説明

防滑履物底

【課題】濡れた舗道面(氷面や圧雪面、雨天)でも高い耐水性、摩擦摩耗性を有する天然植物繊維を接地面に突出させて高い防滑特性を発揮する防滑履物底を提供する。
【解決手段】ゴム又は合成樹脂のマトリックス中に非親水性処理した複数本束の天然植物繊維を含有し、当該非親水性処理した天然植物繊維が履物底の表面に露出することにより、複数本束の天然植物繊維の弾性及び硬度を十分に維持して防滑特性を飛躍的に向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明に係る防滑履物底は、耐水、高弾性、接着性を改質するように処理された天然植物繊維を接地面に突出させ、特に、氷面や圧雪面に加え、濡れた舗道面に対しても耐久防滑効果のある防滑履物底に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、氷雪面での防滑性を有するゴム組成物として、セラミック粒子を含有したものや、クルミ殻や籾殻、などの植物性粒子を含有したものなどの各種の防滑履物底が提案されている。
特開平4−292102号公報(特許文献1)に記載の防滑履物底は、カーボランダムやコランダムなどのセラミックはゴムのマトリックスとの接合が悪く、欠け落ちるため結合剤で処理して形成したチップを靴底の接地部に埋設したものが提案されている。
また、実開昭62−21905号公報(特許文献2)に記載の防滑履物底は、ガラス繊維を未加硫ゴムに混合し、これを圧延することによって、ガラス繊維を圧延方向に配向させ、接地面に対し直角になるように工夫して成形する靴底が提案されている。
さらに、特許3775413号公報(特許文献3)に記載のゴム組成物は、タイヤトレッド用ではあるが、竹炭粒子と胡桃の殻粉砕物をゴムに配合し、氷上路面の水膜を除去し、氷上摩擦と摩耗を向上させている。
さらにまた、特開2004−223742号公報(特許文献4)に記載のゴム組成物は、天然植物繊維含有ゴム組成物が、天然繊維の引っかき効果で、相手部材との高い摩擦係数を得る知見を示している。
【特許文献1】特開平4−292102号公報
【特許文献2】実開昭62−21905号公報
【特許文献3】特許3775413号公報
【特許文献4】特開2004−223742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記特許文献1ないし4に記載の各背景技術は、主原料のマトリックスである原料ゴムとセラミック、ガラス繊維、天然繊維、殻粉砕物、竹炭粒子等の防滑材料との親和性が十分でなく、これらの防滑材料が原料ゴムのマトリックスから剥離・脱落して防滑特性を劣化・減少させるという課題を有していた。
【0004】
また、前記特許文献2に記載の背景技術は、ガラス繊維を接地面に垂直に突出させた靴底に関するものであり、確かに、氷面や圧雪面に加え、濡れた舗道面に対しても防滑効果があるが、近年の環境配慮型商品設計という視点から考慮すると、ガラス繊維は廃棄後の焼却残留物の問題、二酸化炭素排出削減という観点においては、依然として問題を残したままである。
【0005】
前記防滑材料としては、生息速度の速い天然植物繊維、例えば真竹、孟宗竹等の竹類や笹類を有効活用すれば、地球温暖化対策としての二酸化炭素排出削減に効果がある環境配慮型商品となる。
【0006】
しかしながら、防滑材料としての天然植物繊維は、親水性及び吸水性が高く、その親水性及び吸水性という本来の性能の為に弾性が低下してしまうし、ゴム配合物との接着性も好ましくないので、氷面や圧雪面に加え、濡れた舗道面では十分な耐久性が発現出来ず、防滑特性が悪化して実用には未だ至っていないという欠点があった。
【0007】
本発明に係る防滑履物底は、前記課題を解消するためになされたもので、濡れた舗道面(氷面や圧雪面、雨天)でも高い耐水性、摩擦摩耗性を有する天然植物繊維を接地面に突出させて高い防滑特性を発揮する防滑履物底を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る防滑履物底は、ゴム又は合成樹脂のマトリックス中に非親水性処理した複数本束の天然植物繊維を含有し、当該非親水性処理した天然植物繊維が履物底の表面に露出するものである。
【0009】
また、本発明に係る防滑履物底は必要に応じて、非親水性処理が、天然植物繊維の微細な孔に充填し、且つ当該天然植物繊維の表面に付着して耐水物質として固化するものである。
【0010】
また、本発明に係る防滑履物底は必要に応じて、非親水性処理が、微細な浸透性を有し、固化後に耐水性を有するフェノール、イソシアネート等の処理液で処理されるものである。
また、本発明に係る防滑履物底は必要に応じて、非親水性処理した天然植物繊維が、履物底の接地面に対してほぼ垂直に突出しているものである。
【0011】
また、本発明に係る防滑履物底は必要に応じて、非親水性処理した天然植物繊維が、水浸漬して所定時間経過後の弾性低下率を10%以下とするものである。
また、本発明に係る防滑履物底は必要に応じて、非親水性処理した天然植物繊維が、前記マトリックス中の含有量を5%以上50%以下であるものである。
【0012】
また、本発明に係る防滑履物底は必要に応じて、非親水性処理した天然植物繊維が、履物底の接地面より5ミクロン以上、500ミクロン以下の範囲で露出するものである。
また、本発明に係る防滑履物底は必要に応じて、前記履物底の表面に露出する非親水性処理された天然植物繊維が、ランダムな配向方向になるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、ゴム又は合成樹脂のマトリックス中に非親水性処理した複数本束の天然植物繊維を含有し、当該非親水性処理した天然植物繊維が履物底の表面に露出することにより、複数本束の天然植物繊維の弾性及び硬度を十分に維持して防滑特性を飛躍的に向上させる効果を奏する。
【0014】
また、本発明においては、非親水性処理が、天然植物繊維の微細な孔に充填し、且つ当該天然植物繊維の表面に付着して耐水物質として固化することにより、非親水性処理された天然植物繊維とゴム等の接着性を向上させて、ゴム等のマトリックスからの剥離・脱落を未然に防止できることとなり、防滑特性を十分且つ確実に保持できる効果を有する。
【0015】
また、本発明においては、非親水性処理が、微細な浸透性を有し、固化後に耐水性を有するフェノール、イソシアネート等の処理液で処理されることより、天然植物繊維の微細な孔及び表面にフェノール、イソシアネート等の処理液が確実に浸透及び付着した後に投錨的に固化して耐水性を備えることとなるので天然植物繊維とゴム等の接着性を向上させて、ゴム等のマトリックスからの剥離・脱落を未然に防止できることとなり、防滑特性を十分且つ確実に保持できる効果を有する。
【0016】
また、本発明においては、非親水性処理した天然植物繊維が、履物底の接地面に対してほぼ垂直に突出していることより、非親水性処理された天然植物繊維の突出端部が履物底の接地面を確実なエッジ効果で捕捉できることとなり、防滑特性をより一層向上させることができるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の本実施形態に係る防滑履物底を各実験データの表1ないし表3及び図1ないし図4に基づいて説明する。本実施形態に係る防滑履物底は、ゴムマトリックス中にフェノールの処理液により非親水性処理された複数本束の竹繊維を所定の割合で混練し、この非親水性処理した複数本束の竹繊維を履物底の表面からほぼ垂直に突出させて構成される。
【0018】
前記竹繊維は、真竹、孟宗竹等の竹類の稈が用いられ、化学的若しくは物理処理により直径0.05mm〜0.6mmに分離加工されたものを使用し、この分離加工に伴って短繊維状に加工された形状となる。
この短繊維状の竹繊維(真竹、孟宗竹等の竹類の稈)は、フェノールからなる処理液に浸漬され、このフェノール処理液から取り出した後に160℃で6時間オーブンにて熱処理されて非親水性処理が実行される。この非親水性処理とは、処理前の竹繊維に対して水に対して撥水性、耐久性等の点において優れた特性を備えるように処理されることを意味する。
【0019】
この非親水性処理は、竹繊維が短繊維状であるが為に、このフェノール処理液が竹繊維の「ルーメン」と呼ばれる中空構造の微細な内部の多孔質内及び表面の微細な凹凸部までに浸透させることが重要となる。
本実施形態のゴム組成物に使用されるゴムマトリックス成分としては、天然ゴム(NR)と各種のスチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)等のジエン系合成ゴムが挙げられ、これらのジエン系合成ゴムの単独或いは2種以上をブレンドしたものを使用することができる。
このゴムマトリックス成分には、その他充填材としての炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ(ホワイトカーボン)、カーボンブラックも通常通り使用することができる。
【0020】
前記フェノール処理した短繊維状の竹繊維は、ロール又はニーダー等によるゴム混練時に、ゴム生地の粘弾性力とせん断力により繊維長5mm程度にせん断され、ほぼ均等に分散される。
【0021】
このせん断された短繊維状の竹繊維は、ロール圧延方向に平行に配列する配向性を有する為、このロール圧延された長尺の圧延シート体を所定の長さで切断してシート体を形成し、このシート体を複数重ねて鉛直方向から裁断すると、一つの配向性を有する未加硫ゴム生地を作製することができる。
【0022】
本実施形態形態における非親水性処理した天然植物繊維は、履物底の接地面に垂直に突出するように加工処理されており、接地面より5ミクロン以上、500ミクロン以下の範囲で露出して接地面に対してエッジ効果を生じるようにしている。
【0023】
本実施形態に係る防滑履物底を用いた実験例においては、5ミクロン以下でその本来のエッジ効果が見られず、500ミクロン以上でも同様にエッジ効果を認めることができなかった。
次に、前記フェノール処理後の竹繊維と未処理の竹繊維との水吸水率及び弾性低下率を表1及び表2に基づいて比較して説明する。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
まず、表1においてフェノール処理後の竹繊維及び未処理の竹繊維に関する吸水前の重量を測定すると共に、含水率測定器により各含水率を測定している。これらの測定後に前記各竹繊維を1時間だけ水に浸漬し、この1時間の吸水時間の後に重量を再度測定すると共に、含水率測定器により各含水率を測定している。
【0027】
これらの結果により、フェノール処理した竹繊維は、未処理の竹繊維より極めて吸水後の含湿率が少ないことが解る。即ち、このフェノール処理された竹繊維は、未処理の竹繊維に対して撥水性が大きくなるように処理されていることとなる。
【0028】
さらに、前記吸水前・後の弾性率及び弾性低下率を含湿率との関係で実験を行いこの実験結果を表3に示す。即ち、このフェノール処理された竹繊維は、竹繊維の「ルーメン」の多孔質内に浸透して固化して所定の硬度を保持するようになったことから、未処理の竹繊維に対して弾性率を格段に向上させると共に、弾性低下率を極力小さく抑制できることとなる。
【0029】
【表3】

【0030】
このようにこの表3において、フェノール処理した竹繊維は、非親水性処理による撥水性と共に硬度が増大されることから、未処理の竹繊維と比較して極めて弾性低下率が小さいことが解る。
【0031】
本実施形態に係る非親水性処理した天然植物繊維は、その吸水後の弾性低下率が、10%以下とする構成とすることもできる。表1及び表2の実験結果から解るように、未処理の竹繊維は、吸水後の弾性低下率が一般的に17%であり、1時間水浸漬後の氷上ウエット防滑性が低下して実用性を喪失していることが解る。
【0032】
本実施形態の場合に非親水性処理した天然植物繊維の含有量は5%以上50%以下であることが望ましい。この含有率は、最も添加効果が見られるのが20〜35%含有であり、5%以下では表面の露出面積が少なくなりすぎて効果が見られなくなり、50%以上になると防滑効果以前に、ロール作業性が困難となり屈曲亀裂の問題が発生し出すという課題が生じることが解った。
【0033】
なお、本実施形態に係る防滑履物底においては、非親水性処理の処理液をフェノールを用いる構成としたが、イソシアネート等の微細な浸透性を有する液体であって、固化後に耐水性を有する液体を用いることができる。
【0034】
以上のように、本発明では非親水性処理した複数本束の天然植物繊維を所定の割合でゴム等のマトリックスに混練した履物底が提供される。この履物底を適用した紳士、婦人防水革靴は、雪寒地の生活必需商品であり、非親水性処理した天然植物含有防滑底が好適に用いられる。
【0035】
次に、本発明に係る実施形態の実施例及び比較例を実験結果として示す表3に基づいて説明する。
各実施例及び比較例とも、通常の加硫条件により、表3記載の配合に基づく同一形状の靴底意匠を有する靴底を作製し、下記方法にて防滑性能を測定した。この表3におけるガラス繊維、未処理の竹繊維及びフェノールによる非親水性処理された竹繊維を原料ゴム等からなるマトリックスに混練して形成した靴底表面の電子顕微鏡写真を図1ないし図4に示す。この図1はガラス繊維を靴底表面にほぼ垂直に配向した場合の電子顕微鏡写真、図2は未処理の竹繊維を靴底表面にほぼ垂直に配向した場合の電子顕微鏡写真、図3及び図4は非親水性処理竹繊維を靴底表面にほぼ垂直に配向した場合の電子顕微鏡写真である。
【0036】
(滑り性試験)
防滑性能は、JIS−A1454:1998の「6.12滑り性試験」に基づき実施した。被試験片である「滑り片材料」は、表1記載の配合で作成した靴底を用い、床面として、「ウエットの氷」、「水浸漬後(繊維膨潤後)にウエットの氷」の二種類について評価した。
滑り抵抗係数は、C.S.R値で示される。C.S.R値は、下記式による。
C.S.R値=Pmax/W
Pmax:最大引っ張り荷重(N)
W:鉛直荷重(785N)
C.S.R値として「東京都福祉のまちづくり条例施設整備マニュアル」では、建築物の床材のすべり評価指標としてC.S.Rを用いるよう求めており、誘導基準として靴を履いて歩行するところは「C.S.R=0.4〜0.9」の値としている。
比較例1においては、JIS−A1454:1998の「6.12滑り性試験」における防滑試験も、北海道札幌市(外気温度2℃)での氷上路面における官能防滑評価も、滑ってしまい、全く不良であった。
比較例2、実施例2においては、前項官能防滑評価にて優れた防滑性能が発現し、歩行どころか、走行することも問題無くすることが出来た。きわめて良好なる結果を得た。
前項官能防滑評価にて比較例3の竹繊維は、未処理である為、吸水による弾性、硬度低下が悪影響を及ぼし実用レベルに至る結果を発現出来なかった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、地球温暖化現象を考慮した商品設計に係るものであり、あらゆるタイプの商品の靴底に添加が可能で、更なる商品数拡大により地球温暖化を防止すべく、その将来性は、計り知れない。又、工業用途としても利用可能で、防滑研磨材や防滑マットにも適している。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】ガラス繊維を靴底表面にほぼ垂直に配向した場合の電子顕微鏡写真である。
【図2】未処理の竹繊維を靴底表面にほぼ垂直に配向した場合の電子顕微鏡写真である。
【図3】非親水性処理竹繊維を靴底表面にほぼ垂直に配向した場合の電子顕微鏡写真である。
【図4】非親水性処理竹繊維を靴底表面にほぼ垂直に配向した場合の電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム又は合成樹脂のマトリックス中に非親水性処理した複数本束の天然植物繊維を含有し、当該非親水性処理した天然植物繊維が履物底の表面に露出することを
特徴とする防滑履物底。
【請求項2】
前記請求項1に記載の防滑履物底において、
前記非親水性処理が、天然植物繊維の微細な孔に充填し、且つ当該天然植物繊維の表面に付着して耐水物質として固化することを
特徴とする防滑履物底。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載の防滑履物底において、
前記非親水性処理が、微細な浸透性を有し、固化後に耐水性を有するフェノール、イソシアネート等の処理液で処理されることを
特徴とする防滑履物底。
【請求項4】
前記請求項1ないし3のいずれかに記載の防滑履物底において、
前記非親水性処理した天然植物繊維が、履物底の接地面に対してほぼ垂直に突出していることを
特徴とする防滑履物底。
【請求項5】
前記請求項1ないし4のいずれかに記載の防滑履物底において、
前記非親水性処理した天然植物繊維が、水浸漬して所定時間経過後の弾性低下率を10%以下とすることを
特徴とする防滑履物底。
【請求項6】
前記請求項1ないし5のいずれかに記載の防滑履物底において、
非親水性処理した天然植物繊維が、前記マトリックス中の含有量を5%以上50%以下であることを
特徴とする防滑履物底。
【請求項7】
前記請求項1ないし6のいずれかに記載の防滑履物底において、
前記非親水性処理した天然植物繊維が、履物底の接地面より5ミクロン以上、500ミクロン以下の範囲で露出すること
を特徴とする防滑履物底。
【請求項8】
前記請求項1ないし7のいずれかに記載の防滑履物底において、
前記履物底の表面に露出する非親水性処理された天然植物繊維が、ランダムな配向方向になることを
特徴とする防滑履物底。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−188220(P2008−188220A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−25648(P2007−25648)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【出願人】(000002989)株式会社ムーンスター (10)
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【Fターム(参考)】