説明

閉鎖性水域の水質浄化方法

【課題】移植植物の食害を抑制して、汚濁した閉鎖性水域の水質を移植植物により効率よく改善させることと、水質改善のために移植する植物の入手を容易、且つ、低コストにすることである。
【解決手段】植物プランクトンの増殖により汚濁した湖沼等の閉鎖性水域11の水底12に、抽水植物であるミクリ13の苗を植え付け、または、ミクリ13の苗を植栽した植生基盤を水中に配置する。ミクリ13は水深が深い水域においても生育することができるので、水底12または植生基盤上で拡大し、群落を形成する。ミクリ13の群落は、その茎葉や根茎の全てまたは大部分が水中に配置され、その浄化機能により閉鎖性水域11の植物プランクトンの増殖を抑制して水質を改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アオコ等の植物プランクトンの異常増殖により汚濁した湖沼等の閉鎖性水域の水質を改善する水質浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
湖沼等の閉鎖性水域には、生活排水や農業排水、下水処理水等の流入や落葉・底泥の堆積等により富栄養化してアオコ等を形成する植物プランクトンが増殖し、水質が汚濁しているところが今なお多くある。
【0003】
一方、沈水植物には、栄養塩吸収作用や懸濁物の付着、沈降、再懸濁防止作用、ミジンコなどの動物プランクトンや付着微生物の増加等の様々な水質浄化作用があることが知られている。また、小魚や底生動物が増加する等の生態系修復機能を持つことも知られている。
【0004】
そこで、汚濁した閉鎖性水域の水質を改善するための方法として、閉鎖性水域の水底にフサモ、イトモ、エビモ等の沈水植物の群落を形成、拡大させ、これらの沈水植物により水質を浄化させるようにした水質浄化方法が開発されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、閉鎖性水域の一部を囲いにより隔離し、隔離された水域で沈水植物を生育させるとともに、沈水植物の生育に伴って水域の隔離範囲を徐々に拡大させて沈水植物を繁茂させ、この繁茂した沈水植物により水質を改善させるようにした水質浄化方法が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、沈水植物を根付かせた植栽基盤を水底に沈めて沈水植物を水底に繁茂させ、この繁茂した沈水植物により水質を改善させるようにした水質浄化方法が記載されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、人工浮島に吊した植栽基盤に沈水植物を植栽し、この植栽基盤を沈水植物の生育に合わせて水底に沈めることにより沈水植物を水底に繁茂させ、この繁茂した沈水植物により水質を改善させるようにした水質浄化方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−259429号公報
【特許文献2】特開2007−259790号公報
【特許文献3】特開2007−029058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の水質浄化方法に用いられる沈水植物は、ブルーギル、コイ、アメリカザリガニ、ミドリガメ(アカミミガメ)等の食害を受けやすいという問題点がある。特に、移植後の水底に根付いてから拡大するまでの間や、季節的に消長を繰り返す植物種の場合ではその生え始めの時期など、沈水植物の現存量が少ない場合には、移植した沈水植物は食害の影響を大きく受けて水底に定着できず、繁茂できない場合があった。
【0010】
このような食害に対しては、沈水植物を移植した水域をネットで保護したり、食害生物を駆除したりする方法があるが、その維持管理に多大な手間や費用が必要となる。また、食害を受けてしまった場合にも、再度沈水植物を補植する必要があるなど、多大な手間や費用が必要となる。
【0011】
一方、沈水植物は、その植物体の一部が切れると、その切れた部分が水底等に定着し、茎の節々から根を張ってそこで育成するので、沈水植物を移植した下流域の至る所に移植した沈水植物と同種の沈水植物がはびこり、付近の同じ流域内で自生している沈水植物に影響を与えるおそれがある。
【0012】
そこで、移植した沈水植物が他の植物の植生に与える影響をなくするために、移植する沈水植物を、その閉鎖水域内の底泥中にある土壌シードバンク(埋土種子集団)から育てたり、付近の同じ流域内で自生している沈水植物を調査し、その調査結果に基づき移植する沈水植物の種類を選定したりするなどの対応をしているが、このような対応によりその水域に適した沈水植物を入手することは困難であった。
【0013】
本発明の目的は、移植植物の食害を抑制して、汚濁した閉鎖性水域の水質を移植植物により効率よく改善させることにある。
【0014】
本発明の他の目的は、水質改善のために移植する植物の入手を容易、且つ、低コストにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の閉鎖性水域の水質改善方法は、植物プランクトンの増殖により汚濁した湖沼等の閉鎖性水域の水質を改善する水質改善方法であって、水中に設置した植生基盤または水底にミクリを定着、拡大させてミクリの群落を形成し、該ミクリの群落により前記閉鎖性水域を浄化することを特徴とする。
【0016】
本発明の閉鎖性水域の水質改善方法は、前記ミクリの茎葉、根茎の全てまたは大部分を水中に沈めたことを特徴とする。
【0017】
本発明の閉鎖性水域の水質改善方法は、水中に設置した植生基盤または水底にミクリを定着、拡大させて前記ミクリの群落を形成する過程において、ミクリの茎葉の一部を水面から露出させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、閉鎖性水域の汚濁した水質を浄化するための植物として、食害を受けやすい沈水植物に代えて、抽水植物でありながら水深の大きい水域にも定着することができ、且つ食害に強いミクリを使用するようにしたので、食害の影響を抑制して、移植植物により汚濁した閉鎖性水域の水質を効率よく改善させることができる。
【0019】
また、地下茎で拡大するミクリは、植物体の一部が切れて流出しても、その切れ藻が下流域で繁茂するリスクが低く、付近の流域内で自生している他の植物への影響が小さいので、移植するミクリとして、付近の土壌シードバンクから育てたものや付近の流域から採取したものではなく購入品を用いることができる。したがって、移植する植物の入手が容易、且つ、低コストになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ミクリのアレロパシー効果に関するバイオアッセイ試験結果を示す図である。
【図2】(a)、(b)は、本発明の一実施の形態であるミクリを用いた閉鎖性水域の水質浄化方法であって、水底に直接ミクリを植栽する方法を示す説明図である。
【図3】(a)、(b)は、図1に示す閉鎖性水域の水質浄化方法の変形例であって、水底に直接ミクリを植栽するとともに水の透明度の改善対策を行う方法を示す説明図である。
【図4】(a)、(b)は、図1に示す閉鎖性水域の水質浄化方法の変形例であって、水底に直接ミクリを植栽するとともに水の透明度とミクリの生育に合わせて水位を調整する方法を示す説明図である。
【図5】(a)〜(c)は、図1に示す閉鎖性水域の水質浄化方法の変形例であって、フロートを用いて水中に設置した植生基盤にミクリを植栽する方法を示す説明図である。
【図6】(a)〜(c)は、図1に示す閉鎖性水域の水質浄化方法の変形例であって、杭に吊り下げた植生基盤にミクリを植栽する方法を示す説明図である。
【図7】図5、図6に示す閉鎖性水域の水質浄化方法によりミクリの群落が形成された植生基盤を、架台を用いて水深2m以下の範囲に設置した場合を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0022】
本発明は、植物プランクトンの増殖により汚濁した湖、沼、池などの閉鎖性水域内にミクリの群落を創出して、その水質を改善するものである。本発明では、ミクリの群落を、従来から用いられている沈水植物に代えて、湖沼等の閉鎖性水域の水質浄化に用いるようにしているのである。
【0023】
ミクリ(三稜草・実栗)とは、ミクリ科、ミクリ属に属する多年生の抽水植物であり、北海道から九州をはじめアジア全般に広く分布するものである。ミクリは抽水植物であるが、水の流れが速い場所や水深の深い場所においては、その葉は水中に発展したり、水面に浮いたりして発達する。また、ミクリは成長に伴い地下茎を伸ばして株を増やし、その株から茎を直立させて拡大し、草高は最大で2m程になる。
【0024】
抽水植物であるミクリは、通常、その根は水底にあるが、その茎葉は水面より上方に高く伸びるものである。このようなミクリが、閉鎖性水域の水底において、茎葉や根茎の全てが水中に沈んだまま生育できるか否かを確認するために、植生基盤に固定されたミクリを閉鎖性水域である池の水深85cmの水底に設置し、その生育状態を観察した。その結果、根茎から新たな葉が多数伸長しているのが確認され、ミクリが、根茎が水没した状態でも植生基盤上で生育できることが確認された。
【0025】
次に、ミクリの水質浄化機能を確かめるために、アレロパシー(Allelopathy)効果に関する室内実験を行った。アレロパシー効果とは、ある植物がアレロパシー物質(アレロケミカル)を放出して他の植物等の生長を抑制する効果のことである。本実験では、藍藻類(Microcystis)を対象としたミクリのアレロパシー効果の有無を確認するためのバイオアッセイ試験を実施した。
【0026】
この試験では、ミクリを移植した植生基盤を22リットルのバケツ内に設置し、そのバケツに培養液を充填して1週間ビニールハウス内で培養し、1週間後にバケツ内の培養液を0.25μmで濾過した後、藍藻類を対象としたバイオアッセイ試験を実施し、ミクリによる藍藻類の増殖抑制効果を調査した。ミクリとしては、植生基盤に固定してバケツの底に沈設した状態のもの(ミクリA)と、植生浮島に根付いたミクリの根部分のみをバケツ内に沈設したもの(ミクリB)とを用意した。また、比較のために、バケツ内に植物も植生基盤も設置しない対照区、バケツ内に植物が植栽されない植生基盤のみを設置した無植栽、バケツ内にヨシ、カサスゲを根付かせた植生基盤を設置したものを用意した。
【0027】
図1に示すように、ミクリを用いた場合には、植物も植生基盤も設置しない対照区や植物が植栽されない植生基盤のみを設けた無植栽と比較して、藍藻類の比増殖速度が有意に低下している。特に、ミクリを全てバケツ内に沈設したミクリAは、根部分のみを沈設したミクリB、および既にイトモやササバモ等の沈水植物と同様にアレロパシー効果が確認されているヨシやカサスゲの根部分と比較して水没している植物体の部分が乾燥重量比でそれぞれ1/4、1/20、1/23であったにもかかわらず、概ね同等の試験結果が得られた。これにより、ミクリが藍藻類に対して、沈水植物と同等のアレロパシー効果を有することが確認された。
【0028】
このような実験により、ミクリは藍藻類に対してアレロパシー効果を有し、また、水中の植生基盤でも生育することができることが確認された。そこで、本発明は、このミクリの群落を、沈水植物に代えて湖沼等の閉鎖性水域の水質浄化に用いるようにした。
【0029】
次に、ミクリを用いた水質浄化方法の具体的な実施手順を説明する。
【0030】
図2(a)、(b)は、本発明の一実施の形態であるミクリを用いた閉鎖性水域の水質浄化方法であって、水底に直接ミクリを植栽する方法を示す説明図である。
【0031】
例えば、植物プランクトンの増殖が起こりにくい春期など、当該水域の透明度が比較的高い場合には、図2(a)に示すように、閉鎖性水域11の水底12に、直接ミクリ13の苗を植栽する。図2(a)に示す場合では、潜水によりミクリ13の苗を直接水底12に植え付けるようにしているが、これに限らず、例えばミクリ13の苗を植え付けた植生基盤を水底に設置する方法やミクリ13の苗に礫等の錘を固定し、水面から落として沈める方法など種々の方法を適用することができる。
【0032】
水底12に定着したミクリ13の苗は、透明度が高く、水中に日光が確保できる条件であるため、生育に必要な光を受け、水中で光合成を行い成長する。ミクリ13は成長に伴い地下茎を伸ばして株を増やし、その株から茎葉を直立させて発達、拡大し、図2(b)に示すように、閉鎖性水域11の水底12にミクリ13の群落を形成する。
【0033】
ミクリ13の群落が形成されると、その群落の水質浄化機能(アレロパシー効果)により、閉鎖性水域11内における植物プランクトンの増殖が抑制され、また、懸濁物の沈降が促進されて、閉鎖性水域11の水質が改善される。
【0034】
なお、ミクリ13を移植する水域としては、水深が2m程度の範囲が選択される。このような水深の範囲を選択することにより、ミクリ13が最大限に成長しても、その茎葉や根茎の全てまたは大部分が水中に沈んだ状態となり、ミクリ13に水質浄化効果を十分に発揮させることができる。
【0035】
図2に示す場合に対して、ミクリ13を移植しようとする閉鎖性水域11の水が汚濁し、その透明度が低い場合には、図3〜図6に示す方法でミクリ13の群落を形成する。
【0036】
図3に示す方法では、図3(a)に示すように、閉鎖性水域11の水底12に直接ミクリ13の苗を植栽するとともに、植生浮島や遮光板等の透明度改善資材14を閉鎖性水域11の水面に浮かべるようにしている。つまり、図3に示す方法では、透明度改善資材14の遮光等の効果により水中の植物プランクトンの増殖を抑制して閉鎖性水域11の水の透明度を高めながらミクリ13を水底に定着、拡大させるようにしている。そして、閉鎖性水域11の水底12にミクリ13の群落が形成されると、図3(b)に示すように、植生浮島等の透明度改善資材14を撤去し、その後は、生育したミクリ13の群落により閉鎖性水域11の汚濁を浄化させ、その水質を改善させる。
【0037】
なお、この場合においては、透明度改善資材14は、水底12に移植したミクリ13への日光(太陽光)を遮らないような位置に配置される。
【0038】
図4に示す方法では、図4(a)に示すように、閉鎖性水域11の水底12に直接ミクリ13の苗を植栽するとともに、ミクリ13の苗に十分な光が当たる程度にまで閉鎖性水域11の水位を下げるようにしている。この場合、閉鎖性水域11の水位は、ミクリ13の苗を移植した水底12付近まで日光が確保できる程度またはミクリ13の茎葉の一部が水面から露出する程度に設定され、ミクリ13の生育や水の透明度の改善度合いに応じて徐々に上げられる。そして、図4(b)に示すように、水底12にミクリ13の群落が形成され、当該群落の水質浄化機能により閉鎖性水域11の水質が所定の透明度以上に維持される状態となったときに、閉鎖性水域11の水位は元の状態に戻される。
【0039】
図5に示す方法では、図5(a)に示すように、閉鎖性水域11の水面に浮かべたフロート15に植生基盤16を吊して人工浮島17を構成し、この植生基盤16にミクリ13の苗を植栽するようにしている。植生基盤16の水面からの位置は、最初はミクリ13の苗に十分な光が当たるように調整され、ミクリ13の生育や水の透明度の改善度合いに応じて徐々に下げられる。そして、図5(b)に示すように、水底12近くまで下げられた植生基盤16にミクリ13の群落が形成されると、図5(c)に示すように、ミクリ13の群落が形成された植生基盤16はフロート15から取り外され、水底12に直接設置される。
【0040】
この場合においても、水の透明度に応じて、図5(a),(b)に示すように、ミクリ13を植栽した植生基盤16とは別の植生浮島や遮光板等の透明度改善資材14を閉鎖性水域11の水面に浮かべ、この透明度改善資材14の遮光等の効果により水中の植物プランクトンの増殖を抑制し、透明度を改善しながらミクリ13を植生基盤16に定着、拡大させるようにしてもよい。
【0041】
図6に示す方法では、図6(a)に示すように、閉鎖性水域11に設けた杭18にロープを用いて植生基盤19を吊り下げ、この植生基盤19にミクリ13の苗を植栽するようにしている。この場合においても、植生基盤19の水面からの位置は、最初はミクリ13の苗に十分な光が当たるように調整され、ミクリ13の生育や水の透明度の改善度合いに応じて徐々に下げられる。そして、図6(b)に示すように、水底12近くまで下げられた植生基盤19にミクリ13の群落が形成されると、図6(c)に示すように、ミクリ13の群落が形成された植生基盤19は杭18から取り外され、水底12に直接設置される。
【0042】
この場合においても、水の透明度に応じて、図6(a),(b)に示すように、ミクリ13を植栽した植生基盤19とは別の植生浮島や遮光板等の透明度改善資材14を閉鎖性水域11の水面に浮かべ、この透明度改善資材14の遮光等の効果により水中の植物プランクトンの増殖を抑制し、透明度を改善しながらミクリ13を植生基盤19に定着、拡大させるようにしてもよい。
【0043】
ミクリ13の草高は最高で2m程度であるので、図5,図6に示す方法において、その植生基盤16,19を配置した位置における閉鎖性水域11の水深が2m以上である場合には、植生基盤16,19をフロート15や杭18から取り外して水底12に配置することなく、植生基盤16,19をフロート15や杭18に吊り下げた状態のままその水深を2m以下に調整する。また、図5、図6に示す方法でミクリ13の群落が形成された植生基盤16,19をフロート15や杭18から取り外して水底12に設置する場合において、その位置における水深が2m以上ある場合には、図7に示すように、水底12に設置した架台21の上に植生基盤16,19を設置することで、植生基盤16,19の水深を2m以下に調整する。これにより、ミクリ13を必要以上に深い水深の水底12に定着させることなく、その生育を良好に保つことができる。
【0044】
なお、この架台21としては、鋼製のアングル、鉄筋、木材、樹脂製の多孔質マット等で形成されたものが用いられる。
【0045】
以上のように、本発明では、閉鎖性水域11の汚濁した水質を浄化するための植物として、沈水植物に代えて抽水植物でありながら水深の大きい水域にも定着することができるミクリ13を使用するようにしたので、水質の浄化に加えて以下の効果を得ることができる。
【0046】
まず、ミクリ13はフサモやイトモ等の沈水植物に比べて植物体が丈夫であり、ブルーギル、コイ、アメリカザリガニ、ミドリガメ(アカミミガメ)等の食害生物による食害に強いので、水質浄化のためにミクリ13を用いるようにした本発明では、水質浄化用の植物として沈水植物を用いる場合に比べて、食害の影響を抑制することができる。したがって、植物を移植した水域をネットで保護したり、食害生物を駆除したりする必要を無くすとともに、食害を受けてしまった植物を補植する必要をも無くして、水質浄化のための維持管理の手間や費用を抑制することができる。これにより、汚濁した閉鎖性水域11の水質を効率よく改善させることができる。
【0047】
また、ミクリ13は地下茎で拡大するので、その植物体の一部が切れて切れ藻として流出しても、その切れ藻が下流域で繁茂するリスクが小さい。つまり、水質浄化のために移植する植物として、付近の土壌シードバンクから育てたものや付近の流域から採取したものではなく、購入品であるミクリ13を用いても、付近の流域内に自生する他の植物への影響が小さい。したがって、移植する植物として購入品であるミクリ13を使用することが可能となり、これにより、移植植物の入手を容易にし、また、そのコストを低減することができる。
【0048】
さらに、ミクリ13の群落が形成された植生基盤16,19を水深2m以内の範囲に配置し、その茎や葉、根茎の全てまたは大部分を水中に沈めることにより、ミクリ13の水質浄化機能を効率よく発揮させるとともに、過度に水深が深いことによる生育への悪影響を無くすることができる。
【0049】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、閉鎖性水域11の水底12にミクリ13の群落を形成する方法としては、前記実施の形態に記載したものに限らず、特開2008−259429号公報に記載されるように、閉鎖性水域の一部を囲いにより隔離し、隔離された水域で沈水植物を生育させるとともに、沈水植物の生育に伴って水域の隔離範囲を徐々に拡大させて沈水植物を繁茂させる方法、特開2007−259790号公報に記載されるように表面側にのみ栄養物が塗布された3次元空隙構造の基盤本体を備えた植生基盤に沈水植物を根付かせ、これを水底に沈めて沈水植物を水底に繁茂させる方法、特開2007−029058号公報に記載されるように、人工浮島に吊した植栽基盤をネットで覆って食害を防止するようにした方法等において、沈水植物をミクリに代えた方法を用いるようにしてもよい。
【0050】
または、植生基盤として、下地マットの上に土壌層を備えるとともに土壌層の上に着脱自在に植生マットが設けられたものを用い、この植生基盤を閉鎖性水域の水面または光量を確保できる水中に設置し、この植生基盤の植生マットでミクリを事前栽培し、事前栽培によりミクリの群落が形成された植生マットを植生基盤から取り外し、この取り外した植生マットを閉鎖性水域の水底に沈めて該水底にミクリを定着させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0051】
11 閉鎖性水域
12 水底
13 ミクリ
14 透明度改善資材
15 フロート
16 植生基盤
17 人工浮島
18 杭
19 植生基盤
21 架台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物プランクトンの増殖により汚濁した湖沼等の閉鎖性水域の水質を改善する閉鎖性水域の水質改善方法であって、
水中に設置した植生基盤または水底にミクリを定着、拡大させてミクリの群落を形成し、該ミクリの群落により前記閉鎖性水域を浄化することを特徴とする閉鎖性水域の水質浄化方法。
【請求項2】
請求項1記載の閉鎖性水域の水質浄化方法において、前記ミクリの茎葉、根茎の全てを水中に沈めたことを特徴とする閉鎖性水域の水質浄化方法。
【請求項3】
請求項1記載の閉鎖性水域の水質浄化方法において、水中に設置した植生基盤または水底にミクリを定着、拡大させて前記ミクリの群落を形成する過程において、ミクリの茎葉の一部を水面から露出させることを特徴とする閉鎖性水域の水質浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−254759(P2011−254759A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132594(P2010−132594)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【Fターム(参考)】