説明

防爆形電気機器及び導電性被覆材

【課題】重量及び強度のみを考慮して形成された筐体が危険場所で使用できない程度の静電気を帯びないようにし、サイズの大型化及び重量の増加等の不都合を防止する。
【解決手段】可搬形操作表示器10は、筐体1と導電性プレート7とを含んでいる。筐体1は、内部に電気部品を収納し、非導電性材料から形成されている。導電性プレート7は、筐体1の正面に配置され、筐体1の正面において一般樹脂材料の露出面積を減少させ、一般樹脂材料の露出部分を複数の範囲に分割する。導電性プレート7は両面テープを介して筐体1の正面に貼り付けられた後、固定ネジ12で確実に固定される。導電性プレート7によって筐体1の正面において一般樹脂材料の露出面積が減少するとともに、一般樹脂材料の露出部分が複数の範囲に分割されることから、筐体を非導電性樹脂材料で構成した場合でも、筐体の表面積について防爆形電気機器の基準を満たすことが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内部に電気部品を収納する筐体を備えた防爆形電気機器、及び、内部に電気部品を収納する筐体の表面に配置される導電性被覆材に関する。
【背景技術】
【0002】
危険場所で使用される防爆形電気機器の筐体を軽量化のために樹脂材料で形成すると、使用者の手指や清掃用の布等との接触によって筐体が静電気を帯び、危険場所内の燃焼ガス等が爆発する危険性がある。
【0003】
このため、防爆形電気機器の筐体を金属材料で形成すると、重量が増加して可搬性が低下する。また、筐体と内部の電気部品とを絶縁する必要があり、構造が複雑化する。
【0004】
そこで、従来の防爆形電気機器では、筐体を導電性樹脂材料によって形成したものがある(例えば、特許文献1参照。)。導電性樹脂材料で形成した筐体は、使用者の手指や清掃用の布等との接触によっても静電気を帯びることがない。また、導電性樹脂材料は金属材料に比較して充分に軽量であり、防爆形電気機器を可搬形とした場合にも、その可搬性が低下することもない。
【特許文献1】特開2002−319770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、導電性樹脂材料は、ABSやポリアミド等の一般樹脂材料に比較して機械的強度が低い。このため、導電性樹脂材料で形成された筐体に必要な強度を与えるためには肉厚を大きくせざるを得ず、サイズの大型化及び重量の増加を招く。また、導電性樹脂材料は組成や成形条件による導電性のバラツキが大きく、歩留りが低下する。さらに、筐体全体が導電性を有することになり、電気部品との絶縁を図る必要がある。
【0006】
この発明の目的は、非導電性材料で形成された防爆形電気機器の筐体の表面に導電性被覆材を配置することにより、重量及び強度のみを考慮して形成された筐体が危険場所で使用できない程度の静電気を帯びないようにし、サイズの大型化及び重量の増加等の不都合を生じることのない防爆形電気機器及び導電性被覆材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための手段として、この発明の防爆形電気機器は、筐体と導電性被覆材とを含んでいる。筐体は、内部に電気部品を収納し、非導電性材料から形成されている。導電性被覆材は、筐体の表面に配置され、非導電性材料の露出面積を減少させる。
【0008】
この構成では、非導電性材料で形成された筐体の表面に導電性被覆材が配置されることにより、筐体の表面における非導電性材料の露出面積が減少する。筐体の表面における帯電量は、非導電性材料で構成された部分の露出面積に応じて増減する。例えば、IEC60079−0には、グループIIA及びグループIIBの防爆形電気機器について、原則的には樹脂製容器の表面積は100cm2 以下、接地された導電性フレームに囲まれている場合には400cm2 以下との基準が規定されている。導電性被覆材によって筐体の表面における非導電性材料の露出面積が減少することから、筐体を一般樹脂材料等の非導電性材料で構成した場合でも、筐体の表面積について防爆形電気機器の基準を満たすことが可能になる。
【0009】
上記の構成における導電性被覆材は、金属材料又は導電性樹脂材料によって構成することができる。非導電性材料で形成された筐体の表面に、金属材料又は導電性樹脂材料で構成された導電性被覆材が配置されることによって筐体の表面における非導電性材料の露出面積が減少する。
【0010】
上記の構成における金属材料の導電性被覆材は、接地することができる。接地された導電性被覆材で非導電性材料の露出部分を複数の範囲に分割することにより、各範囲に生じた静電気が導電性被覆材を経由して接地され、筐体の表面に静電気が蓄積的に帯電されることを防止できる。
【発明の効果】
【0011】
この発明は、上記の構成により以下の効果を奏する。
【0012】
非導電性材料で形成された筐体の表面を、導電性被覆材によって非導電性材料の露出面積を減少させ、また、接地された導電性被覆材で非導電性材料の露出部分を複数の範囲に分割することで、筐体を一般樹脂材料で構成した場合でも、筐体の表面に多量の静電気が蓄積されることを防止できる。重量及び強度のみを考慮して形成された筐体が危険場所で使用できない程度の静電気を帯びることがなく、サイズの大型化及び重量の増加等の不都合を確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1(A)〜(E)は、この発明の実施形態に係る防爆形電気機器の一例である可搬形操作表示器10の正面図、背面図、平面図、底面図及び左側面図である。可搬形操作表示器10は、防爆性が要求される危険場所で、産業用機械等に対する動作手順の設定等に使用される。作業者は、可搬形操作表示器10を左右から両手で把持して使用する。可搬形操作表示器10の正面には、作業者の手指特に親指が接触する。
【0014】
可搬形操作表示器10は、防爆構造の筐体1内に電気部品を収納している。筐体1は、正面、側面及び背面を、例えばABS等の一般樹脂材料(非導電性材料)で構成されている。筐体1の側面及び背面は、例えばエラストマに炭素繊維を充填した導電性樹脂材料と一体成形されており、一般樹脂材料の表面の大部分が導電性樹脂材料で被覆されている。
【0015】
筐体1の正面には、ディスプレイ2、非常停止スイッチ3が配置されている。筐体1の正面のディスプレイ2が配置されるべき位置には、窓部8が形成されている。ディスプレイ2は、窓部8から外部に露出している。ディスプレイ2の表面には、タッチパネルが配置されている。筐体1の背面には、イネーブルスイッチ4が配置されている。筐体1の底面には、配線用ケーブル30が貫通する配線5が設けられている。配線用ケーブル30は、筐体1の内部の電気部品に接続される電源ライン、信号ライン及び接地ライン等を収納している。筐体1の左側面には、把手6が取り付けられている。
【0016】
筐体1の正面には、接地された導電性プレート7が配置されている。導電性プレート7は、この発明の導電性被覆材に相当し、一例として金属材料で構成されている。図2に示すように、導電性プレート7は、筐体1の正面において、一般樹脂材料の露出面積を減少させるとともに、一般樹脂材料の露出部分を第1〜第4の範囲1A〜1Dに分割する。
【0017】
ここで、第1〜第4の範囲1A〜1Dの面積をS1A,S1B,S1C,S1Dとすると、接地された導電性プレート7で囲まれている第3及び第4の範囲1C,1Dの面積S1C,S1Dは、各々400cm2 以下の面積に抑えられている。
【0018】
また、筐体1の側面及び背面においては、表面の大部分を導電性樹脂材料で被覆することにより、一般樹脂材料の露出面積を減少させている。この側面及び背面における一般樹脂材料の露出面積をS2 とすると、接地された導電性プレート7で囲まれていない一般樹脂材料の総露出面積(S1A+S1B+S2 )は100cm2 以下に抑えられている。
【0019】
したがって、筐体1の正面、側面及び背面の何れの場所においても、摩擦等によって危険場所のガスの爆発を生じる程度の静電気が帯電することはない。これによって、可搬形操作表示器10は、IEC60079−0に規定されているグループIIA及びグループIIBの防爆形電気機器の基準を満足する。
【0020】
なお、導電性プレート7が接地されていない場合は、筐体1の表面における一般樹脂材料の総露出面積(S1A+S1B+S1C+S1D+S2 )を100cm2 以下とする必要がある。したがって、接地が取れないような電気機器(例えば、携帯電話機やデジタルカメラ等)の場合は、一般樹脂材料で構成された筐体の表面に導電性プレートや導電性樹脂材料などを配置することより、一般樹脂材料の総露出面積を減少させて100cm2 以下に抑えることにより、IEC60079−0に規定されているグループIIA及びグループIIBの防爆形電気機器の基準を満足させることができる。
【0021】
筐体1は、非導電性の一般樹脂材料によって構成されているため、筐体として充分な強度を与えても小型かつ軽量に構成することができる。このため、可搬形操作表示器10の可搬性や操作性を良好にすることができる。
【0022】
また、可搬形操作表示器10のような小型の電気機器では、筐体と内部の電気部品との間の空間・沿面距離の確保が難しいが、筐体に一般樹脂材料を使用することにより、この間の絶縁対策を容易に行うことができる。
【0023】
図3は、可搬形操作表示器10における導電性プレート7の取付方法の一例を説明する斜視図である。筐体1の正面の周縁部及び窓部8の周縁部には、段部9A及び9Bが形成されている。導電性プレート7は、外縁部の一部が筐体1の正面の段部9A及び9Bの内側に沿う形状にされている。導電性プレート7の下部には、2カ所に孔部7A,7Bが形成されている。筐体1の正面内で孔部7A,7Bの位置に一致する位置には、ネジ孔11A,11Bが形成されている。
【0024】
筐体1の正面に導電性プレート7を取り付ける際には、先ず、導電性プレート7の裏面の適所に両面テープを貼付したり、接着剤を塗布する。この両面テープや接着剤を介して、導電性プレート7を筐体1の正面の適所に貼り付ける。導電性プレート7は、全面が両面テープや接着剤によって筐体1の正面に密着する。この後、固定ネジ12を孔部7A,7Bに貫通させてネジ孔11A,11Bに螺合させ、筐体1の正面に導電性プレート7を確実に固定する。
【0025】
固定ネジ12は、筐体1の正面を貫通して筐体1の内部に露出する。筐体1の内部で固定ネジ12が露出する位置には、固定ネジ12が螺合するネジ孔を備えた端子が配置されている。この端子は、ケーブル30内に収納されている接地ラインに接続されている。これによって、導電性プレート7は、固定ネジ12、端子及び接地ラインを介して接地される。清掃作業時等に筐体1の正面が長時間にわたって摩擦された際に、継続して筐体1の正面に発生した静電気は導電性プレート7から接地されるため、筐体1の正面に多量の静電気が蓄積的に帯電することがない。
【0026】
導電性プレート7は、導電性樹脂材料によって形成することもできる。ただし、導電性プレート7を構成する導電性樹脂材料の抵抗値が充分に低くない場合には、防爆形電気機器の基準における接地状態を満足することはできない。
【0027】
したがって、この場合には、前述の導電性プレートが接地されていない場合と同様に、一般樹脂材料の総露出面積(S1A+S1B+S1C+S1D+S2 )を100cm2 以下とする必要がある。また、筐体1の側面及び背面と同様に、筐体1の正面と導電性樹脂材料で形成された導電性プレート7とを一体成形してもよい。この場合、金属材料を使用しないので軽量に構成することができる。また、一体成形により、複雑な形状をより安価に製作することができる。
【0028】
導電性プレート7の全面が筐体1の正面に確実に密着することを条件に、両面テープや接着剤を省略して固定ネジ12のみを用いることができる。導電性プレート7が筐体1の正面に確実に固定されることを条件に、固定ネジ12を省略して両面テープや接着剤のみを用いることができる。
【0029】
また、導電性プレート7の全面が筐体1の正面に密着した状態を確実に維持できることを条件に、導電性プレート7を筐体1の正面に所謂スナップフイットさせるようにしてもよい。例えば、図4に示すように、導電性プレート7の周縁部の複数の箇所に延出部17を形成し、この延出部17を筐体1の正面の段部9A及び9Bの対応する箇所に形成された凹部18に係合させる。
【0030】
凹部18の開口面積はテーパ部18Aによって延出部17の面積よりも小さくされている。延出部17を凹部18の上側に位置させて導電性プレート7を上方から押圧することで、延出部17が弾性変形して凹部18内に嵌入する。この場合にも、導電性プレート7と筐体1の正面とを、両面テープや接着剤によって密着させることもできる。
【0031】
さらに、筐体1の樹脂成型時に、導電性プレート7を筐体1の正面に露出するようにインサートしてもよい。
【0032】
加えて、導電性プレート7は、導電性材料で形成したシールであってもよい。
【0033】
なお、上記の実施形態では、この発明の防爆形電気機器として可搬形操作表示器10を例に挙げて説明したが、この発明の防爆形電気機器はこれに限るものではない。例えば、所謂据置タイプの電気機器や可搬タイプの電気機器(携帯電話機、デジタルカメラ、バーコードリーダ、ページャ、懐中電灯等)の樹脂材料によって筐体が形成された他の防爆形電気機器にも、この発明を同様に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の実施形態に係る防爆形電気機器の一例である可搬形操作表示器の正面図、背面図、平面図、底面図及び左側面図である。
【図2】導電性プレートによる可搬形操作表示器の正面の分割状態を示す図である。
【図3】可搬形操作表示器における導電性プレートの取付方法の一例を説明する斜視図である。
【図4】可搬形操作表示器の筐体の正面に対する導電性プレートの別の取付方法を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1 筐体
2 ディスプレイ
3 非常停止スイッチ
4 イネーブルスイッチ
5 配線用孔部
6 把手
7 導電性プレート(導電性被覆材)
7A,7B 孔部
8 窓部
9A,9B 段部
10 可搬形操作表示器
11A,11B ネジ孔
12 固定ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に電気部品を収納する筐体であって非導電性材料からなる筐体と、前記筐体の表面に配置されて前記非導電性材料の露出面積を減少させる導電性被覆材と、を含むことを特徴とする防爆形電気機器。
【請求項2】
可搬形であることを特徴とする請求項1に記載の防爆形電気機器。
【請求項3】
前記導電性被覆材は、金属材料からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の防爆形電気機器。
【請求項4】
前記導電性被覆材は、導電性樹脂材料からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の防爆形電気機器。
【請求項5】
前記導電性被覆材は、接地されており、前記非導電性材料の露出面積を複数の範囲に分割することを特徴とする請求項3に記載の防爆形電気機器。
【請求項6】
非導電性材料からなる筐体の表面に配置され、前記非導電性材料の露出面積を減少させることを特徴とする導電性被覆材。
【請求項7】
金属材料からなり、かつ、接地されており、前記非導電性材料の露出面積を複数の範囲に分割することを特徴とする請求項6に記載の導電性被覆材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−34245(P2008−34245A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−206517(P2006−206517)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(000000309)IDEC株式会社 (188)
【Fターム(参考)】