説明

長尺樹脂フィルムの処理方法と長尺樹脂フィルムの処理装置

【課題】長尺樹脂フィルムのロールへの巻き付きや斜行等が解消された長尺樹脂フィルムの処理方法等を提供する。
【解決手段】巻出軸5に巻回された長尺樹脂フィルム11をロール・トゥ・ロール方式により搬送して巻取軸6に巻取ると共に、巻出軸と巻取軸間の搬送路上において上記フィルムに対し減圧雰囲気下で加熱処理する方法であって、上記フィルムを搬送する隣り合う1組のロール7b・ロール7c間の搬送路上に加熱手段と冷却手段を連続して設け、隙間を介し対向して配置された1組の冷却板13a,13bにより冷却手段を構成すると共に、上記ロール7bから送り出されたフィルムを加熱手段で加熱処理し、次いで冷却板13a,13b間の隙間を通過させてフィルムを冷却処理した後、冷却されたフィルムを他方のロール7cに接触させて搬送することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール・トゥ・ロール方式により搬送される長尺樹脂フィルムを減圧雰囲気下において加熱処理する長尺樹脂フィルムの処理方法に係り、特に、加熱処理された長尺樹脂フィルムのロールへの巻き付きが回避される長尺樹脂フィルムの処理方法とその処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
長尺樹脂フィルムは、フレキシブル性を有し、容易に加工できることから、電子部品、光学部品、包装材料等の産業分野において広く用いられており、この長尺樹脂フィルム上に、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法等の真空成膜法を適用して金属やその酸化物、窒化物、炭化物、有機物等の膜を形成する技術が古くから開発されている。
【0003】
また、近年、エレクトロニクス分野においては、利用される様々な材料で高密度化、高精細化が進み、高品質な材料が求められている。そして、長尺樹脂フィルムの種類にもよるが、長尺樹脂フィルム中には一般に0.01〜2質量%の水分が含まれ、また僅かながら種々の有機溶媒が含まれており、真空蒸着法、スパッタリング法等上述した真空成膜法を用いて金属やその酸化物等の膜を長尺樹脂フィルム上に成膜した場合、長尺樹脂フィルム中に含まれる水分や有機溶媒が長尺樹脂フィルム表面に拡散、脱離してコンタミネーション(contamination)を引き起こし、膜質に悪影響を及ぼすことがあった。
【0004】
このため、金属やその酸化物等を成膜する前に、長尺樹脂フィルムを加熱乾燥して長尺樹脂フィルム中に含まれる水分や有機溶媒を除去する必要あった。加熱乾燥の条件は、長尺樹脂フィルムの材質や膜厚、長尺樹脂フィルム中に存在する有機溶媒の種類等によって異なる。例えば、長尺樹脂フィルムがポリイミド系フィルムの場合、500℃程度に設定されたヒーターで加熱し、加熱時間を調整する等の対応がとられ、加熱された長尺樹脂フィルムの温度は300℃程度となる。
【0005】
そして、加熱された長尺樹脂フィルムを冷却するには、例えば、特許文献1に記載された冷却ロールにより行なう方法が知られている。ここで、特許文献1は減圧雰囲気下での長尺樹脂フィルムの加熱乾燥に関わる技術ではないが、プラスチックフィルムを加熱延伸した後の冷却ロールについて記載されている。
【0006】
ところで、加熱された長尺樹脂フィルムが、次に接触する冷却ロールにより急激に冷やされると、長尺樹脂フィルムが収縮して静電気を発生し、最悪の場合、長尺樹脂フィルムが冷却ロールに巻き付いてしまうことがあった。尚、特許文献2には強制除電装置を用いたフィルムの製造装置が開示されている。
【0007】
更に、ロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成するロールに上記加熱された長尺樹脂フィルムが接触するとロールの温度が徐々に上昇し、熱膨張によりロールの軸が曲がって長尺樹脂フィルムが斜行する等の問題も存在した。
【0008】
尚、搬送手段を構成するロールに冷却機能を具備させることにより、斜行等の問題を回避することはできる。そして、冷却機能を備えたロールとして、ロール内部に水や有機溶媒等の冷媒を循環させた冷却ロールが知られている。但し、冷却ロールは、その軸受けにロータリージョイントを用いている関係上、回転抵抗があるため動力を有することが一般的である。従って、ロール・トゥ・ロール方式における搬送系の制御を複雑にしてしまう問題があり、制御の負担から、冷却ロールを増やさないことが望まれている。
【0009】
このような技術的背景の下、ロール・トゥ・ロール方式における搬送系の制御を複雑にすることなく、加熱処理された長尺樹脂フィルムのロールへの巻き付きや、長尺樹脂フィルムの斜行等の問題を解消できる長尺樹脂フィルムの処理方法が望まれている。
【特許文献1】特開平6−262676号公報
【特許文献2】特開2008−12839号公報(段落番号0047参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような問題に着目してなされたもので、その課題とするところは、ロール・トゥ・ロール方式における搬送系の制御を複雑にすることなく、減圧雰囲気下で加熱処理された長尺樹脂フィルムのロールへの巻き付きや斜行等の問題が解消された長尺樹脂フィルムの処理方法とその処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、請求項1に係る発明は、
巻出軸に巻回された長尺樹脂フィルムをロール・トゥ・ロール方式により搬送して巻取軸に巻取ると共に、上記巻出軸と巻取軸間の搬送路上において搬送中の長尺樹脂フィルムに対し減圧雰囲気下で加熱処理する長尺樹脂フィルムの処理方法において、
長尺樹脂フィルムを搬送する隣り合う1組のロール・ロール間の搬送路上に加熱手段と冷却手段を連続して設け、かつ、隙間を介し対向して配置された1組の冷却板により上記冷却手段を構成すると共に、一方の上記ロールから送り出された長尺樹脂フィルムを加熱手段で加熱処理し、次いで、上記冷却手段を構成する冷却板間の上記隙間を通過させて長尺樹脂フィルムを冷却処理した後、冷却された長尺樹脂フィルムを他方の上記ロールに接触させて搬送することを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係る長尺樹脂フィルムの処理方法において、
上記冷却手段を構成する冷却板の長尺樹脂フィルムと対向する面の放射率が、0.60以上であることを特徴とし、
請求項3に係る発明は、
請求項1または2に記載の発明に係る長尺樹脂フィルムの処理方法において、
上記加熱処理が、長尺樹脂フィルムの乾燥処理であることを特徴とし、
請求項4に係る発明は、
請求項1または2に記載の発明に係る長尺樹脂フィルムの処理方法において、
上記加熱処理が、長尺樹脂フィルムの少なくとも一方の面に対するプラズマ処理若しくはイオンビーム処理であることを特徴とする。
【0013】
次に、請求項5に係る発明は、
減圧室と、この減圧室内に設けられ巻回した長尺樹脂フィルムを巻出す巻出軸と、減圧室内に設けられ上記巻出軸から巻出された長尺樹脂フィルムを巻取る巻取軸と、上記巻出軸と巻取軸間の搬送路上に設けられかつロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する複数のロールと、搬送中の長尺樹脂フィルムを加熱処理する加熱手段を備える長尺樹脂フィルムの処理装置において、
上記ロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する隣り合う1組のロール・ロール間の搬送路上に加熱手段と冷却手段が連続して設けられ、この冷却手段が隙間を介し対向して配置された1組の冷却板により構成されると共に、一方の上記ロールから送り出されて加熱処理された長尺樹脂フィルムを冷却板間の上記隙間を通過させた後に他方のロールに接触させて搬送するようになっていることを特徴とする。
【0014】
また、請求項6に係る発明は、
請求項5に記載の発明に係る長尺樹脂フィルムの処理装置において、
上記冷却手段を構成する冷却板の長尺樹脂フィルムと対向する面の放射率が、0.60以上であることを特徴とし、
請求項7に係る発明は、
請求項5または6に記載の発明に係る長尺樹脂フィルムの処理装置において、
上記加熱手段が、長尺樹脂フィルムを乾燥させる乾燥手段により構成されていることを特徴とし、
請求項8に係る発明は、
請求項5または6に記載の発明に係る長尺樹脂フィルムの処理装置において、
上記加熱手段が、長尺樹脂フィルムの少なくとも一方の面をプラズマ処理するプラズマ処理手段若しくはイオンビーム処理するイオンビーム処理手段により構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1〜4に記載の発明に係る長尺樹脂フィルムの処理方法は、
長尺樹脂フィルムを搬送する隣り合う1組のロール・ロール間の搬送路上に加熱手段と冷却手段を連続して設け、かつ、隙間を介し対向して配置された1組の冷却板により上記冷却手段を構成すると共に、一方の上記ロールから送り出された長尺樹脂フィルムを加熱手段で加熱処理し、次いで、上記冷却手段を構成する冷却板間の上記隙間を通過させて長尺樹脂フィルムを冷却処理した後、冷却された長尺樹脂フィルムを他方の上記ロールに接触させて搬送することを特徴としている。
【0016】
そして、この長尺樹脂フィルムの処理方法によれば、一方のロールから送り出されて加熱処理された長尺樹脂フィルムを、冷却板間の隙間を通過させて冷却し、冷却された長尺樹脂フィルムを他方のロールに接触させて搬送させており、ロールとの接触時における長尺樹脂フィルムの収縮が防止されて静電気の発生が抑制され、かつ、ロールの温度上昇も抑制されるため、ロール・トゥ・ロール方式における搬送系の制御を複雑にすることなく、減圧雰囲気下で加熱処理された長尺樹脂フィルムのロールへの巻き付きや斜行等の問題を解消することが可能となる。
【0017】
次に、請求項5〜8に記載の発明に係る長尺樹脂フィルムの処理装置は、
ロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する隣り合う1組のロール・ロール間の搬送路上に加熱手段と冷却手段が連続して設けられ、この冷却手段が隙間を介し対向して配置された1組の冷却板により構成されると共に、一方の上記ロールから送り出されて加熱処理された長尺樹脂フィルムを冷却板間の上記隙間を通過させた後に他方のロールに接触させて搬送するようになっている。
【0018】
そして、この処理装置においても、一方のロールから送り出されて加熱処理された長尺樹脂フィルムを、冷却板間の隙間を通過させて冷却し、冷却された長尺樹脂フィルムを他方のロールに接触させて搬送させる構造になっており、ロールとの接触時における長尺樹脂フィルムの収縮が防止されて静電気の発生を抑制でき、かつ、ロールの温度上昇も抑制できるため、ロール・トゥ・ロール方式における搬送系の制御を複雑にすることなく、減圧雰囲気下で加熱処理された長尺樹脂フィルムのロールへの巻き付きや斜行等の問題を解消することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
まず、本発明に係る長尺樹脂フィルムの処理方法は、巻出軸に巻回された長尺樹脂フィルムをロール・トゥ・ロール方式により搬送して巻取軸に巻取ると共に、上記巻出軸と巻取軸間の搬送路上において搬送中の長尺樹脂フィルムに対し減圧雰囲気下で加熱処理する長尺樹脂フィルムの処理方法において、長尺樹脂フィルムを搬送する隣り合う1組のロール・ロール間の搬送路上に加熱手段と冷却手段を連続して設け、かつ、隙間を介し対向して配置された1組の冷却板により上記冷却手段を構成すると共に、一方の上記ロールから送り出された長尺樹脂フィルムを加熱手段で加熱処理し、次いで、上記冷却手段を構成する冷却板間の上記隙間を通過させて長尺樹脂フィルムを冷却処理した後、冷却された長尺樹脂フィルムを他方の上記ロールに接触させて搬送することを特徴とする。
【0021】
そして、この処理方法によれば、隣り合う1組のロール・ロール間の一方のロールから送り出されて加熱処理された長尺樹脂フィルムを、冷却板間の隙間を通過させて冷却し、冷却された長尺樹脂フィルムを他方のロールに接触させて搬送しているため、ロールとの接触時における長尺樹脂フィルムの収縮が防止されて静電気の発生を抑制することができ、これに伴い長尺樹脂フィルムのロールへの巻き付きが防止される。例えば、200℃を超える温度に加熱された長尺樹脂フィルムが、冷却されることなく室温状態のロールに接触した場合、放射により長尺樹脂フィルムは200℃〜150℃程度に冷却され、かつ、上記ロールに接触しながら室温付近の温度まで冷却されると、急激に収縮して静電気が発生する。しかし、上記冷却板間の隙間を通過させて長尺樹脂フィルムを予め100℃以下に冷却した場合、冷却後の長尺樹脂フィルムが室温状態のロールに接しても急激に収縮することは無く、静電気の発生も無いため、長尺樹脂フィルムのロールへの巻き付きを防止することができる。
【0022】
また、本発明に係る長尺樹脂フィルムの処理方法では、隣り合う1組のロール・ロール間の上記他方のロールに、冷却板間の隙間を通過させて冷却した長尺樹脂フィルムを接触させて搬送しているため、ロールの温度上昇も抑制することができる。例えば、長尺樹脂フィルムの長さが500m以上でかつ上記冷却手段が設けられていない場合、加熱された長尺樹脂フィルムによりロールが継続して加熱されることになるため、ロールの温度が上昇してロールが熱膨張し、搬送経路を歪める懸念がある。しかし、本発明の処理方法では、冷却板間の隙間を通過させて長尺樹脂フィルムを予め冷却しているため、上記懸念が解消され、かつ、ロールにかかる熱負荷も抑制されることから長時間に亘って安定した長尺樹脂フィルムの処理が可能となる。尚、上記ロールに接する前の長尺樹脂フィルムの温度は上述したように100℃以下に抑えることが望ましい。長尺樹脂フィルムの温度が100℃以下に抑えられれば、上記他方のロールの温度も100℃以上には加熱されないからである。
【0023】
上記加熱処理としては、長尺樹脂フィルムを乾燥させる乾燥処理、および、長尺樹脂フィルムの少なくとも一方の面に対するプラズマ処理若しくはイオンビーム処理が挙げられる。
【0024】
次に、本発明に係る長尺樹脂フィルムの処理装置について説明する。まず、この処理装置は、図1に示すように真空チャンバー(減圧室)4と、この真空チャンバー4内に設けられ巻回した長尺樹脂フィルム11を巻出す巻出軸5と、真空チャンバー4内に設けられ上記巻出軸5から巻出された長尺樹脂フィルム11を巻取る巻取軸6と、上記巻出軸5と巻取軸6間の搬送路上に設けられかつロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する複数のロール7a、7b、7c、7dと、隣り合う1組のロール7b・ロール7c間の搬送路上に連続して設けられた加熱手段と冷却手段を備えている。また、上記加熱手段は、隙間を介し対向して配置された1組のヒーター9a、9bにより構成され、上記冷却手段は、隙間を介し対向して配置された1組の冷却板13a、13bにより構成されている。
【0025】
また、上記真空チャンバー4内は、真空チャンバー4に取り付けられたバルブ3を介し真空ポンプ1、2により排気されて減圧雰囲気となっている。尚、真空チャンバー4の形状は任意であり、10−4Pa〜10−1Paの減圧雰囲気を保持できればよい。
【0026】
そして、本発明に係る長尺樹脂フィルムの処理装置において、上記長尺樹脂フィルム11は巻出軸5から巻出され、ロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成するロール7a、7bに沿って搬送されると共に、ロール7bから送り出されて加熱手段であるヒーター9a、9bにより加熱乾燥される。加熱乾燥後の長尺樹脂フィルム11は、連続して(すぐに)冷却板13a、13bの隙間を通過して冷却され、冷却された長尺樹脂フィルム11は上記ロール7cに接触し、かつ、このロール7cとロール7dに沿って搬送された後、巻取軸6に巻き取られる。すなわち、長尺樹脂フィルム11は、隣り合う1組のロール7b・ロール7c間の一方のロール7bを離れた後、ヒーター9a、9bで加熱乾燥され、かつ、冷却板13a、13bで放射による冷却がなされた後、他方のロール7cに接触して搬送される。上記長尺樹脂フィルム11は、ヒーター9a、9bと冷却板13a、13bの各隙間を通過する間、ロール等他の物とは非接触となる。そして、加熱乾燥と冷却処理が連続して行なわれ、かつ、ロール等他の物と非接触としているのは、加熱乾燥と冷却処理の間にロール等が長尺樹脂フィルム11に接触した場合、上述した長尺樹脂フィルム11のロールへの巻き付きや長尺樹脂フィルム11の斜行等の問題を生ずるからである。
【0027】
ここで、ロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成するロール7a、ロール7b、ロール7cおよびロール7dはいずれも動力を有しない従動ロールである。また、隣り合う1組のロール7bおよびロール7cは、長尺樹脂フィルム11が、ヒーター9a、9bの隙間を通過しかつ冷却板13a、13bの隙間を通過できるような位置関係が維持されるように設置されている。上記加熱手段としてのヒーター9a、9bには公知の赤外線ヒーターが適用できるが、長尺樹脂フィルムを加熱できれば赤外線ヒーター以外の公知の加熱手段を用いることができる。また、ヒーター9aの表面に熱電対10を付設し、ヒーター9aの温度が一定になるように制御することもできる。勿論ヒーター9bにも熱電対を付設することができる。更に、ヒーター9a、9bの隙間から搬出された長尺樹脂フィルム11の表面を放射温度計(図示せず)で測定し、上記熱電対の測定値と合わせてヒーターの制御を行うことも可能である。ヒーター制御には、公知のPID制御等を用いることができる。
【0028】
ところで、本発明に係る長尺樹脂フィルムの処理方法において、加熱手段における温度条件や搬送条件は長尺樹脂フィルムの種類によって異なるため、使用する長尺樹脂フィルムによって上記条件を決めておく必要がある。
【0029】
上記ヒーター9a、9bの寸法は、長尺樹脂フィルム11の種類、巾寸法、搬送速度等に応じて乾燥できるように設定すればよい。すなわち、ヒーター9a、9bにおける長尺樹脂フィルム11の長手方向の長さは、長尺樹脂フィルム11に対しヒーター9a、9bの隙間を通過する間に長尺樹脂フィルム11が水等を除去できる熱量を与えられる長さがあればよい。また、ヒーター9a、9bにおける長尺樹脂フィルム11の巾方向の長さは、長尺樹脂フィルム11の巾方向全体を覆うことができれば、長尺樹脂フィルム11の巾方向での乾燥ムラを防ぐことができる。ヒーター9a、9bと長尺樹脂フィルム11の配置関係は、互いに平行となるようにすることが好ましい。尚、ヒーター9a、9bと長尺樹脂フィルム11間における放射熱のやり取りが可能となる距離については、一般的な長尺樹脂フィルムにおける処理装置の寸法の範囲に設定するのであれば影響は少ない。ヒーター9a、9bと長尺樹脂フィルム11間の距離をあえて定めるのであれば10cm以内である。
【0030】
また、効率良く長尺樹脂フィルム中の水分や種々の有機溶媒を除去するために、減圧雰囲気下において加熱処理を行うことを要する。これは、大気圧下に較べて減圧雰囲気下では水や有機溶媒の沸点が降下するため、長尺樹脂フィルムの温度上昇が同じでも速く沸点に到達し、しかも、減圧雰囲気下では長尺樹脂フィルム表面近傍に存在する気体が希薄であるため、揮発した水や有機溶媒が再び長尺樹脂フィルム中に拡散する量が極めて少なくなる。乾燥での減圧雰囲気は上述した10−4Pa〜10−1Paの範囲が望ましい。尚、加熱乾燥前後の長尺樹脂フィルムの水分量や有機溶媒量の変化は、公知の熱分析方法や化学分析方法により知ることができ、真空乾燥装置の操業上の参考とすることができる。
【0031】
次に、加熱された長尺樹脂フィルムをロールに接触させる以前に上述した冷却板で冷却するには、減圧雰囲気下であるため、雰囲気の物性による伝熱、対流による伝熱が著しく低下し、放射による伝熱が支配的になってくる。このため、減圧雰囲気下での冷却では放射による伝熱を考慮する必要がある。そこで、加熱された長尺樹脂フィルムをロールに接触させる以前に上述した冷却板の隙間を通過させ、長尺樹脂フィルムからの放射による熱エネルギーを吸収して冷却する際の効率が重要になる。
【0032】
一組の冷却板は、長尺樹脂フィルムの表裏両面を挟むように配置されている。長尺樹脂フィルムの表裏両面を挟むように冷却板を配置するのは、加熱された長尺樹脂フィルムの冷却効率を高めるためである。そして、長尺樹脂フィルムと対向する冷却板の表面を放射率の高い材料で構成することが望ましく、また、冷却板自体は熱伝導率の高い物質で構成することが望ましい。
【0033】
そして、上記冷却板の熱伝導率は40Wm−1−1以上が望ましい。かかる熱伝導率の物質は、鉄、アルミニウム、銅、銀等がある。冷却板の熱伝導率を高めることで、冷却板の冷却の効率を高めることができる。
【0034】
また、長尺樹脂フィルムと対向する冷却板表面の放射率は、0.6以上であることが望ましく、より望ましくは0.8以上である。例えば、放射率0.8以上を実現するには、黒色クロムめっき処理、黒色アルマイト処理、カーボンブラック被膜の形成等公知の方法により実現することができる。尚、上記放射率の測定方法には、公知の放射率測定計を用いることができる。
【0035】
次に、本発明に係る長尺樹脂フィルムの処理装置において、上記冷却板13a、13bは、長尺樹脂フィルム11の対向面とは反対側である裏面または冷却板の内部に冷媒が循環する冷却管(図示せず)を備えている。冷却管は、真空チャンバー4の外部から冷媒を供給する冷媒供給機構(図示せず)に接続されている。また、冷媒としては、水、有機溶媒、気体等適宜選択できる。
【0036】
また、冷却板13a、13bにおける長尺樹脂フィルム11の長手方向の長さ寸法については、長尺樹脂フィルム11の加熱条件や搬送条件により異なるが、長尺樹脂フィルム11を所望の温度以下まで冷却できる長さがあればよく任意である。また、冷却板13a、13bにおける長尺樹脂フィルム11の巾方向の寸法については、長尺樹脂フィルム11の巾方向全体を覆うことができれば任意であり、長尺樹脂フィルム11の巾方向での冷却ムラを防ぐことができる。また、冷却板13a、13bと長尺樹脂フィルム11間の距離については、上述したヒーター9a、9bと長尺樹脂フィルム11間の距離と同様の理由から適宜設定することができる。また、冷却板13a、13bと長尺樹脂フィルム11の配置関係は、互いに平行となるようにすることが好ましい。冷却板13a、13bの隙間を通過した長尺樹脂フィルム11の表面温度を測定するため、放射温度計(図示せず)を設けてもよい。
【0037】
また、本発明に係る長尺樹脂フィルムの処理装置において、ヒーター9a、9bの放射熱により冷却板13a、13bが加熱されないようにするため、ヒーター9aと冷却板13aの間、および、ヒーター9bと冷却板13bの間にそれぞれ断熱板(図示せず)を設けてもよい。
【0038】
ここで、図1に示す本発明に係る長尺樹脂フィルムの処理装置において、隣り合う1組のロール7bとロール7c間の距離を2m以内にすることが好ましい。尚、ロール間距離とは、長尺樹脂フィルム11がロール7bの表面から離れてロール7cの表面に接するまでの距離である。ロール7bとロール7c間の距離を規定する理由は、長尺樹脂フィルム11の搬送時における張力との関係もあるが、熱で軟化した長尺樹脂フィルム11に張力が加わることによる変形を防止するためである。また、図1の処理装置においては、ロール7bとロール7c間の搬送路上に加熱手段と冷却手段が設けられ、これ等加熱手段と冷却手段を通過する長尺樹脂フィルム11の搬送方向が水平方向に設定されているが、加熱手段と冷却手段を通過する長尺樹脂フィルム11の搬送方向を垂直方向に設定してもよい。加熱手段と冷却手段を通過する長尺樹脂フィルム11の搬送方向が垂直方向に設定された場合、加熱乾燥による長尺樹脂フィルム11の軟化に際し、重力による長尺樹脂フィルム11の変形を防止することができる。そして、隣り合う1組のロール7bとロール7c間のより望ましい距離については、ロール7bとロール7cが垂直方向に配置されて加熱手段と冷却手段を通過する長尺樹脂フィルム11の搬送方向が垂直方向に設定される場合には、軟化した長尺樹脂フィルム11の重力による変形が起こり難いため2m以内、ロール7bとロール7cが水平方向に配置されて加熱手段と冷却手段を通過する長尺樹脂フィルム11の搬送方向が水平方向に設定される(図1の場合)場合には、軟化した長尺樹脂フィルム11の重力による変形が起こり易いため1m以内である。
【0039】
次に、図2のグラフ図は、対向して配置した1組の冷却板の隙間を長尺樹脂フィルムが通過した場合、長尺樹脂フィルム表面のある一箇所の温度変化をシミュレーションしたものである。すなわち、図1に示す本発明に係る処理装置と同様の装置において、長尺樹脂フィルム表面のある一箇所が、冷却板13aと冷却板13bの隙間を通過する過程での温度変化をシミュレーションしたグラフ図である。長尺樹脂フィルムの放射率を0.7とし、冷却板13aと冷却板13bの温度を25℃としている。尚、上記処理装置において冷却板の温度を制御するには所定の温度の冷媒を供給すればよい。また、冷却板13aと冷却板13bを設けない場合の値は、長尺樹脂フィルムが250℃に加熱された後、1秒ごとの温度を測定した実測値(図2において符号23で示すグラフ参照)である。
【0040】
そして、長尺樹脂フィルムの放射熱を無限平行平板間における放射伝熱の関係式(1)より算出する。シミュレーションは、関係式(1)に基づき0.1秒毎に1cm四方(面積1cm)範囲での長尺樹脂フィルムの放射熱における熱量を算出し、温度T(長尺樹脂フィルムの温度)より放射熱の熱量から算出される温度低下値Δtを引いた値を0.1秒後の長尺樹脂フィルムの温度として実施した。関係式(2)は、温度T(長尺樹脂フィルムの温度)で0.1秒間に放射する熱量から算出される温度低化値tと0.1秒後の長尺樹脂フィルムの温度の関係を示すものである。図2は、関係式(2)より算出された結果である。尚、関係式(1)において、数値2を掛けているのは、2枚の冷却板すなわち冷却板13aと冷却板13bを用いたためである。
【0041】
放射熱=[1/(1/ε+1/ε−1)]×σ×(T −T)×2(1)
ε:長尺樹脂フィルムの放射率
ε:冷却板の放射率
σ:シュテファン−ボルツマン定数 5.67×10−8J/(sm
:長尺樹脂フィルムの温度
:冷却板の温度(冷媒温度25℃ 298K)
長尺樹脂フィルムの0.1秒後の温度=T−Δt (2)
Δt:0.1秒間、1cm四方の範囲で長尺樹脂フィルムがTでの放射熱の熱量から算出される温度低下値
図2のグラフ図に示されたシミュレーション結果(符号21で示すグラフ参照)によれば、冷却板の温度を25℃として、250℃まで加熱された長尺樹脂フィルムを約4秒間で100℃まで冷却することができる。上記処理装置では、長尺樹脂フィルムの搬送条件にもよるが、冷却板として厚さ5mmの銅板を用い、片面に黒色クロムめっきを施し、もう一方の面に銅配管をロウ付けし銅配管に25℃の冷媒を流すことで250℃まで加熱された長尺樹脂フィルムを約4秒間で100℃まで冷却できると推定できる。尚、符号21で示すグラフは冷却板の放射率を0.95とした場合のシミュレーション結果、符号22で示すグラフは冷却板の放射率を0.6とした場合のシミュレーション結果である。
【0042】
一方、冷却板を設けない場合、図2の符号23に示されるように100℃まで冷却するのに15秒も要することが確認される。冷却板を設けずに加熱された長尺樹脂フィルムを放射熱で冷却しようとすると、時間をかける必要があり、結果的に長尺樹脂フィルムの搬送速度を下げる必要が生ずることから処理効率が低下してしまう。
【0043】
次に、本発明に係る処理方法に適した長尺樹脂フィルムは特に限定されず、例えば、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンテレナフタレート等のポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンテレフタレート系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム、液晶ポリマー系フィルム等の公知の長尺樹脂フィルムが挙げられる。
【0044】
尚、本発明の実施の形態に係る上記処理方法並びに処理装置において、上記加熱処理として長尺樹脂フィルムの加熱乾燥処理が例示されているが、この加熱処理については、長尺樹脂フィルムの少なくとも一方の面に対するプラズマ処理であってもよい。例えば、アルゴンと酸素の混合ガスまたはアルゴンと窒素の混合ガスによる減圧雰囲気下において放電を行うことにより、酸素プラズマまたは窒素プラズマを発生させて長尺樹脂フィルムの表面処理を施すことができる。かかる表面処理を行うのは、その後における金属等の成膜工程での長尺樹脂フィルムと金属等膜の密着性を向上させるためである。プラズマ処理は、次工程の膜の形成に応じて、長尺樹脂フィルムの一方の面または両面に施すことができる。プラズマは酸素や窒素に限定されず適宜選択することができる。プラズマ処理を行うと、長尺樹脂フィルムは加熱される。長尺樹脂フィルムの搬送条件やプラズマ処理条件で異なるが、プラズマ処理を行うと長尺樹脂フィルムの温度は200℃以上になることがある。そこで、プラズマ処理の後にも長尺樹脂フィルムの冷却が必要になる。
【0045】
尚、長尺樹脂フィルムにプラズマ処理を施す場合、図1の処理装置においてヒーター9a、9bの代わりに公知の放電電極を設け、放電電極に600V〜4000Vを印加することで可能となる。プラズマ処理の際の雰囲気圧力は0.1Pa〜100Paの範囲で適宜選択できる。
【0046】
また、上記加熱処理については、長尺樹脂フィルムの少なくとも一方の面に対するイオンビーム処理であってもよい。長尺樹脂フィルム表面にイオンビームを照射することで、上述したプラズマ処理と同様の効果が得られる。イオンビーム処理を行うには、イオンビーム照射を行うイオン源に強い磁場を印加した磁場ギャップ部でプラズマ放電を発生させ、プラズマ中の陽イオンを陽極による電界でイオンビームとして放出すればよい。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0048】
まず、図1の処理装置を用いて長尺樹脂フィルムの加熱乾燥を実施した。ロール7bとロール7c間の距離を1mとした。ヒーター9aとヒーター9bの長さ(長尺樹脂フィルムにおける搬送方向の長さ)寸法を50cmとし、かつ、ヒーター9a、9bと長尺樹脂フィルム11との距離を5cmとした。また、冷却板13aと冷却板13bの長さ(長尺樹脂フィルムにおける搬送方向の長さ)寸法を40cmとし、かつ、冷却板13a、13bと長尺樹脂フィルムとの距離を2cmとした。また、冷却板13aと冷却板13bは厚さ5mmの銅板で構成し、対向面は黒色アルマイト処理されてその対向面の放射率は0.95であることが放射率計で確認されている。また、冷却板13aと冷却板13bの対向面でない裏面には冷却管を蛇行させ、ろう付けした。冷却管には真空チャンバー4の外部から供給される温度25℃の冷却水を供給し循環させた。長尺樹脂フィルムの斜行や巻ずれは目視で確認した。長尺樹脂フィルムの表面温度は放射温度計で測定した。尚、図1中、符号8は真空計を示している。
[実施例1]
長尺樹脂フィルム11として、厚さ38μm、幅500mmのポリイミド系フィルム(東レ・デュポン社製 商品名カプトン)を巻出軸5に長さ1000m取り付けた。
【0049】
そして、真空チャンバー4内を10−2Paまで減圧した後、上記ポリイミド系フィルムを4m/分の条件で搬送した。一方、ヒーター9a表面に取り付けられた熱電対の温度が450℃になるよう温度制御し、この条件下においてポリイミド系フィルムを上記ヒーター9a、9bの隙間を通過させて加熱乾燥し、続いて、冷却板13a、13bの隙間を通過させて冷却した後、ロール7cに接触させながら加熱乾燥処理されたポリイミド系フィルムを巻取軸6に巻き取った。
【0050】
加熱乾燥処理されたポリイミド系フィルムが斜行して巻きずれることはなく、かつ、ロール7c近傍に付設された表面電位計12でポリイミド系フィルムの表面電位を測定したところ±1kv以下であり、長さ1000mのポリイミド系フィルムを安定して加熱乾燥処理することができた。また、冷却板13aを通過する直前のポリイミド系フィルムの表面温度は250℃、通過後は75℃であり、冷却板の通過に要する時間は6秒であった。
[実施例2]
長尺樹脂フィルム11として、厚さ35μm、幅500mmのポリイミド系フィルム(宇部興産社製 商品名ユーピレックス)を巻出軸5に長さ1000m取り付けた。
【0051】
そして、真空チャンバー4内を10−2Paまで減圧した後、上記ポリイミド系フィルムを4m/分の条件で搬送した。一方、ヒーター9a表面に取り付けられた熱電対の温度が500℃になるよう温度制御したこと以外は実施例1と同様の条件でポリイミド系フィルムを加熱乾燥処理した。
【0052】
加熱乾燥処理されたポリイミド系フィルムが斜行して巻きずれることはなく、かつ、ロール7c近傍に付設された表面電位計12でポリイミド系フィルムの表面電位を測定したところ±1kv以下であり、長さ1000mのポリイミド系フィルムを安定して加熱乾燥処理することができた。また、冷却板13aを通過する直前のポリイミド系フィルムの表面温度は250℃、通過後は75℃であった。
[実施例3]
長尺樹脂フィルム11として、厚さ16μm、幅250mmのアラミドフィルム(帝人アドバンストフィルム社製 商品名アラミカ)を巻出軸5に長さ1000m取り付けた。
【0053】
そして、真空チャンバー4内を10−2Paまで減圧した後、上記アラミドフィルムを4m/分の条件で搬送した。一方、ヒーター9a表面に取り付けられた熱電対の温度が400℃になるよう温度制御したこと以外は実施例1と同様の条件でアラミドフィルムを加熱乾燥処理した。
【0054】
加熱乾燥処理されたアラミドフィルムが斜行して巻きずれることはなく、かつ、ロール7c近傍に付設された表面電位計12でアラミドフィルムの表面電位を測定したところ±1kv以下であり、長さ1000mのアラミドフィルムを安定して加熱乾燥処理することができた。また、冷却板13aを通過する直前のアラミドフィルムの表面温度は250℃、通過後は75℃であった。
[比較例1]
冷却板13a、13bを設置しなかったこと以外は実施例1と同様の条件で、厚さ38μm、幅500mm、長さ1000mのポリイミド系フィルム(東レ・デュポン社製 商品名カプトン)を加熱乾燥処理したところ、200m以降にポリイミド系フィルムの斜行が確認され、かつ、この斜行に起因して巻取軸6に巻取ったポリイミド系フィルムに巻きずれが確認された。また、ロール7cを通過する直前のポリイミド系フィルムの表面温度(すなわち、ヒーター9a、9bを通過後、6秒後のポリイミド系フィルムの表面温度)は160℃であった。
[比較例2]
冷却板13a、13bを設置しなかったこと以外は実施例2と同様の条件で、厚さ35μm、幅500mm、長さ1000mのポリイミド系フィルム(宇部興産社製 商品名ユーピレックス)を加熱乾燥処理したところ、500m以降にポリイミド系フィルムの斜行が確認され、かつ、この斜行に起因して巻取軸6に巻取ったポリイミド系フィルムに巻きずれが確認された。ロール7cを通過する直前のポリイミド系フィルムの表面温度は160℃であった。
[比較例3]
冷却板13a、13bを設置しなかったこと以外は実施例3と同様の条件で、厚さ16μm、幅250mm、長さ1000mのアラミドフィルム(帝人アドバンストフィルム社製 商品名アラミカ)を加熱乾燥処理したところ、処理したアラミドフィルムの所々に薄い皺が発生していた。また、ロール7c近傍に付設された表面電位計12でアラミドフィルムの表面電位を測定したところ−10kV〜−1kVの値を示した。
【0055】
そして、巻取軸6に巻取ったアラミドフィルムを次の成膜工程で巻出した際、静電気によるフィルムの貼り付きが発生し、搬送中のアラミドフィルムがばたついて安定して搬送させることが困難であった。また、上記ロール7cを通過する直前のアラミドフィルムの表面温度は160℃であった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係る長尺樹脂フィルムの処理方法によれば、ロール・トゥ・ロール方式における搬送系の制御を複雑にすることなく、減圧雰囲気下で加熱処理された長尺樹脂フィルムのロールへの巻き付きや斜行等の問題を解消することができるため、長尺樹脂フィルム上に金属やその酸化物等を成膜して電子部品や光学部品等の材料とする産業分野において広く利用される可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態に係る長尺樹脂フィルム処理装置の概略構成説明図。
【図2】1組の冷却板で構成された冷却手段を具備する本発明に係る長尺樹脂フィルム処理装置を用いて長尺樹脂フィルムを加熱処理した際のフィルム表面の温度変化をシュミレーションした結果を示すグラフ図、および、上記冷却板を具備しない比較例に係る長尺樹脂フィルム処理装置を用いて長尺樹脂フィルムを加熱処理した際の上記フィルム表面の温度変化を実測した結果を示すグラフ図。
【符号の説明】
【0058】
1 真空ポンプ
2 真空ポンプ
3 バルブ
4 真空チャンバー
5 巻出軸
6 巻取軸
7a,7b,7c,7d ロール
8 真空計
9a,9b ヒーター
10 熱電対
11 長尺樹脂フィルム
12 表面電位計
13a,13b 冷却板
21 冷却板の放射率を0.95とした場合のシミュレーション結果を示すグラフ
22 冷却板の放射率を0.6とした場合のシミュレーション結果を示すグラフ
23 冷却板を用いない場合の実測値を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻出軸に巻回された長尺樹脂フィルムをロール・トゥ・ロール方式により搬送して巻取軸に巻取ると共に、上記巻出軸と巻取軸間の搬送路上において搬送中の長尺樹脂フィルムに対し減圧雰囲気下で加熱処理する長尺樹脂フィルムの処理方法において、
長尺樹脂フィルムを搬送する隣り合う1組のロール・ロール間の搬送路上に加熱手段と冷却手段を連続して設け、かつ、隙間を介し対向して配置された1組の冷却板により上記冷却手段を構成すると共に、一方の上記ロールから送り出された長尺樹脂フィルムを加熱手段で加熱処理し、次いで、上記冷却手段を構成する冷却板間の上記隙間を通過させて長尺樹脂フィルムを冷却処理した後、冷却された長尺樹脂フィルムを他方の上記ロールに接触させて搬送することを特徴とする長尺樹脂フィルムの処理方法。
【請求項2】
上記冷却手段を構成する冷却板の長尺樹脂フィルムと対向する面の放射率が、0.60以上であることを特徴とする請求項1に記載の長尺樹脂フィルムの処理方法。
【請求項3】
上記加熱処理が、長尺樹脂フィルムの乾燥処理であることを特徴とする請求項1または2に記載の長尺樹脂フィルムの処理方法。
【請求項4】
上記加熱処理が、長尺樹脂フィルムの少なくとも一方の面に対するプラズマ処理若しくはイオンビーム処理であることを特徴とする請求項1または2に記載の長尺樹脂フィルムの処理方法。
【請求項5】
減圧室と、この減圧室内に設けられ巻回した長尺樹脂フィルムを巻出す巻出軸と、減圧室内に設けられ上記巻出軸から巻出された長尺樹脂フィルムを巻取る巻取軸と、上記巻出軸と巻取軸間の搬送路上に設けられかつロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する複数のロールと、搬送中の長尺樹脂フィルムを加熱処理する加熱手段を備える長尺樹脂フィルムの処理装置において、
上記ロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を構成する隣り合う1組のロール・ロール間の搬送路上に加熱手段と冷却手段が連続して設けられ、この冷却手段が隙間を介し対向して配置された1組の冷却板により構成されると共に、一方の上記ロールから送り出されて加熱処理された長尺樹脂フィルムを冷却板間の上記隙間を通過させた後に他方のロールに接触させて搬送するようになっていることを特徴とする長尺樹脂フィルムの処理装置。
【請求項6】
上記冷却手段を構成する冷却板の長尺樹脂フィルムと対向する面の放射率が、0.60以上であることを特徴とする請求項5に記載の長尺樹脂フィルムの処理装置。
【請求項7】
上記加熱手段が、長尺樹脂フィルムを乾燥させる乾燥手段により構成されていることを特徴とする請求項5または6に記載の長尺樹脂フィルムの処理装置。
【請求項8】
上記加熱手段が、長尺樹脂フィルムの少なくとも一方の面をプラズマ処理するプラズマ処理手段若しくはイオンビーム処理するイオンビーム処理手段により構成されていることを特徴とする請求項5または6に記載の長尺樹脂フィルムの処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−89413(P2010−89413A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262707(P2008−262707)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】