説明

長尺材の変位量測定装置

【課題】長尺材のうねり(変位量)を簡易かつ正確に測定することができる長尺材の変位量測定装置を提供する。
【解決手段】変位量測定装置は、定速走行部1と、架台2と、加速度計3と、記録計4とを備える。定速走行部1は、上下方向に伸びる長尺材(ガイドレールR)に沿って定速で走行する。架台2は、この定速走行部1と共に長尺材に沿って移動される。加速度計3は、架台2の平面方向の加速度を計測する加速度計であって、長尺材のうねりに応じて傾いた架台2の平面方向に生じる重力の加速度成分を計測する。記録計4は、加速度計3の計測結果を記録する。この計測結果と定速走行部1の走行速度とを利用することで、長尺体の変位量を演算により求めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄塔に付設される墜落防止安全器用ガイドレールなどの長尺材の変位量を測定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄塔には、一般に、墜落防止安全器用のガイドレールが取り付けられている。作業者が鉄塔を昇降する際、作業者の腰ベルトに連結した墜落防止安全器をガイドレールに嵌め込み、作業者の昇降に伴って同安全器をガイドレール沿いにスライドさせる(特許文献1)。
【0003】
このようなガイドレールは、通常、複数のユニットレールを鉄塔の主柱を構成するアングル材などに取付金具を介して固定し、鉄塔の主柱にほぼ沿った一連長のレールに構成されている。各ユニットレールは、出荷時においては直線状であるが、鉄塔の主柱に取り付けられた際には歪を生じ、一連長のガイドレールとしてはうねった形状となることが多い。これは、通常、主柱はアングル材が重なって構成されているので、同じ取付金具でレールを取り付けた場合でも、レールにうねりが発生し、さらに各取付金具を主柱に取付ける際の施工上のずれ(誤差)によってもレールにうねりが発生するからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-095763号公報 図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このガイドレールのうねりが正確に測定できれば、各ユニットレールを鉄塔に取り付けた際の歪(初期歪)を正確に把握でき、ガイドレールの寿命の予測に利用することができる。しかし、長尺材のうねりを簡易かつ正確に測定する技術は確立されていない。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、上記のガイドレールといった長尺材のうねりを簡易かつ正確に測定することができる長尺材の変位量測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の長尺材の変位量測定装置は、定速走行部と、架台と、加速度計と、記録計とを備える。定速走行部は、上下方向に伸びる長尺材に沿って定速で走行する。架台は、この定速走行部と共に長尺材に沿って移動される。加速度計は、架台の平面方向の加速度を計測する加速度計であって、前記長尺材のうねりに応じて傾いた架台の平面方向に生じる重力の加速度成分を計測する。記録計は、加速度計の計測結果を記録する。
【0008】
定速走行部を長尺体に沿って走行させると、その定速走行部と同期して架台を走行させることができる。その際、架台は長尺体のうねりに応じて傾斜されるため、架台の平面方向には重力の加速度成分が生じる。この加速度成分を加速度計により計測し、計測結果を記録計に記録しておけば、この計測結果と定速走行部の走行速度とを利用することで、長尺体の変位量、即ちうねりを演算により求めることができる。
【0009】
本発明の長尺材の変位量測定装置において、前記定速走行部と前記架台とは互いに独立した部材であり、この定速走行部から前記架台を吊り下げる吊り材を備えることが好ましい。
【0010】
定速走行部と前記架台とを個別の部材とし、定速走行部から吊り材で架台を吊り下げることで、定速走行部の走行による振動が架台に直接伝達することを抑制し、加速度計が長尺体のうねりに基づかない振動を検知することを抑制する。
【0011】
本発明の長尺材の変位量測定装置において、前記加速度計はサーボ式加速度計であることが好ましい。
【0012】
サーボ式加速度計であれば、低周波の振動の検知が行いやすく、長尺体のうねりに伴う架台の傾きにより生じた重力の加速度成分を的確に検知することに適している。
【0013】
本発明の長尺材の変位量測定装置において、前記加速度計は一対設けられ、各加速度計は、前記架台の前後方向と左右方向との各々の水平方向に対する傾きにより生じる重力の加速度成分を測定するように前記架台に装着されていることが好ましい。
【0014】
架台の前後方向と左右方向の互いに直交する2つの平面方向の傾きに伴う重力の加速度成分を検知することで、長尺体の前後方向及び左右方向のうねりを検知することができる。よって、長尺体のうねりを三次元に把握することができる。
【0015】
本発明の長尺材の変位量測定装置において、前記加速度計用の電源と、前記加速度計の計測結果の記録計とを備えることが好ましい。
【0016】
電源を備えることで、サーボ式加速度計などの電源を必要とする加速度計を利用することができ、記録計を備えることで、加速度計で計測した重力の加速度成分を確実に記録することができる。
【0017】
本発明の長尺材の変位量測定装置において、前記定速走行部は、前記長尺材に沿って降下する墜落防止安全器であることが好ましい。
【0018】
墜落防止安全器には、作業者が墜落した際、安全器を定速でガイドレール沿いに徐々に降下させるタイプがある。このタイプの墜落防止安全器であれば、定速走行部として、そのまま利用することができる。
【0019】
本発明の長尺材の変位量測定装置において、前記長尺材が鉄塔に付設された墜落防止安全器のガイドレールであることが挙げられる。
【0020】
墜落防止安全器のガイドレールは、変位量の計測対象となる長尺体として好適である。この変位量の測定により、測定結果をガイドレールの寿命の予測に用いることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の長尺材の変位量測定装置によれば、長尺体に沿って本発明装置を定速走行させることにより、容易かつ正確に長尺体の変位量(うねり)を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態1に係る変位量測定装置の概略構成図である。
【図2】(A)は変位量の測定対象例であるガイドレールの斜視図、(B)は同レールの鉄塔への取付状態を示す模式図である。
【図3】図1の装置の測定原理を示す説明図で、(A)は架台が水平を保持している状態、(B)は架台が傾いている状態を示し、(C)は架台の所定の移動距離yにおけるガイドレールの変位量xを示す。
【図4】試験例1における変位量の測定対象のモデル図である。
【図5】(A)〜(C)の各々は試験例1において変位量の異なるガイドレールの測定結果を示すグラフである。
【図6】試験例1における実測値と測定値との相関を示し、(A)は左右方向の値の相関グラフ、(B)は前後方向の値の相関グラフである。
【図7】試験例2における変位量の測定方法を示し、(A)は連続測定の説明図、(B)は分割測定の説明図である。
【図8】試験例2の連続測定の測定結果例を示すグラフである。
【図9】試験例2の連続測定と分割測定の対比結果例を示し、(A)と(C)は連続測定の測定結果を示すグラフ、(B)と(D)は分割測定の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。ここでは、鉄塔の主柱に沿って設けられたガイドレールのうねり、つまりガイドレール沿いの2点間をつなぐ直線に対する変位量を測定する場合を例として本発明の変位量測定装置を説明する。各図において、共通する部材には同一符号を付している。
【0024】
[実施形態1]
{概要}
この変位量測定装置は、図1に示すように、定速走行部1、架台2、加速度計3、及び記録計4を備える。その他、本例の装置では、電源5、吊り材6、及び変位量演算手段7を備える。架台2は、定速走行部1と共に定速でガイドレールRを降下し、その際、同レールRのうねりに応じて傾けられる。この傾きにより架台2の平面方向に生じる重力の加速度成分を加速度計3で計測し、その結果を記録計4で記録する。一方、ガイドレールRは、図2に示すように、I状の横断面を備える単位長のユニットレールからなり、複数のユニットレールを直列に配置することで構成される。このレールRは、鉄塔STの主柱Pに固定した取付金具Fで把持される帯状の支持片R2と、支持片R2に対向して多数の嵌合孔RHが長手方向に並設された帯状の走行片R1と、支持片R2及び走行片R1に対して直交し、両片R1,R2を連結する帯状の連結片R3とを備える。以下の説明において、ガイドレールRの支持片R2側を後方(背面側)、ガイドレールRの走行片R1側を前方(正面側)とし、正面から見みた両側を左右とする。但し、上下方向は、必ずしも鉛直方向と一致する必要はなく、ほぼ鉛直方向に伸びていれば、その延伸方向も含む。これは、通常、鉄塔STは、上方ほど先細りとなるように主柱Pを傾斜させた箇所を有し、その主柱Pに沿ったガイドレールRも鉛直方向に一致していないからである。
【0025】
{定速走行部}
定速走行部1は、ガイドレールR沿いを一定速度で移動できる機構である。この走行部は、ガイドレールRに沿って一定速度で移動、特に降下できれば、その構成は特に問わない。
【0026】
本例では、定速走行部1として、住電朝日精工株式会社製の墜落防止安全器「ハイ・スロー」(商品名)を用いている(特開2002-95763号公報 図11参照)。その概略は、次の通りである。この安全器は、箱状のブロック部と板状のプレート部とを連結軸で接続された本体と、両部間に主軸によって回転自在に支持されるスプロケットと、ガバナーとを備える。上昇時、安全器は、ガイドレールRに装着され、作業者に引き上げられることで、スプロケットの歯部を走行片R1の嵌合孔に順次嵌めながらガイドレールRに沿って本体をスライドさせる。墜落時、安全器は、ガバナーによりスプロケットの回転数が一定に保持され、緩やかな一定速度で下降することで作業者の急激な落下を防止する。さらに、この安全器は、ガイドレールR上の任意の位置に安全器を停止させるストッパを備え、このストッパを解除することで、安全器を緩やかな一定速度で下降させることができる。従って、この安全器であれば、格別の設計変更を行うことなく、ストッパの作用・不作用により、定速走行部1として走行・停止を容易に行うことができる。
【0027】
{架台}
架台2は、本発明装置の構成部材のうち、定速走行部1以外の主要な構成部材を搭載するための支持台である。本例では、架台2として、上下の上底面、左右の両側面、及び背面を備え、正面が開口した金属箱を用いている。この架台2内に後述する電源5を収納し、上面に加速度計3と記録計4を搭載している。正面が開口した架台2であれば、架台2への搭載部材間を接続するケーブルの接続作業が容易に行える。
【0028】
この架台2は、ガイドレールRに対する嵌合部を備えている。本例では、嵌合部として、架台2の背面に、ガイドレールRの走行片R1を両側から挟みこむように保持するガイドローラを備えている。この嵌合部により、定速走行部1だけでなく架台2もガイドレールRに常時沿って走行され、同レールRのうねりに応じて架台2が傾けられることになる。
【0029】
{加速度計}
加速度計3は、架台2がガイドレールRに沿って定速で走行した際、同レールRのうねりに応じて生じる架台2の傾きにより架台2の平面方向に生じる重力加速度の成分を検知する。架台2の平面方向とは、うねりのない鉛直方向沿いのガイドレールRに架台2を装着した際、水平方向に沿った方向のことで、本例では、架台2の上面や底面に沿った方向のことである。
【0030】
加速度計3には、圧電式やサーボ式などの検出方式があるが、低周波の振動が検出可能な加速度計、特にDC成分(静加速度)の検出が可能な加速度計が好適に利用できる。静加速度の検出が可能な加速度計であれば、ガイドレールRのうねり(変位量)の測定を高精度に行うことができる。本例では、加速度計3として、リオン株式会社製サーボ加速度計LS-10Cを用いている。
【0031】
加速度計3の数は、複数とすることが好ましい。ガイドレールRのうねりは、前後方向及び左右方向の少なくとも一方の方向にガイドレールRが歪むことで生じる。そのため、複数の加速度計3により、架台2の平面方向において直交する2方向の加速度を計測できるようにすれば、ガイドレールRのうねりを三次元的に把握することができる。本例では、架台2の平面方向のうち、前後と左右の2方向の加速度を計測できるように一対の加速度計3を用いている。架台2が傾けば、前後方向又は左右方向の各々に生じる重力加速度の成分を加速度計3が検知する。
【0032】
{記録計}
記録計4は、加速度計3の計測結果を記録する。この記録計4は、架台2に搭載されていても良いし、架台2とは離れた場所に設け、加速度計3の計測結果を無線により受信できるように構成しても良い。前者の場合、架台2側には加速度計3の計測結果を記録計4に送信するための送信手段が不要であり、記録計4側には送信手段からの信号を受信する受信手段が不要である。一方、後者の場合、架台2側に記録計が不要であり、架台2側を小型・軽量化し易い。本例では、記録計4として、リオン株式会社製4chデータレコーダDA-20を用い、この記録計4を架台2に搭載している。このデータレコーダは、市販の電池を電源として利用でき、メモリカード(CFカード)を記録媒体としている。
【0033】
{電源}
架台2には、電源5も搭載されている。この電源5は、上述した加速度計3に電力を供給する。本例では、電源5として、リオン株式会社製サーボ加速度計用電源LF-20を用いている。
【0034】
{吊り材}
吊り材6は、定速走行部1から架台2及び架台2への搭載部材一式を吊り下げて支持する。定速走行部に加速度計を設置したり、定速走行部と架台とを実質的に可撓性のない連結具で一体に構成し、その架台に加速度計を設置して走行対象を構成することも可能である。しかし、その場合、これら走行対象の走行に伴う振動を加速度計が検知し易い。この傾向は、上述した電源5を備える場合、架台2側の重量が大きくなってより顕著になる。その結果、計測される加速度波形のノイズが大きくなる虞がある。そのため、定速走行部1と架台2とを独立の部材とし、定速走行部1から吊り材6を介して架台2を吊り下げれば、ノイズを低減して所定の加速度成分を精度よく検知することができる。
【0035】
この吊り材6は、可撓性を有する部材、例えばワイヤが好適に利用できる。このワイヤの本数は、1本のワイヤを用いて、定速走行部から架台におけるガイドレールRとの連結箇所近傍を吊り下げ支持することも可能であるが、複数本のワイヤで架台2を吊り下げることが好ましい。このワイヤの上端は、定速走行部1に集約して連結され、ワイヤの下端は、平面視した架台2の輪郭外縁をほぼ等間隔に分ける3箇所以上に分散して連結することが好適である。本例では、計4本のワイヤを用い、架台2を平面視した四角の輪郭外縁における角部近傍、即ち、架台2の背面の両側、及び各側面の前側に各ワイヤの下端を連結している。このようなワイヤの配置により、定速走行部1のガイドレールRとのガタによる振動がワイヤを通して架台2に大きな振動として伝達されることを効果的に抑制できる。
【0036】
{変位量演算手段}
変位量演算手段7は、記録計4に記録された計測結果を利用して、ガイドレールRの変位量を演算する。この演算手順を図3に基づいて説明する。架台(加速度計3)がうねりのないガイドレールに支持され、平面方向が水平方向(図3の左右方向)に沿っている場合、図3(A)に示すように、鉛直方向に重力加速度(g=9.8m/s2)が作用し、平面方向には重力の加速度成分が生じない。一方、架台(加速度計3)がガイドレールのうねりに応じて傾くと、図3(B)に示すように、平面方向は水平方向からずれ、平面方向には重力の加速度成分が生じる。この加速度成分aは、加速度計3の鉛直方向に対するずれ角(水平方向に対する加速度計の平面方向のズレ角)をθとすると、次の式1で表わされる。
加速度成分a=9.8sinθ…式1
【0037】
一方、定速走行部(架台)の降下速度は、安全器により一定速度となっており、測定範囲であるガイドレールRの長さをL(m)、降下開始から停止までの時間をt(s)とすると、その降下速度はL/t(m/s)で表わされる。
【0038】
また、加速度データのサンプリング時間は、上記記録計4の場合、1/256(s)としているため、サンプリング時間毎の定速走行部1(架台2)の移動距離y(m)は次の式2で表わされる。
移動距離y=(L/t)×(1/256)…式2
【0039】
よって、この定速走行部1(架台2)の移動距離yにおけるガイドレールの変位量x(mm)は、図3(C)に示すように、次の式3で表される。
変位量x=ysinθ=(L/t)×(1/256)×sinθ…式3
【0040】
以上から、式1と式3より変位量xは加速度成分aを用いて次のように表される。
変位量x=(L/t)×(1/256)×(a/9.8)
【0041】
つまり、架台の走行速度と架台の平面方向に生じる重力加速度の成分とを用いてガイドレールの変位量を測定することができる。以上の演算は、記録計に記録された加速度データをコンピュータに取り込むことで、市販の表計算ソフトなどを用いて容易に行うことができる。
【0042】
{計測手順}
上記の装置を用いたガイドレールRの変位量の測定は、次の手順で行う。
【0043】
(1)加速度計3、記録計4及び電源5を架台2にセットし、この定速走行部1にワイヤでつないで、降下開始位置に加速度計3が位置するよう、上記定速走行部1及び架台2をガイドレールRにセットする。降下開始位置は、例えばあるユニットレールRの上端を把持する取付金具に対応する位置とする。その際、定速走行部1(安全器)のストッパを作用させておく。
【0044】
(2)ガイドレールRの下端に変位量測定装置を停止させるための停止金具を固定する。
【0045】
(3)加速度計3用電源5及び記録計4の電源をONにする。
【0046】
(4)記録計4の記録を開始して加速度計3の加速度データを記録する。
【0047】
(5)定速走行部1(安全器)のストッパを解除し、変位量測定装置をガイドレールR沿いに降下させる。
【0048】
(6)変位量測定装置がガイドレールRの下端部の所定位置に到達して停止すれば、記録計4の記録を停止させる。
【0049】
(7)記録計4で記録した重力加速度成分のデータをコンピュータに取り込む。
【0050】
(8)コンピュータを変位量演算手段7として用い、定速走行部1と重力の加速度成分データとを利用して変位量を求める。
【0051】
{作用効果}
上述した本発明に係る変位量測定装置によれば、次の効果を奏することができる。
【0052】
(1)ガイドレールRに沿って定速走行部1を定速走行させると、その定速走行部1と同期して架台2も走行される。そのため、架台2はガイドレールRのうねりに応じて傾斜され、架台2の平面方向には重力の加速度成分が生じる。この加速度成分を加速度計3により計測し、計測結果を記録計4に記録すれば、この計測結果と定速走行部1の走行速度とを利用することで、ガイドレールRのうねり、つまりガイドレール上の2点間をつなぐ直線に対して、前記2点間に位置するガイドレールの変位量の分布を演算により求めることができる。
【0053】
(2)定速走行部1と架台2とを個別の部材とし、定速走行部1から吊り材6で架台2を吊り下げることで、定速走行部1の走行による振動が架台2に直接伝達することを抑制し、ガイドレールRのうねり(変位量)を正確に求めることができる。
【0054】
(3)架台2の前後方向と左右方向の互いに直交する2つの平面方向の傾きに伴う重力の加速度成分を検知することで、ガイドレールRの前後方向及び左右方向のうねりを1回の測定で検知することができる。
【0055】
[試験例1]
実施形態1に係る変位量測定装置を用いて、墜落防止安全器用ガイドレールRの変位量を測定した。ここでは、測定モデルとして、図4に示すように、ガイドレールRの4mの領域について、その両端と中央の合計3箇所を、取付金具Fを介してアングル材P1に固定し、中央の取付金具の先端とアングル材P1との距離を変えて変位量の異なるガイドレールRを用意した。変位量の測定方向は、アングル材P1の走行片R1(図2(A)参照)の幅方向に沿った左右方向(横方向)と、連結片R3(図2(A)参照)の幅方向に沿った前後方向(縦方向)の各々とした。変位量の測定は、予めスケールにより行う実測と、変位量測定装置による測定とを実施し、この実測値と測定値と比較した。横方向の実測は、アングル材の一面の延長面と、走行片R1の側面のうち前記延長面と平行で当該延長面に近い面との直線距離を測定し、縦方向の実測は、アングル材の一面の延長面と、その延長面に平行な走行片R1の表面又は支持片R2(図2(A)参照)の表面のうち前記延長面に近い面との直線距離を測定することで行った。
【0056】
測定結果例を図5に示す。その結果、いずれの測定値も実測値に近似し、本発明の変位量測定装置で信頼性の高い測定が可能であることがわかった。
【0057】
さらに、図5の測定結果例を含む複数の測定値と実測値との関係を、左右(横)方向、前後(縦)方向の各々について調べた。その結果を図6のグラフに示す。このグラフから明らかなように、いずれの方向であっても、測定値と実測値の決定係数R2は0.9以上であり、強い相関関係があることが確認された。
【0058】
[試験例2]
次に、実施形態1に係る変位量測定装置を用いて、実際に鉄塔に付設した墜落防止安全器用ガイドレールRの変位量を測定した。試験例1では、ガイドレールRの4mの長さ部分における変位量を測定したが、本例では、鉄塔の主柱に沿って取付金具で固定された一連長のガイドレールRの変位量の測定(連続測定)と、 ガイドレールRにおける取付金具3個毎の範囲の変位量の測定(分割測定)とを行い、前者のうち後者と対応する位置における変位量が後者の変位量と対応するか否かを調べた。
【0059】
連続測定は、図7(A)に示すように、実施形態1の変位量測定装置をガイドレールRの頂部から下部まで連続して降下させ、その1回の降下でガイドレールR全長に亘る変位量の計測を行う。一方、分割測定は、図7(B)に示すように、実施形態1の変位量測定装置をガイドレールRの頂部から下降させ、まず取付金具Fの1個目から3個目までの範囲について変位量の測定を行い、次に、取付金具Fの2個目から4個目までの範囲について変位量の測定を行う。以下順次、取付金具Fのn個目からn+2個目までの範囲について変位量の測定を行って、この測定をn+2個目の取付金具Fが下端の取付金具Fになるまで繰り返す。なお、本例の測定対象は実際の鉄塔STのガイドレールRであるため、各取付金具Fの取付間隔は不均一である。
【0060】
その結果、複数回の連続測定の測定結果がほぼ同様であり、本発明装置による測定で再現性のある測定が可能であることがわかった。連続測定の測定結果例は図8に示す通りである。また、分割測定の各測定箇所と対応する範囲における連続測定の測定結果と、その分割測定の測定結果とを対比すると、両者はほぼ対応しており、ガイドレールR全長に亘る1回の測定で、信頼性の高い結果が得られることがわかった。この対比結果例を図9に示す。連続測定の測定データから抽出した取付金具の4個目から6個目までの測定データと、同箇所の分割測定の測定データとを比較すると、図9(A)と(B)に示すように、ほぼ一致していることがわかる。また、連続測定の測定データから抽出した取付金具の7個目から9個目までの測定データと、同箇所の分割測定の測定データとを比較すると、図9(C)と(D)に示すように、ほぼ一致していることがわかる。
【0061】
本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で必要に応じて種々の変更が可能である。例えば、鉄塔の墜落防止安全器のガイドレール以外であっても、ほぼ鉛直方向に設置された長尺材の変位量の測定に本発明装置を利用することができる。よって、一度の連続測定により、十分信頼性の高い変位量の測定が可能といえる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の長尺材の変位量測定装置は、鉄塔に布設した墜落防止安全器用レールなどの長尺材に生じたうねりによる変位量を測定することに好適に利用できる。
【符号の説明】
【0063】
1 定速走行部 2 架台 3 加速度計 4 記録計 5 電源 6 吊り材
7 変位量演算手段 Rガイドレール R1 走行片 R2 支持片 R3 連結片
RH 嵌合孔 ST 鉄塔 F 取付金具 P 主柱 P1 アングル材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に伸びる長尺材に沿って定速で走行する定速走行部と、
この定速走行部と共に長尺材に沿って移動される架台と、
この架台の平面方向の加速度を計測する加速度計であって、前記長尺材のうねりに応じて傾いた架台の平面方向に生じる重力の加速度成分を計測する加速度計と、
この加速度計の計測結果を記録する記録計とを備えることを特徴とする長尺材の変位量測定装置。
【請求項2】
前記定速走行部と前記架台とは互いに独立した部材であり、
この定速走行部から前記架台を吊り下げる吊り材を備えることを特徴とする請求項1に記載の長尺材の変位量測定装置。
【請求項3】
前記加速度計はサーボ式加速度計であることを特徴とする請求項1又は2に記載の長尺材の変位量測定装置。
【請求項4】
前記加速度計は一対設けられ、
各加速度計は、前記架台の前後方向と左右方向の各々の平面方向に対する傾きにより生じる前記加速度成分を測定するように前記架台に装着されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の長尺材の変位量測定装置。
【請求項5】
前記加速度計用の電源と、
前記加速度計の計測結果の記録計とを備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の長尺材の変位量測定装置。
【請求項6】
前記定速走行部は、前記長尺材に沿って降下する墜落防止安全器であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の長尺材の変位量測定装置。
【請求項7】
前記長尺材が鉄塔に付設された墜落防止安全器のガイドレールであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の長尺材の変位量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−83461(P2013−83461A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221561(P2011−221561)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000213884)住電朝日精工株式会社 (24)
【Fターム(参考)】