説明

関節リウマチの検出又は鑑別方法及び病期又は機能障害度の判別方法

従来、様々な検査及び臨床症状から総合的に診断していた関節リウマチを簡便に検出又は鑑別する方法を提供する、及び関節リウマチの病期並びに機能障害度を簡便かつ客観的に評価する方法を提供すること。 体液等の試料中のL−PGDSを測定し、その測定値を指標とすることにより、関節リウマチを検出、鑑別する。更に、その測定値を指標にすることにより、関節リウマチ患者の病期又は機能障害度の判別を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、関節リウマチの検出又は鑑別方法、詳しくは、被験者より採取した体液等の試料中のヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を測定し、関節リウマチを簡便に検出又は鑑別する方法、及び関節リウマチの病期または機能障害度の判別方法であって、疾患の進行度や重症度を簡便かつ客観的に評価することによる関節リウマチの病態の管理に有用である。
【背景技術】
関節リウマチは、慢性の多発性関節炎を特徴とし、全身倦怠、発熱、皮下結節等の多彩な関節外症状も呈する原因不明の非特異的な慢性炎症性疾患である。本邦における関節リウマチの罹患患者は約70万人といわれ、男女比は1:4と女性に多く、30〜50歳代の女性に好発する。罹患関節は腫脹、疼痛の他に経過とともに破壊、変形がおき、進行すると機能障害により身体障害者となり、著しい場合には「寝たきり」状態になる。関節リウマチは原因不明の疾患であるため確実な治療法はないものの、いくつかの効果的な治療法が開発され臨床応用されつつある。これらの関節リウマチの治療において最も重要なことは、早期より確実な診断を行い、治療を開始すること、また、疾患の進行度や重症度を把握して適切な治療法を選択することである。
関節リウマチの診断は、特異的な症状や検査所見がないため、その検出又は鑑別は比較的特徴的な症状や所見を組み合わせた診断基準に基づいている。従来、アメリカ・リウマチ学会(ARA)の診断基準が用いられてきたが、1987年には改訂ARA診断基準が報告されたため、現在ではこの診断基準に則って臨床的な検出又は鑑別が行われている(表1)。この診断基準は7項目から成る臨床症状及び検査法であり、7項目中4項目を満たすものが関節リウマチと診断される。また、罹患関節の臨床的所見及び関節X線像より病期(Stage)分類が行われており、表2の4Stageに分けられて病態の管理が行われている。また、表3に示す日常生活動作の評価によっても、機能障害度(Class)分類が行われており、この分類によっても病態の管理が行われる(以上の引用は財団法人日本リウマチ財団教育研修委員会編.リウマチ基本テキスト平成14年7月第1版発行)。
表1

表2

表3

このように関節リウマチの検出又は鑑別は複数の臨床症状や検査法からなる診断基準をもとに総合的に行われているため、簡便かつ客観的に関節リウマチを検出又は鑑別する方法の確立が望まれている。また、関節リウマチの病期並びに機能障害度も関節X線像や日常生活動作の評価によって行われているため、診察する医療機関によって判定に差があることも多く、簡便かつ客観的に評価できる指標が望まれている。
一方、リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(以下L−PGDS)は、各種プロスタグランジン類の共通の前駆体であるPGHからPGDへの異性化を触媒する酵素で、疎水性低分子の輸送機能をも併せ持つ多機能性タンパク質である(Urade Y.et al.,Prostaglandin D synthase:Structure and function.Vitam Horm 2000;58:89−120.)。L−PGDSは、進行した腎疾患患者の血中に高濃度で検出されることが報告されており(Hoffmann A.et al.,Molecular characterization of β−trace protein in human serum and urine:apotential diagnosticmarker for renal diseases.Glycobiology 1997;7:499−506.)、更に、本発明者らは、腎疾患が進行する以前の早期腎疾患患者において体液中のL−PGDS濃度が増加することを明らかにしてきた(Hamano K.et al.,Blood sugar control reverses the increase in urinary excretion of prostaglandin D synthase in diabetic patient.Nephron 2002;92:77−85.)。また、本発明者らは、L−PGDSが動脈硬化プラークにおいて産生され、虚血性心疾患患者では体液中L−PGDS濃度が増加することを明らかにしてきた(Eguchi Y.et al.,Expression of lipocalin−type prostaglandin D synthase(β−trace)in human heart and itsaccumulation in the coronary circulation of angina patients.Proc Natl Acad Sci USA 1997;94:14689−94)。このようにL−PGDSと腎疾患あるいは虚血性心疾患との関係は明らかにされてきたが、L−PGDSと関節リウマチの関係については全く検討されていなかった。
【非特許文献1】Vitam Horm 2000;58:89−120
【非特許文献2】Glycobiology 1997;7:499−506
【非特許文献3】Nephron 2002;92:77−85
【非特許文献4】Proc Natl Acad Sci USA 1997;94:14689−94
【発明の開示】
本発明の課題は、これまで様々な検査及び臨床症状から総合的に診断していた関節リウマチを簡便に検出又は鑑別する方法を提供することにある。更に関節リウマチの病期並びに機能障害度を簡便かつ客観的に評価する方法を提供することにある。
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、体液等の試料中のL−PGDSを測定し、その測定値を指標とすることにより、関節リウマチを鑑別、検出又は診断できることを見出し、更に、その測定値を指標にすることにより、関節リウマチ患者の病期又は機能障害度の判別を行えることを見出し、本研究を完成するに至った。
即ち、本発明は被験者から採取した体液等の試料中のL−PGDSを測定することを特徴とする、関節リウマチの検出又は鑑別方法である。
本発明はまた、被験者より採取した体液等の試料中のL−PGDSを測定し、その測定値から関節リウマチの病期または機能障害度を評価することを特徴とする、関節リウマチの病期又は機能障害度の判別方法である。
具体的には、本発明は以下の通りである。
[1]被験者より採取した体液等の試料中のヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を測定することを特徴とする、関節リウマチを検出又は鑑別する方法。
[2]被験者より採取した体液等の試料中のヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を測定し、その測定値を健常者および/または関節リウマチ以外の関節疾患患者より採取した体液等の試料中のヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素の測定値に基づいて設定したカットオフ値と比較することを特徴とする、上記[1]に記載の関節リウマチを検出又は鑑別する方法。
[3]被験者より採取した体液等の試料中のヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を測定し、その測定値から関節リウマチの病期を評価することを特徴とする、関節リウマチの病期の判別方法。
[4]被験者より採取した体液等の試料中のヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を測定し、関節リウマチ患者より採取した体液等の試料中のヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素の測定値を病期に応じて分類して設定したカットオフ値と比較することを特徴とする、上記[3]に記載の関節リウマチの病期の判別方法。
[5]体液等の試料中のヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を測定し、その測定値から関節リウマチの機能障害度(重症度)を評価することを特徴とする、関節リウマチの機能障害度の判別方法。
[6]体液等の試料中のヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を測定し、関節リウマチ患者より採取した体液等の試料中のヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素の測定値を機能障害度(重症度)に応じて分類して設定したカットオフ値と比較することを特徴とする、上記[5]に記載の関節リウマチの機能障害度の判別方法。
[7]体液等の試料中のヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素の測定を、免疫学的測定法により行うことを特徴とする、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8]体液等の試料が血液である上記[1]〜「6]のいずれかに記載の方法。
[9]体液等の試料が関節液である上記[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[10]体液等の試料が尿である上記[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[11]関節リウマチの検出又は鑑別及び病期又は機能障害度判別用ヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を特異的に認識する抗体。
さらに、抗体がモノクローナル抗体である上記関節リウマチの検出又は鑑別及び病期又は機能障害度判別用ヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を特異的に認識する抗体(抗−ヒトL−PGDSモノクローナル抗体とも記載する。)。
[12]ヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を特異的に認識する抗体を有効成分として含有する関節リウマチの検出剤又は鑑別剤及び病期又は機能障害度判定剤。
さらに、抗体がモノクローナル抗体である上記関節リウマチの検出剤又は鑑別剤及び病期又は機能障害度判定剤。
[13]ヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を特異的に認識する抗体を含む関節リウマチの検出又は鑑別用キット。
[14]以下(1)から(4)の群から選ばれる関節リウマチの検出又は鑑別用ヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素検出キット。
(1)酵素標識したヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を特異的に認識するモノクローナル抗体及び基質溶液を含む試薬、
(2)ヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を特異的に認識するモノクローナル抗体、酵素標識した該モノクローナル抗体又はヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を特異的に認識するポリクローナル抗体及び基質溶液を含む試薬、
(3)ビオチン化したヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を特異的に認識するモノクローナル抗体、酵素標識化アビジン又はストレプトアビジン及び基質溶液を含む試薬並びにヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を特異的に認識するモノクローナル抗体、
(4)ビオチン化したヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を特異的に認識するモノクローナル抗体又はヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を特異的に認識するポリクローナル抗体、酵素標識化アビジン又はストレプトアビジン及び基質溶液を含む試薬。
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2003−336438号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
図1は、健常者、痛風患者、少数関節炎患者、変形性関節症患者、血清反応陰性脊椎関節炎患者及び関節リウマチ患者の血中L−PGDS濃度を示した。関節リウマチ患者の血中L−PGDS濃度は、健常者及び何れの患者群よりも高値であった。
図2は、関節リウマチ患者の各病期(Stage)における血中L−PGDS濃度を示した。関節リウマチ患者の血中L−PGDS濃度は、病期の進行に伴って有意に高値になる傾向があった。
図3は、関節リウマチ患者の各機能障害度(Class)における血中L−PGDS濃度を示した。関節リウマチ患者の血中L−PGDS濃度は、機能障害度の進行に伴って有意に高値になる傾向があった。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明において、L−PGDSを測定する試料は被験者から採取した体液、具体的には、血液(血清、血漿等)、尿(随時尿、蓄尿等)、関節液等が挙げられる。上記試料中のL−PGDSを測定する方法としては、好適には、L−PGDS濃度を正確に反映する測定法が挙げられ、例えば、免疫学的測定法、酵素活性測定法、キャピラリー電気泳動法等が挙げられる。しかしながら、実際の臨床現場において、簡便に且つ多量の試料を同時に測定する必要性の観点から、L−PGDSに特異的なモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を用いた、酵素免疫測定法、2抗体サンドイッチELISA法、放射免疫測定法、ラテックス凝集免疫測定法、蛍光免疫測定法、ウェスタンブロッティング法、免疫組織化学法等による定性的又は定量的手法を用いることができ、好適には、酵素免疫測定法、放射免疫測定法、ラテックス凝集免疫測定法、蛍光免疫測定法等の免疫学的測定方法を用いることができる。例えば、モノクローナル抗体を用いたサンドイッチELISAとして、既に本発明者らによって確立されているL−PGDS検出キット(WO97/16461)を利用すれば良い。
また、L−PGDSを測定する試料としては被験者から採取した関節の組織切片を用いることもできる。この場合は、L−PGDSを測定する方法としては、関節の組織切片を抗−ヒトL−PGDS抗体で染色し、染色された部分の面積から、関節リウマチの検出又は鑑別をすることができる。
本発明の関節リウマチの検出剤又は鑑別剤及び病期又は機能障害度判定剤は、ヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を特異的に認識する抗体を含有するものである。該ヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を特異的に認識する抗体には、酵素標識、ビオチン化標識されるものも包含される。
また、本発明には、関節リウマチの検出剤又は鑑別剤及び病期又は機能障害度判定剤の製造のためのヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を特異的に認識する抗体の使用も包含される。
本発明のキットは、下記の構成試薬を含むものである。
(1)(i)酵素標識化モノクローナル抗体及び(ii)基質溶液
また、上記キットの変形としてサンドイッチELISA法を採用すれば、本発明のキットは下記の試薬を含むものである。
(2)(i)モノクローナル抗体、(ii)酵素標識化モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体、及び(3)基質溶液
また、上記キットの変形としてビオチン−アビジン法を採用すれば、本発明のキットは下記の試薬を含むものである。
(3)(i)ビオチン化モノクローナル抗体、(ii)酵素標識化アビジン又はストレプトアビジン、及び(iii)基質溶液
また、上記キットの変形としてサンドイッチELISA法及びビオチン−アビジン法を採用すれば、本発明のキットは下記の試薬を含むものである。
(4)(i)モノクローナル抗体、(ii)ビオチン化モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体、(iii)酵素標識化アビジン又はストレプトアビジン及び(iv)基質溶液
なお上記の基質溶液とは、抗体に標識した酵素の基質であって、酵素反応により検出可能な変化を生じる基質を含有する溶液のことである。例えば、基質溶液としては、アルカリフォスファターゼ(AP)で標識した場合はp−ニトロフェニルリン酸含有緩衝液が、ホースラディシュパーオキシダーゼ(HRPO)で標識した場合はo−フェニレンジアミン含有緩衝液が、βガラクトシダーゼで標識した場合は、4−メチルウンベリルフェリルーβガラクトシドを含有する緩衝液を用いることができる。
上記(2)の2抗体サンドイッチELISA法で使用する2つの抗体は、それぞれ別々のエピトープを認識する抗−ヒトL−PGDSモノクローナル抗体を用いることが好ましい。これら2つの抗体の一方(第一の抗体)は何らかの担体、例えばマイクロタイタープレートに固相化し、L−PGDSを固定化するために使用することができる。他方の抗体(第二の抗体)は、固定化されたL−PGDSに結合させることができる抗体であればよく、この抗体は、その後の検出のための検出可能な物質で標識しておくことが好ましい。検出可能な標識物質としては、ビオチンを挙げることができる。ビオチンを検出する方法としては公知の方法を用いることができるが、好ましくはストレプトアビジンとペルオキシダーゼとのコンジュゲートをビオチンに結合させる方法を用いる。このようなペルオキシダーゼとしては、西洋ワサビペルオキシダーゼが挙げられる。さらに、ペルオキシダーゼの検出には、そのペルオキシダーゼの作用によって発色する物質を用いることが好ましい。
以上に示す物質を用いてL−PGDSを検出するためには、まず、マイクロタイタープレートなどの担体に固相化した第一の抗体にL−PGDSを結合させる。次いで、固定化されたL−PGDSに、ビオチンで標識した第二の抗体を結合させた後に、ビオチン部分にストレプトアビジン−西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲートを結合させる。最後に、西洋ワサビペルオキシダーゼの作用によって発色する物質を添加して発色させ、これを定量する。発色物質としてTM−Blue(INTERGEN社製造)を使用する場合には、停止液として0.5N硫酸を加えて攪拌した後に、プレートリーダー等を用いて450nmにおける吸光度を測定することにより、定量することができる。
本発明においては上記手段で測定されたL−PGDS濃度測定値を指標として関節リウマチを検出又は鑑別することができる。更には、当該測定値から関節リウマチの病期並びに機能障害度を評価することによって、関節リウマチの病態を管理することができる。なお、本発明において、病態の管理とは、病状(進行度や重症度の程度)の把握、予後の観察をいう。
本発明の方法により検出又は鑑別され、または病態の管理が行える関節リウマチには、血管炎に由来する胸膜炎、心内膜炎、心筋炎、末梢神経炎等を併発する悪性関節リウマチ及び小児期に発病する若年性関節リウマチも含まれる。また、シェーグレン症候群、橋本甲状腺炎等の自己免疫性疾患ならびに続発性アミロイドーシスを合併する関節リウマチも含まれる。
本発明の方法により、関節リウマチの検出又は鑑別を行う場合、まず、健常者について基準範囲を設定する。この基準範囲は体液等の試料の種類によって異なるため、被検者について測定しようとする体液等の試料の基準範囲を設定する。基準範囲は、数人以上の健常者から採取した体液等の試料に含まれるL−PGDS濃度を測定し、その測定値に基づいて設定することができる。L−PGDS濃度の測定は、上述の方法に従って行うことができる。測定値からの基準範囲の設定は、当業者であれば適切に設定することができるが、例えば、測定値の(平均値±σ×標準偏差:σ=0.5、1、2、3又は5)とする。このようにして設定した基準範囲と、被検者の体液等の試料におけるL−PGDS濃度の測定値とを比較する方法としては、当業者に公知の方法を用いることができるが、好ましくは上記基準範囲に基づいて決定したカットオフ値と比較する方法を用いる。この場合には、被検者についての測定値がカットオフ値よりも高ければ、その被検者は関節リウマチに罹患している可能性が高いと判断することができる。このようなカットオフ値としては基準範囲上限値、例えば、(平均値+σ×標準偏差:σ=0.5,1,2、3又は5)を用いることができる。
また、次のようにカットオフ値を設定することもできる。例えば、健常者、及び/または、関節リウマチ以外の関節疾患患者から採取した体液等の試料中のL−PGDSを測定する。そして、健常者、及び/または、関節リウマチ以外の関節疾患患者におけるL−PGDSの分布を求める。次に関節リウマチ患者におけるL−PGDSの分布を求め、関節リウマチの検出又は鑑別に対する感度、特異性などの診断精度に基づいて、適切なL−PGDSのカットオフ値を設定する。
次いで、被験者より採取した体液等の試料中のL−PGDSを測定し、カットオフ値と比較することにより、L−PGDS濃度がカットオフ値を超える場合、関節リウマチに罹患していると検出又は鑑別できる。
また、病期(進行度)または機能障害度(重症度)に対応させカットオフ値を設定しておくことにより、測定値と各カットオフ値を比較して、関節リウマチの進行度や重症度を客観的に評価することにより進行度や重症度を判別でき、病態管理することができる。病期(進行度)又は機能障害度(重症度)に対応させたカットオフ値の設定方法は、まず、各病期又は各機能障害度の複数の患者から採取した体液等の試料中のL−PGDS濃度を測定し、その測定値に基づいて、各病期又は各機能障害度の患者について基準範囲を設定する。この基準範囲は体液等の試料の種類によって異なるため、被験者について測定しようとすると体液等の試料の基準範囲を設定する。基準範囲の設定は、例えば、測定値の(平均値±σ×標準偏差:σ=0.5、1、2、3又は5)を用いたり、測定値の(5〜95、10〜90又は15〜85パーセンタイル値)を用いることができる。ついで上記基準範囲に基づいて、カットオフ値を設定する。このようなカットオフ値の設定には、例えば、基準範囲上限値(平均値+σ×標準偏差:σ=0.5,1,2、3又は5、又は、85、90、95パーセンタイル値)を用いることができる。
また、各病期又は各機能障害度の関節リウマチ患者における体液等の試料中のL−PGDSを測定して、各病期又は各機能障害度の関節リウマチ患者のL−PGDS分布を求め、各病期又は各機能障害度の関節リウマチ患者の判別に対する感度、特異性などの診断精度に基づいて、適切なL−PGDSのカットオフ値を設定することもできる。
上記、カットオフ値を設定するための被験者の数は限定されないが、好ましくは5例以上、さらに好ましくは10例以上である。
以下に本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
〔参考例〕体液中のL−PGDS濃度の測定方法
体液中L−PGDS濃度は、以下の通り、サンドイッチELISA法により測定した。
まず、ヒトL−PGDSと結合可能な抗−ヒトL−PGDSモノクローナル抗体(クローン:7F5)を50mM炭酸緩衝液(pH9.6)で4.4μg/mLとなるように希釈し、96ウエルマイクロタイタープレートに300μL/ウエルずつ加えて、4℃で一晩インキュベートすることにより固相化した。このプレートをリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4、以下PBS)で3回洗浄した後、0.2%カゼインを含むPBS(pH7.4、以下ブロッキング液)を300μL/ウエルずつ加え、30℃で90分間インキュベートすることによりブロッキングを行った。次いで、ブロッキング後のプレートを0.05%Tween20を含むPBS(T−PBS)で3回洗浄した後、抗原溶液(ブロッキング液で希釈した標準液あるいは体液検体)を100μL/ウエルずつ加え、30℃で90分間インキュベートした。反応後、T−PBSで3回洗浄し、ブロッキング液で0.5μg/mLとなるように希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ標識化抗−ヒトL−PGDSモノクローナル抗体(クローン:1B7)を100μL/ウエルずつ加え、30℃で90分間インキュベートした。反応後、T−PBSで3回洗浄し、発色液(ABTS solution:ベーリンガーマンハイム社製)を100μL/ウエルずつ加え、30℃で30分間インキュベートした。反応後、停止液(1.5%シュウ酸)を100μL/ウエルずつ加え、プレートミキサーで攪拌して反応を停止させ、市販のプレートリーダーで405nmにおける吸光度を測定した。
上記サンドイッチELISA法に用いたモノクローナル抗体(クローン:1B7、7F5)は、マウス腹腔内にプリスタン1.0mLを注射し、その後2週間目にそれぞれの抗体産生細胞1×10個をマウス腹腔内に移植し、2週間後に腹水を採取し、得られた腹水をプロテインAアフィニティーカラムクログラフィー操作にかけることにより調製した。尚、上記モノクローナル抗体を産生する細胞株はそれぞれのモノクローナル抗体名に一致し、それぞれの細胞株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に、1B7についてはFERM BP−5709(原寄託日平成7年9月21日)、7F5についてはFERM BP−5711(原寄託日平成8年6月6日)として寄託されている。
また、ヒトL−PGDSと結合可能な抗−ヒトL−PGDSモノクローナル抗体を産生する細胞株としては、上記以外にも、クローン6F5がFERM BP−5710(原寄託日平成7年9月21日)として、クローン9A6がFERM BP−5712(原寄託日平成8年6月6日)、クローン10A3がFERM BP−5713(原寄託日平成8年6月6日)として寄託されている。
【実施例1】
健常者、各種関節炎(痛風、少数関節炎、変形性関節症、血清反応陰性脊椎関節炎)及び関節リウマチ患者の血中L−PGDS濃度を測定した。その結果を図1に示す。関節リウマチ患者の血中L−PGDS濃度(n=127,0.92±0.09μg/mL,(平均値±標準誤差))は、健常者(n=90,0.56±0.01μg/mL)に比べ、有意(p<0.001)に高値であった。少数関節炎(n=5,0.46±0.04μg/mL)及び変形性関節症(n=24,0.56±0.04μg/mL)と比しても有意(それぞれp<0.05及びp<0.01)に高値であった。また、痛風(n=6,0.58±0.08μg/mL)及び血清反応陰性脊椎関節炎(n=6,0.64±0.11μg/mL)に比べても高値の傾向にあった。従って、関節リウマチが疑われる関節疾患に対し、血中L−PGDS濃度が高値である場合には関節リウマチである可能性が極めて高く、血中L−PGDS測定が関節リウマチの検出又は鑑別に有用であるものと考えられた。
【実施例2】
関節リウマチ患者をアメリカ・リウマチ学会が定めた病期分類に則って、罹患関節の臨床的所見及び関節X線像より4つのStageに分類し、それぞれのStageの患者における血中L−PGDS濃度を測定した。その結果を図2に示す。血中L−PGDS濃度は、Stageが進むのに伴って有意(p<0.05)に上昇する傾向が認められた。従って、関節リウマチ患者の血中L−PGDS濃度が高値である場合には病期の進んでいる可能性が高く、血中L−PGDS測定は関節リウマチの病期を客観的に評価するのに有用であるものと考えられた。
【実施例3】
関節リウマチ患者をアメリカ・リウマチ学会が定めた機能障害度分類に従って、日常生活動作の評価により,4つのClassに分類し、それぞれのClassの患者における血中L−PGDS濃度を測定した。その結果を図3に示す。血中L−PGDS濃度は、Classが進むのに伴って有意(p<0.001)に上昇する傾向が認められた。従って、関節リウマチ患者の血中L−PGDS濃度が高値である場合には機能障害の進んでいる可能性が高く、血中L−PGDS測定は関節リウマチの機能障害度(重症度)を客観的に評価するのに有用であるものと考えられた。
【実施例4】
関節リウマチ患者群及び関節リウマチ患者以外の関節疾患患者群を対象群として、血中L−PGDS濃度を測定した。実施例1で示した健常者90名における血中L−PGDS濃度の基準範囲上限値(平均値+2×標準偏差:0.56+2×0.09=0.72μg/mL)を暫定的なカットオフ値とし、各対象群の被験者をそれ以下の群(L−PGDS(−))とそれを越える群(L−PGDS(+))の2群(計4群)に分類した。その結果を表4に示した。この表より、血中L−PGDS測定による関節リウマチの検出又は鑑別における有病正診率、無病正診率及び診断効率を算出したところ、有病正診率は50.4%(59/117)、無病正診率は88.1%(37/42)、及び診断効率は60.4%(96/159)となった。従って、関節リウマチが疑われる関節疾患患者から採取した血中のL−PGDS濃度が、設定したカットオフ値を越える場合には、関節リウマチである可能性が極めて高く、関節リウマチの検出又は鑑別に有用であるものと考えられた。
表4


【発明の効果】
本発明によれば、これまで様々な検査及び臨床症状から総合的に診断していた関節リウマチを簡便に検出又は鑑別できる方法が提供される。更に、本発明の方法では、関節リウマチの病期(進行度)並びに機能障害度(重症度)を簡便かつ客観的に評価することができる。従って、本発明方法は、関節リウマチの検出又は鑑別と、患者の病期又は機能障害度の判別に極めて有用である。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者より採取した試料中のヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を測定することを特徴とする、関節リウマチを検出又は鑑別する方法。
【請求項2】
被験者より採取した試料中のヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を測定し、その測定値を健常者および/または関節リウマチ以外の関節疾患患者より採取した試料中のヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素の測定値に基づいて設定したカットオフ値と比較することを特徴とする、請求項1に記載の関節リウマチを検出又は鑑別する方法。
【請求項3】
被験者より採取した試料中のヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を測定し、その測定値から関節リウマチの病期を評価することを特徴とする、関節リウマチの病期の判別方法。
【請求項4】
被験者より採取した試料中のヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を測定し、関節リウマチ患者より採取した試料中のヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素の測定値を病期に応じて分類して設定したカットオフ値と比較することを特徴とする、請求項3に記載の関節リウマチの病期の判別方法。
【請求項5】
試料中のヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を測定し、その測定値から関節リウマチの機能障害度(重症度)を評価することを特徴とする、関節リウマチの機能障害度の判別方法。
【請求項6】
試料中のヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を測定し、関節リウマチ患者より採取した試料中のヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素の測定値を機能障害度(重症度)に応じて分類して設定したカットオフ値と比較することを特徴とする、請求項5に記載の関節リウマチの機能障害度の判別方法。
【請求項7】
試料中のヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素の測定を、免疫学的測定法により行うことを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
試料が体液試料である請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
試料が関節液である請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
試料が血液又は尿である請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
関節リウマチの検出又は鑑別及び病期又は機能障害度判別用ヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を特異的に認識する抗体。
【請求項12】
ヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を特異的に認識する抗体を有効成分として含有する関節リウマチの検出剤又は鑑別剤及び病期又は機能障害度判定剤。
【請求項13】
ヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を特異的に認識する抗体を含む関節リウマチの検出又は鑑別用キット。
【請求項14】
以下(1)から(4)の群から選ばれる関節リウマチの検出又は鑑別用ヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素検出キット。
(1)酵素標識したヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を特異的に認識するモノクローナル抗体及び基質溶液を含む試薬、
(2)ヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を特異的に認識するモノクローナル抗体、酵素標識した該モノクローナル抗体又はヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を特異的に認識するポリクローナル抗体及び基質溶液を含む試薬、
(3)ビオチン化したヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を特異的に認識するモノクローナル抗体、酵素標識化アビジン又はストレプトアビジン及び基質溶液を含む試薬並びにヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を特異的に認識するモノクローナル抗体、
(4)ビオチン化したヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を特異的に認識するモノクローナル抗体又はヒトリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素を特異的に認識するポリクローナル抗体、酵素標識化アビジン又はストレプトアビジン及び基質溶液を含む試薬。

【国際公開番号】WO2005/031360
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【発行日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514295(P2005−514295)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014457
【国際出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000003274)マルハ株式会社 (13)
【出願人】(390000745)財団法人大阪バイオサイエンス研究所 (32)
【Fターム(参考)】