説明

防曇性膜を有する光学部品、半導体装置

【課題】屈折率調整が容易で光学設計がしやすいとともに、防曇性膜を有する光学部品を提供する。
【解決手段】透明基材と、前記透明基材上に積層され、少なくとも一部が親水性金属酸化物からなる光透過性の光学薄膜と、を有する光学部品であって、前記光学薄膜が、マトリックスによって内部に空隙を有する金属酸化物微粒子が結合された多孔質構造であることを特徴とする、光学部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇性膜を有する光学部品、該光学部品を用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
CCD(Charge-Coupled Device)やCMOS(complementary metal-oxide semiconductor)などの固体撮像素子を有する半導体装置パッケージ(以下、半導体パッケージともいう)は、中空構造であることが多い。例えば、樹脂やセラミクス等からなるパッケージの底面付近に受光部が設置され、上部には、ガラスや樹脂などの光学的に光透過性があり、かつ平坦な光学部品であるカバーが設置され、カバーが半導体パッケージの枠部分(以下、枠ともいう)と接着剤などで一体化されて閉じた構造とされる。
【0003】
このような半導体パッケージが長期にわたって安定に動作するためには、半導体パッケージ内に水分が極力存在しないことが重要である。しかし、半導体パッケージの製造過程において、空気中の水分が、上記の半導体パッケージの枠や、半導体パッケージとカバーとを接着している接着剤などの各部材に、ある程度吸着されてしまう。これを防ぐには、例えば、パッケージ内に固体撮像素子を収容し、窒素や乾燥空気を充填して気密封止する方法があるが、固体撮像素子用としてはきわめて高価である。
【0004】
このように、半導体パッケージ内には水分が含まれてしまうことが多い。このため、半導体装置の製造工程の中で、リフロー工程、リペア工程など特に高温になる工程において、それ以前に半導体パッケージ内に吸着された水分が蒸発し、その後最初に常温付近に戻る部品上において結露することがある。この最初に常温付近に戻る部品がカバーの場合、品質検査において光が十分に透過しないので、本来は問題ないものまで透過率不良となってしまう場合がある。
【0005】
これに対して、例えば、水分吸湿剤を固体撮像素子の下に配置する方法がある(特許文献1)。このように、パッケージ内部に水分吸着剤または除湿剤、防湿剤を外部からの光を遮断しない場所に設ける方法のほか、パッケージの構成部材に水分を吸着させる方法、パッケージに小さな開口部を設けておいてそこから水分を逃がす構成とする方法など、多数提案されている。また、固体撮像素子を有する半導体装置では、カバー上に酸化チタン膜を成膜して防曇効果を得る方法がある(特許文献2)。
【0006】
さらに、窓ガラス、ショーウインド用ガラス、計器のカバーガラス、時計のカバーガラス、眼鏡用レンズ、カメラ用レンズ、自動車用ミラー、浴室の鏡等のような透明基材表面は、親水性を有する表面を持つものがほとんどである。しかし、この親水性は透明基材表面が汚染されていない状態において発揮されうるものであって、通常は、透明基材表面に設置環境からくる汚染物質、例えば、土、埃、油等の付着により親水性が損なわれ、疎水性表面となっている。このように表面の親水性が損なわれて疎水性表面となった透明基材表面では、空気中の水分が細かな水滴となって付着することにより光を乱反射する曇り現象が生じ、透明性が低下する場合がある。これに対して、酸化チタン膜を成膜して防曇効果を得る方法や、二酸化ケイ素微粉末を含む凹凸膜により、水滴の発生を防止し、防曇効果を得る方法等がある(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−305811号公報
【特許文献2】特開2009−182008号公報
【特許文献3】特開平11−217560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、吸湿剤等を配置する方法は、いずれも完全な課題解決にはいたっておらず、用途によって方法を使い分けたり、複数の方法を適宜組み合わせたりするなどして所望の防曇効果を得ている。また、酸化チタンの適用は高価であること、また高い防曇効果を得るには紫外線が必要であること、さらに酸化チタンのような高屈折率膜を光学部品用に光学多層膜の最表面に配置するのは、光学設計上困難等の課題があった。二酸化ケイ素微粉末による膜では、低屈折率の実現、例えばカバーへの要求特性の1つである可視光領域の反射率低減の達成が困難であった。
【0009】
本発明は、このような課題を鑑み、屈折率調整が容易で光学設計がしやすいとともに、防曇性膜を有する光学部品を提供する。また、半導体装置の製造工程中の特に高温の工程において、安価かつ簡便に、カバーが曇ることがないようにする方法とその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の光学部品は、透明基材上に、実質的に親水性を有する金属酸化物からなり、光透過性の光学薄膜が積層されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光学部品によれば、優れた防曇性能と、光学設計が容易となるような、光吸収がほとんど無い低屈折率性能とを同時に、かつ安価で効果的に付与できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の半導体装置の一例を示す概略図。
【図2】本発明の光学部品の一例を示す断面図。
【図3】接触角の測定方法を説明するための説明図。
【図4】接触角の測定工程を示す図。
【図5】接触角の測定工程を示す図。
【図6】本発明の光学部品の変形例を示す断面図。
【図7】本発明の光学部品による可視光域の反射特性の比較図。
【図8】本発明の光学部品による可視光域の反射特性の比較図。
【図9】外殻厚さによる屈折率調整を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の防曇性膜を有する光学部品、半導体装置の実施形態について説明する。
【0014】
図1は、本発明の半導体装置の一例を示す概略図である。
【0015】
図2は、本発明の光学部品の一例として、図1の光学部品20の断面図を示す。
【0016】
半導体装置10は、例えば、固体撮像素子であって、光学部品20、受光部(受光チップ)1、パッケージ2、外部端子3、ボンディングワイヤ4、接着剤7等を有する。
【0017】
半導体装置10は、受光部1がパッケージ2の内部に収容されるとともに、パッケージ2の開口部を覆うように光学部品20が設けられ、パッケージ2と接着剤7により密着される。
【0018】
半導体装置10に入射した光は、光学部品20を通して受光部1に入射する。光学部品20は、透明基材6と、この透明基材6に積層された光学薄膜5とを少なくとも有する。また、光学薄膜5は、光学部品20の、少なくとも光学部品20の受光部1に対向する内面に設けられる。
【0019】
なお、半導体装置10の外側の入射光側には、図示されてないが、さらにレンズ群、視感度補正部品、モアレ解消部品等が配置され、全体として撮像装置を構成してもよい。レンズ群としては各種レンズ、視感度補正部品としては赤外吸収フィルタ、モアレ解消部品としては複屈折板等があげられる。このような場合は、これらの部品を通過した光が、光学部品20を通して受光部1に入射する。さらに本発明の光学部品は、このような撮像装置の光学部品に限られず、例えばプロジェクターのような投影装置、光ピックアップ等におけるレンズ群やミラー等の光学部品としても使用できる。
【0020】
透明基材6は、例えば可視光を含む受光部1の感度範囲にある特定波長領域の光に対して透明性を有するものであれば特に制限されず、ガラス、無機結晶、有機樹脂等からなるものが挙げられる。具体的には、レンズ、視感度補正部品としての赤外吸収フィルタ、カバーガラス等としての赤外吸収機能等を有しないブランクガラス、またはモアレ解消部品としての複屈折板等が挙げられる。
【0021】
光学薄膜5としては、透明基材同様に、可視光など特定波長領域の光に対して良好な透過率を有する必要がある。そのためには、空気層や透明基材との界面における反射や、光学薄膜内での吸収を可能な限り抑制することが好ましい。このような光学薄膜として、例えば、可視光の反射率を抑制する反射防止膜等が挙げられる。また、光学薄膜5は、透明基材6に直接積層されてもよいし、他の機能膜を介して間接的に積層されてもよい。他の機能膜としては、光学多層膜や透明導電膜等が挙げられる。このような光学薄膜は屈折率調整が容易で、光学部品20全体として光学設計がしやすい。このような光学薄膜の屈折率として、少なくとも上記特定波長領域において、光学部品20の透明基材の屈折率と空気層の屈折率の間が好ましい。例えば透明基材6がガラスであれば、1.15〜1.43(波長550nmでの屈折率、以下、特に断りのない限り同様)が好ましく、1.2〜1.4がより好ましい。光学薄膜の屈折率が、空気層との界面側において透明基材との界面側より低いと、より反射が抑制でき好ましい。
【0022】
なお、本発明の光学薄膜は、半導体装置に限られず、例えばプロジェクターのような投影装置内部の光学部品、光ピックアップ等におけるレンズ群やミラー等の光学部品に設けてもよいし、窓ガラス、車載用ガラス等、閉じた構造以外の透明基材表面に設けてもよい。
【0023】
光学薄膜5は、少なくとも一部が親水性を有する金属酸化物からなる。親水性を有する金属酸化物によれば、大気中の水分の吸着等により接触角を低減できる。これにより、空気中の水分は光学薄膜に吸着されるとともに、吸着量が一定量に達したとしても、水滴にならずに光学薄膜表面に広がり、水滴による曇りの発生が抑制される。親水性を有する金属酸化物としては、例えば、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化スズ等が好適なものとして挙げられ、これらは1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
光学薄膜5は、大気中の水分の吸着等により発生する曇りを抑制することから、気体中の水分と接触できる位置に配置されることが好ましく、通常、光学部品20の最表面に配置されることが好ましい。特に、防曇機能の効果を直接的に得る観点から、光学部品20を半導体装置10等の光学装置に装着したときに装置内側となる最表面に配置されることが好ましい。
【0025】
光学薄膜5は、多孔質構造を有することがより好ましい。多孔質構造によれば、表面凹凸や内部の空隙の存在によって大気中の水分が接触しうる面積が大幅に増大し、強い親水性を発揮するので、膜全体として防曇性能を向上できる。すなわち強い親水性を有する表面では、吸着した水分は、微小な水玉にならずに均一に濡れることにより、空気と付着した水分の界面が平滑となり曇りが抑制される。また、多孔質構造によれば、内部に有する空隙に空気層を蓄えることから、空隙のない緻密な構造のものと比べて実効的な屈折率を低くできる。空隙部分と金属酸化物部分との割合によって屈折率を調整でき、光学部品としての要求特性と満たすような光学設計がしやすくなる。
【0026】
多孔質構造は、微小な空隙が多数分散されているものもよいし、部分的に空隙が連なっているものもよい。多孔質構造としては、マトリックス(以下、バインダともいう)により金属酸化物微粒子が結合されたものが挙げられる。このような多孔質構造によれば、湿式法によって形成でき、乾式法、例えば真空蒸着法等の物理蒸着法や熱CVD等の化学蒸着法に比べて安価に形成できる。
【0027】
光学薄膜5における金属酸化物微粒子の割合は、特に限定されないが、光学薄膜5の全体、すなわちマトリックスと金属酸化物微粒子との合計量に対して、50〜95質量%が好ましい。50%未満であると光学薄膜5の屈折率が上昇し、光学部品としての要求特性を満たすような光学設計が困難になる。また、95%を超えると光学薄膜5の耐摩耗性強度が劣化する。60〜95質量%がより好ましく、70〜90質量%がさらに好ましい。このような範囲とすることで、多孔質構造中に大気中の水分を吸着させるための空隙を効果的に形成でき、また透明基材6、図示しない他の機能膜等との密着性も良好にできる。
【0028】
マトリックスは、金属酸化物が好ましく、マトリックスの金属酸化物と金属酸化物微粒子の金属酸化物とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。マトリックスを構成する金属酸化物としては、親水性を有する金属酸化物であれば特に制限されないが、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化スズ等が好適なものとして挙げられる。マトリックスは、金属酸化物のみからなることが好ましいが、例えば有機樹脂等の成分を30質量%以下、好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下含有してもよい。
【0029】
金属酸化物微粒子の平均一次粒子径(以下、平均粒子径ともいう)は、0.1〜1000nmが好ましく、より好ましくは2〜500nm、さらに好ましくは10〜100nmである。このような平均粒子径によれば、多孔質構造中に大気中の水分を吸着するための空隙を効果的に形成できるとともに、光学薄膜5の透明性も良好にできる。
【0030】
金属酸化物微粒子の形状は、特に限定されず、例えば球状、円筒状、直方体状等が挙げられる。その金属酸化物についても、親水性を有するものであれば特に制限されないが、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化スズ等が挙げられる。金属酸化物微粒子は、必ずしも1種の形状もしくは金属酸化物からなるものに限られず、2種類以上の形状もしくは金属酸化物からなるものを併用できる。
【0031】
金属酸化物微粒子は、内部に空隙を有する構造のものが好ましい。空隙の大きさは平均粒子径の1/3を上回る構造が好ましい。このような構造のものを無機中空微粒子ともいう。金属酸化物微粒子は、外殻の内部に空隙を有する構造のものがより好ましい。外殻は必ずしも空隙全体を覆うように形成される必要はなく、一部の空隙は外殻から露出していてもよい。無機中空微粒子の例として、シリカ、炭素、炭化ケイ素、チタニア、酸化鉄等や、これらの複合体等が挙げられる。例えばシリカからなる無機中空微粒子(以下、中空シリカ粒子ともいう)は、酸化シリコンを主成分とする外殻を有し、その外殻の内部に空隙を有する。中空状の場合、内部が完全に充填されたものと異なり、その外殻の厚さ調整により実効的な屈折率を調整できるために好ましい。中空シリカ粒子を有するものによれば、それ自体が多孔質なので好ましく、例えば、光学薄膜5の屈折率を1.2〜1.4にできる。
【0032】
金属酸化物微粒子の平均粒子径または、金属酸化物微粒子の内部空隙の大きさ(以下、内径ともいう)の何れか一方を固定し、外殻を厚くすると屈折率は上昇し、外殻を薄くすると屈折率は減少する。一例として、中空シリカ粒子の平均粒子径を40nmに固定し、外殻の厚さを変化させたときの屈折率の変動(屈折率変動比)を見積もったものを図9に示す。なお、縦軸は外殻の内部に空隙を有しないシリカ微粒子の屈折率に対する相対値であり、金属酸化物微粒子の内部の空隙中および周辺は空気層として見積もったものである。
【0033】
中空シリカ粒子の平均粒子径は、0.1〜1000nmが好ましく、より好ましくは2〜500nm、さらに好ましくは10〜100nmである。このような平均粒子径によれば、光学薄膜5、すなわち多孔質構造中に大気中の水分を吸着するための空隙を効果的に形成できるとともに、光学薄膜5の透明性も良好にできる。
【0034】
中空シリカ粒子の外殻の厚さは、特に限定されず、平均粒子径によっても異なるが、0.01〜100nmが好ましく、0.5〜50nmがより好ましく、1〜20nmがさらに好ましい。なお、外殻の厚さは、平均粒子径に対して1/50〜1/3程度の厚さが好ましく、1/5〜1/3程度の厚さがより好ましい。このようにすると、光学薄膜5の屈折率を上記の範囲に調整できる。
【0035】
また、中空シリカ粒子は、親水性金属酸化物膜22中で凝集していてもよい。例えば2〜10個程度凝集していてもよい。この場合、親水性金属酸化物膜22の強度や磨耗耐性が高まる傾向がある。また、凝集体としての粒径(以下、平均凝集粒子径ともいう)が10〜1000nmであることが好ましく、30〜700nmであることがより好ましく、60〜400nmであることがさらに好ましく、70〜200nmであることが特に好ましい。また、平均凝集粒子径が、凝集していない状態での平均粒子径(平均一次粒子径)の1.5倍以上であることが好ましい。
【0036】
なお、平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(日立製作所社製、商品名:H−9000)により観察した値であり、平均凝集粒子径は、動的光散乱法(日機装社製、商品名:マイクロトラックUPA)により測定した値である。
【0037】
光学薄膜5は、必ずしも単層構造に限られず、2層以上の多層構造であってもよい。多層構造としては、同一の金属酸化物微粒子でマトリクス中の割合の異なる2種の層が交互に積層されたものであってもよいし、金属酸化物微粒子の種類の異なるものが分散された層、金属酸化物微粒子の平均粒子径や外殻の厚さが異なるものが分散された層等が適宜積層されたものであってもよく、特に制限されるものではない。光学薄膜自体の厚さ方向に屈折率分布がある場合には、空気層との界面により近い光学薄膜ほど、より空気に近い屈折率であることが好ましい。
【0038】
光学薄膜5の厚さは、防曇機能以外に含まれうる機能や用途によっても異なるが、例えば単層構造または多層構造の全体の厚さで50〜2000nmが好ましい。厚さを50nm以上とすることで、十分な膜厚を得て反射光の発生を抑制できる。2000nm以下とすることで、成膜性が良好にできるほか、光学特性の変動を長期にわたって抑制できるので好ましい。例えば温度85℃湿度85%の高温高湿環境下で1000時間放置した後、再び初期と同じ条件で分光特性を測定したときに、光学特性の変動がほとんどないようにできる。光学薄膜5の厚さは、1000nm以下がより好ましく、500nm以下がさらに好ましい。
【0039】
また、光学薄膜5は、2マイクロリットルの純水からなる液滴を滴下したときの接触角が15度以下であることが好ましい。ここで、測定対象となる光学薄膜5(光学部品20)は、常温常湿(20℃、相対湿度35%)の環境下に3週間放置したものとする。また、接触角は、滴下直後に測定したものとする。このような光学薄膜5によれば、強い親水性を有する表面の存在により、長期にわたって親水性が維持できる。すなわち、このような光学薄膜5によれば、初期状態だけでなく、例えば3週間以上の間、良好な親水性を維持でき、防曇性能を効果的に維持できる。
【0040】
ここで、接触角とは、一般に固層の表面上に液層が接触している場合において、固液気の3層の接点における液層表面に対する接線と固液接触面との間の角度を意味し、大きくなるほど液層が略球状となるために親水性が低くなることを意味する。
【0041】
接触角は、以下のようにして測定できる。すなわち、図3に示すように、被測定部材31に対する純水からなる液滴32の接触角θは、被測定部材31と液滴32とが接触する点33における液滴32の表面カーブに対する接線と被測定部材31の表面31sとが成す角である。
【0042】
測定装置は、例えば接触角計(協和界面科学社製、商品名:FACE CA−X型)を使用する。まず、図4に示すように、マイクロシリンジ34を用いて純水の液滴32を形成する。液滴32の量は、2マイクロリットルである。
【0043】
次に、図5に示すように、液滴32の底部を測定対象である被測定部材31の表面31sに接触させる。そして、マイクロシリンジ34を被測定部材31から離すと、被測定部材31の表面31sに図6に示すような液滴32が付着する。この状態で、液滴32の高さhと、液滴32の半径r(あるいは図3に示した液滴32の両端間の距離もしくは液滴32の直径2r)を測定する。
【0044】
接触角θは、図3に示すθ1(=arctan(r/h))の2倍に等しいことから、測定された液滴32の高さhおよび半径rから、下記の式(1)を用いて接触角θの値が算出される。接触角θは、その値が大きいほど測定対象の親水性が低く、反対に小さいほど測定対象の親水性が高いことを示す。
【0045】
θ= 2 arctan(r/h) ・・・(1)
次に、光学薄膜5の形成方法について説明する。
【0046】
一例として、金属酸化物微粒子として中空シリカ粒子を有する光学薄膜5の形成方法について説明する。
【0047】
コア−シェル型微粒子は、例えば、コアとなるコア微粒子を分散媒に分散させ、その後に外殻の前駆物質を反応させて製造する。コア微粒子としては、中空シリカ粒子の製造方法によっても異なるが、熱、酸、または光によって溶解、分解、または昇華するものが挙げられる。例えば、界面活性剤ミセル、水溶性有機重合体、スチレン樹脂、アクリル樹脂等の熱分解性有機重合体微粒子;アルミン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、塩基性炭酸亜鉛、酸化亜鉛等の酸溶解性無機微粒子;硫化亜鉛、硫化カドミウム等の金属カルコゲナイド半導体、および酸化亜鉛等の光溶解性無機微粒子等より選ばれる1種または2種以上の混合物を使用できる。これらの中でも、コアを除去するときの作業性や生産性が良好であり、またコア除去中に中空シリカ粒子の急激な凝集を抑制でき、透明性の高い親水性金属酸化物膜22が得られることから酸化亜鉛が好ましい。
【0048】
コア微粒子は、気相法等による乾式法、液相法等による湿式法のどちらで合成されたものでもよく、単分散体であっても凝集体であってもよい。コア微粒子の大きさや形状は、特に限定されず、コア微粒子の溶解速度、中空シリカ粒子における空隙の大きさ等を考慮して適宜選択する。
【0049】
分散媒についても、特に限定されず、例えば、水、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類、含硫黄化合物類が挙げられる。分散媒は、必ずしも水を含有する必要はないが、外殻の前駆物質を加水分解・重縮合する場合にそのまま使用できることを考慮すると、分散媒は水単独または水と有機溶媒との混合溶媒が好ましい。
【0050】
分散媒へのコア微粒子の分散は、好ましくは分散剤を加えて、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、ホモミキサー、ペイントシェーカー等の分散機で解膠することにより行う。このコア微粒子の分散液に、酸やアルカリ等の加水分解触媒を添加し、例えばpH8以上で外殻の前駆物質を反応させる。これにより、コア微粒子の表面に外殻を形成し、コア−シェル型微粒子を得る。外殻の前駆物質としては、例えば、ケイ酸、ケイ酸塩、ケイ酸アルコキサイドより選ばれる1種または2種以上の混合物が挙げられ、これらの加水分解物または重合物であってもよい。
【0051】
外殻の厚さは、外殻の形成時間の調整で制御できる。形成時間を長くすると、外殻は厚くなり、屈折率が上昇する。一方、形成時間を短くすると、外殻は薄くなり、屈折率が低下する。
【0052】
屈折率調整の別の方法として、所定の一次粒子径の金属酸化物微粒子の内部空隙の大きさ、すなわち内径を調整する方法もある。金属酸化物微粒子の内径は、コア微粒子の粒子径の調整で制御できる。粒子径の大きいコア微粒子を使用して外殻を形成すると、外殻の内径は大きくなり、所定サイズの金属酸化物微粒子の外殻の厚さは相対的に薄くなり、屈折率は低下する。
【0053】
所定の外殻厚さであっても、外殻の形成時間を短縮するために、コア微粒子の分散液の混合時のpHは9〜11が好ましく、温度は20〜100℃が好ましい。コア微粒子の分散液には、イオン強度を高めて外殻の形成を容易とするために、水酸化マグネシウム等の電解質を添加し、これらの電解質によりpHを調整することもできる。
【0054】
その後、例えば、コア−シェル型微粒子内のコア微粒子を溶解させて中空シリカ粒子とする。コア微粒子は、例えば、pH8以下でイオンとなって溶解する。コア微粒子がZnO微粒子の場合はZn2+イオンとなって溶解する。コア微粒子の溶解は、酸の添加、または酸性カチオン交換樹脂の使用によって実施できる。酸性カチオン交換樹脂によれば、コア微粒子の溶解が緩やかに進行することから、イオン濃度の急激な上昇を抑制し、中空シリカ粒子の急激な凝集を抑制できる。急激な凝集が起こると、凝集粒子径が大きくなりすぎ、光学薄膜5の透明性が低下するおそれがある。
【0055】
酸性カチオン交換樹脂は、少なくともコア微粒子を溶解し、分散液のpHを8以下、好ましく6以下の範囲とするものが好ましい。ここで酸性カチオン交換樹脂の酸性度は官能基によって決まり、強酸性では−SOH基、弱酸性では−COOH基が挙げられる。酸性カチオン交換樹脂の添加量は、少なくとも発生する上記のZn2+のようなイオンの量よりも総交換容量が大きい範囲であることが好ましい。樹脂量は、必要量の1.1〜5倍の範囲が好ましい。酸性カチオン交換樹脂の添加量が多いほどコア微粒子の溶解速度が速まる傾向がある。
【0056】
溶解温度は、特に限定されず、室温であっても基本的に溶解反応が進行する。温度は、高い方が溶解反応および溶解イオン等の拡散速度が増大するために好ましく、例えば10〜100℃が好ましく、20〜80℃がより好ましい。コア微粒子の溶解後、ろ過等の固液分離操作によりカチオン交換樹脂を分離して中空シリカ粒子の分散液を得ることができる。
【0057】
なお、無機中空微粒子の製造法としては上記に限らない。例えば高温焼成でコアを気化させることで空隙を生じさせる方法等、必要に応じて既知の方法が利用できる。
【0058】
次に、中空シリカ粒子と、マトリックスの前駆物質とを混合し、光学薄膜5となる塗工液を調製する。マトリックスの前駆物質の固形分換算量は、中空シリカ粒子の質量に対して0.05〜15倍が好ましい。このような割合とすることで、良好な多孔質構造を有するとともに、高い硬度を有し、耐摩耗性に優れた光学薄膜5を形成できる。
【0059】
マトリックスの前駆物質としては、マトリックスに含まれる金属の金属アルコキサイドおよび/またはその加水分解重縮合物等が挙げられる。金属アルコキサイドとしては、ケイ酸アルコキサイドが好ましく、例えばケイ酸エチルの他、パーフルオロポリエーテル基および/またはパーフルオロアルキル基等のフッ素含有官能基を含むケイ酸アルコキサイド、ビニル基およびエポキシ基より選ばれる官能基の1種または2種以上を含有するケイ酸アルコキサイドでもよい。
【0060】
パーフルオロポリエーテル基を含有するケイ酸アルコキサイドとしては、例えばパーフルオロポリエーテルトリエトキシシラン;パーフルオロアルキル基を含有するケイ酸アルコキサイドとしては、パーフルオロエチルトリエトキシシラン;ビニル基を含有するケイ酸アルコキサイドとしては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン;エポキシ基を含有かるケイ酸アルコキサイドとしては、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0061】
また、マトリックスの一部に有機樹脂を用いる場合、紫外線硬化型有機樹脂が好ましく、例えば、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0062】
塗工液は、中空シリカ粒子、マトリックスの前駆物質の他、塗布表面へのぬれ性を向上させるための界面活性剤を含むことができる。界面活性剤はアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤のいずれも使用できる。界面活性剤としては、−CHCHO−、−SO−、−NR−(Rは水素原子または有機基)、−NH−、−SOY、−COOY(Yは水素原子、ナトリウム原子、カリウム原子またはアンモニウムイオン)の構造単位を有するノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0063】
ノニオン系の界面活性剤としては、例えば、アルキルポリオキシエチレンエーテル、アルキルポリオキシエチレン−ポリプロピレンエーテル、脂肪酸ポリオキシエチレンエステル、脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタンエステル、脂肪酸ポリオキシエチレンソルビトールエステル、アルキルポリオキシエチレンアミン、アルキルポリオキシエチレンアミド、ポリエーテル変性のシリコーン系界面活性剤等が挙げられる。
【0064】
塗工液は、界面活性剤以外にも、必要に応じて各種添加剤を含むことができる。例えば、着色、導電、偏光、紫外線遮蔽、赤外線遮蔽、防汚、防曇、光触媒、抗菌、蓄光、電池、屈折率制御、撥水、撥油、指紋除去、滑り性等より選ばれる1種または2種以上の機能を付与するものを含んでもよい。
【0065】
塗工液の塗布は、例えば、ローラー塗布、手塗り、刷毛塗り、ディッピング、回転塗布、浸漬塗布、各種印刷方式による塗布、カーテンフロー、バーコート、ダイコート、グラビアコート、マイクログラビアコート、リバースコート、ロールコート、フローコート、スプレーコート、インクジェット、ディップコート等により行うことができる。
【0066】
塗布後、塗膜を乾燥させることにより、光学薄膜5が形成できる。乾燥は、溶媒を除去できるとともに、前駆物質をマトリックスに変換できればよく、例えば室温〜200℃程度で保持すればよいが、より高い硬度を有するものとするために、500〜700℃で1〜60分間程度の熱処理が好ましい。このようにすることで、より耐擦傷性の高い光学薄膜とすることができる。
【0067】
また、必要に応じて、例えば機械的強度を高めるために、紫外線や電子線等による照射を行ってもよい。さらに、密着性を高めるために、プラズマ処理、コロナ処理、UV処理、オゾン処理等の放電処理、水、酸やアルカリ等の化学処理、または研磨剤を用いた物理的処理を施すことができる。
【0068】
次に、図6を参照して光学部品20の変形例について説明する。
【0069】
この光学部品20は、第1の透明基材6aと第2の透明基材6bとを有し、第1の透明基材6aと第2の透明基材6bとが透明接着層8によって接着されるとともに、第2の透明基材6b上に、機能膜としての光学多層膜9b、光学薄膜5が順に積層されている。また、第1の透明基材6a上に、機能膜としての光学多層膜9aが積層されたものである。
【0070】
第1の透明基材6aは、例えば赤外吸収フィルタとでき、第2の透明基材6bは、例えば赤外吸収機能を有しないガラス基板や有機樹脂基板とできる。また、光学部品20は、透明基材6、光学薄膜5のほかに、必要に応じて光学多層膜9を有してもよい。光学多層膜9を有する光学部品20は、例えば視感度補正機能と、防曇特性機能とを有するカバーガラスとして好適に使用されるものである。
【0071】
赤外吸収フィルタとしては、可視光を透過させるとともに、赤外光を吸収できるものであれば特に制限されるものではなく、例えばガラス型や有機樹脂型等が挙げられる。ガラス型としては、例えばCuOを含有するフツリン酸塩系ガラスもしくはCuOを含有するリン酸塩系ガラスが挙げられる。
【0072】
赤外吸収機能を有しないガラス基板としては、例えば可視光など特定波長領域の光に対して透明性を有するものであれば特に制限されず、例えば、石英ガラス、ソーダガラス、ホウケイ酸ガラス、などが挙げられる。また、有機樹脂型としては、例えば、有機樹脂中に赤外光を吸収する色素または顔料を分散させたものが挙げられる。有機樹脂型としては、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリエステル、ポリビニルエーテル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスルホン、セルロース、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ノルボルネン系樹脂、フッ素系樹脂、またはこれらの共重合体等に、赤外光を吸収する色素等、例えばジイモニウム系色素、フタロシアニン系色素、ジチオール錯体系色素、スクアリリウム系色素、酸化タングステン系色素等を分散させたものが挙げられる。
【0073】
光学多層膜は、例えば赤外吸収フィルタのみでは受光部1の分光感度を視感度に一致させることができないことから、特定の波長領域をカットするために設けられる。光学多層膜は、例えば以下の波長領域のカット効果を有する。すなわち、撮像装置に入射した光が通過するレンズ群の青色のにじみを改善するために、400nm近傍をカットする。赤外吸収フィルタが赤色700nm近傍で緩やかな吸収、減光をするのをシャープにカットする。1000nmを超えた赤外領域にて赤外吸収フィルタの透過率が徐々に高くなるのをカットする。このような光学多層膜としては、例えば赤外光および紫外光のカット効果を有するダイクロイック多層膜が挙げられる。
【0074】
光学多層膜は、例えば、透明基材6側から高屈折率金属酸化物と低屈折率金属酸化物とが交互に各膜厚100nm程度となるように全部で40層程度積層されたものである。高屈折率金属酸化物は、屈折率が1.9以上、好ましくは1.9〜2.5であり、例えば酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム等が好ましい。一方、低屈折率金属酸化物は、屈折率が1.5以下、好ましくは1.2〜1.5であり、例えば酸化シリコン、フッ化マグネシウム等が好ましい。光学多層膜の最表面層は低屈折率金属酸化物、高屈折率金属酸化物のいずれでも良いが、特に酸化シリコンが好ましい。光学多層膜の最表面層を酸化シリコンとすることで、親水性金属酸化物膜22の密着性を向上できるためである。
【0075】
光学多層膜は、公知の成膜方法を適用して形成でき、例えばマグネトロンスパッタリング法、電子線蒸着法、真空蒸着法、化学蒸着法等により形成できる。
【実施例】
【0076】
(例1)
透明基材6としてのガラス基板上に、光学薄膜5としてマトリックスにより中空シリカ粒子を結合した中空シリカ膜を形成して、光学部品Aを製造した。なお、中空シリカ膜は、以下に示すように形成した。
【0077】
まず、以下の手順により中空シリカゾルを得た。
【0078】
容量200mlのガラス製反応容器に、エタノール60g、ZnO微粒子水分散ゾル(境化学工業社製、製品名:NANOFINE−50、平均1次粒子径20nm、平均凝集粒子径100nm、固形分換算濃度10質量%)30g、テトラエトキシシラン(SiO固形分濃度29質量%)10gを加えた後、アンモニア水溶液を添加してpH=10として、20℃で6時間撹拌して、コア−シェル型微粒子分散液(固形分濃度6質量%)100gを得た。
【0079】
得られたコア−シェル型微粒子分散液に強酸性カチオン交換樹脂(三菱化学社製、商品名:ダイヤイオン、総交換容量2.0meq/ml以上)を100g加え、1時間撹拌してpH=4となった後、ろ過により強酸性カチオン交換樹脂を除去することで、内部に空隙を有する中空状SiO微粒子分散液(以下、中空シリカゾルともいう)100gを得た。該当中空状SiO微粒子(以下、中空シリカ粒子ともいう)の平均一次粒子径は40nm(日立ハイテク社製、商品名:日立走査電子顕微鏡S−3700N)、空孔径はZnO微粒子の平均一次粒子径に等しいため20nm、よって外殻の厚さは計算により10nmであった。また、当該SiO微粒子は凝集体粒子であり、平均凝集粒子径100nmであった。
【0080】
以上の手順で得た中空シリカゾル(0.7g、固形分濃度:15質量%)、マトリックスの前駆物質であるテトラエトキシシランの硝酸部分加水分解物(2g、固形分濃度:2.25質量%)、イソプロパノール(7.3g)を室温で混合し塗工液を調整した。塗工液に含まれる中空シリカ粒子とマトリックスとの比は、SiO換算で7:3(質量比)である。
【0081】
その後、上記したガラス基板上に、スピンコート法により塗工液を塗布した。その後、200℃で45分間の熱処理を行い、前駆物質の脱水反応を行い、光学薄膜として中空シリカ膜を形成した。光学薄膜の膜厚は走査電子顕微鏡で測定し、102nmとした(日立ハイテク社製、商品名:S−3700N)。なお、このようにして得られた光学薄膜の反射率を分光光度計(日立ハイテク社製、商品名:U4100)で測定し、計算により光学薄膜の屈折率は1.22であった。
【0082】
(例2)
透明基材6としてのガラス基板上に、光学薄膜5として酸化チタン膜を105nm成膜した光学部品Bを製造した。酸化チタン膜の成膜には、ターゲットにチタン(Ti)を用い、スパッタガスにアルゴン(Ar)と酸素(O)の混合ガスを用いたDCマグネトロンスパッタ装置を使用した。
【0083】
(例3)
透明基材6としてのガラス基板上に、光学薄膜5として、マトリックスにより、平均粒子径の1/3を上回る空隙を有さない、いわゆる一般的なシリカ粒子を結合したシリカ粒子膜を形成して、光学部品Cを製造した。シリカ粒子膜は以下のようにして形成した。
【0084】
まず平均粒子径の1/3を上回る空隙を有さないシリカ粒子(境化学工業社製、製品名:球状シリカ、平均1次粒子径50nm)と、マトリックスの前駆物質であるテトラエトキシシランの硝酸部分加水分解物(2g、固形分濃度:2.25質量%)、イソプロパノール(7.3g)を室温で混合し塗工液を調整した。塗工液に含まれるシリカ粒子とマトリックスとの比はSiO換算で9:1から7:3の間で調整可能であるが、ここではSiO換算で8:2(質量比)とした。この塗工液を、上記したガラス基板上に、スピンコート法により塗布した。その後、200℃で45分間の熱処理を行い、前駆物質の脱水反応を行い、光学薄膜としてシリカ膜を形成した。膜厚は111nmだった。
【0085】
(接触角)
上記例1〜3によって製造された光学部品A、B、C各々の光学薄膜5表面の接触角について、それぞれ製造直後(20℃)、および常温常湿(20℃、相対湿度35%)の環境下で3週間放置後に測定した。測定は、対象となる表面に2マイクロリットルの純水からなる水滴を滴下し、接触角計(協和界面化学社製、商品名:FACE CA−X型)を用いて測定を行った。製造直後の光学部品A、光学部品Bおよび光学部品Cの光学薄膜表面の接触角は、すべて測定限界以下(7度以下)であった。しかし3週間放置した光学部品Aと光学部品Cの光学薄膜表面の接触角は、測定限界以下となったのに対し、光学部品Bの光学薄膜表面の接触角は、17度を示した。すなわち、中空シリカまたはシリカ粒子による光学薄膜面があると、酸化チタン膜を有するときと比べて親水性が長期にわたりきわめて良好であった。
【0086】
(防曇試験)
上記例1〜3によって製造された光学部品A、B、C各々の光学薄膜5表面に対して、ビーカー内に純水を入れ、80℃に熱し水蒸気を発生させ、30秒間の水蒸気暴露試験を行った。試験は製造直後(20℃)、および常温常湿(20℃、相対湿度35%)の環境下で3週間放置後に行った。その後、目視検査にて曇りの発生の有無を確認したところ、製造直後の光学部品A、光学部品Bおよび光学部品Cはすべて表面において水が均一に濡れて曇りは発生しなかった。しかし上記環境下で3週間放置した光学部品Aおよび光学部品Cでは表面において水が均一に濡れて曇りは発生しなかったのに対して、光学部品Bでは曇りが発生した。すなわち、中空シリカまたはシリカ粒子による光学薄膜面があると、酸化チタン膜を有するときと比べて防曇性能が長期にわたりきわめて良好であった。
【0087】
(反射率測定)
上記例1〜3によって製造された光学部品A、B、Cについて、常温常湿(20℃、相対湿度35%)の環境下で、分光光度計(日立ハイテク社製、商品名:U4100)を用いて400〜1200nmにおける透過率を測定した(図7)。図8は、図7の反射率1%以下の部分の拡大図である。図7、図8に示すように、光学部品Bの反射率が少なくとも3%以上と高いのに対して、光学部品Aの反射率は、波長400〜800nmにおける反射率が概ね1%以下であった。特に視感度の高い500〜600nm付近では反射率0.1%以下と、可視光領域ではきわめて良好な反射防止特性を得られることが認められた。光学部品Cの反射率については、波長400〜800nmにおいて概ね1%以下であるが、400〜800nmの波長域において反射率が0.1%以上であり、光学部品Aと比較すると十分な低反射率を実現することができなかった。
【0088】
このように、中空シリカによる光学薄膜面は、良好な防曇性能と良好な光学特性とを兼ね備える。なお、3週間放置後、再度同様に反射率測定を行っても、光学部品A、B、C各々において反射率に有意な変動は認められない。
【符号の説明】
【0089】
1 固体撮像素子
2 半導体パッケージ
3 外部端子
4 ボンディングワイヤ
5 光学薄膜
6、6a、6b 透明基材
7 接着剤
8 透明接着剤
9、9a、9b 光学多層膜
10 半導体装置
20 光学部品
31 被測定部材
32 液滴
34 マイクロシリンジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、
前記透明基材上に積層され、少なくとも一部が親水性金属酸化物からなる光透過性の光学薄膜と、を有する光学部品であって、
前記光学薄膜が、マトリックスによって内部に空隙を有する金属酸化物微粒子が結合された多孔質構造であることを特徴とする、光学部品。
【請求項2】
前記金属酸化物微粒子が中空シリカ粒子である、請求項1に記載の光学部品。
【請求項3】
前記金属酸化物微粒子は、透過型電子顕微鏡にて観察される平均一次粒子径が0.1〜1000nmである、請求項1〜2に記載の光学部品。
【請求項4】
前記金属酸化物微粒子は、外殻の内部に空隙を有し、前記外殻の厚さは、前記平均一次粒子径の1/50〜1/3である、請求項1〜3に記載の光学部品。
【請求項5】
前記マトリックスが主として親水性金属酸化物からなる、請求項1〜4に記載の光学部品。
【請求項6】
前記金属酸化物微粒子の割合が、前記光学薄膜全体に対して5〜95質量%である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学部品。
【請求項7】
前記光学薄膜が、前記光学部品の最表面に形成されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学部品。
【請求項8】
前記透明基材は、ガラス、無機結晶、および有機樹脂から選ばれる少なくとも1種からなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の光学部品。
【請求項9】
透明基材と、
前記透明基材上に積層され、高屈折率金属酸化物膜と低屈折率金属酸化物膜とが交互に積層されてなる光学多層膜と、
前記光学多層膜上に積層され、光透過性で、マトリックスによって内部に空隙を有する金属酸化物微粒子が結合された多孔質構造の光学薄膜と、
を有する光学部品。
【請求項10】
前記光学多層膜の最表面は酸化シリコンからなり、その上に前記光学薄膜が積層される、請求項9に記載の光学部品。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の光学部品と受光部とを有し、
前記光学部品の受光部に対向する内面に、前記光学薄膜が設けられる、
半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−105846(P2013−105846A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247765(P2011−247765)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】