説明

防汚性基板の製造方法

【課題】含フッ素加水分解性シラン化合物を用いて形成される被膜を有する防汚性基板の製造方法において、用いる被膜形成用組成物の貯蔵安定性が良好で、かつ得られる被膜が防汚性能に優れる防汚性基板の製造方法を提供する。
【解決手段】基板上に含フッ素加水分解性シラン化合物を用いて形成される被膜を有する防汚性基板の製造方法であって、前記含フッ素加水分解性シラン化合物を含み、実質的に加水分解反応触媒を含有しない被膜形成用組成物を製造する工程、前記被膜形成用組成物を基板上に蒸着して、または、湿式塗布後乾燥して、前駆膜を得る工程、および、加水分解反応触媒を含む処理液により前記前駆膜の表面を処理して被膜とする工程、を含むことを特徴とする防汚性基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚性基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材の表面に撥水性を付与する方法としては、ペルフルオロアルキル基および加水分解性シリル基を有する含フッ素加水分解性シラン化合物を含む組成物を基板に塗布し、乾燥することによって被膜を形成する方法が知られている。
【0003】
このような組成物から得られる被膜を有する基板は、例えば、タッチパネル等に利用されている。ここで、タッチパネル上に形成される被膜には、高い撥水性、耐摩耗性および指紋の拭き取り性(以下、まとめて「防汚性能」ともいう。)等の特性が要求される。
該特性を満たす被膜を有する防汚性基板の製造方法としては、ペルフルオロアルキル基および加水分解性シリル基を有する含フッ素加水分解性シラン化合物と酸触媒を含む溶液を用いて、基板上に真空蒸着し、加熱処理して被膜を形成する方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、ペルフルオロアルキル基および加水分解性シリル基を有する含フッ素加水分解性シラン化合物と、酸または塩基、リン酸エステルおよびβ−ジケトンからなる群より選ばれる1種以上の触媒を含有する組成物を、基板上に湿式塗布し、加熱処理して被膜を形成する方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−139530号公報
【特許文献2】特開平10−120445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、組成物中に酸触媒を含有するため、真空蒸着時の加熱により含フッ素加水分解性シラン化合物同士の縮合反応が進みやすく、基板に到達する材料の分子量が増加する。分子量の増加に伴う加水分解性シリル基の濃度の減少は、製膜状態に影響を与え、防汚性能を不充分とする傾向にある。また、分子量が増加すると、蒸着されずに製膜に供さない材料の比率が上がるため、材料の利用効率が低下する。
【0007】
また、特許文献2に記載の方法では、組成物を保存中に含フッ素加水分解性シラン化合物と触媒とが一部反応するため、貯蔵安定性が不充分である。
【0008】
本発明の目的は、含フッ素加水分解性シラン化合物を用いて形成される被膜を有する防汚性基板の製造方法において、用いる被膜形成用組成物の貯蔵安定性が良好で、かつ得られる被膜が防汚性能に優れる防汚性基板の製造方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下[1]〜[12]の構成を有する防汚性基板の製造方法を提供する。
[1]基板上に下式(1)で表される含フッ素加水分解性シラン化合物を用いて形成される被膜を有する防汚性基板の製造方法であって、以下の(I)工程〜(III)工程を含むことを特徴とする防汚性基板の製造方法。
(I)工程:前記含フッ素加水分解性シラン化合物を含み、実質的に加水分解反応触媒を含有しない被膜形成用組成物を製造する工程、
(II)工程:前記被膜形成用組成物を基板上に蒸着して、または、湿式塗布後乾燥して、前駆膜を得る工程、
(III)工程:加水分解反応触媒を含む処理液により前記前駆膜の表面を処理して被膜とする工程。
A−R−B …(1)
式(1)中の記号は以下を示す。
A:炭素原子数1〜6のペルフルオロアルキル基、または下式(2)で表される基。
:エーテル性酸素原子を有する2価の含フッ素有機基。
B:下式(2)で表される基。
−Q−SiX3−m …(2)
式(2)中の記号は以下を示す。
Q:アミド結合、ウレタン結合、エーテル結合およびエステル結合からなる群より選ばれる1種以上を含んでもよく、水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数2〜12の2価の炭化水素基。
X:加水分解性基。
R:水素原子または1価の炭化水素基。
m:1〜3の整数。
ただし、式(1)中にXおよびRが複数個存在する場合は、これらは互いに異なっていても、同一であってもよい。
[2]前記加水分解反応触媒が酸またはアルカリである、[1]の防汚性基板の製造方法。
[3]前記加水分解反応触媒が酸である[1]または[2]の防汚性基板の製造方法。
[4]前記酸が、塩酸、硝酸、硫酸、パラトルエンスルホン酸およびメタンスルホン酸からなる群から選ばれる1種以上である、[2]または[3]の防汚性基板の製造方法。
[5]前記処理液が、実質的にシラン化合物を含まない、[1]〜[4]のいずれかの防汚性基板の製造方法。
[6]前記前駆膜表面の処理を、前記処理液を含浸または保持させた保液部材を前記前駆膜表面に加圧接触させながら移動することにより行う、[1]〜[5]のいずれかの防汚性基板の製造方法。
[7]前記保液部材を構成する素材が、スポンジ、不織布、織布または紙である、[6]の防汚性基板の製造方法。
[8]前記前駆膜の表面を処理する工程の前に、前記前駆膜を0〜60℃、40〜100RH%で、10〜180分間加湿する工程をさらに含む、[1]〜[7]のいずれかの防汚性基板の製造方法。
[9]前記基板がガラスまたは樹脂である、[1]〜[8]のいずれかの防汚性基板の製造方法。
[10]前記式(1)中、Xで示される加水分解性基が、アルコキシ基、アシロキシ基、アルケニルオキシ基、イソシアナート基およびハロゲン原子からなる群より選ばれる、[1]〜[9]のいずれかの防汚性基板の製造方法。
[11]前記Rが下式(3)で表される直鎖型ペルフルオロオキシアルキレン基である、[1]〜[10]のいずれかの防汚性基板の製造方法。
−O−(C2yO)− …(3)
式(3)中、yは1〜6の整数であり、繰り返し単位ごとに異なっていてよく、eは5〜100の整数である。
[12]前記Rが下式(5)で表されるペルフルオロエーテル基である、[1]〜[10]のいずれかの防汚性基板の製造方法。
【化1】

式(5)中、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して、0または1以上の整数であり、かつ、a+b+c+dは5〜150である。また、(CFCFO)、(CF(CF)CFO)、(CFO)、(CFCFCFO)の繰り返し単位の結合順序は限定されず、互いにランダムに結合してもブロックに結合してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、用いる被膜形成用組成物の貯蔵安定性が良好で、かつ防汚性能に優れる防汚性基板が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、下記説明に限定して解釈されるものではない。
本明細書において、「湿式塗布」とは、被膜形成用組成物と溶媒とを含む溶液を基材上の被膜形成面に塗布することをいい、湿式塗布で得られた膜を「塗膜」という。
本明細書において、「前駆膜」とは、被膜形成用組成物を主体とする膜であって、被膜形成用組成物を基材上の被膜形成面に蒸着して得られる膜、塗膜から乾燥により溶媒が除去された膜をいう。
本明細書において、「被膜」とは、前駆膜の表面を加水分解反応触媒を含む処理液で処理した膜をいう。
【0012】
本明細書において用いる、(メタ)アクリロイルオキシ基等の「(メタ)アクリロイルオキシ…」の用語は、「アクリロイルオキシ…」と「メタクリロイルオキシ…」の両方を意味する。また、後述の「(メタ)アクリル…」の用語は、同様に「アクリル…」と「メタクリル…」の両方を意味する。
本明細書における式(1)で表される化合物を、化合物(1)という。他の化合物も同様である。本明細書における式(2)で表される基を、基(2)という。他の基も同様である。
【0013】
[防汚性基板の製造方法]
本発明の製造方法は、基板上に上式(1)で表される含フッ素加水分解性シラン化合物を用いて形成される被膜を有する防汚性基板の製造方法であって、以下の(I)工程〜(III)工程を含むことを特徴とする。
【0014】
(I)工程:上式(1)で表される含フッ素加水分解性シラン化合物(化合物(1))を含み、実質的に加水分解反応触媒を含有しない被膜形成用組成物を製造する工程、
(II)工程:前記被膜形成用組成物を基板上に蒸着して、または、湿式塗布後乾燥して、前駆膜を得る工程、
(III)工程:加水分解反応触媒を含む処理液により前記前駆膜の表面を処理して被膜とする工程。
【0015】
本発明の製造方法においては、上記(II)工程と(III)工程との間に、以下の(II−1)工程および/または(II−2)工程を設けてもよい。さらに、必要に応じて(III)工程の後に以下の(III−1)工程を設けてもよい。
(II−1)工程:(II)工程で得られた基板上の前駆膜を0〜60℃、40〜100RH%で、10〜180分間加湿する工程、
(II−2)工程:(II)工程で得られた基板上の前駆膜を60超〜250℃で、10〜180分間加熱する工程、
(III−1)工程:(III)工程で得られた被膜を、0〜60℃、40〜100RH%で、1〜50時間加湿する工程。
【0016】
より防汚性能が高い被膜が得られる点から、(I)工程、(II)工程、(II−1)工程、(III)工程、(III−1)工程を含むことが好ましい。
【0017】
なお、上記で基板上に形成される被膜は防汚性を有する防汚性被膜であり、該被膜を有することで、防汚性基板は防汚性を有する。上記被膜を有する防汚性基板は、基板と被膜との間に各種機能を有する中間膜を有してもよく、その場合(II)工程で前駆膜は、基板表面ではなく基板表面に形成された中間膜上に形成される。
【0018】
化合物(1)は、末端に加水分解性シリル基を有する。加水分解性シリル基は触媒と水の存在下、加水分解によりシラノール基となる。シラノール基は分子間で脱水縮合して−Si−O−Si−で表されるシロキサン結合を生成し、含フッ素の被膜が防汚性被膜として形成される。またシラノール基は、基材の表面の水酸基(基材−OH)と脱水縮合反応して、化学結合(基材−O−Si)を形成する。このように化合物(1)は、末端に加水分解性シリル基を有するため、基材との密着性が良好で、かつ、高い防汚性能を有する被膜の形成が可能な化合物である。
【0019】
防汚性被膜の製造は、従来は、上記の通り加水分解反応触媒を含む被膜形成用組成物を用いていた。一方、本発明においては、加水分解反応触媒を配合しない被膜形成用組成物を用い、該組成物を主体とする前駆膜を形成した後に、その表面に加水分解反応触媒を作用させる方法を採用した。これにより、被膜形成用組成物の貯蔵安定性を確保しながら、簡便で生産効率がよく、さらに基板の劣化がなく外観が良好な防汚性被膜を有する防汚性基板の製造を可能とした。
【0020】
以下、各工程について説明する。
((I)工程)
(I)工程は、下式(1)で表される含フッ素加水分解性シラン化合物を含み、実質的に加水分解反応触媒を含有しない被膜形成用組成物を製造する工程である。
A−R−B …(1)
式(1)中の記号は以下を示す。
A:炭素原子数1〜6のペルフルオロアルキル基、または下式(2)で表される基。
:エーテル性酸素原子を有する2価の含フッ素有機基。
B:下式(2)で表される基。
−Q−SiX3−m …(2)
式(2)中の記号は以下を示す。
Q:アミド結合、ウレタン結合、エーテル結合およびエステル結合からなる群より選ばれる1種以上を含んでもよく、水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数2〜12の2価の炭化水素基。
X:加水分解性基。
R:水素原子または1価の炭化水素基。
m:1〜3の整数。
ただし、式(1)中にXおよびRが複数個存在する場合は、これらは互いに異なっていても、同一であってもよい。
【0021】
化合物(1)は、エーテル性酸素原子を有する2価の含フッ素有機基(R)を挟んで両側または片側の末端に加水分解性シリル基(−SiX3−m)を有する。
式(1)におけるRとして、具体的には、下式(3)で表される直鎖型ペルフルオロオキシアルキレン基が挙げられる。
−O−(C2yO)− (3)
式(3)中、yは1〜6の整数であり、繰り返し単位ごとに異なっていてよく、eは5〜100の整数である。
−(C2yO)−としては、−CFO−、−CO−、−CO−、−CO−、−C10O−および−C12O−から選ばれる1種以上が順不同にその繰り返し単位が5〜100個となるように接続した2価の基が挙げられる。
【0022】
式(1)におけるRとしては、また下式(5)で表されるペルフルオロエーテル基が挙げられる。
【0023】
【化2】

式(5)中、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して、0または1以上の整数であり、かつ、a+b+c+dは5〜150である。また、(CFCFO)、(CF(CF)CFO)、(CFO)、(CFCFCFO)の繰り返し単位の結合順序は限定されず、互いにランダムに結合してもブロックに結合してもよい。
【0024】
なかでも、Rとしては、−O−(CFO)c1−(c1は5〜80の整数)、−O−(CFCFO)a1−(a1は5〜80の整数)、−O−(CFCFCFO)d1−(d1は5〜80の整数)、−O−(CF(CF)CFO)b1−(b1は5〜80の整数)、−O−(CFCFO)a2−(CFO)c2−(a2は5〜50の整数、c2は5〜50の整数)、−O−(CF(CF)CFO)b2−(CFO)c3−(b2は5〜50の整数、c3は5〜50の整数)等が特に好ましい。
【0025】
化合物(1)は、Rを挟んで両側または片側に、式(2)で示される、QをRとの連結基として末端に加水分解性シリル基(−SiX3−m)を有する基を有する。
【0026】
式(2)において、Xは加水分解性基を示す。Xとしては、アルコキシ基、アシロキシ基、アルケニルオキシ基、イソシアネート基およびハロゲン原子からなる群より選ばれる基が好ましい。炭素原子数が1〜10のアルコキシ基が好ましく、炭素原子数が2〜10のアシロキシ基またはアルケニルオキシ基が好ましい。なかでも、工業的な製造が容易な点から、また、蒸着、湿式塗布時のアウトガスが少なく、化合物(1)の保存安定性に優れる点で、炭素原子数1〜4のアルコキシ基が好ましい。なかでも、化合物(1)の長期の保存安定性が必要な場合にはエトキシ基が特に好ましく、蒸着、湿式塗布後の反応時間を短時間とする場合にはメトキシ基が特に好ましい。
【0027】
式(2)において、mは1〜3の整数であり、2または3が好ましく、特に3が好ましい。分子中にXが複数個存在することにより、基材の表面との結合がより強固になる。mが2以上である場合、1分子中に存在する複数個のXは互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。原料の入手容易性や製造が簡便な点で、互いに同じであることが好ましい。
【0028】
式(2)において、Rは水素原子または1価の炭化水素基である。1価の炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基またはアリール基等が挙げられる。Rは1価の炭化水素基が好ましく、1価の飽和炭化水素基が特に好ましい。1価の飽和炭化水素基の炭素原子数は1〜6が好ましく、1〜3がより好ましく、1〜2が特に好ましい。Rとしては、合成が簡便であることから、炭素原子数が1〜6のアルキル基が好ましく、炭素原子数が1〜3のアルキル基がより好ましく、炭素原子数が1〜2のアルキル基が特に好ましい。
【0029】
式(2)において、ケイ素原子に結合するRの個数は3−mである。上記の通りmは2または3が好ましく、特に3が好ましいことから、ケイ素原子に結合するRの個数は0または1が好ましく、0が特に好ましい。式(2)においてRが0または1であると、シラノール基と基材の表面との結合が形成されやすい。
【0030】
式(2)において、Qはアミド結合、ウレタン結合、エーテル結合およびエステル結合からなる群より選ばれる1種以上を含んでもよく、水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数2〜12の2価の炭化水素基を示す。
【0031】
Qとしては、具体的には、下式(4)で表される2価の基が好ましい。
−(CF−(CH−D−C2h− …(4)
式(4)中、f、g、hは0〜6の整数であり、f+g+h=2〜12である。Dは単結合、アミド結合、ウレタン結合、エーテル結合またはエステル結合である。なお、C2hにおいて、例えば、−C−は、−CHCH−と−CH(CH)−のような混合物であってもよい。これらは、製法上分離が困難な混合物であって、混合物として用いても本発明の効果に影響を与えないものである。
【0032】
以下、化合物(1)のうち、式(1)中のAが炭素原子数1〜6のペルフルオロアルキル基である場合を化合物(11)、Aが上式(2)で表される基である場合を化合物(12)として説明する。
【0033】
化合物(11)において、式(1)中のAは、CF、CおよびCが好ましく、CFが特に好ましい。
【0034】
化合物(11)において、式(1)中のRは、好ましい態様を含めて上記と同様であるが、単位分子量当たりの酸素原子の割合が多く、柔軟性が良好となり、油脂汚れの除去性能が高くなる点から、−O−(CFCFO)a1−(a1は5〜80の整数)、−O−(CFCFO)a2−(CFO)c2−(a2は5〜50の整数、c2は5〜50の整数)が特に好ましい。なお、化合物(11)は、フルオロオキシアルキレン基の繰り返し単位の数が異なる混合物として用いられることが多い。化合物(11)がこのような混合物の場合、各繰り返し単位の数は平均値で示される。平均値で示す場合、繰り返し単位の数は必ずしも整数で示されるわけではないが、好ましい数値の範囲は上記同様である。これは化合物(12)についても同様である。
【0035】
化合物(11)における、−Q−SiX3−mのX、Rおよびmは好ましい態様を含めて上記と同様である。化合物(11)においてQは、上記同様に基(4)が好ましく、なかでも、下式(41)で表される基が特に好ましい。
−(CFf1−(CHg1−D−Ch12h1− …(41)
式(41)において、f1は1または2、g1は0または1、Dは単結合、アミド結合、ウレタン結合またはエーテル結合、h1は2または3をそれぞれ示す。h1が2の場合、−C−は、−CHCH−と−CH(CH)−の混合物であってもよい。h1が3の場合、−C−は、−CHCHCH−と−CHCH(CH)−の混合物であってもよい。
なかでも、−CFC(O)NHC−、−CFCHOC(O)NHC−、−CFCHOC−、−(CFOC−、−CF−、−CF−等が好ましく、−CFC(O)NHC−、−CFCHOC−、−(CFOC−が特に好ましい。
【0036】
化合物(11)の具体例としては、下記の化合物、および末端の−Si(OCH基を−Si(OC基に置換した化合物が挙げられる。
CF−O−(CFCFO)a1−CFC(O)NHCSi(OCH
CF−O−(CFCFO)a1−CFC(O)NHCSi(OCH
CFCF−O−(CFCFO)a1−CFC(O)NHCSi(OCH
CFCFCF−O−(CFCFO)a1−CFC(O)NHCSi(OCH
CF−O−(CFCFO)a1−CFCHOC(O)NHCSi(OCH
CF−O−(CFCFO)a1−CFCHOCSi(OCH
CF−O−(CFCFO)a1−(CFOCSi(OCH
CF−O−(CFCFO)a1−CFSi(OCH
CF−O−(CFCFO)a1−CFSi(OCH
CFCFCF−O−(CFCFCFO)d1−(CFCHOCSi(OCH
CF−O−(CFCFO)a2−(CFO)c2−CFCHOCSi(OCH
上記化学式において、a1、d1はそれぞれ5〜80の整数であり、8〜50が好ましい。a2、c2はそれぞれ5〜50の整数であり、8〜40が好ましい。
なかでも、CF−O−(CFCFO)a1−CFC(O)NHCSi(OCH(a1は5〜80の整数)が特に好ましい。
【0037】
化合物(12)は、Rを挟んで両側に上式(2)で示される基が結合した、両末端に加水分解性シリル基を有する含フッ素加水分解性シラン化合物である。
化合物(12)において、式(1)中のRは、好ましい態様を含めて上記と同様であるが、単位分子量当たりの酸素原子の割合が多く、柔軟性が良好となり、油脂汚れの除去性能が高くなる点から、−O−(CFCFO)a1−(a1は5〜80の整数)、−O−(CFCFO)a2−(CFO)c2−(a2、c2はそれぞれ5〜50の整数)が特に好ましい。
【0038】
化合物(12)における、−Q−SiX3−mのX、Rおよびmは好ましい態様を含めて上記と同様である。Rを挟んで両側の−Q−SiX3−mは同一であっても異なってもよい。
【0039】
化合物(12)においてQは、上記同様に基(4)が好ましく、なかでも、下式(42)で表される基が特に好ましい。
−(CFf2−(CHg2−D−Ch22h2− …(42)
式(42)において、f2は1〜6、g2は0〜6、h2は1〜6の整数であり、f2+g2+h2=2〜12である。Dは単結合またはエーテル結合を示す。h2が2の場合、−C−は、−CHCH−と−CH(CH)−の混合物であってもよい。h2が3の場合、−C−は、−CHCHCH−と−CHCH(CH)−の混合物であってもよい。
なかでも、−CFC(O)NHC−、−CFCHOC(O)NHC−、−CFCHOC−、−(CFOC−、−CF−、−CF−等が好ましく、−CFC(O)NHC−、−CFCHOC−、−(CFOC−が特に好ましい。
【0040】
化合物(12)の具体例としては、下記の化合物、および末端の−Si(OCH基を−Si(OC基に置換した化合物が挙げられる。
(CHO)SiCNHC(O)CFO−(CFCFO)a3−CFC(O)NHCSi(OCH
(CHO)SiCNHC(O)CFO−(CFCFO)a3−CFC(O)NHCSi(OCH
(CHO)SiCNHC(O)OCHCFO−(CFCFO)a3−CFCHOC(O)NHCSi(OCH
(CHO)SiCOCHCFO−(CFCFO)a3−CFCHOCSi(OCH
(CHO)SiCO(CFO−(CFCFO)a3−(CFOCSi(OCH
(CHO)SiCOCHCFO−(CFCFO)a4−(CFO)c4−CFCHOCSi(OCH
上記化学式において、a3は5〜80の整数であり、8〜50が好ましい。a4、c4はそれぞれ5〜50の整数であり、8〜40が好ましい。
なかでも、(CHO)SiCOCHCFO−(CFCFO)a3CFCHOCSi(OCH(a3は5〜80の整数)が特に好ましい。
【0041】
化合物(1)の数平均分子量(Mn)は500〜10,000が好ましく、700〜10,000が特に好ましい。数平均分子量が上記範囲であると、繰り返し摩擦によっても性能が低下しにくい優れた耐摩擦性が得られる。なお、本明細書における数平均分子量(Mn)は、後述するようにゲルパーミエーションクロマトグラフにより測定されたものをいう。
【0042】
化合物(1)は、公知の方法で製造可能である。化合物(11)は、例えば、国際公開第2009/008380号に記載の方法で製造可能である。
【0043】
具体的には、化合物(11)としてのA−O−(CFCFO)a1−CFC(O)NHCSiX3−mの製造は、以下の方法により行える。
−O−(CHCHO)a1CHCHOH(ポリオキシエチレングリコールモノメチルエーテル、Rは、Aのフッ素原子が全て水素原子に置き換わった炭化水素基)に、FC(O)−RF2(RF2は、例えば、−CF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCFを示す。)を反応させて、R−O−(CHCHO)a1CHCHOC(O)−RF2を得る。
用いるR−O−(CHCHO)a1CHCHOHとしては、a1の数が異なる2種以上の混合物が入手しやすい。該化合物が混合物の場合、最終的に得られる化合物においても、−(CFCFO)a1−単位のa1の数が異なる2種以上の混合物となる。
【0044】
次いで、R−O−(CHCHO)a1−CHCHOC(O)−RF2にフッ素ガスを反応させて、A−O−(CFCFO)a1−CFCFOC(O)−RF2を得て、該化合物におけるエステル結合の分解反応を行って、A−O−(CFCFO)a1−CFCOFを得る。次いで、ROH(アルコール、Rは炭化水素基)をエステル化反応させて、A−O−(CFCFO)a1−CFCOORを得る。
得られたA−O−(CFCFO)a1−CFCOORにNH3−mを反応させて、A−O−(CFCFO)a1−CFC(O)NHCSiX3−mを得ることができる。
【0045】
また、化合物(11)としてのA−O−(CFCFO)a1−(CFOCSiX3−mの製造は、以下の方法により行える。
上記方法で得られたA−O−(CFCFO)a1+1−CFCOFにアリルブロマイドを反応させて、A−O−(CFCFO)a1+1−(CFOCHCH=CHを得る。
得られたA−O−(CFCFO)a1+1−(CFOCHCH=CHに、HSiX3−mをハイドロシリレーション反応させることにより、A−O−(CFCFO)a1−(CFOCSiX3−mを得ることができる。この場合、得られる化合物は、A−O−(CFCFO)a1−(CFOCHCHCHSiX3−mとA−O−(CFCFO)a1−(CFOCHCH(CH)SiX3−mの混合物として得られる。
【0046】
化合物(1)が、化合物(12)である場合も、化合物(11)に準じた方法で製造可能である。
例えば、R3−mSiCOCHCFO−(CFCFO)a1−CFCHOCSiX3−mの製造は、以下の方法により行える。
【0047】
上記化合物(11)の製造方法においてペルフルオロポリエーテル化合物の片側の末端にROH(アルコール、Rは炭化水素基)を反応させてエステル体を得た場合と同様の方法で、FCOCFO−(CFCFO)a1−CFCOFの両側の末端にROH(アルコール、Rは炭化水素基)を反応させエステル化した後、還元し、HOCHCFO−(CFCFO)a1−CFCHOHを得る。該化合物にアリルブロマイドを反応させ、エチレン性二重結合を導入して、CH=CHCHOCHCFO−(CFCFO)a1−CFCHOCHCH=CHを得る。
【0048】
ここで、上記化合物(11)と同様、原料化合物としては、−(CFCFO)a1−単位のa1の数が異なる2種以上の混合物が入手しやすく、その場合、得られる化合物(12)も、−(CFCFO)a1−単位のa1の数が異なる2種以上の混合物となる。
得られたCH=CHCHOCHCFO−(CFCFO)a1−CFCHOCHCH=CHに、HSiX3−mをハイドロシリレーション反応させることにより、R3−mSiCOCHCFO−(CFCFO)a1−CFCHOCSiX3−mを得ることができる。この場合、得られる化合物は、両末端の−CSiX3−mが、−CHCHCHSiX3−mと−CHCH(CH)SiX3−mの混合物として得られる。
【0049】
なお、上記ハイドロシリレーション反応において、用いるHSiX3−mの加水分解性基Xは、目的化合物におけるXと異なる加水分解性基であってもよい。その場合、最終的にはこの加水分解性基を目的化合物における加水分解性基Xと置換すればよい。例えば、ハイドロシリレーション反応においてシラン化合物の加水分解性基としてハロゲン原子を用い、ハイドロシリレーション反応後、ハロゲン原子をOCHやOCに置換してもよい。
【0050】
<被膜形成用組成物>
本発明に用いる被膜形成用組成物は、化合物(1)を含み、実質的に加水分解反応触媒を含有しない組成物である。化合物(1)は1種を単独で用いられてもよく、または2種以上が併用されてもよい。さらに、得られる防汚性被膜の、より細分化された目的、用途等に応じて、成膜性や耐摩耗性、耐食性、耐候性等の耐久性、さらに撥水性等の機能を考慮して、化合物(1)以外の加水分解性シラン化合物を含んでいてもよい。加えて、必要に応じて、水、その他の成分を含んでいてもよい。
被膜形成用組成物は、化合物(1)、必要に応じて化合物(1)以外の加水分解性シラン化合物、水およびその他の成分の各所定量を均一な組成となるように混合することで製造される。
本発明の製造方法において、このようにして製造される被膜形成用組成物は、実質的に加水分解反応触媒を含有しないことから貯蔵安定性に優れるものである。
【0051】
被膜形成用組成物における化合物(1)の含有量は、該組成物全量に対して0.0001〜5質量%が好ましく、0.01〜2質量%が特に好ましい。該組成物における化合物(1)の含有量が上記範囲内であれば外観、耐摩耗性にすぐれた被膜が得られる。
【0052】
化合物(1)以外の加水分解性シラン化合物としては、具体的には、C13CHCHSi(OCH、C17CHCHSi(OCH、C13CHCHSiCl、C17CHCHSiCl、C13CHCHSi(NCO)、C17CHCHSi(NCO)、ポリジメチルシロキサン鎖を有する加水分解性シラン化合物等が挙げられ、なかでも、ポリジメチルシロキサン鎖を有する加水分解性シラン化合物が好ましい。ポリジメチルシロキサン鎖を有する加水分解性シラン化合物としては、HOSi(CHO(Si(CHO)Si(CHOH、(CHSiO(Si(CHO)Si(CHOH(nは5〜100の整数)が挙げられる。
【0053】
化合物(1)以外の加水分解性シラン化合物の含有量は、化合物(1)の100質量部に対して10〜100質量部が好ましく、15〜50質量部が特に好ましい。なお、被膜形成用組成物において化合物(1)と化合物(1)以外の加水分解性シラン化合物を併せて用いる場合の、該組成物における加水分解性シラン化合物の合計含有量としては、上記化合物(1)の含有量と同様とすることができる。化合物(1)以外の加水分解性シラン化合物は、1種を単独で用いられてもよく、または2種以上が併用されてもよい。
【0054】
なお、化合物(1)以外の加水分解性シラン化合物としては、被膜形成用組成物における貯蔵安定性およびアウトガスの観点からは、加水分解性基として塩素原子を含まないことが好ましい。加水分解性基として塩素原子を含有する加水分解性シラン化合物は、保管している間にも例えば雰囲気中の水分により加水分解反応がおこり、これにより発生した塩酸が触媒として作用して加水分解、縮合反応を促進するためである。
【0055】
しかしながら、塩素原子を含有する加水分解性シラン化合物を単独で用いるのではなく、他の加水分解性基を含有する加水分解性シラン化合物と組み合わせて用いることで縮合反応が抑制され、貯蔵安定性が高まることがあるため使用が好ましい場合がある。
この場合、塩素原子を含有する加水分解性シラン化合物と塩素原子を含有しない加水分解性シラン化合物との含有割合は、塩素原子を含有する加水分解性シラン化合物:塩素原子を含有しない加水分解性シラン化合物の質量比で、90〜10:70〜30が好ましく、85〜15:75〜25が特に好ましい。
【0056】
なお、化合物(1)、化合物(1)以外の加水分解性シラン化合物を被膜形成用組成物に配合するにあたって、各化合物はそのままの状態で配合されてもよく、その部分加水分解縮合物として配合されてもよい。また、該化合物とその部分加水分解縮合物の混合物として被膜形成用組成物に配合されてもよい。
【0057】
また、2種以上の化合物(1)、化合物(1)以外の加水分解性シラン化合物を組み合わせて用いる場合には、各化合物はそのままの状態で被膜形成用組成物に配合されてもよく、それぞれが部分加水分解縮合物として配合されてもよく、さらには2種以上の化合物の部分加水分解共縮合物として配合されてもよい。また、これらの化合物、部分加水分解縮合物、部分加水分解共縮合物の混合物であってもよい。以下、加水分解性シラン化合物の用語は、化合物自体に加えてこのような部分加水分解縮合物、部分加水分解共縮合物を含む意味で用いられる。
【0058】
2種以上の加水分解性シラン化合物による部分加水分解共縮合物とは、溶媒中で酸触媒やアルカリ触媒等の触媒存在下に加水分解性シリル基の一部または全部が加水分解し、次いで脱水縮合することによって生成するオリゴマー(多量体)をいう。なお。この部分加水分解共縮合物の縮合度(多量化度)は、生成物が溶媒に溶解する程度とする。
ここで、本発明の製造方法に用いる被膜形成用組成物は、実質的に加水分解反応触媒を含有しない。したがって、化合物(1)、化合物(1)以外の加水分解性シラン化合物の部分加水分解縮合物や部分加水分解共縮合物を配合する場合は、その生成反応液中に存在する触媒を被膜形成用組成物に持ち込まないようにして配合する。
【0059】
被膜形成用組成物が、2種以上の化合物(1)、化合物(1)以外の加水分解性シラン化合物を組み合わせて用い、これらの化合物、部分加水分解縮合物、部分加水分解共縮合物の混合物である場合、化合物(1)と化合物(1)以外の加水分解性シラン化合物との合計質量に対する各化合物の質量百分率は、反応前の化合物(1)、化合物(1)以外の加水分解性シラン化合物の量を用いて計算される組成割合をいう。このように、部分加水分解縮合物や部分加水分解共縮合物を含む場合、原料組成で有効成分の組成割合を決めるものとする。
【0060】
被膜形成用組成物は、化合物(1)が加水分解縮合するための水を含んでいてもよい。被膜形成用組成物における水の含有量は、化合物(1)と化合物(1)以外の加水分解性シラン化合物との合計質量の100質量部に対して、10〜50質量部が好ましい。なお、被膜形成用組成物は水を含有しなくとも、以下の塗膜や前駆膜から被膜を形成する過程において雰囲気中の水分を利用して化合物(1)の加水分解縮合を行わせることができる。
【0061】
被膜形成用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、目的に応じて、その他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、必須成分との反応性または相溶性等を考慮して選択するのが好ましく、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の金属酸化物の超微粒子、染料または顔料等の着色用材料、各種樹脂等が好ましく挙げられる。添加剤の含有量は、被膜形成用組成物の全量に対して、0.01〜20質量%となる量が好ましい。含有量が過剰であると、得られる被膜の性能の低下を招くおそれがある。
【0062】
被膜形成用組成物において、実質的に加水分解反応触媒を含有しないとは、具体的には、被膜形成用組成物全量に対して加水分解反応触媒の含有量が0.005質量%以下であることをいう。化合物(1)、化合物(1)以外の加水分解性シラン化合物を部分加水分解縮合物や部分加水分解共縮合物の形で含有する場合、これらを製造する過程で使用した加水分解反応触媒を除去したものが用いられる。しかしながら、加水分解反応触媒の全てを除去することは困難であり、原料由来の加水分解反応触媒を微量に含有することがある。このような場合においても、加水分解反応触媒を上記実質的に含有しないとされる量、すなわち、被膜形成用組成物全量に対して0.005質量%以下となるように部分加水分解縮合物や部分加水分解共縮合物を含有する。なお、被膜形成用組成物全量に対して加水分解反応触媒の含有量は0.001質量%以下が好ましく、特に好ましくは、0質量%である。
【0063】
((II)工程)
蒸着による前駆膜形成工程(IIA)および湿式塗布・乾燥による前駆膜形成工程(IIB)について説明する。
【0064】
(IIA)蒸着による前駆膜形成工程
上記(I)工程で製造された被膜形成用組成物を基板上に蒸着する方法としては、含フッ素加水分解性シラン化合物を蒸着するのに通常用いられる方法であれば特に制限されず、例えば、真空蒸着法、CVD法、スパッタリング法等が挙げられる。化合物(1)の分解を抑える点、および、装置の簡便さより、真空蒸着法が好ましい。
【0065】
真空蒸着法としては、抵抗加熱法、電子ビーム加熱法、高周波誘導加熱法、反応性蒸着、分子線エピタキシー法、ホットウォール蒸着法、イオンプレーティング法、クラスターイオンビーム法等に細分することができるが、いずれの方法も適用することができる。化合物(1)の分解を抑制する点、および、装置の簡便さより、抵抗加熱法が好適に利用できる。真空蒸着装置は特に制限なく、公知の装置が利用できる。
【0066】
真空蒸着法を用いる場合の製膜条件は、適用する真空蒸着法の種類により異なるが、抵抗加熱法の場合、蒸着前真空度は1×10−2Pa以下が好ましく、1×10−3Pa以下が特に好ましい。蒸着源の加熱温度は、該化合物(1)蒸着源が充分な蒸気圧を有する温度であれば特に制限はない。具体的には30℃〜400℃が好ましく、50℃〜300℃が特に好ましい。加熱温度が上記範囲の下限値以上であると、成膜速度が良好になる。上記範囲の上限値以下であると、化合物(1)の分解が生じることなく、基材表面に防汚性を有する被膜を形成できる。
真空蒸着時、基材温度は室温(20〜25℃)から200℃までの範囲であることが好ましい。基材温度が200℃以下であると、成膜速度が良好になる。基材温度の上限値は150℃以下がより好ましく、100℃以下が特に好ましい。
【0067】
被膜形成用組成物を用いた蒸着により、基板上に被膜形成用組成物からなる前駆膜が形成される。前駆膜の膜厚は、最終的に得られる被膜の厚さが所定の厚さとなるように調整される。なお、本発明の製造方法が適用される被膜の厚さとしては、特に制限されないが、50nm以下の厚さが好ましく、その下限は単分子層の厚さである。被膜の厚さは2〜30nmがより好ましく、5〜20nmが特に好ましい。なお、膜厚の測定は、例えば薄膜解析用X線回折計ATX−G(RIGAKU社製)を用いて、X線反射率法により反射X線の干渉パターンを得て、該干渉パターンの振動周期から算出することができる。
【0068】
(IIB)湿式塗布・乾燥による前駆膜形成工程
湿式塗布は、被膜形成用組成物と溶媒とを含む液状組成物を基板上の被膜形成面に塗布する。
溶媒は、化合物(1)を溶解するものであれば特に制限されない。溶媒としては、アルコール類、エーテル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、パラフィン系炭化水素類、酢酸エステル類等が好ましく、特にフッ素原子を含む有機溶剤、例えば、フルオロアルコール、フッ素化脂肪族炭化水素、フッ素化芳香族炭化水素、フルオロアルキルエーテル等が好ましい。溶媒は1種に限定されず、極性、蒸発速度等の異なる2種以上の溶媒を混合して使用してもよい。
【0069】
被膜形成用組成物が、部分加水分解縮合物や部分加水分解共縮合物を含有する場合、湿式塗布用の液状組成物においては、部分加水分解縮合物や部分加水分解共縮合物を製造するために使用した溶媒を含んでもよく、また該溶媒と上記液状組成物を製造するのに用いる溶媒は同じものであっても異なっていてもよい。
【0070】
液状組成物の全量に対する固形分の含有量(固形分濃度)は、0.001〜10質量%が好ましく、0.01〜1質量%が特に好ましい。すなわち、液状組成物の全量に対する溶媒の含有量は90〜99.999質量%が好ましく、99〜99.99質量%が特に好ましい。液状組成物における溶媒の含有割合が上記範囲であれば、均一な塗膜の形成が容易であり、得られる被膜に処理ムラが発生するおそれもない。
なお、本発明における液状組成物における固形分濃度とは、液状組成物の質量(W1)と、液状組成物を120℃の対流式乾燥機にて4時間加熱した後の質量(W2)とから、以下のように算出する値である。
固形分濃度(質量%)=W2/W1×100
なお、化合物(1)の濃度は固形分濃度と化合物(1)および溶媒等の仕込み量から算出可能である。
【0071】
液状組成物を基板上に塗布する方法としては、均一な塗膜が形成できる方法であれば、特に限定されない。例えば、スピンコート法、ワイプコート法、スプレーコート法、スキージーコート法、ディップコート法、ダイコート法、インクジェット法、フローコート法、ロールコート法、キャスト法、ラングミュア・ブロジェット法またはグラビアコート法等の方法が使用できる。該方法により、基板上に液状組成物を、最終的に得られる被膜の厚さが所定の厚さとなるように塗膜の厚さを調整して、塗布する。なお、本発明の製造方法が適用される被膜の厚さは上記の通りである。
【0072】
本発明の(IIB)湿式塗布・乾燥による前駆膜形成工程においては、上記で形成された塗膜を、次の(III)工程の前に乾燥して前駆膜の状態とする。該前駆膜は、上記の通り液状組成物からなる塗膜から乾燥により溶媒が除去されて得られ、主に被膜形成用組成物からなる。
【0073】
乾燥は、被膜形成用組成物が膜全体の50質量%以上となるまで行う。乾燥は、より具体的には、塗膜全体における溶媒量が10〜0質量%となるまで行うことが好ましい。液状組成物に含有された溶媒は、乾燥において、その全量が除去されることが特に好ましい。
乾燥条件としては、液状組成物の製造に用いる溶媒の種類や量、塗膜の厚さ等にもよるが、具体的には、0〜40℃で10秒〜30分間が好ましい。
なお、意図して乾燥を行っていなくても、塗膜形成後に溶媒の蒸発が起きる場合には、乾燥工程が存在するものとする。
前駆膜の好ましい膜厚は、蒸着により前駆膜を形成した場合と同様である。
【0074】
<基板>
本発明の製造方法に用いる基板は、一般に防汚性被膜による防汚性の付与が求められている材質からなる基板であれば特に限定されず、金属、ガラス、樹脂、セラミック、またはその組み合わせ(複合材料、積層材料等)からなる基板が好ましく使用される。特にガラスまたは樹脂等の透明な基板が好ましい。ガラスとしては、通常のソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が挙げられ、なかでもソーダライムガラスが特に好ましい。樹脂としては、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂やビスフェノールAのカーボネート等の芳香族ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の芳香族ポリエステル系樹脂等が挙げられ、なかでもPETが好ましい。
【0075】
基板の形状は平板でもよく、全面または一部が曲率を有していてもよい。基板の厚さは防汚性基板の用途により適宜選択できるが、一般的には0.5〜10mmであることが好ましい。
【0076】
本発明に用いる基板としては、目的に応じて、その表面に酸処理(希釈したフッ酸、硫酸、塩酸等を用いた処理)、アルカリ処理(水酸化ナトリウム水溶液等を用いた処理)または放電処理(プラズマ照射、コロナ照射、電子線照射等)等が施されたものを用いてもよい。また、基板は、その表面に蒸着膜、スパッタ膜、湿式法等により形成された各種の中間膜が設けられたものでもよい。基板がソーダライムガラスである場合は、Naイオンの溶出を防止する膜を設けることが耐久性の点で好ましい。基板がフロート法で製造されたガラスである場合は、表面錫量の少ないトップ面にシリカ系被膜を設けることが耐久性の点で好ましい。
【0077】
基板表面に、すなわち基板と防汚性被膜の間に配設されてもよい中間膜としては、該防汚性被膜とは別のシリカを主体とする中間膜であってもよい。特に、高い密着性や耐久性等が要求される場合にはシリカを主体とする中間膜を設けることが好ましい。このような中間膜として、具体的には、下式(6)で表される化合物、その部分加水分解縮合物およびパーヒドロポリシラザンからなる群より選ばれる化合物を用いて形成された中間膜が好ましい。
Si(X …(6)
【0078】
式(6)中、Xはハロゲン原子、アルコキシ基またはイソシアナート基を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。なかでも、Xは、塩素原子、炭素原子数1〜4のアルコキシ基またはイソシアナート基であることが好ましく、さらに4個のXが同一であることが好ましい。化合物(6)としては、具体的には、Si(NCO)、Si(OCH、Si(OC等が好ましく用いられる。
パーヒドロポリシラザンは、−SiH−NH−SiH−で表される構造を有する線状や環状のオリゴマーであり、1分子あたりのケイ素原子の数は2〜500が好ましい。
【0079】
また、中間膜として、上記化合物(6)、その部分加水分解縮合物およびパーヒドロポリシラザンから選ばれる化合物と、上記化合物(1)以外の含フッ素加水分解性シラン化合物とを組み合わせて用いて形成されるシリカを主体とする中間膜を設けてもよい。
【0080】
このような中間膜は、公知の方法で形成できる。すなわち、中間膜用の各化合物と溶媒とを含む組成物を基板表面に塗布し、乾燥により溶媒を除去し、硬化させることで形成できる。基板が中間膜を有する場合には、このように形成された中間膜の表面に、上記方法により被膜形成用組成物を主体とする前駆膜が形成される。
【0081】
((II−1)工程)
(II−1)工程は、上記(II)工程で得られた基板上の前駆膜を、0〜60℃、40〜100RH%で、10〜180分間加湿する工程である。温度は20〜40℃が特に好ましく、湿度は50〜90RH%が特に好ましく、時間は30〜120分間が特に好ましい。なお、(II−1)工程終了後から次の工程を行うまでの間、室温(20〜25℃)で1〜72時間程度放置しておいてもよい。
本発明の製造方法においては、上記(II)工程と(III)工程との間に、(II−1)工程が設けることで、加湿により化合物(1)の加水分解反応が促進され、化合物(1)を基板により固定化することができる。また、(II−1)工程が設けることで、次工程の(III)工程を、ほぼ常温で短時間で実施できるようになり、生産性の点で有利である。
【0082】
(II−1)工程は、具体的には、(II)工程後の前駆膜付きの基板を、温度および湿度が上記条件に設定された恒温恒湿槽中で所定の時間保持することで行われることが好ましい。
【0083】
((II−2)工程)
(II−2)工程は、上記(II)工程で得られた基板上の前駆膜を60超〜250℃で、10〜180分間加熱する工程である。温度は80〜200℃が特に好ましく、時間は30〜60分間が特に好ましい。なお、(II−2)工程終了後から次の工程を行うまでの間、室温(20〜25℃)で1〜72時間程度放置しておいてもよい。
本発明の製造方法においては、上記(II)工程と(III)工程との間に、(II−2)工程が設けられることで、加熱により化合物(1)の縮合反応が促進され、化合物(1)を基板により固定化することができる
なお、(II)工程と(III)工程との間に、(II−1)工程と(II−2)工程の両方を行うことも可能である。両方行う場合には、(II−1)工程後に(II−2)工程を行う。
【0084】
((III)工程)
(III)工程は、加水分解反応触媒を含む処理液により前駆膜の表面を処理して被膜とする工程である。
【0085】
<処理液>
処理液は、加水分解反応触媒を含み、必要に応じて溶媒、水等を含む。なお、処理液が溶媒および/または水を含む場合、水は以下の通り反応成分として機能するため、溶媒とは区別される。
処理液が含有する加水分解反応触媒としては、被膜形成用組成物が含有する化合物(1)の加水分解反応を触媒する成分であれば特に制限されないが、具体的には、酸またはアルカリが挙げられる。酸触媒としては、塩酸、硝酸、酢酸、硫酸、燐酸、スルホン酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等が使用できる。アルカリ触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等が使用できる。
加水分解反応触媒は酸が好ましく、酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、パラトルエンスルホン酸およびメタンスルホン酸からなる群から選ばれる1種以上が好ましい。なかでも、前駆膜表面への残留性、安全性の観点から、パラトルエンスルホン酸が特に好ましい。
【0086】
処理液における加水分解反応触媒の含有量は、処理液の全量に対して0.01〜5質量%が好ましく、0.05〜2質量%が特に好ましい。加水分解反応触媒の含有量が上記範囲にあれば、前駆膜の表面を含む前駆膜中の化合物(1)の加水分解縮合反応が促進され充分に硬化した被膜が得られる。
【0087】
処理液は、溶媒を含有することが好ましい。処理液が溶媒を含むことで、前駆膜表面を加水分解反応触媒によって均一に処理できる。溶媒としては、加水分解反応触媒を溶解する溶媒であれば特に制限されない。最終的には除去される必要があるため、その沸点は60〜160℃が好ましく、60〜120℃が特に好ましい。
【0088】
溶媒としては、アルコール類、エーテル類、ケトン類、酢酸エステル類等が好ましく、上記沸点の条件を満足する溶媒として、イソプロピルアルコール、エタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、2−ブタノン等が挙げられる。溶媒は、1種を単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
処理液における溶媒の含有量は、処理液の全量に対して90.0〜99.9質量%好ましく、98.0〜99.5質量%が特に好ましい。
【0089】
処理液は、さらに水を含有してもよい。水は処理される前駆膜の表面を含む前駆膜中の化合物(1)が加水分解縮合するための水として作用する。処理液における水の含有量は、処理液の全量に対して0.5〜10.0質量%が好ましく、1.0〜5.0質量%が特に好ましい。なお、処理液が水を含有しなくとも、前駆膜が水を含む場合や雰囲気中に水分が充分存在する場合には、このような水を利用して化合物(1)の加水分解縮合を行わせることができる。
処理液は、本発明の効果を損なわない範囲で、目的に応じて、任意に添加剤を含んでもよい。
【0090】
処理液の好ましい組み合わせは、処理液の全量に対して、加水分解反応触媒が0.05〜2質量%、溶媒が89.9〜99.45質量%、水が0.5〜10質量%、または、加水分解反応触媒が0.01〜5質量%、溶媒が95〜99.9質量%である。
【0091】
また、処理液は前駆膜の加水分解縮合反応を充分に行うことが目的であるから実質的にシラン化合物を含まないことが好ましい。該シラン化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、ペルフルオロアルキルアルキルトリメトキシシラン等が挙げられる。なお、実質的にシラン化合物を含まないとは、処理液の全量に対してシラン化合物の含有量が3質量%以下であることをいう。
【0092】
<処理>
前駆膜表面の処理は、少なくとも前駆膜表面の全体に処理液を均等に接触させる処理であれば特に制限されない。前駆膜表面の処理は、上記処理液を含浸または保持させた保液部材を前駆膜表面に加圧接触させながら移動することにより行うことが好ましい。
【0093】
保液部材は、一定の圧力で加圧されることで、含浸または保持する処理液のうちの適量を前駆膜表面に供給しながら、移動できる構成であって、移動後の前駆膜表面には目視で処理液が残留しない構成であることが好ましい。
前駆膜表面への処理液の供給量としては、前駆膜の単位表面積あたりの体積量として、0.01〜100ml/mが好ましく、0.1〜50ml/mが特に好ましい。圧力は200〜5,000Paが好ましく、移動速度としては、0.01〜10m/秒が好ましい。保液部材の加圧、移動は人の手で行われてもよいが、圧力や移動速度が常に一定に制御可能な装置により行うことが好ましい。
【0094】
また、上記保液部材を構成する素材としては、スポンジ、不織布、織布および紙等が挙げられる。保液部材としては、市販品を用いることが可能であり、例えば、キムワイプL−100(商品名、日本製紙クレシア社製)、ベンコットM−3(商品名、セルロース製不織布、旭化成社製)等が挙げられる。
【0095】
処理条件としては、温度が20〜25℃、湿度が30〜70RH%であることが好ましい。
(III)工程により前駆膜表面から前駆膜内部の加水分解性シラン化合物が加水分解縮合することで硬化して、被膜を有する防汚性基板が得られる。
【0096】
なお、本発明の製造方法により得られる被膜の厚さとしては、特に制限されないが、50nm以下の厚さが好ましく、その下限は単分子層の厚さである。被膜の厚さは2〜30nmがより好ましく、5〜20nmが特に好ましい。なお、膜厚の測定は、前駆膜同様、薄膜解析用X線回折計ATX−G(RIGAKU社製)を用いて、X線反射率法により反射X線の干渉パターンを得て、該干渉パターンの振動周期から算出することができる。
【0097】
さらに、必要に応じて(III)工程後、(III−1)工程が設けられてもよい。(III−1)工程により含フッ素加水分解性シラン化合物の加水分解および縮合反応が促進され、基板に強固に固定化される。(III−1)工程は、上記で得られた被膜を、さらに0〜60℃、40〜100RH%で、1〜5時間加湿する工程である。温度は20〜40℃が特に好ましく、湿度は50〜100RH%が特に好ましく、時間は1〜2時間が特に好ましい。なお、(III−1)工程終了後から次の工程を行うまでの間、室温(20〜25℃)で1〜72時間程度放置しておいてもよい。
(III−1)工程は、具体的には、(III)工程後の防汚性基板を、温度および湿度が上記条件に設定された恒温恒湿槽中で所定の時間保持することで行われる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。例1〜4および例6は実施例であり、例5および例7は比較例である。
【0099】
[評価方法]
(数平均分子量(Mn)の測定)
Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)によって測定した。
GPCの測定は、特開2001−208736号公報に記載の方法にしたがった。具体的には、移動相として、R−225(HCFC225:ジクロロペンタフルオロプロパン、旭硝子社製、アサヒクリンAK−225SECグレード1)およびヘキサフルオロイソプロピルアルコール(HFIP)の混合溶媒(R−225/HFIP=99/1容量比)を用いた。分析カラムとして、PLgel MIXED−Eカラム(ポリマーラボラトリーズ社製)を2本直列に連結したものを用いた。分子量測定用標準試料として、分子量分布(Mw/Mn)が1.1未満である、分子量が2,000〜10,000のペルフルオロポリエーテル4種および分子量分布(Mw/Mn)が1.1以上である、分子量が1,300のペルフルオロポリエーテル1種を用いた。検出器として、蒸発光散乱検出器を用い、移動相流速を1.0mL/分とし、カラム温度を37℃としてGPCを測定した。
【0100】
(ヘキサデカン接触角)
接触角計(drop master DM-500:協和界面化学社製)を用いて、2μLの液滴(ヘキサデカン)を針先に作り、これを基板(固体)表面に接触させて、液滴を作った。接触角は2θ法により、算出した。なお、ヘキサデカン接触角が60°以上であれば撥油性に優れ、皮脂等の油汚れがつきづらく、防汚性を有すると判断される。
【0101】
(耐摩耗性)
基板表面をセルロース製不織布(ベンコットM−3:商品名、旭化成社製)で以下の摩耗条件により、所定の回数擦る摩耗試験を行った。摩耗試験の前後に、上記方法で水接触角を測定しその変化量により耐摩耗性を評価した。
移動距離:片道40mm
移動速度:4,000mm/min
荷重:500g/cm
【0102】
(指紋拭き取り性)
基板表面に付着した指紋をセルロース製不織布(ベンコットM−3:商品名、旭化成社製)で拭きとり、その取れやすさを目視で判定した。判定基準を以下に示す。
○(良好):指紋を完全に拭き取ることができる。
△(可):指紋の拭き取り跡が残る。
×(不良):指紋の拭き取り跡が広がり、拭き取ることができない。
【0103】
[合成例1−1:含フッ素加水分解性シラン化合物(11−1)の合成および被膜形成用組成物1の製造]
(化合物(D3−1)の製造)
フラスコ内に、下記化合物(D1−1)(市販のポリオキシエチレングリコールモノメチルエーテル、a1の平均値:7.3。)の25g、R−225の20g、NaFの1.2g、およびピリジンの1.6gを入れ、内温を10℃以下に保ちながら激しく撹拌し、窒素をバブリングさせた。フラスコ内に、下記化合物(D2−1)の46.6gを、内温を5℃以下に保ちながら3.0時間かけて滴下した。滴下終了後、50℃にて12時間撹拌し、室温にて24時間撹拌して、粗液を回収した。粗液を減圧濾過した後、回収液を真空乾燥機(50℃、667Pa)で12時間乾燥し、粗液を得た。粗液をR−225の100mLに溶解し、1,000mLの飽和重曹水で3回水洗し、有機相を回収した。有機相に硫酸マグネシウムの1.0gを加え、12時間撹拌した後、加圧濾過して硫酸マグネシウムを除去し、回収液からエバポレータにてR−225を留去し、室温で液体である化合物の56.1gを得た。該化合物のNMR分析の結果、下記化合物(D3−1)(a1の平均値:7.3)であることを確認した。
【0104】
CH−O−(CHCHO)a1−CHCHOH …(D1−1)、
FC(O)−R …(D2−1)(ただし、R:−CF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCF)、
CH−O−(CHCHO)a1−CHCHOC(O)−R …(D3−1)。
【0105】
化合物(D3−1)のNMRスペクトル;
H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):4.2、4.35、4.4、4.75。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−79.5、−80.0、−82.5〜−85.0、−128.0〜−129.2、−131.5、−144.5。
【0106】
(化合物(D4−1)の製造)
3,000mLのハステロイ製オートクレーブ内に、R−113(CClFCClF)の1,560gを入れて撹拌し、25℃に保った。オートクレーブガス出口には、20℃に保持した冷却器、NaFペレット充填層、および−20℃に保持した冷却器を直列に設置した。また、−20℃に保持した冷却器から凝集した液をオートクレーブに戻すための液体返送ラインを設置した。
オートクレーブ内に窒素ガスを1.0時間吹き込んだ後、窒素ガスで10%に希釈したフッ素ガス(以下、10%フッ素ガスと記す。)を、流速24.8L/時間で1時間吹き込んだ。次に、オートクレーブ内に10%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、化合物(D3−1)の27.5gをR−113の1,350gに溶解した溶液を30時間かけて注入した。次に、オートクレーブ内に10%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、R−113の12mLを注入した。この際、内温を40℃に変更した。次に、ベンゼンを1質量%溶解したR−113溶液の6mLを注入した。さらに、フッ素ガスを1.0時間吹き込んだ後、窒素ガスを1.0時間吹き込んだ。
【0107】
反応終了後、R−113を真空乾燥(60℃、6.0時間)にて留去し、室温で液体の化合物の45.4gを得た。該化合物のNMR分析の結果、化合物(D3−1)の水素原子の総数の99.9%がフッ素原子に置換された、下記化合物(D4−1)が主たる成分であることを確認した。
CF−O−(CFCFO)a1−CFCFOC(O)−R …(D4−1)。
【0108】
化合物(D4−1)のNMRスペクトル;
H−NMR(300.4MHz、溶媒:R−113、基準:TMS、内部標準:ニトロベンゼン)δ(ppm):5.9〜6.4。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:R−113、基準:CFCl、内部標準:ヘキサフルオロベンゼン)δ(ppm):12.7、−54.9、−77.5〜−80.0、−81.5、−82.2、−84.5、−87.5、−89.7、−129、−131.5、−135.0〜−139.0、−144.5。
【0109】
(化合物(D5−1)の製造)
スターラーチップを投入した50mLのナスフラスコを充分に窒素置換した。ナスフラスコ内に、1,1,3,4−テトラクロロヘキサフルオロブタンの5.0g、KFの0.05g、および化合物(D4−1)の2.0gを入れて激しく撹拌し、120℃に保った。ナスフラスコ出口には、20℃に保持した冷却器、およびドライアイス−エタノール冷却管を直列に設置し、ナスフラスコ出口は窒素シールした。
8時間後、ナスフラスコの内温を室温まで下げ、冷却管に真空ポンプを設置して系内を減圧に保ち、1,1,3,4−テトラクロロヘキサフルオロブタンおよび副生物を留去した。3時間後、室温で液体の化合物の0.86gを得た。該化合物のNMR分析の結果、化合物(D4−1)のエステル結合の総数の99%がフッ素原子に置換された、下記化合物(D5−1)が主たる生成物であることを確認した。
CF−O−(CFCFO)a1−CFCOF …(D5−1)。
【0110】
化合物(D5−1)のNMRスペクトル;
H−NMR(300.4MHz、溶媒:R−113、基準:TMS、内部標準:ニトロベンゼン)δ(ppm):5.9〜6.4。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:R−113、基準:CFCl、内部標準:ヘキサフルオロベンゼン)δ(ppm):12.7、−54.9、−78.1、−87.5、−89.7、−135.0〜−139.0。
【0111】
(化合物(D7−1)の製造)
化合物(D5−1)の40gが入ったナスフラスコ内に、R−113の20.0gを入れ、内温を25℃に保ちながら激しく撹拌した。ナスフラスコ内に、エタノールの20.0gを、内温を25℃以上に保ちながらゆっくりと滴下した。
8時間後、撹拌を停止し、粗液を加圧濾過し、KFを除去した。次に、回収液からエバポレータにてR−113および過剰のエタノールを完全に除去して室温で液状の化合物の43gを得た。該化合物のNMR分析の結果、化合物(D5−1)の酸フルオリドの総数がエステル化された、下記化合物(D7−1)が主たる生成物であることを確認した。
CF−O−(CFCFO)a1−CFC(O)OCHCH …(D7−1)。
【0112】
化合物(D7−1)のNMRスペクトル;
H−NMR(300.4MHz、溶媒:R−113、基準:TMS、内部標準:ニトロベンゼン)δ(ppm):1.27、4.27、5.9〜6.4。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:R−113、基準:CFCl、内部標準:ヘキサフルオロベンゼン)δ(ppm):−54.9、−78.5、−87.5、−89.7、−135.0〜−139.0。
【0113】
(含フッ素加水分解性シラン化合物(11−1)および被膜形成用組成物1の製造)
100mLの丸底フラスコ内に、化合物(D7−1)の33.1g、下記化合物(D8−1)の3.7gを入れ、室温で2時間撹拌した。反応終了後、未反応の化合物(D8−1)および副生したエタノールを減圧留去し、室温で液体の化合物の32.3gを得た。
該化合物のNMR分析の結果、化合物(D7−1)中の−CFC(O)OCHCHの95.0モル%が−CFC(O)NHCHCHCHSi(OCHに変換され、−(OCFO)−単位が存在しない化合物であることを確認した。すなわち、下記含フッ素加水分解性シラン化合物(11−1)が主たる生成物であった。含フッ素加水分解性シラン化合物(11−1)の数平均分子量は1,020であり、分子量分布は1.16であった。含フッ素加水分解性シラン化合物(11−1)を精製して被膜形成用組成物1とした。
NHCHCHCHSi(OCH …(D8−1)、
CF−O−(CFCFO)a1−CFC(O)NH(CHSi(OCH …(11−1)。
【0114】
化合物(11−1)のNMRスペクトル;
H−NMR(300.4MHz,溶媒:R−113,基準:TMS)δ(ppm):0.51、1.60、3.05、3.41、3.67、7.20。
19F−NMR(282.65MHz,溶媒:R−113,基準:CFCl)δ(ppm):−54.9、−78.0、−88.2、−89.7。
【0115】
[合成例1−2:含フッ素加水分解性シラン化合物(12−1)の合成および被膜形成用組成物2の製造]
密閉式耐圧容器(攪拌子入り、内容積50mL、PTFE製内筒)に、両末端にアリル基を有するペルフルオロポリエーテル化合物(F−1)の7.2g(3.7mmol)、トリクロロシランの10.0g(74mmol)、触媒としてジ−tert−ブチルペルオキシドの0.054g(0.37mmol)および溶媒として1,3−ジ(トリフルオロメチル)ベンゼンの10gを投入し、撹拌した。次に、反応器を120℃の油浴に入れ、8時間撹拌した。反応粗液から低沸分を留去して8.1gの無色透明液体を以下に示す化合物(F−2)として得た。
CH=CHCHOCHCFO−(CFCFO)a1−CFCHOCHCH=CH(a1=14.6、Mn=1,950) …(F−1)、
ClSiC−CHOCHCFO−(CFCFO)a1−CFCHOCH−CSiCl …(F−2)。
【0116】
化合物(F−2)の19F−NMRの測定結果を以下に示す。
19F−NMR(溶媒:CDCl)δ(ppm):−78.3(4F、−OCFCHO−)、−89.6(58F、−CFCFO−)。
すなわち、化合物(F−2)中のペルフルオロポリエーテル基の繰り返し単位数(a1)は、原料とほぼ同じ14.5であった。
化合物(F−2)のH−NMRの測定結果を帰属と共に示す。
化合物(F−2)中には、下式(B11)で表される基(B11)および下式(B21)で表される基(B21)が観測され、その比率は[]で括られた水素原子の積分強度比から、92:8と算出された。
−CFCHOCHCH[CH]SiCl …(B11)。
3.8 3.7 1.9 [1.5](ppm)
−CFCHOCHCH(SiCl)[CH] …(B21)。
3.8 3.7 1.9 [1.3](ppm)
また、化合物(F−2)の数平均分子量は上記の結果から、2,220であった。
【0117】
(含フッ素加水分解性シラン化合物(12−1)の製造および被膜形成用組成物2の調整)
次に、トリクロロシリル基をトリメトキシシリル基へと変換する反応を行った。すなわち、滴下ロートを備えたフラスコ(内容積50mL)に上記化合物(F−2)の8.0g(3.6mmol)、溶媒として1,3−ジ(トリフルオロメチル)ベンゼンの10gを入れて室温で攪拌した。オルト蟻酸トリメチルとメタノールの混合溶液3.1g(オルト蟻酸トリメチル:メタノール=25:1[mol:mol])を滴下した。滴下後、60℃にて3時間反応させた。反応終了後、溶媒等を減圧留去し、残渣に活性炭の1gを加えて1時間攪拌した後、0.5μm孔径のメンブランフィルタでろ過し、トリメトキシシリル基に変換された以下に示す含フッ素加水分解性シラン化合物(12−1)を得た。
生成物のH−NMRおよび19F−NMRの結果から、該反応では繰り返し単位の数に変化はなく、基(B11)は基(B12)に、基(B21)は基(B22)に変換され、その組成比に変化はなかった。
(CHO)SiC−CHOCHCFO−(CFCFO)a1−CFCHOCH−CSi(OCH …(12−1)。
【0118】
−CFCHOCHCH[CH]Si(OCH …(B12)。
3.8 3.7 1.7 [0.6] 3.5(ppm)
−CFCHOCHCH{Si(OCH}[CH] …(B22)。
3.8 3.7 1.7 3.5 [1.1](ppm)
また、含フッ素加水分解性シラン化合物(12−1)の数平均分子量は上記の結果から、2,190であった。含フッ素加水分解性シラン化合物(12−1)を精製して被膜形成用組成物2とした。
【0119】
[加水分解反応触媒を含む処理液の製造]
防汚性基板の製造に係る各例における(III)工程:触媒処理工程で用いる、加水分解反応触媒を主成分として含む処理液(E)を以下のようにして製造した。なお、得られた処理液は、いずれもシラン化合物を実質的に含んでいない。
【0120】
(製造例1−1)
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、イソプロピルアルコール(純正化学社製)の96.50g、蒸留水(和光純薬工業製)の3.00g、パラトルエンスルホン酸一水和物(和光純薬工業製)の0.50gを入れ、25℃にて1時間攪拌して、(III)工程に用いる処理液(E1)を得た。なお、処理液(E1)におけるパラトルエンスルホン酸の含有量は0.45質量%である。
【0121】
(製造例1−2)
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、イソプロピルアルコール(純正化学社製)の96.72g、蒸留水(和光純薬工業製)の3.00g、36質量%濃塩酸(和光純薬工業製)の0.28gを入れ、25℃にて1時間攪拌して、(III)工程に用いる処理液(E2)を得た。なお、処理液(E2)における塩酸の含有量は0.1質量%である。
【0122】
(製造例1−3)
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、イソプロピルアルコール(純正化学社製)の96.83g、蒸留水(和光純薬工業製)の3.00g、60質量%濃硝酸(和光純薬工業製)の0.17gを入れ、25℃にて1時間攪拌して、(III)工程に用いる処理液(E3)を得た。なお、処理液(E3)における硝酸の含有量は0.1質量%である。
【0123】
(製造例1−4)
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、イソプロピルアルコール(純正化学社製)の96.6g、蒸留水(和光純薬工業製)の3.00g、25質量%アンモニア水溶液(和光純薬工業社製)の0.4gを入れ、25℃にて1時間攪拌して、(III)工程に用いる処理液(E4)を得た。なお、処理液(E4)におけるアンモニアの含有量は0.1質量%である。
【0124】
(製造例1−5)
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、イソプロピルアルコール(純正化学社製)の97.00g、蒸留水(和光純薬工業製)の3.00gを入れ、25℃にて1時間攪拌して、比較のために(III)工程に用いる処理液(E5)を得た。
【0125】
[例1]
ガラス板(100×100mm、厚さ:1mm)をアセトンに浸漬し、超音波にて10分間洗浄した後、室温で10分間放置し、乾燥させた。
(II)工程
合成例(1−1)で得られた被膜形成用組成物1を、溶媒(Novec7200:商品名:3M社製、ハイドロフルオロエーテル)に溶解し、得られる液状組成物の全量に対する被膜形成用組成物1の含有量が0.05質量%となるように調整して、液状組成物1を得た。その後、ガラス板を、液状組成物1にてディップコートし、ガラス板の両面に塗膜を形成した。浸漬時間は10分間、引き上げ速度は10mm/秒であった。その後、得られた塗膜付きガラス板を25℃で10分間乾燥し、塗膜中の溶媒を完全に除去して前駆膜付きガラス板とした。
(II−1)工程
上記(II)工程で得られた前駆膜付きガラス板を、25℃、湿度50RH%の恒温恒湿槽中で2時間放置した。
【0126】
(III)工程
上記(II−1)工程後の前駆膜付きガラス板の、前駆膜の表面を、上記で得られた触媒を含有する処理液(E1)の2gで湿らせたセルロース製不織布(ベンコットM−3:商品名、旭化成社製)を用いて、圧力:1,000Pa、速度:1.5m/秒の条件で拭き上げた。なお、前駆膜の表面への処理液の供給量は20ml/mであった。
(III−1)工程
次に、25℃、湿度50RH%の恒温恒湿槽中で2時間放置して防汚性基板1を得た。得られた防汚性基板1を、室温(20〜25℃)で24時間放置した後、上記評価方法にしたがって評価した。結果を表1に示す。
【0127】
[例2〜5]
(III)工程において、処理液(E1)を表1に示すように変更した以外は、例1と同様にして、防汚性基板2〜5を得た。得られた防汚性基板2〜5を上記評価方法にしたがって評価した。結果を表1に示す。
【0128】
[例6]
ガラス板(100×100mm、厚さ:1mm)をアセトンに浸漬し、超音波にて10分間洗浄した後、室温で10分間放置し、乾燥させた。
(II)工程
その後、ガラス板の片側表面に合成例(1−2)で得られた被膜形成用組成物2の0.5gを真空蒸着装置(ULVAC社製、VTR−350M)を用いて真空蒸着して前駆膜付きガラス板を得た。真空蒸着の条件は0.5×10−3Pa、200℃であった。
(II−1)工程
上記(II)工程で得られた前駆膜付きガラス板を25℃、湿度50RH%の恒温恒湿槽中で2時間放置した。
【0129】
(III)工程
上記(II−1)工程後の前駆膜付きガラス板の、前駆膜の表面を、上記で得られた触媒を含有する処理液(E1)の2gで湿らせたセルロース製不織布(ベンコットM−3:商品名、旭化成社製)を用いて、圧力:1,000Pa、速度:1.5m/secの条件で拭き上げた。なお、前駆膜の表面への処理液の供給量は20ml/mであった。
(III−1)工程
次に、25℃、湿度50RH%の恒温恒湿槽中で2時間放置して、防汚性基板6を得た。得られた防汚性基板6を、室温(20〜25℃)で24時間放置した後、上記評価方法にしたがって評価した。結果を表1に示す。
【0130】
[例7]
(III)工程において、処理液(E1)を表1に示すように変更した以外は、例6と同様にして、防汚性基板7を得た。得られた防汚性基板7を上記評価方法にしたがって評価した。結果を表1に示す。
【0131】
【表1】

【0132】
表1からわかるように、本発明の製造方法により得られた防汚性基板1〜4および防汚性基板6は、防汚性能が良好であった。一方、加水分解反応触媒を含有しない処理液を用いた防汚性基板5および7は、防汚性能が不充分であった。また、被膜形成用組成物1および2は加水分解反応触媒を含有しないことから、例えば、室温で3か月放置しても貯蔵安定性に優れる。
なお、被膜形成用組成物1、被膜形成用組成物2を、25℃の雰囲気下で24時間保管したところ、目立った沈殿は発生せず、貯蔵安定性は良好であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の製造方法により得られる防汚性基板はタッチパネル等に適用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に下式(1)で表される含フッ素加水分解性シラン化合物を用いて形成される被膜を有する防汚性基板の製造方法であって、以下の(I)工程〜(III)工程を含むことを特徴とする防汚性基板の製造方法。
(I)工程:前記含フッ素加水分解性シラン化合物を含み、実質的に加水分解反応触媒を含有しない被膜形成用組成物を製造する工程、
(II)工程:前記被膜形成用組成物を基板上に蒸着して、または、湿式塗布後乾燥して、前駆膜を得る工程、
(III)工程:加水分解反応触媒を含む処理液により前記前駆膜の表面を処理して被膜とする工程。
A−R−B …(1)
式(1)中の記号は以下を示す。
A:炭素原子数1〜6のペルフルオロアルキル基、または下式(2)で表される基。
:エーテル性酸素原子を有する2価の含フッ素有機基。
B:下式(2)で表される基。
−Q−SiX3−m …(2)
式(2)中の記号は以下を示す。
Q:アミド結合、ウレタン結合、エーテル結合およびエステル結合からなる群より選ばれる1種以上を含んでもよく、水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数2〜12の2価の炭化水素基。
X:加水分解性基。
R:水素原子または1価の炭化水素基。
m:1〜3の整数。
ただし、式(1)中にXおよびRが複数個存在する場合は、これらは互いに異なっていても、同一であってもよい。
【請求項2】
前記加水分解反応触媒が酸またはアルカリである、請求項1に記載の防汚性基板の製造方法。
【請求項3】
前記加水分解反応触媒が酸である請求項1または2に記載の防汚性基板の製造方法。
【請求項4】
前記酸が、塩酸、硝酸、硫酸、パラトルエンスルホン酸およびメタンスルホン酸からなる群から選ばれる1種以上である、請求項2または3に記載の防汚性基板の製造方法。
【請求項5】
前記処理液が、実質的にシラン化合物を含まない、請求項1〜4のいずれか一項に記載の防汚性基板の製造方法。
【請求項6】
前記前駆膜表面の処理を、前記処理液を含浸または保持させた保液部材を前記前駆膜表面に加圧接触させながら移動することにより行う、請求項1〜5のいずれか一項に記載の防汚性基板の製造方法。
【請求項7】
前記保液部材を構成する素材が、スポンジ、不織布、織布または紙である、請求項6に記載の防汚性基板の製造方法。
【請求項8】
前記前駆膜の表面を処理する工程の前に、前記前駆膜を0〜60℃、40〜100RH%で、10〜180分間加湿する工程をさらに含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の防汚性基板の製造方法。
【請求項9】
前記基板がガラスまたは樹脂である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の防汚性基板の製造方法。
【請求項10】
前記式(1)中、Xで示される加水分解性基が、アルコキシ基、アシロキシ基、アルケニルオキシ基、イソシアナート基およびハロゲン原子からなる群より選ばれる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の防汚性基板の製造方法。
【請求項11】
前記Rが下式(3)で表される直鎖型ペルフルオロオキシアルキレン基である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の防汚性基板の製造方法。
−O−(C2yO)− …(3)
式(3)中、yは1〜6の整数であり、繰り返し単位ごとに異なっていてよく、eは5〜100の整数である。
【請求項12】
前記Rが下式(5)で表されるペルフルオロエーテル基である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の防汚性基板の製造方法。
【化1】

式(5)中、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して、0または1以上の整数であり、かつ、a+b+c+dは5〜150である。また、(CFCFO)、(CF(CF)CFO)、(CFO)、(CFCFCFO)の繰り返し単位の結合順序は限定されず、互いにランダムに結合してもブロックに結合してもよい。

【公開番号】特開2013−91047(P2013−91047A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235666(P2011−235666)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】