説明

閃光放電管

【課題】電極に設置された焼結体の消耗を抑制し、寿命を延伸化することが可能な閃光放電管を提供する。
【解決手段】希ガスが充填された内部空間を有するガラスバルブと、該ガラスバルブの内部空間に、互いに対向するように設置された第1および第2の電極とを有する閃光放電管であって、前記第1の電極は、金属棒と、中心に穴部を有する略ドーナツ状の焼結体とを有し、前記金属棒は、前記ドーナツ状の焼結体の穴部に、前記金属棒が貫通するようにして、前記ドーナツ状の焼結体に取り付けられ、前記焼結体は、導電性マイエナイト化合物で構成されることを特徴とする閃光放電管。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、夜間の写真撮影の際等に使用される閃光放電管に関する。
【背景技術】
【0002】
閃光放電管は、「フラッシュ」とも称され、デジタルカメラ、デジタルムービーおよびカメラ付き携帯電話など、撮影装置用の照明として、幅広く使用されている。
【0003】
最近では、閃光放電管が搭載される撮影装置の小型化に対する要望が高まっており、これに伴い、閃光放電管についても、その小型化が求められてきている。
【0004】
ちなみに、一般的な小型閃光放電管は、内径1mm、外径2mm、およびアーク長10mm程度の寸法を有するが、特許文献1には、各寸法を最適化させることにより、これよりも小さな閃光放電管を構成することが可能であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−142075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の閃光放電管は、ガラス封体の内部に設置された一組の電極を有し、一方の電極には、ドーナツ状の焼結体が取り付けられている。このようなドーナツ状の焼結体を使用することにより、通常、エミッタを形成、配置することが難しい小さな空間内においても、エミッタを容易かつ適正に配置することが可能となる。
【0007】
ところで、前述のドーナツ状の焼結体は、セシウムを含浸させることにより構成される。
【0008】
しかしながら、このような焼結体は、放電の際の消耗が激しいという問題がある。これは、閃光放電管の小型化に伴い、アーク長が短くなり、これにより、放電の際のランプ電流が上昇するためである。また、焼結体の形状をドーナツ状に形成しても、狭小化された電極空間には、物理的に少量の焼結体しか配置することができない。このため、焼結体は、容易に消耗し、枯渇してしまう。
【0009】
このように、従来の小型閃光放電管では、焼結体の消耗と、これによる小型閃光放電管の短寿命化が問題となっている。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みなされたものであり、本発明では、電極に設置された焼結体の消耗を抑制し、寿命を延伸化することが可能な閃光放電管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、
希ガスが充填された内部空間を有するガラスバルブと、該ガラスバルブの内部空間に、互いに対向するように設置された第1および第2の電極とを有する閃光放電管であって、
前記第1の電極は、金属棒と、中心に穴部を有する略ドーナツ状の焼結体とを有し、前記金属棒は、前記ドーナツ状の焼結体の穴部に、前記金属棒が貫通するようにして、前記ドーナツ状の焼結体に取り付けられ、
前記焼結体は、導電性マイエナイト化合物で構成されることを特徴とする閃光放電管が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、電極に設置された焼結体の消耗を抑制し、寿命を延伸化することが可能な閃光放電管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による閃光放電管の一構成例を概略的に示した断面図である。
【図2】本発明による閃光放電管の電極の先端部分を模式的に示した拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の構成を説明する。
【0015】
図1には、本発明による閃光放電管の一構成例を概略的に示す。
【0016】
図1に示すように、本発明による閃光放電管100は、内部空間120を有する直管形状のガラスバルブ110と、このガラスバルブ110の内部空間120に、互いに対向するように設置された第1および第2の電極130、160とを有する。内部空間120には、例えば、キセノンガス等の希ガスが充填される。
【0017】
第1の電極(陰極)130は、モリブデンまたはタングステン等で構成された第1の金属棒150と、中心に穴部142を有するドーナツ状の焼結体140とを有する。第1の金属棒150は、ドーナツ状の焼結体140の穴部142に、第1の金属棒150が貫通するようにして、ドーナツ状の焼結体140に取り付けられている。
【0018】
図2には、明確化のため、第1の電極130の先端部分の概略的な拡大図を示す。図2に示すように、ドーナツ状の焼結体140は、中心軸が第1の金属棒150の中心軸と略同軸となるようにして、第1の金属棒150に設置される。また、第1の金属棒150の外径と、ドーナツ状の焼結体140の穴部142の直径は、実質的に等しくなっており、このため、両者の間に隙間は生じていない。
【0019】
なお、第1の金属棒150の焼結体140が設置されていない側の端部は、ガラスバルブ110の一端を気密貫通しており、これにより、第1の金属棒150がガラスバルブ110の外部まで導出される。
【0020】
第1の電極130に、ドーナツ状の焼結体140を取り付けることにより、電極の配置空間を効率的に利用して、限られた空間内でも放電を生じ易くすることができる。
【0021】
第2の電極(陽極)160は、モリブデンまたはタングステン等で構成された第2の金属棒170で構成される。第2の金属棒170も、一端がガラスバルブ110の他端を気密貫通しており、これにより、第2の金属棒170がガラスバルブ110の外部まで導出される。
【0022】
ここで、特許文献1に記載の閃光放電管の場合、第1の電極に設置される焼結体は、セシウムを含浸させることにより構成される。
【0023】
しかしながら、このようなセシウムが含浸された焼結体は、放電の際の消耗が激しいという問題がある。特に、閃光放電管が小さくなるとアーク長が短くなり、これにより、放電の際のランプ電流が上昇するため、閃光放電管の小型化に伴い、焼結体の消耗の問題は、より顕著になる。また、焼結体の消耗が激しくなると、放電が生じにくくなるため、閃光放電管の寿命が短くなってしまう。
【0024】
これに対して、本発明による閃光放電管100では、焼結体140が導電性マイエナイト化合物で構成されるという特徴を有する。
【0025】
ここで、「マイエナイト化合物」とは、ケージ(籠)構造を有する12CaO・7Al(以下「C12A7」ともいう)およびC12A7と同等の結晶構造を有する化合物(同型化合物)の総称である。
【0026】
また、本願において、「導電性マイエナイト化合物」とは、ケージ中に含まれる「フリー酸素イオン」の一部もしくは全てが電子で置換された、電子密度が1.0×1018cm−3以上のマイエナイト化合物を表す。全てのフリー酸素イオンが電子で置換されたときの電子密度は、2.3×1021cm−3である。
【0027】
なお、一般に、導電性マイエナイト化合物の電子密度は、マイエナイト化合物の電子密度により、2つの方法で測定される。電子密度は、1.0×1018〜3.0×1020cm−3未満の場合、導電性マイエナイト化合物粉末の拡散反射を測定し、クベルカムンク変換させた吸収スペクトルの2.8eV(波長443nm)の吸光度(クベルカムンク変換値)から算出される。この方法は、電子密度とクベルカムンク変換値が比例関係になることを利用している。以下、検量線の作成方法について説明する。
【0028】
電子密度の異なる試料を4点作成しておき、それぞれの試料の電子密度を、電子スピン共鳴(ESR)のシグナル強度から求めておく。ESRで測定できる電子密度は、1.0×1014〜1.0×1019cm−3程度である。クベルカムンク値とESRで求めた電子密度をそれぞれ対数でプロットすると比例関係となり、これを検量線とした。すなわち、この方法では、電子密度が1.0×1019〜3.0×1020cm−3では検量線を外挿した値である。
【0029】
電子密度は、3.0×1020〜2.3×1021cm−3の場合、導電性マイエナイト化合物粉末の拡散反射を測定し、クベルカムンク変換させた吸収スペクトルのピークの波長(エネルギー)から換算される。関係式は下記の式を用いた:

n=(−(Esp−2.83)/0.199)0.782

ここで、nは電子密度(cm−3)、Espはクベルカムンク変換した吸収スペクトルのピークのエネルギー(eV)を示す。
【0030】
また、本発明において、導電性マイエナイト化合物は、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)および酸素(O)からなるC12A7結晶構造を有している限り、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)および酸素(O)の中から選ばれた少なくとも1種の原子の一部が、他の原子や原子団に置換されていても良い。例えば、カルシウム(Ca)の一部は、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、セリウム(Ce)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)および銅(Cu)からなる群から選択される1以上の原子で置換されていても良い。また、アルミニウム(Al)の一部は、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、スカンジウム(Sc)、ランタン(La)、イットリウム(Y)、ヨーロピウム(Eu)、イットリビウム(Yb)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)およびテリビウム(Tb)からなる群から選択される1以上の原子で置換されても良い。また、ケージの骨格の酸素は、窒素(N)などで置換されていても良い。
【0031】
導電性マイエナイト化合物は、閃光放電管の電極に使用される一般的な金属材料に比べてスパッタに対する耐性が高く、放電を繰り返しても消耗し難いという特徴を有する。
【0032】
従って、導電性マイエナイト化合物で構成された焼結体140を用い、これを第1の電極130に設置することにより、従来のような焼結体の消耗の問題が有意に抑制される。また、これにより、本発明による閃光放電管100では、寿命を延伸化することが可能となる。
【0033】
ここで、導電性マイエナイト化合物で構成された焼結体140を製造する方法は、特に限られない。導電性マイエナイト化合物で構成された焼結体140は、例えば、以下の方法により、製造することができる。
【0034】
例えば、酸化カルシウム(CaO)および酸化アルミニウム(Al)を、モル比換算で12:7となるように秤量、混合し、この混合粉末を、大気中、1350℃まで加熱して白色塊体を得る。これを、アルミナ製スタンプミル等で大きさが約5mm程度に粉砕後、さらに、アルミナ製自動乳鉢など粗粉砕して白色粒子にする。さらに、ジルコニアボールと粉砕溶媒にイソプロピルアルコールを、ジルコニア製容器に入れ、ボールミル粉砕処理し、乾燥することによってイソプロピルアルコールを除去してマイエナイト化合物の微粉末を得る。
【0035】
得られた粉末は、有機物などのバインダーと混合し、金型成形、押し出し成形、射出成型などの一般的なセラミックス方法で成形する。成形体は、大気中1000℃でバインダーを除去後、蓋付カーボン容器内に、該カーボン容器と触れないように設置し、雰囲気調整ができる電気炉で還元熱処理する。例えば、窒素雰囲気下で、300℃/時間の昇温速度で1250〜1300℃の範囲で6〜12時間加熱保持した後、300℃/時間の降温速度で室温まで冷却させることにより、導電性マイエナイト化合物焼結体を製造することができる。
【0036】
なお、図1に示した閃光放電管は、例えば、内径1mm以下、外径2mm以下、アーク長10mm以下のような寸法を有しても良い。ただし、本発明の閃光放電管は、必ずしもそのような小型の閃光放電管に限られるものではないことに留意する必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明による閃光放電管は、デジタルカメラ、デジタルムービーおよびカメラ付き携帯電話など、小型の撮影装置用の照明光源として利用することができる。
【符号の説明】
【0038】
100 本発明による閃光放電管
110 ガラスバルブ
120 内部空間
130 第1の電極(陰極)
140 ドーナツ状の焼結体
142 穴部
150 第1の金属棒
160 第2の電極(陽極)
170 第2の金属棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希ガスが充填された内部空間を有するガラスバルブと、該ガラスバルブの内部空間に、互いに対向するように設置された第1および第2の電極とを有する閃光放電管であって、
前記第1の電極は、金属棒と、中心に穴部を有する略ドーナツ状の焼結体とを有し、前記金属棒は、前記ドーナツ状の焼結体の穴部に、前記金属棒が貫通するようにして、前記ドーナツ状の焼結体に取り付けられ、
前記焼結体は、導電性マイエナイト化合物で構成されることを特徴とする閃光放電管。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−104898(P2013−104898A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246619(P2011−246619)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】