより円滑に行うことができる。また、補助鍵盤蓋は、上記のローラを介してメイン鍵盤蓋に接するので、メイン鍵盤蓋のスライド操作時に、その上面や後端面に傷などが生じるのを防止することができる。
【0017】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の鍵盤楽器の鍵盤蓋装置において、楽器本体の左右の側板の内面にそれぞれ設けられ、前後方向に延びる左右2つのラックと、メイン鍵盤蓋の後ろ側の左右に回転自在に設けられ、2つのラックにそれぞれ噛み合う左右2つのピニオンと、左右方向に延び、両端部において2つのピニオンをそれぞれ支持するピニオン軸と、このピニオン軸とメイン鍵盤蓋との間を連結し、メイン鍵盤蓋が閉鎖位置に位置するときに、2つのピニオンおよびピニオン軸を演奏部よりも後方に保持するとともに、メイン鍵盤蓋が開放位置に位置するときに、2つのピニオンおよびピニオン軸をメイン鍵盤蓋の後端付近に保持するピニオン保持機構と、をさらに備えていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、楽器本体の左右の側板の内面に、前後方向に延びる左右2つのラックがそれぞれ設けられており、これらのラックに、メイン鍵盤蓋の後ろ側の左右2つのピニオンがそれぞれ噛み合っている。これらのラックおよびピニオンを介して、メイン鍵盤蓋を前後方向に案内できるので、メイン鍵盤蓋のスライド操作を、より一層円滑に行うことができる。
【0019】
また、両端部にピニオンをそれぞれ有するピニオン軸が、ピニオン保持機構を介して、メイン鍵盤蓋に連結されている。このピニオン保持機構により、メイン鍵盤蓋が閉鎖位置に位置するときに、両ピニオンおよびピニオン軸が演奏部よりも後方に保持されるので、両ピニオンがそれぞれ噛み合う左右のラックを、その前端が演奏部よりも後方に位置するように配置することが可能である。それにより、演奏部の開放時に、左右のラックが演奏者側から見えないようにすることができ、楽器本体の良好な外観を得ることができる。また、ピニオン保持機構により、メイン鍵盤蓋が開放位置に位置するときに、両ピニオンおよびピニオン軸がメイン鍵盤蓋の後端付近に保持されるので、楽器本体内において、両ピニオンおよびピニオン軸を含むメイン鍵盤蓋の収容スペースの奥行き寸法を大きくすることがない。したがって、楽器本体の奥行き寸法のコンパクト化を確保することができる。
【0020】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の鍵盤楽器の鍵盤蓋装置において、ピニオン保持機構は、互いに同じ長さを有するとともに左右方向に延び、中央部において互いに交差しかつ回動自在に連結された2つのリンクバーを有しており、2つのリンクバーの各々は、一端部がメイン鍵盤蓋の下面後端部に回動自在に連結されるとともに、他端部がピニオン軸に回動自在に連結され、2つのリンクバーの左右一方の同じ側の端部がいずれも、左右方向にスライド自在に連結されていることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、ピニオン保持機構が、上記の2つのリンクバーを有しており、各リンクバーの一端部がメイン鍵盤蓋の下面後端部に、他端部がピニオン軸に、回動自在に連結されている。また、両リンクバーの左右一方の同じ側の端部がいずれも、左右方向にスライド自在に連結されている。これらのリンクバーは、両者が中央部を支点として回動することによって、その前後方向の幅が変化するので、両ピニオンおよびピニオン軸を、演奏部の後方、すなわち閉鎖位置に位置するメイン鍵盤蓋の後端から比較的離れた位置、および開放位置に位置するメイン鍵盤蓋の後端付近に位置させることができる。このように、上記の2つのリンクバーによって、ピニオン保持機構を比較的簡単な構成で容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態による鍵盤蓋装置を適用した電子ピアノにおいて、演奏部が閉鎖されている状態を示す図であり、(a)はピアノ本体の内部構造を示す側面図、(b)は鍵盤蓋装置を示す平面図であって、補助鍵盤蓋を省略した状態を示す。
【図2】図1の電子ピアノにおいて、演奏部が開放されている状態を示す図であり、(a)および(b)はそれぞれ、図1と同様の側面図および平面図である。
【図3】演奏部を開放する際の鍵盤蓋装置の動作を順に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1(a)および図2(a)は、本発明の一実施形態による鍵盤蓋装置を、鍵盤楽器としての電子ピアノに適用したピアノ本体を示している。これらの図に示すように、このピアノ本体1(楽器本体)は、その外郭を構成する外装ケース2と、この外装ケース2の前部(両図の左部)に設けられ、鍵盤3を含む演奏部4と、この演奏部4を覆った状態に閉鎖するとともに露出した状態に開放する鍵盤蓋装置5とを備えている。
【0024】
外装ケース2は、平面形状が横長矩形状の棚板11と、この棚板11の左右両端部に立設された左右2つの側板12、12(一方のみ図示)と、左右の側板12、12間において、下部前端部、上部前端部、および後端部にそれぞれ設けられた口棒13、上前板14および背板15と、天井部を構成する屋根16などによって構成されている。棚板11上には、鍵盤3の他、図示しない各種機器などが設置されている。また、左右の側板12、12は、互いに左右対称であり、下半部が前方に大きく突出するように形成されている。各側板12の内面の前半部には、後述するメイン鍵盤蓋23の前端部をガイドするためのガイド溝12aが設けられ、後半部には、後述する鍵盤蓋ガイド機構22のピニオン32に噛み合うラック12bが設けられている。ガイド溝12aは、鍵盤3の前方の所定位置と後述する操作パネル6の後端部上方の所定位置との間において、全体として前下がりに傾斜した状態で前後方向に延びている。一方、ラック12bは、操作パネル6の後方の所定位置と背板15付近の所定位置との間において、前後方向に延びている。
【0025】
演奏部4は、左右方向に並設された多数の白鍵3aおよび黒鍵3bを有する鍵盤3と、この鍵盤3の後部上方に、前下がりに傾斜した状態に設けられ、演奏に関わる各種の機能を実行するための複数のスイッチやボタンなど(いずれも図示せず)を有する操作パネル6などによって構成されている。
【0026】
鍵盤蓋装置5は、演奏部4を開閉する鍵盤蓋21と、この鍵盤蓋21の後述するメイン鍵盤蓋23を前後方向に円滑にスライドさせるための鍵盤蓋ガイド機構22とを備えている。
【0027】
鍵盤蓋21は、互いに協働して演奏部4を開閉するスライド式のメイン鍵盤蓋23および回動式の補助鍵盤蓋24で構成されている。メイン鍵盤蓋23は、平面形状が横長矩形状に形成され、左右の側板12、12間の距離とほぼ同じ横幅寸法、および演奏部4よりも短い奥行き寸法を有する単一の板状部材で構成されている。このメイン鍵盤蓋23の前端部には、その縁部に沿って左右方向に延びるとともに下方に所定長さ突出し、鍵盤蓋21の開閉操作時に、取っ手として機能する蓋前付25が設けられている。また、この蓋前付25の下端部の左右両端面にはそれぞれ、外方に若干突出し、左右の側板12、12のガイド溝12aに摺動自在に係合する係合凸部25aが設けられている。
【0028】
一方、補助鍵盤蓋24は、正面形状が横長矩形状でかつ後方に凸に湾曲するように形成され、メイン鍵盤蓋23と同じ横幅寸法、および上前板14と操作パネル6の上端との間の距離とほぼ同じ高さ寸法を有する単一の部材で構成されている。この補助鍵盤蓋24は、演奏部4の後部上方に回動自在に設けられており、具体的には、上端部において、上前板14の下端部に左右方向に延びる支軸26(軸線)を中心として回動自在に支持されている。また、補助鍵盤蓋24の下端部には、左右方向に延びる軸線を中心として回転自在のローラ27が設けられている。このローラ27は、メイン鍵盤蓋23の厚さとほぼ同じ外径、および補助鍵盤蓋24の横幅とほぼ同じ長さを有する円筒状に形成されている。
【0029】
図1(b)に示すように、鍵盤蓋ガイド機構22は、左右方向(同図の上下方向)に延びるピニオン軸31と、互いに同一の形状およびサイズに構成され、ピニオン軸31の両端部に固定されるとともに、左右の側板12、12のラック12b、12bにそれぞれ噛み合う左右2つのピニオン32、32と、ピニオン軸31とメイン鍵盤蓋23との間を連結し、ピニオン軸31を、回転自在に支持するとともにメイン鍵盤蓋23の後端に対して接近する方向および離れる方向に移動可能に保持するピニオン保持機構33とを備えている。
【0030】
このピニオン保持機構33は、互いに同じ長さを有するとともに左右方向に延びる2つのリンクバー34、34を有しており、両リンクバー34、34が、その中央部において、上下方向に延びる連結軸35を介して、互いに回動自在に連結されている。両リンクバー34、34のメイン鍵盤蓋23側の端部は、所定の取付具36を介して、メイン鍵盤蓋23の下面後端部の左右に回動自在に連結されている。この取付具36は、各リンクバー34の一端部を、左右方向に延びる軸線を中心として回動自在に支持するとともに、上下方向に延びる連結ピン34aを介して回動自在に支持している。また、左側(図1(b)の上側)の取付具36には、左右方向に延びるガイド孔36aが設けられており、このガイド孔36aに、一方のリンクバー34の連結ピン34aが摺動自在に係合している。
【0031】
一方、両リンクバー34、34のピニオン軸31側の端部はいずれも、所定の連結具37を介して、ピニオン軸31の左右両端部に回動自在に連結されている。この連結具37は、ピニオン軸31を回転自在に支持するとともに、各リンクバー34の他端部を上下方向に延びる連結ピン34bを介して回動自在に支持している。また、左側の連結具37には、上述した取付具36のガイド孔36aと同様のガイド孔37aが設けられ、このガイド孔37aに、他方のリンクバー34の連結ピン34aが摺動自在に係合している。
【0032】
また、左右の互いに同じ側の取付具36と連結具37の間にはそれぞれ、両者を互いに接近させる方向に付勢するばね38、38が設けられている。
【0033】
以上のように構成されたピニオン保持機構33において、両リンクバー34、34が中央部の連結軸35を中心として回動することにより、各リンクバー34の左側の端部が左右方向にスライドしながら、両リンクバー34、34の前後方向の幅が変化する。これにより、左右のピニオン32、32およびピニオン軸31は、メイン鍵盤蓋23の後端から所定距離、離れた位置(図1に示す位置)と、メイン鍵盤蓋23の後端付近(図2に示す位置)との間で、平行移動可能になっている。
【0034】
次に、以上のように構成された鍵盤蓋装置5による演奏部4の開閉動作について、図3を参照しながら説明する。同図(a)は、鍵盤蓋21によって、演奏部4が閉鎖されている状態を示している。この状態では、メイン鍵盤蓋23は、閉鎖位置に位置しており、演奏部4のうち、鍵盤3の前方から操作パネル6の後端よりも前側の所定位置までの間を覆った状態に閉鎖している。また、鍵盤蓋ガイド機構22では、ピニオン保持機構33の両リンクバー34、34の前後方向の幅が、ばね38、38の付勢力に抗して拡がり、左右のピニオン32、32およびピニオン軸31がメイン鍵盤蓋23の後端から離れている。さらに、補助鍵盤蓋24は、その下端部のローラ27がメイン鍵盤蓋23の後端面に当接している。以上により、メイン鍵盤蓋23および補助鍵盤蓋24が協働して、演奏部4全体を閉鎖している。
【0035】
この状態から演奏部4を開放する際にはまず、メイン鍵盤蓋23の蓋前付25に手を掛けて若干持ち上げた後、メイン鍵盤蓋23を後方に押し込む。これにより、図3(b)に示すように、メイン鍵盤蓋23は、蓋前付25の左右の係合凸部25a、25a、および後方の左右のピニオン32、32がそれぞれ、側板12のガイド溝12aおよびラック12bに案内されながら、後方にスライドする。この場合、補助鍵盤蓋24は、ローラ27がメイン鍵盤蓋23で押圧されることによって、後方に回動する。これにより、ローラー27は、メイン鍵盤蓋23の上面に回り込み、転動する。またこの場合、両リンクバー34、34の前後方向の幅が、ばね38、38の付勢力によって狭まり、左右のピニオン32、32およびピニオン軸31がメイン鍵盤蓋23の後端付近に位置する。
【0036】
そして、メイン鍵盤蓋23を、さらに後方に押し込むことにより、メイン鍵盤蓋23は、さらに後方にスライドし、図3(c)に示す開放位置に到達する。具体的には、メイン鍵盤蓋23は、その前端部が操作パネル6の後端部上方に位置するとともに、後端が背板15の付近に位置した状態で、外装ケース2の内部に収容される。この場合、補助鍵盤蓋24は、ローラ27がメイン鍵盤蓋23の上面の前端付近まで転動し、後方に回動した状態に保持される。以上により、演奏部4全体が開放される。なお、この場合、左右のピニオン32、32およびピニオン軸31は、メイン鍵盤蓋23の後端付近に維持される。
【0037】
一方、上記のようにして開放された演奏部4を閉鎖する際には、開放位置に位置するメイン鍵盤蓋23を前方に引き出す。これにより、上記動作と逆に、メイン鍵盤蓋23が前方にスライドするとともに、補助鍵盤蓋24が前方に回動する。そして、メイン鍵盤蓋23が閉鎖位置に到達するとともに、補助鍵盤蓋24が元の位置に回動復帰する。またこの場合、左右のピニオン32、32およびピニオン軸31は、ピニオン保持機構33により、メイン鍵盤蓋23の後端から離れた位置に保持される。
【0038】
以上詳述したように、本実施形態によれば、メイン鍵盤蓋23が、演奏部4よりも短い奥行き寸法を有する単一の板状部材で構成されているので、演奏部4全体を覆うような奥行き寸法を有するように構成される場合に比べて、ピアノ本体4内におけるメイン鍵盤蓋23の収容スペースの奥行き寸法を小さくすることができる。これにより、ピアノ本体1の奥行き寸法をコンパクトに維持することができる。また、補助鍵盤蓋24は、メイン鍵盤蓋23のスライド操作に連動して回動するので、メイン鍵盤蓋23を閉鎖位置から開放位置にスライドさせるだけで、メイン鍵盤蓋23および補助鍵盤蓋24で閉鎖されていた演奏部4を開放することができ、逆に、メイン鍵盤蓋23を開放位置から閉鎖位置にスライドさせるだけで、開放されていた演奏部4を、メイン鍵盤蓋23および補助鍵盤蓋24で閉鎖することができる。このように、演奏部4を開閉するための両鍵盤蓋23、24の開閉操作を円滑に行うことができる。
【0039】
また、演奏部4が閉鎖されている状態において、補助鍵盤蓋24の下端部のローラ27が、メイン鍵盤蓋23の後端面に当接することで、両鍵盤蓋23、24が一連なりの状態となるので、従来と異なり、両鍵盤蓋23、24の間に段差が生じることがなく、ピアノ本体1の良好な外観を得ることができる。また、メイン鍵盤蓋23のスライド操作時に、補助鍵盤蓋24がローラ27を介してメイン鍵盤蓋23に接するので、メイン鍵盤蓋23のスライド操作をより円滑に行えるとともに、メイン鍵盤蓋23の上面や後端面に傷などが生じるのを防止することができる。
【0040】
さらに、メイン鍵盤蓋23を、その後端部において支持する鍵盤蓋ガイド機構22では、ピニオン保持機構33により、メイン鍵盤蓋23が閉鎖位置に位置するときに、左右のピニオン32、32が演奏部4よりも後方に保持される。これにより、両ピニオン32、32に噛み合う左右のラック12b、12bを、それらの前端が演奏部4の後端よりも前側に位置させる必要がなく、したがって、演奏部4の開放時に、両ラック12b、12bが演奏者側から見えないようにすることができ、ピアノ本体1の良好な外観を得ることができる。また、ピニオン保持機構33により、メイン鍵盤蓋23が開放位置に位置するときにピニオン軸31がメイン鍵盤蓋23の後端付近に保持されるので、ピアノ本体1内において、両ピニオン32、32およびピニオン軸31を含むメイン鍵盤蓋23の収容スペースの奥行き寸法を大きくすることがない。したがって、ピアノ本体1の奥行き寸法のコンパクト化を確保することができる。
【0041】
なお、本発明は、説明した上記実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、補助鍵盤蓋24を後方に凸に湾曲するように形成したが、本発明はこれに限定されるものではなく、メイン鍵盤蓋23のスライド操作に連動して回動し、メイン鍵盤蓋23とともに演奏部4を開閉するものであれば、他の形状の補助鍵盤蓋を採用してもよい。また、補助鍵盤蓋24の下端部にローラ27を設けたが、メイン鍵盤蓋23のスライド操作時に補助鍵盤蓋24の下端部がメイン鍵盤蓋23の上面を円滑に摺接可能に構成されていれば、ローラ27を省略することが可能である。さらに、ピニオン保持機構33におけるばね38、38に代えて、両リンクバー34、34を互いに連結する連結軸35にねじりコイルばねを取り付け、このねじりコイルばねの付勢力によって、両リンクバー34、34の前後方向の幅が狭まるようにしてもよい。
【0042】
また、実施形態で示した鍵盤蓋装置5の細部の構成などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 ピアノ本体(楽器本体)
2 外装ケース
3 鍵盤
4 演奏部
5 鍵盤蓋装置
6 操作パネル
12 側板
12a ガイド溝
12b ラック
21 鍵盤蓋
22 鍵盤蓋ガイド機構
23 メイン鍵盤蓋
24 補助鍵盤蓋
26 支軸(軸線)
27 ローラ
31 ピニオン軸
32 ピニオン
33 ピニオン保持機構
34 リンクバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵盤を含む演奏部を前部に有する楽器本体において、当該演奏部を覆った状態に閉鎖するとともに露出した状態に開放する鍵盤楽器の鍵盤蓋装置であって、
前記演奏部よりも短い奥行き寸法を有する単一の板状部材で構成され、当該演奏部を閉鎖するための閉鎖位置と、前記楽器本体の内部に収容された状態で、当該演奏部を開放する開放位置との間で、前記楽器本体に前後方向にスライド自在に設けられたメイン鍵盤蓋と、
前記楽器本体の前記演奏部の後部上方に、左右方向に延びる軸線を中心として回動自在に設けられ、前記メイン鍵盤蓋のスライド操作に連動して回動することにより、当該メイン鍵盤蓋と協働して前記演奏部を開閉する補助鍵盤蓋と、
を備えていることを特徴とする鍵盤楽器の鍵盤蓋装置。
【請求項2】
前記補助鍵盤蓋は、上端部において回動自在に支持されており、前記メイン鍵盤蓋が前記閉鎖位置に位置するときに、下端部が当該メイン鍵盤蓋の後端面に当接した状態で、当該メイン鍵盤蓋とともに前記演奏部を閉鎖し、前記メイン鍵盤蓋が前記開放位置側にスライド操作されることにより、当該メイン鍵盤蓋による押圧によって後方に回動するとともに、下端部が当該メイン鍵盤蓋の上面に接した状態に保持され、当該メイン鍵盤蓋とともに前記演奏部を開放することを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵盤蓋装置。
【請求項3】
前記補助鍵盤蓋の下端部に回転自在に設けられ、前記メイン鍵盤蓋が前記閉鎖位置に位置するときに当該メイン鍵盤蓋の後端面に当接するとともに、前記メイン鍵盤蓋がスライド操作されるときに当該メイン鍵盤蓋の上面上を転動するローラを、さらに備えていることを特徴とする請求項2に記載の鍵盤楽器の鍵盤蓋装置。
【請求項4】
前記楽器本体の左右の側板の内面にそれぞれ設けられ、前後方向に延びる左右2つのラックと、
前記メイン鍵盤蓋の後ろ側の左右に回転自在に設けられ、前記2つのラックにそれぞれ噛み合う左右2つのピニオンと、
左右方向に延び、両端部において前記2つのピニオンをそれぞれ支持するピニオン軸と、
このピニオン軸と前記メイン鍵盤蓋との間を連結し、前記メイン鍵盤蓋が前記閉鎖位置に位置するときに、前記2つのピニオンおよび前記ピニオン軸を前記演奏部よりも後方に保持するとともに、前記メイン鍵盤蓋が前記開放位置に位置するときに、前記2つのピニオンおよび前記ピニオン軸を前記メイン鍵盤蓋の後端付近に保持するピニオン保持機構と、
をさらに備えていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の鍵盤楽器の鍵盤蓋装置。
【請求項5】
前記ピニオン保持機構は、互いに同じ長さを有するとともに左右方向に延び、中央部において互いに交差しかつ回動自在に連結された2つのリンクバーを有しており、
当該2つのリンクバーの各々は、一端部が前記メイン鍵盤蓋の下面後端部に回動自在に連結されるとともに、他端部が前記ピニオン軸に回動自在に連結され、当該2つのリンクバーの左右一方の同じ側の端部がいずれも、左右方向にスライド自在に連結されていることを特徴とする請求項4に記載の鍵盤楽器の鍵盤蓋装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−211111(P2010−211111A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59346(P2009−59346)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)
【Fターム(参考)】